【X-link 1話 part2】


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          X-link 1話【Beggining From Endless】part2



 10分程もタクシーに乗っていると学園についた。時刻は午後4時半をまわったところである。水分の案内で校門をくぐり、しばらく歩いて中庭まで行くと、ひと際目立つ真っ白な建物があらわれた。
 ここは醒徒会棟、醒徒会執行部や風紀委員など、各種醒徒会関連の施設が集約されている棟であり、繋のような一般の生徒が中に入る事はほぼ無いといってもいい場所である。
 まるで周囲を威圧するような重厚で巨大な扉の前に立つと、繋はどうしようもなく緊張してきた。
(ああ、まさかここと関わりを持つような日が来るとは…)と繋は思った。自分は昨日はまで、いやつい数時間前までは自分は異能の発現していない、ごく普通のあまり目立たない生徒Aでしかなかったはずだ。それが何故こんな事に…。

 理由は明白である。変な男を拾ったせいだ。
 拾われた変な男こと天地奏はタクシーの中でも非常にうるさかった。記憶喪失(本当かどうかはさだかではないが)ということで目に映るもの全てが新鮮にうつるらしく、しきりに質問をしてきた。あれはなんだ、これはなんだ、とかまるで幼児のように目を輝かせながら質問を続けた。
 今も繋の緊張をよそに実に楽しそうにあたりをきょろきょろとしている。
(いつかぶん殴ってやろう…)繋が思っていると理緒が扉を開けながら声をかける。
「お二人とも、どうぞ中へお入りください。醒徒会室までご案内します」いつも通りのおっとりとした言い方だ。彼女はこの男に関わってよくも平常心を保っていられるものだと、繋は関心せずにはいられない。
「さあ、中にはどんな楽しいものがあるのかな」奏は跳ねるように醒徒会棟に入って行く。
 繋も意を決して中に足を踏み入れた。豪奢な装飾が施されたエントランスホールからして普通の校舎とはだいぶ雰囲気が違う。
 やはりここは選ばれた人間しか入る事のできない場所なのだと繋は感じる。自分のような能力の発現していない、半端な人間が来るような所ではない。
 理緒はゆったりとした足取りで廊下を進む。と、廊下の先からこちらに歩いてくる女性がいた。小柄でショートカットの活発そうな生徒。
 繋には見覚えが有った。たしか、醒徒会の書記・加賀杜紫穏だ。紫穏は水分に手を振りながら近寄ってきた。
「先輩、お疲れさまです。この人ですか、噂の土左衛門君て」
「紫穏ちゃん、土左衛門ていうのは失礼でしょう」紫穏は答える。
「ドザエモン?ドザエモンていうのは何の事だ?名前の響きからして昔の人間だな、そしてきっと俺をドザエモンと呼んだという事はそのドザエモンというのは昔のイケメンの事だろう?当たりだな?当たりだろう?」奏は一気にまくしたてた。
 辺りを冷めきった静寂が包んだ。繋はもう慣れてきたとばかりに無視を決め込み、理緒は笑顔をたたえたまま受け流した。紫穏は目を丸くしていたがやがて溜息をついた。
「ははははは、何、俺の推理が図星だからといって黙る必要はないぞ、何せ天才だからなこの俺は!」奏は大きく口を開けて笑う。
「ああ、先輩からちょっと聞いてはいましたけど、とんでもない人が来ましたねコレは」紫穏は言う。「変人揃いの双葉学園でもこのレベルはなかなか…」
 変人ぞろいというのに自分が入っているのかが多少気になったが、理緒は「皆を待たせているから先に進みましょう」と三人を先導して先に進んだ。
 階段を昇り、高そうな赤絨毯が敷き詰められた廊下をひたすら真っすぐ歩くと、突き当たりに大きな扉が見えた。
「あれが醒徒会室です。中で残りの醒徒会執行部が待っています」
「まあ執行部っていっても普通の人ばっかなんで、私みたいに。」加賀杜は言った。
 自分を普通と言い切る加賀杜紫穏もなかなかのものだと繋は考えたが、黙っていた。それよりも何よりも緊張の方が勝っていた。
「では、入りましょうか」理緒が言い、重い扉を開けると中に数人の男女がいた。確か残りは醒徒会長、広報、庶務、監査、会計のはずだ。
 一番奥にいるちびっ子が醒徒会長の藤御門御鈴だろう、これは生徒総会で見た。
 その横でこちらを見ているサングラスの男が確か会計監査のエヌRルール。サングラスの下の表情は読めないが。
 右方で興味深そうにこちらを見ている大柄の筋肉質の男が広報の龍河弾のはずだ、全裸とかいう噂は聞いたが今見る限りではきちんと服を着ている。
 左方の窓を背にした席に座り、難しい顔をして一心不乱にノートパソコンを叩いているのが会計の成宮金太郎だろう、こちらに目もくれない。
 あと、もう一人こちらを見ている人の良さそうな少年がいたが、それはまあいいかと繋は判断した。どうやら今日は庶務の人は休みらしい。


「ご苦労だったのだ、副会長」小さな女の子が凛とした声を上げた。
「いえ、苦労というほどのものでは…」理緒が答えた。あれが苦労ではないのなら、一体何が苦労なのだろうか。
「そうか。で、その二人が例の漂着者とそれを拾った生徒だな」
「あ、はい。双葉学園高等部2−Aの音羽繋です!」思わず繋は直立不動で答えた。この会長は小さいがどうにも不思議な威厳がある。
「ふむ、ではそちらが漂着者の、えーと……」名前を聞いていない会長は奏に視線を向けた。
「俺の名前を知りたいのか?知りたいのならば教えてやろうちみっ子よ!俺の名前は天地奏、天と地に俺の音を奏でる男だ!ちなみに今日名乗るのはこれで3回目だ!」
 自信満々に、実に良く通る大きな声で言い放つ。あの馬鹿醒徒会室でも自重しない…と繋は思わず天を仰ぎ見た。室内なのでそんなことをしても見えるものは白塗りの天井だけである。
 呆気にとられたのは理緒と紫穏以外の醒徒会の面々である。御鈴はただでさえ大きな目をさらに大きく見開き、PCから目をそらさなかった金太郎も奏の方に目をやり、龍河は最初は口をぽかんと開けている。ルールだけは微動だにしていないようだ、いやサングラスが微妙にずり下がっている。
 周囲の時が止まったように静かになったが、一人その原因である奏だけは全くそれを意に介していない。
 それどころか懐からフルートを取り出し「では、挨拶のかわりに1曲弾いてやろう!」誰の反応も顧みる事無く演奏を始めた。

 あたりを先ほどとは別種の沈黙が包んだ。皆、奏の演奏に聞き入っている。繋はやはりこいつの演奏は本物だと思う、そういえば昔、音楽の授業で習った過去の偉大な音楽家たちもかなりの奇人変人エピソードにまみれていたななどと考えた。案外こいつもそういう類なのかもしれない。
 数分が過ぎて演奏が終わると、龍河と紫穏、それから速人は感心したように拍手をした。
「いやあ、なかなか凄いじゃないか」とか「ただの馬鹿でもなさそうっすね」とか「凄いです、俺感動しました」だの口々に感想を述べている。
 奏のほうも満更ではないらしく「ありがとう諸君!」など言って手を振っている。どうやら醒徒会の一部にはもう馴染んできているらしい。
 噂に違わぬ個性は揃いだなどと繋が思っていると、ようやく平静をとりもどした御鈴が口を開いた。
「うむ、なかなかの演奏であった。私もここまでのフルートはなかなか聞いた事がないのだ」
「いやあ、確かに凄いもんだな。俺もいろんなオーケストラの演奏を聴いたけど、これはなかなか……」金太郎が言う。
「ほう、俺の演奏の良さがわかるとはなかなか見所のあるちみっ子ではないか!」奏が言うと御鈴は即座に反応した。
「さっきもそう言ったな。ちみっ子はやめないか!私は立派なれでぃだぞ!」
「何がレディなのかな?レディっていうのはも〜っとオトナの女性の事を言うんだよ、お・ち・びちゃん。背伸びしちゃって可愛いなあ」などと奏は抜かした。
 俄に醒徒会室に不穏なムードが漂う。今の奏の発言は会長にとっては明らかに地雷だ。むしろわざと地雷を踏んだのではないかとすら思えるようなレベルである。
 奏以外の面々がそろ〜っと御鈴の顔を伺うと、案の定、御鈴は真っ赤になって俯きながら肩を振るわせていた。これはマズい、完全にマズい。
「れでぃに向かってなんて失礼な、なんて失礼な…………」うわごとのように繰り返す御鈴。彼女の前の机で寝ていたリボンをつけた白猫も「フーッ」と奏を威嚇している。
「やめろ、会長、室内でそれはまずい!」龍河が叫ぶ。
「会長、人に向けてそれを放つ事は推奨出来ない」ルールも言った。多少声に緊張を含んでいる。
「御鈴ちゃん、やめて。ここは抑えてください」
「よせ、ここでぶっ放したらこの部屋が壊れる。修繕費がかかるぞ!」金太郎はあくまでも金の心配をする。
「あたし知らないっと」紫穏は無関係を装う事にした。
「落ち着いて会長、さすがにマズいですって」速人も懇願する。
「えーい、うるさい。レディに向かって無礼な事を言う事は許されないのだ!白虎ちゃん!」
「うなー」鳴くと白猫が口を開けた。その口の中にとてつも無い量のエネルギーが生まれるのが繋にもわかった。大気が震える。心無しか地面も揺れている。
 あたりを緊張感が包む。これはヤバい。

「「「「「「「やめろー!!!!!!!!」」」」」」」

 室内にいる会長と奏以外の声が奇麗にハモった次の瞬間。
「ビーム!」会長が叫ぶと白虎ちゃんと呼ばれた白猫の口からビームのようなものが飛び出し、奏を直撃した。白虎砲である。
 ビームは奏ごと扉を吹き飛ばし、そのまま廊下を突き進み、窓を突き破った。そのまま奏は窓から放り出され醒徒会棟の前の地面に叩き付けられた。
 ビームの轟音を聞きつけた生徒達が奏の落下地点に集まり始めたようで、外の喧噪が醒徒会室にも伝わってきた。

 御鈴は「れでぃに向かって失礼な」とぶつぶつ呟き、龍河は生徒にそう説明するべきかと頭をかかえ、ルールと金太郎は早速醒徒会棟の修繕費用について話し合いを始めた。理緒は放心状態と言った感じで椅子に座り込み、加賀杜は腹を抱えて笑っている。この子もさすが醒徒会だ、なかなか凄いと繋は思った。
 繋の方といえば、刺激的な出来事の連続に頭がついていかなくなってきたという感じでぼんやりとあたりを見渡すことしかできなかった。



 白虎砲が盛大にぶっ放されてから約30分が経過した。放心状態から数分で立ち直った理緒はテキパキと役員たちに指示を出し、自らも各所への連絡に奔走した。ルールと金太郎も予算がまとまったようですぐに工事の発注をした。なんと今日、明日で直るらしい。さすがは建築部である。そういえば建築部のどれかの部長はうちのクラスだったなと繋は思い出した。とはいったものの、基本的にクラスに来ないので繋はあまり面識はないのだが。
 龍河も今回の件を生徒及び教師にどう説明するかという草案をまとめた。誰が見ても今回の事件の原因は明らかなのだが、さすがにそれをそのまま発表するわけにもいかない。何事も建前で動いているものである。龍河弾は馬鹿ではあるが決して頭が悪い訳ではない。
 加賀杜も5分程腹筋を痙攣させていたが、水分から半ば恐喝的な指示が出た為に、しぶしぶと関係各所に提出する書類をまとめた。
 速人もその速度を活かし、醒徒会室と建築部や職員室の間を奔走した、要するにパシリだが、庶務とはそんなものである。

 これが30分の出来事である。今の出来事がわずか30分足らずで収束してしまった。繋はどうも醒徒会というのはただの戦闘能力が優れた面子というわけではないということを思い知らされた。
 事態が収束した後、ようやく、最後に御鈴が立ち直った。
「で、あの馬鹿はどうした?」御鈴が言う。もうあの馬鹿呼ばわりである。
「天地奏は第5保健室に収容された。怪我は多いが本人は元気らしい。天地奏を収容したものによると、奴は『たとえ幼女とはいえ愛は痛い』と話していたそうだ」ルールが告げる。
 そんな馬鹿な。如何に手加減していたとはいえ、あの白虎砲をくらって元気とはどういうことなのだろうか。それに愛ってなんだよ。
「で、奴の処遇はどうするんだ?最も本人はいねえけどよ」
「うむ、そのことなんだが…………。しばらく考えてみたのだが、この学園に入れて様子を見ようと思う!奴はどうやらかなりの魂源力を持っているみたいだしな」
 御鈴がとんでもない事を言った。先ほどその当人を盛大にぶっ飛ばした人間の発言とは思えない。
「そりゃ危険すぎねえか?奴は身元不詳だぞ」
「僕も推奨できないな。得体の知れない人間を学園内に入れるべきではない。あれだけの魂源力の持ち主ならばなおさらだ」
「だいたい学費はどうするんだ、アイツ一文無しだろ」やはり金の心配をするのは金太郎。
「あたしは、賛成。似たような境遇だしね〜」紫穏は賛成に回った。
「いや、似たような境遇と言っても君は学生証を所持していた。天地奏とは違う」ルールが切り捨てる。
「でも、ココに入れないとどっかの研究施設送りじゃない?それはちょっとな〜」紫穏も似たような境遇の奏に同情したのか食い下がる。
「そうか、では副会長と、音羽さんはどう思う?2人が一番奴に接触したはずだぞ」
 御鈴は理緒と繋に話を振ってきた。
 水分はしばらく考えていたが、やがて顔を上げると、話を始めた。
「私は会長の案に賛成です。私には彼が悪い人とは思えません、相当変な人であることは間違いないと思いますけど」
「私もそう思います。とんでもない馬鹿だけど、少なくとも悪い奴じゃないと思います」
 水分の言葉を受けて繋も話した。
 咄嗟の事とはいえ、自分がこういう返答をしたことは繋自信にとっても意外だった。まさかあの馬鹿を擁護することになるとは。研究施設送りになるということに情が動いてしまったのだろうか。
「天地奏に接触した2人が言うのだから、間違いはない!ではそういう事で決定!」御鈴は高らかに宣言した。
 他のメンバーもこうなったらもうとやかく言っても無駄だとひきさがるより他ない。
「でもよお、編入はいいとしてどこに入れるんだ?」
「確かにそれは問題だな。見た所奴は高校生くらいのようだし………」会長は考え込む。そのまま数分うなり続けたが、やがて顔を上げた。
「よし、決めた!天地奏が編入するのは高等部2−Aで決定!」
「「は!?」」理緒と繋の声がハモった。
「会長なんで私のクラスなんでしょうか?」珍しくうろたえながら水分は質問する。
「うむ、編入することに決定はしたものの、ルール達の言う危険性も考慮したのだ。2−Aならば副会長もいるしいざとなっても奴を押さえられるだろう!」
「いや、そんな横暴な………」なおも食い下がるが、もう会長は聞いていない。
「却下した意見も切り捨てずにきちんと盛り込む、人の上に立つ者はこうでなくてはな。」御鈴が言うと白虎も「うな〜」とそれを肯定するように鳴いた。

「あ、それとな」御鈴は繋の方に目を向けた。
「音羽繋君、きみは天地奏の世話係だから、頑張ってな!せいぜい学園生活を楽しませて上げて欲しい」また会長はとんでもないことを言い出した。
「え、私?私が何でアイツの世話係」
「拾ったのも何かの縁という事だ。上手くやるのだぞ」
「そんな酷い…………」もう繋は泣きそうだ。
「うん、今日はもう帰っていいぞ音羽繋君、お疲れさま」御鈴は歯牙にもかけない。
 なおも繋は食い下がろうとしたが、会長はもう猫と遊んでいた。取りつく島も無い。

 これ以上の抵抗は無駄と判断し「なんでこんな事に………」とつぶやきながら繋は醒徒会室を後にした。今日一日で自分はどれだけ驚かされたのだろうか。もうとにかく早く寮にもどって寝ようと思った。

          *

 天地奏を拾ってから、一夜があけた。繋はその日起こった出来事や、天地奏の世話役を命じられた事、それが醒徒会長命令で繋には拒否権などない事。
 そして何よりあの個性的というレベルを遥かに超越している天地奏という人間のの事を考えると、非常に憂鬱だった。しかし疲れから女子寮の自分の部屋に戻るやいないや泥のように眠ってしまった。

 憂鬱な気分で2−Aの扉をあけ、自分の席にのろのろと歩き、倒れ込むように席に座る。あたりを見回すといつも空いているはずの自分の右後ろの席が埋まっている。
 席の主は鳶縞キリ、第九建築部:通称大工部と呼ばれる部の部長を勤める女性だ。17歳の時にラルヴァ戦で負傷し、2年間の休学のおかげで御年20歳。
 普段は登校しても大工部の部室に直行するために、始業式や終業式、テスト期間以外で目にする事はほぼ無いといってもいい。それが今日に限って登校している事に繋は興味を惹かれた。
「あの〜、鳶縞さん、お久しぶりですね」繋は意を決して話しかけてみた。
「ああ、音羽君か。久しぶりだね」
「今日はどうしたんですか、珍しいですよね」
「いや、昨日醒徒会棟が壊れたらしくて、その修理がうちの部に依頼されたんだけどね」
「あれ鳶縞さんのところが担当するんですか」
「まあね、それはいいんだ。でさ、その醒徒会棟をぶっ壊した、いや会長に醒徒会棟をぶっ壊させた張本人がこのクラスに編入するらしいじゃないか」
「………」もう話が広まっているのか。繋は絶句するしかない。
「で、その馬鹿の顔を見てみようと思ってさ、久しぶりに登校したってわけ」
「もしかして、その話結構広まってます?」恐る恐る聞いてみる。
「結構どころかみんなこの話題で持ち切りだよ」鳶縞キリはある意味で死刑宣告を告げた。

 鳶縞キリの言う通りだった。クラスは季節外れの編入生の話題で持ち切りである。「面白い人らしいよ」だの「なんか凄いイケメンらしいよ」だの「楽器持ってたらしいぜ、管弦楽部に誘ってみようかな」だの「なんだ男かよ、どうでもいいや」だの無責任な声がクラスのそこかしこから聞こえる。
 鳶縞キリに挨拶し視線を前に戻すと、友人の鈴木千香が近寄ってきた。
「おはよう音羽ちゃん!」
「おはよ〜」
「何、元気無いね?昨日どうだったの?」
「色々あってね〜、とにかく疲れてるのよ」
「へえ、ねえねえ昨日の件てさ、もしかして編入生君となんか関係があるの?」
「ああ、昨日私が見つけたのが編入生」
「やっぱ関係あるんだ!じゃあ編入生君の事知ってるんでしょ?どんな人?」

 どんな人、か。そう聞かれて繋は考えこむ。表面的には、プロ並みのフルート演奏技術を持つイケメン。いかにも千香が飛びつきそうな感じだ。彼女はなかなかミーハーなところがある。
 だが問題は中身である。あの奇人変人ぶりを言葉でどう説明したらいいのか、繋には皆目検討がつかない。考えに考えた末に、ようやく言葉を絞り出した。
「凄い人…………かな。色んな意味で」まあ間違ってはいないだろう。
「凄い人?なんだかよくわからないけど、面白そうだね………」
 面白いか、そう言っていられるのも今だけなんだろうなあ、と繋は自嘲気味に笑った。

 そうこうしているうちに、チャイムが鳴る。担任の春出仁と、一緒に水分理緒が入ってきて、生徒達はめいめい自分の席についた。春出の顔はいつになく疲れているようだ、そして理緒もいつも通りのようだが、笑顔に翳りが見える。繋にはその原因がはっきりとわかった。
 生徒全員が席に着いた事を確認して春出は口を開く。
「みんな、おはよう。おや、今日は鳶縞が出席しているな」春出が話始めると生徒の一人が「せんせー、転入生は〜?」と声をあげた。
「やはりもう話は広まっているのか。まあそうだろうな………。その通りです、今日はこのクラスに転入生がきます」
 春出の口調は重い。
 途端にクラスから歓声があがる。何をみんな喜んでいるのだろうか、入ってくるのはアレなのにと繋は思った。
「静かにしてね………。じゃあ転入生に入ってもらいましょうか、どうぞ」と春出は廊下に声をかけた。
 すると、教室の扉が勢い良く開き、男が教室内に軽やかな足取りで入ってくる。見紛うはずもない、天地奏である。
 奏が教壇の横に立つと、女生徒から歓声があがり、男子生徒からはがっかりしたような声があがる。奏の容姿を見てのことだろう。
 前の席に座る千香が振り返ってきた。
「何よ音羽ちゃんアレ。すっごいイケメンじゃん」千香は興奮したようにまくしたてる。
「イケメンね、まあイケメンだよね、確かにね」
「音羽ちゃん反応悪くない?どうしたの?」
「まあ直にわかると思うよ………」繋にはある種の核心があった。

「はい、静かにしてください」
 春出は生徒に呼びかけると奏の方を向いた。
「じゃあ、自己紹介してください…………」
 ひと際大きな歓声が女子生徒からあがる。歓声をよそに繋は自分の時計を見下ろした。さて、このムードが何分もつのだろうか。

 話を振られた奏は教室の全体を見回す。今やクラスの注目の全て(生徒2名と教師1名以外)が彼に注がれている。
「俺の名前は天地奏、天と地に俺の音を奏でる男だよろしくな!」と奏が繋にはもうおなじみというよりうんざりの自己紹介をした。
 先ほどと同じく女子生徒から歓声があがった。
「では、君たちに初めて会った記念に、この天才様が一曲演奏してやろう。末代まで誇りに思うがいい」
 言うと懐からフルートを取り出す。
 この段になって結構な生徒が奏のおかしさに気がつき始めた。あんな自己紹介はない、というかなんだ天才って。など、クラスの方々から声が聞こえた。
 千香も困惑の表情を浮かべて繋を振り返る。繋はそれには答えずに、ただニヤリと笑い、時計を見下ろす。30秒というところだろうか。

「では諸君、傾聴するがいい!」奏はクラスの喧噪を一顧だにせず、フルートに口をつけた。

 奏の音楽が教室を包む。朝に相応しい爽やかなメロディだ。聞き覚えが有るが、もちろん繋は曲名を知らない。
 奏の演奏がはじまると、ざわついていた生徒達も途端に口を閉じて、演奏に聞き入る。やはり奏の演奏にはそれだけの力があるらしい。繋もしばらく何も考えずに演奏に聞き入った。これが束の間の平和な時間だろうから。

 2、3分が経過し、奏の演奏は終了した。呆然としていた、生徒達も我に返り、その演奏に拍手を送った。
 拍手を浴びて、奏もどうやらご満悦のようで、生徒達に手を振っている。
 ある女子生徒は「さっきの自己紹介はきっと何かの間違いだよ」などと言い始めた。甘い、甘いぞ諸君。繋は邪悪な笑みを浮かべた。
「拍手ありがとう諸君。この演奏は君たちにとって一生の宝になるだろう、せいぜい大事にするがいい!」奏は言い放った。
 先ほどの女性とは黙り込んだ、それどころかクラス全体が黙り込んだ。クラスを気まずい沈黙が包む。

「えーと、では皆さん、天地君と仲良くしてくださいね」春出が気まずい沈黙を破って口を開いた。
「ああ、仲良くしてあげよう!」こいつは一体何様だ。
「…………。天地君の席ですけど、ちょうど空いている音羽さんの後ろですね。音羽さんは醒徒会から天地君の世話役を仰せつかっているようですし」
 教室が再びざわめきだした。「何だよ世話係って」とか「音羽さんに世話させるなんて許せねえアイツ」など生徒は話している。
「世話係ってどういうこと、音羽ちゃん」千香も振り返って質問してく。
「えーと、まあ拾った縁というかまあ色々あってね………」一番思い出したくない事を思い出して憂鬱な気分になる。

 春出の話を聞いた奏は繋ほうに目を向けた。
「ほう、お嬢ちゃんは俺の世話係なのか。なんだそうなのか。いやいやこの天才様の世話係とは幸運だなお嬢ちゃん。ではこれから俺の事はご主人様と呼ぶがいい」
 奏がそう言った刹那である。
「誰がご主人様だ!!!!」
 奏は激怒した。
 繋は腹の底から叫ぶと机のうえに立った。そこから自分の斜めまえの席に飛びうつり、机の上を走り抜けるように一直線に奏に向かって駆けて行く。
 奏の数メートル前の机に到達したところで繋は机を強く蹴り、斜め前方に飛び上がった。そのまま美しいキックの姿勢を作り奏に突っ込んで行く。
 生徒の誰かが「ライダーキック………」と呟いた。
 その名の通り、かつてTVで見たようなライダーキックが奏の胸に炸裂した。「ぐえっ」という声を出し、くの字に折れ曲がる奏。
 だがそれでは終わらなかった。繋は蹴った奏の胸を足場ににしてもう一度、飛び上がる。
 そのまま空中で一回転すると、再び、奏の胸にキックを炸裂させた。
「ぎゃふん!」
 ドゴォッ!と爆発音のような音がして、奏は黒板に叩き付けられた。昨日からの鬱憤が全て集積した凄まじいキックであった。
 先ほどの生徒が「すげえ!あれは反転キック!」と叫ぶ。
 異能力が発現していないとはいえ、繋は双葉学園に入学後、訓練を積んできた。机を八双飛びして、反転キックをぶちかます程の身体能力を持っていたのである。中でも繋は運動神経も良く、格闘技 の筋もいいと評されていた。
 すとっと奇麗に床に着地し、のびている奏を見下ろした時点で繋は我に返る。とんでもないことをしてしまった。
 教室がまたもや、ざわめきはじめる。皆突然の繋の行動に驚いたようである。千香も理緒も鳶縞も目を大きく見開いて繋を見ていた。繋の行動が余程意外だったのだろう。だが一部から「かっこいい」だの「俺も音羽さんに蹴って欲しい」などという意見が聞こえた。
 このクラスも所詮は双葉学園である。
 やがて、ざわめきは歓声に変化した。主に男子生徒が声をあげる
「おーとーわ!おとーわ!」歓声は熱狂となりクラスを支配した。
 このクラスの生徒、いや双葉学園の生徒は基本的にノリ易い、というよりもどいつもこいつもお祭り好きだ。
「凄いんだね、音羽さん」春出が引きつった顔で繋に声をかけた。
「あは、あはははは…………」
 繋は最早笑って誤魔化すしかない。自分の学園生活はどうなるのだろうか、と繋が虚ろな頭で考えた時だった。
「ははははは!お嬢ちゃんの愛もなかなか痛いな!だが、心配することはない、この天才様はそのくらいの愛の一つや二つや三つや四つ、受け止める度量があるからな!」
 奏が起き上がって高笑いを始めた。言っている内容は置いておいて、その姿を見て繋はある事を思い出した。
 こいつは昨日、学園最強の、醒徒会長の白虎砲をくらって(勿論、結構な手加減はしたのだろうが)ここに立っているわけか。
 繋は恐ろしい事実に戦慄した。


Part3に続きます


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