【キャンパス・ライフ2 その4】


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 2016年の双葉学園には、名の知れた異能者が二人いた。
 その名は立浪みかと、立浪みき。
 猫の力を使い、率先して強力なラルヴァと戦ってきた意欲のある異能者であった。長女の人懐っこさや次女の大人しさは多くの生徒たちに好感を与え、親交を深めたり、共闘したりした生徒も多かった。
 そんな「学園のアイドル」である二人も、学部長と与田光一の干渉によって悲劇的な運命へと導かれていった。
『血塗れ仔猫』の力に飲み込まれたみきが学園内で暴走し、大惨事を引き起こしてしまったのだ。高等部の校庭に生徒たちの血が流れるという、真夏の悪夢であった。
 暴走した彼女を、長女とその仲間たち止めることに成功する。その時点では、誰もが事態は丸く収まったと思い込んでいた。


 しかし、その後姉妹は何者かによって抹殺されてしまった。


 一通り語り終えた藤神門御鈴は、書物をパタンと閉じて、デスクの脇に寄せる。
 雅は何もものを言えずに下を向いていた。思ったり感じたりしたことは、色々とたくさんある。
 まず、与田光一が自分のみならず、立浪姉妹にとっても因縁深い敵であったことだ。これにはひどく驚かされたし、彼に対して好意的に接してしまった自分の甘さを強く恥じた。
『いい? そういう種類の人間はとってもキケンなの。まして研究者なんでしょ? その与田って人間。ますます危ういじゃない! ちょっと頭使えばわかることじゃない!』
 みくの言っていたことは正解だった。それに対して、自分はどれだけひどい態度でみくに突き返したことだろう?
 あの子が自分のことを心配する気持ちは本物だった。みくは本気で自分のことを心配していたのだ。
 それを、自分はあの子を泣かすことで手ひどく無視してしまった・・・・・・。
 そんなあの夕飯の思い出が、今となってはただただ悲しい。雅は今すぐにでもみくに会いたいと思った。会って、謝って、思い切り抱きしめたいと、彼は無性にみくのことを愛おしく思ったのである。
 そして次に驚いたのが、会長の始めた2016年の物語の主役が、みくのお姉さんであったことだった。これも衝撃であった。
 立浪みきが血塗れ仔猫だったなんて。
 こうして醒徒会室にわざわざ呼び出され、話を聞かされた中で、これが一番驚愕した真実であった。
『ラルヴァ』の血に飲み込まれ、無差別に学園生徒を襲った恐怖の異形。今もこの島のどこかに息を潜める漆黒の魔女。彼女がそうなってしまった経緯も考えさせるものがあったし、何より気になっているのが、実妹であるみくがこの事実をどう受け止めるのかということだ。
 今、彼女はこの島にいない。自分の前から姿を消して久しい。
 戻ってきたらすぐに、血塗れ仔猫の事件を知るだろう。いや、会長の配信した動画を見ているのならすでに知っていると思われる。もしももう一度会えたら、いったいどのような言葉をかけてあげたらいいのか・・・・・・。
「でも、会長」と、雅は口を開く。「立浪みきさんは元に戻ったんですよね? お姉さんと仲間の呼びかけで、自分を取り戻したんですよね? ではどうして、この夏に血塗れ仔猫が出現しているのでしょうか。みきさんとは別人なのでしょうか?」
「ふむ、それは当然抱く疑問であるな、遠藤雅」
 と、少女は雅のほうをしっかり見て言う。
「恐らく今この島にいる血塗れ仔猫は、立浪みき本人だろう。彼女は生きている可能性が高いからだ。ここだけの話だが、彼女を始末したのは当時の醒徒会メンバーだということがわかっている」
「せ、醒徒会が?」と、雅は大きな声を出した。
「当時の彼らがこっそり記録を残してくれたのだ。醒徒会としてやらなければならないことであったとはいえ、学園生徒を粛清しなければならなかったのは相当に無念であっただろうな。彼らはどうしても、学園の生徒である立浪みきを殺せなかった。・・・・・・ワザと外したのだ。銃弾を」
「じゃあ・・・・・・みきさんは生きて・・・・・・?」
「島に帰ってきたのだと私は思っておる。血塗れ仔猫に関しては、うちの龍河がよく知っていた。彼は三年前もあの現場にいたから、先日お前と一緒に遭遇したとき、すぐわかったようだ。そこから我々の独自調査も一気に進展を見せた。血塗れ仔猫の正体、変貌のいきさつ、戦闘スタイル・・・・・・。解明に時間はほとんどかからなかった」
 雅は龍河弾とともに遭遇した、夜道に浮かぶ二つの赤い点を思い浮かべる。
「これも公には出せない極秘事項だが・・・・・・立浪みかを殺害した者は、与田光一だ」
 会長から与田の名前が再び出たとき、雅は目を大きく開けて眼球を震わせる。
「しかし、与田はその件で当時の学部長から表彰されている。学園に現れた上級ラルヴァの脅威を抑止したことで、表彰されたのだ。言い換えれば、学園は、姉妹を死に追いやった彼を『評価』したということだ。姉妹はその上級ラルヴァによって倒されたということにでっちあげられている。でも、私はどう見ても、それは姉妹を消したことに対する学部長からのご褒美にしか見えないのだ・・・・・・」
 と、御鈴はとても悲しそうにしてそう言った。


 トンボのつがいが追いかけっこをしている。雅の頭上をくるくる旋廻してから、遠くの双葉山へ跳んでいった。
 それを、雅は切ない目をして見つめていた。みかとみきはさぞ無念だと思うし、みくはこの事実をいったいどう受け入れればいいのだろうと思う。猫の血。姉妹の末路。血塗れ仔猫。あの小さな背中に背負うものはあまりにも多すぎて、重たすぎる。
 あんな感情豊かな可愛い子供が、凶暴なラルヴァだなんて。雅はどうやって、みくと向き合っていいかがわからなかった。みくが自分にとって大切な存在なだけに、どうしたら彼女のことを守ってあげられるかが、わからなかった。
 副会長にいただいた水を一口飲んでから、大きく息を吐く。タオルで首もとの汗を拭う。もうそろそろ九月になるが、依然として午後は暑い。ツクツクボウシが思い切り泣き喚いてからどっと押し寄せる静寂に、夏の終わりを感じる。
 夏はまだ終わってないぞと、セミが再び鳴きだしたそのときだった。
 陽炎ゆらめく道の先にて、巨大なカラスがこちらをじっと見つめている。それはとても懐かしい、雅がこの双葉島にやってきて初めて遭遇した種類のラルヴァであった。
 雅はカバンの中から短剣を取り出した。護身用として手に入れたものだ。
 カラスはよだれを滴らせながら、ゆっくりこちらに接近してきた。雅はそれを見て、不敵に微笑む。
「ふふ。この夏の間に、僕は変わったんだぞ。伊達に二ヶ月間みっちり修行してないぞ」
 そう、右手にダガーナイフを握り締めた。学園で毎日、何時間もかけて練習してきた護身術。訓練の成果を今ここで・・・・・・。
 しかし、真っ直ぐ突っ込んできたくちばしをナイフで受け止めたとき。いともたやすくダガーナイフは折れてしまった。
「・・・・・・そんなのアリか」
 潔く後ろを向いた。雅は肩にかけているカバンをばたばた揺らしながら逃亡する。その背後を、カラスが鋭利なくちばしを向けてダイブしてくる。「ひいい!」と、雅は前に転がりこんで強襲を回避した。くちばしの激突した道路に穴が開いてしまった。
 やはり戦闘向きではない自分は、単独では行動できないのか? それは非常に悔しいことだった。
 みくは姉を亡くして一人ぼっちになってから、強くなるために努力してきたという。料理も一人でやってきたし、積極的に敵と戦ってきたという。若干九歳で、何という立派な心がけか。
 それに比べて、自分は何なのか? 雅はこの夏、ずっとみくと自分を比較しては努力をしてきた。自分だって異能者として、強くならなければいけないのだ。もう十九にもなる異能者なのに、いつまでも一般人のように弱いままではいけなかった。高等部の才能溢れる異能者たちと訓練場で会って話をするたび、そのようなことを思わされてきたものだった。西院茜燦くん。菅誠司さん・・・・・・。
 何よりも、今日までひたむきに頑張り続けてきたきっかけは、やはり与田との一件だった。
 異能者としての未熟さが露呈した悲しい事件だった。自分の異能・治癒能力を与田光一に狙われ、多くの人間に迷惑をかけた。自分は騙されてしまったことに深く傷つき、パートナーの立浪みくを失ってしまった。
 それらはすべて、自分が弱かったせいなのだ。自分の弱さに起因する犠牲なのだ。
 雅はみくのいなくなった寂しいアパートの一室で、一人、ずっと後悔に暮れていた・・・・・・。
「だから・・・・・・強くなろうと思ったのになあ・・・・・・」
 勝てないなら勝てないで、もう仕方ないことだった。逃げるしかなかった。また強くなって仕返しでもすればいい。雅は真っ直ぐ前を向いて走り続ける。
 だが。
 カラスの能力である「突風」を背中に食らってしまい、雅は転倒した。
 横に転がって仰向けになると、カラスがみしみしとアスファルトに足音を響かせて、近づいてきていた。今は夏休みで、通りすがる異能者の学生もいない。さらに今の自分には武器もない。
 黒い巨体が真夏の青空をドンと塞ぐ。頭を上に傾けてくちばしを天高くかざし、雅の頭を粉々にしようとしていた。
「ごめん、みく・・・・・・!」
 そう、雅は「愛する」パートナーの名前を呟いてから、歯を食いしばった。
 ところが――。
 雅の背後から、太陽を背にして飛び上がった黒い影――。
 それはくるんと宙で回り、むき出しになった爪でカラスの体を切りつける! 雅の目の前にてその影は着地した。
 カラスが醜い叫び声を上げているなか、雅はその小さな背中に懐かしい髪の香りを認める。白い猫耳と尻尾を生やした彼女は、両手の爪であっという間にこの下級ラルヴァを粉々に切り刻んでしまった。黒い羽がぱらぱらとあたりに散らばった。
 カラス相手に苦戦していた数ヶ月前を、彼女は覚えているのだろうか? そのときとは比べ物にならないぐらい、この猫の少女は格段に強くなっていた。
「あ・・・・・・あ・・・・・・!」
 彼は震える。涙を滲ませる。
「・・・・・・何泣いてるのよ、泣いてる場合じゃないでしょ?」
 それでも雅は、溢れ出てくる涙を抑えることができない。その場で留まることができなくなり、とうとうその少女に抱きついてしまった。彼は子供みたいにわんわん泣いた。
「泣かないで。泣かないでよ、もう。泣き虫」
 立浪みくもたくさん涙を零しながら、年甲斐もなく泣きわめいている雅を優しく抱きしめたのであった。


 みくは緊張しながら、久しぶりに雅の部屋に入る。まず彼女の目に入ってきたのは、足元に寄ってきた三匹の黒猫。
「この子たちどうしたの・・・・・・? もしかして、あのアイの子ども?」
「そうだよ。一ヶ月前くらいに産まれたんだ」
 と、雅はみくに仔猫たちを紹介し始める。
 緑の目をしているのが、『リリー』
 黄と青のオッドアイが『メフィー』
 黄色い瞳の子が『メイジー』。
「まさかこんなにも賑やかになってるとはねえ。あっ・・・・・・?」
 狭いキッチンを抜けて、みくは小走りで居間に入る。驚きの表情を浮かべた後、ぐすぐす泣き出してしまった。雅も照れくさそうにして頬を掻きながら、そっぽを向いていた。
「あの笹の葉・・・・・・。まだ生きてたのね。嘘みたい・・・・・・」
 みくが七夕のときに取ってきた笹が、あの日のままで窓際にかけられていたのだ。しっかりと枝が伸びており、葉はどの箇所も一切枯れていない、深緑の色を保っていた。
「僕が、毎日『治癒』をかけてたんだ」
「え?」と、みくが雅のほうを向く。
「みくが帰ってくるまでね、枯らしたくなかったんだ。絶対に一緒に七夕をやるんだって思ってた。みくだってあの日、そう思いながら僕のことを待ってたんだろ?」
「マサぁ・・・・・・」
「・・・・・・寂しがらせてごめんね。意地悪言ってごめんね。僕はやっぱり、みくがいないとダメみたいだ。さっきの戦いも、そうだったし」
 今度はみくが雅に抱きつく。その小さな頭を撫でてやりながら、雅はとても安心した。
 やはり自分はこうでなくてはならない。みくと一緒に戦っていくのが、自分のスタイルなのだ。かけがえのないパートナーの復帰を彼は心から喜んだ。


 その後、夏休み前に戻ったかのような楽しい時間が流れていった。
 まず、みくにぶつぶつ小言をぶつけられながら、掃除の行き届いてなかった部屋を掃除した。
 次に、みくにぎゃーぎゃー怒られながら、買いだめをしておいたインスタントの食品をすべて捨てられた。
 それから最後に、みくに真正面からぶん殴られながら、いかがわしい週刊誌を根こそぎ捨てられてしまった。
 久々にまともな夕飯を口にしたとき、雅はあまりの味わい深さに嗚咽を漏らしてしまう。極端にしょっぱかったりどこか苦かったりする、体力の付かないコンビニ弁当やカップラーメンとは雲泥の差であった。夏バテ寸前だった自分の体が悦んでいる。
「あんた、どんだけ家事能力ないのよ・・・・・・」と、みくに唖然とされてしまった。


 風呂から上がってベッドの布団をめくると、すでに少女はそこで横になっている。
「えへへ」
「・・・・・・照れくさいからよせやい」
「うん? 子供を扱うような、昔の余裕ある態度はどこにいってしまわれたの? だんなさま?」
「ふ、フン!」
 電気を消して、雅も横になった。むすっとした表情をしてみくに背中を向ける。そんな彼にみくはぴったりくっついた。
「あったかーい。やっぱ一人ぼっちはよくないネ」
「・・・・・・」
「んもう。夏休み前とかしょっちゅうこうしてたじゃない。まるで妹さんの面倒見てるみたいだって一緒に寝てくれたじゃない。どうしてそんなに黙り込んじゃってるの? ねえねえ!」
 とくとくと熱い血をめぐらせる自分の心臓。この夏はずっと一人ぼっちで過ごしていて、正直こたえていた。背後にいるこの女の子が、こんなにも自分を慕ってくれていたことを実感できたし、みくがいなければ戦っていくことすらできないということも痛感した。
 ・・・・・・だからといって、この小学生に対してこんな切ない気持ちになっているのは、いったいどうしたことだろう。母さん。僕は変態なのかもしれません。理性があるうちに謝罪します。人の道を踏み外してしまう前に懺悔します。とんでもない変態でごめんなさい。そんなことを雅は悶々と思っていた。
「こっち向いて、マサ」
 雅はしぶしぶ、横に転がってみくと向き合う。彼女のつぶらな瞳はほのかに黄色く燃えており、暗闇の中で浮かび上がっていた。
「私はね、『ラルヴァ』なんだって」
 びっくりして、雅は目を開いた。それはすでに知っている事実ではあったが、こうしてみくの方から話を切り出されるとは思ってもみなかった。
「私の猫の血筋はラルヴァのもので、下手したら島のみんなに危害を加える可能性もあるんだって。私には二人お姉ちゃんがいるけど、みかお姉ちゃんも、みきお姉ちゃんも、『ラルヴァ』の血を引いてるから学校のみんなに殺されちゃった。もっと言えば、みきお姉ちゃんは本当は生きてて・・・・・・『血塗れ仔猫』として元気にやってるみたいじゃないの」
「みく・・・・・・」
「マサ、聞いて」と、みくは真面目な顔つきになって言う。「私がね、みきお姉ちゃんを止めてあげようと思うの。あの人はおっとりしてて、戦いを嫌がるような優しい人だった。絶対に、今も心のなかで泣いていると思う。たとえ刺し違えるようなことがあっても、みきお姉ちゃんの暴走を止めてあげたい。・・・・・・みかお姉ちゃんだったら、きっとそうすると思うしね」
 雅は無言でみくを抱きしめてあげる。初めて布団の中で抱きしめてもらえたみくは、「嬉しい」とうっとりこぼした。
「・・・・・・私は周りの人間や与田が何と言おうが、『ラルヴァ』なんかじゃない。絶対に周りの人たちを傷つけないし、怒りに任せて暴走なんてしないわ。だって、私はただの異能者じゃなくて、マサの『飼い猫』なんだから」
「え」
 雅がその意味深な一言に反応した瞬間、真っ暗な部屋に閃光が走る。みくの体が急に発光したため、たまらず雅は目をぎゅっと瞑ってしまう。
 発光が落ち着いたとき。白いふさふさの猫耳と、口元から覗く小ぶりの牙と、まん丸の金の瞳が彼をじっと捉えていた。猫の女の子はとても愛らしく、それでいて力強い意志に満ち溢れた凛とした表情をしていた。
「私はマサの『飼い猫』なんだから。そうよ、『ラルヴァ』なんかじゃないの。私はあんたの『飼い猫』なんです」
 それからみくは、しっかりとした口調でこう言う。雅に宣誓するようひとことひとこと、慎重に言う。それはまるで何かの呪文のようであった。
 私は、愛する人を守るために力を使います。
 私は、愛する人を守るためにいる猫の少女です。
 私は、マサを守るために力を使う、マサの『飼い猫』です。
「だから・・・・・・ください」
 そしてみくは目を閉じ、小さな唇を雅に向けた。雅はそれにものすごく驚かされたが、唾をごくりと飲み込んで、しっかり彼女と向き合った。
 自分はみくがいないと戦えない。みくがいないと暮らしていけないし、何より寂しい。それに与田のときや七夕のときのことを思えば、もう、一人の男としてやらなければならないことがあった。
 意を決し、みくの唇に自分の唇を重ね合わせた。触れ合った瞬間、びくんと震えたみくの体をぎゅっと抱きしめてあげる。母さん、どうか見ていてください。これが自分の選択です。この子が自分の愛する女性です。そう、心の中で堂々と言いながら。
 みくは雅から離れると、しっとり潤んだ瞳を見せてから「えへへ・・・・・・」と笑った。唇の先に残った唾液を人差し指で拭い、それをしゃぶる。雅は不覚にもそれにときめいてしまう。
「これで・・・・・・これで、私は『ラルヴァ』なんかじゃないんだから・・・・・・!」
 どういうことだい、みく? と、雅が言おうとしたときだ。
 みくの首周りが白く光った。彼女の首を取り巻いている光は、やがてはっきりとした形を作り出す。
 同時に、なにやら熱を感じて目を向けた自分の左手首にも、何か輪が形成されつつあった。それはやがて茶色い皮製の「腕輪」となる。よくよく目を凝らすと「miku」と刺繍がされてあった。
 そしてみくの首元にも、大きな茶色い「首輪」が形成された。首輪は白い猫耳によく似合っており、彼女はまさに飼い猫を思わせる姿をしていた。雅は半ば呆けた顔をしてそれを眺めていた。
「これが私たち姉妹の、完全な姿よ」と、みくは言う。「私たちは愛する人のために自分の異能を使う種族。みかお姉ちゃんもみきお姉ちゃんも、学園のみんなのために戦ってきた。けど、もともとはこうするためにあるものなの。私は、立浪みくは、これからご主人様のために命をかけて戦います。よろしくお願いします、『ご主人様』」
「そんな、飼い猫とかご主人様とか、そんな主従関係なんていらないよ。僕はただこれまで通り、みくと一緒に過ごしていければ」
 そう困惑しながら雅が言うと、みくはニッと不敵に笑いながらこんなことを言った。
「勘違いしてるようだけど、もっと言えば私はあんたの所有物であり、あんたは私の所有物であるってことなのよ? 私とあんたとで交わした契約みたいなもんね。そこんとこよろしくね、『ご主人様』?」
 みくは満足そうに牙を見せてにっこり笑うと、「大好き!」と言いながらまた雅の胸に飛び込んできた。


 こうして遠藤雅と立浪みくは、血塗れ仔猫との戦いの前に『主従の契約』を結んだのであった。


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