【討状之威の日常】


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「ふぅ、やれやれ」

熱く燃え滾る灼熱の焔が渦巻く最中で、この惨状に似つかわしくない小奇麗なホストのような格好の男は気だるそうに呟く。

すると、

「終わった?」

にょきっ、と男の後方に建つビルの物陰から年若い小柄な少女が顔だけを出して質問を投げかけてくる。

「うん、終わった終わった。今回のは中々手強かったねぇ。僕にお鉢が回ってくる訳だよ」

「・・・うっわ、あのビーストラルヴァ、ドロドロに溶けてんじゃん。キモッ、最上にキモッ・・・やっぱりキモッ!」

人形のような可愛らしい顔に似合わず、口汚く罵る少女の視線の先にはラルヴァ―――近年、異能力者と共に増加の一途を辿る異形の化け物の、トラック程の大きさを持つ亡骸が一つ。

その体は彼方此方が融解し、黒い内臓や赤い目玉を飛び散らせ、元は血液だったらしき緑色の蒸気を上げながら横たわっている。

元来からして口の悪い少女ではなくても、嫌悪の言葉を吐きたくなる様な酷い光景だった。

そんな光景の中心に包まれながらも、

「あっついなぁココ。僕、肌はあんまり焼きたくないんだよねぇ・・・女の子に嫌われるし」

誰に向けたものでもない、暢気な愚痴を呟き続ける。その緩い態度は、戦闘が終わったからか、はたまた自身の力量から来る自信なのか。

「テメーが熾した炎だろーが・・・後処理するほうの身にもなれバカ之威!死ね!」

相変わらず暴言を言い続ける少女は、隠れていたビルから離れ、男の居る方向、更にその奥へと歩を進めていく。

更に勢いを増して燃え盛る炎へ近づく少女を、之威と呼ばれた男は止めようともしない。

「オシゴト頑張れ~僕の可愛い汀ちゃん」

火炎の眼前に立ち、手を翳す少女に向かって、男は何ら普段と変わらない軽薄そうなジョークで語りかける。

ちゃん付けな上個人所有物呼ばわりされ不快そうな顔をする少女、汀は盛大な溜め息を吐きながらも自らの手に意識を集中する。

翳された手から様々なパステルカラーの不思議なシャボン玉のような泡が一つ一つ、静かに放出されていく。ゆらりと揺蕩うシャボン玉に触れた炎の部分が、即座に勢いを失くす。

其処から侵食するように少しずつ拡がり、あれだけの燃焼を熾していた炎が次々と鎮火されていく。

放たれたシャボン玉が一定数に達し、「もう充分か」と集中を緩めた汀は先ほどから止まっていた会話を再開する。

「誰が僕の可愛い汀ちゃんだ下半身脳男。火より先にテメーの存在消すか?アァん?」

「あははははは、照れ屋さんだなぁ。ははははは」

「OK、テメェの命の篝火は今費えた。トイレ行って歯磨いて首と体を隈なく洗って待ってろ」

「戦場はベッドの上がいいな、ってね」

「・・・・・・・・・」

之威の阿呆な発言に終ぞ暴言を吐く気すら失せたのか、心底呆れた顔の汀はもう何も言おうとはしない。

之威もそれ以上は何も言わず、黙々と火消しを続ける汀をニヤニヤと見守っていた。










討状之威(うちじょう ゆきたか)。20年前、突如急発生した異能力者の子供達を集め、養成し教育している双葉学園の大学部に通う2年生。

そのチャラチャラした姿からは想像が結びつかないが、類稀なる戦闘力を有する超能力系異能『焼き討ち征する無間の炎熱(ブレイズイグナイト)』の持ち主。

彼は大型のビーストラルヴァ討伐を完遂、後始末を終えた今。機体上部のローターから回転の轟音を響かせる迎えのヘリコプターの機内でつまらなそうに座していた。

その隣には、その能力の相性から学園上部からの達ての命令で之威とコンビを組まされている中等部2年の漣汀(さざなみ みぎわ)が不機嫌そうに踏ん反り帰っている。

「暇だねぇ」

之威は思っていることをそのまま口に出す。

「之威死なないかなぁ」

汀も思っていることをそのまま口に出す。

「・・・むぅ、難しい年頃だなぁ。お父さん悲しいよ」

「誰がお父さんだ。テメェみたいなチ○コが頭の奇怪生物を父親に持った覚えはねぇ」

「まさか齢20にして反抗期の娘に嫌われるお父さんの気持ちを味わうことになるとは思わなんだ。まだまだ遊びたいのに」

「・・・煩い。どうせ学園まで時間が掛かるんだし寝てなよ。あたしは寝る。近づいたら殺す。触れたら超殺す。変なことしたら凄惨に殺す」

「えぇ~」

之威は異論の声を挙げるが、汀は聞こえていないのか聞く気がないのか、既にシートの上で器用に丸まって瞼を閉じている。

「・・・」

徐々にすやすやと寝息を立て始めたその寝顔は、常とは違う年相応の無垢な少女だった。之威は反射的に頭を撫でようと手を伸ばし、

「・・・殺す(ボソッ)」

「・・・」

そっと懐に戻した。

「ねぇ、操縦者君。なんか面白い話題無いかなぁ」

外はまだ夕方と夜の境目の時間である。夜型の之威に眠気が宿る筈もなく・・・暇を潰す宛を無くした彼は、今までどんなに騒いでも無反応だった操縦者へと話しかける。

その操縦者は中学生の汀よりも幼いように見受けられる少年という、本来なら有り得ない絵面が展開されていた。

(・・・輸送機械の操縦技術を向上させる類の能力者、かな)

免許などは双葉学園のものだろう。あの場所はその程度の無理は押し通す絶大な権力を有している。

実際フライトは複雑な操作を要する学園製マルチローター式の特殊な機体だというにも関わらず、何の問題も無く安定した確かなものだ。そこらの大人よりかは余程使える人材だろう。

「誠に申し訳有りません。業務中ですので」

その操縦者は、機械的な口調で返事を返す。

「・・・そうかい?」

操縦者の視界には入らない事も理解しつつ、残念そうな顔でやれやれといった手振りをする。

(さてと。やることも無し、寝るとするかねぇ・・・)

結局寝るという結論に達し、瞼を閉じて全体重をシートに押し付ける。

眠気は殆ど無かったものの、目から光を閉ざすと自然と微睡に落ちていく・・・

すっかり眠りに入った彼の隣に座っていた人間が蠢く。そして。

「ヒヒヒヒヒ・・・」










無事学園に辿り着き、眠りから目覚めた之威は、嫌な予感と共に即座に常用している手鏡で自分の顔を見る。

そこにはちょび髭を蓄え、頬に螺旋の丸模様、額にはデカデカと『肉』の字が書かれている。教科書落書きの定番フルコース。男前が台無しというかとても愉快な事になっていた。

「・・・ね、汀ちゃん」

「へ?な、何だよ」

口数が減り詰問するような雰囲気の之威に、汀は精一杯の知らない振りをするが、誰がどう見ても白々しい言い訳をする子供にしか映らない。

「ちょいと失礼」

そう言い放ち、汀の体を持ち上げた後、スカートの上から臀部をまさぐる。

「うわぁっ!?何をする離せ触るな変態不人気!投票数毎回1票野郎!あたしは見たぞ!お前自分で自分に投票しモガムグ!」

「はいはい少し黙ってようねぇ、っと」

胸板に押し付けて汀の口を塞ぎ、左手で持ち上げ、右手で臀部周辺を引き続き物色し続ける。

「証拠押収」

之威がスカートのポケットから取り出したのはマジックペン。やはり此処に有ったか、と之威は鼻で笑う。

「くっ・・・!」

犯行道具を抑えられた汀が悔しそうな顔をする。

と同時に。

「おい、君!何処の生徒だ!大学部か!?」

「その子を離せ!今ならまだ間に合う!」

「この性犯罪者が!そんな小さい子に手を出すなんて羨まゲフンゲフン絶対に許さないよ!」

そう叫び飛んできたのは、一人の教師と二人の風紀委員らしき生徒。

(あぁ・・・監視カメラか・・・)

この双葉学園において、監視カメラは重要な意味を担っている。能力という強力な力を未成年の子供が持つのだ、争い事も起こるし、ラルヴァが突如襲撃してくる事だって有る。

そういった理由から、公共スペースなどプライベートを犯さない範囲には至る所に監視カメラが設置されている。その映像情報は学園の平和を守り、悪を裁く為のものである。

無論。中学生女子の口を押さえ付け、尻をまさぐる不埒な大学生男子がいれば、教師や風紀委員が即座に飛んでくることだろう。

つまり。

「フッ・・・」

駆けつけた人々に保護され、之威から離された汀の顔が勝ち誇ったような表情を示す。

「・・・参ったな、こりゃ」

諦めの表情を作り、善意の人々に抵抗して傷つける訳にもいかず、両手を上げ黙って取り押さえられる之威。

汀の声が届く範囲外まで連行され行く。そこで、之威は見た。声は聞こえないが、唇の動きは緩慢。読唇術の心得が有る之威には容易く何を言わんとしているか分かるような動きで。

 ザ ・ マ ・ ァ ・ ミ ・ ロ

・・・之威の今日の夕食は、温かいカツ丼だった。










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