【シャイニング! 番外】


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シャイニング! 時間軸とか無視の番外編
~河越明日羽の事情~

 鍔鳴りと同時に消え去ったラルヴァの残滓が、風に吹かれて散り消えていく。
 それを見届けて河越明日羽はふっと細く吐息した。
 目の届く範囲にラルヴァの、魂源力<<アツィルト>>の流れは無い。

 彼女の異能は魂源力を見る能力。その動きや量を視覚的に捉えるものだ。
 普通、魂源力は異能を持っているならばある程度の者が感知することが出来る。そうでなければ異能を扱うという根本的な部分に欠点を持つことになる。
 中にはその感覚を持っていないために異能を暴走させるような者がいないわけではない。だが逆に、普通以上に鋭敏に感じ取れるものも居る。
 明日羽の異能は、感知に特化したものだった。

 そして、そのことからもわかるように、彼女の異能は純粋な戦闘能力ではない。
 魂源力を目で見るという能力は探知系の異能の中でも便利なものである。
 本来であれば彼女は対ラルヴァ戦において、サポートメンバーとなるはずの異能者だった。
 しかし、彼女は前線に出て刀を振るっている。
 彼女自身が持つ剣技は、脅威度の低いラルヴァになら十分通用するレベルだったからだ。
 敵や味方の力の流れを把握し、的確に戦闘を進めるだけの格闘能力も持ち合わせていたことも大きい。

 ただし、当然のように制約はある。
 たとえば、知覚できる範囲は彼女の視界に完全に依存する。簡単に言えば、視界を障害物に遮られたりすればその向こう側は見えない。彼女は透視などの能力は持ち合わせていない。
 そして、いくらラルヴァの力の流れを見る事が出来ても、それを迎え撃つ彼女自身の身体能力はただの人間の域を出ない。
 子供の頃から続けている剣道の腕前と、地道な訓練によって鍛えた筋力が頼りだ。
 刀が通用しないラルヴァが相手の場合は、後方に回るしかない。

 総じて、華々しい活躍は期待できないが、さりとて後方支援にだけ置いておくには勿体無いという評価になった。
 明日羽本人も、支援ではなく直接戦闘を希望した。

 その理由は、支援役よりも戦闘員のほうが参加報奨が良いからだ。
 危険な戦いへ駆り出される生徒は、日頃の訓練に力を注ぐことになる。その分、一般教養科目などは犠牲になってしまうわけだが、その成績を学校側が保障するのだ。
 あわせて、希望者には学費や寮費に関する保障もある。

 河越明日羽は学費の数割を免除してもらうために、自らすすんで戦闘員となった。
 彼女の実家は剣道場を営んでいるのだが……ぶっちゃけあまり儲かっていなかった。

 日の落ちた山林に目を凝らし、魂源力の流れを見極める。
 あたりにうっすらと漂う靄のような光に、明日羽は眉をしかめた。
 靄はそこら中にほぼ均一に広がり、偏りなどは見られない。
 つまり、ラルヴァの痕跡は無い。
 そんなはずはないというのに。
 たった今、彼女が屠った一匹のラルヴァは小さな植物が自立したようなもので、下級として分類されるものだったが、魂源力をまったく持っていないというのは考えられないことである。
 それがこの山林を走り回った跡が、まったく残っていないのだ。

 嫌な予感が胸をかすめ、彼女は駆け出した。
 木々に遮られる視界にひたすら集中しながら、林の奥へ向かう。
 その先には、一緒に山に突入した別の異能者がいるはずだった。
 そしてすぐに気付く。
 常人には見ることの出来ない魂源力の靄が、先ほどより濃くなっている。目指す場所に近付くほどそれは次第に濃さを増して、いよいよあたり一面が輝きで染められているかのようだ。

 ひゅんと風を切る音が聞こえ、明日羽は反射的に刀を鞘ごと振り上げた。
 ぐちょりと湿った布で叩いたような音がして、鞘が何物かにつかまれる。
 いきなり襲い掛かってきたのは、蔓のように見える細長い緑色の何か。だが、その表面はてらてらと濡れ光り、ぶつぶつとそこかしこに穴が開いて呼吸するように開閉している。
 動物だか植物だか曖昧なそれは、意外な力強さで鞘を引っ張る。
「くっ」
 鞘を取り戻すのを諦め、その場で抜刀する。
「セェェエイ!」
 裂帛の気合いと共に左下から右上に薙ぐ。
 鞘を掴んだ触手を断ち切り、そのまま前に駆け出した。薄闇の森の奥に、触手の本体がいるはずだ。

 再び、目に意識を集中し、魂源力の流れを見る。
 一面に満ちた光は、すごい速さで森の奥に流れているようだった。その一部に淀み、流れの狂っている箇所を見つける。
 淀みの正体は木に突き刺さった機械だった。仲間の一人が用いる、魂源力を動力源とした装置だ。
 その持ち主の姿はそこには無い。

 それに気付いて感じた悪寒を振り払うように、彼女はすぐさま走り出した。おそらくは触手の本体の居る、魂源力の流れが向かう先へ。

「あれか……!」
 木々の並びが途切れ、開けた場所に出た。
 そして彼女は見てしまう。物凄い勢いで魂源力を吸収し、少しずつ枝葉を伸ばしていく大樹を。
 木の表面には樹脂なのか、てらてらと光る赤黒い液体が流れ、まるで動物の生肉を木の形に成型したかのようなグロテスクなラルヴァ。
 報告によると『肉食み薔薇』という名のようだが、それはとても薔薇という名前からは想像も出来ないような奇怪な姿だった。

 明日羽はしかしそのおぞましい見た目よりも、そのラルヴァが周囲から吸い取っている魂源力の流れに気を取られていた。
「な、なんて大量の魂源力を……」
 なまじ、魂源力の流れが視覚的にわかるだけに、それがいかにとてつもない量の力を貪っているかを理解してしまう。

 驚愕から立ち直る間もなく、彼女の目は戦友の姿を見つけ出す。
「田宮!」
 田宮楓<<たみやかえで>>は『肉食み薔薇』の根元あたりに倒れ、少しずつ体を覆われつつあった。
 慌てて駆け寄ろうとする彼女に向けて、大樹が蔓のような触手を伸ばす。
「シッ」
 それは難なく切り払うものの、さらに連続で触手が放たれる。
 その一本一本は彼女にとって脅威となるものではなかったが、数が多い上、様々な方向から飛んできた。すべてを捌く為、自然と足は止まり、防戦一方になってしまう。

 明日羽の胸に焦りが広がる。
 いつまでも防いでばかりではやがて押し切られる。それに、倒れている仲間も徐々に取り込まれてしまっている
 そして何より、触手を振るいながらも『肉食み薔薇』が魂源力を吸い込み続けていることが問題だった。

 その魂源力は、なにから吸い取られているのか。
 魂源力はそこら中に普通に存在するものだが、決して自然には大量に集まることは無い。
 この森の中であんなにも大量の魂源力を吸い続けるには、その魂源力の元となるものが必要だ。
 森の木々などの生物、他のラルヴァ、そして今このタイミングであれば“異能者”という供給源が居る。
 自分たち異能者は『肉食み薔薇』にすでに捕食されているも同然なのだ。

「ハアッ!」
 同時に襲い掛かってきた三本の触手を薙ぎ、明日羽は身を屈めて駆け出した。
 向かってくる触手の下を潜り、一気に仲間のもとへ走り寄る。
「チイッ」
 苛烈になる触手の攻撃を大雑把に払いながら、根を蹴り付ける。
 その硬さに、咄嗟に刀で根を切り裂いて少女の身体を引きずり出す。

 それが隙となった。返した刃をすぐさま触手へと向けるが、いつのまにか背後から迫っていた別の触手に腕を絡め取られる。
「しまっ、ぐぅぅぁああ!」
 触手の群れが一斉に襲い掛かり、彼女の全身を締め付ける。

 根の束縛から離れた田宮楓が、緩慢な動作で明日羽を見上げる。
「河越……さん?」
「く、田宮……動けるか……? に、げろ」
「……ムリ、っぽい」
「そう、か……あぁあっ」

 悲鳴を上げる明日羽に縋り付くように、楓は彼女の足に手をかけて身体を起こした。
 そして、巻きつく触手を震える手で引き剥がそうとする。
「河越さん……くっ、あ!」
 それはもはや抵抗とも言えないようなものだったが、触手はさらに楓の身体にも巻きつき、締め上げ始めた。

 二人の少女が、グロテスクにぬめる触手に全身を絡み取られ、ただただ悲鳴を上げる。
 もはや絶体絶命だ。
 だが、明日羽は刀を離さない。ぎりぎりと締め上げられ痺れる手を、一生懸命握る。
 それは、自ら戦いへと参加したものの矜持……だけではない。
 希望の光が見えているのだ。
 『肉食み薔薇』が吸い込む魂源力の流れを、大きく乱すものが近付いてくる。

 魂源力の逆巻く塊が、林の隙間から飛び出してきた。
「センパイ!」
 双葉敏明は両の手に光を点らせている。彼自身の異能で放たれる光と、莫大な量の魂源力を消耗していることを示す光だ。

 敏明は光を消すと、その手に持っていた拳銃で『肉食み薔薇』を撃つ。
 だが、大樹の幹を八ミリの弾丸で穿っても、ほとんど効果が無い。
 触手を狙って撃てるほどの訓練も、さすがに敏明はしていなかった。
 彼の異能によって運命を引き寄せれば『運良く触手を打ち抜く可能性』を掴むことが出来るかもしれないが、逆に『運悪く明日羽を撃ってしまう可能性』を掴む危険も同時にあった。

 だから、そこでの敏明の選択肢は、
「メグ!」
 同行する仲間に指示を飛ばすことだった。

 敏明とはまったく別の方向から出てきた山崎巡理は、自動小銃に取り付けたスコープを覗き、軽やかにトリガー。
 次々に触手が打ち抜かれ、明日羽と楓の身体を解放する。

「おおおおお!」
 拳銃を右手に、左手に逆手でナイフを握り、敏明が明日羽の傍に駆け寄る。
 肉体強化も、戦闘に寄与する超能力も、さらには特別な異能系装備すらも持たない彼にとって、ラルヴァは脅威以外の何物でもない。
 それでも敏明は必死の形相で走り、明日羽を再び掴もうとする触手にナイフを突きたてる。

 自由を得た明日羽は、軋む全身の筋肉に鞭を打って触手を払いながら後退する。
 立ち上がれない楓は敏明が担ぎ、巡理が小銃でフォローする。
 三人はなんとか触手の多い場所を逃れて木の陰に入る。

 と、ラルヴァは諦めたのか触手で攻めることを止めた。
 木の陰に隠れたからといって触手が届かないわけはないはずだったが、頭上などを警戒してみても、奇襲がある様子も無い。

 明日羽の目はすぐに事態を見極める。
 魂源力を吸収する流れも止まっているのだ。
 触手を操ることだけをやめたのではなく、他の活動も停止させている。

「間に合わなかったか……」

 明日羽の声に反応したかのように、『肉食み薔薇』の幹がいきなりほどけた。
 大量の触手へと姿を変えたそれは、急速に枝のそこここに蕾を膨らせ、そして真っ赤な薔薇の花を次々に咲かせていった。
 飛散する多量の魂源力と甘い香り。
 だがそれもすぐに途絶え、花が萎れて、そこに実が成る。

 大量の実はやがて熟すと、空に向かって放たれ、そこで弾ける。中に入っている種を飛ばして、生息域を広げて繁殖するためだ。
 一つのみに数十粒の種。実は無数。どれほどの確率で種が芽吹くのかはわからないが、森の周辺、人里に『肉食み薔薇』が入り込む可能性は低くは無い。

「……まだだ!」
 明日羽は木の陰から飛び出し、『肉食み薔薇』へと走った。
 触手の攻撃は無い。繁殖のために魂源力をつぎ込んでいる今こそが、このラルヴァを倒す最大にして最後のチャンスだった。

 だが、さすがに危機に気付いた『肉食み薔薇』が、本体付近の触手を振るってくる。
 軌道を読み、切り払おうとするが……斬れない。
 それらは先ほどまで容易に斬ることが出来た触手と違い、本体に近い分強度が高いようだった。

 それ以上踏み込むことが出来ず、明日羽は歯噛みする。
 間合いにして残り約十歩。その距離が遠い。巡理の援護射撃も、あまり効果は上がらない。
 実はもうすぐ飛び立つのではないかというほど膨らみ色づいていた。

 その時、強烈な衝撃波が明日羽の横を駆け抜け、『肉食み薔薇』の側面を抉った。
 本体を完全に破砕することはなかったが、大量の触手をいっぺんに失って幹の束が激しくのたうつ。
 振り返れば、楓が自分の武器を杖にして立ち、明日羽を見ていた。
 彼女は苦痛に歪む唇を無理やり笑みに変え、叫ぶ。

「行って!」

 敏明が合わせて駆け出し、巡理は援護射撃を続けながらジリジリと近付いてくる。
 一つ力強く頷いた明日羽は、『肉食み薔薇』に向けて踏み込んだ。

 一歩。触手の迎撃が遅れる。
 三歩。小銃の連射に阻まれ、触手の第一波は弾かれる。
 六歩。刀で横薙ぎにして、第二波を払う。
 九歩。明日羽を追い抜いた敏明がナイフで第三波を弾こうとして、全身を絡め取られた。
 すべての触手が敏明に殺到する。彼の手が光っていることに気付き、明日羽は苦笑した。

 十歩。
 見る。幾条にもわかたれた幹の中、一際はっきりと光を放ち続ける一本の触手。
 『肉食み薔薇』の核だ。大量の触手すべてを斬るには時間が足りないが、それさえ仕留めることが出来れば全体が止まるはずだ。
 しかし、それを薙ぎ切る為には、周りを囲む大量の触手を断たなければならない。

 彼女の選択はシンプルだった。
 腰を落とし、刀を引き、切っ先を前へ。
 自らの身を弓の弦のように張り詰めさせる。

「ああああ!」

 そして解き放つ。
 繰り出された突きは触手の群れの隙間を縫い、あやまたず核を貫いた。

 一秒の静寂。
 その後、全ての触手が力を失って地面に倒れていった。

「は……は……」
 だが、明日羽は気を抜くことが出来ない。突き出した刀を引き戻し、『肉食み薔薇』の萎れていく姿に刃を向ける。
 だが、
「いだっ!」
 地面に落とされた敏明の間抜けな悲鳴に、思わず明日羽の肩から力が抜けた。
「は……ふふふ、大丈夫かい?」


 河越明日羽は前線に立って戦うことで、実家への仕送りを稼いでいた。
 だが、今では彼女は双葉敏明の護衛者という任についている。
 ラルヴァを直接退治する以上の報奨を毎月貰えることが学園長によって約束されているというのも、その仕事を引き受けた理由の一つだ。

 魂源力の流れを見極める能力で、敏明の手の暴走を察知する。常時機能型の異能の制御を敏明に教える。
 などの理由は、学園側が示したもの。

 だがそれ以外にも、明日羽が敏明の傍に居る理由は――。

 明日羽は『肉食み薔薇』への最後の敏明の無謀な吶喊に、文句を言うべく彼へ踏み出す。
 だが、その頬は緩み、柔らかな笑みを浮かべている。

「敏明クン」
「センパイ……良かった」

 名前を呼ばれ、立ち上がった敏明も笑みを返す。
 が、彼の下半身がいきなりむき出しになった。

「トッシー、お尻にアザできてるよ?」
「ナチュラルに俺のパンツを脱がすな! 人前だぞ!」
「人前じゃなくて、二人きりならいいの?」
「そういう問題じゃねえ!」

「……」

 理由は、どうなのだろうか。

...end


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