【オニ×モモ】


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 この俺、浦尾晃一には秘密がある。
 などといきなり言われても困惑するであろうが、まあ許して欲しい。
 懺悔とか遺書とか、まあそういった類のモノと思ってくれてかるく聞き流してくれれば幸いである。
 そしてこういうことを言うようになった心境の変化もまた、察してくれれば幸いである。

 気が緩んでいた――いや。
 油断していた。
 油断していたのだ。
 姉ならともかく、まさかこの俺が……と、悔やんでも遅い。

 さて、俺の秘密、いや、俺の一族の秘密をここにだけこっそりと明かそう。
 それは、鬼の血を引いている。ということだ。
 だが、だからといって伝奇小説や学園異能バトルの主人公のような力はない。
 俺自身は喧嘩に負けたことが無い――いや、世の中に俺より強いのは沢山いる事は当然弁えている――ぐらいの格闘センスや肉体能力を持っていると自負しているが、それは俺の幼い頃からのささやかな鍛錬や、近所の悪ガキどもとの修羅場によってえたものであり、俺の出自とは一切合財微塵も関係ないと断言できる。
 では、俺の、俺の一族の、鬼としての力は何なのか――
 至極、ささやかなものである。

 一言で言おう。

 豆に弱い。

 そう、弱いのだ。弱点だ。ウィークポイントだ。呪いレベルでの致命的な弱点なのだ。
 科学的に、あるいは常識的にあえて言葉を選ぶなら、遺伝的な極度の大豆アレルギーである。
 そこ、笑うんじゃねぇ。
 大変なんだよ、これが。
 普通の大豆どころか、味噌汁、豆腐、納豆、そんな大豆食品の全般が俺達にとってはどれひとつとして凶器になる。
 醤油だって大豆が原料だからアウト。だから俺の家では魚を原料とした魚醤を使ってるぐらいだ。
 さらに面白いことに、豆腐の角に頭をぶつけて死ぬことすら出来る。
 おわかりいただけただろうか。俺がどれだけ機を張っているかを。
 俺を不良と勘違いして敵視して喧嘩売ってくる連中に知れて見ろ。翌日から豆もって追いかけまわしてくるだろう。マジでやばい。


 そう、油断していたんだ。
 だが俺を責められる奴なんているはずもない。
 だって。
 豆腐が空飛んで頭にぶつかってくるなんて。
 予想できる奴なんて、いるわけねー。

 以上。
 俺の断末魔の走馬燈でした。
 場所は街角。アスファルトの上。
 俺はぶっ倒れていた。脳天に豆腐を叩きつけられて、真っ赤な血の花を地面に咲かせながら、俺は――気を失った。




 オニ×モモ




「もしかして、あなた……鬼?」

 いきなりバレた。
 場所は保健室。瀕死の重傷ではあったがなんとか一命を取り留めた俺は、目を覚ました直後、いきなり目の前の女の子にそういわれた。
 小柄の、桃色の髪をポニーテイルで結んだ、かわいらしい女の子だ。俺の趣味じゃないが。
 俺の趣味はあれだよ。背の高い女の子がいい。背が高くてかつ内気で清楚な子。我ながら変な趣味だよな。
 いやそれはどうでもいい。
 とりあえず俺は現実逃避をやめ、質問してみることにする。
「なんで」
「だって大豆でしょ豆腐って。それでダメージくらってるから鬼かなって」
 鋭すぎる。つーかありえねえその発想! いや事実だけど!
 落ち着け。さあごまかすんだ。
「その豆腐が絶対零度で凍結されてたかもしれないだろ。あるいは異能でとかさ。だいたい人の頭カチ割る豆腐なんて……」
「それないよー。だって私が買ったばかりの普通の絹ごしだったもん。つまづいてそれでこう、ぴゅ~っ、て」
「お前かよ!」
 この殺人未遂女が!
 マジで死ぬところだったぞてめぇ!
 ここが天下の双葉学園じゃなかったら確実に死んでたわ!
 豆腐の角に頭をぶつけて死ぬことすら出来る、とはたとえ話で言ったが本当にそれで殺されかけるなんて閻魔大王でも予想できねえよ!
「う……わ、わざとじゃないもん!」
「わざとで豆腐で人を殺そうとしたなら発想が恐すぎる!」
 不可能犯罪だ。氷の剣で人を殺せば凶器が解けて完全犯罪、とかそういうレベルじゃねぇ。
 怪奇! 豆腐で人を殺そうとする女!
 双葉学園の都市伝説にまた一ページ、怪人が記録された瞬間であった。

「それはともかく」
「ごまかしてない?」
「胡麻化す……? 人間が胡麻のラルヴァに変身する、そんな謎の胡麻が流通に」
「ごまかしてるよね」
「気のせいですコノヤロー。はははははあるわけないじゃん鬼なんてなにを根拠にそんな」
「豆腐の角に頭ぶつけて死に掛けたじゃない」
「大豆アレルギーなんです」
「アレルギーであんな物理的破壊力は起きないと思うな」
「投げたのはお前だ」
「わざとじゃないもん」
 手ごわい。
 いやなんか低レベルないい合いにも聞こえるが、それは断じて俺が低レベルなんじゃなくて……あれだ。頭打った後遺症だ。
 俺は不良扱いが嫌だから授業はまじめに受けてるし成績だって平均レベルはキープしてるし。
「だいたい、鬼って発想がおかしいっつーの」
「そうかな。だって私、桃太郎の子孫だもん」
「なるほど……………………は?」
 待て。
 今何言った?
 モモタロウ?
「今何か変なことが聞こえたような」
「だーかーらー」
 そんな女の子は、小さな胸を張って言う。
「私の名前は吉備津すもも。桃太郎こと吉備津彦命の子孫なんだって」
 ……。
 …………。
 はい?
「だーかーらー、桃太郎。桃太郎がいるなら鬼だっているでしょ!」
「……」
「それに君の名前」
「え?」
 俺の生徒手帳を持ってやがる。いつの間に。
「ウラオコウイチ。苗字の浦尾。これはかつてご先祖様がやっつけた、鬼の王様、温羅王と同じ!
 つまり君はどう考えても鬼なんだもん!」
「浦尾姓は全員鬼確定かよ!」
 謝れ! 全国の浦尾さんに謝れ!
 ていうか俺の家はそんな超由緒正しい家系じゃねぇ! ……はず。いや興味ないから調べてないだけだけどさ。
 そもそも鬼の王の血筋なら能力がこんなショボすぎる弱点だけのはずねぇだろ。
「ていうか桃太郎ならイヌサルキジだろ。お前が桃太郎の子孫ならそいつらの子孫とかいねぇのか」
 確か俺の記憶が正しければ、それぞれもまた人間としての名前や身分があったはずだ。モチーフなのか、それともそのものなのかは知らないけど。
 それを俺が言うと……
「いるもんここに! ほらイヌにサルにキジ!」
 かばんから、イヌサルキジのぬいぐるみを出して俺を睨みつけてくる。
 ……こいつもしかして友達いないのか。
「とにかくっ!」
 びしっ、と指をさして来る。
「それ、黙っててあげるから……あれだよ、私の家来になりなさいっ!」
 ……。
 はい?
「おい」
「な、なによ」
「家来って何だ」
「当然じゃない、昔桃太郎に鬼はこてんぱんにやっつけられて、もう悪いことはしませんって軍門に下ったの。
 だからあなたも私の家来でしょ!」
 わー。
 すげぇ飛躍してやがりますよこのちんちくりんは。
 ていうか自分の殺人未遂棚上げしてそれかよこのヤロウ。
「業務上過失致死未遂だもん!」
 どんな未遂だそれは。
 ていうか別に業務上過失致死だからって許されるってワケじゃねぇぞ。
 業務上必要な注意を怠り、よって人を死亡させるという立派な犯罪だ。
 むしろこの場合は業務上過失傷害罪だろう。
「あ、あなたが被害届けを出さなきゃ問題ないんだもんっ」
「傷害罪は親告罪じゃねぇ」
「じゃあ同意傷害で無罪っ!」
「同意してねぇよ!」
「これから同意すればいいんだもんっ!」
「しねぇよ!」
「家来でしょ!」
「家来になった覚えもなければ家来相手に何やっても犯罪にならないというその思想が恐ろしいよ!」
 どんな暴君だお前は。
「じゃあどうすればいいのよ!」
「まずは犯罪をもみ消そうという危険思想を改めろ!」
「そんなこと考えてないよ! 未成年だから犯罪じゃないもん!」
「もっと危険思想だ!」
 無敵の未成年様だぜ理論を今更持ってくることにも驚いたよ! 微妙に古いだろそれ!
 ていうか、埒が明かないし、これじゃあ。
 ……。
 俺はため息を大きくひとつつく。そして言う。
「……わかった。家来になればいいんだろう」
「え……? なってくれるの?」
「ああ」
「ホントに?」
「男に二言は無いよ。保健委員に通報してくれたのはお前なんだろ? なら一応、助けてもらったわけだし」
 そもそも元凶はコイツなのは変わりないが、まあ故意であるはずがないし。
「それに、バラされても困るしな。鬼はともかく、大豆に弱いってのはずっと隠しておきたい秘密だし」
 その俺の言葉に、すももは安心したようにため息をつく。
 目尻に涙さえ浮かべて、笑顔を浮かべる。
「よかったあ……これで駄目なら、服脱いで、襲われたって叫ぶぐらいしなきゃだめかなって思ってたし……」
「盛大に早まった!」
 しれっと言ってんじゃねぇよこの女!
 どっちが鬼だよ!


 そんなわけで。
 この俺、浦尾晃一は吉備津すももの家来になったのだった。
 まあいいさ。
 どうせ……数日の間だけだ。
 そう……その数日さえしのげばいいのだ。




「ただいま」
 俺は家へと帰る。
 本来なら、バレてしまったことは一大事だ。いや本来でなくても一大事なのだが……
 実は、すでにバレていたのだ。
 俺ではなく、姉さんが。三日ほど前に。
 後輩の女の子に、納豆チョコレートというモノを食べさせられて。
 流石の姉も、まさかチョコレートに納豆が混入されていたとは思わなかったようだ。そりゃ思わないよな、うん。
 街角で豆腐が飛んでくるとは思わないのと同じで。
「あ、お帰りー」
 そんな姉がぱたぱたとやってくる。
 エプロンをつけているところを見ると、今日の夕食当番は姉らしい。
「ただいま。荷造りとかの調子はどうだ?」
「順調。ていうかあんたも手伝いなさいっての」
「大学生と一緒にすんなって。こっちは昼間は学校があるんだ。ちゃんと後から手伝うよ」
「そう、ならいいけど」
 そう言って姉は台所に引っ込む。
 そう。
 すでに引越し準備は始まっているのだ。
 親父の仕事の転勤の手続きとか、引越し先とか色々と手続きがあるのであと数日はかかる。 
 そう、数日だ。
 その間、あの女の桃太郎ごっこに付き合い、なんとかしのげば……あとは新天地で平和な暮らし、ということだ。


 そして……
 俺の、地獄が始まった。








続く


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