【とらとどらの事件簿 二冊目】


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 彼は、間が悪い。
 どう間が悪いかは、他でも言及されているため省略する。今回は、パートナーに引きずられた末、無用な怪物との戦いを強いられている。既に『よくある事』レベルだ
「なんで、こんなデカいヤツがここに居るんだよ!!」
 青年が、変わった意匠が施されている剣で猛獣の爪を受け止める。見掛けによらず獣に筋力が無いのか、それとも青年が強いのか、剣を押し返してその爪は弾き飛ばされる。
「グルルルゥ……」
『何だか分かりませんが、怒らせてしまいましたね。このぐらいの怪物《ラルヴァ》なら「喚ぶ」までもないでしょう、色々と無駄遣いです』
「言うだけなら楽だよなっ!!」
『言うだけですから。とっとと片付けて花火やりましょう』
「グォォォ!!」




「ホタル? こんな島に?」
 夏真っ盛りの双葉島、二十年前に埋め立てで出来たにも関わらず、どこから来たか分からないセミやら蚊やらが飛び交う不思議空間だ。
「で、デートスポット化。俺達にゃ関係ない話だよなー」
 夏休みに入ったのに実家にも帰らずだらけている俺、中島虎二《なかじま とらじ》、別名トラ。そして今愚痴をこぼした錦龍《にしき りゅう》、別名ドラ。彼女のいない事では右に出る物はいない、我が友人だ。
「お前と一緒にすんな。で、山の中と」
 こいつの話によると、双葉山……双葉島の中に作られた人工の山であり、いったん土を大量に持って来た後造成する予定だったが、結局使わず植林や人工河川を作り、出来る限り自然に近づけたもの、らしい。双葉の天地は複雑怪奇とはよく言ったもんだ……に、ホタルが住み着いているという事だ。それを目当てにアベック共が夜ごと集まっているという。
「ホタルって見たことないんだよなぁ……んな環境ねーし」
「水が綺麗な所に住むって言うからな。で、見にいきたいと……子供かお前は」
「ついでにアベックどもをからかいに……って、さっき何か言ってなかったか?」
「別にー」
 そんなドラの提案で、双葉山にホタルを見に行くことになった……あんな目に遭うと知っていたら、絶対行かなかったのに。







 とらとどらの事件簿
 二冊目「双葉の山のホタル」









「あぢー……」
「さっきからうるさいな、暑いのはお前だけじゃねーっつの」
 ひょいひょい歩いて行くドラを必死になって追いかける俺。なお、まだ山にすら入っていない。現役で格闘技をやっているスポーツ青年のドラと、根っからの文化系であり帰宅部員の俺を比べてはいけない。
「休憩しようぜー、アミーガ近くだろー」
「タラタラしてたら日が暮れるぞ」
「ホタルなんだから日が暮れてからの方がいいだろー」
「例えだっつの……ありゃ、何だ?」
 ぐだぐだ歩いてグチをこぼし合っていたいた俺たち二人の前、山に続く道に少女がぼーっと立っている。中学生ぐらいだろうか、何か考え事をしているようで、こちらに気づく気配はない。
「おーい、あんた……」
「……誰、ですか?」
 不審に思ったドラが声をかけるが、むろん変な顔をされる。当たり前だこのロリコン野郎。その顔を見ていてなお、ドラは前に出る。
「いや、こんな所で一人で森を見てて……」
「その、待ち合わせをしているんですが、その……」
「あー相手が来ない訳ね、こら行くぞドラー」
 女子中学生を口説こうとしてるドラを引きずり、とっとと登山に向かう。お前が行きたい行きたい言うから同行するんだろうが。
「てめー、俺を何だと思ってやがる……」
「監視対象」

「大丈夫かな、お兄ちゃん……」

 そして山登り。人工的に作られたとはいえ、それなりに標高がある為、ホタルが現れるという中腹の人工池にはまただいぶ歩く事になる。山の中は多少涼しく、少しは楽になる……今度は斜面が俺の体力を削るわけだが。
「どっから来たんだろうなー、さっきからミンミン鳴いてるセミもそうだが」
 双葉島にある自然は、たいてい本土から種や植林などの形で持って来たものだが、計画的に動物も連れて来たのか、後から自発的に来たのか、人間が飼っていたのが野生化したのか、動物や昆虫も結構居たりする。そこらへん、昔の都市計画に関する本を調べると出てくるかもしれない。今度調べてみるか。
「虫だとか蚊だとかまで連れてこなくていいのに……ったく」
 鬱陶しい雑草を踏み越えつつ人工池を目指す、色んな人が来ているのか、だいぶ踏まれた後が見える。獣道のようなものか。
「なんつーか、野生の動物だとかラルヴァとか出てきそうだな、この雰囲気……」
「……あんな感じでか」
 俺が指さす先には、暢気そうに歩いている柴犬。飼い犬だったのか、自然に住み着いたのか。この島には野生の猫も多いが、犬もぼちぼち住んでいる。学園は猫派が多いので、犬派よりの俺としては微妙に肩身が狭い。
「……もっと野性味がある奴が居ると思ったが」
 そんなにポンポン猛獣やラルヴァに出られてたまるか、と思いつつ先に進もうとする……が
「……あの犬、元気無いんじゃないのか?」
 ドラの言葉が気になり、さっき目の前に現れた犬の方を見ると……疲れているのか、座り込んで眠っている。
「この暑さだしな、夏バテだろ……つーか、湖はまだか」
「まだまだ、大分歩くぞー」

 地道な登山は続く。登り始める前に買ったペットボトルで水分補給しつつ登り続ける。
「ポイ捨てすんなよー」
「するか」
 飲み終わったペットボトルはカバンにちゃんと仕舞っておく。
「……なーんか、変な感じがするんだよなぁ、このあたり」
 前を歩くドラが立ち止まった。せっかくなので俺も休憩しておく。
「何が」
「いや、全体的にだらけてるというか、活気がないっつーか……」
「人気が無いのは当たり前だろ、いくら話題のスポットとは言っても」
 ドラが辺りを見回す。動物類が少ないのは人工の山だから当たり前だと思うが、心なしか虫の鳴き声も麓《ふもと》に比べて少なくなってきた気がする。
「……ありゃ、誰だ」
 木々の奥を見ていた俺の瞳に、ちらりと見えた人影。夏のこの時期にも関わらず、しっかりと登山用のオーバーオールを着込んでおり、妙に重装備をしていたように見える。その服と、こちらからの距離があるせいで、男女の区別はつかない。長い棒であたりの草を払い、何かを探している様子だ。
「ありゃ……誠司さんだな、おーい、どーしたんですかー!?」
「……? ああ、十一分隊だった錦くん、だっけ。何してるの」
「噂のホタル見物です。誠司さんは?……って、その様子だと……」
「部活。なお、部員は夏風邪で休み」

 彼女、菅誠司《すが せいじ》……そう、名前からは想像もつかないが、女性らしい……とドラが初めて会ったのは、北海道であったラルヴァ掃討作戦だそうだ。俺は行ってないからその場面は見ていない。
 聞いた話だと、作戦の最終段階でトチッて負傷したドラを回収したのが、呼ばれても無いのに勝手についてきて負傷者救護に回っていた彼女だという。
 部員数若干二名、部活と称して実戦向け異能も無いのに戦場に出てきては救護活動を行う”レスキュー部”の部長であり、入学前に一度だけ『反魂』の能力を発動させたという噂がある、いわくつきの女性である。頻繁に出撃する生徒はけっこう顔をあわせるらしいが、自分は初対面だ。だって戦場とか出ないもん俺。

「遭難、ですか? こんな低い山で?」
「低くても山は山、それに何が出てくるか分かったものじゃない」
 俺達はいつの間にか彼女と同行して、その『部活』……遭難者の救出手伝いをやっている。
 知り合いである中等部の少女が、山から戻ってこない兄を探して欲しいという相談を彼女にしたのが事の始まりらしい。昼前に山に登ってから今まで連絡が取れない、という。自分達が見つけられなかったら警察へ相談に行くらしいが……
「もう暗いし、どう探すべきでしょうねぇ……」
 俺はあたりを自分で用意していた懐中電灯で照らしながらぼやく。
「せめて何か道しるべでもありゃ、探しやすいんですけどね……んなもんある訳ないか」
「いや……あった」
 ドラが一人でボケとツッコミをやっていたのを、誠司さんが止める。
 彼女の目の前には、明らかに人のものではない巨大な足跡と、人の足跡とが、並んでわき道に向かっている。
「おいトラ、なんか俺嫌な予感がすんだけど」
「俺もだが、とっとと行くぞ。乗りかかった船だ」

 二組四つの足跡は、歩幅を大きくしたり小さくしたり、時に乱れたり交差したりしながら奥へ続いている。
「これって、戦闘してる気配がすんだが…」
「もしやばいのが出てきたりしたらドラ、お前だけが頼りだ」
「その時はよろしく」
「二人とも勘弁して……ん、ありゃあ……」
 ドラが弱音を吐こうとしたとき、目の前に妙な光がぽつん、ぽつんと灯った。
 一つはすぐ目の前、左に寄った木陰で、何かにくっついて。
 他の沢山は、少し奥まったところに、これも何かにくっついて。
「ありゃあ何だ、ホタル?」
「……もしかして」
 嫌な予感がした俺は、懐中電灯の光を手前の光点がくっついているものに向ける
 その予感は、モロに的中した。
「ん、つっ……」
 懐中電灯の光の中でうめいている青年が、うっすらとこっちを見る。脇に立てかけた剣を取ろうとするも、その体力も無いように見える。
「……お久しぶり、時坂祥吾《ときさか しょうご》くん」
「!?……またまた、迷惑、かけます……」
 彼自身とも知り合いだったらしい……どうやら彼を保護して、一件落着のようだ。
「起き上がれそうに……は、ないっすね。俺が担ぎます……えっと、二年の人でしたっけ、先輩?」
「っ……気を、つけて。ラルヴァが、居る……!!」
「ラルヴァ!?」
 ドラに抱えられてうめき声を挙げながら放たれた彼の言葉に驚き、あちこちに眼をやる。奥でホタル(?)に群がられている何かの影があるが、あれだろうか。
「奥の、ヤツはっ……もう、倒した、けど、新手、が……体力を……吸い、とられて……」
「……それは、異能無しで倒せる相手?」
 誠司さんが、どこから襲われても問題ないように棒を構える。ドラも青年……祥吾先輩を彼が持っていた鞄ごと抱えてあたりを警戒している。いざとなったら彼を地面に安置して戦う気だろう。
 一方の俺は、ようやく合点がいった。
「死出蛍《しでぼたる》か、なるほどな……」
「シデボタル?」
 オウム返ししてきたドラにも分かるよう、解説開始。解説しながら祥吾先輩が持っていた剣を回収……しようと思うが、何故か剣が無い。代わりに、金色に光る懐中時計らしきものが転がっているが……
「ぁ、それを……」
「なんだか分からないけど、持っていけばいい訳ですね……で、さっきからあのあたりに飛んでる光点。あれがラルヴァだ。人とか動物の生命力を吸い取るが、固体自体はそんなに強くない」
「あれ、今までただのホタルだと思ってた」
 時計を拾いながら、俺が懐中電灯を目の前の死出蛍に当てると、それだけでその光は消え去る。
「……こんだけ?」
「けっこう、必死に戦ったのに……」
「そう、こんだけ。自身より強い光を当てると消える。あんまり群れないらしいが……」
 奥にある獣の死骸から、大量の死出蛍が舞い上がる。次の獲物はお前だと言いたげに。
「……群れてるね、これ」
「ちなみに、群れると合体する事もあるらしい」
「合体したら?」
「懐中電灯じゃ無理だろうな」
「なら、今のうちに……」
『逃げろー!!』

 祥吾先輩を抱えたドラ、渡した懐中電灯で目の前の死出蛍を追い払う誠司さん、そして俺の三人が斜面を駆け下りる。時折誰かが足をとられてよろめき、その際に追いついた死出蛍がとりついて体力を奪う。徐々に全体のスピードが落ちてきており、このままだと死出蛍の群れに追いつかれて全部吸い取られ、ミイラ取りがミイラになる実例を示すことになる。
「この数じゃ、懐中電灯だと力が足りないね、流石に」
「まとめて、追い払わないと……」
「ドラ、お前なら叩けるんじゃないのかアレ!!」
「アレに向かって立会いとかイメージできないから無理!!」
「何だよその融通きかねー異能!!」
 愚痴りながらも速度は緩めず、斜面を転がり落ちるように駆ける。俺はヘタすると本当に転がり落ちそうだ。
「他に何か、光出すやつないか!?」
「ライターと、あと発煙筒ぐらいならあるけど……」
「煙じゃ無理ですよね多分!!」
「……!! 誰か、俺の鞄を……」
 何かひらめいた祥吾先輩の鞄を誠司さんがひっぺがし、中を漁る。
「たいしたものは無さそうだけど……何、花火?」
「妹たちと一緒にやろうと思ったんだが……多分、これで」
 取り出した色とりどりの花火セットの中、誠司さんが目をつけたのは一番大きいロケット花火。無理やり取り出し死出蛍の群れへ向けて置く。
「みんな、耳塞いで!!」
 その声が聞こえた直後、カチリという音。誠司さんがライターを取り出し、ロケット花火に点火したのだ。それを地面に置いて猛ダッシュ。俺たちも無論耳を塞ぎ、後ろを見ないようにして駆け出す。


 刹那、轟音と閃光が走る。


 いくら市販品とは言え、至近距離でのロケット花火は猛烈にうるさく、強烈な光を放つ。
 恐る恐る後ろを振り返ると、ガサガサと擬音がしそうなほど大量にひしめいていた死出蛍の姿はもう無い。
「つーか、山火事にでもなったらどうするんですか!!」
「人命優先、それに最近の花火は簡単に引火しないらしいよ」
「……ホントに?」
 たとえホントでも、良い子のみんなは真似しちゃダメ、とらとどらとの約束だ!!
 ……それはともかく、遠くからこちらに向けてふよふよと近づいてきている死出蛍が見える。あまり匂いを嗅げないのか、移動速度は遅そうだ。
「今のうちに距離稼いで、とっとと逃げようぜ!!」
 ドラの言葉に我に返った一同(俺含む)は、脱兎の勢いで斜面を駆け下りる。
 途中で祥吾先輩の懐中時計を取り落としたとき、少女の抗議めいた声が聞こえたのは気のせいだろうか。


「え、エライ目に遭った……」
 あの後、兄妹の(麓《ふもと》で会った中学生ぐらいの子が妹さんだったらしい)感動の対面をスルーし、後始末を誠司さんに任せて帰路に着く。
「しっかし、死出蛍ねー。放置してていいのかアレ」
「いくら排除しても、後から後から沸いて出てくるらしいからな。諦めて放置って聞いた」
「人間いろいろ、ラルヴァもいろいろってか」



 その後も蛍を見に行くカップルは絶えず、相変わらずのデートスポットぶりらしい。警察から『夏でも登山には注意!!』というお達しがあった事から、適当に気をつけていれば問題ないと判断したのだろう。人死にが出たという話は聞かないが、時々遭難する人間は出るらしい。
 で、ドラも相変わらず

「あぁ……それにしても、彼女が欲しい…!!」
「うっさいぞドラ」
「彼女が出来るなら悪魔と契約してもいい、むしろ悪魔でもいい、漫画の神様の未完作みたいに」
「満足したら魂とられるぞ」
「具体的には年下に見える子がいい」
「いい加減黙っとけロリコン」
 と、年中うるさい。

『っ、くしゅん』
「……風邪か?」
『そんな事ある訳無いじゃないですか、人間じゃあるまいし。きっと誰かが噂をしているんです』
「ろくな噂じゃなさそうだな……」
『何か言いましたか?』
「いや、何も」

(三冊目があれば)続く






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