【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~中編②】


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【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~中編②】




 色んな人々の様々な思惑や都合を無視し、空気を読まず双葉学園にやってきたラルヴァの一群。

 無数の赤いブロックで構成された、昔のオモチャ屋にあった地球独楽のような体、生物よりも無機質に近い外見の移動物が、学園島の周囲に飛来した。
 要するにグレンラガンのカミナシティ編、あれに出てきてグラパールとかと戦った、CG作画のクルクル回る赤い奴、あれがそのまんま現れた。
 敵キャラ描写のネタに困った監督かキャラデザは、目の前を何かの用で通り過ぎたラルヴァをまんま書き写して自作に頂戴したのかもしれない。
 徹夜三日目で原稿用紙の上に踊る妖精の姿を描いた企画が通ってしまい、そこそこ売れたという経験を持つクリエイターは多い。
 ゆえに、それをラルヴァの盗用とするには当たらない、多少のことは偶然の一致で曖昧に済ます、持ちつ持たれつの世界だから。
 あなたがたの中にパクリやインスパイヤ、あるいは他作からの設定拝借に一切手を染めたことが無いと誓える者が居るならば、この者に石を投げよ。
 諸般の事情でスパイラル・ラルヴァと呼称されることとなった、それらのラルヴァからの侵略にガンメン、もとい異能者達が立ち向かった。
 多数のアンチスパイラル…打ち間違えた、スパイラルラルヴァは三宅島にある双葉学園出先機関の観測所で発生が確認され、双葉学園に通報された。
 スパイラル・ラルヴァはそのまま海面を飛行して北上し、対ラルヴァの結界に護られた東京湾の双葉学園に接近してくる。

 学園島の周囲を覆い、ラルヴァの襲撃から双葉区民を護る結界は、結界異能者によって築造される段階で、それ自体にラルヴァを吸引する特性を付与されている。
 東京湾の双葉学園が管轄する関東圏に出現したラルヴァを、対ラルヴァの設備や人材の整った双葉学園に誘導し、都心部への被害を防ぐ結界と人工島は、ちょうどゴキブリホイホイのような構造になっていた、結界という誘引剤でおびきよせて、異能者というネバネバで捕える。
 双葉島内の矯正施設に収監中の某ラルヴァ曰く「忙しくても急いでても、その場所を通りがかるとついフラっと寄ってしまう店ってあるでしょ?何か買おうってわけでもないのに、店主に何かいい出物はないかって聞いてみたり、この島にはそういう店のオーラが漂ってるんですよ」との事。
 学園防御結界には、その周囲や内部で行われているラルヴァと異能者の戦闘を、本土や航行中の船舶から視覚的に隠す効果もある。
 真面目に学業や仕事に勤しみ、日本を動かしてる一般の人たちに、血税を使ってラルヴァとの戦いなんぞにかまけてるふざけた連中の見苦しい姿は見せられない。
 ゴキブリホイホイだって、中でもがくゴキブリを見せないように、ネバネバを覆う紙箱がある。

 スパイラル・ラルヴァは学園島の周囲に集結し、島をを守る結界に何度か衝突した後、学園島北東の結界壁に数体が集結し、結界壁を掘削し始めた。
 学園は通例通り、日本語及び飛行体への無線連絡言語として国際的に定められている航空英語でラルヴァに対して誰何警告《すいかけいこく》を行ったが、自立的に動いてはいるが生命体には見えない独楽《こま》の化物は、回転機関の作動音しか発しない。
 ラルヴァに関してはある程度、独自の判断による行動が許可されている、要するに政府からは勝手にラルヴァとドンパチやっとくれと放ったらかされてる双葉学園は、国籍不明機に対してスクランブルした自衛隊と同じく、三度の誰何警告を繰り返しても無反応のスパイラル・ラルヴァの行動を侵犯行為と判断し、異能者による撃退を決定した。
 上層部の仕事や決断が早いのは双葉学園のいいところ、政府や軍隊と違って学級会レベルの簡単な話し合いで決められている。

 回転するスパイラル・ラルヴァは、強烈な橙色の閃光を放ちながら結界を攻撃していた。
一見、レーザー兵器のようにも見えるが、このラルヴァは科学技術の飛躍的進化は無いという設定には妙に律儀で、手で折ると光る高輝度サイリュウム"ウルトラオレンジ"に似た、発光する礫を投げていた。
 悪天候下でヘリの着陸を誘導したり、災害時に避難経路を照らすために開発されたが、主にライブ会場で振ってオタ芸をするほうで馴染み深い、今までのサイリュウム・ライトスティックとは段違いの光量を持つ、隣で折られると凄ぇ眩しいオレンジのスティック。
 レーザーに見えるがレーザーじゃないよ。

 醒徒会が生徒と島民の室内避難警報を発令し、逢洲が風紀委員に緊急呼集をかける中、有事の際、学園の防御を管轄する風紀委員会のツートップ委員長、山口・デリンジャー・慧海と、本日から委員長代行となった幇緑林は指揮系統から離脱し、独自の行動を開始した。
 つまり、またしてもデンジャーは連絡先不明となった。
 こういうことはしょっちゅうあって、そういった時に備えての、生徒課長の都治倉喜久子《つじくらきくこ じゅうななさい》と風紀委員長逢洲等華を中心とした有事対応の指揮系統は整えられていた。

 慧海のスカートのポケットに突っ込まれた、補聴器ほどの大きさの骨伝導カナル無線機がさっきから振動している。
 生徒課の通信担当者は何度も交信を試みているが、通信機の留守番電話機能が発する慧海の「ハーイ♪慧海よ、メッセージは30秒以内にお願いね、もし時間オーバーしたら、逆探知してテメーの口に弾丸を叩っこむ…ピー…」というアナウンスが聞こえるだけ。

 慧海が空母エンタープライズで貰い、逢洲にプレゼントした骨伝導カナルの通話ユニットは、実際に風紀委員として出動した現場で使ってみると、通信容量に応じてNTTに口銭を払わされる電子生徒手帳の携帯電話機能より低コストで使い勝手がよいことがわかったので、生徒課長の都治倉喜久子によって予算が組まれ、秋葉原のラジオデパートで全風紀委員に行き渡るだけのカナル無線機が調達されることとなった。
 以来、小指の第一関節から先くらいの大きさの、耳にひっかける通話ユニットは風紀委員や醒徒会委員の必携装備となっている。


 商業地区のためか生徒や島民の避難が早々に完了し、人っ子ひとり居なくなった双葉島の幹線道路。
 その中心を一騎の馬が歩みを進めていた。
 両脇には二人の少女。

 山口・デリンジャー・慧海はは右手で首のチェーンストラップから、銀色の小型拳銃を外した。
 幇緑林は左手で腰の後ろから、砲鉄色の大型拳銃を抜き出した。
 二人は拳銃を持っていない側の手を、お互いに手を繋ぎ合おうとするかのように差し出した、指先が触れ合った2つの手が山吹色の光を放つ。
 慧海は掌に現れた41口径弾を二発、機関部を中折れさせたデリンジャーの薬室にカチカチと落とし込んだ。
 幇は30口径弾が十発繋がったクリップを右手に二本生えた親指で挟み、排莢口から弾倉にチャララッと押し入れる。
 二つの銃が同時に閉鎖される金属音が、静まり返ったメインストリートに響いた。
 慧海と幇緑林が何度となく聞いた、殺生の宴が始まる音、いつもこの音は、嫌悪と高揚が入り混じった感情を呼び起こす。
 ジャキン!という音に同調するように馬《スティード》ラルヴァの紅髭《ホンホー》が、蹄鉄をつけていない蹄を鳴らし、足を止めた。
 慧海は紅髭の左の鐙に苦労してブーツを履いた左足をかけ、幇は右の鐙に階段を昇るようにスムーズに布靴のつま先を差し入れ、左右から同時に、蒼黒のスティード・ラルヴァ、紅鬚《ホンホー》に跨った。
 男性サイズの革鞍は、二人の小さめなヒップを詰め込むのにちょうどいい大きさ、騎乗した幇は左手にモーゼル、慧海は右手にデリンジャーをブラ下げている。
 左右から銃身を突き出し、一隻の砲艦と化した騎馬は、双葉学園島のアスファルトで再び蹄を鳴らし、悠然と歩み出した。
 慧海がよく馴染んだ幇の背中、カンザス出身で幼い頃から乗馬はやっていたが、二人騎乗《タンデムライド》の苦手な慧海が、唯一落ち着ける場所。
 右手に拳銃を持った慧海は、左腕を幇の細く強靭な腰に回し、体を密着させて掴まった、幇は腰に回された慧海の左手に右手を重ね、慧海がしっかりと自分の体をホールドしていることを確かめる。
 長身な幇の背中にほぼ隠れる格好になった慧海は、背中から幇に向かって囁いた。

「よし、ルー、行くぞ、海兵隊《マリーン》のフォーメーションだ!」

「慧海、抓住《ツゥアツゥ》」(慧海、しっかり掴まってろ)

 馬上の二人は揃って掛け声を発した

「押《ヤ》アッ」
「yeah!」

 人類史上最後の騎兵は、数千年前に人と馬と鋼が築いた戦の歴史を二十一世紀になってなお継続させるべく、アツィルトの戦場へと駆け出した。



 多勢の敵からひとつの地域全体を守る陣地戦においては、単純な火力や戦力よりも、状況の把握とそれに合わせた適所配置が戦局を決定する。
 既に風紀委員長の逢洲等華から骨伝導カナル無線機を通じて緊急連絡を受けた、待機状態《オンステージ》の風紀委員は、管轄地域の割り当てに従って、学園島を百数十に分割した各委員の担当ブロックで、警戒と避難民誘導を行っている。
 醒徒会経由の強権発動で、学生および双葉区の全区民はマクロス変形時の船内住民並の早さで、校舎内および室内への避難が完了しつつあった。
 双葉区の建物は原則的に、異能やラルヴァの攻撃に対する耐久性を持つ構造や建材で建築することが義務付けられている。
 木造の学生寮の中には双葉区独自の建築基準に達していない物も多くあったが、それらの住民の多くは生活の知恵として、ラルヴァの侵入や異能者の暴走に対する備えを各自準備している。
 聞く所によると、狭くて柱が多いため構造的に最も強固なトイレに篭り、四方に畳を立てかけて布団に包まるのが確実らしい。
 それは猟銃の乱射魔が出没した時や、戦時下の町で砲戦や空爆が発生した時の備えとさほど変わりない、弾丸のストップ能力に優れた濡れ畳や防炎性の高い綿布団は耐異能素材としても良好だった。

 本土より早く区民総背番号制が採用され、個々人の移動と点呼状況が中枢で把握可能な双葉島、全島民の避難が確認された頃、醒徒会内に緊急対策本部が設立され、生徒課長の都治倉喜久子《つじくらきくこ》が司令塔となる本部長を務めた、識別のためドンキホーテで買ってきた「あんたが部長!」のタスキをかける。
 風紀委員の全体指揮を受け持つために着替えたミニスカポリス姿の生徒課長を見た生徒課の職員は「うわぁ…」って顔をしたが、偶然その場に居た高等部教師の春奈・クラウディア・クラウディウスはボソっと「いいな…」と呟いた。
 喜久子ポリスの指揮の下、逢洲が学園の戦力である風紀委員を動かす、慧海と幇は最初の段階で喜久子に、自分達を緊急出動要員から外すよう要請していた。
 防戦で済む相手ではない、敵の攻撃を受け止める無数の手とは別に、敵をブン殴る大きな手が必要、それに足る人材を選別した結果が、自分自身と相棒の幇だった。

 幇と慧海を騎乗させたスティード・ラルヴァ紅鬚は、学園島を駆け回った
 攻撃に最も重要なのは、敵を知り、場を熟知すること、自分と敵だけでなく周辺の地理や状況、そして見えない敵と味方が見えていない奴は、一対一の力比べに勝つことができても、生き残ることはできない。
 双葉学園の風紀委員には、その担当する区域が定められていて、多くは二人一組のコンビで担当する各区域への速やかな展開と、相互支援によるサーチ&クリアの訓練は繰り返し行われている。
 現在も既に都治倉喜久子と逢洲等華の指令で島内全域に風紀委員が配置され、各区域からの報告が随時行われていたが、慧海はその確認をデータ画面に頼る気などなかった。
 間借りした軍事GPS衛星に電子生徒手帳をリンクさせて戦力の配置を観測、表示する動態表示装置《カーロケーター》は、道路公団の渋滞情報ほどではないが、実際の動きと比べて僅かな遅れや誤差が出る。
 慧海と幇緑林は、そのほんの少しのズレで命を失った異能者やラルヴァを何人か知っていた。
 幇が居なかった頃の慧海は、それらの目視確認が出来ないのがもどかしかった、キャディラックでは機動力不足だし、慧海も足はそんなに健脚ではない。
 スティード・ラルヴァ紅髭《ホンホー》は、双葉学園島の全区域を網羅すべく駆けた、慧海と幇は島内の戦力配置を自らの目で確認する。
 幇緑林の風紀委員会代行への就任と、幇と紅髭の略歴は、既に慧海が全風紀委員の電子生徒手帳にメールで伝達してあったが、馬ならざる速さで駆ける馬を騎する、百数十年の時を経て現代に蘇った馬賊、幇緑林の勇姿はデジタルデータよりも強烈に風紀委員の目に焼きついた。
 やっぱりお互い、直接見たほうがわかりやすい。
 長身な幇の後ろで激しく揺れる馬の背に振り回され、必死に幇の腰にしがみついていた慧海は指をさされて笑われた。
 馬型ラルヴァに二人で乗り双葉島を駆け抜ける、チャイナ服の女性と、ウェスタンスタイルの金髪少女、二人とも、片手には拳銃。
 どう見ても、学園を守る風紀委員というよりも、百五十年ほど前のアメリカ西部から来た牛泥棒か列車強盗にしか見えない。

 速駆《ギャロップ》で学園島を一周した慧海と幇。
 逢洲の指示通り、風紀委員達が双葉島の各所に配置されていた、島の北東では、結界の形成、維持能力を持つ技術系の風紀委員が、ラルヴァの攻撃集中で今にも破られそうな結界に集結し、ヒビ割れかけた結界を維持修復していた。
結界形成については慧海も異能授業と風紀委員研修で少しやったが、内容は高等な数式と力学を用いて構築する、手間のかかるものだった。
 中くらいのレベルの普通科高校に通ってる高校生ならさほど難しくない数学と物理だが、異能で以って集められた双葉学園のロクデナシ共にしてみれば、頭が痛くなる作業。
 数学に関しては自信のある慧海も途中でブン投げたくなる地道な異能結界術が、学園島と首都圏をラルヴァから護る、小さな石を一つひとつ積み上げて築き上げる砦だった。
 数式によって構築された結界を侵食、破壊するのに最も有効な攻撃は、ルーン言語や呪文、詔のような詠唱系の異能だという。
 ここでも、理系と文系は仲が悪い。
 現状、北東の結界が何とか維持されてるのは、スパイラル・ラルヴァが結界の効率的な攻撃には最適でないレーザー…のようなものでの攻撃をしているからだった。
 異能者とラルヴァ、双方ともになんか頭が悪い、それもまた、現実の戦争や衝突でもよくある光景。

 慧海は幇と共に、バイクやヘリコプター、あるいは高速移動異能者では到底及ばぬ機動力を持つ、馬の脚で双葉学園全体を巡回した。
 砂漠の荒地や高山地帯等、馬での移動が最も効率的だった例は現代の軍事行動でも多く、特殊部隊の多くは馬術を必修科目として残している。
 警戒状況と人員配置、何より双葉学園の番犬である自分達の攻撃対象、スパイラル・ラルヴァの姿を結界越しに目視確認した慧海は、右耳の後ろに着けた骨伝導カナルの無線機で、生徒課長に通信回線を開いた、喉の声帯上に貼り付けたマイクが慧海の発する声を残さず拾う。

「生徒課長《オバサン》、北東のラルヴァはサブヒロインだ、メインヒロインは南から攻略してくるぞ、今すぐ南の埠頭にフラグをおっ立てろ」

 学園島の全周を包囲しているように見えたスパイラル・ラルヴァは、じりじりと双葉島の南埠頭を中心としたシフトを構成しつつある。
 結界壁が最も薄いのは北東だが、結界を破った先にあるのは進軍困難な路地の入り組んだ商工業エリア、南は厚い結界を破れば学園直結のメインストリートがあって、突破侵入に成功すれば島全体に速やかな部隊展開が出来る。
 慧海は防戦の基本「自分ならどうするか」に立ち返って、島の周囲に居るラルヴァ、その位置よりも移動方向を仔細に観察した、そして結界に穴が開きかけた北東よりも危険な南の守りを固めるべく、喜久子と逢洲の指揮系統に割り込んで警戒を発令した。

 既に島全体に風紀委員の配備を終え、慧海同様に南側の不穏な空気を、ディスプレイのデータや確定予測の異能ではでなく武道家の殺気で感じていた逢洲等華が、慧海から喜久子経由で指示を受けると同時に南へと走った、逢洲が発信した緊急出動指令を聞き、駆けつけてきた神楽二礼と途中で合流する。

「神楽、抜刀だ」
「了解っす」

 剥き身の二刀を下げた逢洲と、木刀を担いだ神楽が南へと走る。
 きっと幕末の頃、日本がまだ外夷と戦っていた夜明け前の時代には、こういう風景が繰り返されていた。


 馬上に揺られながらサーチを続ける慧海のカナル無線機から、声のでかい奴の多い風紀委員会には珍しい、物静かで遠慮がちな若い男の声が聞こえてきた。
 それを待ちかねていたように、慧海は受信回線を開く。

「山口委員長、十六課の風見です、ありました、スパイラルラルヴァの資料、ノルウェー軍の異能者機関が持ってました」

 ネットワークの監視と情報収集を受け持つ風紀委員会の電子戦集団、十六課は、ラルヴァ出現と同時に情報のほじくり出しを開始した、海外機関が保有していたラルヴァの記録を共有ソフトでブっこ抜いたのは、十六課に所属する電子戦特化型の駆逐艦《デストロイヤー》MDH
 ノルウェーの機関がオフラインにしまいこんでると思いきや、誰でも持ってっていい共有ファイルの中に突っ込まれてた報告書にスパイラル・ラルヴァのある程度詳細な記述があったので、MDHが有する厨能力の共有ソフトで遠慮なく頂いた。

「よくやったぞ、後でお前の名前で向こうの担当者に個人的な礼を言っとけよ、情報の質はデータ検索能力じゃなく、人同士の繋がりで決まるんだ」

 慧海と風見の通信に、同じく十六課の班員、電子駆逐艦MDHを所有、運用する異能者カシーシュ=ニヴィンが割り込んだ。

 「山口委員長~、それわたしがこないだ、委員長に教えたげたことです~」
「バレたか♪」

 ノルウェー軍のラルヴァ対策機関には後ほど、風紀委員長名で正式な礼状を書かなきゃならないと思ったが、それは幇に頼むことに決めた。
 慧海は以前、フィンランドの異能者部隊に技術顧問として在籍してた時、ノルウェー軍の異能者連中と大ゲンカしたことがあった。
 暇にまかせて国境近くで釣り糸を垂れてたら、仕掛けが海流で流されて越境し、隣国ノルウェー領の大物虹鱒《トラウト》を釣り上げてしまった慧海。
 連中はトラウトの所有権を主張してフィンランド軍異能部隊の連絡事務所に殴りこみにきた、つまり、虹鱒《トラウト》料理が出来た頃合だから俺らにもおすそ分けしろ、と。
 慧海が日本人《ヤポーネ》だと聞き、5ポンドの大物トラウトのサシミを楽しみにショウユとハシ持参でやってきた彼らが見たのは、アメリカ人にとってスタンダードな魚料理、繊細な味のトラウトを、ケチャップとソースを混ぜたようなバーベキューソースをドブ漬けして焼き煮にしたフィッシュステーキ。
 彼らは泣きながらソースの味しかしない虹鱒のステーキを食べた、案外食いごたえがあってうまかったのがまた悔しかった。
 それ以来、慧海はノルウェーの連中とは反りが合わない、受け売りで人と人の繋がりを偉そうに説いておきながら、何ともお粗末な話。

 スパイラル・ラルヴァの資料が電子生徒手帳に転送されてくる、慧海は激しく駆ける馬上で手帳を開き、幸いにも英語で書かれた資料に目を通した。
 双葉学園の生徒と職員に支給されるモバイルツール、電子生徒手帳にはiphoneみたいな外見を持つツールの液晶画面を保護する、手帳型のビニールカバーが付属している。
 カーボンナノ樹脂製の電子生徒手帳は保護物などなくても、そうそう壊れるようなものではなかったが、プラスティック剥き出しだとポケットに入れた時の感触が悪いし、ラーメンの汁でもこぼせば画面が汚れて見えにくくなるので、生徒の多くは支給品のビニールカバーか、学園の購買部でも売ってる私物のカバーをつけていた。
 慧海はコーチ社製の赤い革カバーをつけていた、幇も昼に生徒課長の喜久子から貰ったヴィトンの黒革カバーを使っている。
 ipodのケースが流用できる手帳カバーには皆、個々のお洒落を反映させていて、飯綱百はグレーの布製、都治倉喜久子は電撃文庫ヒロインズのイラストが入った痛手帳になっている。
 醒徒会委員会でも委員長級の人間にしか開示されない情報は当然、数時間前に代行に就任した幇の、まだ真新しい電子生徒手帳にも送られてくる。
 幇はモーゼルを左手で持ちながら、振動したモバイルツールを手綱を握っていた右手で開き、二本ある親指で素早く操作した。
 速読で要点を頭に叩き込もうとしたが、理系の論文や報告書にも稀にある、やたら面白く書かれた文章だったので、つい読みふける。
 手綱を放されたスティード・ラルヴァ紅鬚は、学園島全域を効率よく回るコースを熟知しているかのように、自発的に経路を決め、走り続けた。

 同時に電子生徒手帳を閉じた二人、幇は振り返り、磐石のごとき無表情で背後の慧海を一瞬見る。

 海兵隊時代の幇緑林は、階級は軍曹の慧海よりもひとつ下の伍長ながら、海兵隊異能者チームでは日本の醒徒会に相当する集団である三銃士《マスケッター》を務める同格の仲間、しかし海兵隊時代の慧海は、戦闘はともかく、戦略や作戦立案に関しては、幇から教えや指示を受けることが多かった、姉も父も末っ子の慧海に、幇緑林の言うことさえ聞いていれば生き残ることが出来る、と常々言っていて、慧海は素直に従っている。
 この双葉学園では、慧海は風紀委員長、そして幇は委員長の不在を埋める代行、海兵隊時代から戦闘者としては一流だった慧海が、指揮者としての判断と実力を必要とされている。
 幇は、慧海を求めている。
 慧海は一度深く息を吸うと、音声指示で作動するカナル無線機の通信を起動させた、同じチャンネルにあわせた全ての無線機と通信が出来るオープン回線《ライン》で、全風紀委員に通信ラインを開く。

「こちら風紀委員長《ゼロ・ゼロ》山口、北東ブロック三番から十二番の風紀委員、総員Bラインまで撤退しろ」

 学園島にラルヴァを一体も入れない、そのためにラルヴァに掘削されている島の北東の結界を修復せんとしている技術系の風紀委員と、彼らを守りつつ、結界が破壊され、ラルヴァが侵入した時に備えて臨戦態勢を固める戦闘系風紀委員、しかし相手は飛行スキルを持ったラルヴァ、島から海上にステップバックされれば追撃を出来る異能者は限られる。
 戦闘は場の選び方で決まる、こちらにとって戦いにくい場での戦闘が開始された時には、撃ち勝つよりもまず、戦いやすい場への誘導を第一に考えるべき、もしも不利な場で攻撃を続行し、攻撃力の強さで撃退したとしても、そこに増援や別の敵が現れれば総崩れになる。

 慧海の指示により防御戦力が撤退し、ガラ空きになった北東、結界はついに破れ、スパイラル・ラルヴァ一体が通過できる穴が空いた。
 双葉学園島に、ラルヴァが侵入した。

 慧海は特定の相手と通話するクローズ回線《ライン》に切り替え、防戦全体の指揮をしている生徒課長、都地倉喜久子との通信を続けていた。

「…そうだ、そのままでいい、北東の破れ穴から何体か入ってきても構わない、カム・インしてから学園内で迎撃《インターセプト》する」

 喜久子が指揮系統に横入りした慧海の発令を、もう一度生徒課長名で全風紀委員に通達した後、通信機から逢洲等華の声が聞こえてきた。
「こちら風紀委員長《ゼロワン》逢洲、南の主力陣はわたしと神楽が抑える、各委員、島内迎撃《おもてなし》の態勢に入れ」
 逢洲も考えてることは同じだった、指揮系統を複数化するのは戦術における重大な誤りだが、ツートップの風紀委員長以下、気心の知れた風紀委員達、原則に従って逢洲と慧海と生徒課長の指示内容を一元化した後に下達するより、ただ怒鳴り飛ばしたほうが手っ取り早いこともある、仕事の内容は違えど、職人の仕事場というのはそんなもの。
 風紀委員長である逢洲等華の無線通信におけるコールサインは、風紀委員会の№1を意味するゼロワン、そして同じく風紀委員長の慧海は、なんかよくわかんない奴という意味でゼロ・ゼロと呼ばれている。
 風紀委員長《ゼロ・ゼロ》慧海のカナル無線機に、コールサインに風紀委員会の番号がついてない発信者からのクローズ通信が入った。

「こちら生徒課長《エックス》喜久子です、慧海さん、中距離戦闘者《ミドルレンジ》の出番ですか?」

 この学園でトップクラスの中距離ファイターといえば、拳銃魔の山口・デリンジャー・慧海をおいて他にない、そして喜久子は幇緑林と慧海、そしてスティード・ラルヴァ紅鬚《ホンホー》のチームが海兵隊のミドルレンジ無敵戦闘ユニットだということを知っていた。

 慧海と幇のコンビプレーで侵入したラルヴァを遊撃するのかと思っていた都治倉喜久子、慧海はその予想とは違った返答を発信した。

「あたしのオールレンジ・アタッカーを出す」

 オールレンジの戦闘者といえば、接近戦の逢洲と中長距離の慧海が組んだIxDコンビ、そして慧海が以前から、喜久子の助けを借りつつ計画を進めていた、もうひとつの全距離攻撃システムがあった。

 「もう完成したんですか?」
 慧海は馬上から、遠くに見える学園島と本土を結ぶ連絡橋に視線を向けながら、自信に満ちた口調で答えた。

「あぁ、最高の仕上がりだ」

 連絡橋の本土側から、慧海が待ち望んでいた影が近づいてくる。


 東京湾の海上を渡る2キロ弱の連絡橋、その終点にある人工島側のゲート、双葉学園島の校門に、一台の大型バイクが止まった。
 外装全体に戦闘機の低視認塗装と同一色、グレーの塗装を施したカワサキGPZ900R
 校門警備をしていた風紀委員が、バイクに乗った人間の胸ポケットに入っている電子生徒手帳の個人データと門衛詰所のディスプレイをリンクさせ、身元確認した後に門を開けた、青い布製のツナギを着たバイク乗りに軽く手を上げて挨拶をする。
 バイクを降りたライダーは、白いショウエイのオフロード用ヘルメットを外した、背の高い、ショートヘアの女性。
 彼女は着ていた青い布製ツナギのジッパーを下ろしながら、耳の後ろにつけていたカナル無線機の、特定の合言葉で作動する音声反応スイッチを入れた。
 校門前で布ツナギを脱ぎ、マウンテンバイク用の薄い革グローブと共にヘルメットに突っ込んだ女性は、履いていたアシックスのバッシュとソックスを脱ぐと、ツナギの下に着ていた灰色の服、その腰に何足かブラ下げていた草鞋を一組取り、藁の紐を足首に回してしっかりと結びつけた。
 回線の開いたカナル無線機から聞こえる生徒課長の声を聞き、重要部分を復唱しながら、カワサキGPZのフレームに括りつけた二本の短い日本刀を掴むと、一本を灰色の服の帯、その背中に差し、もう一本を脛に結びつける。
 布ツナギの下に刺し子の着物と裁っつけ袴を着ていた長身の少女は、懐から出した灰色の手拭いを頭から被り、顎の下で結んで頭巾とした。
 体を動かすたび、服のあちこちに詰まった何かから重い金属音を発する少女は手首と足首を振り、入念なストレッチをしながら一旦通信を切った後、名指しで通信会話するクローズ回線を開いた。

「こちら機動七班《ゼロセブン》飯綱百《いづなもも》、先ほど連絡橋の定時巡回警備から帰投、たった今、状況報告を受けました」

 飯綱百《いづなもも》は先日のNASA出張のすぐ後、機密取扱者資格《セキュリティ・クリアランス》を取得し、風紀委員会の機動部隊、第七班の正式な委員となった。
 現在は"鬼の七機"と呼ばれる風紀委員会機動七班のメンバーとして学園の治安を守りつつ、逢洲と慧海からの集中的なトレーニングを受けている。

 学園がラルヴァの一団に侵攻される事態にあっても、百の所属する機動七班を始めとした風紀委員による通常警備は変わらず行われていた。
 有事の際に脇が甘くなるようでは、双葉学園島はとっくに東京湾に沈んでいる。
 風紀委員の巡回区域の中でも最重要警戒ポイントである連絡橋、通常は二名の風紀委員がコンビを組んで、徒歩で巡回するには長すぎる連絡橋を、生徒課長が潰れた新聞屋から貰ってきたスーパーカブか自転車で巡回するのが通例だったが、慢性的な人材不足により単独で巡回することとなった飯綱百は、長野の実家に居た時から乗っていて、双葉学園に編入する時に持ってきた私物のバイクで連絡橋を往復した。
 カブじゃ自動車を使って連絡橋突破を試みる人間や外部からの侵入者の追尾もできないし、何より自分の手足のように扱えるアシでないと、突然の事態に対処できない、舗装もよく車通りもほとんど無い橋を数往復する連絡橋巡回警備は百にとって楽しみでもあった。
 大型自動二輪の免許は18歳を過ぎないと取れないが、その制度には然るべき技術とコネがあれば可能となる意外な抜け穴がある。
 元々は百の祖母が所有するコレクションだった二十五年前のバイク、GPZ900Rは、エンジンや足回り、フレームの一部がZX-9Rのパーツで出来ているニコイチのバイクで、路面状態のいい連絡橋なら315kmの最高速度が出る。
 空に溶け込む低視認性塗装を施したカワサキGPZ900R、何も無い、何も見えない所からいきなり現れて、連絡橋を突破しようとする島の住民や外部からの侵入者を追尾し強制停止させる"見えないバイク"は、連絡橋で悪事を働く連中にとって恐怖の対象だった。
 飯綱百はNASA出張でお土産に貰って以来、近場での走りに愛用している、ディープスカイブルーのNASA制式ジャンプスーツを、ヘルメットと共に校門脇の門番詰め所に預け、バイクを詰め所脇の自転車置き場に停めてロックした後、無線機で繋がった相手に向かって話しかけた。

「いいんちょー…いつでもいいですよ」

 カナル無線機から聞こえてきた短い指示、山口・デリンジャー・慧海の全幅の信頼がこもったGOサインを聞き、飯綱百は出動した。
 忍び里では藜《あかざ》の獅子と呼ばれた戸隠流忍者、風紀委員長山口・デリンジャー・慧海の秘蔵っ子と呼ばれる異能停止能力者。
 単独で全距離攻撃《オールレンジアタック》を可能とする双葉学園唯一の異能者、飯綱百が駆け出した。

 おっぱいを揺らしながら。

【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~中篇】おわり
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