【おーじょさまとかぼちゃとかぶ】


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。





「ごちそーさまでした」
 パジャマ姿の女性が一人、手を合わせて食事を終えた。テーブルには、綺麗に平らげられた皿や茶碗が並んでいる。本日のメニューは、秋刀魚《さんま》の塩焼きに大根の味噌汁、後はセールで買ったカボチャを煮つけにしたもの。米は玄米で、一膳だけおかわりした。
 一部では『至高帝《ザ・ハイランダー》』とも呼ばれ、街のチャレンジメニュー店を総なめにする程の胃袋を持つ彼女ではあるが、普段はごく質素な、普通の食事をしている。大食いは『食べられるときに食べておけ』というある種の本能が働く結果なのだ。
(つかれたぁ……)
 歯を磨きながら、一日を回想する。平常どおりの授業に試験採点、異能教育関係教員のミーティングに特別講義。これはする方と受ける方の両方だ。幸いラルヴァが出てきたりはしてないが、それでなくとも多忙な日だった。料理をする時間があったのが驚きなくらいである。
 ざぶざぶと食器を洗い、カゴに立てかけておく。昨日の分は乾いていたので仕舞った。ざっと流しを拭いて、布巾も水ですすいで干しておく。
「……これは、明日かな」
 鍋の中にまだ少しだけ残っているカボチャを見た。カボチャの煮つけは足が速く痛みやすいが、一日ぐらいなら大丈夫だろう。
(……ダメだ、眠い。シャワー浴びたし、もう寝よう……)
 何か本を読み返そうかと思ったが、頭が睡眠を要求している。というよりも、そろそろ寝ないと明日が辛い、という時間帯だ。
 ふらふらとベッドへ、仰向けに倒れこむ。シャワーを浴びたときに解いた、普段三つ編みにしている髪が扇形に広がる
「おやすみなさ~い……」
 もう十月の末、そのまま寝ると寒いので、もぞもぞと身体を動かして布団の中に潜り込んだ。流石にまだ、あまり暖かくない。一日やり切ったという充足感を持って、ずぶずぶと眠りの中に潜って行く。
 ……だが、彼女、春奈《はるな》・C《クラウディア》・クラウディウスの一日は、まだ終わっていなかった……





 おーじょさまとかぼちゃとかぶ





 その異変は、真夜中に起こった。
(……目、覚めちゃった)
 ベッドの中で、春奈がゆっくりと目を開ける。唐突に眠気を全部奪われたような、異様な感触がする目覚め。ゆっくりと身体を起こすと、さらに異様な光景が目の前に広がっていた。
 小さな光が、一列に外へと連なっている。順番にちらり、ちらりと瞬き、まるで自分を外へと導くような感触を与えられる。
「スルーさせて……は、くれないよね」
 眠い目をこすりながら、半纏《はんてん》を羽織る。こういう輩には、付き合うのが礼儀というものだ。
 ちらりと時計を見ると、午前二時でピッタリ止まっていた。何かの力が働いているかのように。
(……夢の中、っていう可能性もあるかな)
 二度寝すれば逆に目が覚めるかもしれないが、そもそも眠くないのでそれは出来そうに無い。仕方なく立ち上がり、光が連なる方向へ行ってみることにした。

 光は、外まで連なっている。それが指している方向は、確か双葉山がある……そこに行け、という事なのだろう。
 パジャマに半纏を羽織っているだけだが、不思議と寒くはない、さらに、いくら歩いても疲れる気配もない。体力がある人は、こんな感じなのかなと少し羨ましい気持ちを抱いた。
 双葉山へもう少しというところで、ようやく彼女は違和感に気づいた。
 何の気配もしない。確かに今は深夜で、どこの家も電気を消しているが、それだけではない。道は車が一台も通らないし、街灯も点いていない。何より、人間文明勝利の産物であるコンビニが、どこも閉まっている。二十四時間営業の筈なのに。
「……やっぱり、これは」
 夢か、幻覚の類だろう。と春奈が独り言を言おうとしたその時、幻覚とは思えないはっきりした声があたりに響いた。
「おおーい、シロやーい、どこ行ったー?」
 その声の主を見やると……『大きい』少女が目に入った。
 まず背丈が大きい、そして胸が大きい。あとついてに声も大きく、そしてやっぱり胸が大きい。金髪碧眼の欧米風美人だが、その『大きい』イメージに圧倒されて、なかなかそっちには目が行かない。
「およ? そこの子ー、こんな夜遅くにどうしたい?」
 その少女が春奈に気づき声をかける。授業のときに居たような、居なかったような……というか、春奈は完全に年下扱いされている。容姿だけ見れば当たり前なのだが。
「それはこっちの台詞だよ……えっと、学園の生徒さん、でいいよね?」
「うん、高等部2年。キミもそう? やっぱり初等部? それとも背伸びして中等部?」
「……教員」
「……ホントに?」

 とにかく大きい少女、アクリス・ナイトメアと合流し、光に誘われるまま双葉山を登る。アクリスはこういう所に慣れているのか、ひょいひょいと軽い足取りだが、春奈の方はそうもいかない。疲れることがないのが幸いだが。
 彼女も、話を聞く限りでは春奈と同じらしい。起きたら一人きりで、光の線を辿って来たという。
「それで春奈ちゃん、シロ見なかったです?」
「ここに来るまで、人はもとより生き物はなんにも見てないよ。多分、他の生き物も……」
 言いかけたところで、止まった。
 ここまで彼女達を誘導していた光が途切れ、そこに一つの影が立っていた。輪郭しか見えない、男性とおぼしき影は、火の点いた石炭を入れたランタンを左手に持っている。そのランタンは、しなびたカブでできていた。
「おお、呼びかけに答え、よく来てくれました!!」
 男の影は、大仰な声を挙げて歓迎するようなそぶりを見せる。何か腹に一物持っていそうな声だ。
「うさんくさーい」
「それで、貴方のお名前と……あたしたちを、ここに呼んだ理由は?」
「私はウィリアム、この山にひっそりと住まう『カブのランタンを持つ者の町』の町長です。あなた方の言葉を借りれば、ラルヴァ……に、なるのでしょうか」
「……カブのランタンに、ウィリアム……ああ、ハロウィン……」
「春奈ちゃん、なんでカブなのにハロウィンですか?」
 納得したような様子の春奈に、アクリスが横から口を出す。なお、さっきから敬語がおかしいのは基本らしい。
「ハロウィンの風習が出来たころは、カブでランタンを作ってたの。それがアメリカに伝わったとき、カブが無いからカボチャで代用して、それ経由で日本に来たから日本でもカボチャを使ってるんだよ」
「そーなのかー」
「そう、そこなのです!!」
「そ、そこなんだ……」
 春奈の知識披露に、今度はウィリアムが食いついた。
「先日から、近くの洞窟にカボチャの怪物が住み着いたのです。我が物顔で私たちの畑を勝手に作り替え、あまつさえ生贄さえ要求するようになったのです。このままでは我々は……」
「……正直な話、どうでもいい」
「同感」
「そこで! お二人にどうか! その怪物を退治していただきたい!!」
 ウィリアムが泣きそうな顔で二人を睨む。思いっきり独り言を聞かれていたらしい。
「めんどい」
「……それで、何か見返りは?」
「我々で出来る限りのおもてなしを、ご馳走を用意させていただきます」
「乗った!!」
「あたし達にできる事なら、なんでも!!」

 こうしてご馳走に釣られた二人は、ウィリアムの先導で双葉山を進む。月も出ていない夜は、彼が持つカブランタンのみが頼りだ。
「あと、どれぐらいになるますか?」
「もう少し……ほら、見えてきました」
 男が指差す先に、うっすらと大きな穴が見える。夜の闇とはまた違う闇を抱えたそれは、小さいながらも文字通り洞窟と言っていいだろう。
「あの中にカボチャのお化けがいる訳だ?」
「そうです。中は暗いですから、これをどうぞ」
 ウィリアムが、どこかに持っていたもう一つのランタンを春奈に渡す
「あれ、貴方は……」
「私がついていっても、足手まといにしかならないでしょうから。ささ、よろしくお願いします」
 ウィリアムが横へ退き、二人は促されるままに洞窟へと足を踏み入れる。
「本当に暗いですね……どれだけの広さなんだろう?」
「……!?」
 何かを察知したのか、アクリスが後ろを振り向くが、時既に遅し。

 ドドン……!!

「え? ちょ、何閉めてるんですか!?」
『怪物を倒してきたら開けてやるよー!!』
 洞窟の入り口が、大きな岩で塞がれている。アクリスが思いっきり押してみるも、ビクともしない
「あたし達だまして、生贄にするつもりですね!?」
『あー!? 聞こえんなー!! とにかく頑張ってくださーい!!』
「どっかで引っかかってるのかなー? ぜんぜん開かないよ」
「……前に進んでみるしか、無いね」

 その洞窟は、洞窟というよりも横穴と言ったほうが近いぐらい狭いものだった。二人が入ってきた入り口と、その奥にある少しだけ広い空間の他には何も無い。
「怪物がいそうな雰囲気なんて無いけど……」
 春奈がキョロキョロとあたりを伺うのを、アクリスが制した。
「……春奈ちゃん、下がってて」
 それと同時に、不気味な笑い声が洞窟に響き渡る。来たものをあざ笑うかのような不愉快な笑い。
『クケケケケケケ!!』
 闇の中から、不気味に光る二つの目と一つの口が現れた。その光がそれ自体の輪郭を照らす……数メートルはあろうかという、巨大なカボチャの頭。
「春奈ちゃんの異能、戦い向きじゃないんだっけ?」
「うん……でも、一人じゃ」
「モーマンタイ! ご飯が待ってるんだから負けられない!!」
 春奈を下がらせたアクリスが、何かを唱える。
「我、命ず《ジ・オーダ》……殲滅せよ《エクスターミネート》!!」



 カボチャの攻撃は、どうやら特殊な炎を使ったものらしい。周囲に浮かぶいくつもの炎が、アクリスに迫り、打撃を与える。後ろから見ている春奈が炎の方向を伝え、それを辛うじて回避し続けている。
 それだけなら良い。問題は、アクリスの攻撃がカボチャに効いていないことだ。アクリスの攻撃は肉弾戦に限られている。だが、何とか届いたその拳も、カボチャにダメージを与えた気配は無い。いくら頭が欠けても、構わず攻撃を仕掛け、笑い声を上げるだけだ。もしあのカボチャがエレメント種別のラルヴァならば、彼女達に勝つ術は無い。
 春奈が見たところ、アクリスは自身の戦闘能力を『暗示』で引き上げて戦っている。昔、英国へ留学していた時に受けた異能力系統の講義で『我、命ず《ジ・オーダ》』についての話も聞いたことがある。強力な精神操作魔術らしい……何が理由かは分からないが、彼女はそれを自分に使用し、限界以上の力を引き出している。そんな状態で長期戦を強いることは出来ない。
(何か、突破口を開かなきゃ……ん?)
 その時、春奈は気づいた。
 自分が持っているランタンの光、カボチャの怪物が持っている光、アクリスの周りを待っている炎の光、そしてその炎の動き……もしかして、という予感。負けてもそれほど損はない博打、春奈は当然のように、その予感に賭けた。
『アクリスさん、今から指示する方向を思いっきりぶん殴って!!』
「圧倒的にデストローイ!!」



「そろそろ仕上がった頃かなぁ……」
 ウィリアムは、洞窟の外で待機していた。洞窟を塞ぐ岩の上に座り、先ほどとは違った不適な表情を浮かべて。
「|人間の世界《こっちがわ》に来るの何年ぶりだ? まあいいか、人間を食うのも久々だ。あのデカい女のほうは肉付きが良いから、食える場所は沢山あるだろ。小さい女の方は食えるところは少ないだろうが、その分柔らかくて美味そうだ。ああ楽しみだ楽しみだ……ん? 誰だー?」
 洞窟の中から、男の声がする。中に居た仲間だろうか。
『終わったぞー、開けてくれー』
「おう、待ってろ」
 ウィリアムが飛び降り、岩を横にずらして道を空ける。横にずらすだけなら、それほどの力は必要ない。
「どうだー、ちゃんと食えるようなべはぁ!!」
 開けたとたん、彼は吹き飛ばされた。岩の隙間から、女性が二人出てくる。後ろから男が一人這ってくるが、そちらはもう虫の息だ。
「あー、やっぱり開放してる空間はいいよねー、閉所恐怖症になりそうだよ……」
「綺麗に飛んでったねー、蹴った手ごたえも良かったし」
 大きく伸びをする春奈に、自分で蹴り飛ばしたウィリアムの方を見やるアクリス。アクリスの方に、虫の息だった男が這いよってきた。
「……い、言われたとおりにしたぞ、頼むから助けてくれぇ……」
「お前は最後に殺すと約束シタナ?」
「そ、そうだ!! た、助け……」
「あれは嘘だ」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
 アクリスの蹴りで、洞窟に逆戻り。
「あれ、あいつはどうしたの?」
「離してヤッた。あ、戻ってくるよー」
「お、お前ら……なんで!?」
「まったく、ウィリアムと聞いた時点で疑うべきだったよ……」

 カボチャの怪物の正体は、恐ろしいぐらいあっけないものだった。
 カボチャ自体はハリボテの中に石炭を入れたものであり、何の意味も無い。問題は浮いていた炎であり……あれは、ウィリアムの仲間達が、ランタンを持って殴りかかっていただけだった。目がカボチャに行くせいで気づきにくかったが、よく考えれば『炎で打撃を与える』という事自体おかしいのだ。異常な状況のせいで、二人ともそこまで頭が回らなかった。
 カボチャの目の光と自分が持つランタン、そして周囲を飛ぶ火の玉が同じものだと気づいた春奈が、『迫り来る炎を目掛けて攻撃しろ』という指示を出したお陰で全員返り討ちにできた。アクリスの攻撃が勢い余って殲滅してしまう勢いだったので、最後の一人になった時に『もう敵はいない』と強く呼びかけることで(思い込みの激しい彼女だからこそだが)ストップ。最後の一人を使って脱出に成功した。

「審判の神様を騙して二回目の生を受けて、なお放蕩三昧の極悪人。そのせいで天国にも地獄にも行けなくなった哀れな男、ウィリアム……他の仲間達も、似たような人たちの集まりなのかな? それとも、分身とか?」
「あわ、わ、わ……」
「ねー春奈ちゃん、あのランタンの炎って誰から貰ったんだっけ?」
「ウィリアムを哀れに思った悪魔だよ。まあ、その悪魔も多分『人間にこれ見せたら面白いよなー』ぐらいに思ったんだろうね。あと、その光は人を危険な方向に誘導する、とも言うよ。それが狙いかも」
 春奈とアクリスが雑談をしてるのを、身体を震わせながらウィリアムが見ている。足はすくみ、逃げられそうにも無い。
「さーて、何か言い訳はあるかい哀れなウィル君?」
「わ、わ、わ……」
「とりあえず、食べ物の恨みは晴らさないといけませんね」
 アクリスが再び格闘の構えをとり、春奈がそこら辺に落ちていた木の棒を拾い上げたとき、ようやくウィリアムが口をきいた。
「私が町長です」



 その夜、星が一つ増えた。次の夜にはもう現れなかったが。



「酷い目に遭ったねー」
「そうですね……」
 まだまだ元気っぽい様子のアクリスに、ヘロヘロな様子の春奈が返事をする。既に光の誘導が無い山中を、どういう能力かは知らないがスイスイ降りていったアクリスに着いてきた結果だ。
「ご馳走もなんにも無いなんてひどいよねー、くたびれ損の骨折りもうけだよ」
「それ逆……あたしはこっちだから。明日、遅刻しちゃダメだよー」
「春奈ちゃんも、ダメですよー」
 アクリスと別れ、一人でとぼとぼと家路に着く。先ほどまでとは違いコンビにも開いてるし、街灯もついている。
「早く寝ないと大変だぁ……下手したらもう夜明け前だし……」




 次に春奈が見たのは、クリーム色をした、いつも見慣れている天井だった。
「ん、うゆ……あれ……?」
 頭を振りながら、身体を起こす。時計を見ると、いつも起きる時間の三分前だった。
「……夢、だったのかなぁ」
 なんとか起き上がり、玄関のほうへ向かう。特に靴はなんとも無く、山登りをしたようには見えない。気づいてみてみると、パジャマも特に土で汚れたりはしていない。
「……まあいっか、ご飯食べよう……」
 分からないことは、考えないほうがいい。そう割り切ることにして、昨日の晩御飯の残りを食べることにする。昨夜炊いたご飯と、カボチャの煮つけが残っているはずだ。キッチンへ行って、カボチャが食べられそうかを確認することにした。
「……こ、これは……!?」

 カボチャが入っていた筈の鍋にその痕跡は無く、大きなカブが一つ鎮座しているだけ。しかも生のまんまだ。
「……復讐、なのかなぁ……それとも、アレ? トリック・オア・トリート?」
 カブに面食らいながら、春奈は考えていた。
(朝ごはんのおかず、何にしよう……さすがに切ってもない生のカブは食べられないよ)


おわれ



ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。