【改造仁間―カイゾウニンゲン― 第五話】


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改造仁間―カイゾウニンゲン―

 第五話 「日常の始まり」


 午前五時。

 俺はあの男に指定された「採石場」に来ていた。
 まもなく日の出。東の空が徐々に白んでいく。
 何かに削り取られたかのように切り立った崖に、木々に囲まれながらもそこだけは草一本はえないむき出しの地面。およそ生き物の生気の感じられないその場所には、真夏だと言うのに寒々とした空気が漂っていた。
「さっさと出て来い変態覗き野郎!!片をつけに来てやったぞ!!」
 俺は虚空に向かってそう叫ぶ。すると案の定、いやらしい笑い声とともに崖の上に黒田が姿を現した。
「変態覗き野郎とは心外だな。情報収集といってくれたまえ」
「人の交友関係どころか、個人の連絡先まで調べてるストーカー野郎が情報収集とは笑わせる」
 八日前、里美先生が俺を助けてくれたのは明らかに偶然ではなかった。
 子供たちを学校に連れて行って何分もしないうちに同じ道を帰ってくるなんて事は、何かない限り普通はしないし、さらに偶然、俺を見つけたとして、俺が死なないように手当てをできる人がいるなんて都合が良すぎる。
 つまり俺を助けるように連絡したやつは、里美先生に連絡すれば呼び出しに応じてくれる治癒系異能者がいる、と知っていたと言うことだ。
「……気づいていたのか。私があの先生に君を助けるように連絡したことに。
 まあ、いいさ。私が手回しをしたことは事実。あまんじてストーカーのそしりを受けよう」
 大げさな身振りで事実と肯定する黒田。芝居がかったその態度は、自分に酔っている様でどうにも気持ち悪い。
 ……本当はそれだけじゃないだろうがな。初めて会ったときに俺の技を「知っている」と言ったってことは、それ以前、すくなくとも蜘蛛ラルヴァと戦った時から覗いていたって事だ。
 俺はとりあえずその事までは言及せず「そんなことより改造魔はどこだ」と問う。
「心配せずとも、ちゃんとお連れしたよ」
 黒田は気障ったらしく言うと、パチンと指を鳴らす。すると目隠しとヘッドホンを着けられ、なぜかメイドさんに連れられた改造魔が崖の上に姿を現した。
「改造魔!」
「仁ちゃん!」
 俺はその姿に思わず声をあげ、メイドさんに目と耳の拘束を解かれた改造魔は、俺を見つけて嬉しそうに名を呼ぶ。
「すぐ助けてやるからな! おい変態野郎、さっさと終わらせて改造魔は返してもらうぞ!」
 俺は改造魔に言い聞かせ、さらに変態覗き男・黒田に、そう言い放つ。
「フフ……そうあせる事はないだろう。
 間もなく招待した観客も来る頃だ。彼らにもしっかり私たちの戦いを観てもらおうじゃないか」
 俺の言葉を柳に風と受け流し、あらかじめ考えていたかのような芝居っ気たっぷりの台詞を吐く黒田。
「観客だと?」
「そうだ。今日まで君がお世話になった方々だよ。
 そら、皆さんお揃いだ」
 俺の疑問に答え、黒田は俺から向かって左を手で指し示す。その先には拍手先輩、皆槻先輩、結城さん、そして里美先生の四人がいた。
 みな一様に無言で、表情が暗い。
 ……段取りに妙にこだわる黒田のことだ、恐らくメールか何かで事の詳細を説明した上でこの場に呼んだのだろう。
 なるべく皆に迷惑かけないようにと事情を説明しないでいたのに無駄になってしまった……。
「さあ、これで舞台の準備は整った! 皆さんに私の新たなる力をお見せしよう!」
 高らかに宣言するが早いか、黒田は斜に構え、右手を腰溜めにし左拳を右肩の前に位置させる。そこから左手のひらを開きつつ左下に一気に振り下ろし、すぐさま顔の前まで引き上げる。
 そしてゆっくりと左手刀を前方に突き出し。
「ブラス・チェンジ!!」
 ひときわ大きな声でそう叫ぶ。
 すると奴の体を中心として黒光りする粒子が吹き出し、くるくると回転するドームを形成する。
「まさか……」
 驚きの声を上げる俺の眼前で黒田の体が闇色のプロテクターに覆われてゆき、光の粒子がひときわ強く輝くと燐光を残しながら消え去る。
 そして光の中から現れたのは、俺の『ガナリオン』とそっくりな、全身が黒い鉱石の装甲に覆われた戦士の姿だった。
 ……いや、少し違うな。顔つきは凶悪になり、装甲を縁取る部分は流れるように滑らかだ。『ガナリオン』が若干メカっぽいのに対してこいつは少し生物っぽい……。
「これが私の新たな力!その名も『ブラジオン』だ!!」

「おいおい、あの姿は……!」
「知っているの?拍手くん」
「ああ、あれは木山が変身した姿『ガナリオン』とそっくりなんだ……。
 けど木山の話じゃ、アレは乳神さ……じゃなくて造間《つくま》さんが作ったらしいんだが……」
 高らかに宣言した『ブラジオン』の姿に驚く拍手先輩とやり取りする皆槻先輩の声が聞こえる。どうやら奴の得体の知れない自信と態度に戸惑っているようだ。
 ……拍手先輩の言うとおり『ガナリオン』変身ツールは改造魔が作ったものだ。ってことは……。
「お前……どうやって改造魔にソレを作らせた? いや、それ以前にこんなに短期間で作れるわけがない」
 俺は疑問を口にしたが、それは新たな疑問の種を思い起こさせる。それは改造魔がツールを完成させるまでに一年近くの時間がかかっていた、というものだった。
「フフ……簡単なことだ。彼女の異能を超科学系異能者の手でエミュレートしたのさ。
 そして作成は通常の工作機械に任せれば、疲れもせず休みもしないロボットの手によって、ものの数日で完成だ……!
 今日までしっかりと慣らしもすませておいたよ」
 黒田は俺の疑問に応え、いかにも話したかったと言わんばかりに説明する。相変わらず大げさな身振りにイラつかされる。
「さあ、それでは始めようじゃないか! ブレイダーの英霊が眠るこの地で、『ガナリオン』と『ブラジオン』のどちらが優れているかを決める戦いを!」
 説明を終えて気を良くしたのか、奴は戦いの開始を宣言すると、7・8mはある崖から一気に飛び降りる。
 ……無茶な! 『ガナリオン』と同じ性能なら身体機能はさして強化されていないはず。だとすればこんな高さから飛び降りれば下手すれば大怪我だ。……っていくらこいつがアホでも無計画に飛び降りたりはしないか。とすれば……。
「ブラス・ナックル!!」
 黒田のいきなりな行動に面食らった俺を、奴の高らかに発した『コマンドワード』が現実に引き戻す。
「ガナル・チェンジ!」
 俺は変身ポーズを取るとそう唱え、すぐさまその場から飛び退く。直後、俺の立っていた場所にブラジオンの拳が叩きつけられ、砕けた地面から激しい土砂と土煙が舞い上がった。
「無茶をする! 殺す気か! というか死ぬ気なのか!?」
 声のする方を見ると、皆槻先輩が両手から激しく空気を噴出させて拍手先輩たち三人を降り注ぐ土砂から守っている姿があった。その声音からは俺の知る彼女にはない、驚きと困惑がうかがえた。
 ……そりゃこんな破壊力の技を生身の人間にかますの見れば驚くよな。
「フフフ……」
 不意に砂煙の中から黒田の忍び笑いが漏れ聞こえる。
 ……当然、無事か。という事は、『ガナリオン』と違って身体機能の強化もされているんだろう。……こりゃあ、まずはどれだけの違いがあるのか見極めなければ『新技』を出すどころじゃないな。
「さあ、改めて行くぞガナリオン! まずはこのブラジオンの力を見てもらおうか!」
 砂煙の中から歩み出てきた奴は、そう言い放つと一足飛びに俺の方へと間合いを詰めつつ「ブラス・ラッシュ!!」とさっきとは違うコマンドを発した。
 するといきなりおびただしい数の拳が俺に叩きつけられる。とっさに腕を交差させて防御はしたものの、何発かはまともに食らってしまい、俺は大きく後方にはじき飛ばされゴロゴロと地面を転がった。
 ……文字通り、パンチの連打ってわけか。しかしさっきの『ブラス・ナックル』といい、インパクトの瞬間に粒子の放出がない。技の形態だけじゃなく機能にも変更が加えられてるのか?
「まだまだ!」
 転がった状態から体勢を立て直しつつ考えをめぐらす俺に、再びブラジオンが迫る。
「ブラス・ブレード!!」
 奴の口からまた別のコマンドが響き、ブラジオンの両拳に二本一対の、ほんの少し内側に湾曲した鎌のような刃が形成される。その形はガナリオンの『ガナル・クロー』よりもずっと凶悪で、明らかな殺傷力をうかがわせた。
 ……こいつはどう見ても食らっちゃまずい!
 俺はブラジオンの左右の腕から幾度となく繰り出される斬激を何とかかわし、さばく。
「ハハハ! なかなかやるな、ガナリオン! それが太極拳を学んだ成果か!」
 言葉にと同時に繰り出された黒田の左右の爪での連撃を、俺は答えのかわりとばかりに受け止め、さらに奴の両手首を捕らえ、抑える。
「お前……変身ツールをどれだけいじった? パワーもスピードも明らかに強化されてるじゃねえか……!」
「フフフ……。いいだろう、教えてやる。
 君と初めて戦った時、私が身につけていた強化戦闘服『AMBS《アンブス》』は覚えているかな?あれを変身ツールに組み込んだのさ。さすがに『AMBS』本来の増幅効率そのままとは行かなかったが、それでも常人の二倍近い身体能力を得ることができた。
 さらに攻撃時の粒子噴射を一部オミットすることで魂源力の消費も抑えられ、計算上では同量の魂源力でも『ガナリオン』の数倍もの回数、必殺技を放つことができる……!」
 俺の問いかけに、黒田は案の定、嬉々として答える。
 ……まったく教えて欲しいこと全てに答えてくれてありがたい限りだ。
「……ずっりーなお前……勝負とか言って、端っからハンディ戦じゃねえかよ……!」
 と、俺はわざと弱音を吐いてみせる。
 黒田と俺のやり取りを聞いた改造魔が「そうだ!ずるいぞ!」と声を上げると、拍手先輩、皆槻先輩、結城さん、里美先生もそれぞれ「ずるいぞ!」「確かにずるい」「ずるい……」「ずるいよ……先生、ズルする子は嫌いだな……」などと口々に非難の言葉を漏らす。
「くっ、ずるくなど……!
いや、いや、違うぞ! これは戦略だ! 戦いに際し、万全を尽くすのは当然のこと!
 戦いは勝ってこそ意味がある! だからこそ私は己にできること全てをやっただけなのだ! 」
 皆に非難され一瞬ひるんだ黒田だったが、すぐに開き直りともとれる詭弁を滔々と吐く。
 ……良い感じに皆が煽ってくれた。ここからはどんどん揺さぶりをかけていくぞ。
「まだ、始まったばかりだってのに、もう勝利宣言か? とんだ早漏野朗だな……! そんなんだから彼女もできねえんだよ……!」
「なっ……黙りたまえ! 君にそんなことを言われる筋合いはない!
 大体、君だってしっかり特訓してただろう!
 ……そうだ、それだ! ガナリオン!君はまだ特訓の成果を見せていない!」
 俺の挑発に取り乱しながらも黒田は踏みとどまった。そして俺の両手を振りほどくと、大きく飛び退いてこちらに指を突きつけ「さあ、今度は君が見せる番だ! 修行の果てにつかんだであろう『新たな力』を!」と俺に話を向ける。
「言われなくても見せてやるよ。俺はお前と違ってコソコソしてたわけじゃないぞフラレ王。」
「ブラジオンだ!!」
「おっと悪い、間違えた。フラレナオン」
「ブラジオン!!だ!!
 さっさとしたまえ!!」
 俺は相手の平常心を奪うべく、挑発を重ねた。そしてそれは見事にはまり、黒田はすっかり頭に血が上ったようだ。それにしても語気は荒くなっても口調自体は変わらないのは筋金入りの「ええかっこしい」といった所か。ある意味、感心する。
 ……だが、もっともっと激昂してもらうぞ。今度は俺の『技』でな。
「わかったよ。行くぞ!」
 俺は黒田の言葉に応えると左手を腰溜めに、右腕を手の甲を見せるように体の前方で90度に曲げて構え「ガナル・フラッシュ!」と叫ぶ。
 それと同時に右手の甲にある『ガナル・コア』から真っ赤な閃光がほとばしり、俺の姿を覆い隠す。
「ぬっ!?めくらましか! 小癪な!」
 突然のフラッシュに目を焼かれたのか、ブラジオンは目の辺りを押さえ毒づく。
 俺は間髪おかず、今度は両腕を腰溜めにしてから、一気に両拳を広げつつ前方に突き出し「ガナル・ショット!」と発声した。すると両手のひらに赤い粒子噴射レンズが形成され、そこから真紅の光弾が射出される。
 その粒子弾は俺の眼前に漂う『ガナル・フラッシュ』の残光を突き抜けブラジオンに殺到した。
「飛び道具だと!? ガナリオンにそんな機能があったのか!」
 寸でのところで光の矢を避けながら、黒田が驚きの声を上げる。
「機能があったんじゃない。『今』作ったんだ!」
「何だと!?」
 俺の発言に黒田はさらに動揺の色を深める。
 ――まだまだ!
「ガナル・ブースト!」
 再びコマンドワードをを叫び、背中の噴射口から鮮赤の粒子を噴出させると、今度は俺が一発の弾丸となって飛び出す。そしてその勢いを利し「ブースト・パンチ!」の叫びとともに右拳をブラジオンにたたきつけた。続けざまに今度は「スピン・ブースト」「ブースト・スピンキック」と発声し粒子噴射の勢いを込めた回し蹴りを炸裂させる。
「ぐおお! 何だこれは!?
 なぜ私の知らない技ばかり繰り出せる!? なぜ粒子の噴射を操れる!?
 そんな機能は『ガナリオン』にはなかったはずだ!!」
「言っただろう?『今』作ったんだと!
 それに粒子噴射なんてオミットするまでもなく自在に操れるんだよ!
 今まで、さんざん覗き見してやがったんだろうが無駄だったな! これから使う技は全部お前の知らない技だ!」
 ついさっきまで侮っていた相手に攻めたてられ、黒田は激しく狼狽する。俺はそこに、さらに言葉での追い討ちをかけた。
 これで精神的に優位に立ったと思った俺だったが、さすがにそこまで甘くはなかった。
「なめるな!! たとえ知らぬ技だろうと、このブラジオンの力で打ち砕いてくれる!!」
 黒田はそう叫ぶと、気合とともに俺を裏拳で弾き飛ばす。
 ――追い詰めすぎたか。我を忘れさせるつもりが、かえって決心を強めさせてしまった。
 こうなったらまともにぶつかりながら、どこかに活路を探すしかない。

 まともにぶつかる。その結果はツールの性能差が如実に現れることになった。
 装甲の硬度こそ同等ではあるが、繰り出す一撃々々の威力は確実に『ブラジオン』の方が上で、武装もより攻撃的だ。
 攻撃を受け止め、さばくうちに、『ガナリオンの』装甲は確実に軋み、削られ、次第に全身がひび割れてゆく。それにともなって、生身にまで響いた衝撃が俺の体力をどんどん奪っていく。
「……木山くんちょっとマズイんじゃない?何とかして助けないと……」
「そうは言っても相手の手の内に造間さんがいるんじゃあ、うかつに手を出すわけにも行かないよ。
 ここは彼の頑張りを期待するしかないと思う」
「くっそー何やってんだよ……もっとこう、サッとさばいて、ああそうじゃないだろう……」
「頑張ってガナリオン……!」
 俺の耳に戦いを見守る四人の声が届く。
 ……意外と聞こえるもんだな。って、やっぱ心配かけちゃってるよなあ……。
 なんとか『新技』を叩き込む隙を作らなきゃ……。
「ハハハ!どうしたガナリオン! もう打つ手なしか? さっきまでの威勢はどうした? まだ見ぬ技を見せてみろ!」
 次第に大きくふらつき始めた俺に、ブラジオンは容赦なく拳を叩き込みながら挑発の言葉を投げかける。その口調には既に勝利を確信した余裕があった。
 挑発されてもこちらには応える余裕はなく、次々に直撃を許してしまう。
 そして、やがては膝を折ることになった。
「フフ……。もう立ち上がる気力もないか? ……どうやらこれまでのようだな。ここまでよく頑張ったとほめておこう。
 ではこの一撃でこの戦いに終止符を打つとしよう……!」
 ついに膝をついた俺を見下ろしながら黒田はそう言うと、続けて「ブラジオン・ジャンプ!」とコマンドワードを発した。
 俺の目の前で黒く輝く粒子が噴出され、ブラジオンを天高く舞い上がらせる。俺から距離をとる様に遠ざかっていくその動きは、やけにゆっくりとして見えた。
 ……ダメだ。このまま終わっちゃ。まだ何もできていない。改造魔を助けなきゃいけないんだ。世話になった皆にも恩を返さなきゃ。まだ魂源力は尽きていない。技を出す隙さえ見つけられれば……。
「ブラジオン・ブレイク!!」
 ……隙?
「仁ちゃ――ん!!」
 考えに沈む俺の頭上から必殺技を繰り出すためのコマンドワードが響き、それよりも遥かに通る声が俺の耳に飛び込むと、一瞬で脳内を走り抜ける。
 顔を上げると上空からは黒い粒子を撒き散らしながら赤熱したブラジオンの左足が迫り、視界の端には俺を助けるためか走り寄る、拍手先輩と結城さん、文字通り飛んできている皆槻先輩、異能の火矢を放とうと弓を引く里美先生。

 そして何事か叫ぶ改造魔の姿があった。

 走馬灯効果とでも言うのだろうか?俺の周りの動きは相変わらず緩慢で、音も聞こえなくなっていた。
 それでも、今すべきことだけはハッキリと理解できた。

――『必殺技』を出している間は何もできない。つまり今、奴に隙ができている。ならば。

「ガナリオン・トルネード!!」
 俺は腰溜めにした両拳を急速に落下してくるブラジオンに向けて突き出し、叫ぶ。
 すると、一瞬で両手首のリングパーツが手の甲のガナルコアと一体化し、直径三十センチあまりの大きさまで肥大化。それと同時に右のリングは時計回り、左のリングは反時計回りに激しく回転を始め、ガナルコアから発せられた大量の赤い粒子が渦を巻き、地上から伸びる二重螺旋の竜巻となってブラジオンに襲いかかる。
 二本の竜巻と、光の矢と化したブラジオンが接触し、金属同士がこすれあうような乾いた甲高い音が辺りに響いた。
「くおおお!?な、何だこれは!! 『ブラジオン・ブレイク』が押しとどめられるだと!?
 ぐあッ!?」
 驚きの声を上げたブラジオンは、その一瞬後に真っ赤な粒子の奔流に飲み込まれ、互い違いに回転する螺旋に全身をくまなく拘束される。
「うおおお!!う、動けん!! だが、この程度の攻撃で私を倒すことなど……」
 拘束されてな尚、不敵な台詞をはこうとする黒田だったが、俺はそれを聞き届けもせず「ガナリオン・ジャンプ!」と、次の行動へと移る。
 そう、『ガナリオン・トルネード』は第一段階に過ぎない。次こそが本命だ。
「みんな離れて!」
 俺は急速に上昇しながら足元を見下ろし、俺を救うために駆け寄ってくれた人たちに、大声でそう促す。
 最も近くまで来ていた皆槻先輩は、俺の言葉に一瞬あっけに取られた表情を浮かべたが、すぐに踵を返すと後に続いていた拍手先輩と結城さんを捕まえ、両肩に担いで飛び去る。
 それを見届けた俺は今度は改造魔の方へと目を向ける。あいつの目には涙が浮かんでいたが、その表情には驚きが、そしてそれよりずっと大きな期待が表れていた。
 ……見てろ改造魔。今からお前の作った『ガナリオン』がどれだけ凄いか証明してやる!
 俺はブラジオンへと向き直ると、手を大きく広げて伸身後方宙返りを決め、さらに体をひねる。
「ガナリオン」
 その発声で両足から。
「スクリュー」
 その発声で両肩から回転を補助する粒子が吹き出し。
「クラッシュ!!」
 その発声で背中から全身を押し出すジェット推進のごとき粒子が放出され、宙を舞う『ガナリオン』の体は真っ赤な尾を引く巨大な回転弾となった。

 激突した二つの高硬度鉱石の装甲は文字通り岩を掘削するような鈍い音を巻き起こし、ブラジオンを絡めとった竜巻の拘束力と人間ドリルと化したガナリオンの突進力の拮抗が、両者をしばし空中に押しとどめた。
 しかしそれもつかの間、『ガナリオン・トルネード』の源たるリングが魂源力を放出し尽くすと、『ガナリオン・スクリュークラッシュ』の回転力は余す所なくブラジオンへと伝わり、拘束を解かれた奴はさながら盤上で回転するレコードのような姿を晒しながら、十年前のある戦いで作られたという崖の、むき出しの岩盤の一隅に叩きつけられる。
 そしてそこに新たな戦いの爪痕として、小さな崖が生み出された。

 辺りを包む閃光と轟音、そして大量の土煙が収まると、半ば土砂に埋もれながらうつぶせに倒れているブラジオンの姿が現れた。かく言う俺も同様に地面にぶっ倒れている。
 ……回転が凄まじくて目が回ったなんて言えない。もちろん体力も底を突きかけだけど。
「うう……く……。なんと凄まじい技だ……。
 拘束が解けた瞬間、『ブラジオン・フォース』で防御していなければ即死だった……」
 まだ目を回している俺の耳に黒田のそんな呟きが聞こえてきた。
……最後の最後までかっこつけ通すとは、こいつちょっと凄い奴なんじゃない?それはさておき。
「ははは……。どうだ、俺の新技の威力は……!
 先輩たちと稲生先生の教えの全てを込めた、最強・最後の必殺技だぜ!」
 俺はふらつく体に鞭を打ち、何とか立ち上がって前口上を述べる。
 そして

「この勝負は俺の勝ちだ!」

 と、高らかに宣言した。

 俺の勝利宣言を聞いて皆槻先輩と、彼女に抱えられたままの拍手先輩と結城さん、そして里美先生が歓声を上げてこちらへ駆け寄ってくる。
「やったな木山くん」
「すげえ大技だったな! っていうか、そろそろ下ろしてくれ皆槻」
 皆槻先輩が俺の勝利をたたえ、拍手先輩が彼女のぶら下げられたまま後に続く。
「っと、木山くんお疲れ様。ちょっと痛いと思うけど傷、直すわね。」
「ガナリオン! よかった無事で……」
拍手先輩とともに皆槻先輩の腕から開放された結城さんがそういって俺の肩に触れ、遅れて到着した里美先生が無事を喜ぶ。なぜか俺を『ガナリオン』と呼ぶのが気になったが、まあいいか。
「皆さん、ありがとうございます。あたたた!」
 礼を言う俺に結城さんの力が流れこみ、俺は苦痛に思わず声を上げる。
 彼女の異能「ペインブースト」は傷を治す代わりに、被術者に治るまでの痛みを一気に感じさせてしまうのだそうだ。
 普通ならあんまり痛いのは嫌な俺だが、今は体中の打撲が治るのと同時に意識がはっきりしてくるのがありがたい。
「ありがとう、結城さん。もう大丈夫。」
俺は結城さんに礼を言うと、ぐったりと座り込んだままのブラジオンに向き直る。
「さあ、約束どおり改造魔を返してもらうぞ」
「……ああ、約束は守る……。静《しずか》くん、造間さんをこちらに」
 俺の言葉を受け頷いて応えると、黒田は頭上を振り仰ぎ、改造魔とともに崖に立つメイドにそう指示を出す。
「わかりました」
「まて静ちゃん! あらたちゃ……彼女を解放してはならんぞ!」
 黒田の指示に応えたメイドを、別の声が制止した。

 その声は崖とはちょうど反対側、俺が朝ここに来た方向から響いた。
 俺たちがそちらを向くと、そこには妙な仮面をかぶった白髪の老人の姿があった。さらにその背後には多数の人型ロボットが並んでいる。
「ですがドクター。約束は守らなくては」
「ワシは認めとらんぞ! こんな小僧にワシのかわいいあらたちゃ……んん、とにかく開放することは許さん!
 小僧!今度はワシのロボットたちが相手だ!」
 老人はメイドの反論を強引に切り捨てると、俺に指を突きつけてそう言い放ち、さらに「行け!」とロボットに指示を飛ばす。
 すると、二十体はいようかというロボットたちは一斉にこちらに向かって駆け出した。
「くそ! 聞いてないぞこんなの!」
 俺は思いもよらない展開に毒づくと身構える。が、俺の前に二人の人が進み出ると。
「ちょうど疼いていたところだ。私も参加させてもらうよ」
「後輩と女にだけ戦わせるわけにはいかないよな……!」
と、こちらを振り向き言う。
「皆槻先輩、拍手先輩……」
「私もサポートするわガナリオン! 早く終わらせて造間さんを取り戻しましょう!」
 驚く俺の手をとり里美先生もそう申し出る。
「わかりました。ささっと片付けましょう。
 ……改造魔!もうちょっとだけ待っててくれ!」
 俺は里美先生の言葉に頷いて応え、改造魔にそう告げる。すると改造魔は「うん!」と元気な声で応えた。

 戦いは一方的なものだった。
 学園きっての戦闘力を誇る皆槻先輩は文字通り飛ぶように戦場を駆け抜け、彼女の通り道にいたロボットは次々に、四方八方に吹き飛ばされていく。なんというか「ひき逃げ」って感じだ。
 一方、拍手先輩は地道に攻撃をさばき、かわし、捕まえたロボットを人のいない方へと投げ飛ばし、そこを里美先生が「火の矢」を射って止めを刺すという連携を見せていた。思いつきでこんな事ができるとは、やはりマスタークラスの武道家と、異能教育機関の教師は伊達じゃないなと感じさせられた。
 そんな中、俺はたまに取りこぼされたロボットを数体「ガナル・クロー」付きのパンチで殴り倒す程度だ。もう魂源力も残り少ないしね。
 どうやらこのロボットは学園に多数配備されている訓練用のものと大差ない性能のようで、それほど手ごわくはない。
 そして数分、あっさり戦闘は終了した。

「さあ、ロボットは全部倒したぞ。もう種切れか?じいさん」
「うぬぬ……」
 最後のロボットを殴り倒し、俺は老人にそう言い放つ。さすがにもう打つ手はないのか、老人は拳を震わせて呻く。
「もう、おやめくださいドクター。我々の負けです」
 不意に頭上から声がし、続いて改造魔の悲鳴が響いた。
 驚いて振り向くと、改造魔をお姫様抱っこして崖から飛び降りたメイドが、音もなく着地する所だった。「白……」そんな拍手先輩の呟きが背後から聞こえてきたが、今は改造魔のことが先だ。
「木山さん、改《あらた》さんをお返しします。私の主人がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
 メイドは改造魔を地面に降り立たせると、俺に深々と頭を下げる。本物のメイドなど見たこともない俺だが、彼女の所作は美しく完璧なものに感じた。
「さあ、改さん。あなたの大切な人のところへお戻りください」
 彼女はそういうと改造魔の背中をそっと押す。改造魔はそれに頷くと、全力で駆け出す。
 ……これはアレだな、俺の胸に飛び込んでくるな。とりあえずぶつかったら痛いだろうから変身は解いておこう。
 という気遣いが伝わったのかはわからないが、改造魔はこれ以上ない勢いと角度で、変身を解いて生身を晒した俺のみぞおちに頭を叩き込んできた。その勢いに押されてしりもちをつく俺。
「おぐっ!!……お、お前、どういう勢いで突っ込んできてんだ……」
 俺は思わず文句を言ってしまうが、改造魔はそれに応えず、ただ無言で俺にしがみついて離れない。
「木山さん。改さんのこと、よろしくお願いします」
 というメイドさんの声に視線を上げると、ついに気を失ったのか、変身の解けた黒田が彼女の肩にかつがれていた。
「……はい」
 彼女の言葉は落ち着いていて、とても耳に心地よいものだったが、その中には有無を言わせない強さも秘められているように感じ、俺は思わず素直に答えてしまった。
 すると彼女は目を伏せてから小さく頭を下げ、一人立ち尽くす彼女の主人の方へと歩き去っていった。
 ……一体、何者なんだろうあの人。崖から飛び降りるし人一人軽々と抱えるし……あ、じいさんも担いでいった。すげー暴れてる。まるで駄々っ子だな。
「……しかし、あの爺さんは一体何なんだ、突然出てきて……。
 っと、改造魔。お前、大丈夫か? 何も変な事されなかったか?」
 俺はしがみついて離れない改造魔にそう問いかけ、改造魔はそのままの体勢で首を立てに振る。
「うっぷ。苦しいぞ改造魔。そろそろ離れろ。……みんな見てるし」
「やだ」
 俺はみんなの視線に気づき離れるよう促すが、改造魔から返ってきたのは拒否の言葉だった。
「だって一週間も会えなかったんだよ? その分、くっつく!」
 ……どういう理屈だ。っていうか一週間分でどれだけだよ。……まあ、気持ちはわからんでもないけど。
「木山くん、あのおじいさんの事なんだけど」
 改造魔の発言に戸惑いつつもそんなことを考える俺に、不意に里美先生が話しかける。
「ええと、順を追って話すわね。ばれないように少しだけ調べてみたんだけど、今回の造間さんの失踪期間は学生課に『里帰りのため』という島外外出申請があったみたい。それも造間さんのお祖父さん、ご本人から。
 だから多分、あの仮面の人は造間さんのお祖父さんだと思うわ」
 里美先生がそう言うと、「へ!?ってことは祖父さんが孫を誘拐するためにわざわざ申請まで出してたってこと?」と拍手先輩が驚きの声を上げる。
「多分、そういうことだと思うわ。
 そして彼女の異能を利用して『ガナリオン』に対抗させるべく『ブラジオン』を作り上げた。
 一体、何故なのかはわからないけど、何か『ガナリオン』を倒さなきゃいけない理由があったんでしょうね」
 拍手先輩の発言を受けて、里美先生はそう話を続けた。
「……多分、あたしが仁ちゃんと一緒に暮らしてるのが、お祖父ちゃんにばれたからだと思います。」
 一瞬の間の後、俺の胸元にある改造魔の口からポツリとつぶやきがもれた。
「「「え!?」」」
 改造魔の口から発せられた「一緒に暮らしている」という言葉に、事情を知らない皆がそろって驚きの声を上げる。そりゃそうだ。大学生ならともかく、高等部の学生が同棲してるなんて普通はありえないもん。あれ?里美先生は驚かなかったような。
「ちょ、え?ちょっと待って。ってことはお前まさか神様にエロい事を!?」
「こ、こら、そうじゃないだろう! ってことはつまり……」
「孫娘が彼氏に取られたのが気に入らなくて嫌がらせしてたって事!?」
「……だとすると『ブラジオン』の彼は、変身ツールを餌に使われてた『駒』だったのかしら……」
 さらに拍手先輩、皆槻先輩、結城さん、里美先生と順番に話がつながっていく。拍手先輩は何かずれてた気もするけど。
 ……しかし、みんなの推論どおりなら、なんてはた迷惑な祖父さんだ……。そんなアホな理由でここまで大事おこすかなあ……。そのせいで俺が何人の人に迷惑かけたと思ってるんだ……。黒田の奴もご愁傷様だな。いや、変身ツール自体は手に入ったんだから、そうでもないか……。
「ごめんなさい……。あたしがお祖父ちゃんにちゃんと説明しなかったから皆さんに迷惑をかけて、本当にごめんなさい!」
 一言ボソリとつぶやいた後、改造魔は勢いよく立ち上がると、四人に深く頭を下げる。その反動で乳が大きく揺れ、それを見た拍手先輩は「おお……!」などと声を上げたが、それはまあ今はどうでもいい。
「改造魔お前……いつ気づいたんだ?」
 俺は頭を下げたままの改造魔に問いかける。
「確信ができたのは仮面をつけたお祖父ちゃんが現れたとき……。
 ううん、それまでもなんだか違和感はあったの。閉じ込められてはいたけど、さらわれたのに妙に良い環境だったし、静さんはすごく優しかったし……」
 質問に答える改造魔の声には、申し訳なさと不安があふれていた。
 おそらく、今回のことが全て「狂言」だったと思われるのではないか、とでも考えているのだろう。
 ……馬鹿だな。そんなこと思うかよ。
「気にするなよ。お前が無事に帰ってくればそれでいいんだ。迷惑かけた人たちには俺がちゃんと謝っとく。
 だからお前はなんの負い目も感じる必要はないよ」
「そうそう!俺も結構楽しかったし!」
「うん、意外と良いトレーニングになったしね」
「気絶した木山くんを治して起こすのもちょっと面白かったし」
「安心して。二人がラブラブなのは見ててよくわかってるから、あなたが木山くんに心配かけるようなことするなんて思ってないわ」
 俺の言葉に続けて皆が次々に気遣いの言葉を述べる。
……みんな改造魔の気持ちに気づいてくれたんだ。やべえ、俺泣きそう。
「よし、じゃあ家にかえろう、改造魔」
 決壊しそうな涙腺を気合で抑え、俺は立ち上がって改造魔の頭に手を載せると、そう促す。
「……うう……仁ちゃ――ん!!」
 ついに感極まった改造魔は顔をくしゃくしゃにして、再び俺の胸に飛び込んでくる。OK、今度はみぞおちは回避した。
「そういえば木山くん……」
「は、はい」
 里美先生に話しかけられ、同棲のことを追及されるのかと身を硬くする俺。
 だが、彼女の口から発せられたのは、まったく別のことだった。
「退魔ポイントの事なんだけど、何かの手違いで本来ないはずのマイナスになってたみたい。
 造間さんのことを調べるついでと言ってはなんだけど、子供たちを助けてくれた時から計算しなおしたら、ちゃんとプラスに戻ったから安心して」
「……へ?」
 ……なんだって?あのマイナス表示は間違い?ってことは俺は金欠ではない?というかデンジャーが言ってたマイナスポイントは言葉だけで実は引かれてなかったってこと?……意外といいやつじゃんデンジャー!ツンデレってやつ?
 ……じゃなくて……もしかして別に引っ越さなくても仕送りとTPをやりくりすれば暮らしていけてたって事?
 なんじゃそりゃああああああああ!!
「でもま、そのおかげで彼女と同棲できてるわけだし、結果オーライじゃない?」
 衝撃の事実に呆然とする俺に、里美先生はそんな言葉を軽い口調で投げかける。
……というかこの人なんでこんなに寛容なの?
「くっそー……なんで後輩には同棲するような彼女がいて俺には専用のおっぱいがいねえんだよ……」
「ほら、馬鹿なこといっていないで、用事は終わったんだから後は二人きりにしてあげようよ」
「というわけで木山くん、私たちはこれで失礼するね」
「造間さんととお幸せにね!」
 今度はなんだか釈然としない里美先生の態度に言葉を失っている俺に、四人は口々に別れの言葉を告げて踵を返す。拍手先輩はやっぱり何か違うことを言ってた気がするが突っ込む余裕はない。
 が。
「……はい、ありがとうございました」
 と、俺はかろうじてお礼だけは言うことができた。

 皆が去り、俺たちはしばらくその場に立ち尽くしていたが、落ち着きを取り戻した俺は改造魔に「……そろそろ離れろよ」と言う。
 しかし改造魔は首を横に振り、さっぱり離れようとしない。
「おいおい、なに駄々こねてんだよ。もう帰ろうぜ」
「やだ」
 今度は帰宅を促すが、やはり拒否される。
「なんなんだよ……なんで帰りたくないんだよ」
「だって、帰ったら仁ちゃん、出て行っちゃうかもしれないもん」
 ……ああ、そういうことか。まあ、今までの俺の態度なら自活する余裕があったらそうすると思うかもな。
「心配すんなって。出て行きゃしないよ」
「ほんとに?」
「ああ、俺の言うことが信じられないのか?」
「……信じられない」
 ……おいおい、押し問答の末にそれかよ。
「あの日の続き……」
「へ?」
「あの日、あの後なんて言うつもりだったの?
 あたしは仁ちゃんのこと好きだよ……。仁ちゃんはあたしのこと好き?」
 改造魔は俺を見上げ、あの日、改造魔がさらわれ、俺が黒田に叩きのめされる直前にしたやり取りを再現してみせる。
 ……ああ、そうか。そうだな。ちゃんと言わなきゃな。
 意を決した俺はニッコリと笑い。
「……俺もお前が好きだよ」
 と、そう告げた。
 が。
「信じられない」
 改造魔の口から放たれたのは、やはり疑念の言葉だった。
「お前なあ!じゃあ、どうすりゃ信じるんだよ!?」
 これにはさすがの俺も頭にきてしまい、声を荒げる。
 ……俺は真面目に言ったんだ。これ以上の言葉は思いつかねえぞ! 好きだってのを伝えるのに好きだ以外どう言えば良いんだよ!
「キス」
「はあ!?」
「キスして」
 いきなり何言い出すんだこいつは!何がキスだ!俺はいま好きがどう伝え……え?キス?
 混乱した頭で言われた言葉に対処しきれず再び声を荒げた俺だったが「キス」という単語が意味するものに思い至って、冷や水をぶっかけられたように急速に頭が冷える。
「……なんだって?」
「キスしてくれたら信じる!」
 俺が発言の意図を問いただすと、改造魔は真顔でそう答える。
 ……いきなり過ぎるだろそれは……。ここでそうくるかなあ。……いや、くるかもなあ……。どうみても勝負どころだもんなあ……。
 戸惑う俺を尻目に、改造魔は目を瞑ると少しあごを上げ、唇を突き出してみせた。俺の体に巻きつけていた腕もTシャツの前面をつかむように移動している。
 ……これは、絶対逃がさないって感じだな。すげえ執念を感じるぜ。今までの俺なら、確実にビビッてたところだ。
 だが、今はそうはいかない。
「いいぜ」
 俺はそう言うとすぐに唇を重ねる。
 こう来るとは予想していなかったのか改造魔の体がびくりと跳ね、目は驚きに見開かれる。
 しばらくは目をしばたかせていた改造魔だったが、次第に体の力を抜いてゆき、ゆっくりと目を閉じた。

 それは、ようやく俺たちの気持ちが一つになった瞬間。見ているのはすっかり海上に顔を出した太陽だけだった。

「あ」
 ガサリと動いた茂みに目をやるとコソコソとこちらを伺う、帰ったはずの四人の顔が見えた。声を上げたのは、音を立てた張本人らしい拍手先輩だった。
 拍手先輩はしまったという、皆槻先輩は申し訳なさそうな、結城さんは少しうらやましそうな、里美先生はやけに嬉しそうな、そんな顔をしていた。
「え、えーと。ご、ごゆっくり」
 皆槻先輩がそう言うと四人は連れ立って足早に去っていく。

 ……見ているのは太陽だけではありませんでした!!




改造仁間―カイゾウニンゲン―     完







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