【ウェポン7・スターゲイザー 中編①】


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【ウェポン7・スターゲイザー】

〈第一話 成層圏魔城・中編〉


      □■□


 半世紀以上の長い眠りの中、彼は夢を見ていた。
 しかしそれは夢にあって夢に在らず。彼が見る悪夢は彼の記憶そのものだった。
 それは血と肉と骨の記憶。
 戦いと裏切りと悲しみと死の記憶。


       ※
       ※
       ※


「千石少尉。キミはなぜ戦うんだい」
 とある山奥の洞窟の中に造られた簡易性の軍施設、その一室で二人の少年がチェスに嗜んでいた。 
 軍服に身を包み、戦時下の喧騒を忘れるように彼らは二人だけの世界に浸っていた。
「“なぜ?”だって山座。そんなバカげた質問があるもんか。俺たちは国のために戦っている。そうだろう?」
 千石白之《せんごくしろゆき》少尉は目の前の少年、山座綾人《やまざあやひと》中尉の質問に少し眉をひそめた。
 白之は山座より階級は下だが、同年代で、あまり部下と上司といった関係性はなく、むしろ学友のような仲であった。特に山座は元々軍人ではなく軍事科学研究の人間のため、そういった上下関係にはあまり興味がない。白之もまた純粋な軍人ではないため特に気にしてはいないようだ。
「国のため、か。それは言い訳に過ぎないのではないかい。敵国を憎み、敵国の人間を殺しているのに僕らはこうして舶来ものの玩具で遊んでいる。ようするにキミも僕も本当は
国のためではなく“楽しむ”ために戦争に参加しているんじゃないのかい」
 彼は淡々とそう言いながらチェスの駒を進めていく。
 山座は潔癖そうな印象を受ける白い手袋に、軍帽を目深く被っている。その下から覗く銀縁眼鏡からは知性が感じられ、赤みを帯びた唇にはなんとも言えない妖艶さを覚える。安っぽい表現を使えば、山座は美少年であった。
 そんな山座を白之はあまり好いてはいなかった。どうにも腹が読めない男で、ニタニタと笑ってはいるが、どこか人を見下している――いや、そもそも人間なんて興味がないのではないかと言った風である。
「山座。お前はそうなのか。国や人のためじゃなく、自分の楽しみのために戦っているのか」
 白之は小脇に抱えた愛刀をカチカチと鳴らし、苛々したように山座に尋ねる。
 愛すべき国のために戦って死ね、それが白之たちのような少年兵に教えられてきたことだ。白之は死ぬ気など毛頭もないが、それでも彼は国を思って戦ってきた。例えそれが教え込まれた思想だとしても、自分が生まれた国のために戦争に参加するのは悪い気分ではない。死んでいった同胞のことを思えば、弱音や文句など吐けやしない。
「そうだね。僕はただ興味があるだけなのさ」
「興味?」
「ああ、科学者として、キミのような“特別な存在”がこの戦争に、世界に何をもたらすのかをね」
「ふむん、“特別な存在”ね……」
 白之は自分の掌を見つめた。彼には不思議な力があった。
 その力のおかげでこうして、一般の捨て駒ではなく、特殊な任務を行なう立場になっていた。力を持つものは軍にも何名かいるらしいが彼は顔を合わせたことは無い。今回の任務において白之と山座は初めて隊を組むことになった。他にも後三名の少年兵がこの作戦に参加しているようだ。
「それはお前も同じだろう山座」
 白之は駒をどう動かしたものかとアゴに手を置きながら山座にそう言った。
「僕は自分が特別だなんて思ってはいないよ。たまたま科学に人以上の愛情があるだけさ。キミたちのような力を持つ者とは違う」
「よく言うぜ。“人類史上有数の天才児”だとか“神と悪魔の二つの頭脳を持つ子供”だとか言われてた癖に。俺たちなんかよりよっぽど化け物だぜお前は」
「そんな人が勝手に下した評価などに意味はないさ。それに今に僕やキミのような存在は珍しくなくなる」
「どういうことだ」
「これは僕の予感に過ぎないが、恐らく近い未来、異能の力を持つ者は増えるだろう。それも爆発的に」
「俺らのような人間兵器が? ありえないだろ」
「そうかな。事実ありえない存在であるキミたちはここにいる。キミたちのような者が現れたということは、それは人間の進化の兆しだと僕は考えている。いずれ不可思議な力を持つもので世界は溢れるだろう」
「なんで進化なんてする必要があるんだ」
「生物が進化するときは何か理由がある。僕たち人間は戦争のたびに進化を遂げてきた。そして今のこの戦争で、キミたちのような存在がぽつぽつと表に出てきている。ならばいずれさらに大きな戦いがあった時、人類にとっての脅威が現れた時に人は大きな進化を遂げるのかもしれない」
 そう言って山座はポーンをことりと置いた。
「チェックだ」
「ちっ。これで百戦百敗か。やめだやめだ、勝てる気がしねーよお前には」
 白之は勝負を投げ出し立ち上がる。山座の話は彼には難しく、あまり興味を持てるものではなく、うんざりしたように頭を掻いている。すると、奥から隊員の一人である坊主頭の岡村が血相を変えてやってきた。
「山座中尉、千石少尉、目標が来ました! 作戦開始です!!」
「来たか」
 白之は刀を持ち、部屋を出て行こうとする。すると、山座は彼を呼び止めた。
「待ちたまえ千石少尉。少し離れたところに僕が改造した零戦が置いてある。使いたまえ」
「ああ、ありがたいね」
 白之は山座のそれを聞いて、洞窟を出て崖のほうへと向かう。
「岡村、お前は高橋と本宮と一緒に俺の援護に回れ」
「了解しました」
 彼らがいる洞窟は、栃木の山奥で、民家などは周りには存在しない。森に囲まれた人の存在しない未開の地だ。そこに隠されるように零戦は置いてある。緑色が綺麗で、そのフォルムは芸術的だった。白之は零戦に飛び乗り起動させる。エンジンが入り、プロペラが回る。けたたましい駆動音が鳴り響き、近くの木々の葉が舞い上がっていく。
「さて、と。行くか!」
 白之は空へと目を向ける。
 吸い込まれるような青い空で、こういう日は空を飛ぶのがとても気持ちいい。
 だがその空には巨大な鉄の塊が浮いていた。
 それは飛行船である。
「飛行船とは仰々しいな。ということはやはりあの中に“目的”のものがあるのか。まったく狙ってくれって言ってるようなもんだぜ」
 白之はヘルメットを被りゴーグルを下げ、にやりと不適に笑った。長い崖の道を滑走路代わりにし、離陸をしてその飛行船目掛けて飛んでいく。
 白之の零戦が近づいたのに気づいた飛行船は、砲台を彼のほうへと向けていた。
「無駄だ。俺に空で勝てる奴はいない」
 重々しい音と共に放たれた砲撃を、白之は紙一重で旋回して避ける。空を切りその砲弾は地面へと落ち爆発する。びりびりと空気の揺れを感じ、白之は操縦棹を握る手をぎゅっと強くする。
「さすがだ山座。小回りの効きが他より鋭い。これならいける」
 白之は機銃を撃とうと標準を合わせるが、撃つことをやめて、敵の砲撃を避けながら飛行船の脇へと向かう。
(危ない危ない。今撃ったら“目標”も一緒に堕ちてしまう。――仕方ない)
 白之は何を考えているのか、飛行船の窓付近まで零戦をギリギリに近づかせハッチを開けて身を乗り出す。
「ふん、風が心地良いぜ」
 白之はハッチから飛び出し、操縦者を失った零戦が堕ちる前に羽部分に飛び移り、そのまま真っ直ぐ走り、飛行船の窓に向かって大きく跳躍した。
 その先には驚いて銃を構えている敵兵たちがいた。
「退きな退きな!」
 白之は両手を顔の前で交差させ、身を屈めて窓に思い切りぶつかる。ガラスは派手に割れ、白之は転がりながら機内へと侵入した。
 顔を上げる暇もなく敵兵たちは銃を撃ち始めたが、白之はそれをそのまま転がりながらかわし、日本刀を鞘から抜き、敵兵の手首ごと銃を切り落とした。白之の人たちで数人の兵士の手首が中を舞い、そのまま目の前の敵兵の首元に日本刀を突き刺した。
「ノオオオオオオオオ!」
 すぐに刀を引き抜き、敵兵は鮮血を散らしながら倒れこんでくる。血が白之の顔にかかるが、彼はそれを気にせず死体を盾代わりにして、敵兵の銃撃を受ける。
 突然の襲撃に混乱している敵兵たちは錯乱したように無闇に撃ってくるが狭い船内の中で乱射をすれば味方に当たる。連中は自滅していき、白之は残りの敵兵の首と胴体を次々と切り離していく。
 最後に飛行船の操縦士を撃ち殺し、敵は全滅した。
「ちょろいな」
 白之が刀の血を拭い、鞘に収め船内を見渡す。はあたり一面血の海で、船内には無数の敵兵の首が転がっていた。
「んー! んんー!」
 突然そんな呻き声が聞こえ、白之は声の聞こえた方を見る。すると、気づかなかったがそこに一人の女の子が手足を縛られ猿ぐつわを噛まされて転がっていた。
 白之は彼女を見て、
「おっと忘れてたぜ。これが例の目的の物か」
 と呟いた。
 その少女は目が覚めるような銀色の髪をしており、どこか神秘的な雰囲気を持っていて、服は神社の巫女のようなものを着ていた。小柄で十歳前後に見える。ようするに女児といった風貌である。
 白之は彼女を縛っている縄を切ってやり、猿ぐつわも外してやった。するとその少女は眉を吊り上げ白之に怒鳴りつけてきた。
「あなたは鬼ですか人殺し! こんな、こんなに無慈悲に人を殺して……」
 少女は目の前の惨状を見て涙を流していた。そんな少女に白之はきょとんとした顔をしている。少女がなぜ怒っているのか理解できないようだ。
「何を言ってるんだお前。連中は敵国の兵士だぞ、殺して何が悪い。それにこいつらはお前を誘拐した奴らなんだろ。同情する価値があるとは思えないが」
「それはそうですが……。何も殺さなくても……」
 少女は祈るような目で敵兵たちの死体を見つめていた。白之は溜息をついてどうしたものかと肩を揺らした。
「あ!」
「な、なんだよ」
 少女が突然叫び声を上げ、白之は驚く。少女は顔を青くさせて白之の後ろを見つめていた。
「ど、どうしたんだ?」
「あ、あれ。あなたは全員殺したんだよね」
「ああ、だから一体何の文句が……」
「違うの、今この飛行船って誰が操縦してるの?」
「――――あ」
 白之は自分が操縦者も殺したことを思い出した。
 その瞬間船内全体ががくんと揺れ、降下していくのがわかった。このままでは地面に激突してしまうだろう。
「ちょ、ちょっと! 堕ちちゃうわよ!!」
「大丈夫だよ」
 白之は急いで操縦席へ走り、舵を取った。
「あ、あなたそれ操縦できるの?」
 少女が期待と不安の入り混じった表情で彼を見つめる。そんな少女に白之は不適に笑い返した。
「全然。触ったことないさ」
「だ、駄目じゃない!」
「大丈夫だ。俺は|お前と同じ《・・・・・》特殊な“力”を持っているんだ」
「力……」
「ああ、さあ飛行船よ、お前は俺の一部だ。俺にお前の全てを教えろ」
 白之は精神を集中し、まるで飛行船の心を読むかのように目を瞑り自然に身体を任せていた。そして身体の動くままに舵を取り、堕ちゆく飛行船のバランスを建て直していく。
 これが白之の持つ異能の力であった。
 見たことも聞いたことも触ったこともないどんな機械も、彼は自由自在に操れるのである。訓練の必要もなくいかなる乗り物も乗りこなし、戦闘機や戦車といった兵器も性能を完全に引き出して最大の成果を出す。簡単に言えば“物の心を読む”といったものだ。物に心があるかはわからないが、自由自在に兵器や乗り物、武器などを操ることができる彼の力は軍に重宝されていた。
 飛行船はゆっくりと降下し、森へ着地をする。その時木々を何本も倒していってしまっているが、しょうがないだろう。
「俺は千石白之少尉だ。かたっくるしいからシロでいい。部隊の連中はどうも肩こるくらい気を使うからな」
 白之は少女に向かって笑いかけた。
 少女は少し躊躇いながら
「私は神那岐《かんなぎ》姫子《ひめこ》。助けてもらったことには感謝するわシロ」
 と、そう名乗った。






「ご苦労だった千石少尉。敵を殲滅し、僕の任務に重要な巫女を取り戻してくれたことに感謝する」
 山座はズレ落ちるメガネを押さえながら戻ってきた二人を見つめていた。
 その横には坊主頭の岡村、陰気な高橋、無口で大柄な本宮も揃っていた。
「あ、あの……。私はなんでここに連れてこられたんですか。帰してもらえないんでしょうか」
 その少女、姫子は怯えながら鋭い眼でこちらを見ている山座に尋ねた。白之もなぜこの姫子を助けたのかは知らない。だがこの銀髪のこの少女も自分と同じように異能の力を持った存在だということは知らされていた。
「帰す? あまりバカなことは言わないほうがいいよ神那岐さん。任務で忙しい我々が人助けなんてしている暇があるわけがないでしょう。貴女にも協力をしてもらいたいんです。いえ、貴女の“力”が必要なんですよ神那岐さん」
「そ、そんな! じゃああなたたちも結局はあの敵国と同じじゃないですか。私を利用する気なんですね……!」
「利用だなんて人聞きの悪い。ただ少し|協力《・・》してもらいたいだけなんですよ。まあ我々の“目的”が彼らと同じという点は認めますがね。奴らもあの“遺跡”に用があったみたいですし」
 山座は薄ら笑いを浮かべ姫子を嘗め回すように見ていた。それを不快に思った白之は山座に対してこう聞いた。
「おい、俺たちはまだ何も知らされていないぞ。今回の作戦は一体何をするんだ。姫子の奪還が目的じゃなくて過程だというならこれからどうするつもりだ」
「そうだね。そろそろキミたちにも話しておこうか。僕が上から授かった任務は遺跡を調査だ」
「遺跡だって?」
「そうだ、この洞窟の裏にある地下遺跡の調査だ」
「おいおいふざけるなよ山座。お前はともかく俺たちは学者じゃねえんだよ。なんでそんなことにつき合わされなきゃならないんだ。別にそんなの俺たちでなくてもいいだろ」
 白之は不満をあらわにして山座に食って掛かった。だが山座は涼しげな顔で気にも留めていないようであった。
「何とでも言うがいいさ。これは上からの命令だ。それに逆らうならば反逆罪に問われても仕方ないね千石少尉」
「ちっ……」
「あ、あの山座中尉。この女の子は一体……」
 申し訳なさそうに話しに割り込んできたのは岡村だった。高橋も本宮も困惑に血見た顔をしている。白之も姫子に対しては名前と、自分と同じ“特別な存在”だということしか知らない。
 みんなは姫子に視線を移す。
 銀色の髪を二つに結った巫女服姿の少女。とても綺麗で可愛らしく、女に縁などなかった彼らは少しドギマギして目が泳いでいる。
「彼女はとある一族の末裔だ。神々と交信する力を持つ神那岐一族のね」
「神々だって?」
 白之は胡散臭そうなその言葉に眉をひそめた。
「そうだ。我が国が崇めるそれとは違う。そうだな、神という言い方が気に喰わないのなら、悪魔だとか妖怪でもいい。身の蓋もない言い方をすればただ“化物”でも意味は通るだろう。ともかく|その《・・》存在は我々人類と同じくらい、いやもしかしたらそれ以上昔からこの世界にいるのかもしれない」
 山座は得意げにそう言った。いつもこうして人を小バカにしたような言い回しをする彼をやはり白之は好きになれなかった。
「わ、私はそんな力欲しくなんかありませんでした……」
 姫子は肩を震わせてそう言った。
「私たち神那岐一族は確かに神と呼ばれる存在と感応が可能です。だからといってそれがこの国の戦争に関係あるとは思えません。早く故郷へ帰して下さい」
「それは駄目だ。僕の研究に付き合ってもらう。僕たちが助けなければ同じことになっていたんだ。命があるだけいいだろうお嬢さん」
 山座は小動物のように怯える姫子のアゴを指でくいっと上げ、その蛇のような瞳で睨みつけた。
「やめろ山座。怖がっているだろう。俺たちの仕事は女子供を脅すことではないはずだ」
 白之は二人の間に割って入り、姫子を庇った。正義感の強い彼は、少女を巻き込む今回の作戦に不満を持っているようだ。他の隊員三人は二人の確執に困惑していた。山座は「ふん」と鼻を鳴らし、乱れた襟を正す。
「まあいいさ。とにかく今から遺跡へと向かう。皆用意をしたまえ」
「おい、姫子はさっきまで敵兵に捕まってたんだぞ。少しは休ませ――」
「駄目だ。時間は限られている」
「山座お前……」
 また食って掛かろうとする白之の袖を、誰かがひっぱるのに彼は気づいた。振り向くと、姫子が首を横に振っていた。
「いいのシロ。私も早く終わらせて帰りたい……」
 そう言う姫子の顔は曇っていたが、仕方なく白之は山座の言う通り遺跡へ向かうことにした。




 姫子を入れた六人は、裏の山を登っていき、そこにある地下遺跡の入り口までやってきた。
「す、すごい……日本に、こ、こんな遺跡があったなんて……」
 陰鬱な表情の高橋はぶつぶつとそう呟いている。
 遺跡は山を掘ったように出来ていて、入り口には巨大な石で出来た門がある。文献などで見たこともないような不思議な文字が表面に書かれていて、とても日本に存在する遺跡には見えない。入り口を進むと、階段が出来ており、深い地下へと続いているようだ。まるで怨霊の声のような「おおおおお」という風の音が反響していて不気味さを際立たせている。
「山座中尉。なんですかこの不気味な遺跡。絶対なんかいますよこれ」
 岡村は怯えたようにそう言う。どうやら遺跡の雰囲気に飲まれているようであった。
「さあ、本宮軍曹、懐中電灯を持って前を歩くんだ」
 山座は今までずっと無言の本宮にそう命令した。彼は無言で懐中電灯を照らし、遺跡の地下への階段を降りていく。
「さあ姫子、はぐれないように俺の手を掴んでろ」
 白之はそう言って自分の手を姫子に差し出した。姫子は一瞬躊躇ったが、その白く小さな手を白之の無骨な手に重ねた。彼女が一瞬頬を赤らめたのに白之は気づかなかった。
 殿《しんがり》をつとめたのは高橋だった。最後尾は恐怖感強いので、岡村と高橋はどちらが殿になるか揉めていたようである。
 仕方なく、くじで決めて高橋は溜息をつきながら最後尾を歩く。縦の列を組み、先頭に本宮、次に山座、その後ろに白之と姫子、岡村。最後に高橋という順番である。
「おい山座。お前は知っているのか? 敵国もここを狙っていることを。ここには一体何があるんだ」
「だから言っただろう。神だ。ここには神が眠っている」
「神って……。ここは神殿か何かなのか。日本の神話や伝承にこんな奇妙な遺跡が出てくることがあるのか?」
「ふふ、神殿か。そうだね、ここは神殿のような物だ」
 山座は不気味に笑うようにそう言い、本宮が懐中電灯を照らして遺跡の様子が目に入ってくる。
 遺跡の中は石造りで床も壁も構成されており、人工的な迷路のようになっていた。自然を利用したようではなく、古代日本の文明でこれほどのものが作れるのだろうか、と白之は疑問を感じていた。
「妙だなこの遺跡。まるで西洋の大きな城を歩いているみたいだ」
 ぼそりと白之は呟いた。実際に西洋の城を歩いて見たわけではないが、写真などで雰囲気は知っている。ここは遺跡というにはあまりに小奇麗で近代的であった。
 白之がそうして辺りを見回していると、姫子が彼の手をぎゅっと強く握り締めた。
「どうした姫子、怖いのか」
「ううん。でもなんだかすごく嫌な空気がするの。ここは人間がいちゃ駄目な空間だよ……」
 確かに姫子がそう言うように、人工的な雰囲気でありながらどこか人間を排出するような淀んだ空気が地下全体に流れている。時折視線を感じ、錯覚なのだろうが懐中電灯の光に不気味な影が映るようにも感じる。
「それは巫女としての意見かい。さすがは神と交信する神那岐一族のお嬢さんだ。敏感なんだね」
 山座は姫子にそう言った。姫子は山座に得体の知れない恐怖感を覚えているようで、彼の眼を見ようとはしない。ささっと白之の身体の影に隠れてしまう。
「ふふふ。どうも僕は子供に嫌われるようだ。傷つくなあ」
「だったらその奇妙な笑い方をやめろ山座。だいたい神と交信ってなんなんだ。お前は姫子を使って何をしようとしている」
「くくく、千石少尉、キミはテレパシーというのを知っているかい?」
「てれぱしー?」
「そうだ。日本語で言えば超感覚知覚、精神感応といったところだ。他人の心に介入する力だ。平たく言えば超能力というやつさ。キミの機械の心を読む力もその一種だろう」
「ふむん。成程な。姫子がそのテレパシー能力を持っているというわけか」
「ああ、ただし彼女は普通のテレパスではない。人間外の生物。それも神話や伝承の物たちと対話が可能なのだ。僕はイタコの降霊術や霊能術師の神宿りの法などはこの特別なテレパスによるものだと僕は考えている」
「そうなのか姫子」
「うん……実際私たちの一族は神託を聞いて飢饉や災害を避けてきたの。私たちの力なら災厄をもたらす荒神の存在も感知できるし。この力を陰陽術だとか魔術だとか超能力だとか好きなように呼んで貰って構わないけど……」
「うふふふふ。素敵な力だ。その力があればこの国は素晴らしい方向へ進んでいく……」
 手袋のままの指を噛みながら山座はそうなにやらぶつぶつ呟いていた。
 迷路のような道をどんどん奥へと進んでいく。すると、奇妙なものを彼らは発見した。
「…………中尉。あれ」
 ぼそっと低い声で本宮はそう言った。懐中電灯を|それ《・・》に向けて照らしている。そこにあったのは通路に転がっている西洋の甲冑であった。
「ほほう。これは――」
「おい山座! やっぱりここ日本の遺跡じゃないぞ。なんでこんなものが日本の山の中にあるんだ」
 そう言って白之は甲冑の兜を蹴った。だが兜は転がらず、固定されたままで、むしろ白之の足に激痛が走る。その転がっている甲冑は蹴っても触ってもびくとも動かない。妙だがやはりそれは西洋の騎士の甲冑にしか見えない。ここがもし本当に古代日本の遺跡というのならそれはありえないことであった。
「やはり私の思った通りだ……ここは……」
「おい何をぶつぶつ言っている。何か知っているなら話すんだ山座。俺は部下たちの命も預かっている。何も知らない状況で任務なんかできるか」
 白之は何か悦に浸っている山座の胸ぐらを掴み上げそう怒鳴った。だが山座は眉一つ動かさないで、冷徹な目を白之に向けている。
「離したまえ千石少尉。僕は上官だ。キミたちは僕の言う通りに動けばいい。それに、今ここから帰ろうとしても僕以外に道を記憶している者がいるのかい?」
「てめえ……」
「や、やめて下さい二人とも。少尉、ここは従っておきましょうよ。上からの命令なら仕方ないです」
 そう岡村は白之をたしなめた。白之の怒りは静まってはいなかったが、困惑した表情の姫子を見て落ち着きを取り戻す。彼はやはり今回の作戦には裏があるのではないかと疑っているようだ。だが今ここで逆らっても道に迷うだけだ。姫子も家に帰れないであろう。
「ちっ。わかったよ。それで山座。俺たちはあとどのくらい進めばいいんだ。ここの規模はわかっているのか?」
「わからない」
「なんだって?」
「だが神那岐嬢ならばわかるのではないのかな。神の鼓動が近づいているだろう?」
 山座は怯えている姫子へと目を向けた。心なしか姫子の顔色は悪くなっていた。やはり何かを感知しているようである。
「わからないよ……。でも、何かすごく嫌な感じが奥へ進むほど強くなってる……。やっぱりここは人間がいるべき場所じゃないわ」
 白之にはその感じはわからないが、姫子の顔色を見ると嘘や伊達ではないようだ。やはり自分と同じく特別な力が彼女にもあるのだろう。
「きっとあと少しだ。さあ先へ進もう諸君」
 山座は先頭の山座を促し、奥へ進んでいく。





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