【真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ 3-1】


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真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ 三節


3-1 謎/緊急討議より


――午前4時 双葉学園北西地区ゲート中央建物。
「新しい朝が来た♪ 希望の朝ー♪」
「朝~朝だよ~♪ 朝ご飯食べて~学校行くよ~♪」
 ああ! 早朝から五月蠅い! まだ4時じゃねーか!! まったく誰だよ、おかしなの携帯電話に入れたのは!!
「うるせぇぞ!! そんな着音やら目覚ましは6時以降に掛けやがれ!! 此方はやっと寝られたのによ!!」
 流石に間違いで鳴らしたとは言え、前番の立哨に立っていた面々は本気で怒った。それはそうだろう、終わってから寝て大体一時間しか寝られずに叩き起こされたのだから。
 北西地区の戦闘終結後、私達は明朝までの待機を指示されたため、北東地区に援軍を送った者を除き2交代制の『立哨』を始めた。6時までの立哨任務のため3時間しか寝られない為にイライラとしている者も少なくない。
 因みに私は一年の御堂 瞬と協同で手の空いていた一年を、物資と共に送ったために(複数送るときには目標に触らなくてはいけない為、御堂には装備を送らせる)、大学部の遠藤の指示で私と御堂は立哨をせずに一晩休むことが出来た。
 何、私と御堂の貞操が危ないって? それは大丈夫。この建物には内側から鍵を掛けるベッド付きの個室が6部屋程有って、私と御堂はそこの部屋で寝ることが出来たからだ。
「良いのでしょうか、星崎さん……堂々と朝まで寝てしまって」
「いや、ここは御言葉に甘えて寝てしまおう。と言うか、私は寝たい……流石にハードだったよ」
 私と御堂は取り敢えず一言二言言葉を交わした後、隣り合わせの部屋に入って鍵を掛け、そのままベッドに寝転がって午前4時まで眠っていた次第だ。
 軽く鈍い疲労感と眠気からくる重力に引っ張られて身体の重さに耐えきれず、私はそのままベッドに突っ伏して寝てしまう。
 流石に外の不快指数がかなり上昇しているし悪いとは思うのだが、連荘で人をテレポートさせた反動と眠気には勝てなかった。

 北西地区に於ける『立哨』は、千鶴が門に立たせた罠として作った『氷壁』が殆ど溶けずにそびえているため、建物の屋上からサーチライトを照らすだけでよく、実際は宛ら気楽なものだった。
『真琴ちゃん、真琴ちゃん、起きれるかなぁ?』
 地球の重力に負けて三分位経った頃だろうか、私の腕に巻いている簡易通信機から千鶴の声が聞こえてくる。
「んんー……大丈夫よぅ~……」
『駄目そう。眠そうね……でも、来るだけでも良いから降りて来な? 中等部が輸送隊組んで私達に食料を運んできてくれたから』
 何、中等部が食糧の輸送? 私はそれを聞くと、眠くて地球の重力に負けていた身体がムクムクと起き出す。我ながら現金だなと苦笑いが出るが、背伸びをして身体を伸ばして部屋を出て千鶴達の居る階下に降りる。
 下に降りると、寝ていた面々がゾロゾロと眠く重い身体を引きずりながら下に降りていく様が見える。三浦に千鶴、坂上撫子、菅誠司が階段の前で私を待っていた。
「おっす真琴ちゃん、本当に眠そうだね。建物の裏側の広場に中等部の輸送隊が私達の『夜食』を配るスペースを設置したのよ」
 夜食? こんな時間に。急に何か嫌な予感がしてきたな。何か問題でも起こったかな?
「中途半端な時間だな」
 と三浦。誰しもがそう思うだろう。そもそも夜食ならもっと早い時間、遅くても深夜2時に配ってもおかしくないのだから。
「いや多分、中等部の生徒と教師が運んでいるからな、確実に安全地帯でもなければ来させられないのだろうよ」
 三浦の反論のように坂上は言い置いた。そもそもこの中等部は私達が戦っていた間は校舎本丸の哨戒で臨戦態勢を取っており、一度戦闘が終結したら輸送隊をやるのだ。大変である。
「せいちゃん、お腹空いた?」
「空いた」
 千鶴も菅も雑談している。私は楽しそうに話している面々の様子を見ながら、後に続くように歩いていた。私は千鶴のように社交的な人間ではないから、少しばかり苦手なのだ。
「おおーう、もう集まっているねぇ」
 建物の裏手にあるかなり広いスペースは既に中等部が炊き出しの要領で『夜食』を配り始めており、起きられた面々は順に『夜食』を受け取ってまた建物に戻っていく。
「塩おにぎり二個にたくあん二切れ、鶏の唐揚げ二個にお味噌汁。オマケにお茶かぁ……夜食にしては豪勢ねぇ」
 千鶴は既に夜食を受け取った生徒の持っている物を見て言い置く。塩おにぎりとたくあん、鶏の唐揚げは一つのパックに詰め、味噌汁を容器によそり、お茶はペットボトルで渡されており、臨時の夜食の配膳としてはかなり豪華な物だった。
「きたきた、私達の番ね……おおっ絵理ちゃん!」
 『夜食』を受け取る順番が回ってきたときに、配給係の中等部の女の子を見て千鶴は妙な声を上げる。私は千鶴の目線の先を追うと長い髪をツインテールに結わき、目がぱっちりとして大きい眼鏡を掛けた女の子が立っている。
「あ、千鶴御姉様♪ 北西で兄さんと大暴れしているって聞いたんですけど、本当だったんですね!」
 千鶴『御姉様』? 『兄さん』? どうなってるんだ?? 私はとんと分らなかった。
「千鶴……この子知り合い?」
「知り合いも知り合い、この子は三浦絵理って言ってね」
「俺の……妹です」
 私の疑問に千鶴と三浦が息を合わして掛け合いをするかのように答えた。何、三浦の妹だと!?
「三浦君の……妹?」
「はい、三浦孝和の妹の三浦絵理(みうら えり)って言います。貴女は差し詰め真琴先輩ですよね? 兄からいつも聞いています」
 かなりおっとりとして、礼儀正しく私に挨拶する。
「それにしても兄さん、念願叶ったね」
「な…何を言っているんだ絵理……」
 私を見つつ、絵理は三浦にこんな事を言う。もの凄く嫌な予感がしますが。
「『御姉様風で巨乳、グラマー、S気のある女王様気質』な女の子なんて、そんなのは幻想っていつも言って……むぐぅっ!!」
 とんでもない事をのたまる絵理を、三浦は咄嗟に彼女の頬を左右外側に力一杯引っ張り上げた。それにしてもこの野郎、私を何だと……!
「いらい! いらいお!! にいあん……」
「止めろ。女の子の頬を引っ張るな!」
 私は気が付いたらこんな言葉と共に、絵理を私の後ろに転移させて放してやる。
「あ、絵理が消えた……うっ」
 多分私は怖い顔をしていたのだろう、三浦は少したじろいでいた。
「ううー……痛かったよー」
「全く、女の子を抓るなんて……ごめんね?」
 半分涙目の絵理の目を見ながら一言謝る。私は悪くはないと思うが、私の件でこうなったのだろうから。
「ううん……気になさらないで下さい。何時ものことなので」
 何時も? 何時もだと?
「お前は何時も妹に八つ当たりしているのか!」
「ちっ…違いますって!!」
「ああっ! 真琴先輩違うんですっ」
 三浦兄妹との掛け合いで、すっかり周りに人が集まってしまった。端から見たこの光景は宛ら夫婦喧嘩に見えなくもない。方々から薄ら笑いが聞こえてくる。
「あ、始まった。星崎と三浦の喧嘩」
「夫婦喧嘩だねぇ」
 嘲笑が聞こえてくる頃になると千鶴が後ろから現れ、困ったような表情を浮かべながらそっと呟いた。
「と…取り敢えずさ、配給品受け取って列から出よ? ねぇ、絵理ちゃん借りるね?」
「了解しました♪」
 千鶴は横で絵理と同じ仕事をやっていた時坂一観に一言言い置くと、全員に配給を受け取らせて、絵理を含む全員を早々に列から出さした。
「ごめんね、一観ちゃん。ちょっとお願い」
「気にしない、気にしない♪」
 絵理は申し訳なさそうに言うが、一観は笑顔で絵理が気にしない様に答えた。勿論、笑いを堪えている様だが。

「ごめんなさい真琴先輩」
「謝る必要はないよ、私がエキサイトしただけなのだから」
 2~3分程経過した後、私は絵理と二人で建物の壁側に立って話していた。
「それにしても、三浦君に妹さんが居たとは思わなかった。かなり意外で新鮮よ?」
「あはは……でも、夕食は兄妹で学園の食堂などで食べていたりするんですよ?」
 それは意外だ。あのがっつりとした三浦と絵理の食事風景が想像できない。でも兄弟で昼食や夕食を取るのは私だけではなかったんだな。私も姉と朝昼晩と一緒に過ごしているから。
「あっ……真琴先輩、右肘に怪我が」
 絵理は私の右肘に指を差して指摘する。私でも気が付かなかったが、右肘が無数の擦り傷が刻まれていた。多分空飛ぶラルヴァが建物に強襲を仕掛けたときだろうか、その殆どが血小板が出ている状態だった。
「痛みより疲れの方が目立っていたからかな……はは、気が付かなかったよ」
「真琴先輩、ちょっと貸してみて下さいね」
 すると絵理は私の腕を持って傷口に手を翳し、目を瞑って精神を集中させた。
「これは……まさか『治癒』?」
「そうです」
 手が光ると傷に気が付いた時に感じる痛みが徐々に治まり、ゆっくりと傷が塞がっていく。しかし、その間絵理の瞳孔が青く光り放たれる。
「……治癒中、私におかしな事が起こりますが気にしないで下さいね」
 絵理は多分、瞳孔が青く光ることを自覚しているのだろう。
「私の師匠である星崎美沙さんが言うには、まだ私が経験不足なのと発展途上だからだそうです」
 星崎美沙……だと? 私の姉が三浦の妹を指導していたというのか??
「あー……その星崎美沙は私の姉だわ」
 そう一言言うと、絵理は驚いた表情で私の顔を見た。これは、彼女は素で知らなかったな。
「うーん、三浦君から私の『名前』しか聞いて無いわね? 私の『名字』は星崎で、星崎美沙は私の実の姉……姉は私の事を何も言っていなかったかしら?」
「ごめんなさい、何も聞いていなかったのです」
 はっとした表情を浮かべて下を向いてしまう。別に怒っている訳じゃなかったのだが、彼女は気にしているようだった。
「あ、いや、怒っている訳ではないんだ。姉が人を鍛えているなんて初耳だったし、姉に似た治癒能力持っていたのも意外だったからさ」
 そう一言付け加えると、絵理はぱぁっと明るい表情を浮かべて私に説明する。
「私と美沙さんの能力は『魂源力』の原理や異能力の原理が似ているようなのです。私が初等部に入った時に美沙さんを先生から紹介されて出会ったんですよ。何時も妹のように可愛がってくれて」
 絵理は楽しそうに私に説明する。美沙は本当に優しく接しているのだなと実感した。だが、それと同時に姉との過去を鑑みて自分の陰を絵理に重ね合わせて考えている自分が居ることに気が付く。
 しかし思考が脳内で具現化することがなく、この状況に気が付いた私の感覚は極めて気持ちの悪い物だった。
「絵理さん、貴女はお兄さん好き?」
 私は気が付くと、絵理にこんな事を聞いていた。

「私は好きですよ。学校のみんなには『ドスケベ』って言われているほど女の子好きだけど……私にとっては大切な兄ですし、私のことを守ってくれる兄ですから」

「そう」
 絵理の返答を聞くと、私は妙に煮え切らない答え方で答えていた。
「絵理~! そろそろ助けて~!!」
 話し込んでいる私と絵理に、悲鳴にも似た時坂一観が叫び声の様相で声を掛ける。見れば配給の列がどんどんと長くなっており、配っている中等部の生徒が忙しくなっていた。
「ああ、長く話し込んでしまったようですね……真琴先輩、そろそろ行きますね。では失礼します」
「ええ、ありがとうね」
 絵理は私にお辞儀をして、走るように配給係に戻っていく。私は見届けると、配給で貰った味噌汁に一口口を付け、塩おにぎりを一口・二口と口に入れていた。
「真琴ちゃん、絵里ちゃんと話し込んでいたねぇ」
「礼儀正しい子だったよ、まさか姉と同じ能力持っていたとも思わなかったし」
 そんな私に千鶴が声を掛けてくる。性格がしっかりしており、『三浦に似てない』なんて無粋なことを口の先まで出かかっていたが、極めて礼儀正しい姿と最後の質問の答えを聞くと、そんな皮肉は自然と出なかった。
 それどころか姉の関わりは関係なく、どことなく人として好感が持てたのは気のせいだろうか。
「……ねぇ千鶴、私ってSかな」
「うん、Sだね」
 最初絵理が言っていたどうにも引っ掛かる事をつい聞いてみたが、此方は全く容赦ないな。


――午前6時 双葉学園北西地区ゲート中央建物。
 配られた『夜食』を平らげると、私は寝ていた個室に戻って残りの時間をまた寝て過ごしていた。
 全員に配給品が行き届いたのはあれから30分後で、これらの配給食料は学園本丸での臨戦態勢の陰で後衛陣が作っていたのだという。そう考えると、中等部の疲労度は高等部のそれを遙かに上回っていたに違いない。
 彼女達は配給が終わるとさっと後片付けを行ない、そのまま校舎に引き返していった。気になる言葉を残して。

『もしかしたら、戒厳令が出る可能性がある』

 中等部が校舎に引き上げる際、中等部教師や絵理がこんな事をまことしやかに話していた。
 本来、『戒厳』とは立憲主義に基づく法治国家において、憲法以下法令において定める国家緊急権(非常事態権)に基づき、戦時において兵力をもって一地域あるいは全国を警備する場合において、国民の権利を保障した法律の一部の効力を停止し、行政権・司法権の一部ないし全部を軍隊の権力下に移行すること及びそれについて規定した法令で、簡単に言ってしまえば『非常事態宣言(日本では国家非常事態)』に他ならない。
 しかしここで言う特殊教育機関『双葉学園』に於ける『戒厳』とは、『対ラルヴァ』の基本指針に於けるもので上記とは差異がある。
 つまりこれが発令されると、双葉学園を大学部中心として『軍隊』に見なして双葉区を発令中は支配、上記の行動と共に『学園外への外出禁止』、『双葉区へのアクセス封鎖』、『常時武装での臨戦態勢』、『機密保全による秘匿行動』、『学園自体の武装』の五つを基本とした行動指針に縛られる事となり、寮に住んでいない者は学園食堂に併設されている宿泊用の大部屋で寝起きさせられることになるわけだ。
 過去、対ラルヴァの『戒厳』は例が無く、戦々恐々な雰囲気で北西地区はこの話題で持ちきりだった。この為出された『夜食』も、『戒厳』を出すための緊急の布石ではないのかと言うもっぱらの噂であった。
 但し『戒厳令』発令中は学食・カフェテラス・購買が半額、下手をすれば無料になるオマケもあるにはあるのだが。
「……まずいぜ、戒厳令が出たらバイトできなくなるぜ」
 こんな状況で、拍手はぽつりぽつりと愚痴にも似た不安な言葉を吐き出す。
 拍手敬のようにアルバイトに明け暮れている学生にとっては非常に死活問題になるのだが、そもそもこの『戒厳』は対ラルヴァの緊急事態に付随して生徒達や双葉区住民を守る目的もあるので我慢するしかない。

『此方は『醒徒会』、双葉学園総員に告ぐ。我が双葉学園及び双葉区全域に対し『国家非常事態』を宣言、6時をもって『戒厳令』を発令した。繰り返す、双葉学園及び双葉区全域に対し……』

 だが、不意に突如として学園全体に向けて緊急放送が流れ、双葉区全域に『国家非常事態』が発令された旨が響き渡った。
 恐れていた事態が本当に起こってしまった。夢現だった私の精神状態も、この放送で一気に覚醒するに至ってしまう。
「マジかよ!! ああ……嘘だと言ってくれ……」
 拍手は頭を抱えてその場で崩れてしまった。これだけ大規模な襲撃があった事を鑑みれば、当然起こりうる事態だとは思うのだが。
 まぁ諦めな、拍手……。


――同時刻 双葉学園大会議室。
 双葉区全域に『国家非常事態』が発令された裏で、学園内の大会議室では今後の対応などの協議を含めた緊急会議が招集されていた。
 教師達に醒徒会、各種委員、今回の襲撃の大学部援軍に出た学生などかなりの人数が円を組むような形で座り、招集より漂う極めて重い空気の中会議が始まった。
「網の目の様に双葉区どころか、周囲の23区、更には伊豆諸島にも監視カメラやリスニング・ポストが配置されているのに、今回の襲撃が防げなかったのは何故だ?」
「今、それは全ての監視カメラやリスニング・ポストの辻褄を合わしている最中ですので、答えはもう少ししないとどうにも」
 開始早々口火を切って始まったのは、今回の襲撃に関することだった。
「ラルヴァ達の進行方向は分らないのか?」
「今も答えましたが、解析中です。会議中に報告が上がれば御の字でしょう」
 ある教師が問い合わせるように聞くと、風紀委員の生徒は丁寧にこう答えたが、イライラしていた別の教師がこんな事を言い出す。
「おいおい、遅すぎるぞ。早く報告上げさせろ」
 だが、それにイラっと来た風紀委員の担当教師はこう言い返した。
「だったら貴様が行って見て来やがれ」
「何だとこの野郎!」
 イライラして言い放った教師は、風紀委員担当の教師に食って掛かるように立ち上がる。
「こんな時にヒートアップして何になるんですか、控えて下さい!」
 だが、こんな状況ではあるが『北西地区』の指揮官の一人として参加した遠藤 雅は窘めるように言い放った。
「戦っているのは学生や生徒なのです、貴方がイラついて生徒に食って掛かっても仕方ないでしょう!」
 それに続いて教員の春奈・C・クラウディウスが付け加えるように言い放つ。この様子だけを見ても、如何にこの状況の空気が混沌としている事が伺える。
「中にはバカみたいに無為無策で事を構えて、混乱に陥った戦線もありましたが、あれは何が問題だったのでしょうかね?」
 春奈に続き、北西地区で参加していた教師達からは皮肉とも取れる言葉を次々と言い放っていく。
「2年の星崎妹のフライングと如月千鶴の氷壁で助かったことだろ、お前等何もやってないじゃないか」
 北東地区の戦闘に参加していた教師達も負けじと舌戦の応酬が始まった。

「黙れ!!」

 葉巻を口に咥えて黙って腕を組み、静かに会議の成り行きを見ていた歳之瀬 師走は腹から出る言葉と共に一喝した。
「戯れ言を言い争う場じゃねぇだろうが……まだラルヴァの動きが解析できないのなら、時間の無駄だ。報告が上がるまで別の話をするのが頭の良い人間のすることだろ」
 荒々しく葉巻を灰皿で握りつぶすと、付け加えるように言い置いた。
「問題は山積だし直ぐにでも決めないと駄目な事は山と有る、固執してんじゃねぇよ。ここから先は、異能研のお姉さんが次の話に移ってくれるから、耳の穴かっぽじってよく聞いていろ」
 歳之瀬は『異能研究所』の職員である白衣を着た女性に目で合図を送り、話を始めるように催す。
「ここからは、異能研究所の『三井つかさ』が話を続けさせて頂きます」
 三井 つかさと名乗った白衣を着た、茶髪のセミロングの整った髪型に細い瞳、眼鏡を掛けているキツ目の美女の研究員が、会釈程度に頭を下げるとクリップボードに目を通しながら話を始める。
「昨晩の襲撃時、異能研究所は『醒徒会』水分にラルヴァの捕獲を指示し、その結果多数のラルヴァの捕獲に成功しました。また平行して戦闘や監視カメラからのライブ映像から分る範囲で観察しました」
 クリップボードを眺めながら、彼女は静かに席を立って会議室中央のパーソナルコンピューターの端末に手を掛けて、個人の目の前に置かれている端末とリンクさせた。
「確認出来ただけでも7種類のラルヴァが確認された上に、今回の襲撃に関わったラルヴァ達の動きは中世の軍隊のような動きでした。また、これらの統率力も高く本能で襲ってきていない事は確かです」
 スライドの如く7枚の写真を写し、横では北西地区での三浦の戦闘時の動画が再生される。

「この事から異能研と醒徒会は、これら新種のラルヴァを今後『アーミー(軍隊)・ラルヴァ』と呼称することにします」

 つかさは端末を弄りながら、各々のラルヴァが鮮明に写っている画像を表示しつつ説明を付け加えていく。
「先にも言いましたが、今回の前代未聞の襲撃は7体もの新種のラルヴァを発見・捕獲しました。中には捕獲できなかったもの、自らを灰にしたものと有りましたが、鮮明な画像とその情報の記録に抜かりはありません」
 端末のディスプレイはつかさの説明に合わせて画像が拡大・縮小する仕組みで、会議出席者達はディスプレイに釘付けになった。
「また特筆すべきは身体の大きさや顔、皮膚の色に差異はあるものの、一部を除いて共通して鎧のような表皮で覆われており、鋭い鉤爪を持ち合わしていることです。よって異能研はこれら新種のラルヴァを、蟻やファンタジーで聞く名前を付けて呼ぶ事にしました」

 一枚目は『ワーカー』。人間の顔に無理矢理クチバシ等を着けたように見える均整が最早崩れた頭部を持ち、不格好に緑色の表皮を纏っているデミヒューマン型ラルヴァ。一番数が多く以下のラルヴァの奴隷的な存在。現代兵器が良く効く。
 二枚目は『ソルジャー』。最早『人間』に似ているというのも憚られる、瞳孔のない目にクチバシ、身体に敷き詰められた表皮、鋭い鉤爪を持ち合わせる。特殊能力は無い様にも見えるが、数が多い上に格闘戦闘能力が高い。現代兵器が良く効く。
 三枚目は『フェザー』。ソルジャーと外見的差異は殆どないが、特徴的な差異は蝙蝠の翼をもっとおどろおどろしくした翼が肩に生えており、空を自由に滑空できる。攻撃方法はソルジャーと同じだが、空を飛べるだけ性質が悪い。現代兵器が良く効く。
 四枚目は『オールド』。『ソルジャー』と一回り大きくし表皮の色が違う事と、表皮の厚さを鑑みると『ソルジャー』の成長型と思われる。現代兵器が良く効く。
 五枚目は『ファイアウォーリア』。除いた一部の新種ラルヴァ、北西地区でのみ確認。見た目は他の新種のラルヴァよりも『人間』らしく、身長は2メートルを超えた巨人で非常に筋肉質、見た目以上の腕力を持ち合わしている。特筆すべきは口から炎を吐き、命中するとそれらが爆発するおまけ付き。死ぬと自身を炎で包み、灰にしてしまう。現代兵器が効きづらい。
 六枚目は『プリースト』。直接戦線には出ていないが、後方位置で確認。他の種類と比べると表皮は目立たないが、怪我をした軍隊ラルヴァの怪我を癒す役割があり、その光景も確認。現代兵器が効きづらい。
 七枚目は『ナイト』。直接戦線には出ていないが後方位置で確認。北西・北東で計8体のみ確認。表皮がまるでプレートメイルのようであり、極めて攻撃的な容姿だが交戦記録無し。だが、指揮系統の要であることは疑いようがない。

「今現在異能研が掌握している、分っているだけの情報です。何故襲ってきたのか、そしてその目的は何なのか等の情報や手がかりは何一つ掴めてはいませんが、もう一度や二度は襲ってくる危険は有ると考える方が、妥当で自然かと思われます」
 つかさは端末から手を放し、身体を伸ばしてもう一度クリップボードにもう一度目を落とす。
「ただ、異能研としてはこれから『捕獲』したラルヴァの調査に入るわけですが……気持ち悪いほど腑に落ちないことだらけです」
「腑に落ちないこととは?」
 つかさの言葉に春奈は思わず口に出す。
「一点目は『軍隊』じみたラルヴァの数の膨大さ。もう一点目はこれだけのラルヴァが一体何処で生きていたのか? 更にもう一点目はこの大軍でどうやって監視カメラやリスニング・ポストかいくぐったか……謎だらけです」
「つまり、現状では『ラルヴァの行軍経路』が分らないことには、先に進めない……と?」
 つかさの答えに対する返答の意味を込めて春奈は言い置く。だが、それに対するつかさの答えは早かった。
「クラウディウス先生、半分は正解です。研究と言っても一朝一夕で済みませんからね。ですが、物事は多角面から見るべきです。色々な原因・状況を探るには必要な情報の一つですから」
 そして続けるようにつかさは言い置いた。
「……今私達が出来ることは、これらラルヴァのデータを、学生を交えて覚えておくことと、それに対する学園の防御準備だけです。ラルヴァ関連は、異能研・風紀・醒徒会三者によるラルヴァ行軍航路の辻褄合わせを行ない、判明させるのを待たなくてはいけませんが」
 話を締めくくるようにつかさはこう言い置き、クリップボードを下げて脇に抱えるように持ち替える。
「はんっ! 結局はラルヴァの行軍経路の判明待ちじゃねぇか!!」
 だが最初に食って掛かった教師が、野次を飛ばすように言い放った。しかし次の瞬間――

「……うるせぇぞ、もう貴様黙ってろ……!」

 静かに、それも腹の底から出るような震える声と共に、体育委員として参加していた討状之威が、何時ものチャラチャラとした雰囲気を微塵も見せず、席を立ち上がるのと同時に懐から『M29 S&W』を素早く抜き、銃口を教師に向けた。
「討状!」
「討状やめろっ!!」
 怒りに顔を歪め、銃口を向ける討状に教師達は宥めにかかる。現に銃口を向けられた教師は、絶句してその場に座り込んでしまった。討状之威の持つ能力を知っているからだ。
「戦っているのは貴様では無いだろ!! 学生や生徒、中には子どもまで含まれているんだ、真剣になって貰わないと困るんだよ!! 殺してやる……!!」
 討状は怒りと共に言い放つ。だが、討状の怒りが分るだけに出席者達は強く抑えられない。
「討状君抑えて! 怒りは分ります、でもここは抑えて……」
 春奈はゆっくりと諭すように声を掛ける。その様な春奈の諭しに『ケッ』と悪態をついて静かに銃を下ろす。
「……クソッタレ! こんな事ならサボって寝るか、エグいピンナップでオ○ニーしていた方が有意義だったぜ!! なぁ星崎ちゃん?」
「……女の私に同意を求めないでよ」
 討状の横に座っている保険委員関係で場にいる美沙に完全にセクハラな言葉を言うが、美沙はさらりと聞き流す。
「一晩中命懸けで戦って疲労度も高く、学生も生徒もイラついているんだ……もっと態度に気をつけろ。寝首掻かれることだって有り得るんだぞ」
 討状が激怒する切欠を作った教師に、歳之瀬は静かに言い置いた。討状を見れば分るが、昨日の戦闘に参加した学生や臨戦態勢で哨戒していた学生も会議に参加している。
 この面々の重苦しい雰囲気は、会議開始前の重い空気と比べても言葉に出来ぬほどの暗澹としたもので、歳之瀬も痛いほどその視線を浴びていた。
「十分休憩しましょう……戦闘後直接ここに来ている面々も多いんです……疲れている者も多い……」
 討状の怒りに空気の腰が砕け、疲労度が噴出したと肌で感じた遠藤 雅は提案した。遠藤の提案に誰も異議を唱える者も居なかったが、休憩時間は三十分間の休憩となった。

「有り難う……どうなることか分らなかったわ」
「気にしないで下さい。こう言う俺も、北西地区の前線に居て疲れていましたので」
 春奈は休憩中、遠藤の元に行って一言礼を言うが、微笑みながら彼は一言言い置いた。
「例がない事で、皆ピリピリしているのよ。誰も討状さんや教師を責められないさね」
 席に座ったまま珈琲を飲みながら美沙は一言ポツリと言い置いた。
「……ほぼ不眠で動き回った後の、ブラックは効くわ……眠いけどね。春奈先生に遠藤君、珈琲飲みます? もう一杯飲みたいので一緒に注いできますけど」
「そうしてくれると嬉しいかな?」
 美沙の薦めに春奈はこう答える。だが、その時一報が会議室に飛び込んできた。

「今回のラルヴァ行軍航路の分析が只今終了、報告に上がりました」

 休憩中で多少緊張感が解れていたときに、風紀委員長である逢洲等華が神楽二礼を引き連れて会議室に入って来た。だが、抜けた緊張感とリラックスしている状況に思わず歳之瀬に呟くように言った。
「休憩中ですか?」
「ああ。だが、その報告は熱望していたのだ。直ぐに招集するよう取り計らおう」
 美沙と同じように珈琲を飲んで休んでいた歳之瀬は穏やかな表情でこう返すが、逢洲は顔を近づけ小声でこう言い含めた。
「ただし……この一件は『機密会議』扱いでお願いします」
「『機密会議』だと? ……何か問題が有るのか」
 逢洲の言葉に歳之瀬は同じように声を潜めて言い返す。
「……今回の分析結果が……極めて問題なのです……意識の根底が崩れかねない程の問題が生じました……」
 何時もクールな表情の逢洲が表情を歪ませて言い置いた。
「分った……ならば招集は掛けずに休憩終了後、そう仕向けよう」
 逢洲の言葉に歳之瀬もまた、表情を歪ませて言葉を返した。まさか『機密会議』と言う言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
 『機密会議』はその名の通り極めて高レベルの機密事項を扱う会議において発動されるもので、議事録が即機密資料になるだけではなく、内容の録音禁止・撮影禁止の上に出席者全員に守秘義務を負わされる。
 それに加えて携帯電話等通信機器は一時預かりで封印される上に、特殊な電波妨害の仕掛けで盗聴・盗撮を塞ぐ手段を講じるなど極めて厳重なものだった。

「逢洲さんだ……ラルヴァの行軍路の解析が終わったのかな?」
 そんな青ざめている逢洲や歳之瀬など知らない春奈は、宛ら呑気な言い回しでこんな事を呟く。
 だが逢洲が持ち込んだ報告が極めて重大で衝撃的な事など、この時点では誰も知る由もなかった。


3-2に続く



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