【とある彼女のささやかな願い】


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とある彼女のささやかなな願い


 私は泣いていた。
 私の周りには多くの子供達が集まり、私を様々な言葉で苦しめていた。
「お前、気持ち悪いんだよ」
「うわぁー、それって人間じゃねーよ」
「わたし、絶対に触りたくない」
「何、その毛むくじゃら!!」
「ホント、死ねばいいのにね」
 私のどこがいけないのだろう? ただ、人と少しだけ違うだけなのに。
 少しだけ、ほんの少しだけ、気持ちが高ぶると、自分が自分でなくなる。私は、それは自分のせいではないと思っている。何故なら、そこに自分はいないから……。
 でも、それは、父や母から、きつく戒められていたことであり、自分の中でも決して踏み越えてはいけないこと。
 母は何度も言った。
『あなたは、決して怒ってはいけません。いいですね』
 父は重ねて言った。
『お前は、何故そんな力を持って生まれたのだ?』
 私は幾度も自問した。
「どうして、神様は、私にこんな力を与えたの?」
 そんな質問に答えてくれる人など一人もいない。いるわけもない。
 私は孤独だった。私は唯一だった。私に《・》味方など、ひとりもいなかった。

 七月七日。七夕。

 やはり、私は孤独だった。ただ、周りの子は、七夕の飾りつけに忙しく、私の相手をしてくれないのがせめてもの救いだった。
 皆、楽しそうにこの夏のイベントを楽しんでいる。
「うーん、短冊にどんな願いをかこうかな?」
「ねえ、何書いたの? 教えて」
「やだ、見ないでよー、恥ずかしいし!」
 会話の輪に私が入ることはできない。いや、私は入ってはいけない。
「どうしたの? みんなと一緒に短冊に願い事を書きましょう?」
 孤立している私に気を使ったのだろう、先生が私をみんなの輪に溶け込ませようとする。
 大きなお世話だ。
「みんなー、仲良くしないとダメよ」
『はーい!!』
 皆が返事をする。でも、その“みんな”に私は存在しない。いてはいけない。その証拠に誰も私に寄り付かないじゃないか。
「どうしたの? ねえ、向こうにいって、みんなと一緒にお願い書こうよ」
 突然、ひとりの子が私に声をかける。見たことのない子だった。私は首を精一杯横に振る。
 強烈な否定にその子は、大きな目を輝かせ、不思議そうに私の顔を覗き込む。私とは真逆の純粋で、温厚な瞳だった。
 私はもう一度、首を横に振る。さっきよりも強く。
「そう、へんなの……」
 残念そうに、その子は皆が集まる輪へと去っていく。それでいい。私と仲良くなってはいけないのだ。あの子まで、私と同じことになってしまう。こちらへきてはいけない。

 私はひとりで良いのだ。私はひとりで、さややかな願いを短冊に書くことにした。その願いは、誰にも気づかれないように、そっと笹に結ぶつもりだった。
「おい、見ろよ、こいつ、こんなこと書いてるぜ!」
 いつの間にか、後ろに立っていた男の子が、私の書きあがったばかりの短冊を取り上げる。
「やめて! 読まないで!!」
 私は精一杯懇願する。これだけは決して見られたくない。ほんの少しの、ささやかな願いだけれど、誰かに見られるだけで、現実ではない、心なかのそれさえも霧のように消えてしまいそうだったから。
「なんだよ、お前、こんなこと書いてたのかよ。きもちわりー。みんなー見ろよー、こいつさぁ……」
 その男の子は、私から奪った短冊を皆に見せびらかす。
 私という存在を拒否する声がそこかしこから聞こえてくる。
「えー、本気で思ってるの?」
「なにこれー」
「あはは、おもしろーい!」
 私は我慢する。私が耐えればいいことだ。これは私だけの問題だ。誰のせいでもない。
 でも……。捨てられた短冊を拾い、強く抱きしめる。
「バケモノのくせに生意気なんだよな、アイツ」
 私はバケモノじゃない。人間だ。
「あんな奴、どっかいっちゃえばいいんだ」
 私はここにいる。どこにもいけない。居場所などないのだから。
「みんな、そうやっていじめるのはやめなさい! 彼女はみんなと同じなのよ」
 一緒じゃない。
「えー、違うよ、俺たちと同じなわけないじゃん。ママが言ってたよ、あいつは化物《ラルヴア》だって」
 違う、ちがう、チガウ! 私は人間だ。断じて化物ではない。……いや? 違わない。私は化物なのだ。そう、みんなが怖がる異形のもの。常夜の狭間を渡り歩き、深淵に潜むもの。
 自分の心に何か異質なものが生まれる。それは、様々なものを開放してくれた。私の悩みも、私の存在価値も、私の力も……。
「……さん、大丈夫?」
 先生が私に声をかける。でも、もう無理だ。私にはどうすることもできない。感情が、理性が、情動に押しつぶされる。私の身体もそれとともに変化する。嗚呼!
「……さん? どうしたの!? ……っ! みんな、彼女から離れなさい!!」
 先生はそういうと、生徒を庇おうと、生徒と私の間に立ち塞がる。なんてやさしい先生なんだろう。私は思う。
「さあ、わ、私が相手ですよ!」
 ガタガタと振るえながら、生徒の前に立っていた。
 相手か……。結局、この人も私を人とは見なしてくれないのだ。
 もういい、全部無くなってしまえばいい。
 だが――――。
「うわー、かっこいいー。ねえ、それってどうやってるの? やっぱり強いの?」
 ツカツカ とこちらに物怖じせず近づいてくる子がいた。先ほどの子だ。この子は私が怖くないのだろうか? その気になれば、この牙で喉元を噛み切り、この爪で、腹部を切り裂くことができるというのに。
「すごいねー、わたしもなれるかなー?」
「!?」
 この子はなんなのだろう。私を、この姿を怖がるでもなく、嬉しそうに近寄ってくる。
「ねえ、名前はなんていうの? あ、そうだね、私から名乗らないと失礼だよね。私は有葉《あるは》、有葉千乃《あるはちの》!」
 その大きな瞳は真正面に私に向いていた。私は戸惑う。
「うーん、どうしたの? 突然声をかけたからビックリしちゃったかな? 怖かった?」
 あなたが怖い? 何故? どうして?
「………は、はるべ、りい」
「そっかー、うーん、……じゃあ、はるちゃんだね! ねえ、向こうへ行って、一緒に願い事を書こう。はるちゃん!!」
  私は、その言葉に抗うことが何故か出来なかった。
「う、うん……」
 その子に促されるまま、一緒に短冊に願い事を書く。先ほどのものとは別の願いを。何故なら、その願い事は今、この瞬間に叶ったからだ。

“ともだちができますように”

 そう書かれた短冊を破り捨てて、私は、別のお願いを書くことにした。

“あるはちのちゃんをいっしょうまもっていけますように”






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