【剣となれ、盾となれ01】


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

第一話
 双葉学園

 双葉学園への通学路用に舗装された道を、一人の少年が大きなあくびをしながら歩いていた。
 少年の名前は志筑刃助(しづきはすけ)。元々は別の高校に通っていたのだが、とある事情から双葉学園へと転校する事になったのだ。
 その事情とは、刃助が偶然手に入れた異能の力に他ならない。
 双葉学園は表向きには東京湾の埋め立て地である双葉区に設立された小学部から大学部まで存在するマンモス校だが、その実密かに刃助のような異能の力を手にした子供達が為の教育施設という顔を持っている。
「うぅ眠い、少し早く出て来すぎたな」
 異能力者に対する学園の方針もあり、前の学校では決して良い生徒とは言えない刃助ではあるが、幾つかの書類にサインしただけの僅か数日で簡単に転校手続きが済んでしまった。
 双葉学園は優秀な生徒が多いなんて噂も聞いていた刃助は、入学試験の一つでも覚悟していただけにかなり助かったと思っていた。
 そんな学園側の計らいもあるので、遅刻の常習犯でもあった刃助でも流石に転校初日くらいは遅刻するわけにもいかないだろうと、気持ち早めに家を出ていたりするのだ。
 ちなみに刃助の実家は神奈川であり、今借りてるのは学園都市内のアパートを一室借りている。
 それなりに良い物件で高そうではあったがやはりそこは学園都市。ちゃんと学生割引があり転校してくる生徒にも割と優しい値段だった。
 一つ難点を言うとしたら学園までの距離が少し離れている事くらいだろう。
「バスは通ってないし、近い内に自転車でも用意しないとなぁ」
 でなければ刃助の場合この少し長めの通学路を理由に遅刻を繰り返してしまいそうだ。
「まぁ今日はこれだけ早く出たんだ、余裕で間に合うだろう」
 余裕もあるし途中でコンビニで雑誌の立ち読みしていこうかと辺りを見渡す刃助の耳に、突然女の子の叫ぶ声が聞こえてくる。
「今のは……悲鳴か!?」
 悲鳴のした方へと向かい別の通りへ出ると、そこで小熊のような化け物に追われている一人の女の子を見つけた。
「何だあの化け物、あれもラルヴァって奴か」
 刃助にとっては初めて見るタイプのラルヴァだった。
 カテゴリービースト・下級B-3。通称:シドスベア。
 危害を加えなければ人を襲う事は少ない一般的な熊と違い、その身はやや小さめだが人をエサとしか認識していない凶暴な性格のラルヴァだ。
「転校初日、か弱い女の子のピンチ、いいねぇ結構燃えるシチュエーションじゃねぇか」
 などと言いながら刃助は急いで女の子の元へ駆けて行った。

 女の子は必死に逃げていた。
「誰か助けて、お兄ちゃーん!!」
 クラスでちょっとした仕事があるので兄を家に置いて先に出て来たのは間違いだったかもと、ちょっと後悔しながらも女の子は脚を動かす事に集中する。
 だがシドスベアは徐々にその距離を縮めてきていた。
 そんな中、一人の男が女の子とシドスベアの間に割ってはいった。刃助だ。
「オレ様が来たからにはもう安心しな」
 刃助は彼女を安心させるように声を掛けるとシドスベアと向き合う。
「覚悟しやがれ、この熊野郎!!」
 シドスベアを指さしながら叫ぶ刃助だったが、そこでふとした事が頭に過ぎる。
「そう言えば、ここで異能って使っていいのか?」
 双葉学園への転校が決まった時、学園側の人から人前での異能の発動は控えるように言われていた。
 それは異能力者が多く住むというこの双葉区でも控えた方が良いのかと判断に困っていたが、辺りを見渡すと都合良く便利なモノが転がっていた。
「よっしゃ、てめえなんざこいつで十分だ!」
 刃助は落ちていた鉄パイプを拾い上げると、シドスベアに向かって構える。
 シドスベアは素早く前足を交互に伸ばし攻撃を仕掛けてきたが、刃助はそれを上手く鉄パイプで受け流す。そして隙が出来た所で顔面めがけて攻撃する。
 顎を叩き上げ、喉を突き、頭へ打ち下ろす。
 何度目かの攻撃で怒りが頂点に達したのか、シドスベアは両腕を大きく振り上げて一気に振り下ろしてきた。
 だが刃助は冷静に一歩後退して攻撃を交わすと、振り下ろされた腕を踏み台として利用してシドスベアに突撃する。
 シドスベアの眉間へと狙いを定め、勢いがままに鉄パイプを突き刺す。
「ぜいッ!」
 鉄パイプは拉げてしまい完全には刺さりきらなかったが、それでも止めの一撃にはなったようで熊ラルヴァは灰となって散っていった。
「よっしゃ!」
 ガッツポーズをとる刃助だったが、そこへ今度は大熊のようなラルヴァが現れた。
「おいおい、もう一匹いたのかよ」
 カテゴリービースト・中級B-3。通称:ジギガンドベア。
 シドスベアを二回りほど大きくしたようなラルヴァで、攻撃力・耐久力も見た目通りシドスベアをかるく上回る。
「ちょっとでかいな、こいつはさすがに鉄パイプじゃ無理があるぞ」
 拉げた鉄パイプとジギガンドベアを見比べながら刃助は現在の状況を分析する。
 後ろを振り返れば女の子が物陰に隠れてこちらの様子を見守っていた。
「逃げていてくれたらな迷わず使えたんだがな、まぁいいか、こうなったらオレの真の力を見せてやるぜ」
 そう言って刃助は鉄パイプを放り投げ、右手を天へと伸ばす。
「いでよ……」
 刃助の声に連動するかのように、ジギガンドベアの前に魔法陣が形成されていく。
 さらに魔法陣からは黒い巨人まで出現し、ジギガンドベアも予想外の敵に驚き思わず一歩後退する。
 全長三メートルほどで胸にはデミハンターの時計と背から生えた巨大な尻尾が目立つ機械的な巨人だ。
「……て、あっるぇえー?」
 しかしそれは刃助にとって予想外のモノだった。
「何なんだよあのロボットは」
 刃助は何が起こったのが理解出来ずにいたが、視界の中にジギガンドベアの後ろに立つ一人の男子学生を見つける。
 男子学生は別にリモコンを持っていたり腕時計から命令している様子は無かったが、刃助は直感的にこの巨人は彼の異能だと判断した。
「あんな異能もあるのか……て、またあっるぇえー?」
 いつの間にかラルヴァは倒されていて、気が付けば巨人の姿もなくなっている。
「大丈夫だったか一観」
 男子学生も男子学生で知らない内に刃助の後ろに移動してたりもして、襲われていた女の子に話しかけていた。
「うん、そこの人が助けてくれたから」
 一観と呼ばれた少女が刃助を指さしながら言う。
「妹を助けてくれたみたいだな、礼を言うよ。ありがとう」
 男子学生は時坂祥吾と名乗り声を掛けてきたが、刃助の気の所為か妹に近寄せまいと立ち塞がってるようにも思える。
「別に言葉だけの礼なんていらねぇよ。何をやったのか分かんなかったが、いつの間にか美味しい所は全部お前が持って行っちまったみたいだしな」
 そこで刃助はさっき見た事を思い出す。
「そうだよ、最後の何だよあのロボットは? カッコイイな、アレがお前の異能なんだよな」
 全体的にダークな感じがして嫌いじゃないがドリルが足りないだ、胸には虎か獅子か竜が欲しいだの、二号ロボと合体はするのかと、祥吾の言葉を聞かず一方的に話し出した。
「あ、あぁ、正確にはあれはロボットじゃなくて永劫機って言う……」
 少々圧倒されながらも祥吾は答えてみるが、その台詞が途切れる前に刃助は次の質問を投げかける。
「ってかここでは人前でも異能を使って良かったんだな」
 昨日こっちに着いたばかりで知らない事だらけなんだよなぁと、またも祥吾の言葉を無視して話し始めた。
「いや、俺も妹が危ないって思ったら夢中になっちゃって、そんなこと考えずに使ってたよ」
 自分の持つ懐中時計に目をやりながら律儀に答えた祥吾だったが、時計が示す針の位置を見て思わず目の色を変える。
「もうこんな時間!? やばいこのままだとまた遅刻になる」
 戦闘に掛った時間はそれなりにあったようで、遠くでは予鈴のチャイムが鳴り響いていた。
「そうだ今日は日直の仕事があったのに」
 祥吾の後ろでもチャイムの音を聞き驚いて時間を確認した一観が、お兄ちゃん私さきに行くねと言い残し慌てて学園の方へと駆けて行ってしまった。
「遅刻ねぇ、そんなもんの一回や二回別に大したことねぇだろ」
「俺は一回や二回じゃないから今日はこれでも急いで出たはずなのに」
 遅刻の常習犯でもある刃助は軽くそう言ったが、今日も遅刻すると何か罰でも科せられるのだろうか、祥吾はかなり切羽詰まっている様子だ。
「何だお前も遅刻の常習犯か、だったら尚のこと気にすんなよ」
 そう言いながら刃助は祥吾の肩を組むようにして捕まえる。
「そうだ、この辺りにコンビニあるか?」
 少し困惑しながらもあっちにと祥吾が指さして答えたが、それは学園とは逆方向。
「そうかあっちか、じゃあ案内してくれよ」
 祥吾の答えも聞かずに無理矢理コンビニの方へと連れて行く。
「さっき言ってた礼って事で何か飲み物でも奢ってくれよ、鉄パイプなんかで無茶な戦いしたから喉がからっからでさ」
「待ってくれ、俺はー」
 最後まで何か訴えていた祥吾だったが、そのまま刃助に引きずられていくのだった。


 結局二人が学園についたのは二限目が終りを迎えた頃だった。
「こりゃ完全に遅刻だな」
 お礼の品、元気ドリンク(二千三百円)をグイッといきながら刃助が呟く。
 祥吾は口では少し文句を言いつつもちゃんと刃助に奢るあたり、妹を大切に思っていて助けた事は本当に感謝しているのだろう。大切どころか特別な感情を抱いているのかも知れないが……。
 ちなみにその祥吾だが、校門までは刃助と一緒だったが着いて直ぐに走ってどこかへ行ってしまった。
 よほど嫌な罰でもあるのかと予想すると、悪い事をしたかなとも思う刃助だったが、自分もこれから職員室まで行ってお叱りを受けるイベントが待っているのを思い出す。
 下駄箱はどこを使えばいいのか分らなかったので、まず刃助は来賓用の出入り口へと向かったが、
「転校初日から遅刻とは良い度胸してるな」
 刃助の予想通り、そこには鬼が待ちかまえていた。

 鬼のような形相をした男によって職員室へと連行された刃助は、そのままたっぷりと説教を受けていた。
「はは、明日からは気を付けますって」
 あまり反省の色の見えない刃助ではあったが、気が付けば時間は昼近くなっていた事もあってか男は深く溜め息を吐きながらも説教を止める。
「本当に明日からは気を付けろよ。じゃクラスへ行く前に自己紹介をして置くか」
 出席簿と幾つかのプリントを持って男はそこで初めて刃助へ名乗った。
「お前のクラスの担任でもある、大道寺功武(だいどうじいさむ)だ」

 教室へ向かう途中もくどくどと注意をされていたが刃助は適当に聞き流していた。
 今はもう四限目の時間が始まっているが、クラスはちょうど大道寺が担当している教科の授業だったので自習をさせているそうだ。
「ここがお前のクラスだ」
 それだけ言うと大道寺は先にクラスへと入っていく。
「一年……D組か」
 刃助は改めて自分のクラスを扉の上に付けられたプレートを見て確認した。
 ジッと見ていると少し気持ちが沈みそうになったが、顔をはたいて気合いを入れ直す。
 気持ちがスッキリした所で丁度教室内では刃助の呼び出しが掛かる。
「さて、遅くなったが授業を始める前に朝言った転校生を紹介するぞ」
 入れという大道寺の指示の後、刃助は教室に入る。
「本日転校してきた志筑です」
 教室中から注目されながら黒板に名前を書いた後、簡単に自己紹介をした。
 その後に質問を何人かからされたりする中、最後に大道寺が余計な情報まで公開した。
「ちなみに志筑はお前たちより一つ年上だが、みんな仲良くしてあげるように」
 教室内の時が止まったように一瞬だけ静まりかえる。
「ダブり?」
 女子の一人がそんな事を言って首をかしげた。
「ダブりだな」
「ダブりね」
 その問いに答えるように彼女の両隣りが大きく頷きながらそう言う。
 彼女たち以外にも教室のあちこちで似たような台詞が飛び交っている。
「うるせぇな、前の学校で一回留年しただけだ!」
「だからそれをダブりって言うんだろうが」
 つい口答えする刃助だったが、大道寺に出席簿でツッコミを入れられてしまった。

 昼食をクラスメイトに誘われて適当に学食で済ませた刃助は、当たり前のように五限目をサボって学園内を彷徨いていた。
 小学部から大学部まである双葉学園は散歩するに大満足な広さである。
 また施設も豊富で体育館だけに注目しても共有体育館や部活動別体育館と複数存在する程だ。
「で、ここはどの体育館だ」
 適当に昼寝出来そうな場所を探し、体育館裏へとやってきた刃助は思わず呟いた。
 学園内で迷った訳ではないが、流石に前にいた学校との広さの違いから驚きの連続である。
「ここなんか良さそうだな」
 手頃な場所を見つけさっそく昼寝をしようとしたその時、どこからか女の子の叫ぶ声を耳にした。
「また悲鳴か!?」
 双葉区って所は忙しい場所だなと思いつつも刃助は急いで悲鳴のあった方へと向かう。
「ラルヴァでも現れたか!」
 勢い良く角を曲がると、そこには大きな猫がいた。
 虎やライオンと言ったネコ科の大型種ではなく、まさに巨大な猫だ。
 だが猫の持つ愛らしさは微塵も感じさせず、化け猫とも言うべきか禍々しいオーラに溢れている。
「朝のとはまた別のタイプのラルヴァなのか?」
 巨大猫は刃助に意識を向ける事なく、一人の女の子に睨みをきかせていた。制服からみるに刃助と同じ高等部の女子だろう。
「とにかく、今度は見せ場を奪われる前に最初から全力で行くぜ」
 そう言って刃助は手を天に向かって伸ばした。
「いでよ、我が力!」
 その瞬間、まるで雷鎚でも落ちたかのような光と衝撃が刃助に直撃する。
 巨大猫も突然の光に驚いたように視線を女の子から移すと、刃助の手には一振りの剣が握られていた。
「よっしゃ行くぜ!!」
 剣を構え刃助は巨大猫へと駆ける。巨大猫の方も刃助に向かって走り出し跳びかかってきた。
 刃助は体勢を低くして巨大猫と地面の間を滑り込み攻撃を避ける。そして背後にまわっるとすぐに体勢を立て直し、剣を振るって巨大猫の尻尾を斬り落とす。
 しかし猫は痛みを感じた様子は無く、視線を刃助に戻し振り返りざまに引っ掻うと爪を伸ばしてきた。
 だが刃助は一歩も引かずに巨大猫へと向かっていく。
「おぉぉうりやぁぁぁああ!!」
 巨大猫の懐に入り爪を回避すると、そのまま一気に首を斬り裂いた。
「よっしゃ!!」

 双葉学園転校初日。
 いきなり異能者としてラルヴァと戦闘する事なった刃助だったが、平凡と退屈とは無縁の学園生活になりそうだと肌で感じ取るのだった。




ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。