【X-link 2話 part1】


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Xーlink 2話 【Kiiller Queen(s)】part1


「喜多川《きたがわ》先生、あなたは何故ここに呼ばれたかわかっていますか」
「いえ、まったく」

 机が並び、その前には3人の中年から初老の男性が並んでいる。
 その視線の先には白衣を着込んだ若い女性が、彼らと向かい合うように座っていた。
 先生と呼ばれているが、喜多川と呼ばれる女性は見た目には学生くらいの年齢でしかない。その点でも場に似つかわしくないと言えるが、さらに違和感があるのはその美貌とスタイルであった。意思の強そうな切れ長の瞳と整った鼻筋とまっすぐに伸びた艶やかな黒髪、そして一七〇センチメートル以上はあるかという女性としては長身な事とメリハリのあるグラマーなスタイルはモデル並で、白衣に包まれてもその見事さを主張している。

 困ったような顔を浮かべる男性陣に対して、彼らの娘くらいの年齢しかない喜多川は全く表情を変える事がない。
 溜息をつくと、右端に座る人の良さそうな初老の男性が口を開いた。
「あなたは、先学期の担当講座『ラルヴァ生態学』および『ラルヴァ分子生物学』ですが、全ての醒徒に『可』としましたよね?」
「期末試験で優秀な醒徒には『良』と『優』判定をしましたが? 」
「そう言う事を言っているわけではありません。あなたは全く授業に出ていない醒徒にも単位をあげましたね? 」
「そうですが、それが何か? 」
「困るんですなあ、そう言う事は。他の先生方から問題とする声があがってましてねえ……」今度は真ん中に座っている太った男性が言った。恐らくこの中で一番偉いのだろう。高価そうなスーツに身を包んでいる。

 口ではわからないと言っていたが、喜多川には自分が何故呼び出されたか、何を言われるのかという事は先刻承知していた。喜多川は自分の講座に関して無頓着で、基本的に自分の講座を選択した醒徒に単位をあげていた。さらに、出席も全く取らない。鬱陶しいので、授業開始後に教室に入る事は禁止しているが、欠席したからといって特に問題はない。
「では、私にどうしろと? 」
「あなたが、ここにいていただいている立場で有るという事は重々承知しているつもりですが、ここにいる以上はまわりに合わせていただかないと……」
 今度は右側の痩せた白髪の男が口を開いた。彼らには台本でも用意されているのだろうかと喜多川は思う。
「ですから、どのようにすればよろしいのですか?」
「不真面目な醒徒には、単位をあげないようにしていただきたい」
「出席をとれと? 」
「まあ、そういう事ですね。出席を取る事自体は教室に入る時に学生証を教室のコンピュータが認識するだけです。先生には手間がないので」
 手間の問題で喜多川は出席を取らない訳ではない。そもそも大学とは義務教育ではないので学ぶのも学ばないのも醒徒の自主性の問題であるはずだ。そして醒徒の多くは成人なので、学ぶ事によって生じるメリットも学ばない事によって生じるデメリットも醒徒自身が考えて背負うべきだと思う。醒徒の金で給料をもらっている自分たちが上からとやかく言うものではない。
 喜多川はこう考えていたが、そんな事をここで自分の前にならぶ教授達に言ってもしょうがないのでそれは言わない事にした。

「わかりました。では次学期からそのようにする、という事でよろしいでしょうか? 」
「ええ、ええ。そのようにしただけると助かります」
 中央の太った男性はそのでっぷりとした腹をさすりながらホッとしたような声をあげる。
 何が助かるのだろうか、仮に喜多川が提案を突っぱねたとして誰が助からないのかさっぱり判らなかったが、彼女は考えない事にした。これも彼女が大学という組織に在籍する間に身につけた処世術の一つだ。大学というものは無駄が多すぎる。研究機関としての活動よりも教育機関としての活動よりもこのような不毛な会議にかける時間の方が遥かに多い。この大学に来て3年が経過したが、自分も随分と丸くなったように思う。

「では、私はこれで失礼します」
 席を立ち、一礼すると振り返る事も無く、喜多川は颯爽と部屋を出て行く。
(まあ、困るのはきっと醒徒だろうな……)
 単位目当てに彼女の講座を選択していた者達の悲鳴が今から聞こえてくるような気がしていた。


     *

 醒徒会室には張りつめた空気が流れていた。
 ここ、双葉学園醒徒会棟醒徒会執行部役員室では現在執行部役員による会議が行われている。会議の議題はどの醒徒が問題を起こしたという事から、予算の折衝、イベントの企画運営に関するものなど多岐にわたる。普段は一応真面目ながらも比較的軽いノリで行われる会議だが、今日は違っていた。それは今日の議題の中心は先日の双葉区内のある山中にラルヴァが大量に出現した事件に関するものだったからである。
 事件から一週間が経過していた。事件自体は天地《あまち》奏《かなで》という醒徒がラルヴァを殲滅した事で決着がついた。しかし、何故結界で守られた双葉区内にラルヴァが一斉に、しかも大量に現れたのかという問題。また、出現前後の出現地点一帯の通信途絶、そして天地奏および音羽《おとわ》繋《つなぐ》両名が交戦した、俊敏に動き、知能を持ち、さらには燃えるという前代未聞の『泥人形』(『泥人形』とは本来知能もなく緩慢な動きしかしない)の問題。さらにはラルヴァを殲滅した天地奏自身の素性と異能の問題など、醒徒会として捨て置けない問題は山積していた。


「えーと、管理課からの報告は以上ですね」
 醒徒会庶務・早瀬《はやせ》速人《はやと》は双葉学園管理科からの報告を読み上げた。
「すると、管理科ではラルヴァの発生を感知できなかったということですか?」
 副会長の水分《みくまり》理緒《りお》が声を上げた。管理下では双葉学園敷地内での異能の発動やラルヴァの発生を常に監視している。今までも散発的にラルヴァが現れた事はあったが、それを感知出来なかったという事は聞いた事が無い。
「まあ、それは予想できた事だ。もしも感知できていたのならばすぐに救援を送っていた筈だからな」常にサングラスをかけ、その表情を読ませない会計監査・エヌRルールは言う。
「確かにそうですが」
「通信障害、その直後のラルヴァ出現。しかもその一帯は管理科のレーダーでもラルヴァの存在を感知できないときた。出来すぎだな」この中でもひと際巨躯を誇る男、広報・龍河《たつかわ》弾《だん》はうんざりしたように言った。
「ぼくとしては、ラルヴァ出現地点にいたのがちょうど良く、戦闘系の異能を持たないってことも怪しいと思うがな」
「えー、それについてですが、補足があります」
「なんだよ」龍河が答える。
「タイミングよく、電話で呼び出された引率の吉田先生ですが、学園の誰に聞いても吉田先生を呼び出した事はないという証言を得たとの事です」
「戦闘能力のある人をわざわざ排除したということですか。そこまで用意周到だと、いよいよはっきりしてきましたね………」
「要するに、この双葉学園に挑戦するものが現れたということだな! 」
醒徒会長・藤御門《ふじみかど》御鈴《みすず》は机の上に立つとそう宣言した。「うなー」と足下に立つ白虎も勇ましい?声をあげて鳴く。
「ダメですよ、御鈴ちゃん。机の上に立つなんてそんなはしたない………」
「おお、そうだな。れでぃのわたしとしたことがうっかりだったぞ!」御鈴はいそいそと机から降りて席に再び座る。
「で、その挑戦者って何?オメガサークル?それとも聖痕?」書記の加賀杜《かがもり》紫穏《しおん》は何故かわくわくしているような声になっている。
「それについては、次の報告を聞いてからだな。早瀬」
「ああ、はい。出現ラルヴァについての報告ですね。えーと、双葉学園大学の喜多川研究室からの報告です。出現したラルヴァの残骸から調べたところ、『小鬼』については今までに確認された『小鬼』と同じものだったそうです」
「強化された、ということはなかったと?」
「そうですね。もう一体、『泥人形』に関してですが、コレに関しては色々と変わっているようです。まずは『泥人形』自体が強化されていること、身体と知能が強化されていたようです。さらにもう一つ、燃えていたという事に関してですが、コレについては俄に信じ難い報告が………」
「なんだよ、もったいぶってないではやく言えよ」会計の成宮金太郎が速人を急かす。金太郎の方が年下のはずだが遠慮はない。
「ああ。じゃあ、えーと。喜多川教授の報告によれば、件の泥人形は普通の『泥人形』に『放浪炎』をかけあわせて、さらに知能や身体能力を強化したものなのではないか、ということです」
「はあ?なんだよ、じゃあ『泥人形』と『放浪炎』が合体したとでもいうのか?ありえねーだろそんなの」龍河が思わず大きな声をあげる。だがそれも無理は無い。ラルヴァを合体させるなどという話は聞いたことがない。
「いや、ぼくも初めて聞いたが、ありえない事ではないだろう。ラルヴァ同士を掛け合わせる超科学装置や、そのような異能が無いとは言えない」
「そりゃ、そうだけどよ」
「それに、天地奏が証言した事を覚えているか? 」
「あまちーが?なんだっけ?」どうやら紫穏は天地奏のあだ名を既に決めたらしい。
「このラルヴァの最後の言葉だ。『せっかくダブルになったのに』と天地奏は証言していたな」
「ああ、そんな事言ってたなアイツ」龍河が答える。
「『ダブル』というものが『泥人形』と『放浪炎』の『ダブル』なら話は繋がると思わないか?」
「はい、喜多川教授も同じ考えのようです。教授はこのラルヴァを『ダブル目:イグニス・ラトム』と暫定的に定義しました」

「問題は例えば超科学の産物だとして、そんなものを個人レベルで作れるのかという事だが……。金太郎、どう思う? 」
「無理だな、超科学系異能っていうのは、天啓が浮かぶのはいいけどな。それを形にするには莫大な金や設備が必要だ。個人レベルじゃまともに作れないだろうな」
 金太郎は言い切った。彼は多くの科学者に投資をしており、交流も多い。
「やはり組織という事か」
「オメガサークルや聖痕の新しい行動ってことか? 」
「いえ、聖痕という事はないでしょう。彼らがラルヴァに手を加えるという事は考え難いですから」
「じゃあオメガサークルなの? 」
「現状ではその線の可能性が高いが目的がわからんな………」
「目的に繋がるかはわかりませんけど、それについてもうひとつ報告があります」
「なんでしょう、速人くん」
「泥人形の残骸と共にこんなものがあったそうです」
そう言うと速人は手元の袋からカードを出して掲げてみせた。
「カード? いや……トランプか」
「はい、トランプです。『クローバーの4』ですね」
「それがどうかしたのかよ? 醒徒の忘れもんじゃねーか? 」
「いえ、調べたところではこれはただのトランプではないそうです。問題はこのトランプの素材ですよ」
「素材? 何でできているんですか? 」
「わかりません」
「わからないってどーゆーこと? 」
「ですから不明です。金属ですが、我々の知らない未知の合金で出来ているそうです」
「未知の金属か。確かにそれは問題だな」
「でもさー、おかしくない?そんなものわざわざ現場に残しとくなんてさ」
「それは多分、私たちにメッセージを残しているのではないでしょうか?」
「メッセージって何よ姉さん? 」
「それはまだわかりかねますが…」

「議論は後にしてもらうとして、報告を続けていいですか?」
「なんだ、まだ何かあるのかよ?」
「はい、喜多川研究室の喜多川教授が、このラルヴァとそれに………」
「それに、なんだ? 」ルールが速人を急かす。
「ええと、この『ダブル』ラルヴァと天地奏のアールイクスに興味を持ったので、是非それをメインに研究したいとの事です」
「喜多川《きたがわ》博夢《ひろむ》がだと!? 」それまで黙って報告を聞いていた金太郎が興奮した様子で立ち上がる。
「何興奮してるのよ金ちゃん。研究したいってんなら別にいーじゃん」
「何言ってんだ!? 喜多川博夢だぞ! 奴が研究テーマを変えるだけでどれだけの金が動く事になると思ってるんだ! 」
「よくわかんないけど、そんなに凄い人なの? 」
「いや、加賀杜は知らなくても無理はないだろう」ルールが答えた。
「イヨッ! 待ってました解説くん! 」
「その言い方はかなり引っかかるがまあいい。喜多川博夢・双葉大学理工学部教授。現在20歳の女性だ」
「はあ!? 20歳で教授? 」紫穏が素っ頓狂な声を上げる。
「ああ、しかも彼女は分子生物学や応用物理学、理論物理学など5つの博士号を持っている」
「何よその無茶なスペック〜」
「当然だろう。喜多川博夢は『バースナイン』だからな」イライラした様子の金太郎が吐き捨てるように言った。
「『バースナイン』て何さ? 」
「一九九九年にラルヴァが大発生して、それ以降異能者も増加した事は知っているな」
「そりゃ知ってるって。私もその異能者の一人なんだしさ」
「そう。そしてそれに対応してなのかは知らないが、一九九九年に生まれた異能者の一部は少し特殊なんだ」
「他とどう違うの」
「天才なんだよ」
「天才? 」
「一九九九年に生まれた異能者の一部は天才なんだ。喜多川博夢のようにな。彼女達は並外れた頭脳を持っていて、しかも皆異能を持っている。まあ異能に関しては飛び抜けているものを持っている訳ではないがな」
「ふ〜ん、一九九九年に生まれた天才集団かあ。意味深だねえ」
「そうだ、奴等の全員が超科学系の異能を持っているわけじゃないけどな。現に喜多川博夢は違う。だが多くの『デザイナー』は自分の生み出したものを理解できない。だから奴等の頭脳が必要なんだ」
「どーゆーこと? 」
「『デザイナー』が天啓を受けて作った設計図や組成図を解読するんだよ。超科学異能で生み出されたものの多くは並の科学者じゃ理解できないからな」
「そりゃ重要だねえ」
「そうなんだよ! 奴等の存在はどの国のどの機関も喉から手が出るほど欲しいんだ!奴等の存在がその国の技術革新に直結するからな! 『並列の女王《パラレル・クィーン》』を双葉学園に呼ぶのにもどれだけの金と人が動いたか……。いや、こんな事してる場合じゃねえ! 」
 成宮金太郎は電話をかけながら慌てた様子で醒徒会室を飛び出して行った。

 醒徒会の会議をこんな事呼ばわりはかなり問題だが金太郎のあまりの剣幕に誰も追う事ができなかった。
「パラレルクィーンて何さ? 」紫穏が静寂を破るように口を開く。
「喜多川博夢についた二つ名だ。来歴は知らないが、彼女の異能に関連するものらしい」
「クィーンねえ。それにしても金ちゃんがあんなに慌ててるってことはそんだけ金になるってことなんだねえ」
「そうですね、三年前に喜多川先生がこの学園にいらした時は結構ニュースになりましたからね」
「まあ喜多川博夢がこの学園に来たのは研究の他に身の安全の問題もあるらしいがな。彼女がその頭脳を目当てに各国の諜報機関やオメガサークルのような組織に狙われた事は一度や二度ではない」
「ふ〜ん。その天才様がこないだのラルヴァとあまちーに興味を持った訳か」
「理由はわからんが、彼女の事だから何か理由があるはずだ。ラルヴァの事にしろ天地奏の事にしろ、彼女が調べるのなら解決に早く近づくだろう。醒徒会としても何の異議もないな」
「まあ金ちゃんは大変みたいだけどね。あれ、龍っつぁんどうしたの?顔色悪いよ?」
 その時、ふと紫穏が龍河に目を向けたところ、彼の様子がおかしい事に気がついた。顔色が悪い。
「ああ、俺、今期喜多川博夢の講義を履修してるんだどよ」龍河が答える。
「へー、そうなんだ。喜多川博夢ってどんな人? 美人? 」
「ああ、すげー美人だぜ。おまけにスタイルもいいしな! クールそうなところがまたそそる。ってそんな事はどうでもいいんだよ」
「何そのノリ突っ込み? 何が問題なの? 」
「前期までは出席しなくても単位貰える楽勝講座だったのに、今期からいきなり出席とるようになったんだよ!おかげで俺の単位が………」
「え〜、でも醒徒会なら結構公欠が効くでしょ」
「いや、そうじゃない時もフツーにサボってたんだよな。油断して」

 醒徒会室を冷めた空気が包む。

「龍河よ。今更、賢くなれなどと無理な事は言わない。わたしもそれが無茶だということはよーく知っている。だがせめて真面目に学業に取り組んで欲しいのだ」
 御鈴は深く溜息をつき、眉間に皺を寄せ、実に重苦しい声で言った。彼女の膝に座る白虎も「うな〜」といつもと同じだがやけに威厳のあるような鳴き声をあげる。
「まさか中学生に説教されるとは……」
 泣く子も黙る、恐らく肉弾戦ならば学園一の強さを誇るであろう男・龍河弾は情けなさに泣きそうになった。


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