【改造仁間―カイゾウニンゲン― 第一話】


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改造仁間―カイゾウニンゲン―


『彼の怒りが頂点に達したとき、その力は悪を打ち砕く一筋の赤い流星となるのだ!』

「おーい、来たぞ改造魔ー。
今日は何の用だー?」
「あっ、仁ちゃん!待ってたよー」
 振り返った少女の背後のモニターから爆発音と「総統バンザーイ!」という断末魔の声が響く。
テレビ画面に映っているのは70年代から連綿と続く人気特撮ヒーロー「仮面バイター」だ。

 俺、『木山 仁《きやま じん》』が研究棟の一角にある部屋に顔を出したのは、同級生の『造間 改《つくま あらた》』にケータイで(正確に言うとモバイルやらGPSやら携帯電話やらの機能が盛り込まれた生徒手帳だが)呼び出されたからだ。
この女との出会いは高等部入学式の日のことだ。
 あの日は、めったにないはずの構内への上級ラルヴァ侵入で大混乱だった。
 あちこちで悲鳴やら怒声やらが上がり、火の玉やら閃光やらも飛び交い、さながら戦場のようだった。
 そんな喧騒の中でこの女はおびえる様子もなく周囲の異能者たちに熱い視線を送っていた。
妙なやつだなあと思ったのを鮮明に覚えている。
 そんな風に無防備をさらしていれば当然、戦場からあぶれたラルヴァに狙われるわけで、たまたまそばにいた俺が異能を使って助けた。
助けたといっても最初の攻撃を防いだだけで、撃退したのは他の先輩だったが……。
 とにかく俺が助けたことがきっかけで、この常に白衣を着て背は低いくせに乳だけはやけにでかい女に気に入られてしまったのだ。
この女は特に俺の異能が気に入ったらしく、事あるごとに俺を呼び出しては「異能対応機器の実験」と称してナゾのキカイを装着させては暴走させるという、とてつもなくはた迷惑な行為を繰り返すようになった。
(俺がこの女の名前をもじり『改造魔《かいぞうま》』と呼ぶのは、こういった迷惑行為を皮肉ったものだ)

 普通ならこんなことになればあっさり関わりを断つところだが、俺にはそれが出来ない事情があった。
それもまた入学式での出来事の一つなのだが、簡単に言うとこの女はあの日何を血迷ったのか、いきなり俺の両手をつかむと

「あたしと付き合って!」

 と言い放ったのだ。
 いくらピンチを救われたといっても唐突過ぎるだろ実際。
なんてことは当時の俺の頭には浮かんで来もしなかったというか、青春真っ盛りの男子たる俺が目の前においしそうなおっぱいを差し出されて断ることなどできるはずもなく、

「はい」

 と、あっさり了承してしまったのだ。
もう本当に、あの時の俺の目にはおっぱいしか映っていなかった。
 だっておっぱいだよ?おっぱい。
ああ、おっぱいおっぱい……。

 ということで俺はわけのわからない実験につき合わされながらも、虎視眈々とおっぱいをむしゃぶる機会をうかがっているのだ。
おっぱい万歳。
おっぱいのためならどんな酷い仕打ちにも耐えられる。
「なにボーっとしてるの仁ちゃん?早くはじめようよ!」
 改造魔の声でハッと我に返る俺。
いかん、またおっぱいを凝視して妄想にふけってしまった。
「あ、ああ、悪い。ちょっと実技がきつくて疲れてんだ。
で、今日はどんな実験なんだ?」
 あわてて取り繕いつつ、話を進める。
「今日はねー、実験というか完成したツールのお披露目って感じかなー」
 改造魔は俺のおっぱい目線に気づいた様子もなく答え、いつもの実験室に向かう。
 この女の占有するそこは小ぢんまりとしているが妙にしっかりした造りの実験室だ。
今まで何度もキカイが暴走し爆発しても特に目立った傷も残っていない。
 もしかしたら改造魔の異能、『超科学』の力で作り出した素材でも使っているのかもしれない。
特に興味はないからどうでもいいが。
「はい!服脱いでこれ全部つけて!」
 実験室に入るやいなや、改造魔はそう言うと大量のキカイが詰まったキャスターつきプラケースを俺の足元に押しやり、さらに俺の服を脱がしにかかる。
「あ、やっちょっ、やめ、脱ぐ脱ぐ!自分で脱ぐからパンツを引っ張るな!!ていうかパンツまで脱がなきゃダメなのか!?」
「あ、パンツは脱がなくていいよ」
 俺の言葉にあっさり引き下がる改造魔。
何だよびっくりさせるなよまったく……ちょっとエロい期待しちまったじゃねえかよ。
 俺はそんな感じにブツブツ文句を言いながらも服を脱ぎ、プラケースの中からキカイを拾い出しては身に着けていく。
「……なんで俺どこに着けるかわかるんだ?
 ってこれ今まで実験してさんざん暴走したキカイばっかじゃねえか!!
こんなの全部身に着けたら即、死ぬぞ!!」
「大丈夫だよー。
ちゃんと完成したんだからー!
 今までのは全部で一つにするための前段階だったんだよー。
だからまるっと着ければキレイに動くの!」
 改造魔は俺の文句を受け付ける気は一切ないようだ。
 いつもの事だけどこいつ自分勝手というかはわがままが過ぎる。
わがままなのはおっぱいだけにしろってんだ。
「……この右手のパーツは起動したら魂源力吸出しまくって俺、死にかけたよな?」
「平気へいき!」
「両足のは起動したらジェット噴射みたいに俺の異能噴出して、伸身後方三回宙返りのあと壁にたたきつけられたよな?」
「大丈夫だいじょうぶ!」
 他にも大小さまざまな痛みの記憶を列挙するが、改造魔にはまったく取り付く島もない。
これはもう覚悟を決めて全部身に着けるしかない……。


「おい、全部つけたぞ。
 ……これ全然動けねえんだけど。」
 プラケースに詰め込まれていたキカイを全て身に着けた俺は、さながら肩と首しか動かないおもちゃのロボットのような状態になっていた。
「オッケー!じゃあ早速、起動するよ!」
「待て待て待て!」
 いきなり俺の命を無為に散らそうとする改造魔を何とか押しとどめる。
 当然、改造魔は不満げな表情を浮かべるがそんなこと気にしていられるか。
「もー、なにー?」
「お前ちょっとは俺に心の準備させろよ!
もし暴走したらあの世逝きかもしれんのだぞ!!」
「もー大丈夫だってばー。
 仁ちゃんあたしのつくる物が信じられないの?」
「さっぱり信じられん」
 俺の文句もこいつにはまったく効果がない。
しかし言わずにはいられない。
 大体、今まで一度もまともに動いたことのないキカイしか作れないやつの作ったものほど信じられないものはないだろうに。
「もー、じゃあどうしたら信じてくれるのー?」
 という改造魔の一言で、俺に電流走る……っ!
 これはもしかして千載一遇のチャンスなんじゃないか?
具体的に言うとおっぱいをどうにかしちゃうチャンスなんじゃないか?
 さあ今こそ決戦の時。
俺は覚悟を決めて言葉を搾り出す。
「……乳もませろ」
「へっ!?」
「もし暴走して俺が怪我でもしたら、お前のそのけしからんおっぱいを揉ませろと言っているのだ!!」
 ふははは、言ってやった、言ってやったぞ。
これでどっちに転んでも俺に損はない。
「……」
 あ、やっぱり不味かったかな……あの傍若無人な改造魔が見たこともない顔して黙り込んでる。
めちゃくちゃ困ってるって感じだ。
「あー……ええと」
「……いいよ。」
 俺は気まずくなった空気を何とかすべく、改造魔に声をかけようとしたが、彼女の言葉にさえぎられた。
「へ?」
「それで仁ちゃんが信じてくれるなら……おっぱい揉んでもいいよ」
 ……マジですか?
 これは……やるしかない!
「よっしゃああああああ!!
約束だぞ?絶対だぞ?後でやっぱやめたはなしだぞ?
 よおおし!!何でもやってやるぜ!!
さあ、起動しろおおおおお!!」
「はーい!ポチっとな」
 俺の気合に応え、満面の笑みでベルト部にある起動スイッチを押す改造魔。
今の時点ですでに騙された感じがひしひしとするが、もう脱出は不可能だ。
あとは何とか暴走しないことを神か悪魔にでも祈るしかない。
 と、その時真っ赤な閃光が身に着けた機械全体からあふれ出した。
 ああ……やっぱり俺の人生ここで終わるんだ……やっぱ先にもませろって言うべきだった。
などと考えている俺の予想を裏切り、キカイは暴走することなく稼動し続けていた。
 全身のパーツが少しずつぼやけ、赤い粒子になって両手の甲、両足首、そして胸にある宝石のようなパーツに吸い込まれていく。
 それと同時に全身が激しい脱力感に襲われた。
「あれ?これヤバくね?なんかメチャクチャ魂源力、吸い出されてる感じなんですけど!」
 あわてる俺を、いつの間にか遠く離れて物陰からニコニコと眺める改造魔。
自分だけ安全圏に逃げるとか、他人に命懸けさせておいてそれはないんじゃないの。
「大丈夫だよ!魂源力を極限まで吸収してるだけだから死んだりしないよ!」
「極限までってどのくらいだよ!?」
「えーと、今の仁ちゃんの魂源力総量の95%くらいかな?
 大丈夫!多分、死なないから!」
 おいいいいいいいいいいいいいいいい!!多分って言ったか!?今たぶん死なないって言ったのか!?
なんて改造魔の言葉に突っ込む余力も既にない俺。
 ああ、もうだめだ……だんだん気が遠くなる……

――俺の人生はそこで幕を閉じた。木山仁15歳、短すぎる一生であった。――

 気づくと俺の意識は暗闇の中にあった。
「ん……」
 あれ?なんだか頭にやわらかい感触が。
やっぱり俺、死んだのかなあ。
だってこんなに気持ちいい物がこの世にあるなんて考えられないよ。
きっとここは天国なんだ。
 俺はやわらかい感触を確かめようと体をひねり、自分の頭のそばに手を伸ばす。
するとすぐに手がふんわりとした物をつかむ。
「やん」
 ん?なに今の声。
 俺は確認のために手がつかんでいるものを二度三度と揉んでみる。
やわらかいのに張りがあって、すばらしい感触だ。
 例えるならばつきたての餅というか、大きなマシュマロというか……。
「やっ、もぉ仁ちゃん……そんなに揉んじゃダメぇ……」
 え?なんですって?もみもみ。
ちょっとまって、もしかしてこれって……もみもみ。
「もうっ!!」
 ゴンッという音とともに頭に受けた衝撃で俺は我に返る。
 見上げた先には顔を真っ赤にして頬を膨らませた改造魔の顔があった。
明らかに怒っている。
もみもみ。
 そしてこの手が揉んでいるのは間違いなくおっぱい。
「仁ちゃんが倒れちゃったからせっかく抱っこしてあげてたのに……。
 そんなに激しくするなんて……!」
「え、あ、ごめ、そのなんというかですね、もう死んだと思っててですね。
 正直すでに天国だとばかり……」
 目に涙を浮かべて怒りに震えながらにらみつける改造魔に、しどろもどろになりながら弁解する俺。
もみも……もうもんでないですハイ。
「もう……やさしくしてくれないと嫌いになっちゃうよ?」
「はい……すみません」
 胸に抱きかかえられた状態で泣き顔の女の子にそんなこといわれたら謝るしかない。
 俺の謝罪を聞き入れたのか改造魔はニッコリと微笑むと
「じゃあ……続き、しよっか?」
 と切り出した。
「え?続き?」
 続きってまさか……いよいよアレですか。恋人同士がいたすアレですか。
男女がいたすドッキング的なアレですか。

「もちろんツールの稼動試験の続きだよー!」

ですよねーーーーーーーーーーーーーー。


 再び俺は実験場の中央に陣取っていた。
 さっき気を失う前に見た「全身のパーツが少しずつぼやけ、赤い粒子になって両手の甲、両足首、胸にある宝石のようなパーツに吸い込まれていく」という情景は幻ではなかったらしく、現在は宝石のようなパーツのみが体の表面にくっついてる状態だった。
なんだかキレイに体と一体化していて、何とか爪を立ててはがそうとしてみたがまったく取れそうにない。
というかそもそも爪が入るような隙間はない。
「なあ、これ全然取れねえんだけど、どうやったら外れるんだ?」
「うん?ああ、『ガナル・コア』ね。
取れないよ?」
 何言ってるの?とでも言いたげな顔で、改造魔は俺の問いかけに答える。
……とれない?
「え、ちょっ、取れないってどういうことだよ?
 キカイが体にくっついてるとか改造人間みたいじゃねえか!」
「そうだよ?
 だってこのツールは仁ちゃんを改造人間にするツールだもん」
 またしても何当たり前のこと言ってるの?と言わんばかりの顔でさらりと言ってのける改造魔。
 ちょっとまて。
「なん……だと?改造人間にするツール……?」
 ダメだ、もうわけわからん。
「そうだよー。
仁ちゃんの『カーネリアンを肉体上に発生させる』異能を増幅、コントロールして変身出来るようにするのがこのツールの肝だよ」
 俺の異能はパワーストーンの一種である『カーネリアン』という鉱石を自身の任意の場所に発生させるというものだ。
これを上手くコントロールすれば確かに全身をモース硬度7に迫る高硬度鉱石で覆うことも可能だ、が
「いやいやいや、そんな無茶な使い方したらあっという間に魂源力尽きるから」
 改造魔の無茶な説明に速やかに突っ込む俺。
 中等部から慣れ親しんだ自分の異能だ。
当然、その長所も短所も俺にはわかっているし、なにをすればどの程度の魂源力が消費されるかも大体、把握している。
 だから改造魔の言うことはとても現実的だとは思えなかった。
「その辺は事前に魂源力をチャージしておくことで解決してるんだよー。
 それにこのツールの魂源力制御能力は並みの異能者とは比べものにならないくらい繊細なコントロールが可能だから、極めて少ないロスで最適な状態を瞬時に構成、維持することが出来るんだよ!」
 なんだその厨性能。
「……まあ出来るかどうかは試してみればわかるとして……変身してなんかメリットはあるのか?」
「もちろんだよー!
 まずはパワーストーンの肉体活性効果で身体能力がなんと1.2倍に!」
「微妙な増幅率だな……」
「び、微妙じゃないよ!走り幅跳び5mが6mになるんだよ!」
「微妙だろ……ていうかそれ異能じゃないのか?」
「異能じゃないよー。あくまでカーネリアンの持つ効能だよー!」
 改造魔とのやり取りで、なんとも微妙な効果な上に異能でもなんでもないとはまた変身する意味がわからないと改めて思う俺。
こいつもしかして単に俺を改造したかっただけなんじゃないか……?
 そんなことを考えていた俺の顔にはありありと彼女に対する不信感がにじみ出ていたのだろう。
そんな俺の顔を見て、改造魔があわてて補足を加える。
「も、もちろんそれだけじゃないよ!
変身した後は色んな必殺技や格闘武器が使えるようになるんだよー!
 と、とにかくまずは変身してみてよ!」
「……わかったよ。
 で、どうやって変身するんだ?なんかポーズでもとるのか?」
「EXACTLY(その通りでございます)!」
 俺の冗談に、我が意を得たりと言わんばかりにどこかで見たような肯定の仕方をする改造魔。
 ていうかマジで変身ポーズかよ。
「それで……?
どういう手順なんだ」
「まずは両手を腰溜めに構えてー」
 ふむ
「胸の前で両腕をクロス!」
 ふむふむ
「腕を交差させたまま手首を返しつつ前に突き出す!」
 ふーむ
「そして叫べ!『ガナル・チェンジ!!』」
 ああ、やっぱり発声もあるのね。
「ガナル・チェンジ!」
 ていうか、ガナルってなんだ。
「てのひらを開きつつ、両腕を胸元に引き戻してから斜め下に向けて開く!」
 はいはい。
 と、それで変身ポーズがで完了したのか『ガナル・コア』から真っ赤な光があふれる。
 最初にパーツをつけて起動した時と同じ状態のようだ。
 ……ってちょっとまて。
また魂源力吸われるんじゃないだろうな。
いくらなんでも今そんな事されたら確実に死ぬぞ。
「あ、大丈夫っぽい?」
 一瞬、心の準備をしかけた俺だったが、今回は特に脱力感もない。
どうやら死ななくてよさそうだ。
 とか言ってる間にも変身プロセスは進んでいた。
『ガナル・コア』から発せられた光は俺を中心にドーム状に広がり、つむじ風のようにくるくると回転する。
 やがて赤い光は俺の体を薄く覆う様に集束していき、プロテクターを形成していく。
 ふと右てのひらを見るとレンズのようなものが現れていた。
左手を確認するとやはり同じものがある。
 よく見るとそのパーツは肘やかかとにも発生している。
武器か何かか?
 そんな事を考えていると赤かった光は真っ白に変色し、一層まぶしく輝いた。
 閃光に目を焼かれ、俺は思わず目を閉じる。
 そして実験室内を静寂が包む。
「成功だー!」
 という嬌声が上がり、俺の胸に何かがぶつかってきた。
驚いて目を開けると目の前に改造魔の顔がある。
 そして俺の全身は真っ赤な鎧にすっかり覆われていた。
「やったよ仁ちゃん!変身ヒーロー『ガナリオン』の誕生だよー!」
「ガナリオン?」
「そうだよー!カーネリアンだとパンチが弱いから、ちょっともじって『ガナリオン』にしたんだよー!
 やっぱりヒーローの名前には濁点がなきゃ!」
 俺に抱きついたまま一気にまくし立てる改造魔。
うれしくて仕方ないのか小刻みに飛び跳ねまくっている。
 当然おっぱいが押し付けられて気持ちいい……。
と思いきやまったく感触がない。
 ああ、プロテクターに覆われてれば感触なんかあるわけないよね。
 まあでもおっぱいが変形しまくるのは見れるからよしとするか。
 あ、いかん。
マイサンが暴れ始めた。
 っていててて、やばいこれやばい。
プロテクターに押さえつけられてるから巨大化できない。
とにかく気をそらさねば。
「へ、変身はできたみてーだけど、さっき言ってた技とか武器とかはどうやって使うんだ?」
 前かがみになりつつ改造魔を引き剥がし、話をふる俺。
「あ、そうだね。じゃあまずは『ガナル・クロー』から説明するねー」
 改造魔の口からは、いかにも近接格闘武器と言った感じの名前が飛び出した。
「右腕を曲げて拳が左肩の前に来るように構えてー。
左手は腰溜めにー」
 ふむ。
「そして『ガナル・クロー』と叫ぶのだ!」
 はい。
「ガナル・クロー!」
 俺の声に反応して右拳から赤く透き通った爪が3本、シャキンといういかにもそれらしい音を立てて飛び出す。
 クローといっても10cmほどで、引っかいたりするのには向いてなさそうだ。
 パンチするときの補助武装と言ったところか。
普段、異能を使うときに攻撃力を高めるためによくやる、拳をカーネリアンでコーティングするのと似た様なものだな。
「左右反対にやれば左手にも出せるし、両腕を交差させてやれば一度に両手に出すことも出来るよー」
 なるほど、わかりやすい。
「他は?」
「じゃあ次は『ガナル・パンチ』ね」
 これまたわかりやすい技名だね、改造魔。
「まずは腰を落として半身に構えてー」
 うい。
「右手は拳を握って腰溜めにして、左手は右拳の前にかざしてー」
 うす。
「『ガナル・パンチ』と叫んで拳を繰り出すのだ!
 あ、左手はしっかり腰にひきつけてねー」
 よし。
「ガナル・パンチ!」
 右ストレートを放つと同時に右ひじのレンズのような部分から真っ赤に輝く粒子が噴き出す。
 と同時に俺の右腕がものすごい勢いで押し出され、空気が引き裂かれる「ボッ」という低く短い音が室内に響く。
 その直後、拳の通り道から突風が起こり、床一面にたまった埃を根こそぎ引き飛ばした。
 数秒後、風の残響とともに舞い散る粉塵が収まると、俺は自分が数メートル前進していることに気づく。
 振り返ると足元からさっき立っていた辺りまで、赤いレールが敷かれたような跡が残っていた。
 なにこれ、ちょっと凄すぎない?
「どうー?すごい威力でしょー」
 改造魔がこちらに駆け寄ってきながら大声で言う。
「確かにすごいなコレは……ってなんだ?
 なんかプロテクターがぼやけて……」
 これって起動したときと同じ状態?
 そう思うが早いか、真紅の鎧は赤い光の粒になって『ガナル・コア』に吸い込まれ、俺は変身する前のボクサーブリーフ一丁の姿に戻っていた。
「え?……どういうこと?
 変身して一つ武器出して一回技出したら変身が解けたってことは……。
 もしかしてもうガス欠!?
 俺の魂源力丸々使って!?」
 うろたえる俺に向かって、改造魔は事もなげに
「あー、やっぱり一日分程度の魂源力じゃ足りないかー。
 大丈夫!二・三日チャージしておけば3回くらいは技出せるようになるよー」
 と、そう言い放つ。
 二・三日チャージして一回変身+技3回……だと?
「いくらなんでも燃費悪すぎるだろう……
 やっぱ完全に趣味の世界だな」
 これにはさすがの俺もあきれ果てた。
 確かに技の威力は、俺程度の異能者には普通じゃ出せないほど強力なものだが、それを加味しても自由に異能が使えないのはマイナスが大きすぎるだろ実際。
「……まあいいや。
 普段は別に変身とかせずに自前の異能使ってりゃ問題ないだろう。
……あれ?」
 妙だ。いつも通り異能を使おうと右手に意識を集中させているのに、まったく魂源力が高まる感じがない。
 もう一度右手に力を込める。
が、さっぱり異能が発現しない。
 もう一度。
だめ。
 もう一度。
あっれええええええええ?
 ちょっとどういうこと?
何で異能使えないの?
「おい、改造魔!!なんか異能使えねえんだけど!?」
 あわてて改造魔に問いただす。
「うん?使えないよー?
 だって変身解除中は強制的に『ガナル・コア』チャージしてるから異能使えるほど魂源力たまらないもん」
 またしてもとんでもないことをサラリと言ってのける改造魔。
 ちょっとまって。
それって変身しなきゃ異能使えないってことだよね?
 ってことは変身してないとき俺は無能力者って事?
 ってことは異能使うカリキュラムとか三日に一回とかしか受けれないって事じゃん?
 ってことはラルヴァ倒して日銭を稼いでる(この学園にはラルヴァを倒すと退魔ポイントがたまり、それを様々な特典と引き換えられると言うシステムがある)俺は生活が苦しくなるって事だよね?
「大丈夫!変身すれば異能使えるんだから!問題ないよー!」
 呆然と思考のループに陥っている俺に、改造魔は気楽にそう言う。

「…………問題ないわけ……」

「あるかぁああああああああああああああああい!!」

 実験室中に『ガナル・パンチ』以上の衝撃をともなった俺の絶叫が響き渡った。


つづく?






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