【異能力研究室4】


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異能力研究室4


 講師が引き戸を開けて教室に入ると同時に始業のチャイムがなる。
『異能力研究室』の開講だ。

 いつもはほぼ手ぶらな講師だが、今日はなにやら色々と荷物を持ってきたようだ。

「えー今日は先週やる予定だった『魔術系』異能の説明をしよう。
 みんな『魔術系について』のページを開いてくれ」

 講師の指示で生徒たちはPCを操作し、『魔術系について』と銘打たれた項目を表示する。

「えー、この『魔術系』は基本的には他の3系統の応用と言う側面が大きい。
 それもいくつかのパターンに分かれるので、そこから説明していこう。
 ひとつは他の3系統の異能を発現している者が、その能力をうまく扱えない場合になんらかの儀式や呪文《コマンド・ワード》によって異能を安定させることを目的に『魔術』を習得する場合」

 「先生、それは異能が他の系統に変わると言うことですか?」

 講師の説明をさえぎって一人の生徒が手を上げ質問を発する。
彼の質問はもっともだ。
 なぜなら異能は基本的に発現した後に系統や特性が変わったりはしないはずだからだ。

 「うん、そう思うのも間違いではない。
 でも少し違うんだ。
 『魔術系』というのは厳密には異能の分類わけとは異なっていて、他の3系統をサポートするための技術であると言える。
 つまり『魔術系』というのは全ての系統を含んでいるわけで、異能そのものの系統が変わるわけではない。
 儀式や呪文、道具などとともに異能を行使するという形態そのものを『魔術系』と呼んでいるんだな」

 講師の説明に納得した生徒は頷くと手を下ろす。

「説明に戻ろう。
 えー、儀式や呪文《コマンド・ワード》によって異能を安定させることを目的に『魔術』を習得する場合まで話したか。
 次は儀式によって異能を強化する場合。
 最後は呪文や道具によって異能の発動状態を一定にコントロール、簡略化する場合。
 この3パターンだ。
 ここまでは大丈夫かな?」

 講師はそこまで説明し終えると教室を見回し、疑問のある生徒はいないか確認する。

「大丈夫そうだね。
 ではそれぞれの細かい部分を解説しよう。
 まずは『儀式や呪文《コマンド・ワード》によって異能を安定させることを目的に『魔術』を習得する場合』から。
 これはそのまま『魔術』を異能の補助にするものだが、主に異能の強弱や効果範囲をコントロールできない者がそれを解消するために用いたり、常時発動してしまう異能を発現してしまった者が、魂源力を際限なく浪費してしまうのを抑えたりするのが目的になっている。
 大体において特定の道具や呪文を用いるが、これには特に決まりはなく個人の好みや性格で決めてしまってかまわないようだ。
 うまく魂源力を集中させられない者が樫の杖などを持って、それを中心に魂源力を高めるというのがその典型と言える。」

「好みで決めてOKってホントに何でもいいんですか?
 魔法使いと言えば魔法の杖とか箒ってイメージですけど」

 と、一人の生徒が質問する。

「確かに魔法使いといえばそんなイメージだね。
 ただ『魔術』とは言ってもその中には陰陽道や神道、仏教などの様々な流派とでもいうべきものも内包されている。
 そういった流派はそれぞれになじみの深い道具を用いることになる場合が多いようだ。
 もちろん何の流派にも属さない者が『魔術』を用いることもあるし、その場合はやはり自分になじむ物を選ぶようだね。」

 講師の説明に「わかりました」と答え、生徒は席に着く。

「じゃあ次は『次は儀式によって異能を強化する場合』に入ろう。
 これはいわゆる魔方陣などを用いて、より確実な効果やより大きな威力、より広い効果範囲などを得ることを目的とするものだ。
 よく聞くものでは強力な魔物を召喚したり、呪いの効果を高めたりするというのがあるな。
 召喚だと『強力な魔物を召喚したはいいが強力過ぎて使役できな』いという場合に備えて、あらかじめ複数の異能者を配置して万全を期すことが多い。
 呪いでは自身の異能になんらかの条件付けをして、それを遵守することで効果を高めようとするものがある。
 多数の道具を儀式の手順に織り込むことで段階的に魂源力を込める、というのがその実態だ。
 さて、誰か質問は?」

「はい。
 知り合いの先輩に太極拳の型を使って魂源力を発揮するって人がいるんスけど、これも儀式にあたるんスかね?」

 質問を促した講師に応えて一人の女子生徒がそう発言する。

「それは面白い形態だねえ。
 確かに空手の『息吹』など、武道の『型』には儀式的な一面もあるらしいから、異能と併用することで魔術的な儀式とすることも可能かもしれないな」

「あ、そういえばあの人、異能はないらしいッスよ。
 一般人なのに魂源力使えるっておかしくないッスか?」

「なんだって!?
 ……うーん、それはホントに珍しいタイプだなあ。
 私の知る限りでは異能を発現せず魂源力を操ることができるのは、いわゆる『達人』クラスの武道家くらいなものだ。
 それも魂源力があることを認識、理解した上で、ごく弱い効果を発揮するに留まるという。
 もちろん対人でこれを用いれば、通常の威力を大きく上回る攻撃を繰り出すことが可能なはずだから有用といえば有用だ。
 ただそれでラルヴァを倒せるか?と言われると、これはなかなか難しいといわざるを得ないと思う。
 その彼が実戦レベルで魂源力を使えるのだとしたら、半ば異能に目覚めていながらその特性が定まっていない状態なのかもしれないね」

 講師の説明を受けてさらに発言する女子生徒。
 その内容に驚きながらも講師はしっかりと見解を述べ、納得した彼女は「よくわかったッス」と言うと席に戻った。

「さて、では最後の『呪文や道具によって異能の発動状態を一定にコントロール、簡略化する場合』についてに移ろう。
 単純に言ってしまうと、これはゲームなどで魔法使いが呪文を唱えて魔法を使うのとかなり近い。
 その内容は呪文を用いる場合なら『呪文と異能をワンセットで意識し、明確に発現規模を定める』というものだ。
 ここでの呪文は長々と唱えるタイプではなく、いうなれば『魔法の名前』に当たる。
 皆も知ってるであろう大作RPGを例に挙げると、メラ、メラミ、メラゾーマといった具合だ。
 要するに『この呪文のときはこの威力、効果範囲』と明確に事前に意識付けをしておくことで、とっさの対応をしやすくし、魂源力の消費も一定に抑える事を目的としているわけだ。
 わかりやすいだろう?」

 講師の説明に生徒たちはみなコクコクと頷く。
 その様子に満足げに微笑むと、講師は説明の続きに入った。

「もう一つの道具を用いる場合だが、これは『特定の道具を用いることで必要最低限の効果を発揮し続ける』ものと『あらかじめ充填しておいた魂源力を開放して用いる』ものの二つがある。
 前者で代表的なのは『魔女』と呼ばれる異能者たちの箒だな。
 彼女たちはその異能で空を飛ぶことがその最大のポイントだが、空を飛ぶのはなかなかに難しく、高い魂源操作能力を必要とする。
 そこで魔女たちは、最初に『箒にまたがっている限り一定の力場を発生させ術者を定位置に固定すると同時に高速飛行時に術者を保護する』という儀式と意識付けを併用した一種の安全装置とでも言うべき手順を踏む。
 この第一段階をほぼ無意識でこなせるようになって初めて、自在に空を飛ぶ可能性を手に入れることができるそうだ。
 補足しておくと空を飛ぶために働くのはサイコキネシスで、彼女らは強弱の差はあれ、みな一様にサイコキネシスを操る。
 これはどうも異能が発現する前段階、いうなれば『半覚醒』の状態の者を訓練することで意図的にサイコキネシストとして覚醒させているらしい。
 残念ながらその詳しい方法は門外不出らしく教えてはもらえなかった。
ほんとーに残念だ」

 説明に続けた補足の最後の発言とともに講師はガックリと肩を落としてみせ、生徒たちはその様子に笑い声を吹き出す。

「さて気を取り直して『あらかじめ充填しておいた魂源力を開放して用いる』タイプの説明をしよう。
 これは以前の講義で少し話した、効果付与《エンチャント》と深いかかわりのあるものだ。
 魂源力を込めた道具でよく目にするのは陰陽師の呪符がある。
 効果付与術者《エンチャンター》が事前に様々な効果を呪符に込めておくことで、陰陽師特有の手順でその効果を発現させる、というものだな。
 この手順というのはやはり門外不出で教えてもらえなかったが、基本的に効果付与された道具を用いるには使用者が魂源力を道具に伝播させることが必要になる。
 ライターのガスに火をつけるために石をこすって火花を起こすのと似ているね。
 このことがいわゆるマジックアイテムがほぼ異能者にしか使えない原因になっている」

 そこまで言い終わると講師は一旦言葉を切り、持ってきた荷物を教壇に広げていく。

「ではここで『魔術』の代表的な儀式道具を紹介しよう。
 直接、戦闘で用いるものとしてはこの『呪符』、武器としてはこの『独鈷《とっこ》』、結界などの基点とするのが『宝石類』『白木』など。
魔方陣を描くために用いるの『聖水』とこんなところだな。
 もちろんそれぞれの流派や個人個人で種々様々だから、思いもかけないような儀式道具があるだろう。
 さて、道具に関して何か質問のある者は?」

「結界に用いる『宝石類』って特に異能に関わりがなさそうですけど、何か使う理由があるんですか?」

 講師の言葉に一人の生徒が手を上げ質問を述べる。
その質問に講師は軽く頷くと説明を始めた。

「確かに『宝石類』は一見ただの鉱石だけど、実は自然界にある『魂源力を宿す物質』の一つなんだ。
 それも物によってはかなり多くの魂源力を有している場合もある。
 一般に『パワーストーン』と呼ばれるものが代表的だね。
 だからこそ儀式に使いやすく、術者と相性のいいものならより大きな結果を得られる場合も多いんだ。
 まあ、単価がすごく高いからそうホイホイ使えるようなものではないんだけどね」

 講師が説明の最後に茶化すように一言付け加え、教室は笑い声に包まれる。

「そうそう、結界といえばこの学園も結界で覆われているのはみんな知っているね。
 結界も様々な種類があって、学園を含む人工島は何層もの結界を張っている。
 まず『不可視結界』。
 これは都合の悪いものを外に見せないようにするために、結界を目にした者を軽い催眠状態にするもので、異能者の情報を外に漏らさないようにするのが主な目的だ。
 学園外の地域に異能者を派遣する際に『結界能力者』を随行させるのもこれと同じ理由だな。
 次に『物理結界』。
 これは文字通り物理的な侵入を阻むものだ。
 平時は軽く張ってある程度でほとんど影響はないが、いざとなれば強力な防壁となる。
 もう一つは『電磁場結界』。
 電子機器による諜報活動などを遮断するものだ。
 これも不可視結界と同じで情報漏洩を防止するのに不可欠な結界といえる。
 衛星などで島内を覗き見しようとする国はいくらでもあるからね。
 最後に『魂源力感知結界』。
 これはレーダーのように広範囲の魂源力を感知するために張られている。
 ラルヴァの発生や侵入に対処しやすくなるわけだ。
 とまあ、公表されているだけでもこの4種の結界が張られているわけだが、どれも『魔術系』の儀式と『超科学系』の技術を併用する形で実用化されている。
 もっとも特殊なのが『魂源力感知結界』でその核となる異能者は一人の少女だという話だ。
 私も詳しいことはわからないが、なんでもとんでもないレベルの感知能力者らしい。
 一度あって話を聞いてみたいものだ」

 講師が一息に説明し終えると同時に終業を知らせるチャイムが鳴り響く。

 「よし、今日の講義はここまで。
 何か聞いておきたいことがある者はいるかな?」

 講師の言葉に一人の男子生徒が勢いよく手を上げ質問する。

「稲生先生は異能者なんですか?」

「それは秘密だ。
 ではまた来週。」

 異能力研究室の講師、稲生《いのう》賢児《けんじ》はにやりと笑うとすっぱりと答えた。


――ひとまず了――




  • このSSは筆者の勝手な解釈による創作であり、D設定の域を出るものではありません。



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