【X-link 1話 Part4】


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          X-link 1話【Beggining From Endless】part4 


 菅誠司は山道をひたすらに走る。何故か先ほどから妙に身体が軽いという事が不思議だったが、今はそんな事を考えている場合ではない。全く補正されていない、道なき道をひたすらに突き進む。
 誠司はレスキュー部の備品として全身型の防刃スーツを所持している。これを着れば、枝や葉がどんなに引っかかる事があっても傷一つつかないだろうが、今の彼女の服装はただの体操服に短パンといったものでしかない。誠司のむき出しの顔や足に次々と木の枝や葉がぶつかり、誠司を傷つける。彼女の身体にはすでにいくつもの擦り傷が出来ていたが、そんなことは一顧だにしない。超人的な精神力でひたすらに山道を駆け下りて行く。
 背負った命の重さが、自分たちを行かせる為に無謀とも言える戦いを続けるクラスメイト達の決意が、レスキュー部部長としての誠司に、そして一人の菅誠司という人間に力を与えていた。

 だが、それも限界が近づいていた。いかに彼女が鍛えたからだを持ち、並外れた精神力を持っているといっても菅誠司は16の少女で体格もそれほど人よりいいわけでもない。ラルヴァと戦い続け体力をかなり消耗していた上に、人を1人背負うというハンディまで負っている。肉体も精神も疲弊しきっていた。
 そんな時だった。彼女が山道を小走りでかけ上がってくる人影を見つけたのは。
 それは見紛う筈も無い、醒徒会副会長・水分理緒。学園最強の異能者の一人。誠司は安堵した。彼女ならば間違いない。必ず今も戦い続ける2人を助けてくれるはずだ。
「おい!水分さん!」
 大声で呼びかけながら誠司は山道を、水分に向かって転がり落ちるように駆け下りた。

 いきなり現れた傷だらけのクラスメイトの姿に理緒は絶句した。さらに彼女を驚かせたのは誠司が背負っている鈴木千香の姿だ。止血処置はしてあるようだが、背中から結構な量の血を流している。
「菅さん!?どうされたんですか!?」
「演習をしていたら、いきなりラルヴァが現れて………。彼女が怪我をしてるんだ、救急車を呼んで欲しい。それとまだこの上で天地と音羽さんがラルヴァと戦ってる。2人とも私達を逃がす為に………」
「わかりました。すぐに助けを呼びますから、しっかりしてください」

 何度も修羅場をくぐり抜けた水分は冷静だった。冷静に生徒手帳で救急を呼ぶと、難なく通信は成功した。
 (ここでは通信が可能なの……?)
 理由はわからないが、水分にとっては幸運だった。すぐに救援は来るという。ひとまず安堵すると理緒は誠司と千香の応急処置をしようとする。
「私はいいから、上の二人を………」
「大丈夫。音羽さんと天地さんも必ず助けますから」
 誠司の制止に対してそう言い切ると、有無を言わせず理緒は誠司と千香の応急処置を始める。
(音羽さん、天地さん、もう少しだけ頑張ってください。必ず助けに参りますから)
 理緒は手当をしながら考えていた。


          *

 かっこよく言い放ったのはよかったが、奏には何のプランもなかった。なにか着心地が良かった上に、体に力が漲るような気がしたので気分は高揚したがそれだけである。このアールイクスとかいうものに如何にして変身するか、という事は思い出したが、これが何物なのか、これをどう使うのかは全く思い出せない。
(何か武器はないのか)
 とりあえず腕や胸についたボタンやレバーを弄る。そして左腕のレバーを弾いた時だった。
<<Second movement "RAY-FORCE">>

 奏の頭に声が響く。その声はどこか懐かしさを覚える、女性の声だった。
 すると、アールイクスの左手に力が集まるのを感じた。
「なんかよくわかんないが、これでどうだ!」
 奏がおもむろに左手の手のひらを小鬼の一体に向けると、ビシュンという音がしてアールイクスの左手のひらから光弾が発射される。光弾は凄まじいスピードで突き進み、小鬼に直撃する。直撃された小鬼は断末魔の叫び声をあげると、塵と化した。

 威力を確かめると奏は光弾を乱射し、次々と小鬼を撃破していく。先ほどまでさんざん苦しめられた小鬼が冗談のようにあっさりと全滅した。
「これは素晴らしい………カ・イ・カ・ン!」
 左手を機関銃に見立てたかのようにフウ、と息を吹きかけるとうっとりとした声をあげた。


「何ヲ余所見シテイル!」
 泥人形が怒気をはらんだ声を奏に向けて放ち、さらに加速をつけて奏に向かって飛びかかって来た。しかし、奏は焦った様子もなくゆっくりと左手を泥人形に向けた。
「さよならだ腐れ人形」
 言うや否やアールイクスの左手から光弾が発射される。これで終わり………
 ではなかった。
 全身に炎を纏った泥人形は光弾をものともせずに、アールイクスに突っ込み強烈なタックルを食らわせた。

 またもや吹っ飛ばされたアールイクスは全身を焦がされ、煙を上げながら仰向けに倒れた。
(なんで効かないんだよおい)
 天を仰ぎながら奏は考える。単純にあの光弾は威力が低いらしい。小鬼程度の下級ラルヴァならば十分だが、ある程度以上のラルヴァ相手には牽制程度にしかならないらしい。さらに困った事に、あの光弾は使う度に魂源力を使うようだ。
(あー、なんか他に武器はないのか武器は)
 奏は先ほどのように腕と胸のボタンやレバーをいじくり回す。右腕のボタンを押した時に変化が起きた

<<First movement "GRADIUS">>

 再び女性の声がする。
「ようしきた!今度は何かな?強い武器だといいなあ、地球破壊爆弾みたいなやつ。さっきのは空気砲みたいだったしなあ」
 双葉学園に流れ着いてからしばらくの間に見た作品の中で、一番強そうな武器を挙げてみる。この作品は彼が住居とする寮に住むアフリカ系アメリカ人留学生のボブに勧められて読んだものだ。そんな作品知らんと言った奏の胸ぐらを掴みあげると、ボブは「非国民!アナタそれでも日本人カ!ワタシとても悲しいヨ!」と叫ぶと、原作漫画40巻以上を奏の部屋に無理矢理置いて行った。2mの大男につかみ上げられた恐怖も忘れる程に奏は国民的な漫画にのめり込んだ。

 どうでもいい脱線はさておき、わくわくしながら何かが起きる事を待っていた奏の視界に何かが光るのがうつった。その光は鋭さを増し奏に向かって加速しながら落ちてくる。それが何かを確かめようと奏が腰を上げた次の瞬間である。
 奏の頭を置いていた所に剣が落ちて来た。奏が起き上がらなかったら彼はかなり無様な最後を遂げていただろう。慌てる様をまわり(といっても泥人形と繋だけだが)に気取られないように悠然と剣を引き抜くと、それを全身を燃え上がらせる泥人形に向けてそれを向ける。剣はまっすぐな両刃で、そしてアールイクスの各部と同じく、フルートのような意匠が施されていた。
「キサマ、コンドハ何ダ」
「見りゃわかんだろ、テメーを叩き斬るんだよ」
「フザケルナ!」
 そう言って真正面から突撃してくる泥人形の間合いを見切り、アールイクスは剣を振り下ろす。突進してくる泥人形にカウンターのように斬撃がきまる。思わずよろける泥人形に対して、アールイクスは一撃、二撃と容赦のない斬撃を浴びせて行く。4回ほど斬ったところでたまらず泥人形は膝から崩れ落ちた。
「キサマ、ヨクモ俺ノ突進ヲ………」
「あんなに馬鹿の一つ覚えみたいに突っ込んできたらな、いい加減にタイミングも覚えるんだよ。こちとら天才だからな!」
 その馬鹿の一つ覚えみたいな突進を2度もまともにくらった天才は泥人形を見下ろし、言い放つ。
「キサマ………」
「なんでお前が炎を纏っているのかとか色々聞きたいことはあるけどな、それは俺以外のえら〜い人が調べてくれるだろ。終りにしてやるよ」
 冷徹に言うと、奏は淀みない動作で胸のレバーとボタンを操作する。

<<Final movement JudgementSilverSword>>

 音声が流れると、次にアールイクスの胸部から大きな光弾が発射する。それは泥人形にあたると、泥人形を拘束し、空中に持ち上げて固定した。
「ナンダコレハ。身動キガトレン!」
 泥人形は必死でもがくが、光弾の拘束を解く事は叶わない。
 その様を見ると、アールイクスは思い切り空中に飛び上がった。数メートル飛び上がったところでアールイクスに変化が起きる。
「変形した!?」
 隠れて様子を伺っていた繋も思わず声を漏らす。アールイクスは繋の言う通り、変形を始めた。手や足をあり得ない方向に折りたたんでいく。
「なんだこりゃぁ!うわああああああああああ!!」
 奏の悲鳴が聞こえて来たが、繋は聞かなかったことにした。あれはもうどうしようもないだろう。
 しばらくするとアールイクスの変形は完了し、アールイクス自体が巨大な剣と化した。およそ4メートルはあるだろうかという巨大な銀色の剣である。物理を完全に無視したようなその変形に繋は目を奪われた。


 その剣は変形が終わると、奏の悲鳴を乗せて更に上空に向かって飛んで行く。拘束した泥人形の真上で、地上から見ると米粒大にしか見えないところまで上昇すると向きを反転させて、泥人形に切っ先を向ける。そして次の瞬間、凄まじい速さで泥人形に突っ込んで行った。
 まさしく光のような速さで剣は泥人形に突っ込んで行く。そして、泥人形を串刺しにしたまま剣は地面に突き立てられた。
「コンナ馬鹿ナ!強化サレ、ダブルニマデナッタコノ俺が!ギャアアアアアア!」
 泥人形の断末魔を覆い隠すように剣は巨大な光の柱と化した。


「奏!ちょっとなんなのよアレは!奏!」
 光の柱に飲み込まれたアールイクス=奏に繋が近づこうとすると、肩をつかまれた。彼女の肩をつかんだのは水分理緒だった。ここまで走って来たのだろ う、肩で息をしている。
「水分さん?どうしてここに………」
「皆さんと連絡が取れなくなったんで、様子を見に来たんです。そうしたら途中で菅さんとあって……」
「菅さん?二人は大丈夫なの!?千香は?」
「ええ、菅さんは疲労が激しいですが、問題はありません。鈴木さんのほうも命に別状はないとの事です」
 水分は駆けつけた救急隊員に2人を預けると、ここまで全速力で走って来たのだった。
「そう、良かった……」
「ええ、音羽さんも無事で何よりです。あの、天地さんはどうされました?それにラルヴァは?あと、あの光の柱のようなものはいったい………」
 水分が光の柱の方に目を向けると、光の柱は消えた。
「消えた………」

 そして、光の柱が有った所からアールイクス=天地奏が現れた。

「終わったぜお嬢ちゃん、それに理緒ちゃん。見たか、この天才様の活躍を………」
 奏がそこまで言った所で、アールイクスが全身から光を放った。光が消えると、鎧は消え去り、中から天地奏が現れる。
 奏は少し笑うとスローモーションのように地面に倒れ込んだ。

「奏!」
 倒れる奏を見た繋が彼に向かって、弾かれたように駆け出す。
 その様子を見ながら、水分は漠然と考えていた。今日起こった通信途絶事件、そして学園内のラルヴァ出現、さらにあの天地奏の姿。恐らくただの偶然ではないだろう。エヌRルールの危惧が的中してしまったのかもしれない。双葉学園に大変な困難が降り掛かる。水分はそんな予感がしていた。


          *

 事件から2日が経った。あの戦闘の後、奏と繋も誠司や千香と同様にすぐに病院に担ぎ込まれた。
 繋は疲労はあったが、外傷はあまり無かったために1晩寝ると翌日には退院の許可が出た。どうせならもう少し学校をサボりたかったと、少し残念な気もした。奏の方はどうやら戦闘で魂源力を全て使い果たしたせいで、気を失っただけらしい。1晩寝ると、翌日にはもう回復して病院の看護婦を口説いていた。様子を除きに来た繋が脳天に強烈な踵落としを喰らわせると奏は「ヒールクロウ?」と疑問系の言葉を残して気絶してしまった。一部始終を見ていた医師があきれ顔で退院の許可を出したために、繋は奏を引きずって病院を出た。
 残る2人のうち、誠司も疲労はあったが、打撲や擦り傷など比較的軽傷だったために1晩寝ると翌日の朝には退院したらしい。さすが2人でレスキュー部をやっている女はタフだった。彼女と入れ違いで現れた彼女の後輩が肩すかしをくらって少々うるさかったと繋は看護婦に聞いた。
 残る1人の千香は、実は一番退院が早く、その日の夜には寮に戻った。傷自体は深くなかったが、出血量が多かった為に事態を重く見た水分のツテで学園からヒーラーが派遣され瞬く間に千香を回復させてしまったのである。傷もすっかり塞がったために、いくらか輸血を受けた後に千香は退院した。そして翌日には何事も無かったかのように登校して周囲を驚かせた。やはり彼女には意外とタフなところがあると繋は思う。

 事件から2日後、登校した彼女を待っていたのはクラスメイトからの質問攻めと醒徒会執行部からの呼び出しであった。気は重かったが、結界で守られている筈の学園に、あれだけラルヴァが現れたという事は醒徒会としても到底放置出来るものではないだろう。繋を呼び出して事情を聴こうとする事は当然の事と言える。
 しかし、繋にとって気になるのはラルヴァよりも奏のことだった。彼があの時見せた力、たしかアールイクスといったか、あの力は見過ごせるものではないだろう。もし奏がこの学園にキバを向けたとしても、それ自体は大したもんだいではないだろう。醒徒会にすぐに鎮圧されてしまうに違いない。問題なのはクラス間のパワーバランスが崩れることに関する懸念と、彼の力の出自である。双葉学園では演習などで偏りが生じないように、醒徒会執行部のメンバーは数には入れずに基本的にクラス間の戦闘力が均等になるようにしている。奏があの力を振るえばパワーバランスは崩れるだろう。だが、これも奏のクラス配置を変更するなどで対処できるためにそこまで大きな問題ではないだろう。
 やはり問題はあの力の出自だ。戦闘中は必死だった為に気に留めなかったが、あれは間違いなく超科学の産物だろう。もし力が奏自身の異能によるものならば、それは大きい問題ではない。奏個人の問題だからだ。問題はそうではなかった場合だが………。

 繋の心配をよそに、当の天地奏はといえば、実にいつも通りであった
「諸君、昨日俺がいなくて寂しかっただろう?辛かっただろう?悲しかっただろう?お詫びも込めておはようの1曲!」
 クラスを見渡してそうというとフルートを吹き始めた。曲名は知らないが確かモーツァルトだったか。朝に相応しい爽やかな曲だった。
 曲の途中で菅誠司が登校してきた。教室に入るなり、奏の演奏している姿を見て目を丸くしていたが、しばらくすると微笑みを浮かべた。そして奏の前に座る繋に片手で軽く挨拶をする。繋はそれに答えながら、これは今回の事件のちょっとした得だったなと思った。


          *

 昼休み、醒徒会長・藤御門御鈴をはじめとした醒徒会執行部のメンバーは醒徒会室に集合していた。2日前の事件について天地奏および音羽繋、両名から事情を聞き出す為である。菅誠司と鈴木千香の両名からは前日の段階で既に事情を聞いていたが、あまり有用な情報を得る事はできなかった。
 ラルヴァの出現については空間が歪み出現したという事に関してはどこかからテレポートしてきた、もしくはアポートされたという事で説明がつくが、出現前後の電波干渉に関しては説明がつかない。いずれにしろ問題な事は何者かが双葉学園にキバを剥いて来たという事である。

 エヌRルールが考えていると、醒徒会室のドアをノックする音がした。
「空いているぞ、入るがよいのだ」
 御鈴の声に応じて扉が開く。入って来たのは奏と繋だった。
「うむ、よく来たな。そこの椅子に座るがよい」
 2人が言われた通りに座ると御鈴は脇に座る理緒に目配せをする。理緒は軽く頷くと2人に顔を向けて軽く微笑んだ。
「お2人に今日、ここに来ていただいた理由はもうお分かりの事と思いますが、2日前の事件についてです。いくつか質問するだけなのであまり固くならないでくださいね」
 理緒はそう言って微笑んだが、醒徒会室の空気は重い。
 場の思い空気を一顧だにせずに、まずルールが口を開いた。
「前日、菅誠司と鈴木千香の両名にも話を聞いたが有用な回答は得られなかった。君たちは最後まで現場にいた2人だ。有用な情報を期待している。特に天地奏、君からはな」
 サングラスで表情は読めないが、射抜くような視線を奏に向けている事を繋は感じた。しかし、奏の方はというと気にする様子はない。
「視線が熱いぞ人造人間。俺にそっちの趣味はない。老若男女問わず好かれるのは仕方ないものと諦めてはいるけどな」
「……まあいい。とにかく質問に答えてもらうぞ。まず、昨日ラルヴァが発生した時の状況についてだが………」
 質問というより詰問ではないかと繋には思えた。


「やはり、ラルヴァについては有用な情報は得られないか」
 数分後、一通り誠司と千香にした同じ質問をしたがやはり回答も同じだった。繋は真面目に質問に答えていたが、奏の方はというと窓から外をぼんやりと眺めていた。
「いえ、あの〜。2人がいなくなった後に、新しいラルヴァが現れたんですよね」
 繋がおずおずと話を切り出した。
「そうなんですか?また小鬼ですか?」
「いえ、泥人形なんですけど………」
「なんだ泥人形かだったら別に問題ねーじゃねーか。ヘタすりゃ小鬼より弱いぞアイツ」
 広報・龍河弾は事も無げに言い放つ。残りの執行部役員も同意するように頷く。
「ああ、戦闘能力をもたない俺でもなんとかなるからな」
 執行部役員の中で唯一戦闘系の異能を持たない成宮金太郎も同意する。本来泥人形とはそこまで弱いラルヴァなのである。
「2人の言う通り、泥人形は異能を持たない一般人でも魂源力があれば戦えるレベルだ。何が問題だったんだ?」
「えーと、普通の泥人形じゃなかったというか。喋ったんですよ、あの泥人形」
「泥人形が喋るだと?それは本当なのか?」
 ルールの剣幕に圧された繋は奏の脇腹を肘でつつく。
「はい、本当です。あんたも見たよね?」
「ああ………まあな。それになんか燃えてたよなあ。動きも素早かったし」奏はダルそうに答える。
「泥人形が知性を持っててしかも燃えてたって言うんですか!?さらにはあの泥人形が素早く動くと!?」
 庶務・早瀬速人は自分の知る泥人形との違いに思わず声が大きくなる。
「落ち着いてください早瀬さん。音羽さん、俄には信じ難いですけど……本当なんですよね?」
「はいはい、絶対に間違いないって。私だって驚いたんだから」
「まあいい。それについては現場の調査結果を待ってからだな。他に気になった事は?」
「え〜と……特に無いです。あんたはなんかある?」繋は奏に話を向けてみる。
「特には無いな………。いや、そういやあの腐れ人形最後にこんな事言ってたな『せっかくダブルになったのに』って」
「腐れ人形ではない。泥人形だ。しかしダブルか……意味深だな」
 そう言うと、ルールは黙り込んだ。何か考えているらしい。

「ええと、では次に天地さん。あなたについて幾つかお聞きしたいのですが」
 理緒が奏に話を振る。まあどんな回答になるかはわかってはいるのだが。
「何、俺について聞きたい?いいだろういいだろう、この天才を丸裸にしたいのならば答えようじゃないか。俺は美人のリクエストにはノーとは言わない男だからな?」
「ええ、プライベートな事はまた今度ということで。今日はあなたの力についてお聞きしたいのですが」
 理緒のあしらい方を見て、繋は舌を巻いた。さすがは醒徒会副会長だ、この馬鹿のあしらい方を既に身に付けている。
「なんだそんなことか。ガッカリだがまあいいだろう」
「ありがとうございます。では質問させていただきますが、あれはあなたの異能ですか?それともどこかで手に入れた超科学兵器ですか?」
「知らん」
「では何故あれを使えたんですか?」
「頭を打った時になんとなく思い出した。変身の仕方だけな。他の事は適当にいじっていたら出た。最後のはわからん、なんとなく出来た」
「最後の、というとあの光の柱ですか?」
「ああ、いきなり体が変形したんだ。痛みはなかったが本当に気持ち悪かったぞ」
「変形!?凄いじゃんやってみせてよ」熱心に書記の仕事をこなしていた加賀杜紫穏が『変形』というキーワードに反応して声をあげる。
「いやだ、気持ち悪いからな」
「ケチだな〜。じゃあ変身してよ、変身」
「よしそのくらいだったらいいだろう、目に焼き付けるがいい!」
 そう言うと奏は懐からフルートを取り出し、2日前のように変身した。


 天地奏が変身してからはもはや質問にはならなかった。真面目な話に退屈しきっていた御鈴は目を輝かせ、早瀬は「俺もああいうの欲しい………」とぼーっとなり、紫穏は手を叩いてはしゃいだ。ギャラリーの反応に気をよくした奏はサービスでポーズをとったり何故か執行部メンバーと写真撮影をし始めてしまった。
 永遠に続くかと思われた馬鹿騒ぎを沈めたのは理緒の一言だった。
「ここは醒徒会室です。少し静かにしていただけませんか?」
 地獄の底から響くような理緒の声に醒徒会室は静まり返る。奏は変身を解除した。
「ああ、音羽さん、天地さん今日はご苦労様でした。またお話を聞く機会があるかもしれませんけど、その時はよろしくおねがいしますね」
 そう言って2人に笑いかけるが、目が全く笑っていない事が2人には良くわかった。
「あはははは、それじゃ失礼しました〜。ほらいくよ奏!」
 繋は奏の首を掴むと精一杯の引きつった愛想笑いを浮かべ、逃げるようにして醒徒会室を出て行った。


 繋と奏が出て行くと、醒徒会室に静寂が戻った。というよりも皆、固まったように動かない。
 理緒は先ほどから黙りこくっているルールが気になった。
「ルールさん、先ほどから何を考えているんですか?」
「ああ、今回の事件の事もそうだが、天地奏についてだ」
「天地君について?」
「ぼくは最初、天地奏をどこかの組織の潜入工作員だと考えていた。聖痕<<スティグマ>>やオメガサークルの活動がこの所活発だからな」
「では、天地君がその組織の一員だと?」
「ああ、だが奴は潜入工作員にしては目立ち過ぎだ」
「確かに彼今や結構な有名人だからね〜」紫穏が言う。彼女の学年にも天地奏の噂は広まっているらしい。
「そうだ、新手の工作の可能性も無くはないが、それにしても醒徒会の執行部に名前を売るのは下策もいいところだ。だからその可能性はとりあえず排除だ」
「では、彼は何だと思うんです?」
「1つ目の可能性は奴の言う事が全て本当であるというもの。そうなると奴にも自分の素性がわからないということだからどうしようもないがな」
「確かに」
「まあこの場合、漂流のショックで気を失ったオメガサークルの工作員という可能性もあるがな」
「オメガサークルですか」
「ああ、超科学兵器といえば奴らだからな。だが、ぼくの見た限りではあの………アールイクスといったか。あれはオメガサークルの技術系統とは違う」
「まあ、あなたが言うのならば間違いないのでしょうね」
「そうだ。では次に2つ目の可能性、奴がぼくたちの知らない新たな組織の一員であるという可能性」
「新たな組織!?」
「あくまで可能性だ。なんのメリットがあるかは見当もつかないが、天地奏があのような行動を取るのもその組織の目的に沿ってのものだとしたら」
「そうですか………」
「そして3つ目は今までの可能性の複合だな。まあどちらにしても現状では情報が少なすぎる」
「確かに、今ココで話し合いを続けてもこの問題については結論は出そうにないですね」
「現場の調査結果を待つしか無いだろうな」
「そうですね。ではこの話題はここまでにして、次に生きましょうか。御鈴ちゃん!」
「ん!?なんだ?」
 固まっていた御鈴が動き出す。
「そろそろ次の議題に行った方がいいと思うんですけど………」
「ん!?ああそうか、わかった。では次の議題だな」
 威厳を取り戻し、御鈴は一つ咳払いをして胸を張る。醒徒会が解決しなければならない問題はまだまだ山積していた。


          *

 命からがら、といった風情で奏と繋は醒徒会棟の外に飛び出した。
「いや〜肝が冷えたな!ははははは」
「あんたが調子に乗るからでしょ!ちょっとは反省しなさいよ」
「そうだな、理緒ちゃんの前では気をつけてあげよう」
「馴れ馴れしい呼び方するね、水分さんのファンに知れたら酷い目に遭うよ………」
 水分理緒はその美貌と気品から男女問わずファンが多い。奏の行動と言動が知られたら、ただでは済まないだろう。
「ふん、天才とは常に妬まれやっかみを受けるものなのだよ。これほどの美形ならばなおさらな!」
「だから自分でそう言う事言うもんじゃないて………」
 繋は首をがくんと落とし、 溜息をつく。その時、ふと腕時計が目に入った。
「あれ、もう5限始まっちゃってるね」
「そんな事はどうでもいい。それより俺は腹が減った」
「授業をそんな事ってね……。でも確かにお腹空いたね、お昼食べ損ねたし………」
 そう言うと繋はしばらく考え込んだが、顔を上げるとにやっと笑う。
「じゃあ5限サボっちゃおうか?醒徒会に呼ばれてることは先生も知ってるし、公欠扱いになってるでしょ5限は。お昼食べにいこう!」
「ほう、なかなか主も悪よのう。まあ、俺には依存はないぞ」
「そう!じゃあ商店街のほうまで行こうか。安くて量が多い店があるんだよね」
「早い、安い、うまい。素晴らしいじゃないか!では行こうそこに行こうすぐ行こう!」
「いや、牛丼じゃないけどね………。じゃあ行こうか、今日は私が奢ってあげるからさ」
「なんだやけに気前じゃ良いじゃないか。どうしたんだ?」
「2日の勝負だよ。私の負けだからね」
「律儀じゃないか。俺はそういうのは素晴らしい事だと思う」
「現金だなあ。オゴリって言った途端にテンション上がっちゃってさ」
「オゴリ、ああなんて良い響きなんだろう。早く行こう、お嬢ちゃんオススメの店とやらに」
「ねえ、そのお嬢ちゃんていうのやめてくれない?」校門に向かって歩きながら繋は提案してみた。
「お嬢ちゃんだから、お嬢ちゃんて呼んでるんだよ。そうじゃなくなったらやめるさ」
「え〜、何よそれ」
 繋は少しムっとしたが、奏はいつものように笑うだけだ。
「感じ悪いなあ。いつか必ずその呼び方変えさせるからね」
「ああ。そうなる事を俺も期待してるよ」

 会話を続けながら二人は校門を出て行く。
 繋は歩きながら考える。天地奏という男と出会ってから自分は変わって来た、と。それまでは水分理緒とだって事務的な会話をする程度の仲だったし、菅誠司に至ってはまともに喋ったことすらなかった。それがこの男をきっかけにして、様々な人間と関わる事になった。電話帳に登録されているアドレスがやたらと増えた。多くは彼の行動の後始末だったが、皆、話してみると面白い人ばかりだった。人と関わって行く事の楽しさを久しぶりに繋は感じている。
 そんな事を思うと、この変人の世話係というのも悪くないかもな、と思うのだった。




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