【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~中編①】


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【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~中編】

 双葉学園食堂  双葉聚楽《ふたばじゅらく》

 双葉学園風紀委員長山口・デリンジャー・慧海と、風紀委員会代行に着任した幇緑林《パン ルーリン》、かつてのアメリカ海兵隊異能者スクールチーム"nintyniner's"の戦友は、学園食堂で二人差し向かい、昼食の時間を過ごしていた。

 テーブルは、学園内食堂"双葉聚楽"で、昼になると慧海のためにキープされる、食堂最奥の壁際にある四人席。
 西部開拓史時代のガンマンや禁酒法時代のギャングが好んだ、最も殺されにくく、殺す側には有利な席。

 幇緑林《パン ルーリン》の大学部一年への編入手続きは、慧海が煩雑な書類仕事を昼前で強引に終わらせた。
 幇が"代行"に就任した風紀委員会への顔見せは明日の放課後に行うこととなっている。
 何よりまず、慧海と幇緑林、決して離れることはできない二人が離れていた時間を埋めるほうが優先だった。

 慧海は学園入学以前からずっと変わらない昼飯、ウェンディーズの定番メニューにもなっている、豆のたっぷり入った真っ赤なメキシカン・チリをうまそうに頬張っていた。
 食堂備え付けの食器を無視して使ってる私物の銀スプーンを振り回しながら、向いの席で白褐色の粥を啜るチャイナ服姿の美麗な女性、幇緑林に向かって話しかける。

 この銀のスプーンは数年前に幇から貰ったバースディプレゼントで、銀は砒素に触れると白く曇ることから、毒見用の食器として愛用されてきた。

「で、さ~、ルー、あたしがこの学園の風紀委員長になった時の話を聞かせてやろうか? アイスっていう学園一の乱暴女がさぁ、あたしのブーツを舐めながら『おねがいします慧海様』って頼むからよ~」

 幇緑林は、聞いているような聞いてないような顔をしていたが、大ぶりの中華椀一杯の鶏粥を蓮華で啜ってから、全く表情を変えないまま一言だけの返答をした。
「好《ハオ》」
 学生や職員、あるいは出入りの業者や関係者が昼食を摂る学園食堂は学園敷地内にいくつかあり、慧海が主に昼食を摂っているのは、双葉学園の中心近くにある最も高い校舎、第一総合棟にある食堂だった。
 購買部や事務課、その他諸々の学園実務部署が無秩序に詰め込まれて雑居ビル状態となった、無駄に大きく高い校舎の最上階にある展望レストラン「双葉聚楽」

 あのマリリンモンローのそっくりさんの「じゅらくよ~」ってCMでお馴染みの、和食洋食中華何でも出てくる上野の老舗レストランから、名前と屋号を頂いた食堂。
 有名な上野聚楽は二〇〇八年に惜しまれつつ閉店したが、子供の頃に上野のデパートに買い物に連れて行ってもらって、帰りに聚楽でカレーを食べるのが何より楽しみだった双葉学園上層部の某氏が、上野聚楽の設備を移築してスタッフを引き抜き、誰しも子供の頃、お出かけの時の楽しみだった、デパート上階にあるレストラン本来の姿を双葉島に蘇らせた。

 双葉学園にいくつかある食堂の多くは「学生向けに安くてボリュームがあってうまい」を売りにしているが、学府にして研究施設、そしてラルヴァとの攻防における城でもある巨大な学園はそれだけではない。
 外部の異能関係者を招くことの多い双葉学園には、学生や職員にとって敷居の高い、それなりの対価が求められる食堂にも当然の需要がある。
 ある人にとっては週に一度、別の人にとっては月イチの給料日後、あるいは一年二回のボーナス、またある人にとっては学生生活で一度きりの贅沢を楽しむ場所、無論、一度も足を踏み入れぬまま卒業する人間も多い。
 数十年の時が経過してもなお、その人の記憶に、ちょっと無理して背伸びして、緊張して過ごした「レストランでの食事」として一生の記憶に残る場。
 子供の頃は親に連れられ、自分で金を稼ぐようになってからは給料を工面して、そして誰かを連れて行く時が来たら、会食での食事作法を教える側になる。
 レストランとは、そういう場所だった。

 開店から十年、上野聚楽から引き抜いたオープン当時のスタッフはもう残っていないが、多国籍料理レストラン聚楽の「和食は京都の銘店に準じ、フランス料理はミシュラン・ブック級、中華は宮廷料理並み」という少々ビッグマウスな精神は受け継がれ、今でも和洋中問わず本格的な料理が味わえる。

 全寮制で三食補助金付きという宣伝文句の双葉学園、通常、高等部から上の生徒や職員には毎月、家賃や生活費を賄う給与や学生補助金とは別に、一か月分の双葉学園学食購買部限定交換券、通称"学食マネー"が支給される。
 職員や高等部、大学部の生徒は毎月、ICカード式の食券に一か月の学食購買部限定交換券をチャージするか、毎回千切って使う紙のチケットを一冊貰うかを選べる。
 それをやりくりしながら三度の食事や間食、寮での一人暮らしに必要な生活必需品、あるいは中堅のデパートくらいの規模と品揃えの購買部では、本土や島内商業エリアの店より安く買える服やDVD他、各々の趣味の物を購入する。
 浪費が過ぎて月末に学食マネーを使い切った生徒は、学園から毎月支給される補助金や実家からの仕送り等の自前の現金で補ったりする。
 それでも足りなくなった時には、学生課が斡旋するバイトで学食マネーを稼ぐ、内容は対ラルヴァの治安出動から封筒貼りまでピンキリ。
 ひとつの区となっている双葉島、当然学園の外にもバイトの口はある、学食マネーを稼ぐ時には学園内バイト、現金収入が欲しい時には学外のバイトという具合に棲み分けられているが、その境目は曖昧なもの。
 生活のためとはいえ、欲しいものがあると抑えの効かない学生連中、一文無しになった生徒に借金や餓死をさせるわけにはいかないので、無料で食事を供する救世軍の炊き出しもある、食糧庁流れの古々米を使った握り飯や、合成出汁と粉末味噌の汁に豚肉ではなくラードの入った豚汁は、慣れない奴は吐き出すほど不味くて臭い。
 独自のシステムは学園の生徒間に仕送りの額やバイトのスキルで自ずと食事や生活の格差が生じる、異能に係る者を育成する双葉学園、卒業してすぐに独立営業的な仕事を始めなくてはいけない人間も多い、自己責任の範疇でのやりくりもまた教育のひとつ。
 東大の駒場キャンパスにあるフランス料理学食と同じく、然るべき場でのマナーを習得する教育目的もあるという名目で、第一総合校舎の最上階を占める高級レストラン双葉聚楽、そこでの食事には、大衆食堂的な学食の定食三十食分に相当する学食マネーが必要だと言われる、他にも席料や飲み物、サービスフィーを含めると、食券にチャージされた半月分の食費が一食で消える。
 一般的な懐具合の生徒や職員にとっては、金額的にも立地条件的にも高嶺の花である双葉聚楽、そこでの食事が日課となっている人間も、少数ながら居た。
 一般の学校に挫折した良家子息の投げ込み寺と呼ばれる双葉学園、富裕な保護者の多くは我が子に充分な仕送りを与えると共に、在学中の食事をヘルシーで安全な料理が食べられる双葉聚楽に一任していて、令嬢や令息達はそれを守ったり守らなかったりしていた。
 ここでもまた、食事も躾のうちというクソ理屈が振りかざされる。
 そして、彼らとはいささか毛色の違うお得意様、それが学園の執行部課に所属する生徒や職員、ラルヴァや異能者と戦い、命をマトにして相応の代償を得る奴ら。
 戦時下の国では、高級レストランの上席を十代かそこらの連中が占めている様を時々目にする、彼らは軍の前線部隊に属する若者達。
 明日をも知れぬ兵士達は、レストランがいかに満席であろうと、自分達の人数には過分な席と料理を注文し、戦いの合間の短い刻を美食で過ごす。
 彼らの間に不規則にある、誰も座っていない席と、そこに置かれたグラスは、先に逝った仲間のもの、彼らはまず、その席のグラスに酒を満たす。
 それは決して空席ではない。

 慧海は入学以来、昼食の時間は生徒課長に紹介された学園内レストラン聚楽で過ごしていた、この双葉島で美味いチリを出すのはこの店だけ。
 慧海は風紀委員長の報酬として、朝昼晩の三食を聚楽で済ませても余るほどの学食マネーを貰っていた、学園の上層部やそれ以外の異能関係機関から内々に依頼される"仕事"で、シティバンクの別名義口座に振り込まれる現金も多い。
 朝と夜の食事は、米軍の将校住宅を勝手に建てた慧海専用寮にあるキッチンで自炊しているが、昼食は校舎や風紀委員棟に近い聚楽で済ませる。
 今日は編入生、幇緑林の双葉学園での第一日、中華料理以外の食事を文明人の食物として認めていない幇のために、慧海が案内したのは勝手知った双葉聚楽、慧海はチリビーンズ以外の物を食べたことはないが、いくつかある中華のメニューは本格的なものだった。
 幇が鶏粥を注文すると、鶏丸々一羽からダシを取った粥には、当たり前のように白胡麻油で揚げた麺包《パン》、油条《ユチャオ》が添えられていた。
 他にも八宝菜《チャプスイ》や魯肉飯《ルウロウファン》、冷麺《ネンミョン》、料理傾向は北京から広州、四川、香港とバラバラだが、どれも安全性を厳重に確かめた国産食材と海外空輸食材を本格的な手順で料理した物。
 そして数種の中華料理に共通してるのは、連食すれば体を壊す、油っこいよそいきの高級料理でなく、一般市民が常食している範囲でのささやかな贅沢に分類される生活料理だということ。

 双葉聚楽の厨房にある、何の変哲もない業務用冷蔵庫、和洋中華のあらゆる食材が出てくる冷蔵庫は、異次元と繋がった異能の冷蔵庫だと言われているが、聚楽の厨房で皿洗いでもすれば、その日の内に異能冷蔵庫の正体を目の当たりにすることができる、冷蔵庫のどこを探しても、不可思議なものなど何もないことを。
 幾年の熟練を重ねた料理人の仕入れの妙、そして各々の料理人固有の財産である食材の入手先、それらはお手軽便利な異能では決して得られない料理人の魔法、どんな食材をも仕入れられる異能があったとして、食材の旬やその日の気候、客の雰囲気、それら無数の情報を総合して、どんな食材を仕入れるべきかを判断する料理人の能力の足元にすら及ばない。
 この双葉聚楽は、異能よりはるかに貴いものによって運営されている。

 横浜中華街の店で仕込んで高速船で直送された、本日の日替わり中華メニュー、あまり日本で馴染みの無い中華粥は、大量の食べ残しが出ることが予測されたが、反して粥を煮込んだ寸胴は昼休み開始後十五分で空っぽになった。
 黒いシルクのチャイナ服が目立つ美貌の新入生、幇緑林の、宋代の壷を思わせる曲線を描く51センチのウェストと、チャイナとロシアが複雑に入り組んだ大陸北部人特有の、東洋人の肌目細かさと西洋人の白さが融合した景徳鎮の青磁のような肌、そんな彼女が啜る粥を見た女子生徒や女性職員達は、低カロリー高タンパクでコラーゲン豊富な鶏粥を競うように注文した。
 聚楽で贅沢な食事時間を過ごしていた男子生徒や職員が、出来ることならこの編入生に校内の案内と昼食への同席を願いるべく、勇を奮って幇緑林に話しかけようとしたが、既に幇の向いの席は、風紀委員会の人喰いゴリラ、山口・デリンジャー・慧海が占領している。
 聚楽に咲いた可憐な花、幇緑林の芳香に引き寄せられた蜜蜂達は、どうやら命が惜しかったらしく、幇を遠巻きに見つめるだけだった。

 チリを早々に平らげた慧海は、やはり昼食には必ず添えるハワイアン・コナの薄いブラックコーヒーを飲み干してから、話を続ける。
 学園の生徒が昼食中にここまで騒がしい慧海を見るのは初めてだった。
 慧海は数ヶ月前、生徒課長のスカウトで双葉学園に編入して以来、食事はいつもこの聚楽で一人だった。
 ランチタイムは授業への出席率も悪く、基本的にどこに居るのかわからないことのほうが多い慧海を捕まえられる貴重な時間、部下である風紀委員が報告書か願箋を届けにきたり、決済や許可を求めるべく慧海の席を訪れることがあったが、食事の邪魔をされるの嫌う慧海は、用が終わるとさっさと自分の席まで戻らせる。
 慧海は食事を終え、食後のコーヒーを飲み終わっても幇とお喋りを続けている、チリを食い終わると早々に席を立つ慧海には珍しい事。

「で、よ~、この学園にも醒徒会っつって、あたしらの三銃士《マスケッター》を真似た連中が居るんだけどよ、その会長だっつーチビがまたどーしようもねぇ奴で、何をするにも慧海様どうしましょう、慧海様よろしいでしょうか、って、ウザくてたまんねぇや」

 醒徒会長の藤神門御鈴は、古式ゆかしい躾が行き届き、年功序列には忠実ながら、ふたつ年上の慧海だけは例外で、初対面からデンジャーと呼び捨てていたが、最近はバカデンジャーとかゴリラ女とか電撃ネットワークのハゲとか、バラエティに富んだ呼び名をつけている。

「慧海、飲茶《ヤムチャイ》」

 鶏粥を啜る幇は話の内容に何一つ反応しない、ジャスミンの花がひと房浮かんだお茶を、急須から銀の有耳蓋杯《マグカップ》に注ぎ、慧海が海兵隊時代から愛用している、傷とへこみだらけの錫《ティン》カップにも、ジャスミン茶を満たして押しやった、幇がお茶を出す意味はわかっている。

~「続きを聞かせろ」~

 慧海は幇の求めに応じ、自分の実力と人間的魅力を醒徒会の面々が崇拝するようになるまでの嘘八百物語を、幇に語って聞かせた。
 慧海と御鈴、人前でも平気でケンカをおっ始めるチビっ子二人のことは学園生徒の間でも知れ渡っていて、食堂に居た生徒や職員は揃って「ねーよ!」と心の中でつっこんだ。

 二人はご機嫌のようだった。
 そして聚楽の窓際に、不機嫌の雲が垂れこめ始めたテーブルがひとつ。
 学園内レストラン聚楽の最奥、慧海と幇のテーブルとはいくつか隔てた窓際のテーブルで、騒がしい席を横目に見ているのは、慧海と同じく風紀委員長の逢洲等華、向いでは見習い風紀委員の神楽二礼が、聚楽シェフ謹製の海南鶏飯《ハイナンジーファン》を食べている。
 逢洲も風紀委員という立場上、昼食時間は聚楽で過ごすことも多い、贅沢をしたい気持ちではなく、風紀委員長にとっては昼食時間も仕事の内、書類に目を通したり、風紀委員のミーティングでは話せない内容の打ち合わせをしたりする、ゆえに逢洲は密談に好都合な上、高い第一総合棟の最上階にあって、学園の有事には即座に目視確認が出来るレストラン聚楽で、和食膳の昼食を摂りながら多忙な昼休みを過ごす。
 今日も神楽二礼と、風紀委員に課す接近戦のトレーニングメニューと学園祭で披露する剣術演舞について話し合うために、聚楽の窓際席を予約した。
 ゆっくりと昼食を楽しめる憩いの時間は、いつかこの学園に平穏と安寧が訪れてからでいい。
 建前はともかく。
 本当の理由は、昼になると聚楽の隅で思いっきり憩いの時間を過ごしているもう一人の風紀委員長、逢洲の可愛い仔猫ちゃん。
 向かいの席に座り、鶏肉とチキンスープで炊き上げた米を凄いスピードで食いながら、それに負けない勢いで喋る神楽二礼の話も上の空な逢洲は、さっきから聴覚を総動員して、慧海の話と、逢洲にはあまり理解できない幇緑林の漢語を漏らさず盗み聞いている。
 逢洲は学園と醒徒会に対して不遜無礼極まりない慧海と幇の話の内容より、今までいつも一人で昼食を食べている慧海を何度一緒に食べないかと誘っても「2メートル以内に誰か居ると安心して飯が食えない、反射的に撃っちゃうから」と一度も同席を許してくれなかったのに、あのパンとかいうノッポの編入生とは、仲良くランチを楽しんでるのが気に入らなかった。
 細身の体に80センチのバスト、Bカップに少し欠ける幇の胸は、逢洲を嫉妬させるほどのものではなかったが、彼女が編入した大学部でも一応、式礼やオリエンテーリングの時には着用を義務づけられている大学制服を無視して着ている、黒いチャイナ服では余計に際立つ、あの細腰は憎らしい。
 逢洲の感情を逆撫でするように、聚楽の隅から慧海の無駄によく通る声が聞こえる、甲高くデカい声は、銃声入り混じる戦場に長く居た人間の生活習慣病であり、誇りでもある。

「そうだ!ルー、こないだウチにレンガ組んでよ、ロースト・グリル作ったんだよ、海兵隊《マリーン》の時みてぇにまた一緒にバーベキューやんねぇか?」

 幇はあっさりしていながら深い味のスープで煮込まれた鶏粥に千切った油条《ユチャオ》を浸し、柔らかな食感とサクサクの歯ごたえの両方を味わってから、一言。

「是《シ》」

「よし決まり!肉とかはあたしが撃ってくるから、ルーはあのうまいビールを持ってきてくれ、二人だから2ケースで足りるな?」

 双葉学園島の南岸には時々、料亭やジビエでは高級食材である千葉県産のマガモが飛来し、それはしばしば鉛弾をブチこまれて慧海の夕食となっている。

「青島啤酒《チンタオピージュウ》 好《ハオ》」

 幇緑林はどこかに滞在する時、真っ先にあの翡翠色の瓶に入ったラガー・ビールの入手ルートを確保することを慧海は知っていた。
 青島ビールは二〇〇九年春にキリンビールによる日本への正規輸入が停止されたが、慧海は幇の双葉島での仮住まいとして学園が用意した家賃55万円の4LDKマンション、その地下駐車場に、上海近辺でしか走ってないはずの青島啤酒有限公司専用輸送車が入っていったのを先ほど確認していた。
 幇は以前、慧海と一緒にネパールのグルカ人異能傭兵訓練学校《ククリ》に研修滞在していた時も、青島《チンタオ》ビールをトラックごと買っている。

 逢洲は、自分の昼食である日替わり和風膳定食そっちのけで、テーブルをガリガリしながら悔しがっている、同席していた神楽二礼はてっきり、風紀委員二人が公然と飲酒の話をしてることに腹を立ててるのかと思った。

「く…くぅぅ…二人っきりでバーベキューだとぉ?…『はい、あ~ん』とか『ほらソースがついてるぞ』とか…するのか?……まさか…その後は『デザートは、わ・た・し・よ♪』とか…くぅぅ~…よくもよくも…わたしの慧海を…わたしだけの慧海を…」

 めったなことではビビらない神楽二礼が恐れを成すほどの形相をしていた逢洲は、幇と仲良く食堂を出る慧海に「そーだアイスと巫女ちん、ウチでバーベキューやるけど来るか?」と言われ、「ふ…ふん!貴様らが羽目を外さぬようにわたしが監視監督してやろう」と答える。
 逢洲がその時見せた、喜色満面の笑みを何とか隠そうとしながら、それでもニヤニヤが漏れ出てしまう表情は神楽二礼曰く、その健気さに惚れてしまいそうだったとか。

 その夜のバーベキュー計画は、逢洲が上から下から中身まで勝負服で決め、海辺に建つ白い木造の一軒家、慧海の専用寮へのはじめての訪問を前に、手土産は水菓子がいいかな、花束だとちょっとキザかな、と考えてウキウキ気分の最中に起きた、突然のラルヴァ襲撃でお流れとなった。
 彼女がいざ鎌倉という時に備えて実家から持ってきた武士《もののふ》の晴れ姿、紋付の裃《かみしも》に長袴というお奉行様みたいな正装はあと少しの間、桐箱の中に仕舞われることとなる。

 何か逢洲の扱いが酷いようにも見えるが、このシリーズで慧海が攻略するメインヒロインはあくまでも逢洲等華、だから共通ルートではこれくらいでいい。
 共通でデレてるヒロインの多くが、個別ルートに入った途端どうなるかはご存知かと思う。
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