【真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ】


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 カフェテラスのいつもの席で2・3切れのクッキーと摘みながら紅茶を啜り、本来平穏な一時というのが日常なのだろうと時折実感することがある。
私のように体力に自信が無く、紅茶好きな女からすればこの日常が幸せなのかも知れない。
大層なことを申し述べても実際には何も無い事の方が多いのだが、この学園は不意に防空警報みたいなサイレンが鳴り響く事が多くその度に慌ただしく動き出す。
元々、私の居るこの『双葉学園』はかなり特殊で、れっきとした教育機関ではあるものの、最近巷で騒がしい『ラルヴァ』と言う化け物を狩る為の戦闘員育成の場でもある。
何故なら、この学園自体がこの『ラルヴァ』駆除の為に開校されたと言っても過言ではないものなのだから。
とは言っても、誰彼構わずという訳ではなくて『異能力』呼ばれる普通の人間では持ち合わせていない、『肉体強化として発現した超人系』の肉体派能力、『精神具現として発現した超能力系』の精神操作能力、『力を魔力に変化させて魔法を使う魔術師系』の術士能力、『機械で力を制御しながら力を行使する超科学系』のサイバー特化能力の四種類に分類される力を持つ子ども達を日本中から集めて来て教育と同時進行的に戦闘員育成をする訳だ。
サイレンは『ラルヴァ』という名の化け物が跋扈して周囲に実害を与え始めたためにこの学園の何人かを選抜して送り込む為の戦闘員招集であり(ただし元々敵対的で凶悪なのは、有無を言わさず駆除する)、主に中学生と高校生がそれに当たる。
何か他人事みたいだって? そんな事はない。私、星崎真琴(ほしざき まこと)は双葉学園の高校二年C組の17歳、十二分に条件に当てはまる。
だけど私の能力は『精神具現として発現した超能力系』で『テレポーテーション』を使いこなす典型的でオーソドックスな超能力者で近接戦闘や体力勝負が不得手でね。後衛不足や緊急事態を除いて選抜されることは少ない。
強力な前衛が居ないと話にならないからだ。信じられない程に華奢なのよ。

 そもそも、どうしてこんな私がこんな学園にいるのかを説明すると姉が小学校卒業後に『双葉学園』に進学した辺りまでさかのぼる。
姉が中学生になってこの『双葉学園』に入学して親元を離れて少し経った後、夏に父親が少し長い休みを取って観光をかねて姉の所に行く途上に酷い列車事故に巻き込まれ両親が死に、私は瀕死の重傷を負った。
数百人が死ぬ大惨事ではあったものの、何とか生き延びる事は出来たようだ。
ここからは姉から聞いた事だが、姉が異能力者であったのもあって施設から私を観察する者が常に居たのだという。
――で、その『者』が取りあえず私に能力がある事に気づいたものの、双葉学園に遊びに来る我々親子が酷い列車事故に巻き込まれてしまった。
救出された後ある程度の治療を受けた直後、私はこの双葉学園に併設されてある研究施設に担ぎ込まれたと言う。
その時は肉体的な部分が殆ど使い物にならなかったらしいのだが、脳や脊髄は奇跡的に無事で精神的にも安定していたために、私の肉体から遺伝子を取り出し解析しクローンを一ヶ月掛けて作り出し、更に機械的な技術に於いて精神をそのままそのクローンに移し込んだのだ。
流石にそれを聞いたときはぞっとしたが、今こうして生きていると言うことはそう言うことなのだろう。
異能力の研究だけかと思ったが、クローン技術もあの施設では進んでいたとは思わなかった。
その時のことは今でも鮮明に覚えているが、姉は私を見て涙をボロボロと流しながら抱きしめた。
両親が死に、私まで死んだら親類の居ない私たち家族だと姉は天涯孤独になってしまうからだ。
そして気になる事も言い放ち、私の置かれている現実を知ることになる。

「……あはは……弟が『妹』になってしまったね……」

 それを聞いたとき、ハッとなって自分の身体を見回してみた。
当時小学五年の私なので肉体的な違いは殆ど無かったが、妙にすべすべの肌、アニメで聞くような甘ったるい可愛い声、そして股間にあったはずの物がなくなって見慣れないものになっていたことだ。
つまり、クローンと言っても『性別を変えて』作られたクローンなのだ!だから成長すれば胸は大きくなり、じきに子どもすら産めるようになるのだという。なんせ子宮があるのだから。

 つまり……まぁ、小学五年の事故を境に、私は女の子として暮らしているわけだ。だが私は悲観していない。これで良いのだとまで思っている。
と言うのも、私の親は両親とも男ばっかりの男系家族で、女の子を切望していたようだ。
姉は何とか望みが叶ったが、私は男だった。
この為、両親は普段より服装は女寄りの男女共用に使える服を選び、人形・ぬいぐるみばかりを買い与えて来るようになる。
トドメには外出用にとゴシックロリータまで用意されていたくらいだ。
そして何時しか私自身それが普通と思い始めるようになり、性同一傷害を小学五年で認識するようになってしまった。
その事は私を観察していた施設の面々はよく知ることとなり、ならばと考えて女のクローンを作ったのだろう。

 だから、この学校に編入したら住まいは女子寮に組み込まれ『同性になってしまったのならば』と姉が甲斐甲斐しく私を面倒見てくれ、制服は勿論のこと下着やら女物の服やらを用意してくれた。
そして元々性同一性障害を持っていた為にすんなりと女に馴染んだ私は、その時から物事がトントン拍子に上手く行くようになる。
生活していた環境の課程から紅茶が好きだった私は誰にはばかることなく甘い物を食べ、両親が残していったゴシックロリータなどを極々普通に着ることも躊躇わなくなった。そして何より驚異的だったのは自分の異能力の開花と頭の回転の早さだった。
勉強は嫌いだが、何となく理解する能力が上がった錯覚がするほど頭の中に物事が入っていく。
だが一方でひ弱になったなと自覚する程、運動関係がダメになった。
これは男女と言うことではなく、おおよそ二ヶ月は寝ていた事による能力低下に他ならないのだろう。
だから格闘訓練をやっても、せいぜい護身術の型を覚えるだけで精一杯で身体がついて行かない。
私は『ラルヴァ』を『テレポート』でどう立ち回るかを考えるしかなかった訳だ。
だから、私が先頭切って切り込むことはなければ余程のことがなければ選ばれることもない。
私の立ち回りは幾度か襲撃されたこの学園を防衛するときに建物内から支援をするところにある。
その為と言う訳ではないのだが、授業が終わりのんびりする時間が出来ればカフェテラスで紅茶を飲むのが楽しみであり私の過ごしやすい場所なのだ。

「御姉様は頭良いのだから、醒徒会とか委員に入ってみるのも良いのでは?」

なんて言われたこともあるが、水分 理緒や加賀杜 紫穏程の度胸もなければ、藤神門 御鈴並の頭脳もない。ましてや時折見る早瀬 速人のような扱いはまっぴらだ。
だから、私はアフターはこうしている方が居心地がよい。物騒なことも多いがそれが心地よい日常と思えばこの日常は中々素晴らしい……そう思っていた。今のこの時まで。


真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ


「お姉さん、此処良い?」
静かに紅茶を啜っていると、目の前に男子が立って一言こんな事をのたまった。
正直私が座っている席の周囲はガラガラで、明らかに私目的だろう。
時折女子から聞くに、こうやって紅茶を啜っている私を見て声を掛けようか迷っている男子を結構見た、なんて事を聞かされる。
何故? と聞くと『そりゃ、貴女が美人だからよ』なんて返された。
「周りは空いているよ」
「いいや、此処が良いんだ。貴女と話をしてみたいから」
――もうちょっと気味の悪くない言葉のチョイスがあるだろう。
正直そんな事を考えるが、この男子の顔は結構真剣だ。
「じゃあさ、紅茶を奢ってくれるかな?」
「良いよ。運んでくるから、約束は守ってよ」
断る意味合いを込めた要求だったが、この男子はあっさりと飲んだ。
少し拍子抜けしたが、さっとオーダーした所を見ると真面目だったのかも知れない。
「へへっ頼んできたよ。じゃあ今度は君が約束を守る番だね」
彼はオーダーした私の紅茶と自分の炭酸飲料をトレイに乗せて持ってくると、こんな事を言う。
律儀な人だな……そんな事を言わなくても私は約束を守る。女に飢えているのか?
「……じゃあ、ちょっと座ろうか? 間近に立っているのも何かおかしいでしょ」
「そ…そうだね……」
座るように催すと、彼はいそいそと私の対面に座った。座るとはっきりと背の高いことに気がつく。
座高でも私の顔がこの胸元に来るのに加え、服の上からでも分る筋肉の充実さ。考えなくても肉体派能力の人だと一目で分る。
顔は決して『ウホッいい男』なんて言う程ではないが、可もなく不可もなくと言ったところだろうか。
「学校の用事以外で私に声を掛けるのは、ナンパかしら?」
単刀直入にこう言い置いてみると、彼はまるで漫画の如く口にした炭酸を吐こうとするが、私の手前寸手の所で踏みとどまった。
まぁ、こうやって声を掛けるのだから当然の如くナンパだろうよ。
「はははは……手厳しいね。いや、何時もここで見かけるのだけど、声を掛けよう、声を掛けてみようって思っても、何となく緊張しちゃって……美人だし……」
はっきりと照れて緊張しているのが分る。私を美人だと思って緊張?? そんな訳あるか。
ウブにしてはフランクすぎるだろ。単なる珍しい女が好きなのだろうよ。
「ここは学校なんだし、そんなに畏まらなくても良いと思うけどな……そう言えば貴方の名前を聞いていない。なんて言うの?」
「ああ、俺は三浦孝和(みうら たかかず)って言うんだ。17歳の高校二年のB組。あ、貴女は知っている。C組の星崎真琴さんだよね?」
おいおい……同い年じゃないか……で、ちゃっかりとマークしているよ……。
「私の名前は知っていたのね。で、どうして私に声を掛けたのさ? 女なら一杯居るでしょ」
「いやー、お近付きになりたいなと思ってね。カフェテラス通るとよく貴女を見かけるので、話したいなって。クラス違うでしょ? だから余計に接点が無いし」
この男、緊張とか言っておきながら途端に饒舌になったな。姉が言うには、こう言う人間が一番信用できないのだという。
「……楽しそうね」
「そりゃそうさ。勇気を出して声を掛けたのだから」
調子が良い人だな……私、この人生理的にダメだわ……。
「ねぇ、真琴さんって好きな人とか彼氏とか居るの?」
「……何でそんな事を聞くのよ」
馴れ馴れしいなぁ、もう下の名前で呼ぶのかよ。それにしても、行き成りそれを聞くか?
女の身体に馴染んだ後、妙な熱視線を浴びることは結構有る。
決して自慢では無いが、私は上から90・60・88とまずまずのスタイルを幸いにして持っている。
二年になってからはクラスメイトの拍手 敬が明らかに私の胸に視線を落としていた事もあった。私がそれに気がついて彼の顔を見ると、とっさに背けたが。
「いや、居るのかなって思ってさ」
「それを、初めて声を掛けた奴に聞くのかよ……」
いけない、いけない……子どもの頃の癖が出たな。
女の子の様に育てられたものの、それを馬鹿にするのが当然のように居た。
この学園に来てからはそう言うのは居ないが、女になる前は良く殴り合いの喧嘩を起こして教諭や親に怒られたことが多々ある。
「真琴さん……?」
「何でもない。いくら何でも、初めて話しかけるような人に聞くことじゃないでしょ」
少し怪訝の顔をした三浦に、私は嫌味を交えてスルー気味でこう言い置くと彼は意に介さずにこう言い置いた。
「だって、それを知っているのと知らないとでは対応変るじゃない」
馬鹿だ……なんて馬鹿なんだこの男は。
言い方が子どもじみているのもあるが、恋というのは駆け引きだろ。
そんな事を相手に言うのは、麻雀で『お前の待ちは何?』と聞く位に間抜けではないか。
正直、頭痛すら起きてきたな……堪らない。
「……三浦君、女の子に声を掛ける方法を学んだ方が良いわよ……?」
「え……?」
頭で考えている事がポンと、口から駄々漏れた。何かこう、本当に色々な意味で堪らない。
有り得ないだろ……こんなんで恋が成立するなら、ハイティーン向けの少女漫画は存在意義を失うよね……。
「遠回しに興味ないって言ってんだよ……悟れよ……」
「んんん!?」
しまったな、また子どもの頃の癖が出た。
私の口はかなり悪いと自覚している。取り分け子どもの頃は男だったのだから、口が悪いのも無理ないか。
「真琴……さん?」
今度ははっきりと認識したな。
私はネコを被っている訳ではないが、嫌と言うほど女性の立ち振る舞いを学ばされた私は「静かにいること」がごく当たり前だと認識している。
だから、堪らないストレスを受けるとついついと子どもの頃の情景を思い出すのか、口調が荒くなる。姉からも注意はされていたが直らないんだよな。
「真琴さんが姉御キャラだったなんて、好みだ……なんて俺は運が良いんだ」
「……え?」
ダメだ、この男分ってない! 少なくても自分は好みではないって言うことが理解できていない!!
女になって7年位しか経っていないが、これだけははっきりと言える。少なくとも私の好みではない!!
「真琴さん、俺を交際を前提に付き合ってくれない?」
「ひゃっ!?」
三浦はこう一方的且つ馴れ馴れしい言葉と共に、私の右手を両手でホールドしてきた。
私は思わず悲鳴にも似た声を上げ、振りほどこうとした。
だが、コイツ握力が凄すぎる。肉体系の能力は伊達じゃないな、振りほどけない……私の筋力は弱いからな。
「ボディタッチ!? セクハラなんて良い度胸よね?」
「わっわっ……レディにそんな事しませんって!!」
声を張り上げる作戦に切り替えると、三浦は狼狽しながら弁明する。
私の声が大きい所為か、人が集まり始めた。
「御姉様が痴漢に遭ってる!!」
「三浦のドスケベ、星崎さんにまで手を出したのかよ……」
口々に聞こえてくる各々の言葉と、臨戦態勢の構えが見える。
それについて、ますます狼狽して焦る三浦。
「まて、違うんだ! 俺は真面目に話をしたいだけなんだ!!」
「じゃあなんで、手を握って、星崎さんが悲鳴を上げているのよ」
……なるほど。
この三浦は女好きで有名なのね。流石に、これはお仕置き必要かな……。
「三浦君、この学園の生徒と言うことはさ。私も『異能力』を持っていると言うことも、理解しているよね?」
声は小さいが三浦に聞こえるようにはっきりと言い置くと、彼は少しばかり顔を青ざめる。
「ま…真琴さん……?」
「……この学園の生徒なのに、女の尻を追っている場合じゃなくてよ? 私の能力の『一部』を見せてあげるから、感謝しなさいね」
私は精神を集中して脳内で目標を素早く設定すると、掌に力を溜めて解放する。
「『他者転移』……天国を見てこい」
「何……ええ!?」
一言を言い置いて力が発動すると、低音の重苦しい音と共に今までそこに居た三浦の姿が消える。
私の持ち合わしている『テレポーテーション』による『他者転移』、その名の通り自分以外の誰かを転移させる能力だ。
しかもこれは目標が抵抗することが出来ないというおまけ付きである。
だから、力でねじ伏せられそうになっても容易に排除できたりする。目標は人や動物・非生物全てに当てはまる。
「……はあっ……はあっ……ふうぅ……」
大声を出したお陰で少しばかり息が上がるが、まぁこれでいつもの平穏は取り戻したわけだ。格好悪いけど。
「星崎さん大丈夫?息が上がっているよ」
「うん……大丈夫……色々とショックは大きかったけど……」
三浦を排除した後、集まってきた生徒達が私に駆け寄ってくる。
「星崎さん、三浦は気をつけた方が良いよ。アイツは典型的な女好きだから……」
「そうそう、アレのあだ名は『エロガキ』だもんな。女教師からもそう言われてるんだぜ」
「でもみんなは女好きで有名だから相手にしないんだけどね。顔は良いのに」
私は口々に聞こえる三浦の評判を苦笑いしながら雑談を聞く。物珍しい女に形振り構わず声を掛けていたんだな。
「ところで星崎さん、あの三浦を何処に飛ばしたの?」
「ああ、あれはね……」



「……はは……どうも……」
三浦は今、女子更衣室の真ん中にぽつんと立っていた。
私は時間を鑑みて女子更衣室に着替え中の女子が一杯居ることを予想して転移させたのだ。
女好きにとって、天国だろう。
「キャアアアアアァァァァァァァ!!」
「出てけコラァ!!」
丁度、高校一年の女子が使っていた女子更衣室は悲鳴と怒号のるつぼと化していた。
三浦の女好きは同学年だけではない。下級生・上級生にも広く知れ渡っている。
「女好きで有名な三浦さんでしたね二年の……あのですね……死んでください♪」
『対ラルヴァ戦闘の切り札』と呼ばれている姫川 哀は、可愛らしい笑顔と共に手近にある木刀を手に取り、振りかぶる仕草をしながらこう言い放つ。
「……逃げなくては」



――午後5時、図書館。
三浦孝和の一件から興の削がれた私は、気分直しに図書館に行き本を読み漁った。
その間、学園中で三浦は女子達に追っかけ回されていたが気にしない。今日は非常に平和な日だったのだろう。
この学園は『異能力者』ばっかりで半端な能力なら折られ畳まれ心が砕けるだろうが、強靱だったらケロリとしているだろう。
そうなったら少しばかり見直すかも知れないが、まぁボロ雑巾にされて心が砕けている事だろうよ。
騒ぎが無くなった所を見るとそう考えるのは自然かもしれない。
私は読みたい本を読み終わると女子寮に帰る準備をする。『自己転移』すれば一瞬で帰れる。
クラスのみんなからは『チート』呼ばわりされているけどね。

「……へへっ……何とか逃げ切ったっすよ……」

図書館から出ようとすると、足をガクガクさせ3000メートルでも走り終えたような息づかいの三浦が壁に手をついてこちらを見ていた。
様子を見るに打撃のダメージは殆ど無く、走り込みすぎた疲労から足がガクガクになっているだけだった。
学園中に広まっていた騒ぎから鑑みるとこれは驚異的だ。
「はあっ…はあっ…酷いですよ…はあっ…真琴さん……女子更衣室に飛ばすんだもんなぁ……でも、反撃せずに逃げ切ったよ……」
と言うことは何か、足で振り切ったのか……やれやれ……こいつの肉体的な能力は半端ではなかったと言うことだ。
「まったく……女好きじゃなかったら見直していたのにな」
一言言い切る頃、学園内の放送からこんなアナウンスがされた。
《高校二年B組三浦孝和、至急職員室に出頭せよ!! 繰り返す、三浦孝和は至急職員室に出頭せよ!!》
明らかに、先ほどまでの騒ぎでの呼び出しだった。
はじめは私の嫌悪感から女子更衣室に飛ばしたが反撃もせず紳士的に逃げのびたのには驚かされた。
「うへえぇぇ……呼び出しが掛ってしまったか……はあっ…はあっ…畜生……」
グッタリした感じで三浦はとぼとぼと歩き出す。
流石に此処まで事態が大きくなると少しばかり罪悪感を覚えるようになった。
「すみませんね、真琴さん。でもね、俺は純粋に話してみたかったんだよな……」
カフェテラスでの雰囲気とは大違いの様子で私に謝罪する。始めからこの態度で接すれば、多少なりと評価は変ったのだが……。
「……三浦君、後は私に任せて男子寮に帰りなさい。私が『個人的な争いから怒り半分に女子更衣室に飛ばしたからこうなった』と説明すれば済むことだから」
「え……?ええ!?」
「じゃ、男子寮に飛ばすからそのまま自室に帰りな」
三浦を『他者転移』で男子寮に飛ばした後、私は職員室に行き事情を説明すると、一瞬職員達はポカンと呆気にとられたが直ぐに事情を飲み込んで事無きを得た。多分三浦だと、深夜まで説教が及んでいたに違いない。
翌日、三浦の周囲はなんで怒られなかったんだよと言うような話題で持ちきりだった。それは私のフォローがあったからだが、彼は私の名前は一切出さなかった。
私の名前を出せば変な話題が出来上がってしまう為の彼なりの気遣いだったのだろう。
職員達も昨日の話題に触れることなく、いつもの日常の一日が始まろうとしていた。



 放課後。私は飽きることもなくカフェテラスのいつもの席でいつもの紅茶を飲みながら、いつものクッキーを口にしていた。そしてやってくる、トレイに炭酸と紅茶を乗せて運んでくる大男。
「真琴さん、そこ空いているよね?」
何時もの平穏に奇妙な縁が出来た、そんな感じだった。

第二話に続く



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