【騎士の出張・パンプキンバスター > 騒動役満盛双葉学園】


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 昨日到着してすぐに、軽く会場の下見と簡単な打ち合わせだけしておいたものの、本番前ともなれば
空気が全く違うのが分かる。 

 それにしても、このブルーのマントはどうにかならんのか。さすがに何百年と続く伝統の装束だから
今更どうこう言っても仕方が無いのだが、この僅かに2時間程度の特別講義のために着るには正直荷が勝ちすぎる。
 講義に出向くのは自分とクレリアの二人で十分ということで、クロガネとマイネは顔見知りのキリエ・ヒイラギ女史に
任せてある。
 グリ婆同様に『本当の魔女』たるキリエ女史は講義を受ける必要はなかろうし、マイネとも知り合いなので都合がいい。
 マジメちゃんのクレリアに全部押し付けて観光としゃれ込みたかったが、立場がそれを許さない。
大人はかくも大変なりけり、とな。
「それにしても、まだ人に教わる立場なのに教壇に立つというのも、何だか緊張します」
「講義っつっても、単に資料を見せながら説明するだけのもんだ。ホントの教職がする講義に比べたらまだ生ぬるいさ。
 気楽にやろうや」
「……シズマさんは、立場上もうちょっと引き締まっていたほうがいいんじゃないでしょうか?」
「扉を隔てた向こうで拳銃構えた若干一名が待ち構えていたとしても、平常心平常心。テンパってもいいことないぜ?」
 扉の向こうから、チッばれたか、といったような声が遠ざかっていくのが聞こえてくる。

 さて、それじゃあ行きますかね。お仕事お仕事。クレリアを連れて、双葉学園大学部の講義室に入る。
 ……つか人多いなオイ。学園都市内警備警護の担当者と、地方の異能自警組織のお偉方が基本的な対象なはずだが、
そうでない一般聴講者もかなりの数に上っているのは、制服姿を見れば一目瞭然。ざっと見て、スーツ姿の10倍以上の
人数の学生が居る。暴力的な意味で警備警護の対極に当たりそうなのがいたりするのはご愛嬌、なのだろうか。
 教壇に立つ。階段式にせり上がっていく講義室において受講者の注目を黒板の次に浴びる場所から、聴講者を見回す。
 とうとう大学に行くことなくいい大人の年齢になってしまった自分が、この場所に立つ。複雑な気分ではある。
「えー、それでは……」
 マイクの調子を確認。うむ、感度良好。
「本日は、このような場にご招待頂ける機会を設けていただきまして、皆様に厚く御礼申し上げます。
 本日この場にて皆様のお時間を頂戴させていただきますのは、私、シズマ=ノーディオと申します。
 こちらは本日の助手を勤めます、クレリア=フェンドラウン」
 やや緊張したような面持ちのクレリアが、紹介に合わせて聴衆に向かって一礼。そんなに畏まった表情は、
 ウチのオフィスに面接に来たとき以来じゃなかろうか。
「本日は僅かなお時間ではございますが、是非皆様にとって、少しでも役立てていただける講義をさせていただければと
 思いますので、どうぞよろしくお願い致します」
 拍手が起こる。うむ、少々照れるな。そこのガキども、日本語うまくね?とか言わない。これでもメイドインジャパンだ。

 こうして、来日最大の目的である、ハロウィンにおける防犯講義が始まる。


 とりあえず思ったのは、つまんないからって惰眠ぶっこいててごめんなさい先生、ということだ。
 そこの若干一名、今度アリスのところにお茶しに来たら、茶請けの菓子に山葵か辛子を練りこんでやろうかねぇ……。


―――※―――


 仔細を事細かに説明するのは省かせてもらって、要点だけを簡単に説明すると、今回の講義はこのような感じになる。
<設定話が苦手な方は読み飛ばし推奨>

 一 ハロウィンという行事とラルヴァの結びつきについて
 ハロウィンの時代背景についてここで説明するのは、本旨とは逸れるので割愛させていただきたい。
 こういうとき、ネットスラングでは「ググれ」と言うようだ。実際ググると大抵のことは分かってしまう。
 便利な世の中だ。

 そのハロウィンだが、ラルヴァ側の主役となるのはもちろんこの二体、「ジャック・オー・ランタン」と
 「ウィル・オー・ウィプス」である。
 とはいうものの、どちらもこの時期特有の呼称というだけに過ぎない。ウィルはよくあるタイプの憑依型の
エレメントラルヴァがこの時期出たときに使われる呼称で、ジャックはウィルが憑依したランタン飾りから
ガチでカボチャ頭のビーストラルヴァまで広範を指す名称だ。
 ハロウィンの源流であるケルト地方、現代においては西欧地域を中心に、ハロウィンは「精霊の門」を潜って
やってくる先祖の霊を向かえるという、御盆に近い風習であるわけで、そこには少なからず霊的存在が絡むことが
昔から示唆されている。
 「精霊の門」というのが何なのかというのは、唯の宗教的概念にすぎないというものから、神秘領域あるいは
ラルヴァ時空に通じている肉眼視できない存在だというトンデモ話を持ち出すものもいるが、その辺は
民俗学その他の分野になるのでこれまた割愛。
 そんなハロウィンにおいて頻繁に用いられるカボチャを刳り貫いたランタンだが、作り手の心情が少なからず篭るもの。
 それが大量にあるというのだから、憑依型エレメントラルヴァとしては、依代選び放題、というわけだ。

 ハロウィンの風習は、「精霊の門」のお膝元である欧州を遠く離れ、大西洋を渡り、そして大陸を横断。
 キリスト教文化の一端として、あるいはエンターテイメントとして世界各地の社会に取り込まれたハロウィンだが、
欧州以外でもウィルとジャックはハロウィンとなれば世界中で奮起する。
 「ハロウィンといえばウィルとジャック」という世界同時多発的に発生する観念が彼らの活動意欲を後押ししていると
分析する学者も少なからず存在する。広義のラルヴァである「神」や「悪魔」は信仰、つまりは信じる心から
発する存在であることから鑑みても、完全に的外れとは言えないだろうが、所詮は学説一派の域を出ない。
 そういうわけで、今やハロウィン=エンターテイメントの日本にあっても、ウィルとジャックは旬を逃すまいと
日夜せせこましく活動しているのである。


 二 ハロウィンラルヴァ
 ハロウィンと切っても切れない関係にあるラルヴァ、ウィルとジャック。この項ではこの二体について触れる。
 まずはエレメントラルヴァ「ウィル・オー・ウィプス」だが、これは先にも述べたように、この時期に湧く
憑依型エレメントラルヴァの総称である。
 ランタンと融合することでジャックに変質する場合もあれば、異能抵抗微弱な一般人や未熟な能力者に憑依して
暴れさせるというケースもある。
 主に悪意が凝り固まって非常に薄弱ながら意思を持った程度の低級エレメントであるためウィルそのものは
撃退は容易ながら、憑依先によっては思わぬ被害を被る可能性もある。
 ……だからといって、誰彼構わず憑依されたなら撃てばいいという論理にはなかなか辿り着けないので、
そこは是非注意していただきたい。頑張れ風紀委員。

 次はビーストラルヴァ「ジャック・オー・ランタン」。伝承ではそのベースは人間なのだが、人型から植物体まで
さまざまな形態を取るため区分はどちらかと言えばビーストになる。
 ジャックの中にもいくつか種類があるが、一番多いのは対処も容易な、ランタン飾りにウィルが憑依したタイプだ。
魂源力を以って依代を破壊すればウィルも倒せて一石二鳥、比較的組し易い段階である。
 次いで多いのは、ウィルが憑依したランタン飾りがさらに別の生き物に覆いかぶさるタイプ。この場合、
単純にウィルが取り付くときよりも凶暴化が著しいケースが多く、注意を要する。
 これらの場合は、憑依したランタン飾りの強度や大きさもダイレクトに攻略難度に反映されることになる。
 それらとは別として、一個のラルヴァとしてのジャックもまた存在する。ランタン頭にチョッキ姿、
手にはパンプキンシザーを始めとして鋭利な刃物を手にしていることが多い。
 純粋かつ低級のラルヴァだけあって、全力殲滅OKという極めて組し易い相手である。実際ガーデンでは、
憑依製ジャックに辟易させられた鬱憤を純正ジャックで晴らすという傾向が非常に強い。

 総じてそれほどの脅威とはならないのがウィルとジャックの特徴ではあるが、ときたま「パンプキンキング」と呼ばれる
亜種に変貌することがある。
 さすがに王だけあってランクは中級に上がり、異能者もそろそろ本腰を入れなければ対処できない段階に入る。
 キングは大抵人型よりも植物体を取ることが多く、幹と蔓を足代わりに自走し、頂にランタンを据えた巨大植物体は
なかなかの圧巻。聴衆にも見せた過去のガーデン生とキングとの交戦記録映像は、B級怪物映画さながらである。 


 最後に、どれだけハロウィン気運でウィルとジャックが寄ってくるかというのを知ってもらうために、ひとつ実演。
 クレリアの異能「アイ・スカイハイ」にて上空から双葉区を見下ろしつつ、そこに特別協力を依頼しておいた
クラウディウス教諭の「ザ・ダイヤモンド」を連結。
 会場の聴衆にリンクをつなぎ、聴衆にはスクリーンに映し出した今のクレリアの視点と重なる高空図を見てもらう。
 クラウディウス教諭の能力でクレリアの視点からのラルヴァ反応をピックアップ、そこから位置関係を
ピックアップした情報を聴衆に送り、スクリーンの高空図に重ねてもらう。
 これだけのしちめんどくさい手順を解することで、今聴衆が見ているスクリーンには、上空からジャックとウィルが
そこかしこで発生している様子がリアルタイムで映し出されている、というわけだ。
連結を拒否した自分は見れないし、自分が映らないように調整かけているのだが。


―――※―――


「―――というわけでお時間も迫ってまいりましたので、本日の講義はここで終いといたします。皆様、
 御静聴ありがとうございました」
 聴衆からの拍手に一礼で返し、講義室から出る。うむ、とりあえず開始から終了までぶっ通しで遠慮なく
寝てくれやがったアイツには、夢の中でワサビケーキをどんと1ホールプレゼントだな。

「なんとか、終わりましたね……緊張しましたぁ」
 まさに肩の荷が下りた、という感じで、全身から緊張と疲労のオーラを滲み出すクレリアが、駄々漏れの
疲労感をたっぷり乗せて話しかけてくる。
「ま、クレリアはこれで終わりってことで。あとはフリータイムにするから、学園を案内してもらうなり、
 ホテルに戻って休むなりするといい。ついでにクロとマイネを拾ってくれると助かる。『魔女研』って部活の
 部室にいるだろうから、探して行ってみてくれ」
「はい? シズマさんはどうされるんですか?」
「どうもこうもないさ。ハロウィンつったら、やること、っつかやられることは一つしかないだろ?」
 内ポケットから御用達の飴を一袋取り出して、クレリアに見せてやる。
「アメ……が、どうかしたんですか?」
「ハロウィンってのは、子供にとってどんな行事だったか、思い出してみれ」
 指先でつまんだ飴袋を、廊下の先から歩いてくる存在に向ける。その辺の教室の暗幕をちょろまかして
長身をくるんだだけの、明らかに間に合わせの、お化け。
 手にした画用紙に書かれた文字はTrick or Treat 、ハロウィンというイベントの象徴たるフレーズだ。
「ま、仮にも北極点に防寒装備一切なしで行って生還した変人奇人が、こうしてアメちゃん持って歩いてるんだ。
 奴さんのやることなんて、決まってるだろ。そうだろ、そこの暗幕お化けちゃん?」
 飽く迄も寡黙に、暗幕お化けは接近。発した言葉は唯一言、「Trick or Treat?」


 暗幕を翻すと共に、廊下を駆け抜けるその姿。
 風を呼び、風を巻き起こし、暴風をその身に纏う。
 話にだけは聞いていた「現存唯一正真正銘の騎士」へ一足飛び。
 この風は、世界の頂に届くだけの力があるのか。
 唯それを見極めるために、翔ける。

 名も知らぬ女学生が巻き起こす暴風域の渦中、騎士は悠然と立つ。
 外套を預け、暴風の中心核へ向ける眼差しは、熱く、鋭く、険しい。
 荒れ狂う風が全身を打ち付けるのも厭わず、向かうは一点。
 騎士として、先達として、後進を受け止め、立ちはだかる。
 それが己が使命であり、責務である。


 学園としても十分起こり得る可能性として想起していた「来賓にTrick」、口火を切ったのは誰あろう、皆槻 直である。


―――※―――


 夜も更けて、場所はとある中華料理店。看板にはローカルルール役満の名称が掲げられている。
 ……そういや、バァ様にもグリ婆にも、サシでも三人がかりでも結局一度も勝てなかったなぁ。
「ノーディオ卿、このたびはお疲れ様でした」
「いえいえ、御気になさらず。それはそうと、また随分と古めかしい、いい感じの店ですね」
「いらっしゃいませ! あれ、せんせーさんその人は?」
「うぃっす、せんせーさんに……そっちの人、ひょっとして、せんせーさんのカレシっすかぁ?」
「神楽さんは知ってて言ってるよね? 拍手君、こちらの方は……」
 皆槻 直を筆頭に、学園校舎内外問わず'Trick or Treat'が勃発。ハロウィンパーティーでいつも以上に
騒がしくなった学園を更なる怒涛の渦に巻き込んだ動乱も、醒徒会総員出陣を伴う事態の収拾と、ばら撒かれた病原体の
空気感染防止のため全域空気洗浄を要することになったことで、今は月夜に照らされ元の厳格さを取り戻そうとしている。
 で、そんな学園の渦中の人となったシズマは、英国繋がりということで接待の担当となっており、また先の講義でも
協力頂いたクラウディウス教諭と共に、彼女のオススメの店に赴いていた。
「それでその、今日は本当に、ご馳走になってもいいんでしょうか……? 私たちがお招きしたお客様なのに」
「御礼はします、と申し上げましたでしょう。こちらとしてもいい経験をさせてもらいまして、充分過ぎるほど
 元は取っておりますから」

 双葉学園が有する生徒の中でも、戦闘方面に秀でた生徒、特に向上心や無謀な野心を胸に抱いた生徒達は、
自分の戦闘スタイルを崩さない程度に仮装し挙って参戦を表明。あるいは共闘、あるいは先を争っての諍い、
様々なバトルが起こった。
 最終的に極太びゃっこレーザーにより鎮圧され空気清浄のための緊急避難が始まるまでのおよそ二時間強の
全方位経戦状態、それを真正面からすべて受け止めて「いい経験」と言ってのけるノーディオ卿。
 世界に数多ある勲章の中で最も受勲が困難とされる、敵前にて勇気を示した者に送られる英国最高位勲章、
ヴィクトリア勲章を女王陛下より賜っただけのことはあるなぁ、と春奈は素直に感心する。

「それでせんせーさんにお客さん、ご注文は何にしますかね?」
「う~ん……オゴリ、でも、ここは……」
「こういうときは迷わず役満盛いっとくっすよ! せっかくのタダ飯なんすから、たっぷり食い溜めでも
 しておいたほうがいいんじゃないっすか?」
「あのね、遠慮とかそういうのも考えようね」
 一度テンペスター子爵の家の食堂でしこたま食べてる光景を傍目に見たことがある程度だが、神楽という女生徒の
煽り様からするに、小柄の割には相当食べるらしい。
「えっと、拍手君って言ったっけ? クラウディウス教諭に普通のチャーハンの……一番盛が大きいのは役満盛か?
 それでよろしく。俺はとりあえずこのネタ感満点のカボチャーハンを満貫で。足りなかったら教諭の皿から
 分けてもらうとするか」
「……いいんですか、ノーディオ卿?」
「ええどうぞ、お召し上がりください。こんなもので御礼になるなら。なんならおかわりもいいですよ?」

 シズマは知らなかった。目の前の小柄な女性の胃袋が、役満どころかダブル役満すら受け止める脅威の
許容量を有していることを。
 堆く積まれた米・細切れ野菜・細切れ肉で構成された山脈が、あたかも空間ごと削られていくかのように
消失していく光景に、そしてそれがリピートされる光景に、彼は戦慄を禁じ得なかった。
 帰国後に彼は語る。「日英合作とは、かくも驚異的なるものか」と。
 女王陛下に報告すべきではないだろうが、いい土産話にはなりそうだ。


―――※―――


「ありがとうございましたー!」
「ごちそうさまでしたぁ……満腹です」
「それは何よりでした」
 拍手君の元気な声に送り出されて、二人並んで表へ出る。
 おなかを膨らませてほくほく顔のクラウディウス教諭を見てみても、どこにあの炒飯二峰が収まったのか
全く分からない。あの分量が収まっている今の彼女の体内を見てみたいものだが、さすがにそれは無理な相談だ。
「本当に、ご馳走になってしまって……ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ。これもまたいい経験ですよ。子爵にいい土産話が出来ました」
「あうぅ、あまり言い触らさないでくださいね」
「心得ました。それでは、本日はこれにて」
「はい、本日はどうも、ありがとうございました。それでは、失礼します」


 とことこと夜道を自宅へ帰っていくクラウディウス教諭を見送る。一人暮らしの女性の家まで送っていく程に
節操がないわけでもなし、彼女の異能からしても早々トラブルに巻き込まれることはなかろう。
 そんなことより問題は、日が落ちてからずっと後を付けて来てる奴ら、だな。
 メシ抜きで追って来てるようだが、空腹で戦うのは感心しないな。
「なぁマルコシウス、どっちかっつーと、おまいさん目当てのお客さんのご来訪だぜ? 日没からこっち、
 ずっと待たせてたんだ、とっとと用事済ませようぜ」
 眼前の宵闇に聞こえるように、懐中時計の向こうの深淵へ話しかける。深淵の向こうからは、(なんとも
久しい感触。バアル・セブルか)と聞こえたような気がする。
 宵闇の向こうからは、気付かれた異常は仕方がない、ということで、ランタンをかぶった少年が出てくる
 派手なカラーリングの蜘蛛のイメージが、街灯に照らされ足元から伸びる影に重なっている。
『ちっ、とっくに気付かれたのかよ。まったく、どんな感性してやがんだっての』
「念を入れて気配遮断の術を使っていたのですが、これほど早く気付かれるとは思いませんでした」
 目の前にしているが、なんと影の薄いことか。並の気配遮断よりよっぽどだ。
「……むしろ、使わないほうが良かったかもな。何にせよ、そんな格好で何の用かな?」
『決まってらぁね。テメェをぶったおしに来たんだよ!』
「貴方の力の源泉に、非常に禍々しい物を感じます。その力、絶たせてもらいます」
 そう言い放つ少年の影がまばゆい黄金色に輝き、シズマの影へと迸り、突き刺さる!

「あーやめとけって。やりたいことはわかるが、その方法じゃ無理」
『何だとォ!?』
「オレとマルコシアスの関係は、おたくさん同様憑依じゃないからな。この術式は引っぺがすだけのもので、
 魂を砕くとか存在レベルで抹消するとかそういうレベルじゃないだろ?」
 使えないまでも、魔法・魔術の類ならその筋のプロに徹底的に教わっている。
 流石に相手方は魔軍御大将仕込の術式だけあって相当のものだが、目的達成にそぐわない術式には意味がない。
「……では、こちらも相応の力を以って臨まなければならないようですね」
「やめとけって。流石にバアル・セブルの力の片鱗が立ちはだかるなら、こっちだってそれなりに覚悟せにゃならん。
 殺るか殺られるかの戦いをしようにも、こんなところで学園の安全性を疑問視せざるを得ない事態になるのは
 お互いに困るだろ?」
 お互いにソロモン72柱神を魂に頂く身だ。
 派手にやらかせば立場も自身も危うくなるのは芳しい結果とはならないのも同じこと。
『怖気づいたってか? へっ、地獄最強の魔獣が聞いて呆れるなぁ!』
「ま、何とでも言えって。そいじゃ失礼」
 右手にメダルから顕現させた剣を持ち、手近な空間を割いて飛び込む。
 待てやゴルァ!とバアルと思しき蜘蛛のイメージが叫んでいたが、そんなものはスルーだ。


「逃げられたね」
『ち、なんつーヤツだ……相手が居ないんなら、何時までもこんな所にいたってしょうがねぇ。とっととメシ食って帰ろうぜ兄弟』
 後に残された逢馬 空とゴルドシュピーネは、帰りに何を食べようかと思案しながら、逢魔ヶ刻の帰路につくのであった。


―――※―――


 特別講義の日は様々あったが、翌日は学園都市の案内と周辺地域の観光ということで非常に穏やかに終わった。
 秋葉原に行かせてくれと某博士ばりのジャンピング土下座で懇願してきたクロはホテルに閉じ込めた。
 ああいう場所は個人で来たときに行け。

「ま、目的が観光ではなかったとはいえ、それなりに充実した旅行ではあったな」
「……オレはつまんなかったっす。思いっきり給料差っ引かれ、さらに自由行動の時間はホテルに閉じ込められ、
 なぜにオレだけこんな目に……」
「クロは馬鹿だから仕方がない。十分に反省したか?」
「やかましいわ!」
「はいはい、みっともないから騒がしくしないの。忘れ物とかないようにしなさいね」
 滞在に使用したホテルのロビーでは、行きと同様に小柄にベレー帽と大柄のハゲが出迎えでくれている。
「短い時間ではありましたが、実りあるお時間を提供していただいてありがとうございます、ミス藤神門」
「こちらこそ、大した持て成しも出来ずに、さらにはあのようなろーぜき三昧。重ね重ね申し訳ないのだ……」
「はっは、若人はあのくらい元気があったほうがいいものですよ。今回の手合わせで、彼らに何か感じ入るところを
 与えられたのなら、それで充分です」
「そう言ってくれると助かるのだ……ん? すまん、失礼するのだ」
 藤神門嬢の胸ポケットに忍ばせてあった生徒手帳が着信のシグナルを発している。
 どうやら学園側で何かしらの事態が発生したらしい。

「申し訳ないのだ……学園都市でパンプキンキングが発生したとの報が入ってしまったので、空港まで送ることが
 できなくなってしまったのだ……」
「それでしたら、取り急ぎ学園に戻ったほうがいいでしょう。私の相手などしているよりも、早く戻ったほうがいい」
「かたじけないのだ……では、またの機会にお会いできることを、楽しみにしているのだ! 往くぞびゃっこ!」
「うななー!」
 白虎を伴い、藤神門嬢は駆け出す。あの子は将来お嬢のような一切合切破壊魔にならないことを願うばかりだ。
「それでは、私が車を出しましょう。お連れの方共々、どうぞこちらへ」
 またしてもヤのつく自由業にしか見えないスキンヘッドもとい堂雪の運転で、これまた行き同様に成田へ。
 日本ではこの時期もごくごく普通の平日なので、空港は快適この上ない。
 速やかにチェックインを済ませて出国ゲートへ向かう。

「直接会いにいく時間取れなかったから、宗家のバァ様やお嬢達にはよろしく伝えておいてくれ」
「分かった、伝えておこう……ところで静馬、日本へ戻る気はないのか?」
「そいつは無理だな。ただの悪ガキだった頃と違って、俺にも立場ってもんが出来ちまった。それにどうしても
 やらなきゃならんこともある。そのためには英国人の方が都合がいいんだ」
「そうか、考えがあるのなら止めはせん。とりあえず、ご家族は息災であられる、ということだけは伝えておこう」
「……さんきゅ、堂雪。じゃ、またな。ロイヤルオーダーが入ってなければ依頼は随時受付中だ。依頼料は応相談。
 Licensed by Royalの自信を持ってお客様へ安心をお届けするオフィスKGC、どうぞ御贔屓に。
 渡航費はそっち持ちな?」
「知人のよしみでまかるのなら、考慮のひとつに加えることにしよう。ではまたな、静馬」
 北神 静馬を今尚知る数少ない一人との別れを終え、先にゲートに向かわせておいた3人の足取りを追う。さらば日本。


 免税店で土産の買い足しをしている三人にそろそろ乗る時間だと告げ、英国への帰路に着く。
 また明日からは英国での暮らしが待っている。
 溜まった書類の整理やら、女王陛下やテンペっちゃんへの報告やら、忙しくなるなぁ……。



―――※―――


 渡航時間も12時間を過ぎ、間も無くヒースローへ着こうかという頃、FAがやってくる。
「あの……恐縮ではございますが、シズマ・ノーディオ卿であらせられますか?」
「ええ、そうですが。何かありましたか?」
「火急のロイヤルオーダーとのことで、管制塔より卿へ通信が入っております」
 うん、ビッグベンに突き刺さってるはずのカボチャが撤去作業の様子もないのに外れていることに気付いたときに、
こうなるだろうとは思った。
 帰宅より前にひと騒動、か。ほんっと、退屈しないねぇ……!


―――終――――――了―――


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