【虚を刻む時計達】


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 時が癒やす?時が病気だったらどうするの?
          ――ベルリン・天使の詩



 雪が降っていた。
 何もかもが凍りつくような寒さの中、遠くの工場が何かを作っている音だけが響く。
 風に舞った雪が凍った大地の上にうっすらと積もっている。
 道の端に寄せられた雪は既に固くなっており、自然に出来た彫像のようになっていた。
 この時期はいつだってこうだ、ただでさえ寒い北の大地だというのに年末になると冗談抜きで凍死者のニュースが流れてくる。
 強い酒が盛んになるというのも当然の事だと思う、強い酒でもあおって体の中を燃やすようにしなければ耐えられない寒さだ。
 何度か凍った地面に滑りそうになりながら指定された番地に存在する倉庫へと向かう。
 突如として彼に届けられた差出人不明の手紙にはこう書かれていた。
『お前の罪を知っている、明かされたくなければ今日の24時に指定された番地まで来い、誰にも知らせるな』
 何のことかは知らないが、実際に後ろめたいことが無いわけでもない彼はその文章に従うしかなかった。
 永劫機。
 能力者の時を喰らい、時間の流れすら歪める力を持った超科学の産物。
 12体作られた永劫機は、非人道的な側面やあまりに強力な能力から開発が途中で中断されてしまい、まるで隠すかのように人の手に渡っていった結果として今ではどこにあるかも分かっていない。
 彼自身もその開発に携わった一人であり、今ではこの地にある研究所で細々と機械工学の研究を続けている。
 指定されたそこは既に廃棄された古倉庫街であり、街頭の明かりすらうっすらとしか届かない位置にある上、当然のように周囲に人気は無い。
 倉庫街の入り口を塞いでいるフェンスは大人一人が通れるほどに開いており、奥に備え付けられた扉の取っ手を縛っていた鎖は鋭い刃物に切断されたようにきれいな切り口を晒している。
 彼にはそれが、地獄へと通じている門のように思えた。
 何かあったときのためにと携帯端末を取り出して会話を録音するためのモードに切り替えると、ゆっくりと倉庫街の敷地内へと足を踏みいれた。



 男が倉庫の中に入ると、ひとりでにドアが閉まっていく。
 雪と風が遮られる分若干寒さが和らぐものの、光源が全く無い上に厚い壁とドアに遮られて外部の音が全く聞こえなくなってしまう。
「よく来てくれたね、待ってたんだよ」
 彼が誰もいないのかと暗闇に目を凝らしていると、突如として静まり返った倉庫の中に静かに女性の声が響き渡る。
 それと同時に倉庫の中央あたりに小さなライターの火がともり、うっすらと倉庫の中を照らす。
「タバコは吸うかい? 生憎とメンソール入りのものしかないんだが、まぁ落ち着いて話すにはタバコはいいものだよ」
 ライターに灯されたその人影は、20代前半といった辺りの女性のものだった。
 分厚いコートに隠されているが身長は高く、顔つきは澄んだ美人といったところ、よく手入れされたプラチナブロンドのロングヘアーが彼女の美貌をより高めていた。
「お前か、こんなふざけた手紙をよこしたのは」
「やれやれ、少しは乗ってくれてもいいと思うんだけどねぇ、君って女性に好かれないタイプだろ?」
「お前なのかと聞いているんだ!」
「……そうだよ、僕がその手紙の差出人さ」
 きつい口調で詰めかかる男に対し、全く興味を示さないかのようにタバコをくゆらせる女。
 その一挙一動があらゆる男をドキリとさせるに相応しいほどの色香を持っているのだが、この場にはあまりにも不釣合いな代物になっている。
「お前は何を知ってる! 罪ってなんだ! 悪ふざけにしては度が過ぎるぞ!」
 男の怒号を上げながら女性に歩み寄っていくたびに積みあがった埃がふわりと舞い上がり、よどんだ空気を掻き分けていく。
 しかしその男の剣幕にも女は一切表情を変えず、冷たい瞳で男を見据えながらタバコをすい続けると静かに口を開いた。

「永劫機」

「なっ……」
 突如として女性が呟いた、思っても見なかったその言葉に男が動きを止める。
「知ってるだろう? 時計の数字になぞらえて12体作られたあの永劫機だよ、君はその開発に携わっていた……違うかい?」
「お前は……どうしてそれを! 組織の資料は全て破棄されたはずだ!」
「人の時を奪って喰らい、時の流れすら操るあの化け物たちを作るのはさぞや大変だっただろうね、その苦労には涙を禁じえないよ」
 先ほどまでの勢いを止め、顔面から血の気が引いていく男性を尻目に吸いきったタバコを投げ捨て、芝居がかった身振りで女は周りをゆっくりを歩きながら箱からタバコをもう一本取り出して吸い始める。
「さて、ここからが本題なんだけど……君、12体完成したはずのオリジナルの永劫機の場所を知らないかな?」
「なっ、何故そんな事を聞くんだ!あれはもうどこに散らばったかも分からん代物だし二度と作るのは不可能だ!」
「そういうことを聞いてるんじゃないよ、『どこにあるのか?』それだけを聞きたいんだ、それ以外のことは喋らなくていい」
「だから知らないと」
 彼がそう言った所で女性がタバコを持った手を彼の顔の前に持っていくと、その頬にぎゅっと押し付ける。
「ぎゃっ! あ、熱っ!」
 突然のことに防御することもかなわず、タバコの火を押し付けられた頬を押さえて倒れこむ男性。
「僕が聞きたいのは、何度も言うけど『どこにあるのか?』だよ、多少なり情報は持ってるんだろう? 僕は君の知り合いに紹介されてここに来たんだからさぁ」
「し、知り合い?」
「君ねぇ、極秘とはいえあれだけ大掛かりなプロジェクトなんだ、参加してた人間だって多いし、もちろん口外厳禁だったんだろうけど、人の口に戸は立てられないしね」
「ほ、本当に知らないんだ!何個かは日本にあるらしいんだが、それを聞いたのだってもう1年も前の話なんだ!」
「ほら、やろうと思えば思い出せたじゃないか、最初からそうやっていれば痛い思いもしなくて済んだのにね」
 必要な情報を聞き出せて満足したのか、女性薄く笑みを浮かべるともう一本タバコを取り出して口に咥える。
「お、俺をどうするんだ、殺すのか!?」
 ライターを取り出しタバコに火をつけようとしたところで男に声をかけられ、そういえばそれを考えてなかったな、とぼそりと女性が呟く。
「……まぁ、君は重要な位置にいたわけでもなさそうだし……別にどうでもいいといえばいいんだけど」
「お、お前は誰なんだ!? オメガサークルか? 聖痕なのか!?それとも――」
「そういえばまだ自己紹介をしてなかったかな、僕の名前はエッフェンガウム、19時を司る永劫機さ」
「な……そんな馬鹿な……ありえない! 永劫機の開発は12機で終わったはずじゃ……」
「ふふ、別におかしいことは無いだろう?一日は24時間あるんだ、13時から24時まで対応してる機体があったっていいと思うけどね」
 そういってエッフェンガウムがコートに隠された右腕を男の前にかざすと、そこには異様な形状をした腕時計があった。
 複雑な形の金属が組みあわさったベルトに、黒く光る歪んだ円の形をした本体、内部機構が透けて見える文字盤に短針しかない針。
 文字盤には13から24までの数字が書かれており、その中で19時だけが異様な赤い光を放っている。
「これが僕らの本体さ、僕たちのコンセプトは、まぁ言ってしまえば君らの尻拭いだよ」
「尻……ぬぐい?」
「そうとも、僕らの性能は基本的に君らが作った永劫機と同等かそれ以上に組まれてるし、核となる人間は能力者じゃなくてもいい様に改良されてる、まぁ核となった人間の自我は破壊されちゃうし、能力を使いすぎれば死ぬんだけどね」
 唖然とする男に対し、自らの素性をペラペラと喋り始めるエッフェンガウム。
 どこか芝居がかり、時折身振り手振りも交えたその説明はその見た目には相応しいものであったが、語っている内容はどこか現実離れしているものだった。
「そしてそれぞれが……オリジナル永劫機の能力を打ち消す能力を持っているのさ」
「対永劫機用……ということなのか」
「ご名答、冷静に考えてごらんよ、アレだけ危険度の高い機体に対してマトモなセーフティが掛かってない方がおかしいだろう?もしもの備えは多いほうがいいって事さ」
「だ、だとしたら私はもう関係ないだろう!お前も言ったように確かに開発に携わってはいたもの私があれらについて知ってることなんてそんなにあるわけじゃないんだ!頼む!見逃してくれ!」
「そうだねぇ、まぁ、そこそこ有益な情報も聞けたことだし……今回は見逃してあげてもいいかな」
 エッフェンガウムはそう言うと半分ほど吸っていたタバコを投げ捨て、男に背を向けるとゆっくりとした歩みで倉庫のドアへと向かう。
「あぁ、そうだ、一つ言っとかなきゃいけない事があった」
 倉庫のドアに手をかけたところでエッフェンガウムが男のほうに振り返ると、ふと思い出したように口を開いた。
「もし誰かと連絡を取ろうとしたら、殺すよ」
 それだけを言い残して倉庫から出て行くエッフェンガウム。
 彼以外動くものがなくなった倉庫には静けさが戻っていき、薄く開いた倉庫のドアから出たエッフェンガウムはあっという間に夜の闇に飲まれていった。




 エッフェンガウムが倉庫から去ってから5分ほど経った後、携帯端末を取り出すと永劫機関係者にだけに用意された回線を使い録音していた先ほどの会話をアップロードしようとする。
 アップロード先のサーバーに接続が完了し、ゆっくりとデータの転送が始まった所で彼の手から携帯端末が消えた。
「なっ……」
「やれやれ、コレだから困るんだよね」
 彼が後ろを振り返ると、そこには先ほど倉庫から出て行ったはずのエッフェンガウムがいた。
 その手には彼の携帯端末が握られており、液晶画面にはデータの転送を中止しましたと表示されている。
「どうして……! お前はさっき……!」
「物分りが悪いなぁ、さっきも言ったけど僕は19時に対応した永劫機、エッフェンガウムなんだよ?当然時間を操作する能力を持っているに決まっているじゃないか」
「な……な……」
「僕の能力はね、『未来改竄』さ、5分先の未来を思うがままに捻じ曲げてしまう……7時の永劫機の未来予知を超えるために作られた能力さ、君が録音してることは分かってたからね、未来をちょっと変えさせてもらったよ」
「う、うわぁぁぁっ!」
「残念だけど、その扉は開かないように未来を変えさせてもらったよ」
 男が倉庫の扉を強く叩き、取っ手を開こうとしても扉はびくともしない。
 何とか逃げようと周囲を見回すも、窓も無く、その扉以外に他に出入り口もない倉庫は今や彼にとって完全な牢獄と化していた。
「じゃあ……約束を破ったわけだし……死んでもらわないとね」
 何とか外に出ようと倉庫のドアに対して無駄な努力を続ける男に対し、ゆっくりと死刑宣告を言い放つエッフェンガウム。

「つちはつちに、はいははいに、ちりはちりに」

 エッフェンガウムがそう告げると、突如として彼女の腕時計が光り輝き、大きな文字盤を模した魔法陣が展開する。
 腕時計のベルト部分がはじけ飛ぶと同時に光になって彼女の周囲を飛び回り、それに呼応するように文字盤の短針が回転を始める。
 回転を続けているうちに次第に魔法陣の光が大きくなり、周囲を回転する光もより激しく大きく点滅していく。
 やがて魔法陣の短針が19時ちょうどを示し、それと同時に光が収縮し爆発する。
 まばゆさに目がくらんだ彼がしばらくして目を開けると、そこには何枚もの薄い装甲版を重ねて構成された、身の丈4メートルほどの機械の巨人がいた。
 その手足は研ぎ澄まされたアイスピックのように細く、装甲の一枚一枚の端は鋭く、触れるもの全てを切り裂いてしまいそうな緊迫感に包まれていた。
 特筆するべきは両腕の肘の先から頭の先まで伸びた一枚の装甲板であり、そこだけは他と違いまるで一枚の紙のように薄い。
 エッフェンガウムがその装甲版を肘の先から手首に相当する位置まで引き下げると同時に、腕を軽く振り上げる。
 小さな風きり音がした直後、エッフェンガウムが立つ倉庫の奥の地面から天井にかけてまで細く深い切れ込みが刻まれていく。
 ちょうど扉の中央部分を通り抜けたその斬撃は倉庫の扉のまん前にいた男ごと、分厚い鉄の扉を切り裂いてしまった。



「ふん……やりすぎたかな?」
 先ほどの魔法陣展開を逆回しするように機体が縮んでいくと、またプラチナブロンドの女性が姿を現す。
 ぱらぱらと天井から舞う埃をはらうと、死体に目もくれずに縦一文字に切り裂かれたドアを軽く小突いて無理やりに開いた。
「終わったっすね?うっひゃー、やっぱりエッフェンっちの斬撃はすごいっすねー」
 エッフェンガウムが倉庫から出ると、この寒さにもかかわらずミニスカートに半そでというありえない格好の少女が立っていた。
 髪色や顔つきからアジア系の10代辺りと見えるその少女は、切り裂かれた倉庫の扉の奥を覗き込むと、真っ二つにされた死体を目に留めて軽く肩をすくめると、おどけた調子でエッフェンガウムに語りかける。
「きれいにスパっと一刀両断っすね、エッフェンっちの装甲版で包丁作ったらかなり売れると思うんすっけど、どうっすか?」
「エルグヴァント……見るだけで寒いなその格好は、もう少し周りを弁えた格好をだね」
「私の能力を応用すれば回りの環境とか関係ないっすからねー、今度からその辺も気をつけるっす」
「『時間隔離』か……自らの時の流れを別のところに置く事で通常の時間軸では不可能に近い行動を行う……道化みたいな君にはぴったりな能力だと思うよ」
「ナルシーのエッフェンっちに言われるとは心外っす」
 エルグヴァントがそういいながら指を鳴らすと、先ほどまでビクともしなかった倉庫が派手な音を立てて崩れ去っていく。
「君の能力はこういうときには便利だね」
「密会逢引密売誘拐なんでもござれっすよー?エッフェンっちも私とイチャイチャしたかったらいつでも言ってくれていいっすからね」
「……」
「冗談っす」
「君が言うと冗談に聞こえないね」
 エッフェンガウムとエルグヴァントが他愛もない話をしながら倉庫街の出口まで歩いていくと、先ほど破壊された倉庫から物音がし始める。
「まさか生きてるとかそういうオカルトな感じっすかね」
「……いや、この感じはラルヴァだね、僕の変身の時の魂源力と、君の能力の匂いとで引き寄せられたのかな?」
「モテる永劫機は辛いっすね、どうするっすか?」
 彼女たちが倉庫を振り返って会話をしている間にも、出現したラルヴァが先ほど両断した男の死体を中心に瓦礫を鎧として纏い始めていく。
「僕は疲れたからね、倒すなら君がやってくれよ」
「お、いいっすか?最近変身してなくて体が鈍ってたところっすよ」
 既に戦闘態勢を整え、エッフェンガウム達二人を認識すると低く唸りを上げるラルヴァ。
 闇夜であるにもかかわらず不自然に光る八つの青い瞳がぎょろぎょろと蠢いていた。

「つちはつちに! はいははいに! ちりはちりに!」

 エルグヴァントが大きな声でそう叫ぶと、彼女の手に巻かれた腕時計がエッフェンガウムと同じように光り輝き、全く同じ魔法陣が展開する。
 しかし彼女の腕時計の細い鎖で編まれたベルトは弾ける事はなく、そのまま光り輝く帯となって彼女の体を包んでいく。
 やがてその短針が15時の位置で止まると、深い紺色の流線型の3メートルほどの機体が現れた。
 どこか戦闘機を思わせる攻撃的なフォルムに、背中に設置された全身を隠すほどに大きい羽のようなバインダーが目立つその機体は、不思議なことに地面に足がついていなかった。
「いやーやっぱこっちの方が落ち着くっすね、どうっすか?かわいいっすか? 惚れ直したっすか?」
「どうでもいいけど、向こうは既にやる気満々みたいだよ」
「へ?」



 変身した後、エッフェンガウムに向かって向き直り様々なポーズを見せ付けるエルグヴァントだったが、ラルヴァにしてみれば大きな隙でしかなかった。
 瓦礫をまとった巨人に変身したラルヴァが、自らの体に突き刺さった鉄柱を引き抜くと、エルグヴァントに向けて勢いよく投げつける。
「おっと、危ないっすねぇ」
 だがそれに動じることなく、背部のバインダーを軽く動かすと鉄骨をはじき落としてみせるエルグヴァント。
 バインダーには傷一つついておらず、それどころかはじき落とした鉄骨の方が無残な形に捻じ曲がっている。
「むー、腹立つっすね、徹底的に叩きのめすっす」
 背部のバーニアから火を噴き、まるで弾丸かミサイルかのようにラルヴァに対して体当たりを行うエルグヴァント。
 純粋かつ強力な破壊力を持ったその攻撃に対し、反応することすら許されずに倒れこむラルヴァ。
 そのまま何度か踏みつけるようにラルヴァを叩きのめすと、最後に頭部に思い切り拳を振り下ろす。
 その一撃で頭部は打ちぬかれ、周囲は攻撃で散らばった瓦礫で破壊されつくしていた。
「あれ、もう終わりっすか?」
「そこから離れろ!」
 エッフェンガウムがそう叫ぶのと同時にそこから飛んで離脱するエルグヴァント。
 一瞬間を置いて先ほど散らばった瓦礫に加え、先頭で壊れた瓦礫も取り込んでいき、さらに大きく凶悪な形へとラルヴァが姿を変えていく。
「核を潰さない限り回りのものを取り込んでどんどん強くなっていくラルヴァみたいだね」
「へぇ……ならちょっとだけ本気を見せてやるっすよ」
 そういうと背部のバインダーが複雑に展開し、バインダーに複数設置された噴射口から魂源力を放出すると勢いよく空に舞い上がるエルグヴァント。
 そのまま天高くまで上昇すると、右足の踵から大きな鎌のような刃を展開し、噴射口の向きを変えてラルヴァに向かって急速に落下していく。
「おりゃっ!」
 地面が激しく揺れるほどの勢いで踵をラルヴァに叩きつけ、刃をラルヴァの体に食い込ませたのを確認すると、そのまま右足を思い切り振り上げラルヴァを空中へ浮かし、上空へ打ち上げたラルヴァの体を落とさぬように攻撃を加えながら身にまとった瓦礫を一枚一枚剥いでいく。
 剥いだ瓦礫が下の倉庫街やいまだ稼動している工場地帯に落ちていくのもかまわず、残像が見えるほどの速度で攻撃を加えながら核となった先ほどの男の死体になるまでラルヴァの鎧を剥いでいくと、最後に男の体を握り締めるとそのまま下に投げつける。
「とどめっ!」
 投げつけた男に追いつく程の速度で急降下すると、そのままの速度で周囲を囲むように飛びながら何度も右踵の刃物で切りつけ、男の体を細切れにしていく。一度通り過ぎるたびに右腕を、次は左腕を、脚を、肘を、脛を、少しずつ男を構成していたものを部位へ、肉片へと切り裂いていく。
 核となった男をもうこれ以上は刃に触れても切れはしないほどに切り刻むと、空中に浮いたまま一回転し、その勢いで男の遺骸をばらばらに飛び散らせる。
 ばらばらになった男の遺骸は燃え盛る地面に落ちる前に、黒い霧となって消えていった。



「いやー例え雑魚でも思いっきり戦うのは気持ちいいもんっすねー」
 ラルヴァを一方的に撃破したエルグヴァントがゆっくりとエッフェンガウムの元に降りてくる。
「思い切り戦いすぎだよ、人が集まってきたじゃないか」
 突如として空中に現れた化け物と、それを撃破した謎の機械人形。
 戦いの被害で燃え盛る工場地帯の炎で倉庫街も照らされており、遠くでサイレンが鳴るのも聞こえてくる。
 時折爆発音も混じり、それに呼応するように悲鳴の数も増えていく。
「んー……人目につくのはマズいっすね、このまま飛んで離脱するっすか?」
「そうだね、まぁ化け物を見たんだと主張したところで精神病棟に送られるか、ガーデンからの調査隊の能力で記憶を消されるかのどっちかだろうしね」
 エッフェンガウムを軽く抱きしめると、闇夜に紛れるように工場地帯とは逆に飛翔するエルグヴァント。
「んで、どこに行くっすか?ハワイ?グワム?意表をついてバリとかっすか?」
「……日本だよ、日本、オリジナル永劫機の何体かは日本にあるらしい、その後どうなったかは知らない様子だったけど、とりあえずは日本だ」
「日本っすか、私の核の出身地っすね、このまま飛んでくっすか?」
「いや……」
 高速で飛び続けながら会話を続けるエッフェンガウムとエルグヴァント。
 既に先ほど戦闘していた町からは遠く離れ、下には月明かりに照らされた雪の積もる原生林が見える。
「……寒いから下ろしてくれ」
「は?何か言ったっすか? 風で聞こえないっす!」
「寒い!! 核が凍え死ぬ! 早く下ろしてくれ!」
「えぇー……こんなところに暖を取れる場所なんかないっすよ! あの山越えたら小さな町があるっすから、それまで我慢っす!」
「君はいいかもしれないけど核状態の僕はあくまで人間なんだから、本気で核が死ぬよ!コレだけの美人を探すのにどれだけ苦労したか……」
「そういわれてもエッフェンっちの機体状態じゃ全身刃物で乗せるに乗せられないっすよ!私痛いのは好きじゃないっす!」
「く、くそっ、せめてライターで少しでも暖を……あっ、あっ! ライター落とした! 落としたっ!」
「身を乗り出すと落ちるっすよ!」
 月をバックにジタバタともがく女性と、それを守るように抱え込みながら飛び続ける異形の機体は、遠くから見ればなかなかに幻想的で美しい絵画のようであった。
 あくまでも、遠くで見ればの話ではあったが。






「…………」
「どうかしたの?」
「いえ、何でもありません」
「そっか、じゃあ早く行こうよ、次の授業始まっちゃうよ」
「そうですね、行きましょうか」
 日本の首都、東京都に新たに作られた双葉区。
 ここは異能力者を日本で唯一育成、教育する専門の機関である双葉学園のためだけに作られた海上に浮かぶ人工島である。
 その双葉学園の高等部のクラスである2-Lで、一人だけ座っていた少女は声をかけられると、その長い髪をなびかせながらゆっくりと立ち上がる。
「始まるのですね」
 その触れれば折れてしまいそうな細い左腕には、美しく透き通った24個のクリスタルをベルトにした、異様な形の腕時計が巻かれていた。




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