【あるサンタの日常】


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 クリスマスの飾りつけで彩られ、クリスマスソングが鳴り響く双葉商店街。クリスマスイブということもあって、通りは多くの買い物客で賑わっていた。
 そして、賑わっていると言えばもうひとつ。赤と白の服装をした方々。
 そう、サンタクロースの扮装だ。どう見てもやっつけな貧相なサンタに、長く真っ白の髭を蓄えた恰幅の良い王道的な老人、ミニスカートと生脚が眩しい可愛らしいサンタまで、実に様々で、それが逆に賑わいを見せていた。
 クラウス・三田《みた》(六十八歳)も、そんなサンタクロースのコスプレをする一人である。
 しかし、彼が他のサンタと一線を画すのはその完成度だ。偽物ではない白く豊富な顎鬚と白髪。深く皺を刻みながらも柔和な瞳が醸し出す温かな表情。そして、樽のようなお腹とハーフ特有の大柄な体形。何処から見ても完璧なサンタクロースだった。
 だから、子供たちにも人気が高く、様々なお願いをそっと聞かされることが多かった。
「サンタさん、私は○○○の魔法のステッキが欲しいの!」
「ねえ、プレゼントは仮面ライダー○○のベルトが欲しいんだ! いい子にしているからお願い!」
「わ、私はサンタさんはいないって知っているぞ。大人のれでぃだからな! でも、一応言っておくのだ。大人のれでぃになるために必要だというバストアップのマシンが欲しいのだ!!」
 そんな時、クラウスはその親御さんにそっとそのことを耳打ちすることにしていた。ただ、バストアップマシンの時には、その親御さんらしい女性に鬼の様な形相をされてしまったのだが……。
(もしかして、未婚で姪っ子でも連れてたのだろうか? それともご自分の胸のことを揶揄されたと思ったのだろうか? いや、子供がバストアップマシンを欲しがるというの自体が駄目かもしれないなあ。それだとしたら、全くもって、私は修行が足りないな)
 そんなことをチラシを配りながらクラウスは後悔していた。
「あれっ? 管理人さんじゃねーか?」
「はあ? 管理人って誰よ」
「春《はる》ちゃん、めっしーの寮の管理人さんだよー」
 クラウスの前に見知った三人が現れる。
「おや、召屋《めしや》くんじゃないか? 隣にいるのは彼女かい?」
「いや、違います。というより、殺されるような発言はしないで下さい」
 無駄に背の高い召屋と呼ばれた青年が真っ青な顔をして否定をする。
「違うのかい? そうか。じゃあ、今日は寮には帰らないでしっぽり……」
「だからなんでそうなるのよっ! んなわけないでしょーっ。わ、私はこいつとか、全然興味ないしっっ!!」
 猫っ毛の髪の毛を短く切りそろえた少女が顔を真っ赤にして真剣に否定する。
「おー、おー! そうか、じゃあ、この子は有葉《あるは》ちゃんの彼女かい!?」
「やっだー、サンタさんたら、大胆!」
 猫っ毛の少女は、先ほどまでの反応とは真逆にしおらしいしなを作っている。
「うん、春ちゃんは一番の親友なんだよ」
 屈託無い笑みでさらりと返すひときわ小さな少女の有葉。そして、クラウスの言葉を完全に無視して妄想に深入りする春部。どうにも困った表情をする召屋。なんとも混沌とした空間がそこにあった。


 彼らが去った後、しばらくはクラウドの周りは静かになっていた。彼らの印象が濃すぎて、誰も近づかなかったというのもあったが、その一方で、商店街の一角で事件が起こっていたからだ。
 それでも、彼に純粋な心を持った少年少女は近づいてくるものである。
「あの……」
 それは、歳の頃なら五、六歳の少女だった。周りに両親らしき大人はいない。
「どうしたのかな? お母さんは?」
 僅かにもじもじとしながら、困ったように少女はクラウドにそっと呟く。
「じつはお母さんにはないしょできたの」
(なるほど、それは大変だ)
「どんなご用なのかな?」
「おじさんが、本当のサンタさんだって聞いたから……」
(うーん、それは著しく異なる表現なのだが、これは困ったな。ただ、彼女のお願いを聞かないワケにもいくまい)
 思わず戸惑う。
「よし、どんなお願いなのかな? 私にできることであれば聞こうじゃないか」
「あ、あの、実は、シロが、シロが大変なのっ!」
「シロ?」
 その言っていることの不明さにクラウスは思わずオウム返しをしてしまう。
「うん、シロがね、病院の先生がいうには大変なんだって……。だから、わたしはサンタさんのお願いもかえることにしたの。でもお母さんはそんなのはむりだって……」
 彼女はそういいながら涙を流し始める。シロは彼女にとって大切な存在なのだろう。
「そうか、それじゃあ、シロのことを詳しく教えてくれるかな?」
 クラウスが彼女の頭をやさしく撫でる。
「う、うん……シロはね…………」
 そう言って、彼女はシロのことを精一杯の表現でクラウスに伝えようとする。それは他者からしてみれば非常に拙く、冗長なものであったが、クラウスは、一字一句、全てを心の中に留め置こうとした。
「分かったよ、お嬢ちゃん。そのお願いは本《・》当《・》のサンタさんに伝えることにしよう。必ずね」
「おじさんはサンタじゃないの?」
 クラウスは首を振る。
「残念だけど、私はサンタじゃない。サンタの格好をした、ただの老人だ。でも、お嬢ちゃん。キミの気持ちは必ずサンタさんに伝えるよ。だから、心配せずに家に帰るんだ」
「うん」
 そう言うと、少女は涙を袖で拭きながら走り去っていく。
「さて……」
 そう言うと、目を瞑り、片膝をついて手を組む。まるで神に祈るかのように。
「彼女の願いが叶うこと、そして、全ての人たちが幸せであるように」
 不審そうに彼の周りを人が避けていく。だが、彼はそれを止めようとしない。何故なら、彼の力は、自分の気持ちを、そして祈りを、サンタクロースに伝えることだったからだ。いや、そう信じているだけなのかもしれない。彼自身もなかばそう思っている。
 でも、彼は祈り続けた。それが彼にできる精一杯のことだったからだ。


 十二月二十五日の早朝。某醒徒会長が目を覚ますと、枕元にはれでぃになるために必要なはずのバストアップマッサージャーが置かれていた。
 彼女は、一緒に寝ていた白虎とともに、サンタクロースに精一杯のお礼をすることにした。


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