【「大工部」の人たち 第一話】


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「大工部」の人たち 第一話

 東京湾に浮かぶ双葉区。
その中央に位置する小中高大、更には研究機関も付属された能力者育成の為の教育施設『双葉学園』。
その性質上、内部の人間は能力者がその大半を占めるのはしょうがないことだろう。
故にその学校内には数多のサークルやクラブがひしめき合っている。
また、一般人の双葉区への入島はかなり手間のかかる審査をクリアしなければならない。
その為、幾つかの部は公認非公認含め双葉区にとっては無くてはならないものとなっていた。
具体例を挙げるならば『科学部』『建築部』『新聞部』等。
本来はその道に進み専門知識を得る為に作られた筈の部達は、何時しかその生徒数ゆえに乱立し己が異能を活かして活動するものとなっていくものも出始めた。

『科学部』では超科学系の能力者が好き勝手に妙な製品を作り。
『建築部』では奇抜なデザインの建物から、寮の修理や双葉区内の建物の修繕を。
『新聞部』では醒徒会へのインタビューや区内の有名人のゴシップまで幅広く印刷物を発行していた。

 それらは最早ただの部活動では無く、商業活動といえるものとなっていた。
主なスポンサーは醒徒会や学長、区長や商店街の人々に学園の生徒まで。
幅広い層からの支持により、『部活動』の名の下に学園都市を動かす一部となっている。
その中で一つ、今回の話の対象を紹介しよう。
学園の敷地から少し離れた商店街の片隅の空き地。
そこに建てられたプレハブ小屋に掲げられているのは、まだ新しいのだろう。
年代を経た木がもつ独特の雰囲気は無く、真新しい日にも焼けていない大きな木製の看板には達筆な字で『第九建築部』と書き込まれている。
しかし綺麗な看板とは裏腹にプレハブ小屋からは雨風に晒された年季を感じさせる脆さと、そこはかとない貧乏臭さが滲みでていた。
建築部の中でも中堅の部員数をもつその部は、他の建築部と同じく能力者が自分達の能力を使い建物を建てるという部だ。
修理や道路関係の活動ではなく、住居を建てることを主とした活動とその部名から彼らはこう呼ばれていた。


『大工部』と。







 「大工部」の人たち 第一話







 クーラーなんて無いクソ暑い掘っ立て小屋に喧しい音が鳴り響いた。
原因は何だ、鳶縞キリ、ようするに私だ。
つい先程まで予算について醒徒会のいけ好かないクソガキ相手に交渉を続けていたのだが一向に上手くいかなかった。
なんとか少しでも上乗せできるようにと思っていたのだが、あのオールバックの中2のガキめ。
こちらの作業効率までキッチリ計算してギリギリの予算しか寄越さない。
何より腹が立つのはそれに言い包められた自分なのだけれど。
その抑え切れない私の怒りの矛先になった年代モノの黒電話は哀れ、右手の下で粉々になってプラスチックの破片を撒き散らしていた。
先程の音はこいつが粉砕されたせいで起こったというわけだ。

「がああああ! あんのクソガキャァッ!
 いっぺんコンクリに詰めて東京湾に沈めんぞまじでぇっ!!」

 余りの怒りで夏服用半袖カッターシャツからのびる両腕の肘より少し上から、排気のためプシューッという音を立てて水蒸気が漏れた。
部室の一番奥にある部長机の上には黒いプラスチックの破片と中の電器部品が砕けて飛び散っている。
伊達メガネの向こう側に汗で湿った髪の毛が揺れて見えた。そういえば最近忙しくて髪を切ってなかったか、鬱陶しい。

「部長、落ち着いて」
「あぁん!?」

 視線を右やや上に向けるとガタイの良い体つきの上に彫りの深い顔をした楠木巌(くすのき いわお)が仏頂面でこちらを見おろしていた。
この暑い中でその表情を続けているのは何時もの事なのでスルーするが、

「これが落ち着いてられるか馬鹿ッ!
 あああああ、思い出しただけでも鬱陶しい!」

 電話越しに聞こえた自分よりも6つも年下の醒徒会役員の顔を思い浮かべる。
以前、予算の異議申し立てに直接醒徒会室に殴り込みに言った時もこちらを嘲笑うかの様なツラをしていた。
多分さっきの電話の向こう側でも同じような表情を浮かべていたのだろう。思い出してまた腹が立つ。

「あんのクソガキがぁっ!」

とりあえず憤りを何故か部長席の横、室内にぶら下げてあるサンドバックに叩き込んだ。
中々に良い音を立てて跳ね上がり、接続部の鎖が金属同士が擦れる音を上げる。
……ほんの少しだけ気分が楽になった気がする。

「姐さん!」
「姐さん言うなッ!
 私らヤクザじゃないって何回言わせんのよ!」

 今度は左から甲高い声が掛かる。
毎回毎回「姐さんと呼ぶな」と注意しても一向に反省しないのが美作聖(みまさか ひじり)だ。
気がついたらうちの部に出入りしていて、何時の間にやら会計になっていた。
有能な上に可愛いから部の癒し要員二人のうちの一人なのだが、

「その電話機で何台目だと思ってるんですか、お給金からキッチリ引かせてもらいますからね!」
「そ、そんな酷なこと言わずにぃ。なんとかこう、経費で……ね?」
「駄・目・で・す、学生証の携帯機能使えばいいのにわざわざ電話機なんて着けるからそんなことになるんです。
 毎回毎回調達してくるの私なのに一週間、いえ四日に一回のペースで壊されてたら洒落になりませんよ」
「そんなぁ、私来月生きていけないじゃないのよ。
 それに学生証壊してたら再発行にめちゃくちゃ時間とお金がかかるでしょ?」
「猫撫で声なんて出しても駄目なものは駄目です!」
「きぃーっ、けちんぼ!」

 ……仕事に真面目すぎて融通が利かないのが難だろうか。
実際自分が短気だということは理解しているのだけど、どうにもこうにも育った土壌が悪かったのかどうにもならないものがある。
しかし、電話機代かぁ今月何台壊したんだろう明細が怖いなぁ。
怒りも一気に下がり、とりあえずゴミ箱に電話機の破片をまとめて放り込むと部長席に腰を下ろした。
壁に掛けられた扇風機が生暖かい風を送ってくるが何の気休めにもなりはしない。
クーラーくらい導入したいところではあるが、部員に苦学生が多い現状では設備投資もままならない。
何が悪いって、それこれも全部貧乏が悪い。
そして何故貧乏かというとあのとっつぁん坊やが悪いわけで、ああああああまた腹立ってきたぁっ!

「はい、部長お茶です」

 絶妙のタイミングで目の前に氷の浮いたグラスが置かれた。
机に突っ伏して頭を抱えていた状態から目線だけを上にずらすと愛くるしい笑顔が咲いている。
我が部の癒し要員二人目、御堂瞬(みどう しゅん)くんだ。
地元に同じ名前の橋があるから親近感が沸く、その上年齢にしては可愛い顔して周りに癒しを感じさせてくれるのが素晴らしい。
氷が入ってキンキンに冷やされた麦茶を煽ると、食道から胃にかけて冷たい液体が流れ込むのが良く分かる。
うん、煮えくり返ったはらわたも冷やされたわ。

「ぷはぁっ、ありがとう瞬くん」
「いえいえどういたしまして」

 再び柔らかい笑顔をこちらに見せて、氷だけになったグラスを回収してくれた。
ありがとう瞬くん、おねーさんも癒されるわ。
机に突っ伏していたのを止めて椅子に深く腰を沈める。
安っぽい金属製の事務椅子が軋んだ音を立てた。
最近事務忙しかったから体動かして無かったしなぁ。
引き締まっていると自負出来る腰に指を当てると以前に比べて若干贅肉があるような気もするが……忘れよう。

「鍛えなおさないとダメね」

はふぅとため息を一つついて、なんとなく両腕を見る。
夏用の半袖カッターシャツから覗く腕は最新の技術で作られた義腕だ。
人工皮膚でコーティングされているのでパッと見では普通の腕とは変わらない、肘から少し胴よりの二の腕真ん中あたりに排気用スリットがあるが。
丁度横腹から脇に掛けて描かれるラインそのままに、私には肩から先が『無い』。
三年前のとある戦闘で不覚を取って、その際に右も左も同じ位置から先の腕を失った。
その代わりと言ってはなんだけど、一線を退いて大工部で割とのんびりと学生生活を楽しんでいられる。

「皮肉なものよねぇ」

 肩の接続部位から魂源力を吸い上げて人並みの動きを見せる義腕。
魂源力があるせいで戦闘に行き、そのせいで失った腕を魂源力で動かしている。
特に不具合も無くそれどころか、

「痒いところにも手が届く」

 肩と肘と手首の間接が自由に曲がる分、背中の痒い所もいくらでも手が届くから以前よりも便利なくらいだ。
取り掛かり中だった図面を取り出してフリーハンドでペンを入れる……定規無しに直線もかけるし。
以前かくし芸で普通の人間では曲がらない方に腕をぐねぐね曲げて見せたらドン引きされたのが悲しかったが。
我が部内での役割は図面引き、ようするに建物の設計図を描くこと。
黙ったままひたすら事務処理をしている楠木巌が副部長、現場の監督も兼ねている。
さっきから可愛い顔を怒らせながら帳簿に目を落としている美作聖がうちの会計担当、現場でも実は一番重要なポジションに着いている。
そして、そんな聖に麦茶を配っている御堂瞬が秘書という名の雑用係、資材置き場から現場へ資材を運搬するこれも重要な人物だ。
あと一人、資材管理の源創(みなもと はじめ)がいてそいつを含めた5人がこの大工部の主要メンバーである。
他にも現場で働く部員が30人くらいいるが、仕事のあるときに現場集合が基本なので小さい事務所は何時も一杯になったことは無い。
まぁ、だからこそクーラーじゃなくて扇風機で我慢することになっているんだけれど。

「せーちゃん、仕事や皆に召集お願いね」
「「せい」じゃなくて「ひじり」です。
 さっきの電話、醒徒会との予算交渉でしょう? 
 もう皆に収集掛けておきましたよ、今お昼前ですし皆ご飯を食べてお昼過ぎには集合すると思います」

 壁に掛けられている時計に少し目をやって聖が応えてくる。
さすがに真面目な上に仕事が速い、出来る部下を持つって幸せなことよね。上司は怠慢出来るし。
図面引きもあらかた終わったしとりあえず一服でもしよう、と机の一番上にある引き出しから紙箱を取り出す。
黒い表面に「JPS」というアルファベットが組み合わさった金文字が打たれたタバコ。
一本取り出すと、ライターで火をつける。
深く紫煙を吸い込むと、唇の先でパチパチというタバコの葉が焼ける音が聞こえてくる。
同時に喉が焼けるような感覚と、肺を煙が満たしていくのが分かった。
ため息をつくように吐き出すと白い煙が扇風機の風に流されていく――ってマズイ。

「あ・ね・さ・んー?」
「だから姐さんって言うなー!」

 青筋浮かべた聖が口にハンカチを当てつつこちらを睨んでくる。
その隣では困ったような顔で瞬が立ち尽くしていた。
ああ、もう真面目なのは良いけど多少は融通効かせて欲しいわぁ。

「部室内でタバコ吸うなって何度も言ってるでしょう、この馬鹿!!」
「ぶ、部長に向かって馬鹿とは何よ馬鹿とは!」
「だいたい何で高校生がタバコ吸ってるんですか、風紀委員に言いつけますよ!」
「私もう二十歳だから法律的にも問題ないもんねー」

スッパースッパーとタバコを吸っては吐き吸っては吐きする。ああ、いい感じにニコチンが頭に回るわぁ。
しかし扇風機に流された煙が聖の顔に直撃した、と同時。

ジュッ

タバコが一瞬で燃え尽き、挟み込んでいた右手の人差し指と中指の間から灰が零れ落ちていく。
義腕だから良いものの、生身だったら間違いなく火傷になるだろう。
うわー、せーちゃん容赦ねー。

「部長」
「巌(がん)、せーちゃんがいじめるぅ」

書類整理をしていた巌が顔を上げてこちらを見ている。
よし、こっちの戦力げっと。

「タバコは外で吸うルールでは」
「誰よ、そんなルール決めたのは」
「部長です」

しまった、こいつも敵だった。
昔から淡々と事実だけを突きつけてくるのが長所と言って良いのか短所と言って良いのか……。
巌もせーちゃんと一緒で融通効かない堅物だからなぁ、というか。

「私そんなルール何時作ったっけ?」
「一週間程前に禁煙の為に室内で吸わないと」

一週間前にってそんな事言ったかなぁ。
うーん――、あ。

「あー、確かに言ったわ。しまった何時もの癖で吸ってたわ……」

瞬くんが持ってきてくれた濡れた布巾で机の上に散らばった灰を片す。
タバコの灰は拭うと布巾が恐ろしく黒くなるね。
ある程度綺麗になったので瞬くんにお礼を言って片してもらう。

「吸ったら罰金を払う、とも」
「嘘ぉ!?」

掃除が終わるのを見計らっていたのか、巌が酷いことを言い出した。
本当か嘘か、冗談でも言ってるのかと顔を見るけど何時もの仏頂面。
冗談いうような性格で無いというのは良く知ってるから、本当のことなのだろう。

「確かに姐さん言ってましたね。
 『禁煙する! とりあえずはこの部室内では吸わへん!』って、外で吸ってたら禁煙でも何でも無いと思うんですけど」
「えー、瞬くんは?」
「すいません部長、それ僕も聞いてました」
「うぐぐぐ、ていう事は私が忘れてるのか」

他の二人にもあっさりと裏付けを取られた以上さすがに弁解の余地も無し。
禁煙しようと思っていたことすらすっかり忘れていたようで。
何度も言うようだけど、最近忙しかったからしょうがない。
でも、約束だけは破っちゃダメって父さんと母さんに言われたからなぁ

「それで、罰金ていくらなの? 私諭吉なんて出せないわよ?」

机の上の日めくりカレンダーを見ると7月25日。
月末締めの月末払いな決まりである以上、今日を含め残りの6日を生き抜くくらいの貯えは当然ある。
でもそれは仕事終わりのビールやらタバコやらに消える筈の分であり、罰金を払うということは嗜好品もなくなるわけで。

「そこはまぁ、お昼ごはんくらいで許してあげますよ」
「部長、ご馳走になりますね」
「……」

 早速聖が近所の中華料理店のチラシを出してメニューを選び始めた。この暑いのに中華か。
たしか、二週間程まえにうちの部に建て直しの依頼があった店だった筈。サービスしてくれないかなぁ。
何かにつけてテキパキ動くのはよろしいが、嵌められた様で釈然としない。
せーちゃんはともかく、瞬くんも笑顔で答えてくるし仕様がない……巌は何か喋んなさい。

「せーちゃぁん、手加減してよぉ?」
「それは何とも言えませんね、何頼みますか?」
「部長ごちそうになります、僕はチャーハン並でお願いします」
「チャーハンの倍満盛りとラーメン大で」
「瞬くんは良い子ねぇ、巌はもっと手加減しろ! ……私はチャーハン並で良いわ」

申し訳無さそうに瞬が言い、巌が後に続く。
頭の中のそろばんが金額を弾き出す。どうやら今日の晩酌は無しになりそうだ。

「あ、大車輪さん? 出前お願いしたいんですけど。
 大工部です、ええ、商店街の外れの。
 いえいえ今度はこちらがお客になりますから、それで注文なんですけど。
 チャーハンの並が二つと倍満が一つ、ラーメン大が一つにえーっと。
 チャーハンの三倍満盛り一つと春巻き二つにから揚げ一つ、ラーメンの大がもう一つと杏仁豆腐一つお願いします」
「ちょっと待てぇい!!」
「え? ああ、何でもないですよ。
 はい、お待ちしてますね」
「ち、ちょっ、手加減無しじゃないのーっ!」

そろばんが新しい金額をはじき出す。ダメだ、給料日まで晩酌無し決定だ。
机に何度目かの突っ伏しながら心外という表情の聖を睨みつけた。

「失礼ですね、手加減無しだったらこれの倍くらい食べれます!」
「この底なし胃袋めぇ」

忘れてた、最悪だ。せーちゃんは細い外見の癖に大食いキャラだった。
あああああ、私のビールが、タバコ・・・は買い置きあるけど晩酌がぁ。







 夏真っ只中の正午、俺(拍手 敬)はバイト先の中華料理店のロゴが入った出前専用バイクを走らせる。
目的地までそんなに距離は無いし何時ものコンロ前に比べると温度的には涼しいはずだが、照りつけるお日様の光が非常にツライ。
屋台で作業していた時は朝から外だから慣れていたが、しばらく店内での作業が続いていたせいで耐性が落ちたというかなんというか。
とにかく暑いものは暑いとしか言い様がない。
信号待ちで止まった途端に流れる汗を手の甲で拭う。

「あぢぃ」

今頃は大繁盛しているであろう店と、忙しそうに働いているであろう同僚を思い浮かべる。
掻き入れ時に抜け出せるのは嬉しいんだが、この暑さだとどっちもどっちだなこりゃ。
信号が変わり、原付バイクを走らせること数分。
商店街の外れ、ぽっかり空いたような文字通りの空き地に建てられたプレハブ小屋に掲げられた看板を確認する。

「第九建築部ーっと、間違いないここだな」

バイクの荷台に左右に真ん中、合わせて三つの岡持に注文の品が入っている。
ラーメンの様な汁気にはラップがしてあるとはいえ傾けることの無いように気をつけつつ、とりあえず一つだけ持っていくことにした。

「うわ、重っ」

普段は鉄鍋を振りなれているとはいえ、金属製の岡持とそこに入った商品を合わせると結構な重量になる。
二つ持って行こうなんて考えなくて正解だったな。
とりあえず両手で持って出来るだけ水平を保つようにして扉の前へ。
うーん、インターホンも無いようだし仕方ない。

「こんちわ、大車輪ですー! 出前持って来ました!」

ノックを数度してから扉を開ける。
普通の家だと不法侵入になりかねないけど事務所……じゃないや部室相手だし良いよな。

「はーい、お待ちしてましたよー」

期待していたクーラーの冷風が無いのが非常に残念だが、代わりに可愛い女の子の声が聞こえてくる。
おっぱいでかいと俺の活力に繋がるんだけどなーって、

「ありゃ、美作か」
「拍手くんこんにちわ、そっか大車輪って拍手くんのバイト先だっけ?」

残念ながらおっぱい控えめなクラスメートが扉の向こうから現れた。
可愛いけどクラスの中でもそんなに目立たないんだよな。
というか星崎とか最近転校してきたロボ娘とか見た目は地味な癖に凄い目立つ委員長とか周りの女子が濃いからなんだが。
しかし、建築部に所属していたとは知らなかった。

「せーちゃぁぁん、お願いだからから勘弁してよぉぉ」
「うわっ、どうしたんだこの人?」
「気にしないで。往生際悪いですよ部長、あと「ひじり」です」

 いきなり長身の女性が美作に後ろから抱き着いてきた。
暑いのだろうか、ラフに着崩した制服の胸元から谷間が覗く。
ロングの髪を肩の高さでゴム紐で結んでおり、束ねた髪が右肩を通して胸元にかかっている。
む、ナイスおっぱい。汗で光る肌に少し乱れた髪の毛が這うのはエロイなぁ。
ってあれ、この人泣いていたのだろうか、眼鏡越しに見える目が赤いんだが。

「あ、僕運びますね」

もみ合いになる女性二人(えちぃ意味では無く)の横から小さい男の子が顔を覗かせた。
多分小学生だろうか身長も140cmくらいしか無いようだが、岡持重いのに大丈夫なんだろうか。
しかしそんな心配も杞憂だったようで、男の子が触れると軽い音と共に岡持が室内にある机の上へと移動する。

「テレポーターか、こいつは助かる」
「いえいえ、お仕事ご苦労様です」

そのままバイクの方へと歩いていく少年。
先ほどと同じように残りの二つも軽く触れるだけで中身が一杯の重い岡持は簡単に室内へと移動した。
いや本当に助かった、正直この馬鹿みたいに重たい岡持を三つも移動しなきゃいけないのかとウンザリしてたところだ。
まぁ、客商売で弱音吐いてちゃダメなんだけどな。

「巌ー! あんたが手伝わんないでどうすんのよ!」
「まだ書類が」

相変わらず美作に抱きついたままの部長さんが部室の奥にいる男性を怒鳴りつけた。
うわ、あっちの人は少年とは正反対にでかいな。座ってるから正確な身長は分からないけど2mあるんじゃないか。
あ、目が合ったら会釈してくれた。いかつい見た目に反して割と良い人そうだ。

「ぶ、部長落ち着いてください。お客さんの前ですよぅ」
「いい、瞬くん。こいつはお客さんじゃなくてただのデ・マ・エ。
 お金払うのはこっちなんだから気にすること無いのよ」

確かにそれはそうかもしれないが、極論過ぎるぞこの人。
美人系の顔立ちでおっぱいも大きいっていうのに変な姉さんだ。
まぁ、出前先には色んなお客がいるし気にしてても仕様が無い。
早く帰って鉄鍋振るわなきゃならんし。とりあえず、

「えーっと、お代はどちらから頂けばいいんですかね?」
「……せーちゃぁぁん!」
「ダ・メ・で・す!」

マジ泣きしてるぞ、良いのかこれ?
しかし美作はクラスで物静かな方だと思ってたのに結構喋るんだなぁ。
――あ、諦めた。

「ねぇ兄さん、何とかまけてもらえないかな?」
「えーっと、さすがにそれは……」
「店の建て直ししたのってうちの大工部なのよ、だからちょっとで良いから値引きしてくれたらお姉さん嬉しいんだけどなー」
「値引きですか。うーん、それはちょっと俺もバイトの身なんで」

さすがに俺の一存で決めれることじゃない、というか出前で値引き交渉なんて初めてだぞ俺。
ですよねー、と呟いて肩を落とす部長さん。
ああ、そんなに胸元緩めて前かがみになると谷間が谷間が。
俺も前かがみになっちゃいそうだ。
慰めて早々にお題をもらって退散するのがよさそうだ、と思ったその瞬間。
部長さんの胸元、後ろで腕組みしながらこちらを見ている美作のスカート、少年と俺のズボンからそれぞれ機械音が鳴り響いた。
部室の奥に目をやるとあの男性もポケットを探っている。
何時もの事なので俺も学生証を取り出して確認。
内容は「この近くの区画で下級ラルヴァ発生、付近の戦闘員登録者は早急に対処にあたるように」とのことだった。

「あー、また出たのね。最近本当に多いなぁ」

同じように生徒証を確認していた部長さんが面倒くさそうに吐き捨てる。
この警告と通達はラルヴァが出現されるとそれを確認した風紀委員が本部に連絡、それが学生証に送られてくるという仕組みらしい。
外道巫女が飯食う片手間に教えてくれた事なので嘘か本当かは定かじゃないが。

「あいつら魂源力の多いところに集まるからねぇ、ここの学生は能力者多いし仕様が無いんだけど」

確かに異能力研究室の講義で習った気がする。
異能力者は一般人よりも魂源力を多く持ち、無意識に使わない分の魂源力が体外へと流れ出す。
それがラルヴァをおびき寄せる効果を持つっていう一つの推論があるとかなんとか言ってたはずだ。
詳しくは覚えてないが。
体外に流れ出せる程の魂源力があるのが羨ましいね、本当。
こちとら魂源力を少しでも使えば即気絶の危険があるくらい雀の涙ほどしか持ってないっていうのに。

「んで、兄さんは行かないの?」
「はい?」
「原付もあるんだし行って退治してきたら良いじゃない、ポイントももらえるし」

ポイントか、ラルヴァを倒したら学生証に振り込まれる双葉区で使える地域通貨のようなものだが。
確かに普通は戦闘員登録してたら我先に退治に行って稼ぐよなぁ。

「あー、俺は戦力にはなりませんから」
「もしかして補助系能力者? 細い体してるし見たままなのね」

自分の能力をわざわざ説明する必要もないし、スルーしておくことにした。
こちとら戦闘員に登録はされてるけど、下級だろうが飛び道具や刃物系を持ったヤツが相手だと普通に死ねるんだ。
以前に戦った目玉とか、金が無いからしょうがなく行った虫退治みたいな真似事はそうそうやってられん。
二礼とかに頼まれたらホイホイ着いて行きそうな気もするが、おっぱいの頼みは断れんしなぁ。
でも、出来る限り戦いたくない。命が幾つあっても足りないし。
しかしこれでも細いけど一応筋肉ついてて無駄な肉無いようにしてるんだけどな、やっぱりヒョロく見られるか。

「そんなところです、そちらは行かないんですか?」
「私達は部で働いてるからポイントなんていらないしね。それに色々あるのよ」
「色々ですか」

部長さんが顔を上げて少し遠くを見る。まぁ確かに人生色々あるわな。
見れば後ろに控えている美作や少年も苦笑いをしていた。
下級ラルヴァなんて種族にはよるが、普通の能力者にとっては割りと美味しい的だというのに。
一向に退治に行こうとしないということは全員何かしらの事情があるのだろうか。

「そう、色々。例えばこんな感じで」
「うおっ!?」
「あ、こら姐さん!」

いきなり両腕をありえない方に曲げる部長さんと、それを見て後ろの美作が怒ったような声を上げる。
普通だったらどうみても折れてるように見えるのだが、良く見てみると二の腕にスリットがあった。
はじめて見たが義腕というやつか。

「おお、兄さん良いリアクションじゃないの。それそれ、私が求めていたのはそういう表情よ」
「驚かせてごめんなさい、部長は悪い人じゃないんです」

少年、それ微妙にフォローになってないぞ――ってヤバイ結構な時間たってるじゃないか。
学生証に表示された時計機能がここに着いてすでに5分近く経過していることを示していた。
早く食ってもらわないとラーメンも伸びるしチャーハンも冷めちまう。

「すいません、お会計を」
「何よ、ノリ悪いわね」
「良いから姐さん早く払ってくださいよ、折角の中華が冷めちゃいます」
「姐さん言うな。あああ、私の諭吉さんがぁ」

何があったのかは知りませんがご愁傷様です。
代金を頂いて、お釣りを返す。
さっきまで豪快に笑っていたのにあっという間に涙目になってるし、表情がころころ変わる人だ。
おっぱいも大きいし、また出前の注文があれば来るとしよう。

「それじゃ、食べ終わったら食器重ねて扉の外に置いてくれれば回収しに来るんで」
「お疲れ様、バイト頑張ってね」
「ありがとう、出前じゃなくて店の方に来てくれると出来たて食えるから次はそっちもよろしく。
 ……部長さん大丈夫なのか?」

 気がついたらイカ座り(?)で地面に座り込んで「晩酌がぁ」とかブツブツ言ってるんだが。
少年が隣で励ましてるようだけど、正直ちょっと怖い。

「気にしないで、何時ものことだから」
「あー、そっか。それじゃまたご贔屓に」

 美作が一切心配してないのもちょっと怖いんだが。
まぁ渡すもの渡してもらうものもらったし、時間も押してるから急いで帰るとしよう。
頭の上半分を覆える原付用ヘルメットを被ってエンジンを回し来た道を戻りだす。
少し走ってからサイドミラーで背後を確認すると、美作がこちらに手を振っているのが見える。
その横で屈んだままの部長さんと横に立っている少年が非常にシュールだった。







 軽くなった財布を持ち上げる。
いや、小銭が増えた分重くなったのかもしれないが額は確実に目減りしている。
具体的には一人しかいなかった諭吉さんが旅立って樋口さんに変わったくらいに目減りした。
目の前で美味しそうにタダメシをかっ食らっている二人と相変わらずの仏頂面で食ってる一人のせいだ。
瞬くんはともかく巌とせーちゃんの二人が心底恨めしい。

「給料日まで後6日もあるのにぃぃ」

 泣きながら自分のチャーハンをかき込む、美味しいけど少ししょっぱい。
食べながら後6日の消費額を考える。
恐らく一日あたりの予算は千円くらいだと思う、でもビールを発泡酒に変えても肴が無い。
食事を削れば飲めないこともない、でも怒られるしなぁ。
結局のところ我慢するしかないわけで。
酒が大好きな身にとって6日も我慢だなんて悪夢にしか思えない、最悪だ。

「あ、そうだ! せーちゃん前借」
「ダメです」
「はやっ! 私まだ全部言ってないわよ!?」
「言わなくてもそろそろ言うだろうと思ってましたから」

 私偉い部長さんの筈なのにぃ。
やっぱり財布の紐握ってるやつが一番偉いということか。
チャーハンの最後の一口を頬張って時計を見るともうすぐ午後1時。
馬鹿ばっかやってる暇あったら仕事して忘れた方がマシか。
三人とも食べ終わったみたいやし、お仕事の時間ね。

「……いっつも思うんだけど、せーちゃん食べるの早過ぎじゃない?」
「ちゃんと噛んでますよ?」
「なら良いんだけど、んじゃ創(そう)に連絡入れて。在庫まだあった筈だけど足りなかったら発注しないとダメだし」
「はーい」
「瞬くんは皆の点呼と体調確認、その後は材料移動するから何時も通り創の所へ移動ね」
「はい、分かりました」
「巌は風紀委員に提出する書類上がったら言って、私提出してくるから」
「了解」

 嫌なことは忘れてお仕事お仕事、働かないとご飯もお酒もタバコも食べれないからねー。
立ち上がると、ふと卓上の日めくりではなく壁にかけられたカレンダーが目に入った。
本当に何気なく目に入った日付7月11日、三年前に当時の目標にしていた学園のアイドルが死んだ日。
それと意識の外に締めだそうとしても入ってくる、それから丁度二週間後の今日の日付7月25日。
忘れたはずなのに忘れられない。
すっかり癒えた筈の肩口が、ズキリと痛んだ気がした。







                               第一話 END




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