【女子高生彩子の学級日誌 2日目】


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。




 六谷彩子は自称「最強の女子高生」である。
 非常に気の強い性格だ。中等部時代はクラスの男子を虐げてはこき使い、女子から羨望の眼差しをこれでもかというぐらいに集めて見せた。
 そんな彼女は今年、双葉学園本校に復帰し、高校二年生に進級する。
 新しいクラス、それは「二年C組」。
「ふふふ、どんなクラスか知らないけどぉ、この彩子様がみーんな支配下においてみせるわ! 六谷家の名にかけて!」


   その三 委員長との喧嘩


 双葉山がみずみずしい若緑に姿を変えて、ようやく暖かいそよ風もやってきた頃だった。
「くぉらぁ―――ッ! 召屋正行―――ッ!」
 ズバーンという、教室の引き戸が縦に吹っ飛んだ音。
 彩子は「ひっ」と肩を大きく動かし、恐る恐る後ろを振り向く。
「あんたって人は、また昨日も私の大切な千乃と一晩過ごしたんですって!」
「頼むから何度も何度も言わせないでくれ! 俺たちはただ、あの数学教師に厄介ごとを押し付けられているだけであって!」
「ちょっと大目に見たらコレよ。・・・・・・久しぶりにキレちゃったわ。屋上行きましょ」
「いや、だから俺は好きであんな男と」
「『あんな』とか言うんじゃない! もう許さない。絶対に許さない。今日こそ白黒着けるわよ!」
「そんなつもりはねえって! おい、誰か、コイツを止めてくれぇー!」
 シャツの襟を掴まれ、ずるずる連行されていく召屋。C組の面々にとって、すっかりお馴染みとなってしまった平和なお昼の一コマである。
 だがその間、彩子はがたがた怯えながら机の下に身を潜めていた。
 彩子は先月、春部里衣にこれでもかというぐらいに打ちのめされてしまった。
 猫嫌いな彩子にとって、まさに最悪の敵だった。べったり密着され、首筋や指先を舐られ、柔らかい体毛で全身を撫で回されてしまった。彩子は完全に彼女のことが苦手になってしまったのだ。
 春部がこうしてズカズカとC組に入り込んできている以上、また何をされるかわからない。彩子はC組の一員となってから早一ヶ月で、冒頭のような破天荒さが影を潜めつつあった。


 それでも、プライドの高い彩子だ。どうしても譲れない場面はあるのだ。
「ちょっと六谷さん?」
「何よ」
 大嫌いな案畜生の声を聞いたとたん、心の中に熱い怒りの炎が舞い上がる。彩子は立ち上がり、自分の机をはさんでそいつと対峙した。きつい目つきをした眼鏡少女同士の対決が始まった。
「何よじゃないでしょ? いい加減、どうにかならないの? その竹刀」
 壁に立てかけてある、彩子の竹刀を指差しながら言う。
 彩子は幼い頃から剣道をたしなんできた。今も河越明日羽の家の道場で、鍛錬を積んでいる。だから、学校のときも家にいるときも町を歩くときも、いつも竹刀を手放さない。しかし、C組委員長・笹島輝亥羽は、彩子が竹刀を持ち歩いていることを非常に気にしていた。
 彩子はつんと鼻先を上げながら、委員長にこう言う。
「武器ぐらい持っててもいいでしょう。他にもそういう生徒いるじゃない」
「あなたねぇ・・・・・・。その竹刀で、どれだけ周りの人間が被害こうむったか、理解して言ってる・・・・・・?」
 委員長のまっさらなおでこに、ビキビキッと青筋が走った。
「肩と肩が触れたからって、男子生徒のケツを竹刀で引っ叩いたり、冗談でセクハラ気味の発言をかました男子教諭の右手に『小手』をかましてチョーク握れなくさせたり、しまいにはほんの少しでも胸に視線を投げかけた拍手くんに、見るも鮮やかな面打ちをぶちかまして泣かしたり! 竹刀を握らせた六谷さんは危険すぎるのよ!」
「正当防衛よ。私なりの指導でありコミュニケーションなの。わかる?」
「わっかるわけないでしょうがあッ!」
 笹島は手のひらで彩子の机を叩いた。縦に深いひびが入ってしまった。
「おかげで今や、あなたを中心として半径三メートルに男子が近寄れないという異常事態! 体育や班活動で悪影響を及ぼしているのよ? 他の科目の先生とか、みんな困っちゃってるじゃない!」
 まーた貧乳が厄介なこと言って騒いでんなと、彩子は眉を吊り上げながら思った。
 もともとクラス委員になりたかった彩子にとって、目の前の笹島輝亥羽は非常に気に食わない相手であった。予期せぬトラブルによって選出の会議に出席できなかったのが悪いのだが、あれだけ喉から手が出るぐらい欲しかったクラス委員長の座が、こんな地味でつまらない印象を与える女の手に渡ったと思うと、傲慢な彼女はいよいよ不愉快になる。
 だから、彩子は頑として笹島の指導には耳を貸さなかった。
 そしてこのような困った存在によって、そろそろ笹島の怒りが爆発しようとしていた。頑固者と頑固者が張り合っていては、いつまで経っても収拾は付かないのだ。
「いいこと? 六谷さんは竹刀を持ち歩くのを即座に止めなさい! 二十四時間以内に何とかしなさい!」
「冗談じゃないわ。私は剣術で戦うのよ? 武器の携帯も許されないなんて馬鹿げた話、聞いたことないッ!」
「六谷さんの異能は『遠距離攻撃』って耳にしましたけど?」
「うっ・・・・・・。どこで知られたんだろ・・・・・・」
 彩子は異能の性格上、こういった生徒間との張り合いで異能を使うことができない。
 それは『ファランクス』が遠距離特化型であるためで、まさかこんな狭い教室内で派手に火を噴くわけにはいかない。それに、発射前に相手の動きをインプットしなければならないので、攻撃まで時間がかかってしまうのだ。
 そのような癖のある性質が災いし、彩子は喧嘩で異能を使うことができない。だから、相手に対して優位に立つためには、どうしても剣術――竹刀が必要となるのだ。
「とにかくね、あーだこーだ言ってないで人の言うことを聞きなさい。ただでさえ他から変態クラスと指を差されて、毎日春部さんにドア蹴破られて、担任や醒徒会や風紀委員に嫌味言われて! 私はストレスで胃袋ひっくり返っちゃいそうなのよ!」
 笹島はものすごい剣幕でまくしててる。とんでもない大音声に彩子は両耳を塞ぐ。
「しかもね、あなたのお姉さんから風紀委員を経由して、委員長であるこの私があなたの面倒を見るよう言われているんです。学生課の幸子さんからもね! 断れるわけないじゃない! どうして私があなたの世話を焼かなきゃならないのよ!」
「知ったこっちゃないわ・・・・・・!」
 口角泡を豪雨のごとく真正面から浴びせつけられ、お洒落な眼鏡はべっとりと汚されてしまった。彩子はこめかみをぴくぴくさせながら、据わった低い声でこう言う。
「竹刀を取り上げられるぐらいなら・・・・・・」
 そして、ついに立てかけてあった竹刀を握った。
 彩子は大きく振りかぶる。短気な彩子の怒りが頂点に達した瞬間だった。
「委員長、私はあなたを消してやるぅーーーッ! きええええええい!」
 ばこーん。
「ぐえっ・・・・・・」
 笹島のつるんとしたおでこに、まるまる面打ちが入ってしまう。
 あまりにも痛快な「いい音」が高らかに響き、クラスメートは一瞬にして沈黙してしまう。
「あ、ゴメン。まさか避けないとは思ってもみなかった」
 彩子は竹刀を委員長の頭にめり込ませたまま、慌てて謝った。
「そう・・・・・・。六谷さんはそういう態度に出るの・・・・・・」
 委員長の右手が輝き始める。周りの男子が「やばい、六谷、逃げろ」と呟いたが、遅かった。
 ブッチンという、何かがちょん切れる音を誰もかもが聞いた。
「あんたはいっぺん頭を冷やしてきなさ――――――――――――――――い!」
 彩子は真正面から、笹島の反撃を頂戴する。
「復讐の弾丸」を食らって吹っ飛び、彼女は壁を突き破ってD組の教室に突っ込んだ。
 勢いのままE組、F組、G組と、ばこんばこん壁を突き破って飛んでいき、H組の教室に突入してようやく落ち着く。
 H組の生徒たちは何が起こったんだと、いきなり黒板を突き抜けて飛び込んできた彩子のところへ寄った。うつ伏せになって水色のパンツを露出し、ぐるぐる目を回している彼女のことを、優しい有葉千乃が気遣う。
「C組の六谷さんだー。保健委員さん、保健室に連れていってあげてくださーい」
 朦朧とした意識のなか、絶対にあの委員長だけには逆らうまいと、心に誓ったのであった。


 その後、彩子は目覚めると保健室のベッドにいた。
「あれ? 私どうしていたんだっけ?」
 むっくり起き上がって眼鏡をかけたあと。はっと一つ思い出し、横を振り向いた。
 隣のベッドには誰もいない。
 どこか釈然としなかった彩子は、声をかけた。
「・・・・・・あのー?」
「はい、何でしょう?」
 保健室の担当が、目を覚ました彩子のところにやってくる。彩子がこうして幾度も気を失い、保健室を利用するので、すっかり顔なじみになってしまった。
「先月からずっとそこのベッドにいた方って、もういなくなっちゃったんですか?」
「何を言っているのかしら?」
 担当は首を横にかしげ、彩子にさらりとこんなことを言ったのだ。
「そのような方は私知りませんよ?」
「は」
「本当です。記録簿を見ても、毎日そのベッドにいたという生徒さんはいません。第一、私はそのような方を見てませんから」
「じょ、冗談言わないでよ! そこにはいつも黒服で真っ白な髪をした綺麗な方がいたじゃない! 三人で楽しく雑談したじゃない!」
「疲れているのね、気を楽にしてもう少し休みましょうか」
「話を聞いて! 確かにいたの! 透き通るような白い髪、お人形さんのような薄い肌、ガラス細工のような美しい瞳! ほんとよ、本当にいたんだってばああああああ!」



次回、『女王様との激戦』。星崎真琴、この彩子様がブッ潰すッ!!


ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。