【金剛の皇女様 後編】


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Chapture 3 「金剛の皇女と泉の騎士」


 今日は、妙に霧が濃い。風紀の話にあった、最近現れたという新たな『カテゴリー・グリム』の話もあるし、不気味なことこの上ない。
 アパートから徒歩で学園に向かっている春奈は、通り道にある空き地へ目をやる。普段なら猫が集会を開いている時間だが、今日は一匹も見えない……いや、目をこらすと、霧の向こうに、やけに大きな猫が、一匹だけ。
「……一対一の限定モードで『開放』」
 持ち歩いている教員証で何かの操作をし、そうつぶやく。
「…………」
「…………」
 しばらくその猫らしき影とにらみ合った後、影の方が立ち去る。それを見届けた春奈はため息をつき、再び教員証を操作する。
「……分かるわけ、ない、か……」

「おはよー」
「おはよーっす」
「おはようございます」
 さすがに霧だけで休校にはならない。1-Bの生徒も少しずつ登校してきている。
「うーっす」
「おードラ、今日は遅刻じゃねーのな」
 龍も今日は普通に登校してきており、椅子の背もたれで伸びをしている。
「そう言えば、今日は春奈先生の『集団戦闘』があるね」
 真面目に授業の準備をしながら、宗麻が思い出したように声をあげる。
「というか、あのセンセー戦えんのか?」
 京介が疑問符を浮かべる。龍は、学園の教員がラルヴァと交戦する所を見たところは無い。春奈先生ならばなおのことだ。
「……というか、能力者なのか?」
「どーっすかねー、大人の能力者は少ないと聞くっす。もしかしたら無能力かもしれないっすね」
「でも、異能の講義もされてますし……」
 クラス一同で疑問符を浮かべながら、予鈴と春奈先生を待つ。
「おっはよー……ん、みんなどうしたの?」
 いつも通り予鈴と同時に入ってきた春奈に、一同の視線が向く。話題の内容は微妙に聞きにくい
「せんせーさんって、異能持ってるんでしたっけー?」
 それを打破したのは我らが生徒会書記、紫穏である。問いに対して春奈は、空笑いで答える。
「一応、でもあたし自身は全然戦えないよ。中身は、機会があったらね。それじゃ出席とるよー」

 なお、その機会はすぐ訪れる事になる。

 午前中の授業は適当に流され、昼休み。といっても、昨日のような波乱もなく。早々に食べ終わってしまった龍は、数名と共に教室でだべっている。
「『集団戦闘』って、何やんだ?」
「何なんだろうね、単なる連携練習って訳じゃなさそうですけど……」
「ただいまー。外でせんせーさん見たっすよ、珍しくハネ満盛り食らってたっす」
 教室に入ってきた二礼が、比較的どうでもいい情報をもたらしてくる。
「あれ、昨日懐スッカラカンだったのに?」
「おいおい、何かあったのか? 怪しいな」
「怪しくねーよ!」

 午後の予鈴が響き春奈が教室に顔を出す。
「集団戦闘の授業は高等部演習場でやるよ。みんな、学生証と、使ってる獲物があったらそれ持って来てね。体操服着たい人は着てきてもいいよー」
 それだけ言って、そそくさと立ち去る。その手には何かプリントを抱えているが、後で配るのだろう。
 一人だけ着替え始めた紫穏を守るために男子が追い出された以外は、さしたる混乱もなくクラス移動を始める。
 通りすがりの男子生徒がそれを見やった後、何か連絡するのだろう、学生証の通信機能を立ち上げるが……
「なんだ、圏外になってる?……妙な事もあるんだな、学内で圏外だなんて」

 今朝からの霧がさらに深くなった演習場……まるで校庭のような広場で、クラス32名と教師1名が集合している。32人の大半はプリントを持ち、そのプリントによる指示通りの二人一組になっている。
「せんせー、この班分けの根拠は?」
「そうだな、聞いておきたいという点では、珍しく京介と意見が合った」
 普段のチームからバラされている京介と宗麻が、ちゃんと挙手をして質問している。
「戦場で上官にそんな口をきく奴があるか!……って言おうと思ったけどやめとくね。一人がもう一人をフォロー出来るように組んであるよ。特に君たちみたいな強力な異能持ちは頑張って貰わないとね」
 言ってるじゃない、という突っ込みを入れようとしたが、それ以外は理にかなっていると見たのか、双方ともこれで黙る。
「どっちも哀と組みたかったとかじゃねーかな。まったく大変だね、男2女1の三人組って」
「うっせえ!」
「黙ってろ」
 茶々を入れる虎二に対して同時に絡む京介と宗麻、二人とも自覚はあるのだろう。幸いにも虎二の台詞は、哀には聞こえていない。
 なお、虎二ほか数名は、グループを組まずに一カ所に集められている。彼らは全員、まだ異能を使えない、もしくは元々資質がない「未能力者」である。
「今日は、野外用演習施設での集団戦闘……一回目だから、簡単な説明ぐらいかな。専門以外では滅多に授業やらないけど、チュートリアルだけはね」
 人数を確認した春奈が、説明を始める。
「この前の授業で言ったとおり、集団戦では各個の戦闘能力はもとより、それらの連携、それに加えて上位者の指揮による戦術、戦略が必須になってくるの。そっちの方面に進む人はちゃんと勉強するけど、この授業では実際にどういう戦いになるのか……ってのを体験してもらう授業だよ。
 簡単に言えば、指揮官……今回は、あたしの指示に従って、管理室が用意する訓練用ロボットと戦闘してもらうよ。指示は、みんなが持ってる学生証を通じて出すから、聞き逃さないようにね。はい、イヤホン。みんなに回してねー」
 接続授業の内容を理解した生徒、していない生徒と居るが、皆回されたイヤホンを学生証の音声出力端子に接続している。
「指示通りって、なんかつまんなそーだね」
「そう言うなって」
 文句を言っている紫穏と、それをなだめるパートナー役の龍。
「……ん? せんせー、これ通信使えませんよ-?」
 学生証を触っていた誰かが声をあげる。
「え? そんな事……あれ、ホントだ。もしもーし、管理室、聞こえますかー?」
 春奈が慌てて通信を行おうとするが、繋がる兆候はない。どうやら教師用でも無理のようだ。
 ……次の瞬間、あたりに殺気が膨らむ。
 何かが襲いかかってくる気配と共に、「ゴイーン」という金属を叩いたような景気のいい音が響く。
「おい、こいつら何だよ!」
「……鎧武者っすかね?」
 霧の中、一同の両脇から西洋剣を構えて出てきた騎士甲冑を、京介が蹴り飛ばし、二礼が木刀でしばき倒す。両者の魂源力を込めた一撃は、その甲冑を見事に吹き飛ばす。地面に落ちた気配は感じない。
「まさか、ラルヴァ……!?」
 事態に気づいた一同がざわめく。この異様に濃い霧も、電波が繋がらない通信機器も。
「レーダーにも、ぜんぜん反応がないな……しかも、囲まれてる」
 虎二が学生証のモードをラルヴァ探知に切り替えているが、まったく反応はない。しかし、周囲には先ほどの騎士甲冑がワラワラと湧いてきている。哀に思い当たる所があるのか、唐突に声が上がる。
「閉鎖空間……カテゴリー・グリム!?」
「グリムだとしたら、まだ第二段階《レベルイェツィラー》ですね、力ずくで何とかなる……でも、これは違う気がするな。ああもう、全然繋がらない!!」
 通信を試みようと色々試してみるが、完全にお手上げとなった春奈が、教員証を握りしめる。
「おいおい、大丈夫かよ!」
「洒落になってない……」
 甲冑騎士に囲まれた一同が一様にざわめく。それでも混乱状態になっていないのは、異能を見慣れた学園生徒だからか。
「おちつ――」
「落ち着いて!……みなさんに、お願いがあります」
 紫穏が皆を落ち着けようと声を張り上げようとした瞬間、春奈がそれ以上の声をあげて皆をまとめる。
「……授業の続きをしてもいいですね? ただし、ぶっつけ本番になるけど」
 この状況でこの台詞。『自分たちに戦え』と言っているのだろう。既に戦いを経験している数名を除いては、動揺が広がる。
「先生や、戦える人が戦えば……」
「私がやれればそうしてる! それに、戦った事のある人だけじゃ、ここを突破出来るか分からない」
 ヒステリックに叫ぼうとした女生徒の声が制止される。
「……ごめんなさい。力を貸して」
 周りの甲冑騎士が剣を構える。もはや一刻の猶予もない。一同が頷くのが見えた。
「……ありがと。行くよ!!」
 春奈は皆に笑顔を見せて、教師証の操作ボタン『決定』を押し、あたりに電子音が響く。
『異能コード1999-51367"ザ・ダイアモンド"リミッター、強制排除。』
 その声と共に、春奈の周りに白いオーラが立ち上り、そのお下げが、流している髪と一緒にふわりと浮かび上がる。

 1999年生まれの異能者に、特殊なものが多い事は先ほども記した。各国の軍事機構、及び異能者育成施設のデータベースでも、特記事項となっている程である。
 その中でも強力すぎる、あるいはあまりにも特殊すぎる異能を持った異能者には、能力制限をかけるリミッター所持が義務づけられている。
 未所持は厳罰、状況によりけりだが、強制排除も同様の罰が処される可能性がある。
 彼女、春奈・C・クラウディウスの場合は『あまりに特殊すぎる』異能により、制限がかけられている。制限中は効果範囲が著しく制限されているが……

『対ラルヴァ戦闘システム、起動するよ。準備はいーい?』
 一同の頭の中に、直接春奈の声が響く。同時に、頭の片隅にミニマップ……学園の地図、他の生徒の配置、さらには周囲にいる甲冑の位置までもが頭に浮かぶ。
「ちょ、何だこれ!?」
「……これが、能力ですか?」
『そーだよ。これから各チームに指示出すから、その通りに動いてね!!』
 次の瞬間、戦闘態勢に入っていた生徒ほぼ全員に、どう動くか、どのラルヴァを叩くか。その情報が転送される。
 指示を受けた生徒が動き始めた一瞬後に、甲冑騎士もそれに襲いかかるように飛びかかるが、文字通り一瞬遅かった。
 甲冑騎士はことごとく吹き飛ばされ、霧散する。甲冑を散らした生徒達は、それぞれ指示に従って展開。学園の各地に散らばったラルヴァの掃討を開始する。
「……俺は?」
『錦くんは護衛役。コレやってる時、あたし完全に無防備なんだ。』
「……えーと、それじゃアタシは?」
『加賀杜さんは見学組の護衛、兼、切り札。この霧を発生させている、本命ラルヴァは絶対いる筈。そいつにぶつかってもらうけど、大丈夫だよね?』

 能力範囲内にいるラルヴァの探知、撃破ラルヴァの優先度決定、味方異能者の状態把握及び、彼らに対する目標攻撃指示。これらを総合した、言ってみれば対ラルヴァ用イージスシステムが、春奈の異能『ザ・ダイアモンド』である。全開時の能力適応範囲はキロメートル単位となり、学園の敷地内ならば楽に収めることが可能だ。
 もっとも、実際に存在するイージスシステムと異なり、彼女自体に戦闘能力は皆無である。よって現在の龍のような護衛役が必要になるが、彼女が居る異能者集団は少なくとも双葉学園随一、世界的にも類を見ない『対ラルヴァ戦闘に特化した戦闘集団』に変貌を遂げる。その異能を買われ、大規模なラルヴァ掃討作戦にも何度か参加しており、現地の軍人から『金剛の皇女《ダイアモンド・プリンセス》』の二つ名で呼ばれた事もある。本当は女帝とか呼ばれたかったと思うのは秘密だ。
『やっぱり、異常が起こっているのは学園内だけ……姿を隠してるボスを、燻り出す!』

『そのまま甲冑を追い込んで、10班と挟み込んで』
「了解! しかし驚きですね、こんなにスイスイ行くなんて」
 学園のあちこちに散らばっていた甲冑を追い込みながら、数的優位になった所で殲滅する。基本を忠実に守った戦い方だ。
 逃亡を続ける甲冑をを追い立てながら宗麻がつぶやき、そのコンビである、最近目覚めたばかりだという女生徒がたしなめる。
「さあ、お縄に……のーわったぁぁぁぁ! よくも乙女の柔肌に傷をつけたっすねー!」
 目の前に立ちはだかった二礼に対して、甲冑が苦し紛れに剣を振るう。タイミングが悪かったのか、それは彼女の制服を切り裂き、腹に傷を付ける。薄皮一枚切れただけだが、キレた二礼によってその甲冑はボコボコになれる事となる。

『ぃっ……!!』
「ちょ、どーしたのせんせー!!」
 唐突に顔をしかめた春奈の様子に、暇をしていた紫穏が驚く。
『大丈夫……神楽さん、大丈夫!?』
『これぐらいかすり傷っす!』
 双方向通信も可能なのか、二礼の返事を聞いて安心する。目をこらすと、春奈のシャツの下、腹部にうっすらと血が滲んでいる。
「……ダメージフィードバック?」
 虎二が呟く。他のメンバーが受けた傷が、そのまま反映されているというのだろうか。よく見ると、春奈の身体、あちこちに擦過傷や打撲の跡のような物がみられる。少なくとも朝には無かった物だ。
「……大丈夫、か?」
 呟く龍と紫穏、そして見学組に春奈が笑いかける。
「しかし、数は減ってるけど……いつ終わるんだ? これ」
『加賀杜さん、錦くん、そろそろ出番……10、2!!』
 春奈の指示とワンテンポ遅れて、甲冑が剣を振り上げて飛び出してくる。
「ふっ……せぇい!!」
 事前に察知しており準備万全だった龍は、腰を落とした基本の構えから、正拳突きを繰り出す。無論、剣と腕ではリーチが違いすぎる……が、吹き飛ばされるのは甲冑のほう。
「わ、意外とやるね~」
 どこで拾ったか、初等部で使うようなデカい三角定規を振り回しながら、紫穏が驚いた顔を見せる。
 今の龍が振るう技には、例外なく魂源力が籠もり、それにより強度に勝るラルヴァを撃つ。また、拳や脚を振るった際に、魂源力が籠もった衝撃波が敵に襲いかかる。一撃一撃の威力はまだ小さいが、訓練次第でまだまだ延びる可能性はある。名前はまだつけてない。
「俺が名前つけてやるってのに」
「お前のセンスだけは信じねー」
 虎二と軽口をたたき合いながら、龍は再び構えをとる。先生からの指示によれば、次は2体。1体ずつはザコでも、目覚めたばかりの彼には負担となる。
『……つーかまーえた! 加賀杜さん、1452-3321-489!』
「え、どこですか!?」
『溜め池のところ!!』
 緊急時用の学園内三次元座標で指示を出すものの、すぐに訂正する。
「いよいよボスのおでましか?」
「今からそいつを殴りにいこうか、ってやつだよ!! ドラくん、後はまかせたよ~!」
 さらに数体の甲冑を殴り倒していた紫穏は、三角定規を手近な甲冑に投げつけ、前に飛び出す。
「……けど、どうして分かったんです?」
 目の前に迫る甲冑を殴り倒しながら、龍が疑問符を浮かべた。
『簡単な話だよ。予想外に追い詰められた相手が、新たな手駒を用意して、こっちに向かわせた……ボスは姿を隠してるみたいだけど、その手駒は、簡単に察知できたからね。』

 学園内にある大きな溜め池。これは、双葉区の基礎工事時に降雨の流れを調整する為に作られたものだ。現在は小さな公園のように整備され、昼休みにはお弁当を持った学生で賑わう。
 だが今、人影は一つしか見えない。
 他の甲冑には見られなかったマントを身に纏い、剣にもたれ掛かるように立っている。
 その兜は学園の中心部を……そこに何かがあるかのように見続けている。
「せりゃぁぁぁぁぁ!!」
 側面からの強烈な跳び蹴りを、のけぞるような形で回避する。回避された方は土煙をあげて着地する。
「一応聞いておく、てめーの目的は何だ?」
 土煙の中から立ち上がった京介が、目の前の甲冑に問いかける。
「…………」
 その問いには答えず、剣を構える甲冑。
「我ハ……ランスロット……正義ノタメニ、我ガ剣ヲ振ルワン!!」

『ランスロットー!? ちょ、円卓の騎士……って、何やってんの伝馬くんー!?』
 ラルヴァの台詞を京介の知覚を通して聞き取り、驚愕の声をあげる春奈。
 なぜ彼が居るのか……は、戦いのこととなると頭の回転が速い彼の事だ、多分彼女と同じ方法で奴の場所を推定したのだろう。
「ランスロット……アーサー王に仕える円卓の騎士か。その名前を名乗るラルヴァ、ねぇ」
 虎二が何か考えている様子だが、それを無視して周りの甲冑を薙ぎ払う龍と、必死に次の動きを考える春奈。彼女の額には、脂汗がにじんでいる。
『というか、言うこと聞いて-!! 8、10班サポートに! 2班はその穴塞いで!』

(こいつ、強ぇ!!)
 京介は、明らかに焦っていた。
 速度は彼の方が上、威力も上。というか彼が終始攻めっぱなしだ。一撃さえ叩き込めば間違いなくケリがつく。
 なのに、その一撃が果てしなく遠い。確実な見切りで、攻撃のことごとくを回避される。
 円卓の騎士で一番の使い手であったというランスロット、その名前に偽りは無いのか。
 再び蹴りを避けられ、辛うじて受け身をとって着地する。次第に魂源力がすり減っているのを感じる、あと本気の蹴りが何発撃てるか。
「おい京介、大丈夫か!?」
 パートナーで組んでいた男生徒が叫ぶ。辛うじて追いついてきたはいいが、二人の戦いについていけず、完全に身体の動きが止まってしまった。
 そんな彼を無視し、京介との戦いに専念しているランスロット。
「人質をとらない、ってのは騎士道か? ッザけんなぁぁ!!」
 少ない魂源力で再び脚部の鎧を構成し、再び蹴りかかる。
「ッ、なぁ!?」
 今度はそれを幅広の剣……ランスロットが持つ剣と言えばアロンダイトだろう……を引き抜き、その幅広の腹で京介の脚を受け止める。
 ギャリギャリと音こそ立てるが、上級ラルヴァを一撃で打ち砕ける筈のそれが、剣を砕く気配はまったく無い。
(威力が、落ちてやがる……!!)
 度重なる突撃により一撃の威力が落ちている、それも間違いではない。
 だが、アロンダイトは「決して刃こぼれしなかった剣」である。全開状態であっても、破壊出来たかどうかは怪しい。
 虫を払うように京介を払い落とし、その剣を振り上げる。
(ヤベッ、足が……!!)
 剣を思いっきり蹴り、地面に叩きつけられた反動か、足が痺れている……あの剣から逃れる術が、無い!
「動けぇぇぇ!!」
 とは言え、叫んで動く物でもなく、剣が振り下ろされ……る前で、ピタリとその動きが止まる。
「まったく、何も考えずに猪突猛進する馬鹿はこれだから困る」
「っ……てめぇにだけは助けられたくなかったぜ!」
 辛うじて駆けつけた宗麻が、全開の能力でランスロットを足止めする。
「……コノ程度!!」
 甲冑騎士はその呪縛をはじき飛ばすが、その隙をついてゴロゴロと転がった京介が、動けないパートナーの元に戻るまでには十分の時間を稼げた。
「流石に、これだけの広域妨害が出来るラルヴァ……哀が居ても、目が兜で隠れてる。効くかどうか」
「で、どーするんだ? コレ」
「先生に聞け」
 京介と宗麻に挟まれてなお、圧倒的な威圧感を放つランスロット。
「そこの馬鹿が聞いたかもしれないが……お前の目的は、何だ?」
 実際に京介も放った質問を、宗麻が問う。
「『聖杯《Grail》』ハ、返シテモラウ」
「おい、俺の時は無視してたじゃねえか!」
『2人とも、今からカウント始めるから、ゼロで突っ込んで!』
 春奈からの指示が飛び、京介はぶつくさ言いながら鎧を再構成、宗麻も洋剣を構える。

『3……』
 ランスロットが再び剣を振り上げる。
『2……』
 宗麻が剣を握り直す。
『1……』
 京介の脚がぐぐ、と沈む。
『ゼロ!!』

 声と同時に三人が飛び出し、一体が迎え撃つ。
 そう、ランスロットの背後からもう一人、二礼が飛び出して、ランスロットの後頭部めがけて木刀を振り下ろす。
「こん、にゃろぉぉぉぉ!!」
「届けぇぇぇぇ!!」
「倒れろ、っす!!」

 ……が。

 魔力が付与された剣は左手で受け止められ、鎧で纏われた右脚に自らの剣を叩きつけられ。木刀に至っては直撃を受けている筈なのにビクともしない。
「………ハァ!!」
 鎧が気迫を発したと思うと、三人が木の葉のように吹き飛ばされる。
「がぁぁぁぁぁ!!」
「っ………!!」
「ヤバ、シャレになんねーっす……!!」
 受け身もとれずに吹っ飛ぶ三人のうち、二礼はちらりと見た。
 自分の真上を、鉄パイプを持った少女が飛び越えていくのを。

 クラスメンバーの最大火力3人をぶつけ、その上にタイミングをずらして『ジョーカー』とも言える紫穏の一撃を叩き込む。
 もう一つ、哀の異能に頼る手段もあったが、あの甲冑は目が隠れていた。効く保証が無い。
 ……これで負けたら、打つ手が無い。せいぜい哀の能力を試してみるくらいか。
 右足から血が滴り、両手が痺れ、受け身がとれなかったせいで擦過傷が体中に現れる。
『お願いだから、終わって……!!』

 そう祈った瞬間、龍が相手をしていた甲冑が音も立てずに蒸発する。
「のた、た、たぁ!!」
 蹴りを放った龍が派手にズッこけるが、誰も見ていない。

 周囲の霧が晴れ、いつも通りとしか言えない演習場が広がる。

 紫穏の鉄パイプが、ランスロットの兜を横殴りに叩きつける。兜ははじけ飛び、不可解にも首から下の鎧が蒸散した。
「……ココハ、退カセテモラウ」
 頭部を破壊されたのが原因か、壊れた兜を残して、ランスロットは姿を消す。
 同時に霧が晴れ、全てが終わった事が一目で分かる。
「……ふう、終わったねー。けど奴は何だったのさ? あんな霧出して学園襲ってさ」
「奴は、グレイル……聖杯を返してもらう、と言っていました」
「せーはい?」
「っつつ、いってぇ……!!」
「ほらほら、男の子ならちゃっちゃと起きるっす」
 ようやく見えるようになった陽の光に照らされ、歪んだ兜が光り輝く。
「いちおー、これは持って帰らないとね。何か分かるかも」

「状況、終了……怪我してるのは、伝馬くんだよね。彼は保健室に連れて行って。他のみんなは演習場に集合……それじゃ、よろし、く」
 それだけ伝え、能力使用を終える。立とうとするが、右足が言うことをきかずにフラリと倒れ込む。
「せんせっ!!」
 慌てて駆け込んだ虎二が、彼女を抱えて近くのベンチに座らせる。
「ったた、伝馬くん怪我させちゃったな、ダメだなぁ……もうちょっと、上手くやれると思ったのに」


Chapture 4 「戦い終わって日は過ぎて」


 張り巡らされている結界を突破して学園を強襲した『泉の騎士』事件は、『鋼のB組』の活躍で幕を閉じた。もっとも、今回の襲撃を行った甲冑騎士は逃亡。それが名乗った名前と『聖杯』以外に、まったく手がかりが無い状況ではあったが。

「まったく、持つべきものは頼れる生徒だよね~」
 春奈とクラスの女子数名が、昼休みの学食に集合している。
 結局、リミッター強制解除の件によるお咎めは、給与五割カット(一ヶ月)となった。本来ならば、ペナルティ……三つの累計で投獄となってしまう罰点……が課せられる筈だったが、クラスメイトの陳情により撤回された。
 もっとも、減給のせいで毎食昼抜きの憂き目を見るところであった。これを救ってくれたのは、クラスの女子陣である。彼女たちが支援してくれているおかげで、春奈は今Aランチを食べられるのだ。
「質問、いいですか? 先生の能力って、『一人に一能力』の原則を破ってるような…」
「ああ、それ?……うーん、いちおう秘密、って事でいいかな。あんまりバラしたくないんだ」

 無論、タネはある。以下、難波那美の秘密検査報告を転載する。

「春奈先生の異能は、一種の精神感応……テレパスに過ぎないわ。他人の情報を読み、他人に声を伝える。ただし、その範囲が桁外れ、かつラルヴァの気配をもその中に組み込めるのが異常なところね。流石にラルヴァの感覚は、人と違いすぎるせいで読めないみたいだけど。
 能力の中に状況判断能力とかは含まれてないわ、だからあんなに必死で勉強してるんでしょう。状況把握? あれはテレパスで割り出したラルヴァの位置を、頭の中に叩き込んだマップに投影してるだけ。私からしてみれば、あそこまで広域のテレパス能力持ってるだけで十分、って気もするけどねぇ」
 なお、春奈はこの部分を彼女以外には秘密にしている。汎用的に使える……という事を知られたくないためだ。

「結局あのラルヴァ、何だったんすかね。こっちでもぜんぜん続報聞かないっす」
 甲冑のラルヴァ……名乗ってはいたが、便宜上『甲冑騎士』と登録されている。上級、知能レベルはS……とまでは決まっているが、危険度については空白のままだ。『聖杯』についても続報は無い。
「そこのあたりは、醒徒会や研究者の人に任せるしかないかな。あたしなんてしがない一教師だしね」
「ちょ、春奈ちゃーん、醒徒会にだって……分からないことぐらい、ある……」
 昔の漫画っぽい演技で答えた紫穏の言葉によって、一同が笑いに包まれる。
(もうちょっと……がんばんないと)
 一同の笑い顔を見ながら、少しだけ決意を新たにする。

 放課後、部活へ向かおうとする龍は、机の上に大量の学術誌……学内でのみ発行されているような、ラルヴァ関係の物ばかり……を積み上げ、濫読している虎二に気づく。
「トラ、いつからそんなの読むようになったんだ?」
「この前からだよ。能力つかえねーなら、それなりに役に立てるようにならないと駄目だろ?」



 学園の中心部。研究棟が立ち並ぶ中でも、特に機密度が高いものが保管、研究されているセクションである。
 その中の一部に、世界各地の歴史を解析する区画がある。古来から続く言い伝えや、それにまつわるアイテムを収集し、そこに異能やラルヴァの痕跡を見つけ出すのが任務である。
 ……その、もっとも奥まった場所の一つに、それは眠っていた。
「おお、これが『グレイル』……」
「数々の伝承に残る『聖人の血』とは、こういう意味が……」
「外では、コレを求めてラルヴァが現れたというが?」
「なに、ここは対ラルヴァに限れば要塞並み。そう簡単に突破はされないさ」
「これを再現出来れば、人類に負けはなくなる……人類の命運は、我々が握っている。とても名誉な事ではないか」
「『主任』そろそろお時間が……」
「そうか、それでは失礼するよ。研究、頑張ってくれたまえ。人類の存亡は、君たちの双肩にかかっているのだからね」
「「は、はい……!!」」

……続く?







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