【改造仁間―カイゾウニンゲン― 番外編?】


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改造仁間―カイゾウニンゲン―

 番外編? 「プレゼント」


「ありがとうございましたー」
 ドアが開き最後の客が店を出て行き、呼び鈴代わりに備え付けられたカウベルがカランカランと音を立てる。
 俺、木山仁《きやま じん》は今バイト中だ。
 今日はクリスマス・イブ。この店「喫茶 アミーガ」は午後六時をもって一旦、閉店し、その後は予約客だけを受け入れることになるそうだ。立地的にクリスマスのデートに最適だとか何とか。お値段も学生に優しくリーズナブルだし。
「おつかれさん。仁、お前はもうあがって良いぞ。こっからは遅番の連中にやらせとくから。
 今日はアレだろ? 改《あらた》ちゃんとパーティだろ?」
 客が去った後のテーブルを布巾で拭く俺に、この店のオーナーである「おやっさん」がそう声をかける。
「ええ、まあ」
「いやあ、良いよなあ若いモンは!青春ってやつだな!
 お前、アレだぞ? 改ちゃん大事にしろよ?あんな良い子はそういないぞ?」
「あはは……はい」
 改《あらた》というのは俺の彼女で造間改《つくま あらた》のことだ。俺は普段「改造魔」と呼んでいる。
「それじゃこれ、今月のバイト代な!」
 おやっさんはそう言うと「給料」と書かれた封筒を差し出す。
「え?でもまだ給料日には早いんじゃないですか?」
「まあまあ、お前、今月はもうシフト入ってないんだし、改ちゃんにプレゼント買ったりして懐さみしいだろ?」
 俺が疑問を口にすると、おやっさんはまるで見てきたように俺の懐事情を言い当てる。
 ……この人は何でもお見通しだなあ。外見に似合わず、こういう細かい気配りができるから皆に慕われてるのかもしれない。
「ありがとうございます。じゃあ遠慮なく」
 俺は礼を言って給料袋を受け取り、台布巾を流しで洗ってからカウンターに置くと、バックヤード入り口に向かいつつエプロンをはずす。それから事務所内の洗濯籠にエプロンを放り込んで壁のハンガーにかけてある上着を取って羽織る。
「それじゃおやっさん。お先に失礼します」
「おう!気をつけてな!」
 再び店内に戻り、おやっさんに声をかけてから俺は店を出た。
 外はすっかり日も落ち、深々《しんしん》とした冬の空気に満ちていて、なんだか気持ちが落ち着くような気がした。
 ……なんかこういう冬の冷たい空気って好きだなあ。けど。
「寒っ」
 少しの間ぼんやりしていた俺だが、寒さに身を震わせると上着のジッパーを首元まで上げる。
 ……安物のダウンジャケットだけど前を閉めてしまえば何とか寒さに耐えられそうだ。真冬になったらもっと厚着しなきゃだめだろうけど。
 そんな事を考えながら、俺は駐車場の片隅に停めておいた自転車にまたがると帰途についた。


「先生、こんばんは」
「やあ、木山くん。今日はなんだい?」
 改造魔の部屋に帰る前に、俺は研究棟の稲生《いのう》先生を尋ねていた。
 この人は夏休みに改造魔誘拐事件が起きた時、それを解決するための糸口をくれた恩人の一人だ。
「遅くなりましたけど、お世話になったお礼も兼ねてお歳暮というかクリスマスプレゼントというか……持って来ました。つまらないものですけど」
 稲生先生の疑問にそう答え、俺は持ってきた紙袋を差し出す。
「おお、これはわざわざご丁寧に。
 ……フッフフ、これは良い」
 稲生先生が受け取った袋を開けると中から一箱のドリンク剤が現れる。よくある滋養強壮のアレだ。
 正直、稲生先生が何を喜んでくれるか判らなかった俺はちょっとしたネタに走ったのだった。
 クリスマスっぽい紙袋からは予想もつかないものが出てきた事で、先生にちょっと笑ってもらえたってことは、ある意味成功したと思っていいかもしれない。

 その後しばらく、先生の助言がどう役立ったか、新たな必殺技がどういったものかなどを話し、少し早いが「よいお年を」と挨拶して、俺はその場を辞した。


 稲生先生の自室を出た俺は、今度は商店街へと足を伸ばしていた。
 目的地は中華料理店「大車輪」だ。ここにはもう一人の恩人、拍手敬《かしわで たかし》先輩がいる。大車輪はクリスマスも通常営業らしく、他のスタッフは予定があるとかで一人寂しく店番だそうだ。
「いらっしゃ……なんだ木山か」
 店の戸をあけた俺に拍手先輩の声がかかる。いかにもガッカリした感じだ。
 店内には客の姿はなく、本当に一人寂しく店番をしていたようだ。
 ……クリスマスの夜に中華料理を食べようって人はあんまりいないんだろうなあ。
「お疲れ様です」
「おう、今日はお前一人か?飯食いに来た……わけじゃねえよなあ」
「ええ、今日は先輩にあの時のお礼も兼ねてクリスマスプレゼント持ってきました」
 俺は先輩の言葉に答えてポケットからメモリスティックを取り出して差し出す。この学園都市で双葉学園に通う学生なら誰でも持っている、学生証に対応したタイプのものだ。
「クリスマスプレゼント?それでメモリスティックって……」
 メモリスティックを受け取った先輩は、少しいぶかりながら自分の学生証に差し込み、タッチパネルを操作する。
 と。
「……ん?……うおお!な、なんじゃこりゃあ!!」
 学生証を操作していた先輩の手が止まり、かわって驚愕の叫びがほとばしる。
「お前これ……外道巫女の隠し撮りじゃねーか!? それもかなりギリギリの物ばかり……! 一体誰がこれほどの逸品を……!
 あ、もしかしてあいつか!? フラ、フラレ……ええと、フラレ……ナオン?」
 激しく取り乱しつつもモノの出所を追及してくる先輩。そして俺はそれにコクリと頷くことで答える。
 フラレナオンこと黒田には改造魔誘拐の件で大きな貸しがある。ソレを利用して外道巫女こと神楽二礼《かぐら にれい》の写真をせしめたというわけだ。ちなみにこれは別に俺が撮れと指示したわけではなく、あいつの趣味の「情報収集」に紛れていたものをピックアップさせたものだ。決して犯罪ではない。
「そうか……あの野郎、なかなかやるじゃねえか……変態だ変態だと思ってたけど、ただの変態じゃなかったってわけか……フフ。
 ありがとうよ木山。これで寂しいクリスマスを暖かい気持ちで乗り越えることができそうだぜ……」

 仏のような笑顔になった先輩に別れを告げ俺は店を出た。それがあんな恐ろしいことになるとは、このとき俺は思いもしなかったのです。

 *

 木山が去り店内に一人残された拍手敬は相変わらず菩薩のごとき表情で学生証のモニターを眺めていた。
「先輩なに見てるんすか?」
「うおお!?お前……どっから入ってきた!?」
「どこって裏口っすよ」
 不意に背後から声をかけられ激しくうろたえる拍手は、それでもとっさに学生証を背後に隠しつつ、闖入者に抗議の声を上げる。
 突如現れたのは、この中華料理店「大車輪」の常連で風紀委員見習いの少女、神楽二礼だった。
 彼女はしばしば店の入り口を使わず、本来従業員のみが使う通用口から厨房に侵入していて、今回もそうだと彼女の言葉が告げていた。
「んで、なに見て……ちょ、これ私じゃないっすか! なにこのおっぱいギリギリばかりな写真集は! 先輩あんたこんな盗撮趣味があったの!?」
 神楽に学生証を見られまいと抵抗する拍手だったが、彼はあまりにひ弱だった。太極拳の技術こそマスタークラスだが、筋力は普通の女子とトントンといったところだ。
 そして抵抗もむなしく神楽はあっさりと拍手の手から学生証をむしりとった。その結果、拍手敬には彼女の非難の言葉が浴びせられることとなった。
「や、ちょっ、ちが、これはもらい物で……お前、素が出てるぞ。落ち着け。な? とにかく話し合おう」
 拍手は何とか状況を好転させようと言い訳を発したが、怒髪天を突かんばかりの少女には状況打開の一手とはなりえず。
「問答無用ー!! そこになおれー!!」
「アッ――!!」
 あえなく、情けない悲鳴を上げることとなったのだった。

 *

 大車輪を後にした俺は、同じ商店街にあるケーキショップへと向かった。
 改造魔に頼まれたクリスマスケーキを予約してあるのと、今夜そこでバイト中の人に会うためだ。
「こんばんは、結城さん」
 店にたどり着いた俺は、表で売り子をやっている女の子に声をかけた。
 ミニスカサンタといった感じの衣装がよく似合っている。
「お、木山くん、いらっしゃーい。クリスマスケーキいかがですかー?」
「いや、すでに予約してるから」
「あ、そうか。ちょっと待ってて、確認して持ってくるから。」
 結城さんは俺の言葉にそう答えると、パタパタと小走りに店内へと駆け込んでいった。
 ……あれ?そういえば皆槻先輩も一緒だって話だったけど……
「こんばんは、木山くん」
 一瞬、そんなことを考えた俺に聞きなれた声がかけられる。
「あ、皆槻先輩こん……ばんは?」
 声のほうに振り向きつつ挨拶を返した俺だったが、俺の目に飛び込んできたのは見たこともない人物だった。
 いや、見たこともない人物に見えたけど、それは紛れもなく皆槻先輩だった。
 さすがに冬だからタンクトップにホットパンツはないってのはわかりきっていたが、今、目の前にいる人は俺の想像する冬の装いとは大きくかけ離れた格好をしていた。
 基本は結城さんと同じミニスカサンタ。だけど足元は赤いロングボアブーツで、いわゆる「絶対領域」からは白いタイツに包まれた引き締まった太ももが覗いている。さらに頭には真っ白な長いウィッグをつけ、うっすらと口紅も引いているようだ。それらの明るい色と、小麦色に焼けた肌が絶妙のコントラストを生み出し、普段の皆槻先輩とは違った、なんともいえない大人の色気を感じさせた。
 心なしか恥ずかしそうな顔もいい。
「あ、あんまりジッと見ないでくれると嬉しいんだけど……」
「ふえ!?あ、すいません。皆槻先輩があんまり綺麗だったから見とれてしまいました……」
 見つめられて照れる先輩にあわてて謝る俺。
「ふふーん、でしょうー?見とれるでしょうー?」
 その様子を見ていたのか、店内から出てきた結城さんがさも自慢げに俺に声をかける。
「それ、私がコーディネイトしたのよ。
 ナオは普段ぜんぜん飾りっ気がないから、今日みたいな機会にやっておかないと、と思って。
 で、聞いてよ木山くん! 何回男の人に声かけられたと思う?6回よ6回!私も声かけられたことはかけられたけど、ナオのついでって感じだったのよ!
 あ、これ。二千円ね」
 矢継ぎ早に自慢話?をすると俺にケーキを手渡す結城さん。俺は「じゃあコレで」と学生証を渡す。この双葉区内では学生証で様々な支払いもできて便利だ。他の地域じゃ全然使えないけど。
 ……それにしても結城さんって普段は落ち着いた雰囲気なのに、皆槻先輩の話となるとすぐテンションあがるなあ……。愛ゆえに?
「はい、支払いOKです。
 それで、何か私たちに用事があるんだっけ?」
 店外の売り場に備え付けられたレジに学生証をかざして支払いを済ませた結城さんが、俺に学生証を手渡しながらそう話しかける。
「うん、あの時のお礼にクリスマスプレゼントを、と思って」
 結城さんの問いかけに答えながら俺は受け取った学生証を上着のポケットに押し込み、それと入れ替わりに二つの紙袋を取り出した。そして小さい方を結城さんに、大きい方を皆槻先輩に差し出す。
「え、いいの?……なんか造間さんに悪い気がするんだけど」
「私もそんなにしてもらう程のことはしていないよ……」
 いきなりプレゼントを、と言われた二人は面食らったのか、そろって遠慮の言葉を口にする。
「改造魔にはちゃんと別に用意してますから。
 それにもらっていただけないと無駄になっちゃうので、気にせず受け取っていただけると助かるんですが……」
 そうなることは想像の範疇だったので、俺はなんとか受け取ってもらえるように言葉を継ぐ。
 ……実際、受け取ってもらえなかったら行き場のないものだしね。
「そう?……じゃあ遠慮なく。ナオももらいなよ」
「う、うん。それじゃあいただきます……」
 俺の困った様子にほだされたのか、二人は遠慮がちに紙袋を手に取る。
「ありがとうございます。それじゃあ俺はそろそろ失礼しますね。
 今年はほんとにお世話になりました。また何かあったらよろしくお願いします。俺に手伝えることがあったら手伝いますんで」
 俺は一息に挨拶するとそそくさとその場を立ち去った。「やっぱもらえない」って言われても困るしね。

 ともあれこれでお世話になった人たちへの挨拶は済んだ。(里美先生には、以前「ガナリオンの画像が欲しい」といわれて、改造魔が大喜びで作った「ガナリオン大全」を渡しておいたからそれで我慢してもらおうってことにした。やっぱりあの人変身ヒーローが好きなんだなーと思った)って事で俺は長かった回り道を終え、今度こそ自室へと自転車のペダルを踏んだ。

 *

「木山くん、なんか逃げるように帰っちゃったね」
「そうだね。もしかして突っ返されると思ったのかもしれないね」
 しばらく木山の去った方をぼんやりと眺めていた結城宮子と皆槻直だったが、ふと顔を見合わせると少しあきれたような表情で、そう言葉を交わす。
「……とりあえず開けてみよっか」
「うん」
 そしてぼんやりしていても仕方ない、と手渡された紙袋をそれぞれ開けにかかる。宮子は割りと大胆に、直は袋を破らないよう慎重に、封をしてあるテープをはがした。
「……あ!かわいい~。ナオのは?」
「私のはこれ」
 紙袋から現れたのは、それぞれシルバーのブレスレットと銀色に輝くブラスナックルだった。もちろん宮子がブレス。直がブラスナックルだ。
「あはは。それらしいなあ。ん?なにかカードが……」
 宮子はプレゼントを取り出した後の紙袋内に一枚のカードを見つける。それに倣って直も紙袋を覗くと、やはり同じようにカードがあった。
 そのカードには一つの花の写真がプリントされていて、その隣にはなにやらメッセージが書かれている。
「ええと……『シザンサスの花言葉・あなたと一緒に』」
「あ、この花、ブレスにあしらってある。ナオのにも掘り込んであるよ!」
「……つまり私たちに仲良くやれってことかな?」
 二人は再び顔を見合わせ、書かれていたメッセージの意味を確認しあう。
 しばらく見合っていた二人だったが、同時に小さく噴出すと木山が去った方へと振り向く。
「……キザだなあ~。ま、その気持ちはありがたく受け取っておこう!」
「そうだね」
 あきれたようにつぶやく宮子だったがその表情は笑顔だった。相槌を打つ直もまた。

 *

「ただいまーっと」
「仁ちゃんお帰りー!」
 俺が戸を開けて玄関に入ると、改造魔が明るい声で迎える。
 室内には既に、鍋の煮えるおいしそうな匂いが充満していた。
「ケーキ、冷蔵庫いれとくぞ。……ってなんでこんなに人がいるんだ?」
 俺が冷蔵庫の扉に手をかけつつ改造魔の方を向くと、室内にはコタツの四方を囲む人々が見えた。
「じいさんと静さんはともかく、覗き魔、お前なんでいる?」
「相変わらず失敬だな君は。私は覗き魔ではないと言っているだろう。
 ……まあいい、せっかくの宴席だ。細かいことは気にしないことにするよ」
 コタツを囲む四人は、改造魔、改造魔の祖父さん、祖父さん付メイドの静さん、そして変態覗き魔野朗黒田だった。
「まったく心の狭い小僧じゃのう。あらたちゃんはやさしいからワシらを呼んでくれたというのに……」
 俺の物言いに不満を漏らすじいさん。その手にはビールらしき泡だった飲み物が入ったグラスが握られていて、顔はすでに大分赤い。
「……わかったよ。今日はクリスマスだし、人が多いほうがにぎやかでいいか」
「そうじゃそうじゃ!わかったらお前こっち来て飲め!」
 俺の返事に機嫌を良くしたじいさんは、激しく手招きするとビールがなみなみと注がれたグラスを俺に突き出してみせる。
「いやいや、未成年に酒をすすめるなよ……」
 俺はあきれながらもコタツの一角に陣取るべく、室内へと歩を進めた。

 その後、宴会は夜半すぎまで続き、激しく呑みまくった黒田とじいさんの成人組ふたりは、すっかり熟睡してしまっていた。
 なんというかこの二人を見ていると、普段一人でいた反動みたいなものが感じられてちょっと物悲しい気分にもなってしまうのだった。
 ……俺も改造魔と付き合ってなかったらこんな感じになってたかもしれない。まあ、黒田と違って友達がいないわけでもないけど。
「二人ともすっかり寝ちゃったねー」
「申し訳ありません。改さん。木山さん。
 ドクターも久しぶりに改さんと一緒にすごせると言うことで、羽目を外しすぎた様です」
 台所で宴会の後片付けをしていた改造魔と静さんが、室内に戻ってきながら俺にそう話しかける。
「いやあ、俺もこんなに騒いだのは久しぶりでしたし、なんだかんだで楽しかったですよ」
「そうですか。それなら良いのですが」
 静さんの謝罪に俺は「気にしないで」と言う意味を込めて答え。彼女はその答えに納得してくれたようで、小さく頷くと改造魔とともにコタツに入る。
 ……それにしても静さんとじいさんってどういう関係なんだろう。親子じゃないだろうし、ましてや夫婦でもないだろう。ただのメイドだとした、いつも一緒にいるってのもなんか妙だ。……もしかして愛人?
「なにか?」
 俺はうっかり静さんを凝視したまま考えにふけっていたようで、彼女の口から疑問の声がもれる。
「あ、ああいや、静さんとじいさんって仲良いなあと。かなり年の差もあるのに何でかなーなんて思っちゃって……すいません」
「……そういえば私のことをお話していませんでしたね。ちょうど良い機会ですし、お二人に聞いていただきたいのですが、よろしいですか?」
 俺の不躾な発言に一瞬、思案げな表情(といっても普段とほとんど変わらなかったが)を浮かべた彼女は、俺と改造魔の顔を交互に見てそう告げる。
「え、でも俺も聞いちゃって良いんですか? 改造魔の家の事なんじゃ……」
「はい、確かに改さんの家族にまつわることです。ですが、私としては木山さんにも聞いていただく必要があると考えます。改さんの事をしっかりとお任せする為にも」
 俺の疑問に静さんはキッパリと答える。その表情はこころなしか、少し厳しいものに見えた。
 ……感情らしいものをあんまり見せないこの人が、見て判るほど真面目な顔をするって事はいい加減には聞き流せない事なんだな。
 ……まあ、この人の話をそんな態度で聞いたりはできないんだけど。なんか普通にしてても気おされるし。
 ともあれ、ここまで言われて聞かないなんて言える訳もなく、俺は「わかりました。聞かせてください」と答えた。
「ありがとうございます。それでは順を追ってお話します。
 改さん、あなたのお祖母様のことを覚えておいでですか?」
「う、うん。覚えてる。ちっちゃい頃に遊んでもらったよ」
 話し始めた静さんにいきなり話を振られた改造魔は、面食らったのか少し言いよどみながら答える。
「そのお祖母様が、異能によって作り出した最後の作品が私です」
「「えっ!?」」
 予想だにしない説明を口にした静さんに、俺と改造魔はそろって驚きの声を上げてしまう。だってどう見ても人間にしか見えないもん。
「彼女の異能は『自分で作り上げた人形に、魂を分け与え命を吹き込む』というものでした。」
 しかし驚く俺たちに構わず説明を続ける静さん。
「彼女は今から数年前、改さんのご両親が他界なさった後、病に侵されていることに気づき、自分が亡くなった後のことを考えて残りの人生を最後の創作に使うことにしたのです」
 あまりに衝撃的なことをさらりと言ってのける静さんに、俺も改造魔も言葉を失う。
 ……身内でもない俺でこうなんだから改造魔の気持ちは推して知るべしだな。
「そうやって作られ、彼女に残った魂の全てを注ぎ込まれて生み出されたオートマータが私です。
 私が目覚めたとき、この手に彼女の遺言状が握らされており、それには『家族のことをよろしく』と書いてありました。
 そして私に彼女の名『静』を譲る、とも」
「……そうだよ。おばあちゃんの名前は確かに『静』だった……。おばあちゃんの魂が静さんに……」
 静さんは淡々と説明を終え、改造魔は呆然としながらも聞き届けたことを理解しようと彼女の言葉を反芻する。
「……おばあちゃんは死んじゃったけど、静さんの中にいて、あたしたちの事見ててくれたんだね。
 …………あ!じゃあ静さんはおばあちゃんの生まれ変わりみたいなもの!? ってことは静さんもあたしの家族なんだ!」
 生前のお祖母さんの事でも思い出しているのか、ゆっくりとかみ締めるようにつぶやいていた改造魔は突然、理解したといわんばかりに声を上げる。
「……それは、どうでしょう。
 確かに彼女の魂の大半は私の中にあると思います。ですが、それは私を生み出すために払われた対価であって、彼女の魂そのものではありません。
 ですから、私には彼女自身の記憶も、『造間静《つくま しずか》』としての自意識もないのです」
「うん、それはわかってる。でも、やっぱり静さんも家族だよ。私が双葉学園《ここ》に通うようになってからは、ずっとおじいちゃんと一緒にいてくれたんでしょ?そりゃ、おばあちゃんの遺言だからって義務感もあったと思うけど、それだけでいい年して子供みたいなおじいちゃんの面倒みれないもん」
 静さんは改造魔の発言に対してさらに説明を加えるが、改造魔も負けじと?言葉を重ねる。
 すると。
「……それは、そうかもしれません」
 静さんも何か納得できる部分があったのか、改造魔の言葉を受け入れた。
 ……なんか「子供みたいなおじいちゃん」って所に反応してたような気がする。確かにいつ見てもなんか駄々こねてる気がするしなあ。
「ということで静さん、これからも家族としてよろしくお願いします!
 ええと……あたしのお姉ちゃんって事で!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。改さん」
 無理やり続柄を決める改造魔の言葉に、静さんは穏やかに答える。
 その顔には、今まで彼女が一度も見せたことがなかった微笑みが浮かんでいた。

 それから一時間ほど「新しい家族ができた」とおおはしゃぎの改造魔と静さんは、静さんがなぜメイドなのかとか、お祖母さんが亡くなってから彼女が目覚めるまでなぜタイムラグがあったのかなど、様々な経緯について話していた。俺はというと、たまに改造魔に話を振られては相槌を打つ以外は、二人の話を黙って聞いていた。
 ……実の所、家族のことを話していて改造魔が笑顔なのを見るのはこれが初めてだったから、なんとなくその笑顔を見ていたかったのだった。

 その後、静さんはいまだ熟睡中のじいさんと黒田を両肩に担いで帰っていった。
 ……知らない人が見たら通報されかねない絵面だったけど、まあ大丈夫だろう。この寒さだから二人ともすぐ起きるだろうし。……寒い中で起きなかったらヤバいけど。


「ふわぁ……、すっかり遅くなっちゃったねー」
「だなあ。そろそろ寝ないと」
 二人になった俺たちはあくびをしつつそんなやり取りをする。
 ついさっきまで五人いたから狭かった室内も、今はすっかりいつも通りの広さに戻っていた。
 ……といっても四畳半だから狭いことに変わりはないんだけど。
 やっぱり大人数で騒いだ後ってのは少し物悲しい雰囲気になるなあ。
「でも寝る前にクリスマスプレゼントがあるんだよ仁ちゃん!」
「あ、そうか。忘れる所だった」
 改造魔にプレゼントがまだだと言われ、用意するだけして渡していないことを思い出す俺。
 ……確かジャケットのポケットに入れっぱなしだったな。
「じゃあ仁ちゃんこっち来て!」
「おう」
 改造魔は俺を実験場の方へと手まねきする。俺はとりあえずハンガーにかけてあったジャケットを取って羽織りつつ、改造魔に答えてそちらへと歩を進める。
 実験場への道は玄関から出てぐるっと回るか、部屋の窓(窓の外が縁側になっている)を開けて出るかの二通りだが、今日は窓側から出る。
 と、俺の目に見慣れないものが飛び込んでくる。
 全長2メートルくらいの銀色のビニールシートをかぶせられたもの。
 ……チャリンコ? にしてはでかいか。
「じゃーん!」
 一足早くその物体の所に移動していた改造魔が大げさな効果音を口にしながらビニールシートを一気に引き剥がす。その中から出てきたのは真っ赤なカウルに包まれた小型のバイクだった。
 バイクの知識がほとんどない俺にはパッと見てどこのメーカーかすらわからない(そもそもメーカー品なのか?)が、その見た目はいかにも「ガナリオン」専用といったカラーリングで、悪路走破性の高そうなタイヤを履いていた。
 ……「やっぱり変身ヒーローには専用マシンがなくちゃね!」とか言いそうだな、改造魔。
「その名も『ガナル・スピーダー』! やっぱり変身ヒーローには専用マシンがなくちゃね!」
 ……ほんとに言ったよ!
「いや、ありがとう……だけどコレ……ムチャクチャ高そうなんだけど……。お前、無茶してないか?」
「大丈夫だいじょうぶ!
 おやっさんのツテで型落ちの中古品をもらってきて、おやっさんを拝み倒してレストア&大改造してもらったから安くあがったよ!
 あ、あたしもデザインとか考えて、ちゃんと改造も手伝ったからね!」
「そ、そうか」
 俺の疑問にスラスラと答える改造魔。
 ……それにしてもほとんどおやっさんに頼みじゃねえか。すんません、おやっさん。ありがとうございます、おやっさん。
「気に入った?」
「ああ、気に入った。これでやっと、夏に取ったバイクの免許が使えるよ。
 ……んじゃあ、今度は俺の番だな」
 改造魔の問いかけに答え、俺のターンを宣言する。そして、俺は上着のポケットから小さな紙袋を取り出し改造魔に差し出す。
「ありがとう!なんだろ? あ、意外と重い!」
 元気よく礼を言いつつそれを受け取る改造魔。そして手を上下させて重さを確認すると「開けてみて良い?」とたずねる。俺はそれに「どうぞ」と答えた。
「えへへ……。あ!ペンダントだ! 宝石?でっかい! これ、もしかしてカーネリアン?」
「うん。といっても買ったわけじゃなくてガナリオンの装甲が砕けたものの欠片なんだけどね。
 色々かんがえたけど、お前が喜びそうなもの思いつかなくてさ……まあ、お守り?みたいな物でもーって事で作ってみたんだ」
 はしゃぎながら問いかける改造魔に、そう答える俺。
 ……しかし、俺がもらったバイクと比べるとあまりにしょぼくて泣ける……。
「手作り!?すごい!」
「いや、まあ手作りといっても、なんか『超科学アクセサリーを作ろう』みたいな店があって、そこで教えてもらいつつだったから実際のところ作ったのは半分くらいだけどね……」
 改造魔は喜んでくれてるけど、なんとなく申し訳なくなる俺。
 ……せめてもうちょっと高い物にしておくんだった……オーダーメイドとか……。
「いいの!嬉しいんだから! 世界に一つしかないものだもん!」
 へこみかけの俺に満面の笑顔でそう言い、ペンダントを大事そうに胸元で握り締める改造魔。
 ……こいつはホントに良い子というかなんというか……ヤバイ、泣ける。
「あ!」
「え!?」
 改造魔が突然大声をあげ、激しく驚く俺。改造魔は「雪だよ!」と続け、実験場の天井近くにある窓を指差す。そちらを見ると確かに雪がちらちらと見え隠れしていた。
 ……俺が双葉学園《ここ》に来てから初めて雪を見た気がする。
 海沿いだからか、幾重にも張り巡らされた結界のせいか、双葉区ではほとんど雪を見ない。
 だからここで雪を見る、それもクリスマスに、となると本当に珍しいのではないだろうか。
「はー……今日は良いこといっぱいあったなあ……。新しい家族が増えたし、仁ちゃんにプレゼントももらえたし、雪も降るし……」
 改造魔は窓を見上げたまま、うっとりとそんな呟きをもらす。
 その横顔はとても幸せそうで、見ている俺まで、知らぬ間に笑顔になっていた。
 しばらくそうして改造魔の横顔を眺めていると、彼女は俺の視線に気づいたのか、こちらに顔を向けニッコリと笑い、俺の右手を両手で握るとそばに寄り添い、俺の肩に頭を預ける。
「ずっと一緒にいてね」
「うん」
 そんなことを言う改造魔によどみなく答える俺。

 正直なところ俺たちはまだまだガキで先のことはわからない。でも今はちゃんと彼女の気持ちに答えよう。

 俺はそう、心に誓った。


「仁ちゃん、今日は一緒に寝よ……?」
「えっ!?」


どうする?俺!!


               ――了







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