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2.目覚める 刃

一面の銀世界に溶け込むように私は立っていた。
手はほはとんど感覚が滞り、目もなぜかぼんやりとしている。
「あれ・・・私・・・?」
目がぼんやりとしているの私が涙を流しているせいだから。
手の感覚がないのは・・・
目の前の少年を見てすぐに分かった。
「あ・・・あぁ・・・・」
私は手に持ったナイフを雪面に落とした。
サクッと雪の中を自重で落ちたナイフが切り裂いた。
そう・・・私は少年を刺した。
人の肉は思うように刺せず、私の手を痺れさせたのだ。
真っ白の雪が鮮血の朱(あか)で染まる。
それはあまりに美しい風景で、私の裏にある感情を奮い立たせる。
―そう・・・私は私を殺すつもりだった。でもその前に、彼も殺す。
これで私はこの空っぽな感覚から開放される。
そう信じたかった。
むしろ、それしか今は信じるものがなかった。
肉親は私のせいで互いを認めようとしなくなった。
そして・・・互いを憎むようになる。
こんな両親をどう信じろと言うのだろう?
私にはそんなことできない。
誰にもこの悩みは言えなかった。
苦しい日々が続いた。
そんなとき、彼が現れた。
野田康治。
彼は会うたびに屈託のない笑顔で私に接してくれた。
そんな彼を私はいつの間にか好きになっていた。
だから・・・話そうと思った。
今日、この場で、いつもの笑顔で私の悩みを聞いてくれるはずだった。
だけど・・・彼は私のしようとしたことを止めた。
止めてくれなくていいのに。笑顔で送り出してくれればいいのに。
そう想うだけで、私は苛立ちを覚えた。
そして、虚構間がまた私を襲ったのだ。

―内なる私が「コロセ」と何度も投げかける。

逆らえない魂の逆流。
私は本能のままにナイフを彼に突き刺した。
ゴロンと転がる身体。
その身体からは湯気を出して止め処なく鮮血が流れている。
そこで私は気づくべきだった。

―私は・・・狂っている

人を殺すのはダメなことだ。
人としてやってはいけないことだ。

それなのに・・・

それなのに・・・

それなのにっ・・・・!!!

私は・・・・『私』に刃を向ける。
少し息を呑むが、躊躇いなどとうの昔に切り捨てている。
銀色の刃が月明かりと雪に反射した光に共鳴し、キラキラと輝いている・・・。
刃に付着している血が、朱が、まるで泣いているように思える。
―私の代わりに泣いてくれているの?
ナイフにココロはない。
それでも私は思えた。
遠い昔から、その『力』に宿る『想い』が彼女にはあるということを・・・。



―さようなら。私。


私は深く・・・深く・・・自分の胸に、銀の『狂気』を突き立てた。

目の前がぼやける。
これは涙のせいだろう。
私は最後の最後で涙をいっぱいながしている。
こんなにも、冷たい涙は初めてだった。
意識が遠のく。。。。
すべての回路が遮断されていくのが分かった。

―これで・・・私は・・・■■■■■■・・・














「・・・これは・・・・いったい・・・」

―遠のく意識の中、誰かの声がした気がする。

「いったい・・・・どうなってるんだ・・・?」

―・・・・・・・あなたは・・・・・・・・・だれ?
命の灯火が消えようとする最中、私は問いかけた。
視覚のほとんどなくなった目を、青年のいるだろうと思われる方向へ向けた。
すると、目の前の青年は私の瞳を見てこういった。


「なぜ・・・こんなことに・・・」


そして、私の回路はすべて遮断された。











―真っ白い雪が降る中で・・・





―一人の少年が寂しそうにコッチを見ている。




―その目は・・・本当に寂しそうで、深い色をしている。




―・・・声を掛けられない。




―何かの金縛りに会ったかのような感じがした。




―「ぁ・・ぁぅ・・・ぁ・・・」



―懸命に声を出そうとしたけど、ムダだった。



―声が出ない。



―気持ちが伝えられない。



―こんなにも気持ちが伝わらないことに嫌悪感を抱いたのは初めてだ。



―「(あ・・・そうか・・・)」



―私は私のココロに気づいた。



―やっぱり・・・私は・・・









―狂っている











―ピピピピピピピピ・・・・・
単調な電子音で私は目が覚めた。
頭が少し重い。寝すぎた感がある。
それでもいつもの朝に変りはない。
私は目を少し擦りながら身体を起こした。
起こした。
起こした・・・。
起こした・・・?。
起きれない?
どんなに力を入れようとしても私の身体は私の意図とは反してピクリとも動こうとはしなかった。
懸命に動かそうとする。
起きるんだ。
起きろっ。
起きろ起きろ。
起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ。
そんなことをして、じたばたしている私はかなり滑稽に違いない。
だって現にさっきから、私の隣にいる青年は笑いをこらえているんだから・・・。
「何かおかしい?私はこれでも一生懸命なんだけど・・・」
目線だけ彼に向けて私は言った。
やけに喉が渇いていたが、そんなことはいまさら気にならない。

「・・・ふ」

「ふ?」

「はははははは!!」


突然爆笑しだす青年。
相手は至極気分がよさそうだけど、私はすこぶる悪い。
「はははは・・・・・・面白かった。オレに悪気ない。あんまり気にするな」
思いっきり笑った後は謝罪なしで、『気にするな』だって?
この青年・・・いや、この男はかなりムカつく。
なんか、生理的に受け付けない相手のようだし、私はなんか一緒にいるだけで気分が悪くなった。
だから、私はまた身体をムリヤリ起こそうとした。
すると、隣にいた男が突然私の肩を掴んでそのままベッドへ押し倒してきた。
突然のことだったので私は反応できずに目をパチパチしてる・・・。
あと、自分でも分かるぐらい顔が熱かった。
それはもう体中の水分が一瞬で蒸発しそうな勢いだ・・・。
私の肩を掴んだまま私の顔の真正面に馬乗りになった男は顔を近づけた。
「・・・あんまりムチャするなよ。アンタはもうかれこれ1年ほど眠りっぱなしだったんだからな」
私は一瞬考えたが、すぐその言葉に絶句した。
『一年眠り続けた』・・・・?
一体なんで?
私は事故にでもあった?
もしくは重い病気で昏睡状態だったとか?



「・・・。」



普通の人間なら取り乱すだろう。
私だって取り乱したい。
目の前の男に掴みかかって、事情を問いただしたい。
でも・・・なんだろう・・・。


この状況をすんなり受け入れている『私』がいる。


今のところ、何があったのかもよく覚えてないし。
状況認知能力もそんなに高くはなかった・・・はずだ。
だったらなぜ?
なぜ私は『ここ』にいる?
いろんな疑問が飛び交うなか、目の前の男がようやく私の肩から手を離した。

険悪な表情をしているのが自分でも分かるぐらい私の気持ちはどんよりとしていた。
「・・・ねえアナタ。一つ聞いてもいい?」
「オレはアナタなんて名前じゃない」


憎たらしい。


「石田隆(いしだたかし)。・・・人の名前ぐらい覚えとけよな望月」


どうやらこの石田とか言う男は私のことを知っているような口ぶりだ。
それでも他人の一女子に対して呼び捨てで呼ばれるなんて・・・あれ?
なにか違和感を感じる・・・


分かった。
「ねぇ。石田・・・クン。」
「あ?なんだ?」
「なんで私の名前を知ってるの?」
私は真相を掴んだような口調で彼に話しかけた。
黙っている。
沈黙の時間が流れる。
そして少し考えるそぶりをして、彼は口を開いた。
「柊に聞いた。望月のクラスの担任だったか・・・。名前知らないと、見舞いにも来れないだろ?普通。」


石田君は不思議な感じがしている。
独特の雰囲気・・・どこか懐かしい口調。
誰かの姿と彼がダブるけど、『誰か』が誰なのかはボヤケていてよく分からない・・・。
「ま。床ズレが治るまでは大人しく寝てろ。もう18だろ?お互い。子供じゃないんだ。ジタバタするなんて恥ずかしいことだ」
ククッっと笑って彼は部屋を出て行った。
それと入れ替わるかのように、すごい剣幕で医師たちが大勢やってきた。
医師たちの姿を見て私はやっと分かった。
ココは病院で、
私は入院してて、
私は本当に1年間昏睡状態にあったという

『現実』を・・・。







比較的静かな廊下を歩く。
履いている運動靴が床と擦れあい、キュッと音を出している。
そんな薄暗く狭い廊下の一部に溶け込んでいる長イスに、見た目老けている『先生』が座っていた。
「本当に会わなくていいのか?先生。」
オレは先生が座っている真横の壁にモタレ掛った。
「あぁ。まだ会うわけには行かないんだよ。『機』は迫ってきているようだが・・・。まあ早い時期に彼女が目を覚ましたことは意外だ」
深刻そうな顔。
目線は合わせなかったが、雰囲気だけで読み取れた。
「あぁ。そうだ。このことは野田に黙っとけよ。アイツも彼女に会わせる訳には行かない。」

―なんでだ?ヤツにとって彼女は・・・
        ―彼女と会った瞬間野田『康治』はまた死ぬ。

オレの口を塞ぐようにして先生が言葉を挟んできた。
あぁ・・・意味は読み取れた。
先生はあの『雪の日』を再現しないように事を進めたいだけだ。
望月と野田が対峙することによって二人に『記憶の再構築』が起こる。
心が不安定になれば、すぐにこの学園に広がっている『狂気』の格好の餌食となるのは見えていること。
今の野田には『力』を使えるだけの能力がある。
そんなヤツを敵に回すこと自体がバカげている。
オレだってアイツとなんか殺り合いたくない。
しかも最悪の場合相手にするのは知り合い二人だ。
メンドクサイことこの上ない。
オレは先生の目を見て、静かに頷いた。
事が読めていることを知った先生はすっかり安心した表情をした。
「やっぱり誰かさんとは違って飲み込みが早いな石田。」
「・・・オレとヤツを一緒にするな」
苦笑を交えて先生は微笑を浮かべる。
オレは無愛想に笑い、その場を先生と後にした。











あの雪の日のことだ・・・



オレは血だらけになった親友とその彼女を抱えてホテルの裏口から帰った。
野田は肩から背負うようにして、比較的軽い望月は小脇に抱えて。
それでも重いことに変りはなくオレは裏口に入った瞬間バランスを崩しそうになる。
「クッ・・・重いぞ・・・・特に野田・・・・・・・・・・・・・・・絶対死ぬな・・・よ」
オレはそのままの体制で電気の消えたロッカーの横をゆっくりと通る。
この時間のロッカールームなら誰も来ないだろうと考えたオレはとりあえず二人をイスに預けた。
さすがに寒くて足が動かない。
手の感覚も曖昧になりつつある自分が情けなくて仕方なかったが、今はそんな自己嫌悪しているヒマはない。
二人の命がかかっている。
オレは感覚のない脚をムリヤリ動かしてロッカー横に隣接してある『非常階段』を駆け上る。
薄暗く、緑色に発光してる物体が奇妙だったのが印象に残っている。
誰にもオレの姿を見られないことを祈りつつ、先生たちが宿泊している施設へ走った。



息が上がる。
運動不足はこういうときに限って表面上に出てくるから嫌いだ。
自分を罵倒する。
二人の顔が脳裏をよぎると、オレはやっぱりムリヤリ脚を早めていた。

「はぁ・・はぁ・403号・・はぁ・・・・先生の部屋はここだな」

今のオレに頼れる先生は一人しかいない。
野田と一緒にいつも怒られてるが、それでも最後には頼りになる先生。



思いっきり扉を叩く。
拳が逝かれるぐらい、むしろ逝かれてもいい。
早く先生に・・・じゃないと二人が・・・

―ガチャ・・・

突然扉が開く。
その奥からはいつもの先生の顔がひょっこり現れた。
「なんだ石田?もう就寝時間だと思うが・・・・・・・なにかあったのか?」
オレの『いつも』では見せない表情・雰囲気で先生は分かってくれたようだ。
そう・・・ただ事ではない。
これは緊急を要することだということを・・・。

「先生お願いだ!!二人を・・・二人をなんとかしてくれ!!」

オレは初めて人に頭を下げた。
顔を上げると同時に先生は靴に履き替え、オレのほうも見ずに走り出そうとしていた。

「何している!早く案内しろ、石田!!」

オレは心底うれしいと思った。
そんなことに感銘を受けている場合じゃないことにハッとして気づく。
「っ!!」
オレは先生を追い越して、一階の二人がいるロッカールームへ急いだ。




走りながら説明をした。
『突然望月が雪の中に出現していたこと』
『それを野田が追いかけていったこと』
『その後オレは二人を追ったが、見つけたときには野田は血だらけ・望月にいたっては・・・』
すべて説明し終わるころに、オレ達はロッカールームへと戻ることが出来た。




―ロッカールームの冷たい風を掻き分ける。

―幾重にも続く白いロッカーの森を走って、その奥に二人を見つけた。

―その姿を見てオレは愕然とした・・・。


―そう・・・薄暗い、月明かりすら入らないその『場所』で



―二人は寄り添うようにして、息を引き取っていた・・・。






「な・・・に・・・そんな・・・・」
オレは息を呑んだ。
二人は息をしていない。
苦しんだ様子もなく、安らかに、そして眠るように、その場に鎮座していた。
隣で先生も目を丸くしている。
しかし、それも『一瞬』だけだった。
すぐに先生はポケットから短い柄のような物を取り出し、二人に近づいた。
―カツン・・・カツン・・・とロッカーに足音が木霊する。
オレはしばらく呆然としていたが、なんとか我に返ることができた。
先生は二人の目の前で立ち止まり、左手に持っている短い柄を中空へ翳(かざ)す。



鋭い音と共に短い柄の先から鋭い刃が露(あらわ)になる。
「先生・・・一体何を・・・?」
オレは見ることしか出来なかった。
そう。
今は先生を信じるしかない。
オレはナイフのようなものを凝視する。
なにやら『紫色』に発光し始めているようだ。
その光は徐々に強くなり、直視するのも辛くなってきた。
そして先生がロッカールームに入って初めて言葉らしい言葉を発した。

■■■■■

ロッカールームが眩い光に包まれる。
なにかは聞き取れなかったが、それが何であるかなんてこの際関係ない。
独特の発光音。
そして・・・その瞬間

―野田の身体から滴り落ちる『血』がすべて消滅したように思えた。

それほどキレイに床も・壁も・イスに付着していた血液がすべてキレイさっぱり消滅していた。
「これは・・・?」
オレは身震いを感じた。
なんとも不気味な光と共に消滅する血液・・・。
あのナイフには何かがあるはずだと確信まで持つほどだ。

「ふぅ・・・。
 さすが執行者。この程度の治癒で息を取り戻すとは。

「今見せたのはもっぱら武器の能力に頼っただけだ。
 私は執行者ではないから、力を使った戦闘は出来ない。しかし、それでもこれぐらいなら出来る。」




「・・・執行者・・・野田の力が・・・?」
オレは野田の『力』については知っている。
少し前に野田自身から聞いた。
執行部に入ると。
自分じゃないと守れないものがあるから。と。


「そうだ。こいつも『力』だ。そして・・・」



―オオオオオオオオ・・・・


突如、何かの咆哮が聞こえる。
それはこの世の物とは思えない叫び声。


―オオオオオ・・・オオオオオ・・・・


段々近づいているのが分かる。
例えるならそれは熊の断末魔のような叫び声。
その声に恐れを覚えたのか、オレの足はさっきから震えっぱなしだった。


先生もその声が聞こえているのか?
その声が聞こえるほうへ顔を向け、複雑そうな雰囲気をかもし出していた。
刃そのものが凶器なソレを納刀し、乾いた空気に金属音が響きわたる。

「石田。」

ロッカールームに来て初めて先生がオレと目を合わせる。
「オマエは、執行者野田康治についてどれだけのことを知っている?」


「・・・」


オレの問いに先生は何も答えず、ただオレからの回答を待ち続けていた。

オレが野田から聞いたことは、ほんの少し。



「学園を、護っている、と」


「それだけだ」



先生は「そうか」とだけオレに伝える。
その間も咆哮は収まらない。
得体の知れない恐怖と、この場にいることすら困難にさせる憎悪の塊が近づいてくる。

空気が凍りつき、ただ闇雲に立つことだけを考えている自分の弱い意志が情けなかった。



「・・・」



悔しかった。
だから、オレも出来ることなら野田と同じ舞台に立って。
アイツと肩を並べて。

戦いたかった。


持てるだけの力がありながら、なぜ祖父はオレにあの日『自分の力は口外するな』と言ったのかが分からない。

共に戦えるなら、半人前のアイツとオレでも十分『敵』と渡り合えるというのに。

秘匿義務。

義務は敵にはいざ知らず、味方である者にもその存在を明かしてはならない。
世界中で、自分のことは誰にも言ってはならない。
これが、暗殺者として戦う者の最重要事項だと。
そういい聞かされて育った。

そうして誰にも冷たくあしらっていたオレに、野田は手を差し伸べた。
オレは初めての友達を得た。
自分の秘密を言ったときも、アイツは自分の『秘密』を言うことでお互いに約束を作った。


そんな無二の親友と呼べるアイツが、たった一人で戦っているというのに。


オレは。
何をしている。



瞬間。
ロッカールームの扉が勢いよく破壊された。
白煙の向こうに見えるのは、人間の形をした何か。


「オオオオオオオオオオ!!!!」

そう、人間のような形はしているが、明らかに人間ではないのだ。
それは黒。闇。黒い物質が人間を形成しているらしき、陰の姿。

雄たけびの直後、オレに向かって突進してくる恐怖。
先生はオレを抱えてすぐさま飛び引き、ロッカールームからゲレンデへと繋がる扉をぶち破った。


「はぁ・・・はぁ・・・私ももう歳だな・・・」

片膝を付いて苦しそうに息をする先生。
その姿を、オレは見ているしかなかった。



―戦ってはならない。


―石田の血を引くものは、一度刃を抜けば元の鞘には戻らない。



真っ白な雪原。
舞い上がる粉雪。
その白い煙の先にゆらりと陰を写す、狂気。



『今、この場で戦えるのは、ボクだけだから。』



オレは、野田の言葉を思い出していた。
今の状況は、その言葉そのもの・・・。

「戦えるのは、オレだけ」


「オオオオオオオオオオオ!!!!」


ゲレンデの広い空間に出れたことは、何より戦いやすい。


されど、足が、腕が、血が、自分の身体のすべてが、



『その凶刃を抜くな』



と、伝える。


それが何より気に食わなかった。
命令される声が、アイツの声だから。
オレの嫌いな声。
だから、オレは声を掻き消すかのように、叫ぶ。


すべてを振り払う、咆哮を。


「・・・すんじゃねぇ・・」


立ち上がれ。
すべてを、断ち斬れ。
我が名は『世界の流動』を掌握する者。


「命令・・・すんじゃねえええええ!!!」


―TIME ALERT,FIRST BRAEK!!(時限滅奪、1.5速!!)


突進してくる者とのすれ違う刹那。
固有スペルによって加速された身体が跳ねる。

それでもかわし切れなかった相手の突進を全身で受け止め、粉雪が舞うその場で停止。
まだ頭に直接何かを叫ばんとする者の、その声が気に食わない。
だから。

「どいつもコイツも・・・五月蝿い・・・!!!」


相手の喉を掴み、雪原へ叩き落とす。

それでも手ごたえはない。
【陰】相手に手ごたえを求めるほうもどうかしているが、決定的な一撃になってはいない。

「石田!!」

鶴谷はその手に持つナイフを投げ、銀の凶器はオレの手に納まった。
手に納まった刹那、逆手に持ち直す。
そして、【陰】の胸に一矢。
「ガギャガガガガガアアア」
この世のものとは思えない奇声を発し、もがき苦しむ【陰】。
オレを突き飛ばし、中空へ逃げようとする【陰】を見てオレは理解した。



アレは、一撃で殺せない。



―TIME ALERT,SECOND EDGE・・・!!(加速、2速!!)


さらに加速を施した腕を弓のように撓(しな)らせ、空中の【陰】に向かってナイフを飛ばした。
狙うは足。
命中したナイフと同時に雪原へ落ちる黒い塊へ向け走り出し、突き刺さったナイフを回収。

オレは機動力を損ない、その場でジタバタともがくヤツの上に勢いよく飛び掛り、再び心の臓を抉った。

「ギョアアアアアアアアアアアア!!!」

まだ死なない。

禍々しい黒の渦から一旦飛び引き、ナイフを躍らせる。

銀の軌跡。その数ゆうに10を越える線の交差。






【陰】の原型たる黒い塊を、その全てを惨殺した。






残るのは、黒い返り血を浴びて染まる身体。
【陰】の姿はもうどこにもになく、斬ると同時に粉状となって消え失せた。

呆然とその様子を見ていた鶴谷は、困惑の色を浮かべつつも、何かを納得したような表情。

「血は・・・争えないな」

その一言にオレはハッとする。
この世で自分を知る人物は養祖父と野田康治しかいないはずなのに。


「・・・・」

「・・・先生は・・・知っていたのか?」

鶴谷はオレの素性を知っていたのか?

「先生は・・・」

鶴谷は、アイツのことも知っていたのか?




血まみれの戦場。
その中で嬉々とした表情で佇む自分本来の姿。



「このナイフ、気に入った。」

目をナイフへ移し、血に濡れた刃を拭う。

刃を一振り。
雪原の反射する光を受け、銀色はその輝きを増す。
まるでそれは新たな主を歓迎するかのような歓喜の声のよう。
透き通った納刀音と共に、彼の物語は始まりを告げる。


「オレの名は『石田隆』」


「石田家の長、石田幹久の血を引く者」




「石田家の起源【滅奪】を受け継ぐ者」



この日、初めて自分の姿を大衆へ晒した。
凶刃の血を引く、残酷な暗殺者の家に生まれた



一人の暗殺者の姿を。

第2話『目覚める 刃』END