【真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ 3-2】


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真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ 三節


3-2 機密会議/緊急討議より


――午前6時45分 双葉学園大会議室。
「ここからの話は『機密会議』として扱う。よって、各々方の通信機器を回収、身体検査を行う事とするので御了承願いたい。また、暫く長くなるので更に五分ほど用足しの時間を設けるので今の内に済ますように」
 30分の休憩の後、歳之瀬 師走は休憩後の冒頭このように口上を言い置くと、場はざわめき稲妻の如く一気に緊張感が走る。
「歳之瀬先生、『機密会議』ですか!?」
「ああ、皆まで言わずともそう言うことだ」
 教師達の問い合わせに歳之瀬は淡々とこう答える。横で見ている逢州は何時ものクールさから見ると、青ざめて見えるのが印象的だった。
 横で麦茶を注いで逢州の元に運ぶ神楽の姿が見えるが、美沙と二人で行っていたヒーラーの仕事で疲労困憊な様子が見るだけで分り、何時もの人を食った様子は微塵も感じさせなかった。
「会議室の横の部屋で寝ていても良いんだぞ、一晩中星崎さんとヒーラーやっていたのでしょう?」
「そう言う訳にもいかないっす……」
 元気一杯の様子も成りを潜め、動きもぎこちない神楽に逢州は気遣うように一言言うが、神楽は静かにこう返す。
「良いのか? 高校一年に守秘義務を背負わせる事になるぞ」
「いえ、もう彼女はこの話を見知っています。つまり辻褄合わせした異能研・醒徒会・風紀委員は全員守秘義務を既に誓約しています」
 状況をもう知り得ている歳之瀬は神楽を見て思わず口を零すが、逢州も青ざめた表情のまま淡々と言い置いた。

「クラウディス先生、討状さん、星崎さん、遠藤君、簡易通信機と手持ちの通信機を預からせて頂きます」
 『機密会議』宣言された後、例に漏れず美沙を含む出席者から通信機の回収が始まり、緊張は嫌が応にも高まっていった。
 何時もは年齢不相応な幼い仕草が多く見られる春奈・C・クラウディウスも、実際に通信機器を回収され身体検査をされると起っている事の重大性を実感し、言葉数が緊張と共に少なくなっていく。
「……『機密会議』……それ程ヤヴァい事なんかねぇ……おっと、それは俺の御稲荷さんだ」
「えっ……!」
 会議出席者である討状之威にも当然身体検査の手が回るのだが、悪いことに担当は女子でイタズラ心に火が付いたのかこんな事を口走る。
 女子は顔を真っ赤にしてあたふたし、それを見た討状はにやにやと笑うが美沙達はばっちりと見ていた。
「……やめんかい!」
 気が付けば春奈に美沙、ついでに遠藤雅まで討状の頭を叩いていた。
「痛てー!! 遠藤ちゃんまで叩くなよぅ」
「討状さん、今はいけません」
「またシモネタか、貴方も懲りないねぇ」
 討状のリアクションと共に遠藤と美沙はこう言う。討状自体は緊張を解す意味合いも含まれるシモネタだろうが、所構わず言う悪癖は相変わらずだ。

――5分後。
 歳之瀬の宣言通り猶予の5分が過ぎると、水を打った不気味な静けさが議場を覆う。言い様のない緊張感が各々の出席者から肌を伝うように感じられ、しっかりと空調の効いている議場にも関わらず出席者は重苦しい空気により顔から汗が流れた。
「これより会議を再開するが、ここからは風紀委員・逢州に概要の説明をして貰う。取り敢えず、話が終わるまで質問は無しにしろ」
 口火を切るように歳之瀬が言い放つと、逢洲等華が議場中央にあるパーソナルコンピューターの端末が設置してある台に立ち、胸元に小型マイクを付けて一礼する。
「ここからは、僭越ながら逢洲等華が説明致します」
 一言言い置くと、逢州はコンピューターの端末を弄ると、出席者全員の目の前にあるモニタには学園を中心として東京湾とそれを囲む関東の地図が映し出される。
「最初に言っておきますが、学園を中心として一般とは別に監視カメラとリスニングポストが設置されていることは、最早説明も必要がないくらいにご存知かと思います」
 逢州は手を台に掛け、前屈みに体勢を傾けながら真っ直ぐに視線を向けて話を続ける。
「あのラルヴァの群集……いや、アーミーラルヴァが双葉区で確認されたのが昨日の21時です。我々はラルヴァの外見の造形を元に画像を照合、19時まで遡って全ての監視機能に目を通しました。時間を追って発見場所をマークしましたので経過時間を追って見てみて下さい」
 そう言ってパソコンに手を掛ける。だが最初の一時間はいくら待っても一向にマークされず、時間の経過を示す数字だけがカウントを刻むだけだった。
「……どういう事だ?」
「言いたい事は分りますが、まずは画面を見て下さい」
 疑問に思った一人が逢州に思わず声を掛けたが、逢州はこう言って画面を見ることを勧める。
「何だ……これは……」
 時間表示が19時30分を差す頃、竹芝、浜松、台場、有明の四点にマークされた。だが、それ以降15分経過、30分経過と経過してもマークされることがなかった。
「……ちょっと待て、七時半に陰を捉えたのを最後に発見できていないというのは何なのだ?」
「それ以前に、これ以外で姿を捉えた場所がないのか? ああ言う異形な姿なら、嫌でも見つかるはずじゃないのか……?」
 何度も言うように、双葉区を含む関東圏には監視カメラやリスニングポストがプライバシーを確保した形で網目状に設置されている。それを全て躱されている状況にモニタを見ていた面々は動揺を隠さない。
 そして20時45分には双葉区最北の岸壁にマークされ、まるで上陸兵に様に双葉区に侵入したと言う現実は、考えたくはなかったが認めざるを得ない現実となっていた。また、橋を一切利用した形跡がないのがその不気味さに拍車を掛けた。
 マークはその後居住区に於いて幾つか発見された他、そのまま学園を目指して南下したと思われる軌跡以外、監視カメラとリスニングポストの記録はそれだけしか無かったのである。
 最後の記録には集結が完了されたラルヴァの集団が南下する様子と、閃光と共に爆発し吹き飛ばされたラルヴァの姿だけだった。
「最後の爆発は2-Cの星崎真琴さんが敢行した『奇襲』による爆撃です……驚くべき事にあれだけの数のラルヴァが双葉区に上陸したのにも関わらず、マークされた数がこれしかないというのは解せません」
 この逢州の言葉に議場は一瞬ざわめき立つ。だが、逢州が言葉を進めようとするとぴたっとざわめきが収まったのである。
「これら記録に映し出されているラルヴァはおおよそ100体。しかし、現段階での総数は600を越えていました。まるで辻褄が合っていません」
 逢州はコンピューターの端末を操作しながら話を進めた。議場にいる参加者は開始前の緊張よりも更に動揺を混ぜたような雰囲気で逢州の次の言葉に耳を傾ける。
「これでは勿論我々や異能研は納得出来ません。こんな結果が出た直後、もう一度監視カメラやリスニングポストを洗い直しました。ですが、いくら精査しても足取りの陰形が見えないのです」
 横に置いたクリップボードを手に取り、議場に目を見渡すように顔を上げた。
「これはあくまで仮定の話ですが、たったこれしかない補足記録から鑑みるに、もしかしたらこのラルヴァ達は監視カメラの位置を把握していたのか? と思わざるを得ない状況です。だとしたら、情報がどこからか漏れている可能性があるのです」
 派手な身振り手振りはなく静かな物腰で話を続ける逢州だが、何時もの冷静な彼女の雰囲気からは想像も出来ない程緊張感に溢れていた。
「また疑問なのは、こういったラルヴァが如何にして竹芝、浜松、台場、有明から迅速に双葉区に船も橋も使わず移動したか? そしてそう言った場所に行きつくのに監視機能は何故見逃したか?」
 端末で軌跡を記しながら逢州は説明を続ける。
「極論を言ってしまえば、これだけのラルヴァが居て暴れたいだけならば、何も此処まで来なくとも東京や千葉、神奈川の何処かで大暴れしていることでしょう……しかしそんな事をせず、実際に双葉学園をピンポイントに襲った……我々が分析した上で感じたのは、この襲撃は単なるデモンストレーションに過ぎないのではないか? と言うことです」
 しかし逢州のこの仮説に教師の一人が一言問いただす。
「それは……どういう事か? あれだけのラルヴァはただただ双葉学園だけが標的だったって事か?」
「その通りです、恐らくは喉元に刃を突きつけたつもりなのでしょう。言うならば『我々は何処からでも襲えるぞ』と言うメッセージなのかも知れません。定かではありませんが」
 だが逢州の言葉はこれ以上、出席者の発言を出さなかった。それは出席者の大半が薄々は考えていた結論だっただからだ。
「問題なのは『目的』が不明なことと、双学がこの一件により釘付けにされる事が一番恐ろしい事態です。現に、何者が何の理由目的に於いて学園を襲ったか、それが分りませんから」
 クリップボードを台に静かに置くと、逢州はもう一度議場を見渡すように顔を上げた。
「これだけの数です。直ぐに生息域が分るかも知れませんが……下手に動けば今度は本当にテロが起きかねない危険がはらんでいます。現状では、全て水面下且つ秘密裏に調査する必要を求められています……私どもの話は以上です」
 こう言い置くと逢州は一礼し、議長の方を向いて立つ。
「逢州、風紀委員会と異能研の今回の見解を述べてみてくれ」
 逢州が説明した後、会議を取り纏める議長は静かに彼女に問い合わせた。
「我々風紀委員や異能研の見解は、学園をいち早く正常に動かしている所をカモフラージュし、一刻も早く『戒厳』を解くべきでしょう」
 逢州の言葉に反論するものは居なかった。
「ふむう……」
「この会議を『機密会議』としたのは学園の根幹が崩れかねない状況と、無用な混乱を避けるためです……何卒御理解願いたい」
 最後に締め括りとして逢州はこう言い置いた。
「分った……他に、この件について意見のある者はいるか?」
 議長は逢州の言葉を聞くと、他の者に意見を求めた。その時、歳之瀬は静かに手を挙げた。
「それもスパッとやってしまうのが良いだろう、大体二日で解くのが丁度良い。また、『戒厳』中は児童・生徒達のフラストレーションの都合上どうしても風紀が乱れる故に風紀委員は校内に留め置き、変って大学部が臨時で巡回した方が良いだろうと思う」
 歳之瀬は逢州の言葉の勢いを借りて一気に言い切った。だが、会議出席者達に異議を唱える者はいなかった。
 議長はこれを以して意見を取り纏めに入る。状況の緊張から逃れたい事もあるのだろうが、実際これ以上の意見を出すことが出来なかったのだ。
「戒厳はこれより二日で解き、今現在の『戒厳』が発動されたこういう状況故に元来の風紀委員は校内に留め置き、大学部に学園の巡回を任せたいと思う。異存があったら遠慮無く述べてくれ」
「異議無し!」
「異議有りません!」
 意見纏めに掛った議長は出席者に問いかけると、出席者達は口を揃えて賛成する言葉を出して総括した。
「取り敢えず重要案件の方針は決まったな。本日は各々方も徹夜だろう……三時間の休憩を取るので仮眠をしておく事。本日は土曜日という幸運にも恵まれているので学校は休校とする。しばし散会、制限は解くものとする」


――午前8時15分 双葉学園内 歳之瀬師走自室。
「疲れているところに悪いな。座布団に座ってくれ」
 会議後、歳之瀬は春奈・C・クラウディウスと逢州を学園内にある自室に呼び出した。だが、一気に呼んだのではなく時間を少々ずらしながら一人一人簡易通信機を通して連絡を取り、密かにバラバラに合流させた。
「いえ、お気遣い無く」
「大丈夫ですよ、歳之瀬先生」
 一言歳之瀬は詫びの言葉を言い置くと、逢州と春奈を部屋に上げてクッションの上に座らせた。
 だが歳之瀬の部屋には、比較的大きな音量で重低音の効いたハードロックの曲が駄々流れており、慣れていない春奈と逢州は少々耳を塞ごうとする仕草をする。
「凄い曲ですねぇ……」
「五月蠅いと思うかも知れないが、少しの間だけだ。ちょっと我慢してくれ、簡単な盗聴防止だ」
 春奈は思わずこんな事を漏らすが、歳之瀬はらしくない優しい物腰で言う。
「眠気覚ましの珈琲だ、飲んでくれ」
 歳之瀬は三人分の珈琲を用意すると、自分も対面になる形で座る。しかしながら正直なところ、珈琲よりもこのロックの曲の方が眠気覚ましには良さそうな位である。
「早速ですが歳之瀬先生、私とクラウディウス先生を別途に呼び出したのは何故ですか?」
 三人が席に座ると、逢州は口火を切って歳之瀬に話を振った。
「議場で密談しようかと思ったのだが、誰が聞いているか分らないからな」
 逢州の問いにこれだけ言い置くと、何時もよりも訝しげな表情と共に口を開いた。
「単刀直入に言って、俺は風紀委員や異能研の見解で間違っていないと思っている。仮に情報が漏れているとすれば職員と風紀委員しかそれが出来るのは居ないだろう」
 歳之瀬の言葉に逢州は眉をしかめる。
「先生は、我々を疑っていると」
「いちいち噛みつくな、可能性の精査を言っているに過ぎない。第一、生徒があのようなラルヴァと手を組むとは考えられない……だから、逢州とクラウディウスを呼んだんだ。まずは話を聞け……取り敢えずこっちに寄れ」
 三人は顔を近づけて声を潜めた。
「実は風紀委員を学園に留め置く理由は警備なんかじゃない。逢州とクラウディウス、お前等にとんでもない事を命じてしまうが良いか?」
「ええ、大丈夫です」
 そう言うと歳之瀬は一層声を潜めて言葉を紡ぐ。
「風紀委員はこれから、『戒厳』が明ける二日の間に通信ログを全て洗い出し、不審なログの記録を全てピックアップしてくれ」
「?」
「……今の状況では学園職員で信用できる人間が居ない。会議ではああ言ったが、もしかしたら学園の内情が『本当に』漏れている可能性があるからだ」
 息を潜めたまま歳之瀬は春奈に目線を向けた。
「クラウディウスは、これら風紀委員を指揮するのと同時に職員の動きを監視しろ。お前さんのその能力は高いからな……それと、それを何らかの形で妨害しそうな輩が出たら排除して欲しい」
「分りました」
「そう言う理由なら喜んで」
 歳之瀬の言葉に、二人は納得してその答えを出した。
「無作為な犯人捜しほど無駄なモノはない。俺は心の何処かで、まだ関係者が無関係であると言うことを信じていたいからだ……だから情報や物的の精査をしたい」
 彼は纏めるようにこう言うと、逢州はそれに答えるように話し始めた。
「これは我々風紀委員や異能研が導き出した結論で提言ですが、もしかして学園に内通者が居れば『戒厳』は連中にとって笑い話であり、はっきり言って無意味と存じます」
 一層眉をしかめながら歳之瀬の目を見て、付け加えるように話した。
「しかし、『戒厳』中はそう言った情報を通信以外で知らせる方法がないでしょう。その時に炙り出せれば御の字です」
「すまない逢州」
 だが、一連の話の流れを聞いている春奈は、心配気な表情と共に歳之瀬にこう言った。
「しかし先生、この動きが露呈したら……」
「制裁や懲戒処分は免れまい。だが、泥は一人で被るさ。クラウディウスや逢州が不利益にならないよう取り計らってみせる」
 さらっとこう言い置いた。確かに此程の越権行為や機密に関わる行動を無断で行えば進退を掛ける必要が出てくるのと同時に、下手をしたら命の危険にすら晒されかねない状況である。
 だが、それをこうも冷静に言い切ってしまう歳之瀬の言葉に、春奈と逢州は目を見開いたまま言葉を紡ぐことは出来なかった。

「あの『人体模型』に見えるのが『居る』だろ?」

「あれは俺の初めての教え子で親しくなった奴でな……ラルヴァにあんな無残な姿にされちまった……本当に情報を漏らしているのが教職員だとしたら極めて許し難い。俺の手で殺してやりたいくらいだよ」
 春奈と逢州は歳之瀬の言葉になんて言えば良いのか分らなかった。見た目不健康で少々軽そうにも見える歳之瀬の力と悲哀の入った言葉に、これ以上言葉を出すことすら出来なかったのだ。
「おいおい、美人二人が暗い顔するなよ。さて話はおしまいだ、眠気覚ましの珈琲は冷めないうちに飲むのが良いぜ」


――午前9時 学園内カフェテラス

『全校児童・生徒・学生諸君に連絡します。本日双葉学園は臨時休校となりました。勉強しろとは言いませんが、しっかり身体を休めて体調管理に努めて下さい。尚、学食とカフェテラス、生徒会館は開放しておきますので昼食はそちらで食べるように。以上』

 このような『機密会議』が起こっていることなど知る由もない生徒達は、至って呑気で牧歌的な雰囲気にすら包まれていた。
 確かに『戒厳』が敷かれ武装を解除しないまま、学園内に押し詰められている状況は無意識のうちにも緊張感を呼び起こすものだ。
 だが、前日からの戦闘からの疲労を考えると全生徒を無理させる訳にも行かない為に授業が中止された旨が伝えられると、張り詰めた緊張が解れて寮に帰って寝る者、学食で雑談に興じる者、カフェテリアで茶を楽しむ者が現れて学校施設内だけは、普段を取り戻した雰囲気になった。
「如月、飯でも食おうぜ」
「御姉様こんにちわー」
 カフェテラスで私が決まって座っている場所に千鶴が座っており、そこに三浦孝和・絵理兄妹がやってきた。
「おっす、三浦に絵理ちゃん」
 千鶴と三浦は同じ体育会系と言うことと、絵理が千鶴に懐いていると言うこともあって珍しい異性の友達だった。元々千鶴は気さくな所があり、性別や歳の上下を問わず取っつきやすい物腰で対応するからだ。
「あれ? 如月、真琴さんは?」
「ああ、真琴ちゃんなら『異能研究所』の主治医の所に行ったよ」
 千鶴が簡単に説明すると、三浦は残念そうな表情を浮かべる。
「分りやすい表情を浮かべないの。私だってお昼以外一緒に食べないんだよ。お姉さんと食べるんだから」
「え? 真琴さんにお姉さんが居るの!?」
 千鶴が簡単に説明すると、真顔で三浦はこう言い放った。
「……バカだねぇ……お前は絵理ちゃんから何も聞いて無いのかよ……」
 呆れる様に千鶴がこう言うと、絵理は苦笑いを浮かべて兄・孝和の顔を見つめた。
「そうなのか?」
「そうだよ兄さん……昨日、真琴先輩と私が話しているの見てなかったの?」
 絵理の言葉に三浦は愕然とした表情を浮かべた。
「『大学部に二人の癒し手有り、遠藤雅に星崎美沙』……聞いた事無い?」
「……あの人、真琴さんのお姉さんだったのか……」
 三浦は一言こう漏らす。
「思い出した?」
「一回、傷治して貰ったことあるんだよな……授業中に怪我して」
 三浦のこんな言葉に、千鶴も絵理もポカンとした表情を浮かべた。
「……どうしてそう言う事を忘れるのかねぇ」

――同時刻 異能研究所内・クローン研究所
 三浦と千鶴の掛け合いの裏で、私星崎真琴はこういった一報が伝えられると直ぐに学園内に設置されている異能研究所内に存在する『クローン研究所』に呼び出された。
 異能研究所自体も制限区域が多く教諭ですら立ち入れない場所が多いのだが、このクローン研究所はそれよりも一段レベルが高い規制区域で出入りできる人間も限られている。この施設では主に一部の科学者や医師が常駐しており、生み出されたクローンの研究と体調管理を行っている。
 最初の目的は怪我や病気で機能を失われた部位の復帰と一億分の一の誤差に於ける自然さを目的とした研究機関だった。
 ところが、クローンはその人物のDNAをそのまま使用し作るクローンのため、サイバー装備などの義手義足を装着しようにも致命的なアレルギーを持つ者や体質的に不適合な者と、先天的な『肉体的不利な特徴』を持つ者はカバーできないのである。つまり、仮に右手を無くした者がサイバー不適合でその右腕に不自由があれば義手が着けられず、さらにクローンを作っても同じ不自由のある手が出来てしまうと言う大変意味の無く、デメリットばかりの事態が生じる。
 これを解消するために細胞等を科学的に弄る研究が始まり、クローンの部分部位と全身の研究は『同じものを複製する』から『悪い部分だけを取り除く』技術の研究へと移行している。
 その中には『性別を変えたクローンを作成する』と言うことも含まれており、私はその一例と言えよう。

 言うなれば私はこの研究所の『研究対象』に加えて『患者』であり、この施設のあらましを見知っている事に加えて定期的な診断等の必要性が有るため、私は比較的自由に出入りできる。
「おはようございます、つかさ先生」
「おはよう真琴、昨日は大変だったわね。さあ、ブレザー脱いで椅子に座って?」
 研究所にある診察室に入ると、椅子に座ってクリップボードを持った『三井つかさ』が私を迎えた。会議に出た彼女だが私の主治医でもあり、私が『女』になった頃は助手だったが直ぐに私担当の主治医になりもう6年の付き合いになる。
 私はつかさに催されるとブレザーを脱いでブラジャーだけになり、つかさの目の前にある椅子に座った。
「気分はどうかしら?」
「ちょっと寝不足で眠いけど、大丈夫かな」
 つかさは私の胸部に聴診器を当てながら問診を始める。
「呼吸や脈に異常なし、昨日の戦闘も殆ど影響ないわね……それにしてもさ、胸また大きくなってない? お姉さん越えたでしょ」
「つ…つかさ先生……」
 基本的に真面目な女医だが、シモネタ大好きで悪ノリも多く時折困ることがある。だが見た目とは裏腹に明るく穏和な性格の為に不快感はなく流されてしまう。
「あははー♪ 悪い悪い。それにしてもグラマーよねぇ、お姉さん譲りというか……私としては、血色が良く健康的でグラマーな今の状況は非常に喜ばしいのよ」
 軽い冗談と共に私を持ち上げる様な言葉を言い置く。
「食欲旺盛、適度な筋トレ、適度なテレポート、悪くないわ。食欲旺盛なのは男の子の頃からの名残かしらね」
 つかさからそう言われると、私の眉がぴくりと動くような感覚を感じた。どうも『男の子のような』と言われると自然に動くのだ、喜怒哀楽関係無しに。ただ、大概イライラする事の方が多かったりする。
 つかさは医者という職業上私の一挙手一投足を見逃さないため、私の癖というのも十分承知している。恐らく彼女は私が気を悪くしたと思っているのだろう。
「眉が動いた、ごめんなさいね。でも真琴は食事をきちんと取らないとスタイルと健康を維持できないから、変なダイエットに走っちゃダメよ?」
 そう言うとつかさは微笑みながら、私にこう言い置いた。

 一通りの問診とバイタルチェックが終わると、私は脱いだブレザーを着直し始めた。
「つかさ先生、私の体調はどうだった?」
「極めて良好。体温から血圧、脈、呼吸全て問題なしよ。三ヶ月毎に行う健康診断や血液検査は特に問題無かったし、生理不順もない。昨日の戦闘の怪我もないし問題ない」
 クリップボードを手に持ちカルテに色々と書き込みながら私の問いにこう答えた。
「体調は問題ないけどさ、何というか……時々怒りっぽくなるでしょ? ほら、三浦君を女子更衣室に飛ばしたりさ(1話参照)」
 真琴は驚いた。ほんの些細な騒動で、しかも異能研究所の医者であるつかさが知っていることに。
「なんでそんな事知っているの? ……と言うか、なんで三浦を飛ばしたこと知っているの?」
「そりゃ知っているわよ、週一で校医として学校内を巡察するんだもの。極々偶然だけど大勢の女の子に追っかけ回されていた三浦君を見たし、その後の顛末を聞いてるものね」
 にこにこと笑いながらつかさは話を続ける。
「私は貴方の過去を知っているからね、心配なのよ。虐めや中傷を跳ね返す力はあるけど、それを暴力で抑え込んでいたからさ」
 つかさは私の過去を知っている。それは私が事故に遭う前の女の子のような服を着ることが当たり前だと思っていた時分、クラスメイトにバカにされていた時の事を。
 しかも当時解決法は『暴力』しかなく、周囲の大人は見て見ぬふりだった。姉が双葉学園に行ってしまった後は一層その傾向が強くなり、しばしば親が学校に召喚されたものだ。
 だが、そんな四面楚歌の状況を救ってくれようとしたのが、このつかさだった。当時はまだ駆け出しの医師だったが、誰にも相談できない苦しみを彼女は素直に聞いてくれたのだ。
「それが男の子の時のクセなのか分らないけど、やけに好戦的になる事があるから気をつけなさい」
 締め括るように彼女は言い置いた。
「折角、念願の女の子の身体が手に入ったんだし……ね?」
 私が着替え終わる頃、つかさは付け加えるように最後に言い置いた。
「わかったよつかさ先生、気をつけるよ。ではまた後でね」
「ええ、またいらっしゃい」
 つかさは私が一礼して部屋を出て行くまで見守っていた。

「真琴は私達にとって娘みたいなもんなんだから、何かあったら相談してくれると、嬉しいんだけどねぇ」

 そして最後、私が部屋を出た後に呟くようにこう言った。


3-3に続く




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