【MPE 12】

   12


 白く燃え尽き、屈んでいる状態の×××××を、エリザベートは躊躇せず蹴っ飛ばした。
 ×××××は二階通路に通じる大きな怪談をごろごろ転げ落ちた。仰向けになり、右腕を開いて手首を床に叩きつけて、×××××の足元で停止する。
「×××××・・・・・・。ここまで助けに来てくれたのに・・・・・・」
 涙がまだ目元に残っている。やれることはすべてやり尽くした、すがすがしい表情をしていた。×××××が助け出してくれると信じているから、×××××は安心して眠ることができるのだ。
 ×××××の中で怒りの炎が燃え上がる。仲間をほとんど失い、これほどにまで絶体絶命の危機に陥っているのに、×××××は絶望に陥ることはなかった。
「とうとう君一人だけになったか。『レミング』の××××××××××」
 エリザベートが階段を下りてくる。両腕を広げると大きな赤い袖が垂れ下がって、まるで紅の十字架が迫ってくるようである。
「どうしてこんなひどいことをするの」
 ×××××が立ちあがる。据わった低い声でそう言った。
「どうしてこんなことをするのよ! 何で! 何が欲しくて! 何をしたくて!」
「勝手に想像するがいいさ。魂源力を集めて私の糧とする。新しい異能を求めて奪って周る。それだけのことをするために私は異能者として存在するんだ」
「悪者として生まれてきたというのなら・・・・・・ここで死んでしまえばいい・・・・・・ッ!」
 激しい敵意でもって赤い魔女を睨みつけた。装備品のバヨネットをしっかり手に握る。それまでの優しい心を捨て去り鬼と化した×××××は、エリザベートに死刑を宣告した。
「面白い、ならば私も全力で迎え撃とう」
 エリザベートは懐から黄色の球を取り出した。何か魂源力系のアイテムだろうと×××××は思う。球からは午後の陽だまりのような山吹色の光が発生し、×××××もエリザベートもそれに包み込まれる。
 発光が無くなったとたん、場所が一転して真っ暗な部屋となった。
 徐々に目が慣れていくにつれ、天井や壁や床が石づくりで、壁際にろうそくの明かりが並んでいることがわかった。薄暗くて気味の悪い部屋である。
「転送アイテムを使わせてもらった。――あんまり騒ぎにしたくないものでね」
 背後を振り向くと、真っ白な女の子たちの体が数体仰向けになって転がっている。
 左から××××、××××、××××××××、×××××、そして先ほど魂源力を抜き取られてしまったばかりの×××××××××××である。さらに部屋の隅には中学生と思われる女の子の体も固めて置かれていた。
「死体部屋だ」とエリザベートは言った。「魂源力を抜き取った人間や、殺してしまった人間は、みんなこの地下室に隠していたんだ」
 ×××××は仲間の顔を一人ずつ見ていった。自分を助けるためにわざと敵側に付いたという××と×。双葉島からここまで助けに来てくれた××と×××××。そして、×××。
「この子たちは私が助け出す。あなたの野望もそれまでだよ」
 ゆらりと全身の力を抜き、相手の攻撃を受け入れる体勢に入った。いかなる殺意も無力化し、叩き潰してしまう得意の「合気」だ。ナチス・ドイツで運用されていた軍隊格闘術を使って、×××××は戦うのである。
「ふふふ。ようやく本気になったか、死神」
「その名で私を呼ばないで。私はあなたみたいな悪人じゃない」
「君は死神、私は魔女。いったい何が違う? 戦って殺すことに違いも何もあるまい」
 エリザベートは真横を向いて姿勢を低くする。それが彼女の戦いのスタイルなのだろう。
 長かった決戦は終わりのときを迎え、決着が近づいていた。


「どれ・・・・・・私は弱くないぞ」
 ドレスの裾を摘んで持ち上げ、すっと×××××に接近してきた。重たいドレスを着ているとは思えない俊敏さだ。白い生足が飛んできた。
 ×××××もそのハイキックをしっかり防御してみせた。エリザベートはそのまま流れるように大腿をぐっと上げて、脚を振り回してくる。回し蹴りだ。
 このチャンスを逃さない。×××××は強烈な蹴りを受け・流し、勢いのまま地面に叩きつけた。
「がふぅッ!」
 背骨がバウンドするぐらい強力な打撃に、エリザベートは一瞬だけ目の前が真っ暗になる。床面が硬い石でできているので、×××××の合気が効果的であった。魔女はすぐに体勢を立て直し、後ろに飛んで距離を取った。
 ×××××は厳しい表情のままバヨネットを取り出し、手元でくるくる回してから握って構えて見せる。口元から出血しているエリザベートは笑顔を見せた。
「なるほど、ずいぶん鍛えているようだ」
「下手に触れると怪我するよ」
 怒りに燃える×××××は言った。
「なら次はこれでどうだ」
 バァンという破裂音が×××××を脅かす。今度は×××××の異能で発生させる、エクスプロージョンだ。
 ×××××が真横に走り、飛び、転がり込むと、それに続くかのように爆発もパン、パン、パンと横に流れていった。水素と酸素を適切な配分でかき集め、爆発させる。水が発生して石の床がほんの少しだけ濡れる。
「この程度しか扱えないか。まぁ悪くは無い。だが私がオリジナルだったらもっと好き放題遊ぶのになぁ」
 にたにた笑いながら、エリザベートは×××××の異能を弄ぶ。
「力を悪用しないで!」
 ×××××は怒鳴る。自分の異能が親友を攻撃するために使われていることを知ったら、×××××はひどく悲しむだろう。何よりも、親友の異能をこのようなことに使われて不愉快極まりない。
「私たちはその愚かさをよく知ってる。暴力は何も生み出せないよ!」
「悪用? ふふ、この程度で悪用とは」
 ×××××だって、×××××たちほかの仲間だって、かつて自分たちの力を使って双葉学園に牙を剥いた。×××××は「レミング」で醒徒会を苦しめ、×××××は醒徒会会計を痛めつけ、××や×××に至っては生徒の命を脅かしたり生徒を暗示で制御したりしたぐらい「力」を使って暴走した。
 でも、彼女たちはそれで明るい未来など手に入れられなかったし、彼女たちにとっての新しい価値も何一つ手に入れることなどできなかった。
 そんな彼女らに残されたものは「仲間」だった。×××××には×××××、×には××、××には××××がいるように、かけがえのない親友や相棒が、彼女たちにとって最後の心のよりどころとなる。
 仲間を助けるために力を使う。守りたいもののために力を使う。そして、もっと多くの命――双葉島の人間や、双葉学園の生徒たち――をその手で守り、救い、助けるだけの力が彼女たち七人にはある。
「どうして××と×まで手を出したの!」
「あいつらがやってきてから決めていたことだ」
 今度は×××××がバヨネットを振り回してエリザベートの首を取りにきた。赤いドレスの少女はそれをひらりひらりとかわしながら、×××××との会話を楽しむ。
「君たち全員の魂源力を手に入れたかった。×の力でパワーアップし、双葉学園を襲うつもりでいた」
 双葉島侵攻のタイミングを随時うかがっていたエリザベートにとって、××××××の女子がのこのこと集まってきてくれたことは、まさに絶好の転機であった。並以上の質や量を誇る×の子たちの魂源力を全員強奪し、いよいよ満を持して学園少女を貪りに向かうのだ。
 力を過信し、思う存分に暴走を続けるエリザベートはもう醒徒会など恐れない。猫耳少女だろうが女子駅員だろうが、欲望のままに頬張り尽くしてしまうのだ。そして双葉島でも魔女エリザベートの名を轟かせ、住民を恐怖のどん底に突き落とすのだ。
「君たち×の力を手にすれば醒徒会とやらも歯が立たないだろう。猫を飼うちびっこ会長か。ふふ、勝負してみたいものだ」
 エリザベートの両目が張り裂けたように開かれる。「そして食してやるのさ!」
 その瞬間、×××××の武器がエリザベートの首まで、あと数ミリというところで止まった。べらべらしゃべっているその隙を狙ったのだが、ぎりぎり相手に上体を反られて避けられてしまったのだ。危なかった、とばかりに魔女は苦笑を見せる。
 短刀を首に突きつけたまま、×××××は強い語気で彼女にこうきく。
「本当は何を考えてるの。ただ女の子を襲いたいだけじゃないんでしょう」
「君に語るものなどもう何も無い!」
 そう声を荒げたとき、×××××が鋭い視線を解いてもとの優しい瞳で見上げてきた。エリザベートは怪訝そうに片方の眉を上げる。
「やめてエリザベート。心を入れ替えるのなら殺さないわ」
 この発言に、珍しく魔女がきょとんとするのである。
「解せない。私にそんなことを言った奴は君が初めてだ、×××××」
「放っておけないだけよ。あなたとはもっと語り合う必要がある」
「鬱陶しいッ・・・・・・!」
 エリザベートはここで初めて、不快感に歪んだ怒りの表情を見せた。×××××を蹴っ飛ばして反対側の壁に叩きつけてしまった。
「力を見せつけたいからに決まってるだろうが・・・・・・!」
 赤い瞳が毒々しい発光を見せた。赤い髪の毛先が、まるで火が着いたようにちりちりと動いている。本気だ。
「自分の力を、自分が幸せになるために使ってるだけのことだ」
「本当に・・・・・・、そんな身勝手なことでたくさんの女の子を?」
「それを君が言うか××××××××××! 己が力を見せ付けるために学園に牙を剥いた、君がか!」
 やはり、エリザベートも×××××らが学園で起こしたテロのことを知っていた。やり返されるように突かれたくない点を突かれてしまった彼女は、くっと漏らす。
「強くて、素敵で、夢のある力! 君にもこの素晴らしさがわかるだろ?」
 眼前に爆発が起こった。慣れた感覚で後ろに下がりそれを回避したのだが、爆風の中からエリザベートの凶悪な笑顔が飛んできてびっくりした。単なる目くらましだったのだ。
「力は自分のために使うのが一番だってことをなぁー!」
 腹部に膝を入れてひるませてから、顔面を本気で殴りつけた。×××××は再び石の壁に叩きつけられる。
「君たちも私と同類なんだ。なぁ、もう楽になっちまえよ。自分のためだけに力を使うんだよ。双葉学園なんかにいるから、君たちはいつまでもそうして腐ったままなんだ」
 壁際でひるんで動けない×××××に、ドンドンドンドンとエクスプロージョンが叩き込まれた。
 死体部屋が何度も光に包まれる。惨たらしい暴力が振るわれる。血液が飛ぶ。肉片も飛んだ。これが力の使い方だといわんばかりに、エリザベートは容赦なく×××××を粉々にしようとした。
「双葉学園・恐れるに足らず」
 ニヤリと笑みを浮かべてそう言ってのける。息が上がり、赤い髪が汗で湿り、前髪がべっとり額についていた。本気で力を使っていたのだ。
 煙が散って晴れる。×××××は立ち上がった。エリザベートは表情を一変させて驚愕した。
「・・・・・・っ。なんて生命力だ」
「私たちはもう、悪者じゃない・・・・・・!」
 骨が折れて千切れかけていた腕が、しっかり繋がって正常な方向へと落ち着く。
「むやみな戦いや力任せじゃ、何にも得られなかった」
 おびただしい出血が止まり、露出していた肉片もすっと元の位置に収まった。
「学生として大事なものを失って悲しい思いをした。でもね、そんな私たちの味方をしてくれる人たちだっているんだよ」
 細くて柔らかいアッシュブロンドの髪が揺れだした。魂源力が揺らめき立っているのだ。
「私たちには『仲間』がいる。『友達』がいる。『同級生』がいる。そして『愛する人』がいる。その人たちのために、今度こそ私たちは普通になるの。日陰から日当たりに出て。双葉学園生として胸を張るの」
 ギンと、燃えるような緑の瞳。エリザベートはその気迫に戸惑った。そしてはっと気づくのである。
「そうか・・・・・・! それが君の真の力か! 驚異的な自然治癒力――」
 エリザベートはジュンやシホたちの情報から、とんでもない思い込みをしていた。×××××の固有の異能が「レミング」だと思い込んでいたのである。
 ×××××の本当の力はペインキラー――「生命力の強さ」だった。たとえ致命傷を負っても彼女は異能の効果でみるみるうちに回復してしまう。「集団死――レミング」は、その生命力の強さゆえに体内にウィルスが残っているだけの二次的なものに過ぎないのだ。
 当然、心優しい彼女は望んでこのような体になったわけではない。しかし仲間たちを救い出すためなら、×××××は自分から望んで戦いに出て力を使うことだろう。
「島には入れさせないよ。ここであなたを食い止めるから。あなたを倒して、×××××たちを助けて、島のみんなを守る」
 完治した×××××はこう叫んだ。「守りたいもののために、私たちは戦う!」
「守りたいもの・・・・・・。愛する人、か・・・・・・」
 赤い魔女はやや視線を落とした。両肩の力を抜いて両腕を下げ、どこか哀しげな表情を×××××に見せる。そして両方の拳を強く握り、歯を食いしばってぶるぶる震えだしたのだ。
「間違ってる。間違ってるぞ×××××」
 そしてエリザベートも真紅の瞳をぎょろっとさせ、こう一喝した。
「奇麗事では守りたいものなど守れない! 哀しさや寂しさをもたらすことだってあるんだ!」
「あなたこそ間違ってる、エリザベート! 決してそんなことはない!」
 もうエリザベートは表情を崩すことはなかった。もう一度視線を鋭くして殺意をむき出しにし、×××××と対峙する。×××××もとうとう説得を諦めて、緑の両目に冷酷な魂を宿した。
「やはり力が絶対だ。ますます君の力が欲しくなった。返り討ちにしてくれる」
 エリザベートが右手を掲げ、エクスプロージョンを叩き込もうとする。×××××の自然治癒力が追いつかなくなって力尽きるまで、何百発でも炸裂させるつもりだった。


 そのとき、薄暗かった部屋がぱあっと明るくなった。しかしそれは決して穏やかな陽の光などではなく、世界を洗いざらい消し去ってしまうような、破滅や絶望を直感させる恐怖の「白」であった。
「なんだぁ!」
 魔女は仰天して後ろを振り向く。白い光の向こうに、誰かが右手を伸ばして力を解き放っていた。
 ××××だ。××××××××がエリザベートに熱線を浴びせてきたのである。
「ぐあぁあああああああああああ!」
 赤いドレスが焦げて黒くなり、切れ切れになる。対照的に顔面が焼きただれておびただしい出血が起こり、真っ赤になった。「顔が、私の顔がぁ!」と喚いている。
 なぜ××××が動けるのかが理解できない。シホとの激戦で片腕と片足を失い、まともに戦うこともできなかったはずである。どうして攻撃をすることができたのか?
 そしてエリザベートは信じられない光景を目の当たりにし、激震する。
「そんな・・・・・・馬鹿な・・・・・・ありえない・・・・・・ッ!」
 魂源力が抜けて意識の無いはずの五人が、××××を支えているのだ。
 下半身を支えているのは×××と××。××は失くした右足の箇所を支えていた。上半身の肩のそれぞれを××と×が持ち、×××××が××××の右手をエリザベートに合わせていた。×××××に至っては灰色に濁った瞳がしっかり宿敵に向けられており、何かこう、仲間を助けたいという「執念」すら感じられる。
「なぜだ! なぜ魂源力を抜かれてるのに君たちは動けるんだぁ――――ッ!」
 この問いに、××××がニッと勝ち誇った微笑を見せる。それを見た瞬間エリザベートは「くっそおおおお――――ッ!」と激怒する。
 魂の無い五人がぱたぱたと倒れていったのち、片足しかない××××もボディの冷却を終えてからその場に倒れた。まさに奇跡という表現がふさわしい、起死回生の技であった。
 ×××××の言ったとおり、彼女のおごり高ぶった性格が災いしたのである。ボロボロの人形と小馬鹿にして××××を放置したのが、勝負の別れ目となった。××××はエントランスホールの仕掛けを作動させて隠し扉を見つけ、地下一階に降りてきた。
「許さない・・・・・・! このポンコツが、死体ともどもぶっ潰してやる・・・・・・!」
 ふらふらと××××に近づき、エクスプロージョンを叩き込もうとする。
 しかし、そんなエリザベートの背後に黒い影が立った。「あっ・・・・・・」と気づいたがもう遅かった。殺傷能力の高い刃物が鈍い光を見せる。
 直後、×××××がエリザベートの背中にバヨネットを刺し込んだ。確実に心臓を突いた。死体部屋に禍々しい絶叫が響き渡る。
「・・・・・・これが仲間の『絆』ってやつだよ、エリザベート」
 最初に壁に叩きつけられたときだった。石作りの階段を、××××が何とか降りてこられたのを目撃する。それからはエクスプロージョンを叩き込まれてでも時間を稼ぎ、××××が不意打ちをしてくるのを待っていたのだ。仲間たちが魂源力を失ってでも自分を助けてくれたから、自分に強い自信を持って魔女に抗うことができた。
 本当はエリザベートの喉元にバヨネットを突きつけたとき、確実に血管を掻っ切ることができた。でも×××××は戸惑ってしまったのだ。エリザベートが何を考えて連続的な誘拐事件を起こしたのか理解できず、彼女の気持ちを知りたいと思ってしまったから。
 しかし、そんな心優しい×××××もとうとう覚悟を決めた。
 エリザベートは純粋な悪だと断定したのである。もう二度と持ち前の優しさを見せることなく、×××××は彼女の心臓を貫いた・・・・・・。
「ぐっ・・・・・・ぐぐぅ・・・・・・っ。まだ、まだこんなところでぇえええ・・・・・・!」
 バヨネットを差し込んだまま、さらに上方向に突き上げて心臓を裂く。がふっと吐血したのを認め、×××××はエリザベートから刀を抜いた。
 ばたばた出血している魔女はその場でよろけながらも、×××××を睨み上げてみせた。闘志衰えぬ赤い瞳がギンと輝く。
「許さない・・・・・・」拳を振り上げて襲い掛かる。「許さないぞ、××××××××××――――ッ!」
「もう、終りだよ」
 ×××××の緑の瞳も、その視線に応えた。往生際悪く全力を振り絞って殴りかかってきたエリザベートを合気で受け、流れるような動作で投げ飛ばす。
 魔女は逆さまの大の字になって壁面に叩きつけられた。紅の十字架をわざと逆さにしてはめ込んだかのようになった。石を砕いて体をめり込ませてしまうぐらい、×××××の武術はとてつもない威力をたたき出したのである。
 その瞬間、もともと雑なつくりであった隠し部屋の各所が崩落を初め、床が崩れて抜けてしまった。
 ×××××は仲間ともども、さらに地下へと落下してしまった。


   エピローグ


「う・・・うん?」
 しばらく閉ざされていた瞳に光が入る。
 じんわりと体中が温かくなり、意識が透明になっていくようはっきりとしていった。
 ××××は上体を起こした。ぱらぱらと小石が崩れて落ちた音を聞いたとき、自分が瓦礫の山にまみれていることに気がついた。
 どうやら何かが崩落してこうなったようである。制服の汚れ具合からして、きっと自分はそれに巻き込まれたのだろうと思った。
「私はどうしてたのかしら・・・・・・?」
「いい加減どいてくださる? 重いですわ!」
 真下から声が聞えてきたので、びっくりして立ち上がった。××はずっと××××××××の背中に乗っかっていたのである。
「××! ・・・・・・って重くないわよ!」
「ったく。数日ぶりに会ったのに随分なことしてくれますわね。おまけにあんだけ人を騒がせて!」
 ぐぐぐと××は何も言い返せない。仲間を欺いてエリザベートの手先になった身だ。みんな多大な迷惑をかけてしまったのは、想像するに難くない。
 後方から、ぱらりとかけらが転がる音がした。×××××××××××が目覚めたのだ。
「・・・・・・みんな生きてる? ああもう、髪の毛めちゃくちゃぁー」
「・・・・・・蘇生・・・・・・生還・・・・・・奇跡体験・・・・・・アンビリバボー・・・・・・」
 ×××××も起き上がる。彼女は隣に転がっていた人形の頬をぺちぺち叩き、眠った状態から起こしてあげた。
「・・・・・・あ、直った。よかったぁ、動いてくれて」
「×××!」
 ボディが再起動した××××××××のところに××が駆けつける。××は瞳を潤ませながら傷だらけの彼女の右手を取った。
「やったよ××ちゃん。エリザベート、やっつけたよ」
「ありがとう、ありがとう×××・・・・・・」
 ×××××は髪の毛をまとめるゴムを××から貸してもらい、とても多い髪の毛を横にまとめてどうにかいつもの髪形に落ち着いた。××も×××××も眼鏡を失くしていたが、そのようなことがどうでもよくなってくるぐらい心はすっきりしていた。
「私たちが復活できたたってことは・・・・・・×××××がやってくれたってことだよね」
「エリザベートは死んだのね。・・・・・・そうだ、×! ×はどこ!」
「ここだよ××ちゃん!」
 ちょうどたった今目を覚ましたばかりの××××が、勢いよく××のもとに飛び込んできて抱きついた。×が元気でいるのを見ただけで、先に××のほうが泣きだしてしまう。
「ごめんね・・・・・・ごめんね×、あなたを守ってやれなくて」
「そんな謝らないで××ちゃん。××ちゃんが側にいてくれたのわかったよ。ありがとう、すごく嬉しかった」
「これで、あとは×××××ですわね――」
 ××××を除く五人は、瓦礫の山をほじくり始めた。


 夢を見ていた。
 それは××××××××××にとって何となく哀しい夢だった。
 力を失い、最愛の人の愛を見失い、そして最愛の人そのものを失い。
 ついにはその世界の何もかもを捨て去って、何もかもをやり直すことに決めてしまった。
 そんな寂しくて、辛くて、物悲しくて、か弱き少女の夢。

 自分はもう一度、きちんとやり直せるのだろうか――?


「・・・・・××! ×××××、起きて! ねえってば!」
 アッシュブロンドの髪をした少女が眠りから覚め、緑色の瞳をみんなに見せる。そのとき、誰もが安心してほっと胸を撫で下ろした。
「よかったぁ・・・・・・! 私たち、生きて帰れるのよ!」
 そう泣きながら喜んでいるのは、×××××だった。裸眼でいたので誰かわからなかったが、特徴的な髪形で自分の親友だと理解した。
 ××と×もいる。半壊している××××を、××と×××が支えている。
「ありがとう×××××。あなたとみんなのおかげで助かったわ」
 ××が優しい瞳をしてそう言うと、他のみんなも次々と温かいお礼の言葉を口にしてくれた。
 あれだけ壮絶を極める戦いであったのにも関わらず、七人全員が無事でいられた。×××××は仲間を救い出すために全力で戦い、エリザベートを撃破することに成功したのである。
「みんな・・・・・・」
 夢から覚めていないようなぼんやりとした意識の中、×××××は呟いた。


   【終り】



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最終更新:2010年09月05日 19:58
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