【文化祭前の珍事】


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      • 文化祭前の珍事

 ……あのオートマトンも、考えるじゃないの。無駄がなく、それでいて上手く武器であるフリルを強調したメイド服を用意するなんてな。
「おお、おおー……メイド服の清楚さに、フリルを最大限に活用した可憐さ、そしてア○ナミラーズの様に胸を強調させる色気要素を上手く加えるなんてなぁ」
 真琴は自分に割り当てられたメイド服を女子寮自室のベッドの上に広げ、メイド服の出来の良さに感心している。
 元々真琴は同人誌即売会に美沙と一緒に参加し、彼女と一緒に作った本を売る売り子として、ついでにコスプレイヤーとして参加しているために抵抗がないばかりか、冷静に分析できてしまう。
 真琴自身は認めていないが、『双葉学園一変態が集うクラス』とまで言われている二年C組としては、中々クオリティが高い文化祭になるかも知れない。
「こんな可愛い服を着ても誰も文句言わないんだから、クローン研究所様々だよねぇ」
 真琴は渡されたメイド服を眺めながら、思わず洩らすように言葉を紡いでいく。女の子の楽しみとも言えるオシャレや化粧を始めてもう久しいが、こう言った衣装を自分で手に取り、自分が纏えると思う瞬間が真琴にとって一番楽しい一時だったりする。
 また、視覚的・肉体的な男の弱点を生い立ち上知っている事は、こうしたオシャレに大きく役立っている。

 事の始まりは双葉学園でも行われる文化祭(小・中・高のみ、大学部はまた別)での出し物を何にするかという、何ともホームルームに有りがちな状況で真琴が『メイド喫茶をやろう』と提案した所から始まる。
 上記の様に真琴は美沙と共にサブカルチャーに造詣が有るのに加え、文化祭ならでわを鑑みてマッチする出し物を考えた次第だ。
 最後まで六谷彩子が抵抗していたが、抑えきったのは良かったかも知れない。こんな時くらいはっちゃけさせろ、と言うのが真琴にとっての本音だったからだ。
「委員長がもう少し、柔らかくなってくれると此方としてはやりやすいんだがなぁ」
 真琴の考える一番の懸案であり問題は、頭の硬い委員長である笹島 輝亥羽をどう弄るかにある。
 生真面目なのは良いことかも知れないが、こう言う行事をただ生真面目にやられても面白い筈がない。遊びを一生懸命やらない事が一番つまらないものだが、無駄にガチガチにやられても息苦しくてつまらない。
 早速とオートマトンである瑠杜賀 羽宇が日頃の意趣返しとばかりに、本当に地味な飾り気の無さすぎる余りにも実用本位のエプロンドレスを笹島に手渡しており、クラス内の空気が澱み始めたからだ。

 ピンポーン♪

 そんな中、部屋の呼び鈴が鳴る音がする。この寮は防犯設備をしっかりとしており、各々の部屋に呼び鈴と監視カメラが一体になっているので来客も中から分る構造になっている。
 真琴がディスプレイを覗き込むと、普段殆ど来ないであろう珍しい来客の姿があった。
『星崎さん笹島だけど、暇かしら? ちょっと用が有るのよ』
 2年C組の委員長でもある笹島 輝亥羽が真っ直ぐにカメラに視線を送っている様子が見て取れた。
「珍しいね委員長、初めてじゃない? 良いよ、今はやること無いし。開けるから待っていてね」
 真琴がドアを開けると、ツーリストバックを持った笹島が目の前にいた。考えるまでもなく、笹島が持っているツーリストバックの中身は『オートマトン』瑠杜賀が渡した例のメイド服だろうと真琴は推測する。
 しかも惑うことなく仏頂面であり、明らかに機嫌が悪い。真琴は笹島の機嫌をこれ以上悪くしないように、メイド服には敢えて触れずに目の前の状況を淡々と言ってみる。
「機嫌悪いな委員長、どうしたの?」
「悪くもなるわよ」
 この機嫌の悪さは恐らく瑠杜賀の『趣意返し』の所為だろう。まるっきり実用本位の色気も可愛気も無いエプロンドレスを渡された事に対するものと容易に推測できた。
 そもそも一連のホームルームの流れを鑑みるに、それをされてもおかしくない状況と、生真面目な性格、そして何より委員長をしている事を鑑みた瑠杜賀の判断だろう。
 ある男子が笹島の衣装を見て『メイド長』と言った所、自身の異能力『復讐の弾丸』を発動すると言う暴挙に出ている程に機嫌が悪い。
「あのオンボロメイドは私を小馬鹿にしているの。こんな地味なドレスを寄越すなんて」
 いや委員長よ、それこそ瑠杜賀 羽宇の意趣返しでは? なんて言葉が出そうになったが、真琴は辛うじて口を閉じて口にするのを留まった。
 笹島は広げていた真琴に割り当てられたメイド服にずっと視線が向いており、こんな事を言えば間違いなく爆発しかねないからだ。
「取り敢えずさ、立ってないで座ろう委員長。そこの座布団に座ってよ」
「そうね」
 機嫌の悪いベクトルを自分に向けない様に、やんわりとやんわりと諭すように笹島を誘導する。
「でさ委員長、私に用って何かな?」
「私さ、かなり地味なメイド服貰ったじゃない? ふざけない領域で目立たせる方法知っているかな?」
 笹島の言葉に、一方の真琴は唖然としたような表情を浮かべた。
「化粧をしたり、リボンとか髪飾り付ければ良いんじゃないの?」
 真琴は即答する。当然の事ながら女子には女子の、男子には男子の露骨なものではないにせよ、『魅せ方』と言うのがある。学園祭という舞台になら、派手派手しくしなくとも、ワンポイントならそれなりに魅せる事は出来るはずだ。
「化粧なんてとんでもない、文化祭なのよ?」
 そんな真琴の言葉に、笹島は一気に難色を示す。
「でもさ委員長、私思うんだ。ガチガチに真面目にやらないで、『楽しく真剣に』に文化祭を過ごせると良いと思うんだ」
「それなら尚更化粧は使えないわ、それはふざけている領域よ」
 笹島の答えに真琴は唖然とする。女の子なら誰でも、化粧やオシャレを『楽しむ』事を一度くらいは考えるものではないのかと。
「委員長、化粧やオシャレは余りしたこと無いの?」
「学校に居るときは必要ないわよ。そもそも外でも余りしない、必要ないもの」
 思っても見ない笹島の答えに、思わず自分の唇に人差し指をくっつける仕草をしつつ、口紅を塗る動作をしながら真琴は笹島にこうも言ってみる。
「私は時々薄いルージュとかは塗っているよ? 学校でも」
「勉強に化粧は必要ないわ」
 しれっとした様子で真琴の言葉を切り返す。
「なら下着とかはどうかな? ショーツとか、あれも気分で変えると精神的に違うし、ちょっと見せるくらいでも大分違う」
「そっ!! そんな事考えたこともなかったわ!!」
 予期しない真琴の言葉に、恥ずかしいのか頬を朱に染めながら言い返した。
「ううーん……まさかさ、文化祭軽く化粧したり、ワンポイントで弄ったりも『しない』で出るつもり?」
「当然じゃない。学校行事は真剣にやるのよ」
 真琴は思う。アンタ人生の半分は損しているよ、と。
 着たいと思った服を着れば、周囲から白い目や好奇の目に晒されていた小学生の時期から鑑みると、この笹島の様子はふと真琴を考えさせる。
 折角可愛い服を着て、みんなで考えた出し物をするんだから思いっきり自分を飾って誇張して、オシャレしてはっちゃけようとは思えないのだろうかと。
 しかもこの笹島の言う『真剣』は、ガチガチで生真面目すぎるものになるのだろう。
(……良いこと思いついた)
 ふと、真琴の邪悪な悪戯心が目を醒ましてしまった。
 真琴は笹島が見えない位置で携帯電話のディスプレイを開くと、横目でディスプレイを覗き込みつつ操作を始めた。笹島が此方に気が付きそうになると携帯電話の自分のポケットに『他者転移』させて消し去り、再び取り出すことを繰り返す。
 不思議なほど自分の手渡されたメイド服に目が行っている事と、自分の話に夢中になっているから真琴の裏工作に全然気が付かなかった。
「喋りすぎたみたいね。まだ用事はあるんだけど、下の食堂行ってジュース買ってくる。星崎さん何が良い?」
「ミルクティーが良いな」
 真琴がこう答えると、『買ってくるね』と部屋を出て行った。彼女は笹島が完全に出て行ったのを確認すると、ベッドの下に置いてある底の厚い箱をあからさまとも言える、かなり見えやすい位置まで取り出す。
 妖しい代物なら、それだけであの笹島は確実に食いつく―――。

 暫くすると笹島がジュースを買って戻ってきた。真琴は素知らぬ顔で微笑みながら、笹島からミルクティーを受け取った。
 そして再び真琴と対面の位置に笹島は座ると、真琴が予めあからさまに出しておいた箱に目が行き、真琴よりもそちらに目線が行っている。
(予想的中)
 視線に釘付けになったのを確認すると、真琴は静かに席を立つ。
「どうしたの?」
「ん、ちょっとお手洗い」
 そう言って真琴がトイレに入っていくのを確認すると、笹島はこの箱を興味津々に触り始めた。
「いけない、いけないと思いつつも気になっちゃうのよねぇ」
 笹島は箱を触りながら、引っこ抜こうか迷っている内に時間が経ち、いつの間にか真琴がトイレから出ていた。
「厳重なのには訳があるの」
 真琴がトイレから出ていたことに気が付かなかった笹島は、低い音程で釘を刺すように言われた言葉にぞくっと冷や汗が出る感覚を覚えた。
「――!! わ…分ったわ……でも何か気になるな。やっぱり見せなさい!」
 真琴に見つかったことで開き直り、有無を言わせない笹島は制止する真琴を無視してベッドから箱を引っこ抜き、勢いで箱を開けてしまった。
「見て後悔しても、知らないから」
 真琴は一言だけ忠告するように言い置くが、笹島は気にせず箱の中身を興味本位で見始める。
「……アルバムが一冊と、何かしらねこの箱……ガン・ケースまで有るわ!!」
 箱の中にはまだ新しいアルバムが一冊と、一つ大きな箱、そしてジェラルミン製のガン・ケースが出てきた。
 ガン・ケースに限っては笹原も流石に触れる事すら躊躇ったが、アルバムは何の躊躇もなく手に取ると、何とも楽しそうにぱらぱらと見始めた。
「な…何よコレ」
 アルバムを2・3頁程眺めると、顔が朱に染まり目を見開いて固まってしまった。
「だから後悔するって言ったじゃない」
 アルバムには美沙と真琴が色々なコスチュームプレイをしており、キャラが取るであろう予想できる近いポーズを決めている写真が一杯姿を現して笹島の眼前に現れた。中には笹島でも分るネタまで含まれており、表情が一気に紅潮する
 しかも少々露出度の高い衣装まで含まれていたり、記念にと作ったであろうグラビア風の完成度の高い写真まで納められていた。
「うわっ凄っ!! これ美沙先輩よね? と言うか、どうして姉妹揃って? ねぇ、これってB組の如月さんよね?」
 矢継ぎ早に言葉が出る笹島の視線の先には、如月千鶴が写っている写真に目がとまる。姉妹に混じって千鶴も同じくコスチュームプレイをしており、彼女にもまたグラビア風の完成度の高い物が置かれていたのだ。
「そうだよ、千鶴は元々姉妹通して付き合いが長いから。後、川又ふみさんも居るよ」
「え? ……本当だ!」
 そこには美沙と同い年でクラスメイトだった川又ふみの姿まであり、同じ様にコスチュームプレイと楽し気にポージング、グラビア風の完成度の高い写真まで同じように一緒に納められている。
「凄くスレンダーだわ、如月さんに川又さん……そうじゃなくって! どうしてこんな写真が」
「ああそれは、夏と冬の同人誌即売会で私と姉さんは本を出しているから、コスプレを楽しみつつ売り子しているの。千鶴とふみさんはその付き合い」
 真琴の言葉に笹島は少し頭痛でクラッと蹌踉めいたが、写真が現実を雄弁に語っている。笹島は凝視しながら、見入るようにこれら写真群を時間掛けて眺めていた。
「委員長」
 不意の真琴の呼びかけに、笹島は両肩がビクッとわななくように飛び上がり、驚くように真琴の方に振り向いた。
「なっ…何!? 星崎さん」

「委員長もコスプレ、やってみよう?」

 行き成りの真琴の提案に、一瞬身体が硬直して動かなかった。
「はい――!?」
「だから今さ、試しにみんなでコスプレして、魅せ方を肌で感じるのよ。色々と人を呼んでおいたから」
 真琴の言葉に動揺の隠せない笹島だが、既に遅かった。
 真琴から送られた寮の鍵で入って来た如月千鶴と、八島響香、そして神楽二礼までもが満弁の笑みで入って来る。
 因みに八島響香とは有明で行われている同人誌即会に行くことを知っており、真琴は何時もサークルを覗きに行き、同人誌の交換もしていた。
「真琴ちゃん即興の撮影会やるんだって? 笹島さんメインの」
「星崎さん、楽しそうだから来ちゃいましたよ。比較的マジで」
「楽しそうだから来ちゃったっす♪ 巫女服持って来ちゃいましたっすよ?」
 笹島にとって青天の霹靂、信じられない光景が連続して繰り広げられた。
 こいつ等の目は真剣だ! そんな事を口に出さずとも、笹島の目は雄弁に語っている。
「撮影会って言っても、記念撮影レベルだけどね」
 先程、携帯電話を笹島に隠れて操作をしていたのはこの為だった。そしてコスチュームプレイのアルバムを見せたのも、この布石に過ぎなかったのだ。
「何のコスプレやるの?」
「神楽さんがマジで本物の巫女衣装持ってきたから、それに合わして巫女にするか」
 そして自分をそっちのけで急速に話が進む状況に、怒りよりも恐怖を感じる。こいつ等は本気で私にコスプレをさせようとするのか、と。
「星崎さん何着有るのですか?」
「前にも一回やった事あるから人数分有るよ、姉さんとふみさんが着ていたのがあるから。八島さんはこのサイズ入るよね?」
「大丈夫です」
 真琴は笹島がアルバムを取り出した箱に入っていたもう一つの箱を開けると、美沙が着ていたであろう大きめの巫女衣装を取り出した。
 笹島は目を大きくして眺めていたが、真琴は気にせず八島に提示すると、彼女は頭を縦に振って答えた。そしてもう一つの、ふみの着ていた巫女衣装をそっと笹島の前に置いた。
「……着なきゃダメ?」
「着なきゃダメ」
 笹島の問いに、全員が声を合わして言い置いた。

 ……これは逃げられないな。笹島の目は、声を発さずとも語っていた。

「私は着方分らないから神楽さん、着方教えてね?」
「了解しましたっす♪」
 全てを諦めた感のある笹島は、宛ら観念したかのようにプレザーを脱いでいく。周囲の面々は笹島が脱ぎだしたのを確認してから、各々更衣を始めた。
 そんな状況でも神楽や真琴、八島の胸部を笹島は覗き見するように見ると、はぁっと溜息をついてしまう。ブレザーを着ても目立つ乳房は、貧乳と表裏共に言われている笹島にとって見れば、女の部分に於いて劣等感に近い物を感じるからだ。
 しかも真琴はそこそこ勉強が出来る部類に入るので、その思いは余計だろう。
「真琴ちゃんレイヤーは5人居るけど、カメラマンはどうするの?」
「三浦君を呼んでおいた。今日暇らしいし、彼の撮影機材と技術は中々だよ」
 そんな笹島の心中を他所に、真琴と千鶴がトントン拍子に話を続けていく。だが、真琴の返答に一瞬目が見開いた。
「コスプレ写真は初めてらしいけど、なんかノリノリでやってくれるって言っていた。女子寮入り口で合流だよ」
 三浦と言う単語を聞いて笹島はびくっと背中を振わせる。それは三浦が無類の女好きだからだが、実際の所は何かの目的が出来ると仕事は完璧だったりする為に意外と始めから何かに加わっていることは多い。
 三浦はまだこの時真琴の趣味を知らなかったため大喜び、二つ返事で了承している。
「星崎さん、三浦君大丈夫? 何かされない??」
 笹島でも知っている程に、三浦孝和の女好きは有名である。だが最近真琴や千鶴と連んでいる事が多くなり、その好色な成りは潜めつつあるとはいえ、それまでの評判は消える事は無い。
「ちょっ…委員長、流石に野獣やなんかじゃないんだから大丈夫だよ! ……まぁ性的な意味では野獣かも知れないけどさ?」
 流石に真琴もフォローするように付け加える。
「女好きで拍手君並とは言わないけれど大きなオッパイ好きだけど、仕事は真摯だよ。神楽さん、委員長の着付けを見てあげてね」
「はいっす♪」
 笹島が正気に戻る前に、真琴は神楽に話を振って早く着替えを済ますように促す。着替えさせてしまったら後はペースを握れる、かも知れないからだ。
「……なんか、下がちょっと短くない?」
「良いんじゃないの?」
 神楽の手伝いもあって着替えは済ませられたものの、笹島と巫女衣装は十分マッチしていた。性格とは違う幼い顔立ちとスレンダーなスタイルは、和風衣装と非常に相性が良いからだ。ただし、ふみのスタイルを基準に丈を作られているので、袴は笹島からしてみると些か短いものだった。
 元々は高校時代のふみの丈に合わしている為に少しだけ袴が短く作られているのだが、膝下にまで袴が掛っているために気になるほど短いと言うことはない。それだけ笹島は学校指定ガチガチの制服を何時も着ていると言うことだ。
「よし真琴ちゃんに笹島さん、用意できたから行ってみよう!」
「学園で異能関係無しのコスプレか……刺激的かも知れないわ」
 既に準備万端の千鶴と八島が笹島の手を取って部屋から出ようとする。
「え? え!? 出るの!? やっぱり外出るの!? 恥ずかしい! 恥ずかしいいいいいぃぃぃ!!」
「んっふっふっ~♪ 此処にホンモノの巫女が居るんですよ~♪ さぁ、笹島さん行くっす~♪」
 神楽からそれを言われてしまうと、最早反論できない。4人に引っ張られるように真琴の部屋を出された笹島は、そのまま流刑者のように俯き加減で寮を出る。
「来た来た、真琴さん着たよ……おおおおお!!」
 女子寮入り口で三浦と合流するが、見事なまでに全員巫女衣装を着ている状況に驚きと狂喜の入り交じった声を上げた。
「すげぇ! 巫女さんだ!! こんなの初めてだ!! 真琴さんに如月、本物の巫女、八島…………笹島……だと!?」
 笹島 輝亥羽と言えば2-Bでも有名な生真面目な委員長で知られている。その笹島が巫女衣装を纏っているのだ、驚かない筈がない。しかも妙に似合っており、恥ずかしがっている様は余計に驚かせるのだ。
「どうしてこんな事に」
「三浦、撮影ついでに真琴ちゃん撮っちゃえ」
 笹島を見てすっかり動揺している三浦に、千鶴は周囲に聞こえないように小声で吹き込む。
「え?」
「ネガは最終的に三浦が持っているんだろ? 撮影中に真琴ちゃんソロで撮って、持っていればいいじゃないか」
 当然と言えば当然の入れ知恵をする千鶴。実は三浦は真琴の写真を一枚も持っていない事に加えて風景写真が殆どであり、人の写真と言えば妹の絵理が殆どである。
「そうでした、そうでした……有り難う如月、俺宝物にするぜ……」
「単純だなぁ」
 欲望丸出しな三浦の様子にしみじみとこう言い置くと、
「さて、学園内を練り歩いて撮影に行くよっ♪」
 千鶴は、他の四人の巫女衣装うぃ纏った女子生徒と一人の男子生徒のカメラマンにこれだけ言い置き、意気揚々と学園内に消えていった。

 この日、五人の巫女衣装を纏った女子達とカメラマンが双葉学園を練り歩いて教室、体育館、食堂、図書室、カフェテラスと行く先々で成りきってポーズを取った記念撮影を行ない、そして最後に職員室直行という珍事が起こった。
 途中、携帯電話のカメラや本物のカメラで彼女達を撮影する者も居たが、殆どの生徒は突然起きた有り得ないシチュエーションに呆然とするだけだった。
 こっぴどく怒られた……なんて事は無かったが、常に『何が彼女達をそうさせたのか?』と言う、ある種哀れみの見方をされたのは否めなかった。


――文化祭当日。
「おー、笹島さん良い笑顔だねぇ」
 2-Bの出し物の休憩で、サンバイザーにセパレート、そしてパレオを身につけたままの千鶴が2-Cの教室に入り席に座って、笹島を見て思わずこう呟いた。
 『学園一変態の集うクラス』と絶対有り難くない蔑称を戴いている2-Cの『メイド喫茶』には活気があり、楽し気で人が集まっていた。
 殆どが美作 聖や真琴が目当てなのだろうが、一際目立っていたのは会計などを一手に引き受けている笹島だろう。あの生真面目で凝り固まっている笹島が、可愛らしい笑みを振りまいて右往左往しているのだ。
「流石に職員室に連行された時は終わったって思ったけど、成功はしたようね」
 千鶴に注文を聞きながら、真琴はこう言い置いた。

 この日、笹島に釣られて2-Cのメイド喫茶に来た男子は、多かったという。


 終わり


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