【藤神門御鈴のとある日常】


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藤神門御鈴のとある日常



 藤神門御鈴は退屈していた。
 とある土曜の午後。
 広い生徒会室にいるのは、御鈴だけだった。少なくとも、今この瞬間においては。

 副会長の水分は実家に呼ばれており、
 書記の加賀杜はクラスの用事。
 会計の成宮とルールは商店街の相場チェックと称して出かけており、
 全裸の、もとい広報の龍河は大学ののサークルの助っ人に借り出され。
 庶務の早瀬は世界を縮めると言って駆け出して行方不明。

「ヒマだ」
 何度目か、数えるのも飽きた台詞を小さな口から吐き出す。
「ヒマだ。ヒマだヒマだヒマだヒマだヒマだヒマだヒマだヒマだヒマだヒマだヒマだヒマだ!」
 子猫を抱えながら、ごろごろと床を転がりまくる御鈴。
 その姿は例えるなら――いや、例えなくても駄々っ子そのものであった。
 学園最強と噂される醒徒会の頂点、にしては余りにもあんまりな姿ではある。
 なんというかその、威厳ゼロというか。
「ヒマだ。ヒマだぞ白虎。私は、ヒマなのだ」
「にゃー」
 御鈴の両手に抱えられた、白いトラ猫がにゃーと鳴く。
「どうすればいい」
「にゃー」
「そうか、好きにすればいいか。だが好きにしろと言われても困るぞ。
 私はものわかりのいいものしずかなおとなのれでぃなのだ」
 誰もいないので誰も突っ込めないが、説得力ゼロの言葉であった。
「しゅくじょが好き勝手に振舞うのはよろしくないとお爺様も言っていた。
 だがそれでもヒマだ。やることがない」
 生徒会長の特権を使い、イベントを発案してごり押しするのは簡単だ。
 だがそれはあくまでも学校のイベントであり皆が楽しむもので、自分の退屈しのぎに「そういうこと」をしては駄目、ということぐらいは御鈴もわきまえている。
 まあ問題点は、そのボーダーラインが彼女と一般人の感覚ではいささか違うかもしれないということだが。
 そして、仮に今何かを思いついたとしても、それらを制止したり手伝ったりしてくれる頼もしい副会長以下役員達がことごとくいないので、なんというかつまらない。
 一般生徒会員たちですら、今はこの部屋や周囲にもいない。
 さびしい。
 しかしわがままもいえない。
 藤神門御鈴、13歳。微妙なお年頃である。

「にゃー」
 ぴょこん、と耳を立てて白虎が外を見る。
「む? どうした白虎」
 白虎はその問いに答えず、するりと御鈴の手をすりぬける。
「あ、こら!」
 白虎はドアを開け、廊下に飛び出す。
「まて白虎! 勝手に出てはいかんとあれほど!」
 あわてて御鈴は白虎を追いかけて生徒会室を出て行った。


 おさかなくわえたトラ猫おいかけて、裸足ではないけど駆けていくゆかいな御鈴さん。
 まさにそんなかんじで、白虎を追いかけて学園都市の商店街ほ奔走する生徒会長。
「あれ会長、どうし……」
「話はあとだ、そいつをつかまえてくれっ!」
「え? あいたっ!?」
 白虎が男子生徒の顔面に張り付き、そしてジャンプする。
「っつ、いったい何……」
 顔をしかめた瞬間、さらなる衝撃が男子生徒を襲う。
「すまん、邪魔だっ!!」
 御鈴の厚底ブーツが、男子生徒の顔面に足型をつける。
「お、俺を踏み台にしたぁっ!?」
 どこぞの三連星のような台詞を叫ぶ男子生徒の顔を足場に、御鈴はジャンプする。
「とんだ! 会長が飛んだわ!」
「あれはなんだ、鳥か!? 飛行機か!?」
「生徒会長だ……!! って、古いわそれ!」
「すまんっ! どいてくれ!」
「んにゃー」
 駆け抜ける白虎、それを追いかける生徒会長。
 その後ろで、顔面キックを食らって倒れた男子生徒は、痙攣しながら言う。

「……黒」

 藤神門御鈴。
 大人のレディにあこがれるお年頃であった。


「まったく、私にあまり迷惑をかけるな」
「にゃー」
 三時間後。
 ぼろぼろになりながら、御鈴は白虎を捕まえていた。




「だが礼を言おう。お前のおかげで、それなりに退屈はしの……し、ええと。
 退屈じゃなくなったぞ」
「にゃ」
 そう。白虎は、暇をもてあました主人の為にあえて逃げ出した。
 おいかけっこ、だ。そうすれば御鈴は少しは楽しめるのではないか、と。
 よく気づく猫である。
「だがやりすぎだ。ひとにめいわくをかけてはいけません、とお爺様も言っていたぞ。
 罰として、今日の晩御飯はランクダウンだ」
「にゃにゃ!?」
 白虎、ショック。
「抜きにしないだけ私は寛大だ。昔私がお爺様を怒らせたときはだな、こんなものでは……」
 そう言った時、少し離れた所から爆発が起きる。
「!! ラルヴァか!? 学園内に……」
「にゃー!!」
「む、そうか、違うか。ラルヴァではない……? とにかくいくぞ!!」



 煙が上がる。
 トラックが中華料理屋に突っ込んだのだ。幸い、怪我人や死人は出ていないのが救いではあったが、しかしそれも今のうちだけだ。
 煙が上がる。この中華料理屋は雑居ビルの一階である。
 トラックが突っ込み、火災発生。その炎は外側にこそ延焼してないものの、ビルの中を燃やす。
 中には、人がまだ残っている。
 古い雑居ビルは衝撃に耐えられず、今にも倒れそうな勢いだ。
 みしり、と音が鳴る。
「!!」
 誰かが叫ぶ。
 炎と衝撃に耐えられなくなった雑居ビルが、腹からへし折れ――



 しかし、予想された爆音も衝撃も来なかった。
 目を閉じていた誰かが、おそるおそる目を開く。

 そこには――

「まったく。あぶないところだったな」

 凛とした声が響く。炎の爆ぜる音や、消防車のサイレンの響く中でさえ、その小さくも澄んだ声は、多くの者の耳にはっきりと届いた。
 5メートルはあろうかという白い巨体。それが、倒れ落ちる雑居ビルを支える。
 虎をそのまま大きくしたような獣の背に、生徒会長藤神門御鈴は立っていた。
「十二天将、白虎……」
 誰かがその名前を口にする。
 陰陽師の操る式神、その中でも頂点に位置する十二天将。
 その一柱、白虎。
「会長だ!」
「すげえ、あの虎初めて見た!」
「ょぅじょ! ょぅじょ!」
 歓声が沸きあがる。
 その多くの歓声を不敵な笑顔で受け取め、御鈴は白虎に号令を発する。
「さあ、ひと踏ん張りだ。このばかでかい積み木を、ちゃんと元に戻せ!」
 その言葉に白虎が吼え、その巨体で器用に、雑居ビルを押し戻す。
 それと同時に、消防車たちが現場に到着した。






「あれ、会長どうしたんです?」
 生徒会員一人が言う。
 それを、副会長は唇に手を当てて、しーっ、と注意する。

「くー……すー……」
「うにゃー……」

 生徒会長用の大きな机に突っ伏して、寝息をたてる御鈴と白虎。
 昼間から走り回ってさすがに疲れてのだろう。
 二人は肩をすくめる。
 副会長は毛布をそっと、起こさないように注意しながら御鈴にかける。
 御鈴は少しむずがりながらも、幸せそうに寝息を立てていた。



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