【突撃のストレイトブースター】


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 轟音と悲鳴。
 前後からの音に挟まれながら、篠崎七雄<<しのざきななお>>は身構える。
 左足を軽く踏み出し、右足で体重を支えて右肩を引き、右手に持った『それ』を腰溜めに真っ直ぐ正面……体長十数メートルのラルヴァに向ける。
『それ』は槍。
 振り回し、投げるために用いるような、刃をつけた細い槍<<スピア>>ではない。
 ただ真っ直ぐ前進し、眼前の敵を蹂躙するための、突撃槍<<ランス>>。
 ラルヴァは低く唸りながら、アスファルトを踏み砕き、電柱を薙ぎ倒しながら駆けて来る。
 背後の悲鳴は次第に掠れ、やがてすすり泣きに変わっていた。

「おい」

 七雄の呼びかけに、俯いた少女は目だけを向ける。言葉の変わりにしゃくりあげる音を返事として受け取り、彼は嘆息した。

「助かりたいか?」
「うん」
「生きたいか?」
「……うん」
「生きて、前に進めるか?」
「……それは」
「どうなんだ?」

 言い淀む少女に、七雄は首だけ振り向き、睨むように見据える。

「俺は前に進む以外の道を知らない。俺の足はただ前に踏み出すだけだ」

 そして問う。お前はどうだと。

「前に進むことが出来るか? 春峰央歌<<はるみねおうか>>」
「私は……」
「お前の力は、そうしてただ座して待つためのものではないだろう?」
「で、でも、私が力を使えば、みんなが……」
「心配するな。この学園の連中は、変態的にタフなやつが多い。ちょっとくらい背中を強引に押されたくらいで、へばったりはしないさ」

 ラルヴァの巨体がもうすぐそこまで迫っている。あと数秒で彼らは踏み潰されるだろう。
 絶体絶命を目の前にして、彼女の逡巡は長い。それを、七雄は黙して待つ。

「前に、進みたい、です」

 途切れがちな、しかし力強い、言葉。

「なら、俺が先駆けだ」

 声と踏み足を答えとし、七雄の体が前に出る。
 もはや数歩の距離に居る巨大なラルヴァに向けて、彼は進んだ。

「しっかり付いて来いよ。この道を、真っ直ぐだ」

 真っ直ぐ、そう言い聞かせて、歩みを加速する。
 雄々と叫び、槍を構え、ただ、前へ、前へ。
 勢いに乗ったラルヴァは、自らの身体で七雄を押し潰そうと、突き進んでくる。
 激突。
 槍の切っ先が、ラルヴァの額に届く。その速度差は明らかにラルヴァに分がある。
 だが、
『ぐぅぅぁるららるるるぁ!』
 ラルヴァの苦悶の絶叫が響き渡った。

「くっ!」

 七雄は構わず、歩み続ける。

「おお!」

 踏んでは前に。

「おおおお!」

 駆けては前に。

「ああああああああああああああああああああああ!」

 馳せては前に。

 やがて断末魔の叫びも消えたときには、真っ二つに裂かれたラルヴァの巨体が転がっていた。
 息絶えたラルヴァは風に吹かれて次第に崩れていく。
 ラルヴァの死体が消え去り、後には破壊されつくした道路と、真っ直ぐに佇む少年の姿が残った。
 七雄は央歌を振り返り、左の手を誘うように差し出した。

「さあ」

 少年は言う。

「前に、進め」

 少女は、震える足で立ち上がると、ゆっくり、ゆっくりと最初の一歩を踏み出した。


【突撃のストレイトブースター】-プロローグ

 1、問題


 双葉学園に立ち並ぶ校舎の中には、生徒たちがあまり訪れない場所もある。
 その一つ、理事棟は教師や学園運営者たちのための建物だ。

「運命の後押し、ですか?」
「そうだ。彼女の、春峰くんの異能は他者の運命を加速させるもの」

 理事棟の大会議室に、今、大勢の大人が集まっていた。
 彼らの年齢、服装は様々だ。
 スーツ姿の者が多いが、仏教、神道、カトリック、プロテスタント、ヒンドゥー、その他諸々、様々な宗教的な装いを見せるものも少なからずいる。
 また他にも、軍服の男、ラフなジーパン姿の男、いかにも怪しげな黒装束の女、和装の老人など、バラエティに富んでいる。
 会議室の奥まった位置には大きなディスプレイがあり、その横でスーツの男の一人が説明をしていた。
 画面に映し出されているのは、春峰央歌という一人の生徒の顔写真とプロフィールだ。

「運命干渉の異能者。この学園でも数少ない種類の異能だが、醒徒会の成宮くんや学園長のお孫さんもこれに含まれる。決して、ありえない異能でもない。神那岐のような破格の例はさすがに希少ですが」
「……全然、同じ系統とは思えませんけど?」

 口を挟んだのは、会議室の中ほどに座る、シスター服の女性だ。

「占いから過去の改変に到るまで、とにかく人が『運命』という言葉を用いて言及するもの全てに、我々は運命干渉という位置づけをしている。例えば『ザ・ハイロウズ』は人の特定の社会的運命を限定的に予言する能力だ」

 男の言葉に対して、黒装束の女が不意に声をあげる。

「予言が運命干渉とは、随分な言い方ね。それでは私がタロットを引いただけで――」
「もちろん」

 彼女の言葉を無理やり断ち切って、男は言葉を継ぐ。

「運命というものを酷く強引に、大雑把に解釈してのことだ。異能の定義についてはまた別の機会に」

 男はふうと溜息一つ。様々な立場の人間が集うここでは、迂闊な言葉は場を荒らす原因となりかねない。
 宗教的な観念、異能に関する研究の主張。どんな反応を引き出すかわからない。

「それで、運命を加速すると、具体的にはどうなるんですか?」
「言葉の通りだ。いずれ来る未来、その人間に訪れるはずの運命を早める。たとえば、ある人間が宝くじを当選する運命を持っていたとして、その運命を加速すればすぐにも相応の幸運を得ることが出来る」
「そんな破格の異能が……ありえるのですか?」
「効能<<メリット>>が破格な分、対価<<デメリット>>も非常に高い。魂源力<<アツィルト>>の消耗だけでは済まない対価がね」
「やっぱり、そういうのがついて回るのね」

 またしても口を挟む黒装束の女を男が睨むも、彼女は涼しい顔で続ける。

「私たちが千年研究し続けてようやく練り上げる力を、生まれたときから使えるというんですから、代償はあってしかるべきだわ」
「……ともかく、運命の加速というのはただ有用な異能とは言いがたい。例えば、一人の人間の運命を百年分加速したら、どうなる?」
「ええと……百年分の様々な出来事がやってきて……」
「死ぬのさ。その人間が百年以上生きるというなら別だが、ほぼ間違いなく寿命を迎える」
「あ、なるほど……って、凄くおっかない異能じゃないですか、それ」
「恐ろしくない異能などというものは無いと思うが……扱いを気をつけなければいけない異能であることは確かだ」

 そこで今度は和装の老人が口を開く。

「……だが、今回の作戦には必要な異能、ということだな?」
「そうだ」

 男は明らかに年長と思われる相手にも口調を変えない。

「運命干渉というのはとてもデリケートな能力だ。同じ場所で二種類以上の運命干渉があると、過干渉が起こり、その能力は打ち消し合う」
「それも運命干渉系のデメリットの一つか」
「デメリットではあるが、今回はそれが利用出来る」
「敵ラルヴァの運命閉塞を過干渉によって突破するわけだ。その女子生徒はいってみれば、ラルヴァに到るまでの露払いだな」
「彼女だけでなく、現在制御可能な学園中の運命干渉系異能者は総動員する。先程言った、成宮くんや双葉敏明くんらとあわせて、現在投入可能な人員は五人だ。他にも、運命干渉系の異能者はまだいるが……」
「今回の作戦に投入するには不安がある、かね?」
「そうなるな。そして、彼らを護衛し、現場で実戦闘を担当する異能者をチームとする」
「しめて二個小隊程度か。君の言葉ではないが、恐ろしい異能者がそれだけの軍隊を整えるというのは脅威だね」

 老人の皮肉げに笑うと、今度は別の男が手を上げた。こちらは派手なパンクルックだ。

「双葉区の警備は大丈夫なのか?」
「成宮くん以外の醒徒会役員は基本的に待機です。不測の事態の場合、出動を要請するかもしれませんが、他にも有力な生徒は残っています」

 パンクが口を閉じると、しばし議場に沈黙が下りた。

「……他に質問はないな? では、今後の作戦指揮は私が続ける。各人は対応を頼む。特に、報道と政界への対応は厳しいだろう」
「まったくだな……まさか」

 老人は心底疲れたような表情で呟く。

「町ひとつ、ラルヴァの力で閉鎖されてしまうとは」
「閉鎖されたわけではない。あくまで、その町の中で運命が閉塞しているだけだ」
「似たようなものだ。町の中のすべてが停滞すれば、時間が止まったも同然。そして、何者も出入りすることは出来なくなる」
「そして、それを突破するための運命干渉系異能者、か」

 重苦しく囁かれた一言に、その場の全員が表情を改めた。



 話し合いが一段落したと判断し、議場から人々が退出していく。
 男は深々と溜息を吐く。そこに、シスターとパンクが近付いてきた。

「どうした? 二人もやることは多いのじゃないか?」
「そりゃもちろん、大忙しだけどな」
「聞いておきたいことがあるんです」
「……なんだ?」
「今回の作戦の要となる、春峰央歌さんのことですが……」
「そいつ、今年転入してきたばっかりじゃねえか。使えるのか?」
「使える、とは?」
「異能の制御訓練、戦闘経験、足りてるのかって聞いてんだ」
「異能の制御については、転入以前から完全にコントロールしていた。戦闘経験については、これから一週間の間に訓練で使えるレベルにする予定だ」
「一週間……舐めてんのか?」

 パンクの声に険が混じった。目付き鋭く、唸るように男に迫っていく。

「そんな状態で戦場に立たせりゃ、足引っ張ることは目に見えてるんだろうが」
「……」
「あ、あの……私も反対です。まだラルヴァの知識もほとんどない女の子をいきなり実戦になんて……今回みたいな大規模な作戦に、しかも『最終兵器』として」

 二種類の強い視線に晒され、男はしばし目を伏せて押し黙った。
 彼らの主張は、結局は一人の少女の安全を気遣うものだ。同じ教育者として賛同してしまいたいという思いが彼の中にも生まれる。

「……だが」

 それはできない。

「今回、敵ラルヴァに対して有効な『運命の操作』が出来る異能者は、春峰くんと双葉くんの二人しかいないのだ」
「ああ? 運命干渉系の異能者は五人って、さっき言っただろうが」
「その通りだ。成宮くんの能力のように運命を見聞きし、触れることが出来る異能者は全部で五人。そのうち、自らの意思で発動し、敵ラルヴァの運命閉塞の能力を打破できる威力の『運命操作』はその二人にしか……いや、性格には春峰くん、ただ一人にしか出来ない。双葉くんの能力『栄光と破滅の手<<ハンズオブヒーロー>>』は半分制御できていないも同然だからな」
「大層な名前のくせに、使えねえな」
「栄光と破滅、そのどちらの運命をも引き寄せられる代わりに、どちらがやってくるかわからないというのが、彼の能力の特性だからな」
「フン……それで、その『運命の操作』だけが有効ってのはどういうことだ?」
「言葉のままの意味だ。敵ラルヴァは、運命を閉塞させることで身を守っている。だが運命の閉塞さえ解除できれば、倒すことも容易だ」
「その閉塞を打ち消すだけなら、他のガキどもでも足りるって話だろ?」
「敵ラルヴァは町ひとつの運命を停滞させている。その周囲では、停滞はゆるやかだが、本体に近付くほど強まり、閉塞されていくことになる。成宮くんたちのような、運命に対する干渉の程度が低い能力では、ある程度以上には近づけない」
「力の強さの問題か?」
「強弱というより、質の問題だな。『運命を見る』という異能は、決して干渉の程度としては高くない。つまり、打ち負けてしまう。『運命の加速』『運命の引き寄せ』という、強烈な異能だからこそ『運命の閉塞』という力に対抗できる」
「……なるほどな」

 一応の納得を得てパンクが口を噤むと、今度はシスターが首をかしげる。

「彼女以外の子供たちは、なぜその作戦に? 一人だけいれば事足りるような……」
「……敵が、そのラルヴァ一体だけならな」
「まさか、複数……?」
「運命閉塞を行っているラルヴァは一体だけらしい。だが、その停滞空間内部には、大量のラルヴァが存在していた。幸い、そのラルヴァたちも現在は運命の閉塞に巻き込まれているため、町には被害が出ていない。だが、生徒たちが突入すれば障害となる可能性がある。そのため、戦力の分散を行う」
「はぁ……わかりました。ところで、今回のような事態は初めてと聞いていますが、どうしてそんな解決策まで出ているのですか?」
「アドバイザーの意見だ」
「そのアドバイザーの意見ってのは当てになるのか?」
「他に意見を持ってくるような人間がいなかった」
「……まあ、ラルヴァの研究者は少ねえからなぁ」
「もしその対抗策が不完全な場合でも、アドバイザー本人が同行を申し出ているので、その場での作戦変更も可能だろう」
「オイオイ、現場に参加とは気合い入ってるな。どの学部の先生だ?」
「教員ではないらしい」
「あン?」
「そろそろ仕事に戻ろう。この作戦の如何に関わらず、しばらくは休みもとれそうにないな」

 怪訝そうなパンクにはそれ以上とりあわず、男は会議室を後にした。


 2、訓練

 グラウンドに揃った数十名の生徒たちは、それぞれに何人かでグループを組んで集まっていた。
 一週間後に控えた大規模侵攻作戦を伝えられ、どの顔にも緊張の色が浮かんでいる。

「いいかー、基本的にお前らのフラッグである運命干渉系異能者はサポート役でしかない。だが、そいつが居なければ町の中に入ることさえ出来ない。町と一緒に運命を止められたくなかったら、死ぬ気で護れ。わかったか!?」
『はい』『うっす!』『あーい』『にゃー』『オス!』
「本当にわかってるのか微妙な返事もあったが、まあいい。これから分隊ごとの訓練に入る。とりあえず最初だ。マニュアルを読みながら頑張れ。チームプレイを心がけろよ。それでは、始め!」

 ジャージ姿の教師の号令で、生徒たちはめいめいに移動を始める。
 その中で、双葉敏明と春峰央歌のいる二チームは、教師のところへ集まってきた。

「お前らは今回の作戦で要となる。春峰のチームは最有力侵攻ラインの西側から、双葉のチームは逆の東側からだ」
「先生、最有力って、どういうことですか?」
「地理条件が一番容易だろうということだ。停滞の中心部に向けて、真っ直ぐに大通りが走っていて、その入り口が東西にある。東側はラルヴァが多いようだが、西側はもう少し簡単に中心部へ進めるはずだ」
「うへ……こっち大変なのか」
「なんだ双葉、お前が弱音を吐いてどうする。戦うのはお前のチームメイトだぞ」
「そ、そうですよね……」
「大丈夫だよトッシー、ボクたちが護ってあげるから!」

 元気良く胸を張った山崎巡理<<やまざきめぐり>>の言葉に、隣に立つ河越明日羽<<かわごえあすは>>も力強く頷く。

「心配するな、敏明クン。今回は心強い味方もたくさんいる」
「そうだよとっしー、私たちがついてるって」
「ぐあ、肩を組むなよ暑い。あとお前はとっしー言うな、高田」
「つれないなぁ」

 高田春亜<<たかだはるあ>>は突き飛ばされつつも、ニヤニヤと笑みを浮かべている。

「あ、アタシの瑞々しい肉体にひょっとして興奮しちゃう」
「……もうちょっと恥じらいとか持つべきだと思うんだが」
「ぐぬぬ……当ててんのよ作戦とは卑怯な……」
「メグ、なぜ自分の胸板を叩いているんだ」
「むきー! 板っていうなー!」
「オホン……言っておくが、お前たちのルートも二番目に楽なルートといえる。他のチームは……囮と言ってもいい。ひょっとすると、マズイこともありうる」
「マズイことって……」
「どれだけ万全の体勢でも、万が一がありうる。いいか、今回の作戦はお前たちに掛かっている。学友を少しでも助けたいと思うなら、可能な限り早く敵ラルヴァを倒せ」
『はい!』

 それから彼らは教師による作戦中の行動の説明を受け、他の生徒たち同様チーム練習へと向かうこととなった。

「……はぁ」

 説明を受けている間、質問も何もせず、一人俯いている生徒が居た。
 春峰央歌だ。

「春峰?」
「……え、あ、なんですか?」
「訓練だ。早く行って来い」

 教師に言われて慌てて振り返ると、すでに移動しているチームメイトたちの背中が見えた。

「……春峰」
「は、はい」
「今回の作戦はお前にかかってる。双葉は……今回は役に立つのかわからん」
「はぁ……」
「いや、あいつ自身が使えない奴だってわけじゃないぞ。あんな……ハーレム野郎ではあるが、それなりに訓練には真面目に取り組んでいるし、山崎と河越の補佐で何匹もラルヴァを倒した実績もある。ハーレム野郎ではあるが」

 再び「はぁ」というファジーな相槌をうちつつ、央歌は思う。羨ましいのかと。

「だが、あいつの能力は確実さに欠ける。敵ラルヴァを倒すための場面で、うっかりおかしな運命を引き当てちまって失敗する可能性もある。だから、お前だけが頼りだ」
「……はい」
「お前は実戦経験が無いから、不安なのもわかるがな。お前のチームは強豪ぞろいだから、落ち着いて臨めば大丈夫だ。ほれ、行って来い」

 央歌は頭を下げ、小走りでチームに合流した。

「す、すいません。お待たせしました」
「大丈夫? 緊張してるのかな?」
「その、だ、大丈夫、です」
「よし、じゃあとりあえず自己紹介からしようか。じゃあ、まずは俺から……」

 チームの中で一番年長である大学生の異能者が、その場を仕切って話を進めていく。
 彼は自分の名前や異能について説明すると、央歌に目を向け、

「次は春峰さん。よろしく」
「へ、は、はい! 春峰央歌です! その……私の異能は、運命を加速する『フェイトブースター』です……あまり、人間には使えない力です」
「使えないって、どうして?」
「その人の、その後に来る出来事を、な、なんでも、無理やり早めてしまうんです」

 チームメイトからあがったもっともな質問に、央歌はなぜかしどろもどろになって答える。

「例えば……転ぶということが決まっていたら、加速した途端、何も無いところでも、転ぶんです。その人がどんな運命かを、事前に知ることは出来ないので、悪いこととか、良いこととか、選んで早めることは、出来ません」
「ふーん、でもそれくらいなら別にいいんじゃない? あっちのハーレム野郎……双葉よりは使えそうだ」

 ハーレムさん人気だな、と妙なところに気を取られつつ、央歌はさらに俯く。

「こ、転ぶときって、なんとなく、つまずいたりとかしやすい場所で、心構えって、出来るでしょ? でも、加速すると、転ぶなんて思ってない、心構えのないところで、いきなり転ぶことになるから」
「つまり、思ってもみなかったことがいきなり起きてビックリするってことか」
「そ、そう、です」
「なるほど、あまり不用意には使わないほうがいいね。みんな、他に質問はあるかい?」

 質問は特にあがらず、すぐに他のチームメイトの自己紹介に移っていった。
 央歌はほっと胸を撫で下ろし、俯きながら彼らの言葉を聞く。

「篠崎七雄だ。俺の異能も、あまり融通の利くものじゃない。『止め難い前進<<ストレイトトラック>>』。俺が真っ直ぐ進み続ける限り、前進を妨げるもの全てを退ける。ただ、絶対に無敵というわけでもないし、止まったり曲がったりした瞬間に効果は完全に無くなる」
「条件が限定されているのか。でも、融通が利かないなんてものじゃないだろう。すごく使える異能のはずさ。特に今回は僕らは直線道路を進むことになるからね」
「まぁ、そうなるが……敵味方の区別は出来ないから、なるべく俺を先頭にしてくれ」
「わかった。一番槍は任せるよ。無茶はしないようにね」

 コクリと頷いた少年の横顔を、央歌は伏しがちな目で見上げた。強い人だな、と思う。

「……?」

 視線を感じたのか、七雄が央歌を見やった。
 正面から見詰め合うことになって央歌はびくりと身体を震わせるが……すぐに、首をかしげる。
 真っ直ぐに見つめ返されるか、それとも見下されるかと思っていたというのに、

(……弱い?)

 七雄の瞳は、何かに怯えるように揺らいでいるように見えた。
 先に目を逸らしたのも、七雄だった。
 違和感。
 たとえ勇敢な人間でも、その目付きまで常に荒ぶっているわけではないだろう。
 だが、今の少年の目はそれとはまったく正反対の感情を浮かべていた。

(私を、怖がって、た?)

 何故という疑問と共に感じたのは、

(私と、同じ?)

 周囲の人間に怯えた目を向ける、奇妙な親近感だった。


to be continued...


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