【あるウェイトレスのクリスマスの出来事】


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 双葉島のとある商店街。この時分になるとお約束の赤と白のデコレーションで街中が飾り付けられ、様々な色や形のイルミネーションが輝いていた。スピーカーからお約束のクリスマスソングが流れ、多くの買い物客と、世界中のサンタがここにいるのでは? と思えるほど、赤白の服を着た人たちで賑わっていた。
 そんな喧騒は表のお話。あいも変わらず、この喫茶店には閑古鳥が鳴いている。
 いつもと変わらないお客のいない午後……。もちろん、客商売だから、お客様がいないというのは問題はあるのだけれど、それはそれ。これはこれで気持ちの良いものだ。
 薄暗いお店中の空気が緩み、一緒に私の心も弛緩する。嗚呼ー、仕事したくないわー。
 そんな至福の時をぶち壊すように、喫茶店のガラス扉が勢い良く開き、扉に備え付けた鈴が豪快に鳴り響く。
 扉の方へと目を向ける。せっかくの安穏を破った元凶が扉口に立っている。年の頃なら十歳前後の少年だった。
 あら、可愛い!!
 でも、おかしい。
 服装がチグハグだ。色やデザインの組み合わせ、どれをとっても破綻している。一体どういう親がこの服装をさせているのかと正気を疑ってしまう。何より、服がボロボロだし、一番おかしいのは、大きめのキャスケットだ。あまりにも大きすぎて、可愛い顔さえも隠してしまってるいるじゃない?
「あ……あの……か、匿って下さい」
 あらあら、礼儀も無視して、豪快に扉を開けたのに違わず、随分とまあ強引で我侭なことを言ってくれる。
 で、それで、私たちが貴方を守れと、それとも匿えと? 随分とまあ都合のいい話だわねえ。
「坊や、別にお客さんとして来てくれる分にはかまわないけど、化物《ラルヴア》と厄介事は持ち込まないでくれるかしら?」
 少年は私の言葉に反応を示す。化物《ラルヴア》? 厄介事? それともその両方? さて、どっち?
「で、でも……ここにくれ…ば」
 どこのどいつだ糞ったれ!? 嗚呼、神様! 私は平凡な毎日を望んでいるというのに、この子は、ここにくれば厄介ごとが解決すると思ってます。私は一体どうしたら良いというのです。私は思わずうんざりしてしまう。
「ここにくれば、誰かが助けてくれるっていうの? そんな世迷言、誰が言ったのかしら。いい? ここは喫茶店なの。コーヒーの一杯も注文しないなら、さっさと帰りなさい」
 私は、突き放すように少しきつめな口調を彼に叩き付ける。
「で、でも、ボクは……お…金とか持ってないし……」
 後半は消え入りそうなほどに小さく、私にも聞こえにくいほどだ。
「あらあら……。いい? 坊や。ここは喫茶店で、私はウェイトレス。貴方は何? お客さんなら注文をしなさいな。そうでないなら、ここから今すぐ出て行きなさい」
「あの…でも、お金が……」
 堪忍袋の緒が切れる。
「男の子なら、グチグチ言ってちゃ駄目よ。いい? ここは喫茶店なの。注文しないなら、出て行ってくれる。厄介ごとなんてまっぴら御免なの。何より、忙しいのよ」
「え、でも、お客さんなんて誰も……」
「い・そ・が・し・い・の!」
 私は、やや引きつり気味の営業スマイルであらゆる矛盾を覆い尽くし、ごまかし、彼を諭そうとする。
「あの、その……すいません……」
 少年はキャスケットを目深に被り直すと肩を落として出口に向かって歩き出す。
 少し可愛そうだったかな?
 彼がノブを握り、彼が出て行こうとした瞬間、後ろのカウンターから、カップを置く音がする。
 振り返ると、大きめのマグカップになみなみと注がれたホットミルクが一杯置かれていた。私は、急いでお店を出て行こうとする少年の左手を掴み、そのまま、カウンターへと案内する。
「さあ、座って」
「で、でも!?」
「マスターのおごりだから。それを飲んでから帰りなさいな」
「あ、有難うございますっ!」
 そう言って、深々と頭を私マスターに下げると、大事そうにマグカップを両手で握る。もしかして、久しぶりにでも飲むのかしら? 一体どんな生活をしていたの?
「アチッ!」
 ホットミルクが熱かったのか、彼は、一口啜った瞬間に思わず舌を引っ込める。
「馬鹿ねえ、熱いに決まってるでしょ」
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ!」
「そんなに謝らなくてもいいよ?」
 私はそう言って、彼の頭を撫でようと手を掛ける。だが、彼はその手を細く、汚れ細かな傷だらけの手で弾き飛ばした。
「あっ!! ゴメンナサイ、ゴメンナサイ!」
「別にいいわよ。見ず知らずのお姉さんに頭を触られるのが嫌だったんでしょ?」
「お姉さん?」
「そう、お・ね・え・さ・ん。男の子が、それ以外の言葉で私を呼んだら、有象無象の区別なく容赦しないわよ」
 そう、一万人分の殺気を込めて彼に言った瞬間だった。店の扉の鈴が鳴る。この時間にもう一人のお客さんとは珍しい。全くもって、千客万来じゃない。
「失礼する」
 そう言って入ってきたのは黒尽くめの男性、四人。サングラスのせいで目は見えないが、その隙のない挙措は明らかにプロのそれだ。
 はあ……。面倒くさい。
「そちらの少年をこちらに渡して欲しいのだが」
 リーダーらしき男がそういった瞬間、少年はマグカップを落とし、私の後ろに隠れる。
「どうしてかしら?」
「貴方には関係のない話だ」
「あらあら、それはどうしてかしら? 話が見えないのだけれど?」
 彼らの威圧的な態度に、私は長年培った営業スマイルを絶やさずに応対する。
「少年の保護者に頼まれてね」
 まるで、B級映画の三下役が言いそうな台詞を売れない役者の演技よろしく、棒読みでこちらに吐きつける。
「う、嘘だっ!!」
 少年は私の後ろで、精一杯虚勢を張って、否定する。その言葉に濁りも嘘もない。
 男たちが少年を奪い取ろうとする動きを見せるが、それを私は身体で制する。
「一《・》応《・》、うちお客さんなので、手を出さないでもらえます? 坊や」
「――――っ!!」
 その言葉に顔を真っ赤にする男。
「マスター、申し訳ないけど、ホットミルクをもう一杯」
「もう一度言う、その少年をこちらに渡してもらえないだろうか?」
「だから、嫌だっているじゃないの? それとも、言葉が分からないのかしら。あっ! そうね、与えられた仕事ばかりで自分で考えることも止めた馬鹿だから分からないわよねえ! それとも、サングラスのしすぎて、物事の真理が見えなくなったのかしら?」
 瞬間、男が数歩詰め寄り、私の首もとにナイフをかざす。全く、馬鹿も休み休みにすればいいのに……。
「いい加減にしろよ」
 どすを利かせた声で私を脅しにかかる。これだから……。
「分かりました! 戻ります、戻りますから、お姉さんには何もしないで下さい!!」
 そう言って、少年は私の男の間に入る。足元が、腕が、身体が震えていた。なけなしの勇気と感謝の気持ちを精一杯に搾り出したのだろう。
「あらあら、結構いい男っぷりじゃない。その気持ち受け取ったわ」
 その言葉と共に、男の股間を蹴り上げる。間髪入れずにナイフを持った手を捻り上げ、それをテコにして、強引に男を床に顔面ごと叩き付ける。
 そして、能力を使い、相手のナイフをこちらの手へと強制的に移動させる。
 男たちはまるで手品を見るような目で私を見、その意味を悟り、舌打ちしていた。
 私の能力は金属限定の物体操作。能力を限定しているだけにその威力と効果は一般的なサイコキネシスよりも絶大だ。
 いつの間にか、残りの男たちが各々に獲物を持ち、こちらに構える。
「あらあらあら~? そんなにいきり立たなくてもいいのに。でも、ちょっとお仕置きが必要ね。あなた達、この人の命が惜しかったら表へ出なさいな。そこで相手をしてあげるわ。
 全く、これだから、厄介ごとってのは嫌いなのよね。
 私は、これから起こることにワクワクしながら、お店を出て行くことにした。
「坊や、ちょっと待っててね。五分で、いや、三分で済ませるから。あと、ほら、あんたも起きなさいな、ほら」
 そう言って、床にうつぶせになった男を蹴り出しながら、少年に軽くウインクする。だが、少年は私の言っている意味が、動作が良く分からないのか、キョトンとした顔をし、ただ私を見つめていた。
 なんにせよこれで暇な日常とはしばらくおさらばできそうだ。
 全くもって面倒なことだわ。
 私は、丈の短い赤いスカートの位置を直しながら、とりあえず、彼のクリスマスプレゼントはとりあえずこれで十分だろうと思っていた。


「ちょ、姉さん、なんて格好してんですか?」
 一通りの仕事を終え、充実感に浸っている私に向かって、大量の荷物を持った無駄に背の高い男の子が声を掛けてくる。その傍には、猫のように柔らかな曲線の肢体を持つ少女と、どうみても小学生の少女がそこにいた。
「あらあら、驚かせよと思ってのことよ! クリスマスだし」
「あ、あの、いらっしゃいませ、あと、メリークリスマスです!」
 そう言って、少年が頭を下げる。保護する代わりにアルバイトとして雇うという約束をしただったからだ。
 だが……キャスケットがそのお辞儀の勢いで床に落ちる。
『―――っ!!』
 ここにいる全員が絶句する。
 理由は簡単、彼にはとなかいのような小さな角が付いていたのだ。
 お店中の空気が凍る。
「スイマセンッッ!! じ、実は、僕、サンタクロースに追われているんです……。誰も信じてくれないかもしれないですけど」
 その言葉に思わず私は微笑む。
 さあ、今年のクリスマスは面白くなってきたわねぇ! ねえねえ、まーくんもそう思うでしょ? これは大変なことよ? 敵はサンタクロースって言うんだからね!
「いやいや、冗談じゃないし、それ以前に面白いわけねーっっ!!」
 まーくんの悲鳴が商店街に響くが、それは多くの人に無視される。何故なら、それはいつものことだったから。はてさて、今年のクリスマスは面白いことになりそうね。
 私は、とりあえず、人数分のコーヒーを用意することにした。その時、扉に備え付けられた鈴がなる。そして……。
「申し訳ない、ある少年を探しているのだが」
 一人の男性が入ってくる。その男の相貌はというと……。



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