【十月三十一日】


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できればラノで読んで下さい
十月三十一日その一

 彼女は、町内会の子供たちに配るためのお菓子を、町の人たちとともに袋詰めにしていた。
 自らの姿を変身させるといった能力はもちろん、特殊な力を持つ人々が多く集まる双葉島にとって、ハロウィンというイベントは“本土”以上に重要な意味合いを持っていた。
 本土、つまりは双葉島外の日本国内においての能力者の存在は頑なに秘されている。ただ、完全に秘匿されているわけではなく、どうやっても多少の情報は漏れる。それでも、大きな部分、原因の根本、事件の根っこは隠されていた。
 だからこそ、情報は歪んで伝わり、能力者は“本土”では人知れず迫害を受けることが多い。
 彼女もその一人だった。
 六人姉妹の長女として生まれた彼女は、非常に責任感が強く、正義感も人一倍だった。
 学校のいじめっ子は許さず、先生に物怖じせず、はっきりと意見した。でも、それだけに逆に彼女がイジメのターゲットになることもあった。
 彼女にはそんなものは苦ではなかった。正義のヒーローは弱きものを守らねばならないと、テレビや映画で教えられてきたからだ。
 そして、彼女は普通ではなかった。彼女には尋常ならざる不思議な能力が備わっていた。
まるで、正義を守るヒーローやヒロインのように、普通ではない力を持っていたのだ。
 だが、彼女はその能力で友人を傷つけてしまう。彼女の意思とは関係なく。
 もちろん、それは彼女の性《サガ》ではない。
 力だった暴走だった。友達を守ろうとしたことが、結果的に友達を傷つけることになったのだ。
 彼女は後悔した。友人は気にしなくていいと言ってくれた。
 でも彼女はそれに耐えられなかった。だから、能力者の集う島、双葉島へと転校した。大好きで目に入れても痛くない妹たちと離れることになっても。それほどまでに彼女を傷つけたことが許せなかったのだ。いや、逃げたかったのだ。
 彼女は、ハロウィンとなると、五人の妹たちにお菓子のプレゼントを包み、それを実家に送っていた。
 それが、彼女のハロウィンの一番の楽しみだった。
 二番目の楽しみは、そう! 今、町内会の子供たちに向けて、お菓子の袋を作ることだった。町内会を皆で回った後、彼らにこれを渡すのだ。ある程度、ハロウィンの風習は行き渡っている双葉島でも、やっぱり喜んで子供たちは受け取ってくれるのだ。
 去年同様、彼女のハロウィン当日の一番の楽しみだった。そろそろ、子供たちが帰ってくるだろう。このお菓子を渡したらどんな喜ぶ顔が見れるのだろう。そう思うと、彼女は心が高鳴る。
 その時、彼女の携帯のメール着信音が鳴る。


十月三十一日その二

 彼女は過去のハロウィンパーティを思い返していた。
 彼女にとって、ハロウィンパーティは、小さい頃からストレス発散の場であった。
 何故なら、彼女の“本質”を顕わにし、知らない人に『あら、可愛いわねえー』などと言われることは、このイベントをおいて他になかったからだ。
 能力を使って、ちょっとしたいたずらをしても怒られることはまずなかった。
 それどころか、お菓子がもらえるのだから、これほど楽しいイベントはなかったのである。
 だが、今は違う。彼女にとって、全てな存在がある。彼女は、あらゆる事項において彼を最優先にする。自分の命を捧げてもだ。
 そこまで思い入れるのは何故か、それは彼女自身にも分からない。理由など瑣末なことであり、彼女にとって彼は全てなのだ。彼に否定されることは、世界そのものに否定されることに他ならない。
 彼と出会ってから、彼女にとって、彼は何よりも優先すべき事項になっていた。
 だから、彼のため、ハロウィンパーティのための飾りつけも黙々と行っていた。
 バイト先の店長が愚痴を言うのも流しながら。
 その時、彼女の携帯に彼からのメールが着信する。


十月三十一日その三


 彼にとって、十月三十一日というのはあまりいい思い出ではない。とりたてて、人に言うことのものではないが、ある不幸があったからだ。だから、彼女にとって、ハロウィンというイベントはそれ以降、良い印象はないのだ。
 大切なもの、大きなものを失った日なのである。
 でも、今の彼には、楽しいイベントにしようという意識があった。
 何故なら、この日に彼にとって、とても嬉しい出来事があることを知ったからだ。
 彼にとっては背が並ぶようでちょっと悔しい。でも、皆でお祝いすべきイベントである。だから、自分はこうして、準備をし、親友にもそのイベントの準備を手伝ってもらっているのである。
 腕によりをかけてご馳走やケーキも作っている。こう見えても彼は料理は得意なのだ。
 下ごしらえがある程度終わったところで、彼は携帯を取り出し、知り合いにメールを送信する。時間と場所は指定した。そして、一人以外には内容もちゃんと送信した……。


十月三十一日その四

 彼は、あいも変わらずぼーっとしていた。別段、何かが変わるワケではない。まあ、ちょっと、法律的に変わるだけ。住民票の記載が僅かに変更されるだけ。彼はそう考えていた。
 彼がこの島に来てからすでに年半を越える。正直、この島での思い出はろくでもないことばかりである。
 こんなことなら、能力をひた隠しにし、普通の高校に通っていた方が良かったのではないかとも思ってしまう。
 それでも、命の危険に晒されることはあったにせよ、馬鹿馬鹿しいイベントばかりだったにせよ、面白い高校生活ではあったと彼は思う。ろくでもない双葉学園ライフだったが、一番の問題は、今年の春休みに遊びにきた妹が、この島に辟易してしまったことだ。
 まあ、実際には、彼のアバウトかつ、ワイルドなライディングのおかげなのだが、彼は残念なことにそれを認識していない。
 つまり、彼は妹がこの島を毛嫌いしているのが、島、学園、能力、そして化物《ラルヴア》のせいだと思い込んでいる。恐らく、自分自身のための大きな神棚を心にこさえているのだろう。
 彼はメールを待っていた。あれ以来、どんなにメールしても妹は返送してこなかったからだ。まあ仕方ないといえば仕方ないのだが……。
 そして、今日の授業が終わったあとも何の気もなく、携帯を弄っていた。
 携帯が鳴る。メール着信だ。
 躊躇無く、メールをチェックする。
 そこには

『いますぐ、30分以内に喫茶アミーガに来なさい。でないと・こ・ろ・す☆』

 そう書かれてあった。
 彼は、送信主を確認すると、殺されるのもいやなので、部屋の片隅にあるヘルメットを拾い上げると、部屋を出て、めんどくさそうに寮の裏にある駐輪場へと向かうのだった。

 彼は十分遅れで指定された喫茶店へ到着する。というのも、バイクがぐずって、どうにもエンジンが始動しなかったから。彼は店先にバイクを停める。どうにも、この店先にヤマハ製バイクを停めるのは気が引ける。 常時、ホンダやスズキばかりが停まっているからだ。
 でも仕方が無い。ここが相手の指定場所なのだから。
 下手にバックレても碌なことがないだろうと彼は思う。
 彼はふと気づく。いつもはガラス張りの部分がカーテンで閉められ、中が見えなくなっているのだ。すごく気持ち悪い……。
 一体コレはなんだろうと、恐る恐る戸を押し開ける。
 その瞬間、盛大にクラッカーが鳴り、彼の頭上にクラッカーから放たれたロール紙がいくつも降りそぐ。
『ハッピーバースデー! めっしー!!』
 魔女や猫娘、エロいショタっ子、ナースに医者、マッドサイエンティスト、神主、メイド、大工、果てはアニメのキャラクターまで、様々な格好をしたクラスメイト、友人、知人がそこにいた。
 そう、この日、十月三十一日は召屋正行、十七歳の誕生日だった。
 それと同時に、携帯にメールに着信が入る。ポケットから取り出し、開くと、そこには妹と愛犬クロがこちらに笑みを浮かべて写っていた。こんな一文と一緒に。
「にーちゃん、たんじょうびおめでとう!」
 その日は、召屋正行にとって双葉島でも最初で最高の十月三十一日だった。





「はい終わりー!」
 そういって、ひときわ背の高い猫又の扮装をした春部里衣《はるべりい》が『お誕生日おめでとう! 召屋くん!!』と書かれていた看板をそそくさと引き下ろす。
「さあ、ここからは、ハロウィンパーティよー!!」
『やったーっ!!』
 そこに集う全員が歓声を上げ、先ほど以上のクラッカー音と、シャンパンを抜く音まで聞こえてくる。
「え? あの、これって……」
 先ほどまで主役だった召屋は、ことの展開に戸惑う。
「はい、じゃあこれ☆ね!」
 いつもは毛嫌いしている召屋でさえドキッとするウインクをしながら、なにやら紙きれのようなものを渡す。
そして、そこには……

請求書 召屋正行様
貸切料金 ○○○○○円
喫茶アミーガ

と記載されていた。
 その瞬間、召屋正行は、今日というこの日が、人生、最初で最低の日だと理解した。






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