【Vision of Apocalpse】


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 *できるだけラノにあるバージョンを読んでいただくとうれしいです
 いちおう七夕コンペのエントリー作です


   黙示録 幻覚〈~Vision of Apocalpse~〉


 平均的日本人というのは、年初には初詣へ行き、彼岸と盆には墓参りへ行き(これは最
近減ったが)、その上でバレンタインデーだのクリスマスだのを祝う。
 実にチャンポンというかチャランポランな民族だ。
 そんな「イベント」というのに、俺はこれまで背を向けていた。
 べつに世を拗ねているとか、中二病とか、そういうわけではなかった。ただただ、面倒
だっただけである。
 しかし、今回は違う。俺は短冊に、筆ペンで大きな書体で願いを込めた。
『どうか、異能に目覚めませんように』
 そして笹の枝にくくりつけた。取れないように。


 俺は双葉学園高等部1年B組――そう〈鋼のB組〉の異名で知られるエリートクラスだ
――に通う、無能力者だ。
 うちのクラスはほかよりやや異能力者の割合が高い。加えて強力な能力者も多い。
 ラルヴァを完全支配したり、全力蹴り一発で上級ラルヴァを葬ったり、魂源力(アツィ
ルト)で劣る相手を問答無用で紐縛したり、神さま降ろしたり。ほかの連中も、完全非戦
闘タイプの異能者以外は、たいていが中の下くらいまでのラルヴァにはまったく引けを取
らない。
 そしてなにより、学園最強の異能者集団、醒徒会の書記である加賀杜紫穏。彼女の能力
は増幅であり、自身の戦闘力は決して高くはない。もっとも、醒徒会の中では、というこ
とであって、そのへんの身体強化異能者よりは普通に強い。
 つまるところ、俺はネタ要員にすらなれていない、モブその35くらいだということだ。
実際のところ俺には魂源力もほとんどなく、完全に一般人レベルだそうな。そもそも、俺
は学園のスカウトの目にとまってここにきたわけではなかった。
 高校受験にあたり、俺は七校に願書を出し、試験を受けた。第一志望だった新宿のT高
校は落ちてしまった。公立校で合格点に達していたのは、双葉学園高等部だけだった。と
はいえ、ここも「一般普通」の偏差値は六〇台中盤で、俺としてはかなり背伸びをしてい
たのだ。
 親としては、全寮制で手間がかからない上、場合によっては授業料が減免されることも
あるという、ここの学園の制度は魅力的だったのだろう。
 胡散臭さを少しは気にしろといってやりたかったが、第一志望に落ち、双葉学園高等部
よりはワンランク下だったはずの近所の都立をもなぜか落としていた俺に選択の余地はな
かった。俺が出て行くことが決まり、領地の拡充を確信した妹の顔はなかなか憎らしかっ
た。そんなに俺は邪魔だったか?
 まあ、実際にきてみて、ここの学園がいかに「一般」とも「普通」ともかけ離れている
のかは思い知ったわけだが。


 俺の切なる願いは「〈異能者〉にならないこと」だ。
 前世紀末、世界は大異変に襲われ、それにともなうかのようにラルヴァが現れるように
なった。ラルヴァは、正確には太古から細々と存在していたらしいが、いずれにしても本
来の自然物ではない。ゆがんだ存在だ。そして、人間の中には、いままでは数百万、数千
万人にひとりであっただろう特異な能力の持ち主が、数万人にひとりほどの高確率で現れ
るようになってきた。
 このふたつを結びつけずに考えろというのは無理だろう。未知のエネルギー放射に満ち
ていた宙域を、地球が通り抜けてしまったのだ、とでも想像したくなってくる。地球は太
陽の周りを回っているだけではない。太陽系は銀河系の淵縁を回っており、銀河系が宇宙
のどこを基準に回っているのかはわかっていない。変な力場に突っ込んでしまう可能性と
いうのは、ありえないことではないのだろう。
 まあ、俺の、妄想じみた「〈異能〉=〈ラルヴァ〉同根説」とその原因への考察などど
うでもいい。問題なのは、〈異能〉は本人の意思はおかまいなしに発現するということだ。
 アニメやマンガの主人公のようにカッコいい能力とは限らない。自分や他人の命を勝手
に削る異能だって存在する。いや、悲劇的な能力であればまだドラマになれるが、「右手
に乗せた胡麻が何粒かを本能的に察知する異能」なんて、使い道がなさすぎる。胡麻の代
わりに米粒を乗せてみると役に立たなくなるのだからどうしようもない。しかし異能とい
うのは、端的にいえばそういうものなのだ。
「きみの願い、非常に興味深いね」
 いきなり、背後から声をかけられた。
 現在位置は、学園都市内で最も地価が安い「崩れかけの南地区」に立ち並ぶ、ボロ下宿
街だ。学園の生徒や学生なら多いところだが――なぜかこの通りには、俺と、声をかけて
きた何者かしかいなかった。
 いちおう、人間には見える。
「あんた、読心術が使えるのか?」
「いや。人の心は読みがたい。三大欲求と自己顕示欲――基本的にはこれだけで動いてい
るくせに、実際にはなにをしでかすやらわかったものではないからね」
 その淡々とした口調には似合わず、声の主は俺とそう変わらない年頃の女の子だった。
腰まで伸びた絹のような金髪、ほとんど銀色に見えるグレイの眸。膚は抜けるように白く、
生粋の金髪人種によくある「眉なしお化け」状態になっていなかった。涼しげな目の上に、
くっきりと金色の稜線が見える。なぜ着ているものが浴衣なのだろうか。
 しかし、こいつの、人間全体を他者的に見た物いいはなんだ? まさか――
「ああ、申し遅れた。ぼくのことは〈七つの黄昏―セヴンス・トワイライト―〉とでも呼
んでくれるといい。未見寛太(みけん・かんた)くん」
「七つの黄昏って……七夕?」
「それ、なかなかいいな。タナバタよりは七夕(シチユウ)といってくれるほうが、より
らしく聞こえるか」
 浴衣をまとったへんてこ金髪女は、自ら名乗り、勝手に愛称まで規定した。
 一人称が「ぼく」とか、舐めてんのかこの女。いや、それより俺の名を知っているのは
どういう了見だ。
「ぼくは、異能力を吸い取ることができる。相手の同意があれば、だが。未見くん、きみ
から不要な力を消し去ってあげようか?」
「無能力者を捕まえてなにをいってんだ。俺は魂源力すらロクに持ってない一般人だぞ。
ないものをどうやって渡す?」
 俺がそういってやると、七夕は本当に困ったような顔をして頭をかいた。
「ふうむ、きみはまだ自分の能力がなにか、把握してもいない状態なのか。たしかにそれ
だと吸い取ることもできないな」
「俺に能力があるだって?」
 全く身に覚えのない話に、俺は戸惑った。だいたい、無能力者が異能に覚醒したら、速
攻で調査員が押しかけてこないか?
 七夕は意味ありげに微笑み、口を開く。
「きみの能力はすばらしいものだ。正確を期せば、ぼくに渡してくれればよりすばらしい
世界が実現できる。きみは異能の煩わしさから解放されたい、そうだね?」
 そういいながら、七夕は俺のほうへ近寄ってきた。右手を伸ばし、白魚のような指で、
俺の頬にふれる。
 ついうなずきそうになったが、俺は踏みとどまった。そもそも俺は能力者としての自覚
を持っていない。もしヒーローのような異能が俺の裡《うち》に眠っているのなら、ちょ
っと頑張ってもいい――なんて、優柔不断なことを心のすみで考えたからでもある。
「だから、持っていないものを煩わしく感じるのは無理だって」
「気づいていない振りなのかな? それとも、本当に自覚がないのか。きみは世界を書き
換えることができる、文字どおり。その力をぼくに渡してくれれば、ささやかな対価とし
て、新たな世界では、きみをきみ自身が望む地位に就けてあげよう」
「……その理屈はなにか変じゃないか? 俺にそんな力があるなら、あんたに渡さないで
自分でやるほうがずっといい。俺は無能者だ、放っておいてくれ」
 俺のモットーは、これで「君子危うきに近寄らず」なのだ。懐かしのボロ下宿へ帰るた
め、俺は背を向ける……が。
「待ちたまえ。その力、無駄にするにはあまりに惜しい」
 どうやって回り込んだのか、七夕は目の前にいた。しなやかな両の手のひらで、俺の顔
をやさしく包む。
 はだけた浴衣の裾から伸びた右脚が、俺の両脚の隙間に入り込んでいた。踏み出しかけ
ていた俺の右脚の上に、彼女はほとんど乗っかっている。やわらかな感触……
 ようやく、俺は自分が置かれている状況の異常さに気づいた。これほどのパーフェクト
美少女が、なぜこんなところにいる。そしてなぜ俺が迫られなければならない。こんなこ
とはありえない。
 ――つまり、
「これは、夢だ」


 いつものボロ下宿のせんべい布団の上で、俺は目を醒ました。普段の朝勃ちより息子が
たくましいのは、夢の内容を考えれば無理もない。
 テレビに出ているアイドルがイモムシやブタに見えるほどの美少女がたくさんいるここ
の学園だが、さすがに七夕と並ぶほどの娘は片手で数えられる程度しかいない。
 それにしても、恐ろしいまでに綺麗な娘だったな。
 唐突に、美しい声が俺の耳朶を打った。
「なかなかやるね。力の使い方を少し覚えたのかな? でも、ぼくはまだあきらめないよ、
未見くん。――またいずれ、逢いにくる」
 俺は布団から飛び上がって周囲を見まわした。だが人影はない。島内最安の底辺物件と
はいえ、ここは家賃を取っているのだ。無料のタコ詰め部屋とは違う。誰もいないのは当
然のこと……のはずだ。
 どういうわけなんだ?
 絵馬にもサンタにも願いごとをしてこなかった俺が、七夕の笹に祈りをかけたのがまず
かったのだろうか。
 今日は、七月八日だ――



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