【森には魔物が棲んでいる】


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「知ってるかい? 森には魔物が棲んでいる、って」



『森には魔物が棲んでいる』

「フンフンフーン♪」
「キュルキュルキュー♪」
 双葉地区森林部。河川が流れるこの場所にどこか外れた音で鼻歌を奏でる長身の少女と……手足の生えた白い饅頭?がそこに居た。
 手を血塗れにした少女がせっせと魚の腸を抜き、白い饅頭が枯れ木を集めて火を起こす。
 端から見ると実にシュールな光景と取れたが一人と一匹の動きは長年連れ添った夫婦のようにも見えた。
「きょーうーのーごっはんはー♪」
「キュッキュッキュー♪」
「おっいしいっ♪ おっいしいっ♪ おさかーなさーん♪」
「キュルキュッキュー♪」
 だが楽しげに調理をする二人を見る影が九つ。品定めするように、撫で回すように二人を見る。しかし二人はその視線には気付かない。
『ケヒッ』
 その中のリーダーと思しき影が指示を出し、二匹がそれに従う。鳴き声と共に飛び出し、少女が運んでいた魚を取りあげる。
「きゃっ!?」
「キュッ!?」
『ケヒッケヒッ』
 そして少女たちを取り囲むように姿を現す。
 そこに在るは九匹の獣とも猿とも言い難い異形のラルヴァ。奪った魚を手に二人に対し挑発を繰り返す様は下等なりに知性のある生物ともとれた。尤も品性のかけらは露としてみることは出来なったのだが。
 挑発行為それ自体について少女たちは特に思うところはなかった。だが、リーダーと思しきラルヴァが奪った魚を食べた時点で少女たちは一線を軽々と踏み越えてラルヴァたちの前に立ちふさがった。そして――。
「私の……」
「キュキュキュー……」
「ごはぁぁぁん!!」
「キュー!!!!」
 二人の怒声が森に木霊した。
「……行くよ」
「……キュ」
 声が響き終わった静寂のあと、死刑宣告はなされた。
「『我、命ず』」
「キュオ……」
「『 殲 滅 せ よ 』」
「グオオオオォォォォォオオ!!!!!!」
 最初に、魚を取り上げたラルヴァが四散した。
『……ケヒ?』
 何が起きたか理解出来ず、その場に居た全てのラルヴァが顔を見合わせる。
 次に囃し立てたラルヴァが肉塊へと変じた。血みどろの肉団子になった仲間を見て初めて自分たちがどうなっているのか、自分たちが何に手を出したかを理解した。
 先ほどまで居た饅頭は巨大な獣となっていた。強固な肉体と四肢。鋭利な爪と牙。そして尾先まで流れるような白い体毛。本能で理解できる「手を出してはいけない存在」。
 だがそれでもラルヴァは本能で活路見出した。獣に命令を繰り出した少女さえ仕留めればこの白い獣も元に戻るはずであると。
『ケヒッケヒッ』
 どこか下卑た笑みを浮かべながら四方から少女を襲う。内二匹は白い獣に一瞬にしてボロ雑巾のように千切られ宙を舞う。そして残った二匹が少女に爪を掛けた瞬間――ラルヴァの肉体が四散した。
 完全に思考を止められ、やっとのことで理解する。少女の出した命令と、この白い饅頭の変化は関係がないものであると。

 ――少女の能力は人間の持つ本来の力を引きずり出す力。それは最大値ではなく限界値を引き出す異能。ラルヴァは少女を侮っていた。だがそれ以上に、少女は化け物であったのだ。徒党を組んで始めて人を襲える自分たちなどなど足元に及ばないほどの。

 終に恐怖がラルヴァたちを支配する。
 しかし逃げようと体勢を取った時点で少女が一匹。背中を向けた時点で白い獣が更に一匹を仕留める。これにより九匹居たラルヴァは一分と経たぬ内に最後の一匹に減っていた。そして残ったのは魚を食べたラルヴァ。
『ケヒッケヒッケヒッ!!!』
 地面に頭を擦り付け命乞いを繰り返す。人に解せぬ言葉で何度となく繰り返す。
 ――だが、眼前に立つものの目に慈悲の色は浮かんでいなかった。


「うぅ……痛い……」
「キュ?」
「ちょっと飛ばしすぎちゃったかなー」
「キュキュ」
 白い饅頭が労わる様に少女の腰をさする。
「ところで」
「キュ?」
「コレって食べれるのかな?」
 ジュルリと涎を垂らしながらさっきほどまで相対していた物体を見つめる。
「キュー……ッ! キュ!キュ!!」
「だよね! うっへっへ……やー今日はお魚だけじゃなくて……えっと、なんだろこれ……そう、お肉! 多分お肉に入るんだよね! ごちそうだよね!」
「キュ!」
 異能研の人間が居たのなら恐らくこう言っただろう。「どっちでもいいから脳みそ見せろ」と。
「よし、じゃあ火をおこし直そっか」
「キュキュッ!」
 血の海の中で少女と白い饅頭は楽しげに微笑みあった。


「おっはよぅ!」
 少女は元気よく教室の扉を開ける。
「おはよ」(ああ、相変わらずすげぇおっぱいだ……)
「おはようございます」(なんであんなに胸が……)
「おっぱい!」(おはよう、良い朝ですね)
 教室の九割の人間が少女の胸を見ながら挨拶を返す。これはもういつものことであり、女生徒の大半もそうであるため、最早、男子生徒に軽蔑の眼差しを送ることはなかった。
「おはようございますアクリスさん。またぎりぎりじゃないですか。もっと早く起きれないのですか?」(畜生、この乳魔人が……)
 怨嗟の言葉を隠して委員長がアクリスに詰め寄る。いかんともし難い身長差と女性としての決定的な戦力差があるがそれでも彼女は一歩も怯まない。
「やー昨日は運動しすぎでご飯がおいしかったよー。それにシロも満足しててねー」
 少女――アクリスは妙な日本語で、コミュニケーションの大部分を無視した言葉で返す。
「……宿題はしてきたんですか?」
 先の質問を諦めてまた別の質問をする。
「およ、見せてくれるのかい?」
 だが、アクリスは目を輝かせながら委員長を見る。
「誰も見せるだなんて言ってません! 本当にやってこなかったんですか!?」
「ありがとう委員長ちゃん!」
「だから人の話を! それにちゃん付け呼ばないでください!」
「それじゃノート借りるね」
「あ、ちょっと……はぁ……」
 呆れ返る委員長を余所にアクリスは鼻歌まじりにせっせとノートを写していた。尤も、数学の宿題なのに英語のノートを見ながら、古文のノートに写して、であったのだが。
 何はともあれ今日も平和に音の外れた鼻歌が鳴り響くのであった。



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