【ゴブリンマーケットにようこそ】


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    • 『醒徒会主催新入生歓迎ハロウィンパーティーのお知らせ』そんなタイトルのメールが自分の携帯端末に送られてきたのは10月月末のハロウィンの数日前のことだった。
メールの内容も至ってシンプル。日時と集合場所そして参加する際の注意書き。ちなみに参加は個人の自由である。
そしてハロウィンの前日メールに記載された集合場所である双葉学園運動場、月は高く雲も無く漆黒の天蓋を彩るのは満天の星空の下には深夜には似つかわしくない大勢の人の姿があった。昼の雲一つ無い快晴からの放射冷却による冷え込みはとんでもなく寒い。 

「くしゅんっ!」

盛大にくしゃみして帽子の中のずれた耳の位置を直しながら、眠気覚ましも兼ねて冷え冷えした夜気を肺一杯に吸い込み体内で存分に温まったところで悴む両手に吐きつける。

(こんな事なら途中でホッカイロか温かい缶コーヒーでも買っておくんだった)

心中で零しつつぐるりと見渡せば多くの人、人、人。多くは学生でその中に混じって監督のためか大人の姿もちらほら見受けられる。
面白いのは彼等の表情だ。大半が自分と同じ寒さによる不満と若干の不安と期待を織り交ぜた表情を浮かべてる中で、飛びっきりわくわくする何かを待ち望んでいるような嬉々とした表情を刻む者達がいる。恐らく前者は自分と同じ異能を認められこの学園への門を叩いた新入生(外からの中途入学組みも含む)で後者は何度かこのイベントを体験した者達だろう。
 端末を開いて時刻を確認すれば時刻は深夜11時55分。もうほんの少しで日付を跨ごうがと言う頃、運動場に少女の溌剌とした声が響いた。

「新入生の諸君ようこそ双葉学園へ!我々醒徒会一同並びにこの町に生きる全ての住人は君達を歓迎する!」

 拡声器越しに響き渡る鈴の音のように可憐なしかしはっきりと芯の通った声。衆目の視線の先に佇むのは双葉学園醒徒会会長藤御門御鈴その人である。
頭にネコミミを生やし体には全身をすっぽり覆う黒マント、今夜の御鈴はネコミミmode。また、脇を固める醒徒会メンバー一同も各々趣向を凝らした仮装をしていた。魔女にミイラ男にフランケンシュタイン、ただ変身してるとは言え広報担当はこの寒空の下で見てるこちらが寒くなるような全裸だったが。

 「諸君も知っての通りこの学園はラルヴァを倒す異能者を育てるための学び舎だ。だが、諸君には今宵もう一つの学園の姿を知ってもらおうと思ってる」

 歳に似合わぬ、それでいて堂々様になった演説を披露した後、若き生徒会会長は威厳に満ちた真剣な顔つきから年相応の無邪気な少女の笑みへと表情を一変させてカウントダウンを開始する。

 「みんなーカウント行くぞー! 5ぉー!」

 カウントファイブ。まだ何も起きない。会長のカウントを音頭この場にいる人間全ても声を合わせて叫ぶ。これから起きるであろうことを知る者は楽しげに、知らぬ者はとりあえず何か面白そうだからノリで叫んどく。

 「4ぉーん!」

 カウントフォー。変化は唐突に訪れる。カウントから間も無く場に満ちる空気が一変した。それまでの冷たいの夜の空気からまるで小春日のような暖かなものへと。

 「3ぁーん!」

 カウントスリー。何処からとも無く風が吹き鼻をくすぐる。いつの間にかその香りは嗅ぎなれた潮の香りではなくなっていた。

 「2ぃーっ!」

 カウントツー。周囲の薄闇のあちこちから響く声が耳朶を打つ。行きかう人々の雑踏のリズムが己のすぐ側で陽気に刻まれる。

 「1ぃーっ!」

 カウントワン。運動場のあちらこちらでゆらゆらと揺らぐ蜃気楼が現れる。その中に浮かぶのは見たこともない異国の風景。しかし、そこを闊歩するのは人間ではなく普通ならフィクションかあるいは特殊なお祭りの会場でしかお目にかかれぬであろう姿をした異形の群れ。

 「Open sesame!」

 ファイナルカウント。喜びを押さえ切れないといった様子の気色に満ちた少女の声が終わりを告げたとき、何も無かったはずの双葉学園の運動場にその異界は顕現した。

 「何じゃこりゃぁぁあぁー!?」

誰かが往年の名スターばりの絶叫を上げた。 

(ちょおぉい! 俺ってば何時の間に兎の穴に飛び込んだんですかー!? 鏡っ鏡はどこだ!? 助けてホワイトラビット!)

もし声が出たならば自分も叫んでいただろう。目の前に広がる夢としか思えない光景に驚くあまり空いた口がふさがらない。まるで御伽噺の世界に潜り込んだような感覚に襲われる。
 運動場中に広がるのは活気に満ち溢れた市場だった。ただし店を構えるのも商品を購入する客も全てが真っ当な人の姿をしていなかった。角があった。牙があった。爪があった。翼があった。全身を毛に覆われている者がいた。全身を鱗に覆われている者がいた。腕が多い者がいた。脚が多い者がいた。名状しがたきものがいた。全く人の原形をとどめていないものさえいた。その全てが今日ラルヴァと呼ばれる者達である。

「紳士淑女の皆々様ぁ―…ってそれほど歳イッてる奴はあんまいないわね。改めまして人間の皆々様ぁ―この度はようこそゴブリンマーケットへ」

驚きに固まる人々の頭上で子猫ほどの大きさの愛らしい少女がにこやかに歓迎の言葉を紡ぎだす。光を纏い背に負う羽を羽ばたかせて宙に浮くその姿はピーターパンの登場人物の一人妖精ティンカーベルそっくりだ。

「これより始まりまするわ今宵一夜限りの夢幻、されど努々夢と思う無かれ。我等は幻実、我等は現想、今確かにこの時代この場所でこの同じ世界であなた方と共に生きている……え~~……」

詰った。どうやら続きのセリフをド忘れしたらしい。ティンカーベルは数秒の間あーだのうーだの呻いていたが、やがて思い出すことを諦めたのかガシガシといらだたしげに髪を掻き毟り、

「あぁもうめんどくさいヤメヤメェ! やいっよく来た人間ども! 今夜はハロウィンッ年に一度の夢と欲望のカーニバル! 食って食って食って悔いも遺さず食い倒れて飲んで飲んで飲んで呑まれて明日に向かってぶっ倒れろ! 笑って踊って楽しんで! どいつもこいつもわちきと一緒にフィーバーしようぜぇ!」

それまでダース単位で被っていたネコの皮をかなぐり捨てて吠える。それが合図だった。
 ドドドドン!
轟音をとどろかせながらドワーフが花火を打ち上げる。漆黒のキャンバスに大輪の花が咲き乱れ、魔女達の箒星が縦横無尽に絵筆を走らせる。それが、夢の時間の始まり。

「あははっ……」

気付けば自分も意識せぬうちに開いた口の端から笑い声の欠片が零れ落ちていた。体の奥底から湧き上がる衝動が手足を突き動かす。揺さぶられる心臓がドキドキと音を立て全身にワクワクを巡らせる。

「happy! Halloween!」

口々に魔法の呪文を口にして勢いよくコートと帽子を脱ぎ捨てる。人間は一人残らず姿を消し、今ここに現れたのは運動場を埋め尽くす一夜限りの百鬼夜行。そして自分もまたその一人。ピンと尖った犬の耳を勢いよく揺らして、怪物と現実と幻想の坩堝の中へと飛び込んでいった。


「さぁさぁさぁ! 受験生の坊ちゃん嬢ちゃん寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 受験勉強にこれ一本! 世界樹直送100%天然ミーミルの泉の湧き水だよー! 今なら何と学問の神、天神道真公の直筆サイン入りお守りもセットで販売中だー!」
 「ラ~リホ~♪ ザントマンの眠り砂はこっちホー。どんな頑固な不眠症もこれ一袋で解決ホー♪」
 「惚れ薬! ツンツンなあの子も即ヤンデレに! ヤンデレな彼女に愛されすぎて怖くて眠れなくなっちゃう惚れ薬! 今なら眠り砂とセットで割引サービス実施中!」

その眼前に広がるのは正に夢のような光景。何処を向いても目に映るのは自分が生まれて一度も見たことが無い摩訶不思議な品々とそれを求める人々の群れ。

「誰でも食べれば絶世の美男美女になれる黄金のリンゴはいかがっスかー! 今日の便で届いたギリシャ直送の最高級天然ものっスよー!」
「おぅそこの兄ちゃん! あんな趣味の悪い金ぴかリンゴより俺っちの育てた仙桃買いな! どんな水だろうと美味い酒に買えちまう優れものだぜぇ」
「はんっ! ンなこと言って今流行りのダンボールじゃないっスか? 何使ってるか分かったもんじゃないっス。男ならリンゴっスよリンゴ!」
「あぁん!? やんのかコラ! 魚介臭いコーカソイドがぁ!」
「上等っスよ! 大陸の猿に人並みの礼儀を教えてやるっス!」
「はいはいあんまり騒がしいんで神の裁きが通りますよー」
「うーわー見ろよ。今雷が落ちたぜ。比喩とかじゃなくて文字通りに」

だが、全身を叩きつけるような熱気と興奮がこれが夢幻の類ではないまごうことなき現実である事を告げている。
市場のあちらこちらで飛び交う威勢の良い商売文句に客の怒号に悲鳴、そしてに活気に満ちた人々の声。まるでサバトを思わせるどこもかしこも煮えくり返る混沌の釜のような賑わいぶり。あぁもうほんとに、

(楽しい! 楽しい!! 楽しい!!!) 

自分の中の興奮を抑えきれない。否、今日今宵この場所このお祭り騒ぎで、ちっぽけな理性に従いせっかくの衝動を抑えるなどという真似をすることこそ馬鹿らしい。
しゅんしゅんと音を立てる錬金釜。怪しげな色の薬液を煮詰める魔女の大鍋。軒先に吊るされた良い香りのする薬草の束。広場で銀の煙をたなびかせて楽器を爪弾く人形の楽師たち。その奏でるメロディの中で共に踊る怪物とそれに扮した人間の姿。そのどれ一つして洩らさぬよう記憶に焼き付けながら子供のようにはしゃいで市場中を練り歩く。

「もーふーもーふー♪」
 「にゃあぁっ!? お客さんボクは商品じゃないにゃー!? はーなーすーにゃー!」
 「王様が襲われてるにゃー! これは紛れも無い侵略行為にゃ! 誰か衛兵を連れてくるにゃー!」
「チッ調子に乗って蜂蜜酒(ミード)を飲ませすぎた! いい加減離れな! 今のあんたはMarch Hare(淫乱うさぎ)じゃなくてBoogie Cat(化け猫)だろーが!」

大きな通りに面したステーキハウスの前で、頭に猫耳をつけ常の怜悧な雰囲気など微塵も感じさせないほどに蕩けた逢州等華が真っ赤な顔で王冠を被った黒猫を抱きしめ、それを引き剥がそうと必死の山口・デリンジャー・慧海とコック帽を被った猫達がギャーギャーにゃーにゃー大騒ぎを繰り広げている。

「にーくーきーうー♪」 

わが世の春とばかりに幸せ一杯に更に力一杯抱きつくアイス、対する王様の全身からは何やらみしみしと鳴っちゃいけない音が聞こえ始めている。

「ぎにゃー!? せ、背骨が立てちゃいけない音を立ててるにゃー! いや肋骨ゥ」
 「Oh! これが昔パパの言ってたジャパニーズRIKISHIのサバオリ!?」
 「おねぇさんそのまま極めるにゃー! そうすれば次の王様はボクなのにゃー!」

どうやら獅子身中の虫が混じっているようだ。その様子に苦笑していると、ふと視界の隅に小さな人影が目に留まった。
人影の名は藤御門御鈴。双葉学園の小さな生徒会長殿が露天の店先でその整った面立ちをゆがめて悩んでいる様子で思わず気になって声をかける。

「会長? 何してるんですか?」
「ひゃぁっ! だ、誰だお主は? 知らない顔だが私に何か用事か?」
 「いや用事は無いですけどちょっと何してるのか気になって。会長はお買い物ですか?」
「うむ……いやこれはべ、別にこれは何でもないぞ! こんなもの無くても私は一人前のレディーなのだからな! 別にこんなものに頼らなくたって……」
 「お嬢ちゃん、トレント印の成長薬と豊胸薬どっちにするか早く決めちゃいなさいな。女が焦らすのはベッドの中の殿方相手だけで十分よん」

実にお年頃の少女らしい悩みだった。真っ赤になってうつむく会長をたっぷりとめでていると、店主と思しきリザードマンが今度はこちらに顔を向けた。
くすんだ翠の鱗と岩のような筋肉に覆われた楽に2m越えする巨躯を覆うフリルたっぷりのゴシックドレス、縦に裂けた瞳孔とその周囲を彩る紫のマスカラ、子供など一飲みに出来そうな裂けた口にひかれた乙女らしいピンクの口紅。そして止めにおねぇ口調。
その姿正にクリーチャ―。正直逃げ出したいが足がすくんで動けない。あぁこれが蛇に睨まれた蛙の気分なのか。いや目の前にいるのは蛇じゃなくて蜥蜴マンだけど。

「んー坊やも中々可愛い顔してるけど、私ってば鱗の生えてない男は恋愛対象として見れないの。ごめんなさいねぇ」
 「いやむしろありがたいです! いやっほーぅツルツル卵肌サイコ―! お父さんお母さん哺乳類に生んでくれてありがとー!」
 「んふふ人間もラルヴァも若い子ってば元気ねぇ。私もあと100年若ければ龍河さまと……」
ふと、それまでうなだれていた会長が己と同じ醒徒会メンバーの名が出たことが気になるのか顔をあげた。

「ん? 龍河がどうしたのだ?」
「あらヤダッ! お嬢ちゃんってあの方とお知り合いなの!? そうなのよぉあの方こそ私の憧れの王子さま☆ あの鋭い牙、鋼の如く鍛えられた筋肉とそれを覆う鱗、あぁっそのたくましい両腕で私を銀河の果てまで抱きしめて欲しい! キャッやだ言っちゃった。誰にもいえない私の乙女心♡」 

懐から大事そうに取り出した一枚の写真(恐らく写真に写ってるのは彼の想い人である龍河弾その人だろう)をその分厚い胸板に擦り付けてから、はふぅと物憂げな溜息をつく秘密も何も自分からベラベラ喋っといて恥ずかしそうにイヤイヤと乙女チックに身をくねらせる恋するオカマ蜥蜴。
それを聞かされたこっちの身にもなって欲しい。まるで耳と脳がサッカリン漬けになったようにダメージは甚大。とりあえず隣できょとんとした表情を浮かべる会長の愛くるしい姿を心のハードディスクに保存することでSAN値の回復を図らせてもらう。これ以上どうにかなる前にこの異界から一刻も早く立ち去らなくては……。

「ほーら会長、あっちでマンドレイクのくじ引きやってますよー。引っこ抜いて商品名が書かれた札が出ればアタリ、ハズレが朝鮮人参で、ある意味アタリなのがマンドレイクです」
 「人生をかけた勝負の景品がクラーケンのゲソ一年分では割に合わんのではないか? ってこら引っ張るな! 私はまだ薬を買ってないぞ! べ、別にこんなの全然欲しくないわけじゃないんだからな!」
 「それツンデレじゃないですバレバレです会長。大丈夫、会長は今のままでも十分に可愛いですから」
 「なっ!? こんなところで何を言ってる! 恥ずかしいではないか!」
 「はっはっは。さぁ向こうの広場でお兄さんと一緒に人形劇でも見ましょうねー」

我ながらこのセリフは怪しすぎだと思う。何だか誘拐犯にでもなった気分である。だがこれでいい。例え後でロリコンと罵られ風紀委員からお仕置きを受けようが双葉学園に集う者達の全てのアイドルを汚させるわけにはいかない。だから、

 「駄目よ駄目よ駄目よ! 龍河さまに会っちゃったら私ってば嬉しくってはしたなく卵産んじゃうッ!」

 そんな店主の愛の叫びを全力で聞こえないふりをしつつ、ドサクサ紛れに会長と手を繋いでからダッシュでその場を後にした。


店が見えなくなる場所まで走り抜けてから、休憩も兼ねて二人して仲良く広場のベンチに腰掛ける。姿勢正しく浅く腰掛ける彼女に対して、自分はだらしなく腰掛けて背もたれに体重をあずけて空を仰ぎ見ていた。
そろそろえんもたけなわ。気付けば夜の帳の漆黒は朝の黎明の紫へと色を変え、あれほど輝いてた月と星の明かりも薄れ、東から顔をのぞかせ始めた太陽に主役の座を譲り渡そうとしている。

「楽しかったか?」

 唐突に隣に腰掛ける会長がそう尋ねた。自分の耳に入りこむ期待と不安の入り混じった声音。それは答えを待ち望みながらそれを聞くことを恐れる矛盾を孕んだ響きで、

「疲れました。なんかとんでもなく疲れました……」
 「そ、そうか……」

言葉の端端から骨の髄まで溜まった疲労が滲み出る感想を聞いて、少女はがっくりと力なく肩を落としてうなだれた。

「お嬢ちゃん元気を出すホー? 甘くて幸せになれるキャンディをどうぞホ―。ソッチのお兄さんもtrick or treat?」
 「トリートで」
 「どうぞホー。アムリタ味だホー」

通りすがりのジャックランタンが空中からキャンディをばらまいて飛んでいく。口に含めば口一杯に広がる優しい甘みが昨日までの疲れを癒し、今日も元気に過ごそうとする活力が沸いてくる。ところでアムリタ味って食べたら不老不死になったりしないよな?

「でも、楽しかったです。疲れたけど本当に楽しかった。今夜の事もそうだけどこの学園に入学できて本当に良かった。きっとこれからもこんな大変だけど楽しい毎日が続くんだろうなってそう思いました」

そして、またこれも嘘偽り無い自分の本心。年に一度のハロウィンの人と怪物が交錯するこの奇跡の一夜で見つけた大切なもの。
その言葉に弾かれたように会長が顔を上げてこちらを振り向いた。見下ろす自分と見上げる少女の二つの視線と視線が絡み合う。少女の瞳の中に自分の姿が宿り自分の瞳の中に少女の姿が刻まれる。やがて泣き顔一歩手前だったその顔が、蕾が綻ぶように刻一刻と移り変わりやがて花咲くような笑顔へと変わっていく。

(駄目です会長。正直言ってその上目遣いは反則です)

正直に言おう。今夜一番ドキドキしてる。だってそん所そこらのアイドルが裸足で逃げ出す美少女が自分の隣に座っていて、あまつさえ頬を赤らめて涙目でこちらをみつめているのだ.。あぁもうこれなんてギャルゲ。マジでキスする5秒前である。

(駄目だ落ち着けさすがにそれは犯罪だつーか頭に血が上りすぎてくらくらするこのままじゃ鼻から情熱のあかいパトスが飛び出るってとりあえず頭冷やさないとちょっとどこかに頭ぶつけるのにちょうど良い柱ないか柱柱柱ァ!)

そんな自分の苦悩する青臭い少年の心など露とも気付かない会長はあっという間に広場へと躍り出ていた。
そして、本来相容れぬはずの人とラルヴァが共に笑顔で存在する今この時を、幸せそうにまるで宝物のように胸の奥に仕舞ってから、

「私はな、いつか世界中をこんな風にしたいのだ」 

双葉学園醒徒会会長藤御門御鈴はポツリと呟いたのだ。人とラルヴァが共に生きる道を探す事。それこそが双葉学園のもう一つの役目であり彼女の思い描く夢の姿。

「会長、でもそれって……」

とても甘い考えだと思うんです。続けようとした言葉は辛うじて飲み込んだ。
人類共通の敵ラルヴァ。それが現れてもなお同族との争いを止めぬ人類。同じ人間同士でさえいがみ合っているというのに、人と全く異なる存在であるラルヴァが共存する世界など生まれえるのだろうか? 答えは限りなく不可能である。それをこの聡明な少女が分からぬはずがない。
だがしかし、それでも尚、

 「諦めんよ」

少女は決意を込めてはっきりと宣言する。

「今この場所で私達はこうやって分かり合えている。夢でも幻でもなく人とラルヴァの新しい関係は今ここに確かに存在している。後はこれを世界中に広げれば良いだけだ。どうだ! 凄く簡単なことではないか!」

 こちらに向かって微笑みを浮かべてそう語る少女。その磨かれたアメジスト色の瞳に宿るのは金剛石にも負けない硬く眩い意思の光。
だから自分も一片の疑心もなく信じる。この少女が本気で世界をハッピーにするつもりだという事に。そして確信する。きっと彼女はそれを成し遂げるだろうということを。
だって彼女の周りには支えてくれる者たちがいる。助けてくれる人たちがいる。信頼できる仲間達がいる。そして自分も、彼女の助けになりたいとこんなにも強く望んでいるのだから。

 「だって……」
 「だって……?」

 最後に会長はキャンディーを加えて悪戯っぽくこう付け加えた。

「だって何時だって、乙女は甘いものが大好きなのだ♪」




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