【MPE 7】


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

   7


 ×××××は縄に縛られたまま、×××と同じベッドに腰掛けていた。彼女が気を失っている間に学園で何があったのか、×××は自分の知る限りのことを話してくれた。
 エリザベートがとうとう双葉学園の子を狙いにきたということ。手始めに中等部の子が二人さらわれて、続いて×××××自身までもが拉致されたということ。
 ××と×がエリザベート側に付き、双葉学園を襲おうとしていること。
 ×××××と××と××××が、×××××を助けようと奮闘していること。
「×××××・・・・・・もう来てると・・・・・・思う」
「わかるの、×××さん?」
「私のGPS・・・・・・」
 納得したような顔を×××××は見せる。だが、すぐに首を傾げた。
「よく敵にバレませんでしたね?」
「暗示で・・・・・・学生証の件・・・・・・忘れさせました・・・・・・」
 双葉島の倉庫で××らと遭遇し、ジュンに不覚を取って気絶させられたあのとき。
 ×××はとっさにジュン・シホ・××・×にモバイル学生証のことを忘却させたのだ。これで×××のものが増えたことに誰も気づかない。これで×××××に居場所を伝え、救助ないしエリザベートを叩こうというのが彼女の狙いであった。
「えっ、じゃあ×××さん、はじめから敵に捕まるつもりで」
「暗示で・・・・・・二人を改心させようとも・・・・・・考えましたが」
 ×××××は解せない。エリザベートを倒して自分を助けようというのなら、まず××と×を力ずくにでも奪還すればいいのではないか? どう考えてもそれが合理的だ。
「はばかれました・・・・・・」
 言葉を失った。まさか×××がそのようなこと言うとは思わなかった。
「あの二人が・・・・・・その」
 ×××は言った。あの二人が何を考えているのかわからなくて、暗示をかけるのをためらってしまったのだと。
 どうも二人は無理をしているようだった。敵に弱みを握られて無理やりあのようにされているのなら、相手を刺激させるような展開にするわけにはいかない。××××××に弟のことで弱みを握られ、泣く泣く×の子たちに暗示をかけたことのある×××なら、そういった卑怯な行為で苦しむ人間の気持ちがわかるのだ。
 そして万が一あれが二人の意思だというのなら、性根を叩きなおして更生させる必要がある。なおさら異能の力に頼ってはいけないのだ。
 とはいえ、この非常事態に×××に自重の気持ちが働くとは思わなかった。
「頭・・・・・・痛い・・・・・・」
「大丈夫ですか×××さん」
「直接・・・・・・頭やられた・・・・・・すごく・・・・・・痛む・・・・・・」
 ×××は倉庫での戦いだけでなく、この日の昼間にもジュンにスタン攻撃を食らわされていた。それも一段と強力な。
 モバイル学生証の件は、暗示のかかっていないエリザベートが言及したことでジュンやシホにも発覚した。怒ったジュンはこの部屋にやってきて、学生証を破壊し、×××を殴り飛ばし、直接後頭部にスタンをかけたという。彼女は気絶して数時間動けなかった。
「何てひどい・・・・・・!」
 ×××××が怒りに震える。過剰な暴力に対して強い怒りを抱くのは、ごく自然なこと。
「×××××・・・・・・」
 呼ばれた××××のほうを向く。とたん、ショックで言葉に詰まる。
 それは頭痛がひどいせいなのか、それとも自分の心からの気持ちからなのか、×××××にはわからない。
「私の・・・・・・暗示に・・・・・・やられた人も・・・・・・同じように・・・・・・痛い思いや・・・・・・嫌な思いを・・・・・・したのか・・・・・・な・・・・・・?」
 ×××がとても悲しい自嘲の言葉をささやきながら、涙で濡れた金色の瞳を向けていた。


「あの戦いはなんだったのよ!」
 制服がほこりや血で汚れている×××××を、××は掴みあげる。
「私たちの強さを見せるはずが・・・・・・実力を見てもらうはずが・・・・・・今じゃただの負け犬じゃない!」
 頬を乱暴に打ち、真横に倒した。すかさずその場にあった花瓶を投げつけるが、×××××はどうにか転がって避けることができた。鱗粉によって枯れた花びらが、床に散らばる。
「前とどう違うっていうの! もう私たちは頼ってもらえない! 使ってもらえない!」
 ××によるごり押しの戦法にはとても手こずった。狭い部屋で一方的に鱗粉を放たれて、×××××にダメージと疲労がどんどん蓄積していった。動きも反応もどんどん鈍くなっていった。
 しかし××も同様に戦力が衰えていた。鱗粉しかダメージソースが無いので、どんどん撒き散らすしかない。それは自身にとんでもない負担を強いた。体力も魂源力も尽きかけていたなか、今度は×××××のエクスプロージョンに見舞われる。力関係はほとんど対等になったと言っていい。
「アイツらとは違うっていう、見下したような目・・・・・・! 問題児やテロリストとは違うって言う、軽蔑の視線・・・・・・!」
 ぎりっと××は歯を強く軋ませた。長い前髪が左右に揺れたとき、涙粒もはじけ飛んだ。内からこみ上げてくる怒りのままに、調度品の椅子なぞを持ち上げる。
「こんなんなら前のほうが良かった!」
 木製の重たい椅子を、×××××にブン投げたのだ。×××××は、ふらっと立ち上がってから、
「うるさいッ!」
 と怒鳴って、異能で木の椅子をバラバラに分解してしまった。その強引極まりない常識外れな防御手段に、たまらず××はぽかんとしたまぬけな顔にさせられた。
「なら今から頑張ればいいじゃない!」
 一度は拡散しかけた椅子の原子・分子。×××××の両目が強く輝き、サイドポニーがドンと天を突く。バラバラになった椅子が瞬時に再構成され、彼女はその足をしっかり手に握る。
 逆に×××××が椅子をブン投げ返した。あっけに取られていた××にそれは直撃し、彼女は後ろに吹き飛んでしりもちを付いた。
「××ちゃん!」と思わず×が立ちあがる。
「邪魔しないで!」と××が叫ぶ。何とか両腕で防御できたものの、ものすごい速さでぶつかってきたので、痛みにこらえて起き上がるのがやっとであった。
 ×××××もぺたりと座りこんで肩で息をしていた。椅子をバラバラにしたり構成したりした無茶な行動が、地味に効いているのだ。
「首謀者がよくそんなこと言えるわね。そもそもあんたが計画したことじゃない。失敗に終わったけどね」
「暴力や力づくじゃ何も勝ち取れない! ××、あなたいったいあの戦いで何を学んだの」
「暴れられればいいのよ!」そうはっきりと言った。「私の強さを・・・・・・魅力を・・・・・・わかってほしかった・・・・・・! すごいって言ってほしかった・・・・・・! そう言ってもらえるのなら、私は悪に染まってもかまわない・・・・・・!」
「させない! そんなことはさせないわ、××!」
「しつこい・・・・・・ッ! しつこいわ×××××・・・・・・!」
 黒髪がぐらぐらと振動を起こす。髪の毛の一本一本が独立して動き、うねり、魂源力をどんどん帯びていく。きらきらと輝く鱗粉が、××の全身を軸として公転し始めた。
 おびただしい数の鱗粉だ。恐らくこれが彼女の本気なのだろう。×××××もようやく立ち上がり、じっと相手の攻撃に備える。××は腰をねじって上体を左側に向けた。
「私だって・・・・・・『強い』んだから――――――――――ッ」
 両腕を右に思い切り回し、高速ターンを見せた。後ろ髪がブンと時計回りの円を描いたとき、とてつもない量の鱗粉がまとまりとなってまるで吹雪のように×××××に飛んでいった。
 ぐんぐん向かってくる鱗粉。肉体など一瞬で氷付けにしてしまうだろう、強力な塊を目の前にまで引き付けて、×××××は真横に飛び出た――。


 ×は××が好きだった。
 ××の強気な振る舞いや、プライドの高さ。好戦的な性格。彼女の見せてくれる強さに子お炉を奪われた。
 しかし、この場で××が見せたのは、一生懸命に抵抗する彼女の姿だった。なりふり構わず本音をぶちまける彼女の必死さや弱さに、×は圧倒されていた。
 自分がずっと見てきた××は、表面的なものに過ぎなかったのだろうか。ずっと一緒にいたわりに、××のことをわかっていなかったのではないのだろうか。
「××ちゃん・・・・・・」
 そう、壁に叩き込まれて動けない××を見つめながら思うのであった・・・・・・。
 ××が立っていた場所に、×××××がいる。全身を凍傷でボロボロにし、魂源力を際限なく消費して立っているのもやっとな様子だ。
 鱗粉を一極集中させて放ったのが××のミスだった。×××××は、攻撃力の高い鱗粉の塊を避けるため横に飛び出る。それから鱗粉の幕が薄い場所を、異能を使って蹴散らしながら突撃して××に急接近したのだ。
 全力を出し尽くして動けない××に、ハイッキックを叩き込んだ。体重の軽い××はものすごい勢いで後ろに吹っ飛び、居間の壁に衝突して止まった。立てかけてあった絵画が数点、衝撃でゴトゴト落下した。
「あんたの負けよ・・・・・・××・・・・・・!」
 ××は何も表情を浮かべることなく、ぼうっとした様子で壁に座り込んでいる。全力を出し切って燃え尽きたのだ。両足を前に投げ出し、両腕を垂らし、その目は何も捉えてなどいない。
 力も、本音も、全部吐き出した。これまで心の中にあった焦りが全てなくなり、嘘のように全身が軽い。それまで背負っていた重い荷物を、肩から下ろしたかのよう。
 そう、彼女は焦っていたのだ。自分はこのままろくに活躍できないまま、あっけなく双葉学園という舞台から退場させられてしまうのではないのかと。自分も×も、なすすべなく、惨たらしく血まみれになって・・・・・・。そんな惨い結末が、刻一刻と近づいているような気がしてならなかったのだ。
 ふと、視線を右に落とす。彼女の枯らした花の花びらが落ちていた。
 もっと綺麗でいたかっただろうに。弾力があって、かぐわしくて、色彩のある花を咲かせていたかっただろうに、××が非情にも枯らしてしまった。
 自分は正しかったのだろうか? 力ずくで得られるものなど、何もなかった。


 ×××××は力の入らない両足に喝を入れながら、よろよろと××のところに向かう。
 魂源力を酷使しすぎた。××の強力な異能を無効化するのは、並大抵の力でないと実現しない。しかも椅子を粉々にしたり再構成したりするという化学的な暴挙が体に悪かった。
「さあ、とっとと戻ってもらうわよ! お説教じゃすまさないんだから!」
 しかし×××××の前に誰かが立ちふさがった。ずっと戦況を見守っていた×だ。
「させないよ。今度は私が相手」
「×・・・・・・!」
 そのとき×××××はがくっとよろけ、ついには立っていられなくなってしまう。魂源力だけではなく、鱗粉よる身体へのダメージも蓄蓄積していた。×××××はここに来て、とうとう戦闘不能に陥った。
「いくら×××××でも容赦しないよ」
 お札を摘んで構える×。×××××は×がどんな攻撃手段に出るのかを知らない。結界という優れたな防御手段が目立つ××××だが、攻撃の手段を持っていないとは限らない。
「ねえ」
 ×は、ソファーで足を組んでいるジュンに話しかけた。
「うん?」
「×××××はもう戦えないよ。このままエリザベート様に差し出せばいいんじゃないかな」
 それが私たちへの最後のテストでしょ? と×は言った。×××××は思わず震えた。××とは違い、×はものすごく淡々とした調子でとんでもない事を言ってのけた。簡単に友人を見殺しに出来るほど、×は腹が据わっている子だったか?
 違う。××の命と天秤にかけているのだ。指示通りに×××××を戦闘不能にし、エリザベートに捧げないと××の命は無いだろう。ましてこのように無様に負けてしまったのだから、×がきちんと後始末をしておかなければならない。
「くっ・・・・・・こんなところで・・・・・・!」
「大丈夫だよ×××××。エリザベート様の糧になるだけなんだから、死にはしないよ。安心して地下の隠し部屋で眠り続けてね」
 ×はかつての仲間に残酷なことを言う。それが××のためであるとはいえ、ここまで態度を豹変させることができるものなのか。とても穏やかな笑顔で、×××××に「死んでね」と言っているようなものだ。
 無念だった。自分の力が及ばず、二人を止められなかった。××も×も本当に自分たちや学園の敵となり、仲間たちを忌まわしき魔女に献上し、双葉学園を襲おうとしている。二人とも悪の手先へと堕したのだ。
「そうだね、よくやったよ×」
 ジュンがソファーから立ち上がり、×に近づく。悔しそうに軽蔑の視線を投げかける×××××のことを、ちらっと見てからこんなことを言ったのである。
「でも、ほんの少しだけ計画を変える」
「えっ――」
 ジュンは懐から拳銃を取り出した。


 ×××××がバヨネットを隠し持っていたので、×××がそれを使ってロープを切断し、×××××の戒めを解こうとしている。やがてぱらぱらとロープが緩んで下に落ちた。
「敵・・・・・・強いから・・・・・・気をつけて・・・・・・」
「ありがとう、×××さん!」
 ×××は重度の体調不良により、部屋に残ることになった。×××××がベッドから立ち上がったとき、×××が横に倒れてしまう。
「×××さん!」
「私・・・・・・もう・・・・・・無理そう・・・・・・。残念・・・・・・ゴホッ」
 しまったと思った。×××××の力「レミング」のせいだ。それを理解していた上で×××は×××××に接近し、密着して縄を解いてくれたのだ。
「どうしよう、×××さんが・・・・・・×××さんが・・・・・・」
「私はいいから・・・・・・行って・・・・・・」
 そのときだった。
 ズドンという爆音が聞えてきたのだ。この寝室も細かく振動し、ホコリが降ってくる。
「何! 何が起こったの!」
 ×××××たちだ、と思った。×××××たちがこの洋館にやってきて、敵と戦闘を始めたのだと確信する。
「早く・・・・・・みんなの・・・・・・ところに・・・・・・」
 どのような戦闘になっているのかは、行ってみないとわからない。×××××は止む無く×××を部屋に残し、部屋の鍵を開けて廊下にでようとしたのだが。
 ガチャリという音とともに、扉が動かなくなった。外からチェーンで封じられているようなのだ。
「そんな! なんで!」
 ×××の声はもう聞えない。重度の風邪と頭痛で、命にも関わる恐れすらある。
「開いてよ! みんなのところに行きたいの!」
 涙を浮かべながら、×××××はがちゃがちゃと扉を押す。引く。しかし、チェーンは固くこの部屋を閉ざしており、彼女の脱出を許さない。
「開いてってばぁ――――!」



ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。