【藤沢君の合理的強奪】


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ごうだつ がう― 0 【強奪】
(名)スル
強引に物を奪うこと。暴力によって奪いとること
o 「宝石を―される」
「大辞林 第二版」



藤沢君の合理的強奪



「あー、ダメだこりゃ、電池切れちまった」
 主人公があと一歩でライバルを倒すといういい所までいったところでゲーム機の電源がぶつりと切れる。
 ゆっくりと画面から色が消えていき、数秒後には灰色の素っ気ない画面が浮かんでしまった。
 まぁ、いまどきバッテリー式じゃないレトロなゲーム機で遊んでる高校生なんてのは俺くらいなもんだろう。
 クリアするまでは持つと思って電池切れの警告ランプを無視してたのは自分だから仕方ない。
「電池は……セーブしてたな」
 その辺に脱ぎ捨てた制服から携帯端末のメモ帳機能を呼び出すと、日用品タブに電池の記述があるのを確認する。
「ロード」
 俺の能力『合理的強奪《ローリスク・ハイリターン》』はわかりやすく言えば物質転送だ。
 自身が記憶してる範囲で、意識して右手で触れたものを瞬時に呼び出す。
 これだけ聞くと相当便利な能力だが、出せば出すほど疲れる上にあんまり大きいものは体力的に出すことが出来ない。
 何度か試して痛い目を見た結果、ワンボックスタイプの車一台くらいの大きさの物を呼び出したらしばらく使い物にならなくなるのが今の俺の限界らしい。まぁその辺は応用してやりくりしていくし、電池とかその程度なら日常生活に支障はない。
 握りしめた拳の中に新品の電池を呼び出すと、電池蓋を外して古い電池の代わりにゲーム機の中にセットし直す。
 この能力、出すぶんには便利だが呼び出したものは戻せないという欠点もあり、使い終わった電池は仕方なくズボンのポケットに入れておく。
 使えない電池なんて放り投げてもいいんだが、この屋上という憩いの空間を汚す行為はできるだけ避けたい。
 はめ直した電池によって息を吹き返したゲーム機を操作し、先程のステージの最初からやり直す。
 時刻はあと三十分でお昼休みといった所、あとは昼飯を食べて午後の実技の授業をサボってだらだらと帰って寝るだけだ。
 今日のこれからの予定を立てながら順調にステージを進めていくと、頭の上に紙くずが落ちてきた。
「ふっじさっわくーん、今日の昼飯はなんですかー?」
「今日は学食だ」
「なんだ、つまらぬ」
「つまらなくて……いやちょっと待て、なんでお前いるんだ」
「影ある所光あり、光ある所影ありって事でひとつ」
「意味がわからん……」
 声がする方向の、どの学校にもあるような給水タンクの上を見上げると、無駄に長いマフラーをたなびかせた女子がいた。
 当然のごとく屋上は風が強いので、長ったらしいマフラーは蛇のようにバタバタとのたうち、風と位置の関係でスカートの中身も丸見えだ。
「スカートすげぇめくれてるぞ」
「スパッツ履いてるし」
「は……?」
「ブルマ派?」
「ちげぇよ! 聞いてるこっちが恥ずかしいわ!」
 俺がそう言って突っ込むと、マフラーを巻いた女子は給水タンクから軽やかに飛び降りる。
 何一つ無駄がなく、移動するためだけに洗練されたその動きはそれだけで芸術品のような代物だ。
 こいつの名前は 辻堂《つじどう》 悠希《ゆうき》。
 俺と同じクラスの2-I所属のれっきとした能力者だ。
 長い髪の毛を後ろで一つにまとめ、頭の上から2本触覚みたいに髪の毛が出てるのと、腰に巻いた軍用の丈夫そうなポーチに無駄に長い黒マフラーが特徴だ。
 あとはまぁ、自分では否定してるがどことなく忍者を意識してるその立ち振る舞いとかで、残念美人とかがっかり巨乳と呼ばれてる。
 でもまぁウチのクラスはそんなやつばっかだけど。
「学食ってもどうせまた唐揚げ丼とポテト大盛りでごしょ? そんなんばっかだから何時まで経ってもおチビちゃんなんじゃ」
「俺は大器晩成型なんだ」
「去年も同じこと言ってちびっとしか伸びてなかったのでは」
「男は夢を追って大きくなるんだよ」
「小さい夢を追ってるからどこもかしこも小さいんですよね」
「どこもかしこもってなんだよ! お前が俺の何を知ってんだ!」
「ちっちゃいのか……ま、まぁ私も日本人だから不具合は……」
「下ネタはやめろ! 反応しにくい!」
 こいつとは中等部に入った時からの付き合いだが、どうにもこの独特のノリについて行けない。
 しかも中等部の頃から俺より背が高かったのが未だにトラウマである。
 確かに背が高い方ではないが、それでも女子に見下ろされるというのはそこそこに自尊心を傷つけられる。
 こいつはでもそんなことはお構いなしに俺にちょっかいを掛けてくるし、対応も男友達っぽいのでなんとなく一緒にいることが多い。
 今ではこいつとくだらない話をするためだけに学校に来てるようなものだ。
 そんなくだらない会話をだらだらと続けていると、4限が終わるチャイムが鳴り響くと同時に校舎全体が一気に慌ただしくなる。
 飢えた男子学生たちがわれ先にと購買と学食の券売機に殺到する、双葉学園の昼の儀式といったところだ。
 たまに異能を使ってイカサマしたり喧嘩が起きたりもするので、生徒たちの中では戦争だの革命だのと物騒な名前もついている。
 もう少し穏やかに革命は革命でも無血革命とか話し合いで解決すりゃいいのにとも思うんだが、まぁ血気盛んな運動部の奴らが何を言ったところで聞き入れるかと言われるとちょっとそれはないだろうと思う。
「また購買革命と学食戦争が始まったな」
「あれ、お昼は学食にするんじゃないの?」
「よく考えたら飯食ったら帰るんだから、外で食った方が早い」
「なるほど、んじゃ帰るとするかー」
「別についてこなくてもいいんだぞ?」
「んなこと言ってついて来てくれないと寂しがる癖に」
「奢らないぞ」
「自分より小さい男に奢ってもらう趣味はないから」
「身長は余計だ!」
 身長について執拗にいじり倒してくる悠希には口喧嘩ではまず勝てない事は今までの経験からわかっているのでスルーするのが精神衛生上よろしい。
 屋上から出て階段をおり、昼休みになってガヤガヤと賑わう校舎を並んで歩きながら下駄箱へ向かう。
 所々で爆音が響いたり、どこそこでバイオハザードが起きただのと物騒な噂が聞こえてきたり、学園で一番おっぱいが大きい美人は誰かだのと真剣に語り合う男子がいたりだの、いつもどおりの光景だ。
 今日の昼飯はその辺りのファミレスか、もしくはあのとりあえず量は多い中華料理店かと考えてるうちにゴールである下駄箱が見えてきた。
「ロード」
「相変わらず便利な能力だこと」
「今度お前の鞄もセーブしといてやるよ」
「さすが藤沢、話がわかるね」
 下駄箱についたところで教室に置いたまんまの鞄を呼び出し、下駄箱の一番下の隅に置いてある靴をはこうとしたところで違和感に気づいた。靴の代わりに手紙が入っているのである。
 もしやコレが伝説上の存在で絶滅危惧種であるラブレターかと淡い期待を抱いたが、茶封筒に入ってる上に風紀委員会の印まで押されているのを見るに明らかに物騒なお話であるのは間違いない。
「こすい真似をしやがる、だが甘かったな、俺は自分の身の回りのものは全てセーブしているのだ」
「何独り言をつぶやいてるの?」
「うっせぇ! ロード!」
 とにかく靴を呼び戻そうと、左手をかざして能力を発動させる。
 靴を隠すとはなかなかに考えたが、風紀委員といえど俺の計算高さを見くびったようだなと内心鼻高々になりながら靴を呼び出すが、ここである可能性を思い浮かべた。
 コレが罠で、俺が下校しようとするのを知るためだけに靴を隠したという可能性だ。
 だとすれば確実にこの近くに風紀委員がいるはずだ。だがどこに?
 靴がなくなったことを察知してすぐ俺のところに来れる距離が隠れられる範囲のはずだ、だがこんな所に隠れる場所があるのか?昼飯時に屋外で弁当を取ろうとする学生は少なくない、それに紛れているのか?
「ねぇ」
「なんだ、今マジに考え事中だ」
 ありとあらゆる可能性を考え、どうにかして風紀委員から逃れる手段を編み出そうとしゃがんだ姿勢で考えていると、脇で立っている辻堂に呼びかけられた。
「上」
「上?」
  辻堂が指さす方向には天井しかないはずだが、言われるがままに上を見上げる。
「……」
 天井があるはずのそこには、女子が履いているようなローファーの裏に、長く伸びた健康的な肌の脚、翻ったスカート、そして。
「……水玉のパ――」
「藤沢《ふじさわ》 來栖《くるす》!」
 聞き覚えのある声でフルネームを呼ばれ、俺の意識はそこで途絶えた。









 双葉学園都市は、広い意味で捉えるならば東京都双葉区丸々一つを敷地とする広大な学園の為、通常の警察機構の他に学生で構成される風紀委員が存在しており、能力者関連の犯罪や軽犯罪を取り締まることが出来る。
 それゆえに風紀委員とは学園の中でもよりすぐられたエリートが選出される傾向がある、が、あくまでも『傾向がある』止まりであり、実際は能力の強力さなどを優先され、性格等といった重要そうで些細な問題は度外視されることが多い。
 そしてそれだけ数が多い風紀委員の情報を処理し、共有するために学園都市の各地に風紀委員の詰所がある。
 ここ双葉学園高等部のそれは学園都市の中でも五本の指の中に入る規模の詰所であり、学園都市で起きている事件でこの詰所に入ってこないものは特例事件や生徒に知らせるわけにはいかない事件だけとまで言われている。
 らしい。
 らしいとつくのは俺が風紀委員とは真逆の、いわゆる素行が良くない生徒であるからで、そのくせ小心者なので風紀委員とはなるべくかかわり合いにならないように務めているからであり、思いっきり踏んづけられて未だくらくらする頭に長ったらしい、要するに風紀委員は凄いという自慢話を目の前のデカ女にされているからである。
 俺から見たら大体の人間は確かにデカいんだが、コイツは身長に加えて態度もデカいデカ盛り女だ。
 寒川《さむかわ》 玲子《れいこ》、うちのクラスの風紀委員で2年の風紀委員の中では相当の実力派らしい。
 身長が確か176㎝とかそれくらいで身長160㎝しかない俺よりも遥かにでかく、スタイルはうちのクラスでも随一で辻堂とタメをはれるくらいのバインバイン、長いミノムシみたいな茶髪が特徴だ。
 はっきり言って俺とは真逆の位置にいる人間なんだが、こいつは何かと俺に絡んでくる。
 まぁ正義感が強いのは風紀委員としては適切だと思うし、ある意味名物の風紀委員長の危なっかしいトリガーハッピーに比べたら寒川は相当の真人間だ。
 C組のあの竹刀女とは馬が合うに違いない、学内の男子にとっては最悪のコンビになることは間違いないが。
「というわけなんです、分かりました?」
「スマン、全然頭に入ってこなかった」
「じゃあもう一回最初から一字一句間違えずに繰り返すわね、覚えるまで」
「勘弁してくれ……」
「勘弁してー」
「よろしい、って、何であなたまでいるのよ悠希さん!」
「いやぁ、だって風紀委員ってあんまりいい噂聞かないから、二人きりにさせたら藤沢が中世の魔女狩りも真っ青な拷問を受けるんじゃないかと」
「しません!」
「ていうか俺は何で思いっきり踏みつけられた上に、後ろ手に縛られて風紀委員の詰所にいるんだ? どう見ても皆さん忙しそうだぞ」
 風紀委員詰所の中では事務員と思われる生徒が電話をとったり書類に何かを書き込んだり、パソコンにデータを打ち込んだりとあっちにいったりこっちにいったりをせわしなく繰り返している。
 その内の一角、多分お偉いさんと話すんであろう革張りのソファーがあるスペースに俺はある意味で拉致監禁されていた。
 辻堂は全然気にしてないみたいだが、さっきからチラチラとこちらを見てる他の風紀委員の視線が痛い。
「藤沢君、あなた全然人の話聞いてなかったのね」
「いやまぁ……気絶から目覚めてすぐに延々と説教された内容を覚えられるほど程鍛えてはないけどな」
「藤沢はあんま運動神経いい方じゃないしね」
「オホン!……私たちは確かにある程度の犯罪を取り締まる権限を与えられています、が、あくまでも私たちは学生であり、そして風紀委員の本来の目的は学内の風紀を正すことです」
「風紀委員だからな」
「でも風紀委員の一年のあの子は……」
「それは今は関係ありません! とにかく、藤沢君の服装や遅刻歴はあまりよろしいものではありません! 風紀委員として見逃すわけにはいかないんです」
「それにしたって踏みつけはなぁ」
「そ、それについてはごめんなさい、で、でも午後の授業もあるのに帰ろうとするのも悪いんですよ!」
 たしかに筋は通ってるんだがなんだか釈然としないというか、止めようとするならもう少し他にやりようもあったんじゃないだろうかと思う。
 しかしパンツが見えたのはそこそこラッキーとも言えるがこれは黙っていた方がいいだろう、藪をつついて龍を出すのはバカらしい。
「盛り上がってるところ悪いが、失礼する」
 俺たちが結局周りの目を気にせずにギャーギャー騒いでいると、一人の凛とした女子生徒が話しかけてきた。
 長いサラサラの黒髪に全体的に刃物を連想させる体つき、切れ長の瞳がその雰囲気をさらに強めている。この学校で逆らってはいけない人物の一人に数えられている風紀委員長の逢洲《あいす》 等華《などか》だ
「ふ、風紀委員長!?おいおい、いくらなんでもそこまで悪いことしてないだろ!」
「……」
 思ってもみなかった人物の到来に背中に冷や汗がドバっと出てくる、辻堂もそれは同じなのかいつものおちゃらけた感じはなく、少し緊張しているようだ。
「そう緊張しないでほしい、確かにキミの素行は風紀委員長としては誉められたものじゃないが、私がどうこうするほどのものじゃない、とりあえず寒川、彼の縄を解いてあげてくれ」
「はい、わかりました」
 そう言って軽く微笑を浮かべると俺が縛られてたキャスター付きの椅子のテーブルを挟んで向かい側の豪華な革張りのソファーに腰掛けて、佩いていた二本の刀を傍らに立てかける。
 その動作の一つ一つに何というか気品というか鋭いながらも美しい芸術品のような物を感じてしまうが、それ以上になぜこんな大ごとになりそうな雰囲気なのかという先の見えなさが俺を不安にさせる。
「ふぅ、縛られるってのはいい気分じゃないもんだな」
「縛る方が好き?」
「そういう意味で言ったんじゃないっての!」
 ようやく開放された両手をプラプラさせると、後ろから辻堂が軽口を叩いてくる。思わずいつものように突っ込んでしまったが、ここが完全アウェーだということを忘れていた。
 しかし最も反応が恐ろしかった風紀委員長は寒川が手渡した書類に目を落としてノーリアクションだし、他の風紀委員もちょっとクスクス笑ってるだけだったのが意外だ。
 もう少しなんというか、くだらないお喋り厳禁の厳正なイメージがなきにしもあらずだったんだが。
 俺が軽く想像と現実のギャップに戸惑っているうちに、テーブルの上にはいろんな物が置かれていく、学園の見取り図にインカム、小型カメラに何故か女子の制服とウィッグに化粧道具。
「さて、少々手荒な方法をとってしまったことについてはまず謝らせてもらおう、まさか寒川がそこまでやるとは思ってなかったんだ」
「コイツはいつもこんなんですよ、騙されてますって」
「ちっ! 違います! 違います!」
「まぁ、一応は訳があるんだ、私たち風紀委員の仕事を少し手伝って欲しくてね」
「手伝う? 俺が? 何を?」
 風紀委員はいろんな方面で強力な異能力者を揃えてるはずだし、テレポーターなら俺以外にも何人かいるはずだ。
 能力的な意味でも戦力的な意味でも微妙な俺が、とてもじゃないが激務で知られる風紀委員の仕事を請け負えるとは思えない。
「俺じゃなくて辻堂なんじゃないですか?」
「いや、キミだ、寒川がこの仕事に適任と勧めるんでね、確かにキミなら申し分ないだろう」
 寒川が勧める?確かに寒川は俺の能力の詳細をある程度知ってるとはいえ、ある程度知ってるからこそ戦闘には適してないと言う筈だ。
 後方支援なら確かに出来るかもしれないが、記憶力が命の俺の能力では風紀委員全員を記憶して便利な運び屋になるなんてのはまず無理だし、何より俺自体がそういう状況下に遭遇した場合に一撃でのされる自信がある。
 前線に出れないし、後方にいてもいまいち役に立てない微妙な奴ってのが俺の異能力と身体能力を見て戦闘担当の教官の評価だ。
「でしょう? 彼ならきっとやってくれます」
 寒川が俺の後ろで自信満々に断言するのが逆に怖い、何か尾ひれに背びれにお頭もつけて俺の能力を説明したんじゃないかコイツ。
「すいません、全然話が見えないんですけど、俺、ぶっちゃけ弱いですよ?」
 とにかく誤解だけはといておかないとマズいと思い、正直に自分の実力を明かしておく。
 見栄を張っていいことなんか何もないってのが俺の持論だ、大見得張って対ラルヴァの実戦に出てメッチャクチャヘタレてその後ひどい目にあった友人を見てからますますそう思うようになった。
「いや、大丈夫だ、キミにやってもらいたいことは戦闘じゃない」
 俺の言葉を聞いて、俺の懸念を吹き飛ばす発言をしてくれる風紀委員長、なんだ雑用か、それなら大丈夫だなと安心した直後。
 少し躊躇うように俺と書類を見比べた風紀委員長から出た言葉は予想外で、でも俺が子供の頃から言われ続けてきたことで、俺が一番言われたくないことだった。




「単刀直入に言う、キミには女装をしてもらいたい」



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