【偽・手のひらを太陽に。―空の守護者―】


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 その日の放課後、ソラはヒナと一緒に下校している途中に呼び出された。
「危ないことしないでね」
「大丈夫。俺、結構強いんだぜ」
 そんな何気ない会話しかすることが出来なかった。
 だがそれも仕方の無い話だ。水際警備隊の仕事は、常に危険と隣り合わせで極秘扱いの物なのだから。

 ヒナに話が聞こえないような位置に移動して、端末に応答する。
「遅くなってすみません」
「うむ、それはいい。空から百を超える魂源力《アツィルト》の接近を観測した」
 用件はいつもの事といえば、それまでの内容だ。
「わかりましたけど、空軍や他の航空戦力は何やってるんですか?」
「別件で大量発生した鳥型ラルヴァの討伐に出動している。君の任務は、このタイミングの良すぎる襲撃に人間が関わっていればその撃退、ただのラルヴァの大量発生ならばその殲滅だ」
 また、バックアップ無しの空中戦か。いつもの事と言ってしまえばそれまでだが、今回は気合の入り方が違った。
「良いもんだな、声をかけてもらえるのって」
「ん、何か言ったか?」
「いえ、何でも」
 聞かれなくて良かったと思いながら、ソラはゆっくりと上昇していった。


  *


 そんなソラを、ファインダーに収めていた人物がいた。
 太陽の光を背に真っ直ぐに空へと上っていく人影、わざとハレーションを残し、丁度光で顔が隠れるようにしてシャッターを切る。
 宗教画に描かれた天使のような一枚となった。
「……外には出せないな」
 ボソっとつぶやいてカメラを構えていた男、二階堂侍郎はカメラをしまい、バイクに跨った。
(今日は空がキナ臭い)
 アクセルを絞り、自宅であるマンションへ急ぐ。
 侍郎は武道に明け暮れる他の兄弟たちと違い、天才高校生カメラマンとしてその名を馳せていた。
 高台にある高層マンションの最上階、カメラマンとしての収入があっても少し苦しいところだが、侍郎は多少の無理をしてでもここに住んでいた。
「シュン」
 ベランダに出て腕を差し出すと、一羽の隼《ハヤブサ》がそこにとまった。
 侍郎が唯一心を許せる友と認める隼《ハヤブサ》のシュンである。急降下で獲物を仕留める隼《ハヤブサ》は、生息にある程度の高さが必要なのだ。
「いくぞ」
 侍郎の声に答えるように、シュンが泣き声を上げる。鷹狩りに利用される猛禽類だけあって、隼《ハヤブサ》も頭が良かった。
「合体変身!」
 掛け声と共に侍郎は光に包まれる。それが晴れるとバイザーに鳥の翼の意匠をあしらった白い全身スーツの男が現れる。
「……空は俺が守る」
 そう言って侍郎は、着ている服を脱ぎだした。
 翼の力を使って飛ぶためらしく、侍郎は変身したら全ての服を脱がないとその力を一〇〇パーセント活かせないのだ。
 上着をたたみ、パンツと靴下は洗濯機に放り込んで、侍郎は空へと飛び出していった。


  *


「蜂? 凄いデカイ蜂だ」
 学園の上空に現れた多数の魂源力《アツィルト》反応の元は、どうやらこの蜂の大群だったらしい。
「アイスさん、どうやらただのラルヴァの大量発生みたいです。これより殲滅に移ります」
 ソラは『透明な多脚戦車《ファントム・ギャラクティカ》』を展開させる。
「いや、待て! もっと上に一つだけ動きが違う反応がある、その正体を探ってくれ」
「でも……」
 まだかなりの上空にいるとはいえ、ラルヴァは結構な数だ。学園に降りていったらちゃんと対応できるのだろうか。そもそも自分をすんなり通してくれる保障も無い。
「心配無い。どうやら物好きな空の守護者がやって来たようだ」
「空の守護者?」
 ソラが周囲を見回すと、ブンと空気を切り裂くような音がして、蜂のラルヴァの一匹が消える。
 代わりに現れたのは、白い特撮ヒーローのような格好をした人影だった。
「あなたは?」
「……空は俺が守る!」
 ソラの問いかけと微妙に、ずれた答えを返す白い人影。
「放っておけ、そこはソイツに任せておけば大丈夫だ」
「わかりました。ここは頼みます」
 アイスの指示に従いまた上昇を始めながら、ソラは白い人影に声をかけた。
 答えの代わりに人影は、また一匹のラルヴァを切り裂く。
 確かにこの強さなら、心配は要らなさそうだ。


  *


 侍郎は次々と蜂のラルヴァを墜としていった。
 空を飛ぶ生き物の中で、隼《ハヤブサ》を超えるスピードを出す者はいない。
 合体変身した侍郎も変わらずにその能力を持っていた。
 上昇と降下を繰り返し、目にも止まらぬ速さで蜂の群れを鋭い爪で切り裂いていく。
(……数が多い)
 合体した生物の能力を再現するには、魂源力《アツイルト》を消費するため、侍郎も長時間の飛行には耐えられない。
 今の時点で倒したのはおよそ半分といったところである。
(早く片付けなければ)
 しかし、蜂型ラルヴァも全くの低能という訳ではないようで、徐々に群れとしての統率を取り戻し、侍郎のスピードに対応してきた。
 上昇と降下の僅かな隙間を狙って、数匹の蜂が侍郎を囲む。
「くぅ」
 侍郎はそれを足場に拳を放つが、一撃必殺の威力は無い。
 四方から巨大蜂のグロテスクな顎が、迫ってくる。
「フェザーエッジ!」
 侍郎の身体から、鳥の羽の形をした魂源力《アツィルト》の刃が放たれる。
 侍郎を囲んでいた、蜂の群れがそれによって切り裂かれていく。
 今のでかなりの力を使ってしまい、残りの魂源力《アツイルト》はもう心許無い。
 巨大蜂はかなり減らしたが、それでもまだ半分ほど残っている。
(最後まで持つのか?)
 いや、弱気になる訳にはいかない。自分が守らなければ、誰が空を守るというのか?
 気持ちを奮い立たせ、また構え直す。一撃必殺の切り裂き攻撃はもう使えないが、だからといって引く訳には行かない。
「うぉぉ!」
 無口な侍郎にしては珍しく、雄たけびを上げてまだ五十を超える蜂の群れへと向かっていった。


  *


 侍郎が戦い続けるその上空でソラは、この騒動の原因らしい存在と対峙していた。
「女王蜂って訳か……しかし、それは何だ」
 蜂をそのまま巨大化させた下のラルヴァと違い、蜂の怪人といった感じのラルヴァが愛おしそうな様子で、男を抱えて飛んでいる。
 男はずっと笛に口をつけているが、音は聞こえてこない。
「アイスさん、蜂のラルヴァを操っていると思わしき存在を捕捉しました」 
「どんな様子だ?」
 アイスの問いに思わずソラは口ごもった。
 なんて説明すればいいんだ、これ。
「ええと……、二人、いや一人と一匹です」
 見たままを正確に言うなら恐らくこうだと思う。
「こちらでは魂源力《アツイルト》の反応は一つしか捕捉できていない。状況は正確に報告したまへ」
「は、はい。笛を吹いた男が、女王蜂らしきものに抱えてられて飛んでます」
「ラルヴァが人間に命令されて人を襲っているのか!?」
 通信の向こうで、アイスが息を飲む。
「『別に珍しいこっちゃねえだろ?』」
 女王蜂が、言葉を発した。
「『オレはハーメルン、このは孔雀蜂共の裏ボスってヤツだ』」
 どうやら、この笛の男が能力によって女王蜂のラルヴァをひては、蜂のラルヴァ全体を操っているのだろう。
 だったらやるべきことは一つだ。
「うりゃあ!」
 ソラはハーメルンと名乗った男をめがけ蹴りを放つ。この際とにかくこの蜂の怪人は無視だ。
「『バカか? 初めから狙ってくる事がわかれば、コイツなら簡単に防げるんだよ』」
 ハーメルンと名乗った男は、中肢に抱えられたまま勝ち誇るように宣言する。
「それはどうかな?」
 ソラは指の微かな動きで狙いを定め、透明な脚で辺りを薙ぎ払う。
 とっさの事に女王蜂は上脚を使ってガードする。
 そしてその一瞬の隙をソラは見逃さない。
「ただの超能力による右ストレート!!《ファントム・ギャラクティカ》」
 意識が他に移った刹那、ハーメルンの笛に拳を叩き込む。
 バラバラに砕けた笛がソラに吸い込まれていった。
「な……」
 初めて、ハーメルンという男が自分の声を発した。
「ぎゃぁぁああああああ!」
 そしてそれはすぐ、断末魔の悲鳴に変わった。


  *


 ソラ達の戦いを遠くの空から二人の人影が、観察していた。
 以前学園に姿を現した直進する刺繍糸のスティッチ《ストレイト・ステイツチ》という小太りの男と、原点《ウルケル》を名乗る無精髭の男だ。
「これは、俺の任務のハズだろう」
 スティッチが不機嫌そうな様子で、ウルケルに声をかける。彼の任務は、ソラなど水際警備隊にプレッシャーを与え、双葉学園に不和と違和を蓄積することである。
「良いじゃないか、利用できる物は何でも利用すれば、はグリムリアの連中も、自分の手柄だと思っているだろう」
 ウルケルは、ニヤリと含みのある笑いを漏らす。
 グリムリアとは、ラルヴァと共闘するゲリラ朽ち逝く灰姫《トウルーエンド・グリムリア》の事である。
 ウルケルは事前にこの計画を察知し、裏から有形無形のサポートをしていたのだった。


  *


 あれから更に六割近く減らしたところで、流石に厳しくなってきていた。
「……ハァハァハァハァ」
 魂源力《アツイルト》を上手くやりくりしなければならず、全てを一撃必殺という訳にもいかない。
「どうした? もうギブアップか、侍郎兄さん? これだからもやしだって言うんだ」
 突如現れた黒い影が蜂の一匹を打ち墜とした。
「悟郎!」
 現れたのは五つ子である二階堂兄弟の五男、哺乳類との合体変身の能力を持つ二階堂悟郎である。
「蝙蝠《コウモリ》を捕まえるのに苦労してな」
 その漆黒の姿は蝙蝠《コウモリ》と合体したものであるらしい。やはり飛ぶのに邪魔になるのか、普段は変身しても着ている胴着を脱いでいた。
「余計なお世話だ」
 振り絞った魂源力《アツイルト》を拳に乗せ、近くの蜂に叩き込む。
 バツンという音を立てバラバラになった蜂が落ちていく。
「空を守るのは俺だ」
「へ、それだけ言えれば問題ないな。真空・竜巻通し!」
 悟郎の背中からマントのような物が現れ、回転する悟郎に巻き取られるうちに先端が鋭い砲弾のようになる。それが蜂の群れに飛び込み、一瞬のうちに数十匹の蜂を撃墜していく。
 弟にばかりイイ格好させるものかと、侍郎もまた群れに飛び込んでいく。
(足りない力は闘志で補えば良い! 俺は、俺達は二階堂兄弟だ!!)
 普段無口なためなかなか分からないが、侍郎はかなり熱い心を持った男であった。


  *


 女王蜂に首筋を噛み付かれたハーメルンは、一瞬のうちに干からび、灰になった。
「よくぞあの男から解放してくたな。礼を言うぞ少年」
 身体に付いた灰を払い、女王蜂が口を開いた。
 その威圧感は、ハーメルンに操られている時の比ではない。
「しかし、せっかくの我が子らがどうやら全滅させられてしまったようだ。たらふく食べてまた生まねばならんな」
「行かせるか!」
 ソラは女王蜂に飛び掛っていった。同時に後ろから見えない刃で切りつける。
 しかし女王は前股と中股を上手く使って両方を受け止める。
「また奇襲か芸の無い。お前のその玩具、あの男には見えなかったようだが、妾にははっきりと見えるぞ」
「それでも俺にはこれしか無いんだよ」
 今度は女王蜂の足元から、槍を伸ばす。
 女王蜂は身体を捻ねってかわすと同時に、ソラへ針を突き出した。
「ぐぅ」
 何とかよけられはしたが、針がかすっただけでその部分から服がボロボロと灰になって崩れる。
「ったく、どうしてこうも破られるんだ」
「よく避けたな。しかし次はそうはゆかんぞ」
 あらゆる角度から女王蜂がソラに攻撃を仕掛ける。手のような前股、脚のような後股、暗器のように奇襲を掛けてくる中股、そして一撃必殺の針とその攻撃は変幻自在にソラを攻め立てた。
(つ、強い)
 見えないというアドバンテージを失ったソラは、何とかギミックを総動員して攻撃を防いでいるが、全く反撃に移る隙が見当たらない。
「まあ良い、面倒だ。貴様は妾をあの男から解放した功績もある故、今回は見逃してやろう」
 決定打に繋がらないことに苛立ちを覚えたのか、女王蜂は『『透明な多脚戦車《ファントム・ギャラクティカ》』をかいくぐって降下を始めた。
(しまった)
 ソラは慌てて追いかけるが、安全装置《セーフティ》のせいで思うように降下速度が出せない。
「くっそお!」
 機能がだめなら自力で急ぐしかない。ソラは足場《ステップ》を飛び出して、表面を駆け出した。


  *


「ハァ!」
「とりゃあ!」
 ほぼ同時に侍郎と悟郎が蜂を打ち墜とす。
 百を超えていた蜂の大群を、たった二人で倒してしまったことになる。
「もともと力が尽きかけてた割には、よく持ってるじゃないか」
「……お前こそ、飛ばし過ぎだ」
 二人とも満身創痍といった様子であった。
 そこに一つの影が迫る。先程まで相手をしていた蜂を大きくしたようなものではなく、蜂の怪人というシルエットだ。
「ソイツを通さないでください。ソイツが親玉です」
「兄さん、アレをやるぞ」
 悟郎は侍郎に合図を送った。
「ああ、いいだろう」
 頷いて侍郎が高く飛び上がる。
「うわああぁぁぁぁっ!!」
 悟郎はまた漆黒のな竜巻となる。
「スーパー!」
「ダブル!」
「「キィィィィィック!!!」」
 白と黒の人影が上下に分かれ、蹴りを放つ。
「グワァァァ!」
 悲鳴を上げボロボロになりながらも、女王蜂はまだ下を目指そうとする。
「……倒しきれなかったか」
「いや、最後のトドメは間に合ったようだ」
 再び身構える侍郎を制し、悟郎が女王蜂の上を指差す。
 その先にはソラが、自分の能力で作り出した足場を真っ直ぐ女王蜂めがけて駆け下りて来ていた。
「ただの超能力による右ストレート!!《ファントム・ギャラクティカ》」
「ば、馬鹿な……妾が、死ぬなど……ありえん」
 駆け下りた勢いをそのまま乗せた拳でソラの足場に叩きつけられ、女王蜂は灰になって崩れた。
「助かりました。大丈夫ですか? 二人とも」
 ソラはあの大群を全部狩りつくしてくれたらしい二人に声を掛けた。
「……問題、ない……」
 気が抜けたのか、ついに侍郎の変身が解ける。
 すかさず悟郎がそれを受け止め、
「すまないな、地上まで降ろしてやってくれ」
 気を失った侍郎を足場《ステップ》に横たえた。
「ちょっと、そんなの自分でやってくださいよ」
 いきなり全裸の大男を押し付けられたソラが抗議する。
「俺もそろそろ限界なんだ。変身してられているうちに胴着を取りに行かないとならんのでな」
 しかし悟郎はそれだけ言い残して、『透明な多脚戦車《ファントム・ギャラクティカ》』を上手く足場に利用して急降下していった。
 超音波で空間を把握する蝙蝠《コウモリ》にとって、透明な事は関係ないらしい。
 ソラの苦労を知ってか知らずでか、シュンが一回ピィーと鳴いた。

 結局ソラは、どうする事もできずに侍郎と一緒に降りてきいた。
(しかし、この後どうしたら良いんだ?)
 この気を失っている全裸の男がどこの誰なのか、ソラは全く知らない。
 どうしたらいいのか全くわからないままソラは、地上についてしまった。
「また全裸か!!」「変態だー!」「この変質者!!」「どうして全裸の変態ばかり空から降りてくるんだ?」
 どこか聞き覚えのある罵倒がソラを出迎える。
 だがソラはそんなもの全く気にもならない。ただヒナがそこにいてくれるだけで何も恐れるものは無かった。
「ただいま」
「危ないこと無かった?」
「大丈夫」
 ソラが「俺は結構強いっていっただろ?」と続けようしたところで、
「空は……、俺が……、守、る……」
 まだ戦っているつもりでいるのか、最悪のタイミングで侍郎がうわ言を口にする。
「そんな、ソラ……、上半身はだけてるし、その人は裸だし……不潔、不潔だわ!」
 わなわなと首を振り、ヒナが去っていった。
「ちょ、誤解だ。待ってくれ! ヒナぁぁぁぁ」
 慌てたソラは、珍しく土煙を上げてヒナを追いかけていった。

 ちなみにヒナのソラに対する誤解は数日で解けたが、侍郎の同性愛者説は島の外部にまで流れかなりあとまで尾を引いたという。



  了



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