【壊物機 第一話】


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壊物機 第一話 『壊れ物注意』



 この世界には壊れやすいものが多すぎる。
 私から見てこの世界はもう壊れているのと同じだった。
 そして私自身も壊れかけだった。


 ・・・・・・


 俺の仕事は武器商人だ。爺さんの頃から武器商人で俺は三代目の社長。親父が馬鹿みたいに早く死んだんで俺は十代の青春を謳歌する暇もなく武器商人をやっている。
 武器商人という仕事を嫌悪される紳士淑女の皆様、あるいは憧れる少年少女の皆様もおられるかもしれないが……なんてことはない、売るものが違うだけでただの商人だ。ちゃんと営業の登録もしている。
 商品で人が死ぬ、と言われるかもしれないが、それを言えば包丁一つで人は死ぬ。多分椅子でも死ぬだろう。要は使う人間次第。違いがあるとすれば殺しやすさ、壊しやすさの違いくらいだ。
 そもそもこれも商売であるのだから需要がなければ立ち行かないし、経営が行き詰れば潰れるほかない。けれど我が社の経営は良好だ。別に小説や映画のように戦争を引き起こしたり、両陣営に売りつけて長引かせているわけではない。それでも、需要はいくらでもある。要はそれだけ壊すための武器が必要とされているってわけだ。先代である親父に聞いた話では十年前からは特に売れ行きが良くなったらしい。
 別に第三次世界大戦が起きたわけじゃない。いや、ある意味では大戦なのか。
 但し、戦争の相手は人間じゃない。
 人間以外のトンデモ生物、有り体に言えば怪物どもだ。言い方はモンスターでも魔物でもクリーチャーでも怪獣でもなんでもいいが裏世間一般ではラルヴァ、と呼ばれている。
 そいつらから自衛するために各国の軍隊やら事情を知ってる企業やらが武器を買い求めてるってわけだ。武器商人にはいい時代になった。……ま、相も変わらず人間相手にドンパチったりテロったりを繰り返すお客様方もいるけどな。お客様は神様です、でもこれ唯一神教のお得意様達が聞いたらどう思うんだろうか。
 話を戻す。この世界にはラルヴァがいるが、それと戦う特殊な力を持った人間達もいる。超能力者でも魔術師でもヒーローでもメガゾードでもなんでもいいが裏世間一般では異能力者、と呼ばれている。うちのお客様の中にも大勢いる。しかし最もやばいのはこいつら、もしくはこいつらの関係者である。
 異能力者はオーダーメイドした高級な武器も大量に買ってくれるので利益で見れば素晴らしいが、中身で見るとテロリストよりやばい顧客だ。なにせ指先一つでグリズリーをダウンさせる異能力者や巨大化してドラゴンを絞め殺す異能力者も見たことがある。根っからの壊し屋達だ。
 そんな奴らとスーツ着てお守りにもならん銃だけもって商談せにゃならんのは正直きつい。それでも社長として割合懸命に営業してきたはずだ。
 だというのに、この状況はなんだろうか。
 俺が隠れていた場所からこっそり外を覗くと、
「ラスカル・サード・ニクス! どこだ! どこに隠れているッ!!」
 異能力者が名指しで俺を探していた。付け加えると命を狙っていた。
 件の異能力者は鉄屑の寄せ集めのような巨人の肩に乗っている。その巨人は大暴れしながら俺を探しているのでうちの施設や商品が次々にぶっ壊されていく。
 いくらなんでもひどいだろう神様。
 なんだってまたこんな羽目にあっているのか。
 考えるまでもなく絶対に、
「お前のせいだな」
「ご、御免なさい……」
 俺が断言すると俺の隣で同じく隠れていた少女がびくびくしながら頭を下げた。
 ああ、こいつだ。やっぱりこいつが疫病神だった。
「武器商人にお似合いなのは願いを叶える魔神じゃなくて災難呼び込む疫病神ってか。笑えねえなぁおい。こするんじゃなかったぜ」
「でもお陰でピカピカです!」
「そうだな。ぶっ壊されて粉々になっても光ってるだろうぜ」
 俺は今、手に懐中時計を一つ握っている。
 波打つような縞模様の瑪瑙で出来たこの懐中時計。
 この時計だ。そしてこいつだ。
 こいつらを手に入れてからこんなことになっちまったんだ……。

 時間を三時間ほど遡って2009年の十月二日。
 そのとき俺はアリゾナ支店の応接室で商談の真っ最中だった。
 と言っても売る側ではなく、珍しく買い取る側だった。
 しみじみと思う。ああ、こんなもん買わなけりゃ良かった、と。

「これを是非、親交のあるあなた方に買い取っていただきたいのです!」
 うちの支店の一つにやってきたそいつは異能力者だった。たしかマスカレード・センドメイルだかいう組織の人間だ。何度か取引で顔をあわせているので親交があるといえばある。
 そいつが持ってきたのは、頑丈そうなアタッシュケースに入った懐中時計だった。材質はどうやら瑪瑙で出来ているらしい。
「で、これがなんだって?」
 俺はさほど興味ない風を装って男に質問する。異能力者が持ってきたという時点で超常の産物であることはほぼ確定だろうが、興味深そうにしたり物欲しそうにすれば足元を見られる。これは商談だ。場の空気を支配した奴が勝つ。
 案の定、そいつは少し慌てて解説を始める
「こ、これはですね。かつてある団体が創った超科学による素晴らしい兵器なのです! それを我が組織が手にいれ、是非あなた方に買っていただこうと」
 おいオッサン、説明大分抜けたぞ。つうかいくらなんでもテンパりすぎだろ……こいつはひょっとすると、
「それで? どうしてそんな大層な代物を我が社に売ろうと? 自分達で使えばいいじゃないか」
「そ、それは……」
 口篭ったそいつの様子に、俺はある程度確信してカマをかけた。
「それは、組織を抜けるついでに高値で売れそうな代物をかっぱらってきたから、だろ」
「ぃう!? な、なぜそれを!? ここまで手が回っていたのか」
 ビンゴ。
「あんたの様子で察しただけだ。なるほどなるほど、そんな焦げ付いた品を売りつけようとした、と」
「う、うぅ……! だ、だが、これが強力な兵器だというのは嘘じゃない! 買い取って研究すればお前達が兵器を開発するのにも役立つはずだ、だから」
「だから逃走資金をくれ、と。どうしたものかねぇ」
 悩む素振りを見せながらも俺のハラは大体決まっていた。
 うちの商品もいつまで売れるかわからない。そろそろ異能やらも含めた新商品の開発が必要になってくるかもしれん。そうした際に超科学で創られたこいつは、たしかに良いサンプルになるかもしれねえ。
「ま、いいだろう。買ってやるよ。いくら欲しい?」
「……い、一千万ド」
「そうだな、百万でどうだ? 勿論ドルだぜ?」
 随分とふっかけるつもりだったみたいだが、相手の言い値を飲むにはこっちが優位に立ちすぎていた。あっちはすぐにでも逃走資金が欲しいんだから、百万と一千万の妥協点を埋める商談なんてしてられないだろう。第一、百万でも逃走資金には十分だ。
「…………ああ! 売る! 売るとも!」
「商談成立。おい、金を用意しな」
 俺が後ろで控えていた部下に命令すると、部下はすぐにアタッシュケースを持って戻ってきた。確認のために開かせると当たり前だが百万ドルが耳を揃えて入っている。
「持ってきな。っと、そうだ。もしもこいつが兵器なんかじゃなくてただのガラクタだったらフリーランスのヒットマン雇ってぶっ殺すぜ?」
 俺が脅しの意味を込めて問うと男はブンブンと首を振った。その様子じゃ嘘ではなさそうだ。
「それじゃお元気で。玄関まで送らせるよ」
 俺は部下に命じて客を送らせた。
 そうして応接室に残ったのは俺と、百万ドルの代償に手に入れた超科学の兵器だって触れ込みの時計。百万ドルね……、うちの商品で言えば『ドラゴンキラー』でも買えちまうな。はたしてそれだけの価値がこの時計にあるかどうか。
「見た目は材質が変なだけでただの時計だな」
 俺は時計を手にとって表から裏から眺める。そうして視て気づいたが、どうも少し薄汚れているようなのでハンカチで拭く。ゴシゴシと。
 よし、綺麗になった。
「これがランプだったら筋肉ムキムキの魔神でも出てくるかもしれねえな。ま、それじゃ超科学じゃなくて魔術になっちまうけど」
「あ、あう。筋肉、ないです」
「…………」
 いつからいたのか。
 あるいは今の今までいなかったのか。
 俺の隣には一人の少女が立っていた。
 それも一見して普通ではない。
 波のようなフリルが山のように付いたゴシックドレス。
 人間らしくない光彩を放つ左目。
 対になる右目は喪われているのか眼帯をつけている。
 しかし、そんなのは些細なことだった。
 何より奇異なのは、少女の右腕が骨だけだということ。
 正確に言えば、骨組み。弾機と発条と歯車と螺子で出来た骨組みだけで皮膚がない。カチカチと鳴るその腕はまるで……時計だ。
 壊れかけの時計、それが少女の第一印象だった。
「……なるほど飲み込めてきた」
 どうやらこの少女は俺の手元の時計に関係した何がしかのものらしい。
「は、初めまして。永劫機の一柱、午後六時の天使、時感狂化のウォフ・マナフと申します」
 ……なんか長いな。まぁ、永劫機やら天使やら時感狂化やらは名前じゃないとして、ウォフ・マナフが名前だろう。たしかどっかの神話で裁きを下す神様だったはずだが……なんかこいつのイメージと違う。
「け、契約を交わした御主人様、貴方が望むなら、は、伴侶のように、召使のように、ど……奴隷のように仕えます……」
 奴隷ねぇ…………ちょっと待て。
「俺がいつ契約を交わした?」
「え、あ、あれ? そう……ですよね? 契約を交わしてもらってないですよね。あれ、あれれ、でも契約交わされちゃってるんですけど……」
 待て。交わした覚えのない契約が交わされてるとか背筋の寒くなるようなことを言うな。職業柄そういうのが一番怖いんだぞ。
「恐らくですけど……さっき拭いてもらったときの接触だけで契約が交わされてしまったんだと思います。……ここにも不具合があるなんて……」
「待て、ここにもって何だ! 他にも変な部分があるのか!」
「……! な、ないですよ? ないないないですよ? パーフェクトですよ?」
 子供以下の誤魔化しだった。
 一度不具合があると聞くと、右腕が骨組みなのも右目が眼帯なのもその一部ではないかという予感がしてきた。というか他にもあるんじゃねえだろうな。
「脱げ」
「え?」
「確かめるから脱げ」
「え? え!?」
「脱げ!」
「はい!?」
 三度言うとウォフは服を脱いですっぽんぽんになった。
 俺はウォフの周りをぐるりと見回って全身をチェックする。
「あ、あの……確かめ終わりましたか? へ、変なとこないですよ?」
 たしかに右腕と右目以外は特に欠損やら傷やらはない。が、
「ぺったんこ! ほそい! うすい! 不合格!!」
「不合格!?」
 とりあえず伴侶失格。召使と奴隷と兵器は保留。
「ちなみに全部不合格ならさようならだ」
「ひ、ひどいです……契約したばっかりなのに裸にされて不合格って……。こんなに不幸な永劫機は私だけです……」
 服を着ながらウォフはしくしく泣いていた。
「不合格なのは仕方がない。それより永劫機ってのはお前の兵器としての名称か? それに他にもいるのか?」
「は、はい。永劫機は私の他にもいます。私は六番目です。ただ、今はもっと創られてると思います、よくわかりませんけど……」
「よくわからない?」
「私は失敗さ……私は強すぎて手放されたんです」
「聞こえたよ。失敗さ、って聞こえたよ。ていうか勝手に契約してる時点で失敗作確定だよ。つうか強かったら手放さねえよ。どう考えても逆だよ」
「あ、あうぅ……」
 ウォフは恥ずかしがってるんだか落ち込んでるんだか顔を隠して俯いた。……段々兵器かどうかすら怪しくなってきた。ちょっと聞いてみよう
「それで、永劫機はどんなことができるんだ?」
 俺が尋ねるとウォフは顔をパーッと輝かせてハキハキと答える。
「永劫機はすごいんです! 今の私みたいに人型をとることも出来ますし、永劫機の本質であるロボット兵器も出せます。極めつけはそれぞれ別の時間操作能力を持ってるんです!」
「それはすごいな。そういえばさっき時感狂化とかなんとか……おい、字面見てるとお前は時間操作してないんじゃないか? 具体的に何をするんだ?」
「……えっと、人の時間感覚を操れます。あの、ボーっとしてたら一時間経っちゃったー……みたいな?」
「ご老人の平和な一日みたいだな。不合格!」
「また不合格!?」
 ウォフは兵器としても不合格だった。

 傍から見ればコントだが俺にしてみれば笑い事ではないあれそれをしていると、不意に外から爆発音が聞こえた。
 最初は支店に併設されている工場の方で事故でもあったのかと思ったが、どうやら支店《こちら》の方で何かが起きているらしい。
 爆発音や破砕音に次いで、複数の銃撃音が聞こえてくる。この音は……うちの銃だな。
 俺は内線に繋がった受話器を手にとって部下に状況を聞いた。
『社長! 襲撃です! 異能力者の襲撃です!』
「数は?」
『一人です、ですがとんでもねえ化物をぐぇあああああああ……!?』
 悲鳴と何かが潰れるような水音が聞こえ、
『ラスカル・サード・ニクスだな?』
 どうも実行犯らしい奴が電話に出た。
「ああ、俺がラスカルだ」
「可愛い名前だったんですね」
「黙ってろポンコツ」
「ポンコツ……」
 ウォフは俯いていじいじし始めた。
 反対に、電話の主は怒っていた。
『貴様……! 永劫機と契約を交わしたのか!!』
「交わされたんだ。ついでに言うと買わされた。契約の解除と返品はできるのか?」
『ふざけるな!!』
 そこそこ本気で言ったんだが、相手は俺が挑発していると思ったらしい。
『いいだろう、そんなに契約を解除したいというならさせてやる! 貴様を殺してな!』
 受話器を踏み潰すような音と共に通話は途絶えた。
「あぁ、やっぱ死ぬまでとかそういうのなんだこれ」
 軽く絶望した。こんな伴侶としても兵器としても不合格なもんを一生連れて回るのか。
 その一生もこいつのせいであと数分になりかねないが。
「ど、どうしましょう?」
「……とりあえず隠れるか」
 俺は応接室の壁の一部を押す。するとテンキーと液晶画面を埋め込んだ隠し扉が出現した。俺は手早くパスワードを押して扉を開き、ウォフの手を引いて中へと入った。
 次の瞬間、隠されてないほうの扉を蹴破って男が応接室に入ってくる。
 その男はどう言えばいいのか、一言で言えば奇人だった。
 筋骨隆々で背は高く、なぜか絵を描くときのような分厚い前掛けを着込み、背中には空っぽだが妙に巨大なリュックサックを背負っている。うん、変だこいつ。
「ラスカル・サード・ニクス! 隠れているのは分かっているぞ! 永劫機を返してもらおうか!」
 返せるもんなら返したいが俺の命ごと持ってく気だろうが。
「出てこないか! ならばこちらにも考えがあるぞ! 来い!」
 男が呼びかけると扉の向こうから何かが現れた。
 いや、現れたと思った何かは、何かの爪先だけだった。本体は爪先のすぐ後に、天上と壁を破砕して現れた。
 それは一言で言えば鉄屑の巨人。うちの支店の建材だったであろう鉄骨や車のパーツらしき部品がその身体に散見できる。
 ゴーレム。こいつ見た目に似合わず魔術系か、チラチラ見え隠れする文字の書かれた球体が核だな。あの空っぽのリュックはあの球体をつめていたわけか。それにしてもやっぱり魔術系って図体じゃねえな、と冷静なんだか現実逃避なんだか分からないことを俺は考えた。
 あんな化物持ち出されたら合金製の隠し扉でもひとたまりもないだろう。
「逃げるぞ」
「は、はい」
 俺は隠し部屋から繋がる隠し通路を通って外へと脱出することにした。
 隠し扉が粉砕されたのはその直後だった。
 ……結構高かったんだぞ、応接室の内装含めて。


 回想終了。


 そんな訳で俺達は兵器工場近くのシェルターに隠れながら、暴れまわるゴーレムを見ている。
「で、実際問題どうするよあのデカブツ」
「あの、ここって兵器工場ですよね。ここの武器でなんとか……」
「ぎっしりつまった鉄の塊みたいなもんだぞ。RPGでも分が悪い」
 待てよ? 操ってる術者にヘッドショットかませば……っと俺が思った直後にどこかから生き残った部下があいつを狙って発砲した。
 だが、ゴーレムの身体の一部がせり上がり、術者への攻撃を防ぐ盾になった。
「駄目か」
 ……どうにも、打つ手がねえ。
「ああ、どっかに強い兵器でもあればなぁ」
「あの……」
「ああ、どっかに“強い”兵器でもあればなぁ」
「あ、あのですね! 私、戦えますよ!」
「そうか。で、どれくらい強い?」
「……おっきなロボット出せますよ!」
「そうか。で、あれとどっちがでかい?」
「…………人の時間感覚を操れたり」
「そうか。で、異能力者にはどの程度効く?」
「………………あの、駄目元でやってみませんか?」
「そうだな」
 こいつ及びこいつの話した内容で弱いと決めつけてはいたが、案外そうでない可能性もある。
 あちらが魔術の結晶の巨人ならば、こちらは超科学の結晶の巨人。
 やってやれないことはないかもしれん。
「で、詠唱するんだったか?」
「はい!」
 俺達はシェルターの外に出て、男を肩に乗せたゴーレムと向かい合う。俺の顔を見た術者が怒り心頭の面持ちで怒鳴る。
「貴様がラスカルか! そしてその少女が!」
 ……しっかし、さっきからうるせえ野郎だ。
 黙らせてやる。
「いくぞ」
「はい!」

 好機は既に逸した
 青春は既に過ぎた
 時、既に遅く、気づけば喪いしものなり

「……どうか敵のことであってほしいねぇこの式文。……締めだ」

 ――時は、掌中より滑り落ちる

 俺が唱え終えると、ウォフの身体は弾機と発条と歯車と螺子に分解され……人の姿よりも巨大な姿に再構成される。
 それは一言で言えばやはり、ロボットなのだろう。
 時計仕掛け、瑪瑙とクロームでできたロボットだ。
 そのロボットはアンバランスだった。
 何よりも目を引くのはその右腕。
 右腕だけで胴体と同じほどに巨大、そうかと思えば対の左手はそれほど大きくもない。
 目には眼帯の代わりにスコープが取り付けられているが、別に銃など持っていない。
 二本の足にはそれぞれ大きな爪先が二つずつあり大地をしっかりと噛んでいながら、踵がない。
 全くもってアンバランス。
 それが永劫機としての【ウォフ・マナフ】の姿だった。
 何はともあれ。
「往け、勝ってこいウォフ・マナフ」
『了解しました! 御主人様《マイマスター》!』
 アンバランスな永劫機、ウォフ・マナフは眼前のゴーレムに向けて駆け出した。

 あれから三分。兵器工場の中に隠れて見守る俺の眼前では火花飛び散る激闘が続いている。
「大したもんだな」
 俺はウォフ・マナフの戦いぶりをそう評する。いや、本当に大したもんだ。
 こいつと違う能力を持った永劫機があと何体かいるらしい。しかし、俺は断言できる。俺に仕え、俺をご主人様と呼ぶウォフこそが全永劫機中で最も……

「弱い」

 ゴーレムに殴られたウォフ・マナフの左手の装甲が吹っ飛んだ。
「!?」
 つうか、俺の左手まで馬鹿みたいにいてえんだけど! 生皮剥がれたみたいにいてえんだけど!? 銃で撃たれたときより痛いぞ。
 どうもダメージはフィードバックされる仕組みらしい。さっきから身体のあちこちが痛かったのも気のせいではなくウォフ・マナフのダメージフィードバックが原因だったってことか。つうかこれ兵器としてどうよ。
『ええいっ!』
 反撃とばかりにウォフ・マナフがその巨大な右腕で殴りかかる。巨大さに似合わぬ猛烈な速度で右拳はゴーレムに命中する。
 ゴーレムはその一撃によろめき、ウォフ・マナフは右手の装甲が少し欠けた。
 そりゃあ欠けるよ瑪瑙だもの。そりゃあ軽くて速いよ瑪瑙だもの。
「本当に大したもんだよなぁ! 殴っても逆にこっちがダメージ受けるってのは! つうかよくそれでまだ壊れてないよな! 本当にそこだけは大したもんだよ!」
『あ、あうぅ……』
 そもそもウォフを創った奴らは阿呆だったんだろう。瑪瑙なんつーどう考えても強度に難がありそうなものでロボット作りやがって。おまけに素材の関係なのか出力も高くなさそうだ。足や腕が折れないところを見るとフレームだけはそれなりに頑丈にできてはいるようだが。
 あいつ、やっぱり失敗作だったな。
「この程度か……ならば回収するまでもない! この場でマスターごと粉砕してくれるわ!」
 いや回収はしろよ。仕事放棄すんなよ。
「冥土の土産に教えてやろう。我はマスカレード・センドメイルに属せし芸術の使徒! 名はアントワーヌ・ブールデル! そしてこれこそは我が傑作たる彫像『アダム』だ!」
 術者が勝ちを確信した台詞を吐く。
 ああ、うん。名乗られても覚える気ねえし負けてるこっちが言えた義理じゃねえけど……それ、フラグだから。
「ま、三分間殴り負けてるうちに勝つ方法は見つかったからな。ウォフ! 時感狂化発動《マッドタイム・スタート》!」
『! 了解!』
 直後、ウォフの能力が発動し、ゴーレムの術者は狂った時間感覚に囚われた。

 きっかり十三秒。術者が意識を取り戻した。何が一時間だ、異能力者相手じゃ三百分の一かよ。もうちょっと伸びないと使い物にならねえ。
「これが永劫機の時間操作能力か! だが、私の動きを止めて攻撃しても無駄だったようだな」
 攻撃してねえよ。してもゴーレムがオートガードしちまうから無駄だっただろうしな。
「勝てぬと悟り隠れたか! 文字通り時間稼ぎにしかならなかったな!」
「俺は別に時間なんて稼いでないさ。あんたが時間を損しただけだ」
 俺は両手を上げて、隠れていた兵器工場の中から姿を現す。
「出てきたか! 永劫機はどうした? 敵わぬとみて解いたか!」
「敵わぬ、か。ま、そうなんだよ。あいつ弱いんだよ。デカイ図体して脆いし、キモの時感狂化も貧弱だしな」
「観念したか?」
「ところで旦那、ブラックジャックって知ってるよな? モグリ医者じゃないぜ? 合計値が低くちゃ勝てねえし、高すぎてもバーストになる21が最強のあれだ」
「?」
 俺が何を言い始めたのかと、疑問符を浮かべながら術者がこちらを見る。
「あんたとそのゴーレムはそれぞれ7と10ってとこだな、17ってのはかなり強い。その点、うちのウォフは弱い、駄目だな。バーストしたわけでもないのに1になっちまってるA《エース》だ」
 これは卑下ではなくそう思う。あいつはホント駄目だ。失敗作だ。

 ただし、俺がマスターでなければの話だ。
 感謝しろよウォフ。
 お前、俺が相棒《マスター》じゃなきゃお終いだったぜ?

「けどよ、俺ならあいつをAにできる。そして俺はスペードのK。俺達二人でブラックジャックってことさ」
「戯言を!」
「タワゴトで結構。ところで、あいつを奪還するためにうちに襲撃をかけてきたんなら知ってるだろうが、うちは異能力者相手にも商売しててね」
『マスター、準備完了です』
 撃て、と頭の中で指示を下す。
 ウォフは即座に応じて『引き金』を引く。
 瞬間、轟音と共にゴーレムの左腕の付け根が円形に消し飛んだ。
 っと、鼓膜が痛いな。今度からは耳栓でもするか。
「な、あ!?」
「話が中断されたがうちは異能力者相手にも商売している。
 ――巨人化異能力者専用の重火器なんかも製造販売してるんだよ」
 ウォフに兵器工場の中を探させ、装着させた武装。
 ウォフ・マナフが右手に抱えたそれは戦車砲なんてレベルではなく、艦砲の域にまで達した巨砲。
 88mm対物狙撃銃《アハトアハト・AMライフル》。対物狙撃銃を現行技術でそのまま拡大化させた重合金弾を発射する怪物銃、いや“壊物”銃。
 商品名『ドラゴンキラー』。
 誇張無しにドラゴンの頭蓋をぶち抜ける代物。たかが鉄屑の塊、粘土みたいなものだ。
 ま、撃てるのはあの馬鹿でかい右手とフレームだけは頑丈なつくりのお陰だがな。
 それはそうと、照準ずれてたぞ。狙うのは核か術者だ。
『す、すみません。左手の仕返しがしたくて』
 ……案外イイ性格してるなこいつ。
「クッ、ウオォォォォォッ!!」
 状況が把握できたのか術者がゴーレムを俺へと走らせる。中々に早い。この分では三秒後に俺は死ぬな
「時感狂化《マッドタイム》」
『了解』
 時感狂化を受けた術者が、狂った体感時間の中でゴーレムの操作を誤らせる。右足で上げた時間にさらに右足を上げ、哀れゴーレムは無様に転倒。
 即ち、隙だらけ。
 奴の好機は既に逸した。
「排莢、再装填。締めだ、相棒《ウォフ》」
『はい、御主人様!』
 俺の右手とウォフの、ウォフ・マナフの右手がリンクする。
 手のひらには銃把から重い感触が伝わってくる。
 鉄の冷たさ。硝煙の匂い。軋む鉄音。照準線の視界に収まった敵影。
 敵影に向けて俺達の指先はトリガーを引く。

「『――致命的な狂弾《フェイタルストライク》』」

 銃口から螺旋運動を描いて射出された重合金砲弾は瞬時に音速の壁を突破。
 刹那の後にゴーレムの核を貫通し、その射線上にいた術者ごと木っ端微塵に吹っ飛ばした。
 術者と核を失ったゴーレムは鉄屑へと、壊れた物へと回帰して崩れ落ちていった。


 ・・・・・・

「やりすぎ……ました?」
「ああ。やりすぎたな。半分以上あのゴーレムのせいだけどよ」
 俺と元の姿に戻ったウォフは廃墟になった支店と廃工場になった兵器工場を少し離れた場所から眺めている。
 ゴーレムに支店をぶっ壊され、ドンパチやってるうちに兵器工場もぶっ壊れた。おまけに弾薬に引火して絶賛大火事中。郊外でよかった。
「いくらの赤字だろうなぁ、おい」
 最初の百万ドル。支店と廃工場、人的損失、今も燃えている弾薬や銃器類。総損失は現在も天文学的な単位で増大中。
「代わりに手元に残ったのは」
 この壊れかけの時計娘だけだ。
「す、すみません……」
「つうかよ、兵器工場の火事やらなんやらはお前が『ドラゴンキラー』探してるときにやっちまったもんだよな」
「は、はい……」
「主人の物を壊しまくるのは召使、奴隷のどっちでも不合格だ」
「不合格……これで全部不合格ですね……」
 ウォフはまたがっくりと項垂れる。
「そうですよね、私、失敗作だから……」
「失敗作だな」
「永劫機の中で一番弱いし……」
「弱いだろうな」
「体型も……」
「ぺったんこだしほそいしうすいな」
「私って、いいところないですね……」
「そうでもない。少なくとも顔は可愛い」
「…………え?」
「そんなことより迎えのヘリが来たみたいだな。乗ってさっさと帰ろうぜ、っとお前は初めてか」
「あ、あのさっきなんて? それに、私付いていっていいんですか? 全部不合格なのに……」
「何言ってんだ?」

「一つ合格だろ、“相棒”」


 壊れやすいものばかりの壊れているこの世界。
 そんな世界でこの日、俺と壊れかけのウォフは契約した。
 この出会いが俺を数奇な運命って奴に導いちまうわけだが、そいつはまぁ、別の話だ。

 壊物機 第一話
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