【MPE 11】


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   11


「何があったの・・・・・・?」
 ×××××は一階に降りて居間にいた。何かに圧縮されて押しつぶされ、絶命している人間の死体があったのだ。
 衣服と髪から、あの二人組みの青年のほうだと理解できた。それにしても壮絶な最期である。いったいこの部屋で何が起こったのだろう。
 小規模ながら爆発の痕跡も発見した。それが恐らく、寝室で聞いた爆発音の正体なのだろうと思った。
 特に新たな発見もなかったので、×××××は居間を出た。広大なエントランスホールには巨大な赤髪の少女の肖像画がかけられており、初めて目にしたときは息を呑んだ。
『■■■――僕の愛する人へ』
 表題としてそうプレートに彫刻されてあった。異様だったのは、パソコンのテンキーや電卓を思わせる数字のボタンが備え付けられていたことである。
 この赤い髪をして赤いドレスを着た赤い瞳の子が「エリザベート」なのだろうか。そもそもこの絵は誰が描いたものなのだろうか。そして、どうしてか設置されている謎のテンキー。×××××は何となく「7」を押してみた。すると電子音が鳴ったと同時に、四角い液晶に「7」と表示されたので、彼女は焦ってリセットボタンを押して消去した。
「ここに名前が入るんだよね・・・・・・?」
 ×××××は、液晶に入る三つの数字が気になった。でも、今はそんなことをしている場合ではない。すぐにでも×××××ら仲間と合流しないといけない。
 エントランスホールは天井が高く、ここで初めて三階の高さに位置する通路部分を確認した。「三階建てだったんだ」と×××××は認識する。床面には枯れた花びらが多数散らばっていた。このホールに飾られていた花たちだろう。
「××の力かな」
 対象の水分を瞬時に奪うことで気化冷凍攻撃ができるのが、××の異能だ。彼女は敵に寝返ったと聞いたが、自分と相対するときが来るのだろうか? ×××××は不安そうな表情でホールから出る。
 何の変哲のない客間の、さらに向こう側の部屋はダイニングであった。縦に長いテーブルと豪勢なシャンデリアがいかにも洋館らしい。
 ・・・・・・突然、×××××の目線が鋭利なものになる。
 息を殺してバヨネットをしっかり握った。神経を研ぎ澄ませながら、ある一点を見つめていた。台所である。
 人の気配を感じたのだ。相手もこちらに気づいたようで、気配を消してきた。台所へのドアは開いており、銀色の流し台や配管、業務用冷蔵庫が伺える。
 ドアに接近する。バヨネットを握る力を強くする。台所に足を踏み入れた瞬間、彼女はヒュンと武器を右に振り、姿勢を低くして潜んでいた相手に刃物を向けた。
「×××××!」
「×、×××××!」
 台所に潜んでいたのは、盟友・×××××であった。バヨネットを喉元に突きつけられている彼女は頭に何重にも包帯を巻いており、見ているだけで痛々しい。
 ×××××もまた、台所で調達した出刃包丁を×××××の胸のあたりに突きつけていた。
 すぐに二人とも武器を引っ込めて、安堵の息をついた。
「びっくりしたぁ・・・・・・。殺されるかと思ったわ」
「何のんきなこと言ってるの。よかったぁ、無事だったのね×××××」
「おうよ。助けに来たわよ!」
 片方の膝を立てて腰を落としている×××××の隣には、救急箱があった。×××××はそれを見ると慌てて「あとは私に任せて、手当てするから」と言った。
「触らないで!」
 彼女に一喝されてしまう。どうして? と×××××は苦悶の表情を見せるが。
「あんたが触れたらウィルスで台無しになるじゃない!」
 あ、そっか。
 ×××××は納得がいったような、ぽかんとしたような顔になる。何だかおかしくなって、二人はくすくす笑い出した。
 とりあえず、無駄な緊張はこれでほぐれたような気がした。


 ×××××はそういえば、何日間も食事を取っていなかった。
 どんだけタフな体してんのよ、と×××××に呆れられたが、すぐに彼女は立ち上がって冷蔵庫の中身をあさりだす。
 温かい食事を作ってくれたのだ。×××××も夕食を欠いてきたのでお腹が空いていたという。彼女の気前の良さと優しさに、つくづく×××××はありがたい仲間を持ったものだと実感させられた。
 当然、これはただの食事休憩ではない。おおよそ六十分間という限られた時間のなか、×××××は×××××から話を聞いていた。シホとジュンの二人組が学園生徒を襲いにきたこと。×××××もそれに巻き込まれて千葉県の洋館まで連れてこられたこと。××と×が敵側についたこと。今、×××××と××と××××がこの建物に乗り込んできていること。そして、魔女・エリザベートのこと。
「なぁんだ、×××××ったらエリザベートのこと知ってたのね」
「うん。龍河さまが少しだけ教えてくれたの」
「ふぅん。あんた相変わらず全裸筋肉大好きなのね。理解できないわ、全然」
「当然だよぅ。捕らわれの姫君を助けに来てくれるんだよ。ああ龍河さま、×××××はここにいます。早く助けに来てください私のドラゴンさん」
 頬を赤くして両手を当てて、首を左右に揺り動かす。そんな×××××を前に、×××××はふぅっと優しげな苦笑を見せる。
 それからスプーンを皿に「かちゃん」と置き、話を元に戻した。
「まあ筋肉馬鹿に会いたければ、ここから生き延びることね」
「そうだよね・・・・・・」
 ××と×がエリザベートに魂源力を抜き取られたこと。このこともすでに×××××から聞いていた。仲間を捨てて敵となり、戦いを繰り広げた末の結果。エリザベートの手先になったのが本意ではないのが×××××にとってせめてもの救いであった。二人はみんなを捨ててなどはいなかったのだから。
「××と××××がどうなったかわからない。連絡がつかないのよ」
「無事だといいんだけど。まずその二人を捜す?」
「そうね、戦える子が多ければ多いほどいいわ」
 ×××××たちにとって唯一の進展は、ジュンを倒したことだ。×の結界攻撃によって絶命し、後は科学者のシホとエリザベートである。××たちはシホと遭遇している可能性が高い。 
 次に×××を迎えに行って彼女の安全を確保する。頭痛に風邪という悲惨なコンディションだが、みんなの命がかかっている。×××の力は不可欠だ。
「××××と×××さん、そして私と×××××がいれば勝てるかもしれない」
 三人の××××××と××××の荷電粒子砲。これらの力をコンビネーションで組み合わせて相手を圧倒するのが最善策だった。エリザベートを倒したあとで××と×、そして中等部生二人の体を回収する。肉体は魂源力を抜かれてしまい、救い出す方法が全くわからないが、そこは学園側に頭を下げて何とかしてもらうしかない。
「学園の力を借りる、か」×××××は落ち込んだ様子で言う。「あれだけ学校で暴れた私たちが学園に甘えようとするなんて」
「学園にいさせてもらえる時点で、べったり甘えてるようなもんよ」
「助けてくれるかなぁ、××たちのこと」
「助けてくれるわ。あの醒徒会なら何かしら手を打ってくれるでしょうしね。××と×が助かるなら土下座でも何でもしてやるわよ。私は醒徒会を信じる」
「×××××、変わったね」
「うん?」と×××××は爽やかな横顔を見せる。「×××××、人は変わっていくものよ?」
 そんな台詞を聞いたとたん、×××××は吹き出してしまった。とたん、沈んだ気持ちも吹き飛んでしまって前向きな気持ちになれたのであった。


 二人は休憩を終えてエントランスホールに戻ってきた。威圧的なエリザベートの肖像画を前にしたとき、×××××が言った。
「エリザベートはとんでもない奴よ。人の異能を奪う能力者だった」
「じゃあ、今は××の鱗粉と×の結界が使えるってこと?」
「わからない。でもそうだとしたら、厳しい戦いになるわ」
 絶対無比の防御と恐怖の鱗粉。少し考えただけでは打開策が思いつかないぐらい、エリザベートには隙がなくなる。×××××がどうしたら倒せるのだろう、と悩んでいたところであった。×××××が台所から調達してきたゴム手袋を、右手だけにはめたのだ。
「それ、何に使うの?」
「これ? こうするの」
「あっ・・・・・・」
 ×××××が手を握ってきたのだ。手袋越しだが、とても温かい。
「ほら、これで手を繋げられる」
「どうしたの、もう・・・・・・」と、×××××がはにかむ。
「ふふ、わかんない。みんな無事に帰れるといいね」
 そう、×××××も照れながら友達の手をもっと強く握った、
 そのときだった。
 カツン、カツン。
 上から降りてきた足音に、二人ははっとして驚く。
 ×××××は愛用のバヨネットを構え、×××××はいつでも先制攻撃に出られるよう、周囲の水素と酸素を集めてきてより爆発力が増える比率に調整を始めていた。もうゴム手袋は外していて、その場に捨てている。新たな戦いが始まろうとしていた。
「安心するといい。我が『アイアンメイデン』で悪用できる力は一つだけ」
 エントランスホールの、二階通路からの階段を降りてきた、赤いドレスの女。
「後からどんどん上書きされていくんだ。楽しいぞ?」
 背後に鎮座している肖像画と全く同じ姿をした、魔女・エリザベートがやってきた。×××××はバヨネットを握る手に汗が滲んでいるのを感じた。
「髪の毛が元に戻ってる・・・・・・?」
 ×××××がそう呟いたとき、エリザベートはにこりという口元の端だけを上げる妖艶な笑みを見せた。つまり、××の異能が解除されたということだ。ということは。
「そう、力を上書きしたんだ」
 エリザベートは何かを投げつけてきた。
 ホールのじゅうたんに降ってきたのは「眼鏡」であった。レンズがとても大きくてフレームも極端に丸いものである。それを見ただけで二人は全てを理解する。
「××・・・・・・うう・・・・・・!」
 ×××××が眼鏡を広い、その場に両膝を着いた。××××××××がエリザベートに魂源力を吸われてしまったことを悟ったのである。
「しっかりしなさい、×××××!」と×××××が一喝する。「みんなを助けられるのは私たちだけなのよ! あいつを倒せばいいんだからしっかりしなさい!」
 さすが、これまでの多くの修羅場をくぐり抜けてきた×××××だけあって、もう覚悟は決まっていた。この場でエリザベートとの決着を付ける。×××××は××の眼鏡を制服の内ポケットにしまうと、気弱な表情を捨てた。
「ヒエロノムスマシンを扱える力――悪いが全然役に立たなかった。聞きたい声も聞けない。会いたい魂にも会えない。まったく、とんでもない期待はずれだった」
 勝てる、と×××××は確信する。
 この悪趣味な女は人を小馬鹿にするあまり、致命的なミスを犯している。
「フン。魔女だのエリザベートだのちやほやされて、頭おかしくなったのね」
「世間がそう言うだけだ。私はふさわしいと思うがね」
「その驕り高ぶった性格に、一生後悔することね・・・・・・ッ!」
 いつになく強気な×××××を前に、×××××は混乱する。彼女はどうも勝機を掴んでいることに気づいたらしいが、×××××にはわからない。
「×××××」と、×××××が呼んだ。「みんなで島に帰れたら――桃鉄九十九年プレイするわよ。忘れたら承知しないから」
「え? ちょっと、××――」
 ×××××が彼女の名前を呼ぼうとしたときには、×××××はエリザベートに向かって突っ込んでいた。階段の中ほどあたりでにやにや笑みを浮かべている、彼女に真正面から突撃していく。
 ×××××は両目を開き、勇ましい叫び声を上げながら、飛んだ。大きく振りかぶるように右腕を後ろに回して、ありったけの魂源力を解放した。それを見て、ようやく×××××は彼女の意図を読み取ることができたのである。
 エリザベートは油断からか命取りともいえる情報を与えていた。それは「××の能力を××の能力に書き換えた」という内容である。
 戦闘能力の無い××の力なら、エリザベートは無力も同然なのだ。叩き潰すには絶好のチャンスであった。そこで×××××はエクスプロージョン攻撃でエリザベートを葬り去り、一気に決着を付けるという手に出たのである。
 たとえ刺し違えるようなことがあったとしても、×××××は仲間たちを助けたかった。この洋館に到着するまで、色々な気持ちを抱いた。×××××をさらわれたこと、××と×が裏切ったこと。ことさら「仲間」のことに関して真面目に考え、どうにかできないか奮闘してきた。
 ×××××、××、×、××、××××、×××、そして自分。この七人は七人でないと意味が無い。誰一人欠けるようなことがあってはいけない。守りたいものを守るために、×××××はここまで必死に戦ってきたのだ。
(今なら勝てる! みんなを救える!)
 仲間を思う強い気持ちが、彼女を捨て身の特攻に駆り立てたのである。
 だが、×××××は妙な胸騒ぎがしていた。
 何かが不自然だ。何かがちぐはぐだ。何かがかみ合わないのだ。本当にエリザベートはケアレスミスをしてこちらに情報を与えたのか? 意図的であるのならどういう意図で? 何より、本当にエリザベートは××の力を奪ってからこうしてお出ましとなるに至ったのか?
 そして、相手の目論見に気づいて×××××の顔面は真っ青になったのである。「ダメ! ×××××、いけない! 殺される!」。そう怒鳴ったが、もう全てが遅かった。
「確かに××の力をいただいた。くだらないオモチャも作ってしまったさ」
「――え?」×××××の眉が動く。
「その次があったことに気づけなかったようだね」
 エリザベートの小さな口が、がぱぁと開いた。目尻が吊りあがって恐ろしい笑顔を彼女に向けた。赤い瞳が「金色」に変わった瞬間、×××××ははっとなって、「しまった、そんな」と零していた。
 彼女を強烈な頭痛が襲ったのである。
「あぁああああぁああああ!」
 ×××××は特攻を仕掛けることができず、エリザベートの足元で前のめりに倒れてのたうちまわった。念派によって脳を干渉され、頭が割れて弾けてしまいそうなぐらいギンギンとした頭痛に苦しめられる。
「××の次は、×××の力を奪ってきたんだよ。だから階段を下りてきたというのに、気づけなかったのかい? 舐められたもんだな」
 ものすごい叫び声を上げながら、×××××は階段の中ほどでのた打ち回っている。それを悠々と見下ろすのは赤いドレスの魔女・エリザベート。さらにその後方にあるのは、肖像画として描かれた巨大な彼女自身の姿。
 ×××××と×××××が食堂で状況確認を行っていたあの六十分間のうちに、エリザベートは二階に上がって、一人取り残されていた×××を襲ったのだ。頭痛で、それも重度の風邪で苦しんでいた彼女を容赦なく貪りつくしたのである。
「何て・・・・・・ひどいことを・・・・・・!」
 ×××××は怒りに震えた。緑色をした瞳の奥が燃え上がる。熱い涙に濡れる。
「せいぜい人一人を無力化するぐらいの力か」その次に、決まってこう言う。「まぁ悪くない」
 魔女は×××××の体を起こして×××××に向けた。小柄な体からは想像もつかない握力・腕力で彼女の襟首を掴み上げ、ぶら下げる。
 そのとき眼鏡が顔から落下してそのまま階段を転げ落ち、サイドポニーとして縛っていたリボンも取れてしまって、×××××は長い髪を下ろした状態になっていた。頭に巻いた包帯は今も赤く滲んでおり、双葉学園の制服は所々切れていて生々しい傷がいくつも走っている。
 体力も魂源力も運も使い果たした。もう何も残ってなどいない。
 紐で吊り下げられているかのようにぶらんと身体じゅうの力を抜いていた。目の焦点がどこにも合っていない状態で、ひどい有様だった。仲間のために、×××××を救うために奮闘してきた×××××が、今、力尽きようとしている。
「×××××・・・・・・」
 それでも彼女は親友の名を呼んだ。
 赤いドレスの袖が彼女の体を抱いた。異能「アイアンメイデン」が使われようとしている。
 ×××××はにかっと微笑んで、泣きながら言った。
「×××××、みんな信じてるからね」

 あなたが助け出してくれるのを――。

「やめてぇええええええええええ!」

 ×××××の魂が抜き取られる音が、エントランスホールに広く、高く、大きく響き渡った。


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