【早瀬速人の虚しい一日】


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【早瀬速人の虚しい一日】

「な、何だってぇ!」
 パソコンに表示されたその一文を見て、少年は夜の街へと飛び出した。
 赤いマフラーを風になびかせ、少年は駆ける。

 その日早瀬速人は、暇を持て余していた。
 学校や醒徒会の仕事がある訳でもなく、ラルヴァ対策の待機シフトにも入っていない完全なオフ。
 何もやることが無く、ゴロゴロしていた彼は部屋の隅に置かれたパソコンに目を止めた。
 普段彼は仕事以外であまりパソコンを弄らないが、このときはネットサーフィンは暇つぶしにもってこいな気がした。
 思い立ったら即行動な彼らしく、早速ネットに繋げる。
 とりあえず学園都市限定の大規模イントラネット掲示板、双葉チャンネルにやってきた。下らない雑談から特定ジャンルの専門てきな話まで、豊富な話題があるという総合掲示板である。
 やってきたのは初めてで、初めはどうしていいのかわからなかったが、だんだんとルールを理解すると楽しみ方もわかってきた。
 スレッドと呼ばれるトピックがあり、気に入った話題のスレッドがあればそれを開いて話に参加すれば良いのだ。
 そうしていくつかのスレッドの覗いていると、彼はある一文を見つけた。

”時速八十キロの車から手を出すとおっぱいの感触になる”

 そうして彼は駆け出したのだった。
 交通量の少ない道を、時速八〇キロで。
(これが、この感触こそが、俺が求めた理想郷《エル・ドラド》)
 手を出すなんてものじゃない。
 今、彼は全身を時速八〇キロの世界に晒しているのだ。
 つまりそれは、全身でおっぱいの海を泳いでいると言っても過言ではない。
 夜景を流していく彼は全能感に絶頂にいた。

 しかし、それも長くは続かなかった。
 彼は見てしまったのだ。
 車の後部座席でいちゃつくカップルを。
 理想郷《エル・ドラド》?
 おっぱいの海?
 自分は何を言っていたんだろう、そんなもの所詮は幻じゃないか。
 どんな空想も一つの真実の前には敵わない。
 すなわちそれは、彼が本物のおっぱいに触ったことが無いという事だ。
 自分の行為が急に虚しく感じる。
「何やってんだ……俺」
 彼は足を止め、カップルが乗った車をテールランプが見えなくなるまで、ただぼんやりと眺めていた。
 そして最早走る気力も無くなり、トボトボと歩いて家路に着くのだった。



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