【とらとどらの事件簿 秋の番外編】


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 うっそうと生い茂る森の中、男三人女一人での捜索が続く。
「おい、まだなのか? その超レア品ってのは」
「見つからない以上、まだ先なんだろ。文句言わずにキリキリ進め」
「おっ、このキノコなんてどうだ? おーい中島、これどうよ」
「……見たことないですね、一応入れときましょう」
「場所さえ分かれば、私が一気に『跳んで』取ってくるのに」
「分からないものは仕方ないでしょ」
「……とか言ってるうちに、また邪魔者が出てきたみたいだぜ」
 雑談をしていた俺達四人の前に、獣のような姿をした何かがのそり、と姿を現す。外から来た、というか、自分の食い物を持っていく俺達に敵意を向けているのが丸わかりである。
「それじゃ、ドラ、先輩、任せた」
「おう」
「任せとけ」
「私たちは後ろで応援だけしてるから」
 前衛の二人が、後衛の二人を守るように構えを取る。今のところ、それほど脅威となるような奴らは出ていない。ヤバそうな奴からは逃げてるお陰で、まだそれほど酷い目には遭っていない。
 なぜ怪物《ラルヴァ》がこんなに居るかは知らないが、おそらくはこの森のどこかにあるという伝説の果物を守るためなのだろう。
 前衛の錦《にしき》 龍《りゅう》、三浦孝和《みうら たかかず》の二名、後衛の星崎真琴《ほしざき まこと》と俺、中島虎二《なかじま とらじ》の四名による探索は、まだ始まったばかりだ





 とらとどらの事件簿
 秋の番外編「神話の果物を探せ!!」





 今回は、珍しく俺が発端だ。それは、図書館で無差別に資料を漁っていたときだった
「……持っていけば」
 山積みの本を持ってきた少女が、それだけ言ってどこかに行ってしまう。
「あいつは何なんだろうなぁ、近くに寄るな的オーラ出してるけど」
 確かヘンシェルとか言ったか、いつ図書館に行っても居る、妙な少女だ。多分この前読もうとした本を占有してたのに文句を言ったののお返しだろう。
「……なるほどねぇ」
 山積みになった本の中に、目を引くものがあった。確かオカルト系の月刊誌だったか。昔は大量に発行されていたらしいが、最近は部数も減って、めっきり見なくなった。
「……なるほどねぇ、『黄金のリンゴ』か……」
「何独り言言ってんだよ、図書館なんだから周りに迷惑だろ」
「……ドラか、お前が図書館とか珍しいな」
「俺だってたまには本ぐらい読む。で、その『黄金のリンゴ』って何だ? 何かの宝物か?」
「神様の食料だ」

 黄金のリンゴ
 あちこちの神話に出てくる有名なアイテムである。ギリシャ神話や北欧神話などに出てくるものが有名な、いわゆる『神の食べ物』だ。

「で、これを見ろ、日本国内で見つかったっていう証言だ」
 開いていたオカルト雑誌の一ページを見せる。それには、西日本某所にあるとある川が巨大な森によってせき止められ、そこにある森で『黄金のリンゴ』を見たという証言が載せられていた。
「どうだ、興味が湧かないか?」
「いや、どう考えても眉唾物だろ」
「……それは、実に興味深い」
 そこに横から顔を出す、そこそこの背丈でナイスバディの美女。というかいつからそこに居た
「黄金のリンゴって、『もっとも美しい女神に』与えられる物でしょ? 女なら興味が湧いて当然」
「ギリシャ神話の……何でしたっけ。いや、というかあなた誰ですか」
「星崎真琴、二年よ……で、これをどうするつもり?」
「決まってるじゃないですか、『探しに行く』んですよ」

 学園の休みを縫って時間を作り、噂の場所へとやってきた。
「温泉だー!!」
「いや温泉行かないから」
「ガセだと思うんだけどなぁ、俺……」
「その時はただの山菜狩りに変更だ」
 メンバーは四人、俺、ドラ、話に乗ってきた真琴先輩、真琴先輩にくっついてきた孝和先輩。電車で最寄りの駅に来てからもけっこう歩くが、俺以外の三人には大したことないようだ。地元で一泊し、朝から探索開始だ。

 噂の、川をせき止めていた森は実在した。となると、黄金のリンゴも俄然真実味が増す訳だ。
「なんか、嫌な予感がするんだけど……」
 森に踏み入れた瞬間、真琴先輩が不快そうな顔をする
「何か、異能で分かるんですか?」
「女の勘」
 慎重に進む俺達二人とは対照的に、ドラと孝和先輩はあっちこっちに生えてるキノコだとか山菜だとかを集めている。まとめて狩って、後で食えるか食えないかを判別するつもりらしい
「妙な形のキノコが色々あるなぁ……ん?」
 食えそうなものを集めてたドラが、抜いたキノコと『目が合う』
「キモッ!!」
 ドラが投げ捨てたキノコは、藪の中にまぎれ、見えなくなってしまった。
「……何だ? あれ」
 ドラの横で山菜狩りをしていた孝和先輩がそっちを見る
「……さあ」
 さすがの俺も、目があるキノコなど聞いたことがない。某国民的アクションゲームの、食べたら巨大化するキノコに色合いが似ていた気がするが、単に柄が目玉に見えたとか、そんな所だろう。だが、そんな不気味な物があるのなら、例のものもきっと存在するだろう
「……嫌な予感、的中……」
 横で真琴先輩が頭を抱えているが、気にしない

 そこから先も、妙な植物が時折出てくる以外は至って普通の獣道が続いていた。
「いや、あからさまに怪物が出てくるのを普通とは言わないと思うぞ」
 ドラが蹴り飛ばした四本足のラルヴァを受け止め、チョークスリーパーで締め落としていた孝和先輩が突っ込みを入れる
「黄金のリンゴと言えば神話のアイテムだ、番犬ぐらい居るだろ」
「妙に執着するな、お前……何かあったのか?」
 孝和先輩の疑問に、俺は答えない。代わりにドラがそこへ口を出す
「別に何があったという訳じゃないと思います。たまにこいつ、こういうオカルト的な物に熱を上げるんすよ、悪い癖というか、ムー民というか」
「何それ」
「昔のオカルト雑誌だそうです」
 星崎先輩が、木に生えていた葡萄を頬張っている。他にも、果物が妙に多く手に入るのが少し奇妙だ。
「……人工的な訳は、無いしなぁ……」
 明らかに妙な植物が生え、ラルヴァもちょこちょこと現れる。そんな所で農業をする訳がない。そして、黄金のリンゴの噂。
「……まあ、いっか」


 その時の俺達は知らなかった。この森の本来の姿を。そして「俺達が敵意を持っていない」お陰で、周りから袋だたきにされなかった事を。


「しっかし、えらくデカいラルヴァも居たもんだなぁ」
 一軒家ほどもある巨大なカバのようなラルヴァが、果物を木ごと食べているのが見える。無論あんな奴とやり合って勝てる訳がないので、出来るだけ触らない。幸い、向こうもこっちを見ておらず、気づく気配は無い、食べるのに夢中なのだろう。
 邪魔するラルヴァだけを追っ払いながら森の奥地に進む。活躍してるのは主にドラと孝和先輩だ。肉体派の二人とは対照的に、真琴先輩は普通の女性並で異能も肉弾戦向きでない(らしい)。俺も体力無しの異能無しで、活躍といえる活躍はしていない。
「というか、ラルヴァ多いわよね、明らかに」
 真琴先輩が疑問の声をあげる。確かにこの森、ラルヴァが多いような気がする。野生動物も時々出てくるが、そういう分類が出来ない異形の方が明らかに多い。人間の俺達が居るのに、直接絡んでこない奴も結構居るが。
 ……何か、作為的な物を感じる
「食べるものが多いから、ラルヴァも集まってくるんじゃねーの?」
 ドラは気軽に言ってくれるが……まあ、そういう物なのかもしれない。環境が整っているから集まる訳で……
「……ん?」
 何かが引っかかる。何が引っかかってるのかは一口では言えないが、だからこその『何か』
「お目当ての物はまだまだ先……かな?」
「だいぶ食えそうなのも採れたし、後はその黄金リンゴ、だっけか? それだな」
 そろそろ疲れてきた、と言いたげな真琴先輩と、まだまだ元気いっぱいな孝和先輩。そろそろ見つけたいが……
「……おい、後ろ」
 引きつった声のドラが、俺の後ろを指さしている。そこには『俺のメシをとるな』的な視線を向ける狼っぽいラルヴァの姿
「……げ」
 俺が身をかわすよりも、ドラが突っ込んできて蹴り飛ばすよりも、奴が俺の喉笛を噛み切るのが先だろう……ヤバイと思う時間も無い。そして次の瞬間には全部が終わっていた。

 狼ラルヴァの首に、孝和先輩のエルボーが突き刺さっている。正反対の位置に居た筈なのに。
「まったく、危なっかしい……」
 真琴先輩が、こちらの方を呆れたような目で見ている。先輩の口調が変わったのが気になるが、それは置いとく。今起こったことを整理しよう。
 俺がやられる、と思った瞬間には、もう孝和先輩が飛んできていた。俺の記憶が正しければ、あの人の異能は単純な身体強化で、そういった芸当ができるものではない。となると、あと一人。
「……えーと、真琴先輩の? 助かりました」
「あまり連発できないんだから、油断すんな」
 当の真琴先輩は、先ほどまでとは違う、いわゆる『男らしい』表情を一瞬見せていた……一瞬で元に戻ったが、何だったんだ?
「……あれ? あの木で何か、チラッと光ったような……」
 ドラが、遠くの方を見ながら何かをつぶやく
「何か見えたのか?」
「ああ、なんか光が反射したような……」
「……ようやく本命か!!」

 そしてそれは、あっけないほど簡単に見つかった。
「……マジに金色だ、すげぇ」
「実はこれドッキリで、全部金箔貼ってるだけ、とかだったら怒るよ……」
 一見、普通のリンゴの木である。が、それになっているのは文字通り黄金の実。太陽の光を反射して輝く黄金のリンゴだ。
「よしドラ、取って来い」
「お前も少しは働け!!」
 愚痴を言いつつ、ドラはカゴを持って器用にリンゴの木を上る
「近くで見ても金だな……と、重さは普通のリンゴだな……!?」
 まるでドラがリンゴをもぎ取るのを待っていたかのように、異変が始まった。

 どどん、と足元が揺れる。まだ立っていられるほどだが、あまりにも唐突だ。
「じ、地震!?」
「とととととぉ!!」
 木から栗だとか芋虫だとかが落下してくる、木の上に居たドラはなんとかバランスを持ち直し……信じられないような顔をした。
「……おい、確認したいんだが、この木は別に倒れたり、動いたりしてないよな?」
「当たり前でしょ、木が動くなんて……」
「ああ、じゃあ間違いない……今、木から外を見ると『景色が動いてる』んだ……これって『森が動いてる』って事だよな?」


 これは後から調べた結果だが、俺達はとんでもない所に居たらしい。
 数キロメートル四方の図体を持ち、一見森のように見える。そして内部では、カテゴリービーストのラルヴァが住みよい環境が整えられている。そして、自らに危害を及ぼす侵入者には、そのラルヴァがまるで自律兵器のように襲い掛かる。
 ラルヴァの中でも特殊だったり強かったり、とにかく特異で、かつ一体しか存在しないラルヴァに与えられる『ワンオフ』の称号を持つラルヴァ、武装森林『グルジオラス』、俺達はそいつの背中の上で、悠長に秋の味覚を狩っていた訳だ。


「「「「逃げろー!!」」」」
 森のあちこちからラルヴァの雄叫びが響き、俺達を狙っている。これも後から知った事だが、外部からの刺激があったせいでグルジオラスの防衛システムが目覚め、ついでに『異物』である俺達を排除しようとしたらしいが、その時はそんな事を考える余裕もなく、『リンゴを奪ったから森が怒った』といった風に考えていた。
「おいドラ、ちゃんと持ってるだろうな!!」
「んぐ、おうよ!!」
「てめぇ何食ってんだー!!」
「一つぐらいいーじゃねーか、味見だ!!」
 黄金のリンゴを入れたカゴを持って全力疾走する俺とドラ、そして真琴先輩に孝和先輩
「真琴さん、テレポートでパパッと撤収とか出来ないんすか!?」
「集中できる環境じゃなきゃ、石の中にいる状態になっても知らないよ!!」
 どうやら先輩の異能は、集中できる状況でないと精度が落ちるらしい……しかし、そうも言ってられないようだ。目の前に、さっき木ごと餌を食べてた巨大カバの姿が見える。しかも口を大きく広げ、その口には『何か』が渦巻いていた
「伏せろー!!」
 俺のとっさの叫びに反応し、三人が地面に転がる。

 直後にカバの口から放たれた衝撃波……正確には、『空間を圧縮し、復帰した』際の余波であるそれが、俺達の頭上をなぎ払った。追いかけてきたビーストラルヴァを吹き飛ばし、周りの木々をへし折る。
「……まともにやれる相手じゃねーよな、あれ」
「……真琴さん、俺と錦が時間稼ぐんで、その間に逃げる準備してください」
 ぶちまけられた土埃で服があちこち汚れたドラと孝和先輩が、先に立ち上がる。孝和先輩も黄金リンゴを死出の土産とでも言わんばかりに一つを頬張り、もう一つカゴから出して真琴先輩に投げている。もはや何も言うまい。
「今の私じゃ、全員の転移は無理かもしれない、全然違う場所に飛んじゃうかもしれない。それでも、ここに居るよりはマシ……そういう事ね」
「そうですね、ここに居ちゃいつか包囲殲滅されるのがオチです」
 俺と真琴先輩も起き上がり、真琴先輩は投げ渡されたリンゴを一口かじる。
「残念、味は普通のリンゴとあまり変わらないみたい」
「さて、無駄口の時間はこれで終わりみたいだぜ!!」
 前に立つ二人に、大量のビーストラルヴァが襲い掛かる。孝和先輩はどうか分からないが、ドラが一人で相手を出来る数ではない。二人で組んだところで、どこまでやれるか。
 ドラが、目の前に飛び込んできた獣のラルヴァと対峙する。
「これぞ錦龍、男の見せ所ってな……せぇい!!」
 ドラが、目の前のラルヴァに対して蹴りを放つ。直に当たれば良し、当たらずとも、ドラの蹴りに籠められた魂源力《アツィルト》が衝撃波を生み、奴一匹ぐらいなら吹き飛ばせるだろう。

 そしてドラの蹴りは、地面ごと吹き飛ばした。
 炸裂した瞬間だけ金色に光った衝撃波が、カバの発した衝撃波に勝るとも劣らない被害を生み出す。眼前に広がるラルヴァの群れを跡形も無く吹き飛ばした。目の前の木々も巻き込んで消し飛び、綺麗な禿山状態にする。流石の巨大カバも、その衝撃にはよろけてしまう程だ。
「……錦くん、そんなに強い攻撃できるなら、出し惜しみしなくていいのに」
「……なんだ? 今の」
「いやいやいやいや待て待て待て!! 俺こんな力ねぇぞ!!」
「……チャンス!!」
 あまりの事に驚く俺達を尻目に、孝和先輩がカバの前足に、まるでレスリングのタックルのような一撃が浴びせられる。
 一瞬カバの身体が浮き上がり、次の瞬間には完全に崩れ落ちる。その巨体が災いし、建て直しには時間がかかりそうだ。
「……よし、つかまって!!」
 真琴先輩の声に反応し、俺とドラは彼女の挙げた左腕につかまる。慌ててこっちに戻ってきた孝和先輩が彼女の胸を掴もうとし、フリーの右手に叩き落とされた瞬間、景色がぶれ、別の世界に飛んでいく感覚がした。

 次に俺が見たのは、今朝出てきた旅館の玄関口。どうやら、無事に逃げおおせたらしい。叩き落された孝和先輩が床へモロに顔をぶつける。
「のべしっ!!……たた、痛いっすよ真琴さん……あれ、ここは?」
「……驚いた、四人と荷物込みで、こんな簡単に飛べるなんて」
「なんか物騒な台詞が聞こえたが、聞かなかったことにしよう……」
 なんとか逃げ切れた、と緊張の糸が切れた俺達の前に、見覚えがある服装……というか、明らかに見慣れた、双葉学園高等部の制服を来た女子が現れる。腕には風紀委員の腕章。
「……星崎さん? あなた何やってるんですか、こんなところで」
「へ、束司さん……何で?」
「何って、この周辺でラルヴァの討伐作戦中だから、宿泊客の安全を確認しに……連絡、見なかったんですか?」
 学生証は旅館の部屋の中、メールは……見た記憶が無い。
 とっさにドラが収穫を隠したおかげで、何をしてたかはバレないだろうが……誤魔化すのに、苦労しそうだ。



「皆様ー、お食事の用意ができました~」
 数日後、俺の部屋。
 収穫した秋の味覚を、豊川《とよかわ》もこに料理してもらったものの食事会だ。
 あの後無事に(?)風紀委員を言いくるめて黙っていてもらい、引き上げる学園メンバーと共に帰郷、帰りの交通費を浮かせること
に成功した。流石に山菜だとか果物だとかを持っていくのはヤバかったので、そっちは別便だ。
「揚げ物は、けっこう胃にもたれるね」
「キノコの炊き込みご飯もありますよ、どうぞ」
「んぐ、美味いもんだな……うーん」
「あの、三浦さま、どうかされましたか?」
「もこちゃん、俺の妹と同じ学年だろ? あいつにも、そんだけ胸があればなぁって」
「いくら先輩でも、少し自重してもらわないと困ります」
「大丈夫、実際に手を出すようだったら外に放り出すから。即座に」
 なんだか楽しそうにやってる四人から目を離し、部屋の端に置いてあるカゴに目をやる。

 刈り取った黄金のリンゴは、いつの間にか普通の、赤いリンゴになってしまっていた。あの時ドラが放った馬鹿でかい衝撃波や、孝和先輩のボディタックル、それに真琴先輩のテレポートを考えると、もしかしたらアレには、異能を強化する何かの成分があったのかもしれない。残ってるやつをドラに食わせて試してみたが、状況は再現できなかった……あの時俺がリンゴを食べていれば、何か異能に目覚めただろうか。

「勿体無いことしたかなぁ」
 残念無念、といった表情になる。まあ、また機会もあるだろう。『ラルヴァの背中に、宝物がなっている事もある』ことは分かったのだから




(たぶん四冊目に)続く



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