【ある前座の話2】


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「転入生の出迎えに行け、とはまた妙な話だな……」
そうは言いつつも、やはり上からの依頼には対応せざるを得ない。
双葉学園高等部二年、西院 茜燦(さい せんざ)は、双葉学園区を離れて、雑踏渦巻く東京駅を訪れていた。

―――※―――

人の波に逆らい待ちぼうけすること、指定された時刻から20分ほど遅れて、改札を通る母子に目が留まる。
あの人は……と思い至るより早く、
「やっほ~ゼンザく~ん! ごめんね~送れちゃって。まったく、この子が駄々を捏ねるものだから」
「あうぅ、声が大きいよぅ、お母さん……ごめんなさい、お兄ちゃん」
「メイジーにライナ小母さんじゃないですか。どうしたんです?観光でしたらここよりも上野とか、
 あるいは足を伸ばしてディ」
「おっと、それ以上は危険よゼンザくん。口を慎んだほうがいいわ。妙に甲高い声の鼠に消されるわよ?」
「……それはともかく、いい加減覚えてください。ゼンザじゃなくてセンザです」
「まーまーいいじゃないの、そんな小さなことは」
そう言いつつ豪快にばしばしと茜燦の背を叩く背の高いほうの金髪美女。

「はぁ……まったく、ライナ小母さんはいつもこのテンションでどうして疲れないのか理解ができん……」
「ごめんなさい、お兄ちゃん……私が、一人じゃ行くの怖いって言ったら、お母さんが付いていったげるって
 張り切っちゃって……」
何だかもう消え入りそうな程に申し訳なさそうにしているメイジーと、その母であるライナ小母さんの、
母子とは思えない対比は、学園に入る前と何ら変ってはいないようだ。

―――※―――

「よし、それじゃ、あとはお願いねゼンザくん。ゼンザくんならメイちゃんに手を出すのは構わないけど、
 最近は何かと物騒だから、いろいろ問題にならないように気をつけなさいよ?」
「……えっと、話が見えないのですが。どういうことでしょう?」
「ありょ、ゼンザくん聞いてないの?ウチのメイちゃん、明々後日から双葉学園に編入することになったのよ。
 なんか知らないけど、いきなり小包が届いてね、したらそんなふうな手続きがされてますのでー、って
 書いてあったから」
「メイジー、いつその話聞かされた?」
「……学校で、担任の先生から……明日でお別れね、って言われて……」
そのときのことを思い出して泣き出しそうなメイジー。
茜燦は蔑む様な厳しい目線を、この可哀想な妹分の母親に突き立てる。
「何よ何よ!私がまるで悪者みたいじゃないのよ!」
「……どうみても悪者としか思えないのですが。いきなり友達と引き離されることになったメイジーの
 気持ちを考えてみたんですか?」
「だぁってぇ~~~、ホラ!これ見て!招待生は学費が安くなるって書いてあるんだもの!それに双葉学園って
 いったら大学まで一貫教育でしょ?ずっと安くなるなら、そのほうが家計にもいいかなーって」

「いきなりお友達と別れることになって、辛かっただろう、メイジー?」
「うん……ぐすっ、えぐっ」
「ごめんな……悪いのは、この無計画極まりないオバサンだからな……よしよし」
「うん……うん……えぐえぐ」
「……なにこの疎外感。ひょっとして新手のイジメ?」
「むしろイジメてるのはアンタの方だ」
「ゼンザくん酷いわぁ! 私はアナタをそんな風に育てた覚えは無いわよぉ!」
「そりゃ貴女の子じゃないですから」
「ヒドイワ!? これが反抗期ってものなのね……お母さん、逞しく生きるわ……」
「……で、要するにメイジーを学園に連れてきゃいいんだな?」
「そゆこと。いやー助かったわー。後のことは全部ゼンザくんにお願いできるし。いい、メイちゃん?
 お兄ちゃんの言うことをよく聞いて、マジメにお勉強するのよ?」
「……うん、分かった」
「よし、いい返事。後のことは宜しくね、ゼンザくん。私はこれから妙に甲高い声の鼠の国に行ってくるから。それじゃ!」
「メイジー連れてってやってからこっち来いよ……」
「もういいよ、お兄ちゃん。お母さんはああいう人だから……」
意気揚々と鼠マーチを口ずさみながら改札を通っていく母を見ながら、娘は嘆息するのであった。

―――※―――

それから茜燦はメイジー、ことメイシャルリント・ジーオレノの手を引いて、双葉学園都市へ向かう
電車の椅子に、その身を預ける。
「やれやれ、寝てしまったか」
メイジーに肩を貸してやりながらも、茜燦は考える。
(メイジーが招待生、ということは、この子も何らかの力を持っている、ということか。もう巻き込まれた
 自分はともかく、メイジーみたいな子まで抱きこもうとするとは……学園は何を考えている?)
授業で言っていた話だが、対「ラルヴァ」戦で重要視される異能の力は十代で発現する者が多く、その力は
一般生活においても様々な影響を与えることから、一部社会問題にもなっている。
能力の扱い方という側面での勉学の場と対「ラルヴァ」戦力養成機関を兼ねているこの学園に、メイジーが
編入されるということは、近い将来メイジーも自分らのように「ラルヴァ」と相対する事になるのだろうか。

ラルヴァはいまや全世界にとっての驚異。
その驚異から世界を護れるのは、力に目覚めた十代の少年少女達。

……難しいことを考えても仕方がない。
今俺にできるのは、先祖代々受け継がれてきたといた四振りの宝剣と、この身に宿る異能の力で、
「ラルヴァ」から身近な人を護ることだけだ。
世界だなんてそんなものは、痛快娯楽冒険活劇の主役達に任せてしまえばいい。

―――※―――

だが―――そうは言っても、脇役にも危険というのは訪れるものらしい。
生徒手帳にコールサインが入る、とはいえこちらは海上の車中。召集されたところで応じることは出来ないし、
学園から離れていることは承知していそうなものなのだが―――?

そのとき、後方の車両から悲鳴が響く。
「―――まさか!?」
悲鳴を引き連れて人たちが押し寄せる……その向こうからにじみ出てくる、この気配は―――!?
だが、どうする?
こちらには、どういうわけか学園都市行きの車両に乗り込んでいた「ラルヴァ」の情報は一切無い。
自分にコールサインが入ったということはそれなりの超低級か、それとも「一番近くにいるから、命を賭して
その場を死守しろ」という意味か―――どちらにしても、今自分に出来るのは、唯一つ!

「起きろ、メイジー!」
「んぅ……もう、着いたの?」
「違う。落ち着いて聞いて欲しい。今この電車に、最近ニュースでたまに出てる『ラルヴァ』っていう化け物が
 乗り込んでいるみたいなんだ」
「……そう、なの……?」
「で、メイジー、他の乗客と一緒に前のほうの車両に行くんだ」
「うん……お兄ちゃん、は?」
「お兄ちゃんは―――メイジー達を護らなきゃいけないから」
「やだ……あぶないよ、怪我しちゃうよ」
「そうかもしれない。けど―――誰もやらなかったら、誰も護れなくなるから」
「お兄、ちゃん……」
「だから、大人しく、先頭車両の方に行くんだ。できるね?」
「……ぅん」
「よし、いい子だ」

―――※―――

メイジーと、他の乗客があらかた通り過ぎていくのを見越して、濁流のように逃げ惑う人々の流れに
強引に逆らい、後方車両に向かう。
そこには……やはり、
「『ラルヴァ』―――!」
偶に要請されて出向いたときの超低級とも、この前舞華と一緒に戦ったヤツとも、違う。
ヤツの身より発せられる禍々しい妖気は、正に化け物。多少なりとも慣れたと思っていたが、初めて相対した
あのときの嘔吐感や不快感が込み上げて来る。だが……
「せめて、あと少し、時間が稼げればいい。それまで、付き合ってもらうぜ、ダンナ」
迫り来る嗚咽感と全身を流れ出る冷や汗、震える膝に鞭打って、氷結の太刀・繚龍を抜き放ち切りかかる!

斬撃が決まったところから「ラルヴァ」の体が氷結していくが、だがその速度はあまりに緩慢、その力は
あまりに脆く、「ラルヴァ」の猛撃を食い止める盾にも、動きを止める鎖にもなりえない。
(これが・・・中級以上、ってことかよ・・・!)
正直、レベルが違いすぎる。真の意味で選抜メンバーとして戦地に赴く者達は、こんな圧倒的過ぎる力と
五分以上に戦うと、いうのか!
(正直、どっちも化け物、だな―――っ!?)
「ラルヴァ」の豪腕が、せめてもの時間稼ぎにと無理して作った氷壁をぶち破り、
Gruaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!
聞くもおぞましい咆哮を上げて、
「が、はぁ……っ!? があああああああああああああああ!?」

―――※―――

2つ先の車両まで吹き飛ばされた茜燦が、激痛の源に目を向ければ、
(―――左腕、骨見えてるな……せめて見た目くらいは、治ったように見えれば御の字、か)
脂汗を垂れ流しながら、冗談めいたことのひとつも考えないと、激痛に思考を支配されてしまう。
だがむしろ、これは運がいい。
右腕一本あれば剣は振れる。足があれば立ち回れる。
立つ事さえできれば、多少なりとも時間稼ぎの壁にはなれる。

ふと後ろを見やると、東京湾に沈む夕日に照り返された、学園都市まであと僅か。
だが、見えたのはそれだけではない。
(マジか……あれも、まさか、「ラルヴァ」―――いや、違う!?)
学園都市からこちらへ向かってくる異形。その肩には見た目はメイジーと同じくらいだろうか、中等部の
制服に、燦然と輝く腕章を腕につけた、少女、が!?

「見つけたぞ!あれだな!よぉし、やってしまえぃ!」
新たな異形の肩に乗った少女が指示を出すや否や、異形は「ラルヴァ」以上の膂力を以ってして「ラルヴァ」の
頑強な腕をねじ切り、へし折り、
「息せき切って飛び出してきたというのに、そんなものか。はっ、いやはや、何ともつまらんな」
茜燦が命を賭しても尚敵わぬと悟った相手を、「そんなものか」と一蹴し、
「もういい、やってしまえ!早く帰らんとアニメが始まってしまうぞ!」
物の序、それこそ待ちに待った楽しみの時間の直前に厄介ごとを親から頼まれた子供が、やっつけ仕事で
頼まれごとをこなすような気楽さで、「ラルヴァ」を、茜燦の眼前、「ラルヴァ」が乗り込んでいる車両ごと、
圧縮し、粉砕し、爆砕し、殲滅する。

その光景が、さも当然であるかのように振舞う少女は、ふと気付く。
「ほう?これはこれは、我が校の生徒ではないか!しかし何だな、あんなのにボロ負けしとるのか?修練が足らんぞ、お主?」
「―――まさか、アンタは……!」
「これに気付いたか?ふふん、いいだろう?この煌びやかな腕章!この私にピッタリだろう!」
この学園で唯一人のみ、選びに選ばれた唯一人のみが装着を許される腕章を、これ見よがしに見せ付ける。
そこに刺繍された文字は
「生徒、会、長―――!?」
「うむ!何を隠そう、この私こそが、双葉学園醒徒会会長、藤神門 御鈴なるぞ!えっへん!」

しかしそのとき、茜燦は既に気を失っていた……。

―――※―――

茜燦が目を覚ましたときに最初に見たのは、白い壁と蛍光灯だった。
「こ、こは―――」
「あら?ようやくお目覚めね。どう?まだ痛むところはあるかしら?」
驚くべきことに、半分千切れていた左腕も元通り。全身の打撲傷や擦過傷は言うに及ばず。
「生徒会長には感謝なさい? 貴方が気絶したのを、事切れたかと思って急いでここに連れてきたのだから」
「そう、ですか。何時か何処かで会ったら、礼の一つも言っておきます」
「それは殊勝な心がけね。それじゃ、そのベッドは病人怪我人のためのものだから、健常者は隣の眠り姫を
 担いで早く帰りなさい?」
「眠り姫、ですか?」

言われて隣のベッドを覆うカーテンを開けると、頬に涙の跡をいくつも残して、泣きつかれて眠ってしまった
メイジーの姿があった。
「……重ね重ね、申し訳ないです」
「全くよ。治療したいのに腰にがっちり抱きついて泣き止まないんですもの。大丈夫治るから、って
 何度言ったか知れないわ。アンタの治療よりよっぽど疲れたわよ」
「そう、ですか……コイツにも、後で謝っておきます」
「さ、とっととその子担いで帰りなさい。それから夜更かししないでとっとと寝ること。いいわね?」
「はい、心得ました。それでは。お世話になりました。失礼します―――よっと」
メイジーを担いで家路に着く。
きっとメイジーの寮室もあるんだろうが、事情が事情だ。
寮長と管理人には訳を話して、今晩はウチに泊める……しかないんだろうなぁ。

―――※―――

背負ったメイジーはすぅすぅと寝息を立てる。
寮に戻ってきたとき、寮長も管理人もメイジーについて何も言わなかったのに疑問を抱いたが……
「そういう、事かよ……はぁ~、小母さん、あんた一体何考えてんだぁ?」
ようやっと帰り着いた自室には、かわいらしく「めい」と書かれた段ボールが、いくつか置かれていた。

ああ実に今日は良く眠れそうだ―――そんなことを考えながら、メイジーをベットに寝かせて、
自分が予備の掛け布団と枕で床に直接横になる。
先ほどまで寝ていたというのに、眠気はすぐに訪れる。
明日目が覚めても、きっとここに段ボールはあるんだろうな、そんなことを考えながら、茜燦の今日は
終わりを告げるのであった。



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