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第4話『照準設定』













少し広い、この集中下駄箱でボクたちは睨み合っている。
正確に言うと一方的に睨んでいるのは目の前の少女だけで、ボクに全然睨む気すら起きない。

なんでも「人殺しをゲーム」だとか「いや」とかダダこねられて、今強行手段に出ないといけない状況になってしまった。

もっと穏やかにことを進められたら、それに越したことはないのに。
こんなことなら気づかれないように後ろから忍び寄って羽交い絞めにでもしてさ。
そのまま拘束すればよかったかなとも思った。

されど、そんなことはすでに後の祭り。
目の前では殺気に満ちた「元」クラスメイト本田千尋(ほんだちひろ)が今か今かと右手をこちらに差し出して襲う機会を伺っている。

「・・・・」

彼女は睨んだままピクリともしない。
「・・・」
「・・・」
静寂が世界を支配する空間に、一陣の風がふく。
彼女の長い髪が揺れ、冷たい風が頬を撫でた。
その瞬間、両者の足が微々に動く。
本田さんの手がピクリと動いたことを視認するや否や、自然と体が跳ねていた。


―縮・・・!!


グッと握られた手。
刹那、頬に何かが掠める。
その頬からは血がにじみ、傷口が熱くなった。
着地と同時に銃を構えるも、本田千尋は人では考えられないほどの高さまで跳躍し、再び開いた手を一気に握りつぶした。



―断・・・!!



廊下十に響く爆音と、学園中の窓ガラスが一気に割れたかのような奇音が鳴り響く。

「さぁ、遊んで!!アハハハハハ!!」


その言葉にも、ボクは応じなかった。
出来るだけ戦わずに彼女を説得したい。
先生はボクに言った。
『確保しろ』と。
でも、銃を渡されたときに、先生の目はこう言っていた。
『確保出来なければ、執行者としての責任を全うしろ』と。


責任。
力を持つ者は、その力を暴走させたものを消す責任がある。
だから、ボクは銃を受け取った。

だけど、出来るなら・・・。


そう考える中、彼女は再び右手をボクの方へ掲げ、
ドンッと、
鈍い音のする『何か』をブツけた。


とっさに気づいたときには遅かった。
回避はギリギリ間に合ったけど、それでも少しまともに受けてしまった。
あの、『衝撃破砕』の力を。


「・・・ぶ・・」

咳き込んだのと同時に口の中に血の味が広がる。
血の味ほどマズイものはない。さっさと吐き捨てよう。
「・・・・うっ・・ぐ」
「あれ?粉々にならないや・・・ちょっと弱かったかな?それともキミの身体が丈夫なだけ?」
絶対的に後者はありえない。
それでもさっきの一撃でどっかの内臓を損傷してそうだ。
かなり痛い。
少しはこんなことに関わるようになってガマン強くはなったと思うが、やっぱり痛いものは痛い。

「・・・・照準」
ボクは銃のトリガーに手をかける。

硬く、冷たい手触り。
そりゃこんな寒空の中放置してたらこうなるのもムリはない。
「うん?。やっと逃げ回らずに私と遊ぶ気になったの?でも残念・・・」


「アナタは、次で粉々にする」

今度の右手はボクの心臓部を確実に捕らえている。
次で終わらせると言うのも強ちありえない話でもなさそうだ。
口元がかすかに動く。
相手を確実に死へともたらさんとする『命令』が発せられる。


―・・・衝・!?






言葉が途中で途切れる。
目の前には、硝煙の煙を吐く真っ黒な銃。

彼女は自分の頬をなぞる。
グローブにべっとりとついた血。
ボクは確かに銃を使った。
だけど、彼女には弾道が『見えなかった』のだろう。

だから、当の本人は口をあけたまま固まっている。
たぶん何が起こったのかよく分からない状況なのだろう。

「え・・・」

目の前の少女が目をパチパチしている。
すぐさまボクは接近し、相手の首を捕まえ、壁際まで吹き飛ばした。
軽い身体は人形のように投げ飛ばされ、壁への衝突と同時に廊下へズルズルとその身体を落としていった。

すぐさまカートリッジを交換し、ボクはゆっくり彼女の元へ歩み寄った。




「・・・ゴホッ・・・動かないで。」
真っ黒の銃身は少女の額と垂直に当てられていた。
その銃に無駄な装飾は一切なし。
ただ機能性だけを追及したとしか思えないその外観からはあの物理教師の趣味が伺える。

「なに・・・それ・・・?」
少女はまだ目を丸くして銃を突きつけているボクの瞳を見ていた。
その目は一言で表すなら『純粋』。
違う色を入れたらすぐにでもその色に染まりそうな白というイメージだ。
ボクはトリガーに手を掛けたまま少女に話しかけた。

「キミの手にしている『力』の正体。
 それは『対イヴォルス用高次元兵器』名をDeviceと言うんだ。
 この兵器は普通の人が使っても意味がない。
 使えるのは、人ならざる者。要するにイヴォルスとなって人知を超えた者か、ボク達執行者しかいない。
 能力は『衝撃破砕』。文字通り相手へ空気振動による高圧縮の衝撃をぶつけ、対象者の内部を破壊する。
 外的な損傷力はそこそこ。
 だけど、まともに受けた者の身体の中は・・・ただ事では済まない


 思い出した・・・?」



ポカンと長々とした説明を受けていた少女は、不思議そうな目でコチラを見ていた。
そして、
「なんで、キミはそんなに詳しいの?」
と、問う。
答えは至極簡単なこと。

「データはすべて目を通した。キミが執行者としてそれを使っていた経緯、そして狂気に犯され、今に至るまでの流れ。すべて」


だから、ボクに討たせないで。
同じ執行者だった者同士で、なんで戦わないといけないの?と。

「分かったら、おとなしく保護されてほしい。ボクは嫌いなんだ。同じ執行者だったのに・・・その仲間を手に掛けるなんてこと」

そう。
あまり、と言うか好きになれない。
ボクが銃を執って、力を持つ者をただひたすら断罪することが。
悲しいから。
キミが狂気に囚われていなければ・・・どこかでボクと一緒に戦っていたのかもしれないのに。

そのときだった。
俯いて考え事をしている少女の様子が少し変化を見せたのは。

ニタリと笑い。
そして、その笑いは大きく、大きくなっていく。



「アハハハハハハ!!!へぇ・・・そうなんだ・・・。てっきり私は『魔法』とかいう奇跡に近い部類かと思っちゃった」

何が嬉しいのか、嬉々とボクに話しかけてくる。
なんだ、この余裕は。
『力』のタネ明かしをして、すでに追い詰められていると言うのに。
おかしい。

まだ、彼女は何かするつもりなんだろう。
だけど、この状況では・・・何も・・・。


「・・・執行者ね。思い出したわ。私は桜門所属の執行者本田千尋。本来アナタとは戦う運命にない者」


「けどね」


ソッと銃身に手を触れる。
小さな手が銃をなぞり、悩ましい軌跡を描いた。



「私はもう、執行者じゃないんだ。ゴメンネ☆」




ボクは目を窄(すぼ)めた。
まずい。
そう思ったときはすでに時遅し。

飛び引くボクの身体に対し、彼女は咄嗟に銃身を掴んだ。
グローブ、『力』を発するその手で。

ニタァ、と。悪魔の微笑みが見えた。


―衝、破砕


骨が軋む。
酷く醜い音が身体を駆け巡った。
「ぐ、あ”、あ”あああああああああ・・・!!」
銃を持つその手をムリやり振り払い、彼女と距離を取る。
おぼつかない足取りで、衝撃が走った右腕を抱きかかえる。

人形のように力の抜けた右腕。
その激痛に眩暈を覚えるけど、ボクは懇親の力でその場に踏みとどまる。

まずい。
思いっきり油断した。
彼女の心はすでに狂気で満たされているというのに、ボクは何甘いことを言っていたんだ。

殺す気で掛からないと、逆に殺される。
この場合は粉々にされるという表現が適切か。

でも、さっきので銃を持つ利き手に力が入らない。
衝撃破砕によって内部の筋肉、神経、骨、そのすべてを粉砕された今、力が入らないのならこの腕に意味はない。

目の前の少女が好機と思ったのか、ボクの懐へ潜り込む。
そして嬉々揚々と右手をボクの心臓へ翳(かざ)し、満面の笑顔でこう言った。

「じゃあね☆アナタはなかなか楽しめた」

言葉を口にする。
たぶん。
ボクの死は完全の保障されたも同然なこの状況を少女は楽しんでいる。
一人の人間の命が、自分の手の内にあるだけで、彼女は笑うのだ。

そんな、気持ちを持つ、元は人間だったのに、そんな境遇の少女が、目の前にいるだけで・・・。


なんだか無性に悲しくなった。


―・・・振、動・・・・砕!!


命令を発する。
彼女の付けるグローブからは高次元物質特有の極光を発し、その光にボクは飲み込まれる。

そして身体は、人形のように後方へ吹き飛ばされた。


衝撃によって『ほんの数秒間』、ボクは意識を失う羽目になった。









  • intermission-
何かがおかしい。
すごい光で彼を吹き飛ばしたはずなのに。

『彼は、まだ身体を見られる状況で保っている』

なにかが違う・・・。
なにかが・・・。
何が違う?
彼はなんでバラバラにならないの?

そんな疑問が私の中でグルグルと回っていた。
警備員のときは、もっと、こう、グチャ、って感じで。
血の雨が降るはずなんだけど。


彼の場合は、まだ何か・・・。


「・・・・ゴフッ・・・・・・」

目の前の少年が四つんばいになって起き上がった。
「・・・なんで!!!!」
「・・・・・・・・・・・ん?」
「なんで起き上がれるの!?おかしいじゃない!!だって・・・だってコレは・・・!!」


「まあ何も防御策を練ってない警備員とかは、さっきの一撃で葬れるんじゃないかな?」


「・・・・・・・え?」

そう言って彼は銃を拾い、マガジンを抜き取った。
見るからに普通の弾層。
でも、彼は『違う』と言った。
『見るべきところはそこじゃない』と。


血を吐きながら、彼はこう私に言った。

「まだ開発中の対高次元兵器用防御シールド。ボクもキミと同じでね。先生の部屋から拝借してきたんだ」

「さて、これで分かったでしょ?キミの攻撃はボクには効かない」

その言葉を聞いた瞬間、私は・・・目の前まで迫る『 』の二文字が頭を過ぎった。

「―――っ!!」

瞬時に左手へ持ち帰られた黒の銃が私へ向けられる。
顔を苦痛で歪めながらも、俊足で接近する少年自身に対して目を丸くしている私がいる。

血を吐きながらもその速度は普通ではありえない『一足飛び』。
冬の冷たい空風を切り裂いて。

彼の紅い目は、私を捉えていた。

  • intermission-END





ひたすら駆ける。

自分の間合いまで走れ。
瞬時にトリガーへ指を掛ろ。
『力』を発動させるための命令を銃へ下せ。

真の銘は言葉にしなければ、その『奇跡』は起こらない。

これが『Device』に共通する発動条件。
この銃にも『力』がある。
固有の、世界に唯一つの、断罪する力が。

そう、これはただの暴力の力じゃない。
暴力を無闇に行使して、いいものじゃない。

すなわち、力を消すための、正しき心が持つための、剣。

「ヒ・・・ッ」
少女から恐怖に怯える声が聞こえる。
右手をかざし、いくつもの衝撃の塊を乱暴に発している。
そんなものが当たるわけもなく。
ただ数センチの移動だけで、ボクは衝撃の嵐を回避する。

リロードされた銃弾を確認し、目の前に迫る衝撃を打ち落とす。
また一つ、また一つ撃墜される。

「こないで・・・」

それでも突進速度は緩まない。
ただ前へ。

「こないで・・・こないでよ・・・」

ただ、ひたすら前へ。

「こないでぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


「Aiminift、Shift」

真銘が発現された瞬間、銃身からいくつもの銃弾が少女目掛けて発射された。
その数、3。
狙うは足、腕、そして右手に装着されたDevice。

銃弾は直線ではなく、目標に向けて追尾を開始していた。
少女は恐怖ゆえにその場でジタバタしている。
普通ならば、当たるはずもない銃弾は、的確に少女の左足、右肩、右の手の甲を貫いた。

絶対必中。
高次元で確立されたその銃は、弾丸の速度を限界まで加速させ、
銃身は高速リロード、
そして、特殊な術式を施された銃弾は自身の眼で捉えた者を逃がさない。


ゆえにその銘を『Aiminift(エイミニフト)』

『絶対必中』の特殊効果を持つ、彼の剣。






  • intermisson-
「アアアアアア!!!」
今度は彼女が数メートル吹き飛ばされることになった。
それも当然。
3点同時射撃。
貫かれた勢いは殺されないまま、華奢な身体を吹き飛ばす。


断末魔の後に訪れるのは、静寂。
その静寂にただ立つのは、一人の少年の姿。

Device。
狂気に犯されていた者が、そして『執行者』が使うことによって奇跡を起こす、兵器。
このDeviceと彼女が出会った偶然を、彼は心底恨めしく思った。

でも、答えはまだ出ない。
鶴谷から聞いた結末には、まだたどり着いていない。

だから、彼は戦うことを選んだ。
こんなことを繰り返さないためにも・・・。と。




銃を降ろし、彼はこう呟く。

「こんなこと、いつまで続くんだろう・・・」

それに対して、狂気に犯されし者は紡ぐ。

「・・・アナタに、それを知る必要はない・・・」


気が付いた時にはすでに遅かった。
右手を高々と天井へ掲げ、最後の力でその兵器に命令を下す。



―衝・・・!!



「・・・崩れろ、崩れろ・・・崩れろ!!!」


「みんな壊れちゃえ・・・ハハハハハ!!!」

そして、戦いの舞台は轟音と共に崩れた。


  • intermisson-END







「ハァ・・・ハァ・・・ハァ!!」
逃げろ。
逃げなきゃ。
またアイツが、私を討ちに来るかもしれない。
だから、今学園が混乱しているスキに・・・逃げ切らないといけない。

ただ、私は逃げることだけに集中した。
傷ついた足を引きずりながら、傷ついた腕を庇いながら。

学園の外へ繋がる門までたどり着くことに成功した。
このまま外へ出れば、そのまま姿を隠して傷を癒すことが出来る。
そして、またあの楽しい時間を味わうんだ。
人が潰れる、その快楽に浸るんだ。

そう、未来予想図を自分の中に組み立てて、笑った。

「・・・一番最初に殺すのは、キミ。野田康治。・・・首洗って・・・待ってなさい・・・よ」



冬の、冷たい空気が頬を撫でた。
火照った身体に、ちょうどいい風が、私を突き抜ける。
気持ちいい。

目を閉じて、私は一気に熱い息を吐き出した。




と。


そこで、意識が途切れた。


今は鈍い痛覚だけが身体を支配する。


痛い、だけど、これは、彼から受けた傷の痛みじゃなくて。


じゃなくて・・・?



「本田千尋の抹殺命令により、貴女の命を頂いた。」


「滅せよ、異端者」


ピントのずれたカメラのように、私の目はすでに光を失っていた。
でも、それでも。
唯一、私には見えた。



冷たい空気に乗って、暗闇に浮かぶ二つの蒼き眼が。

私の命を奪った。

赤色の涙を流し、私は、ただ私は、その眼に対して言いたかった。
言いたいのに、口が、もう・・・。








そして、最後に少女の口からはこう発せられたという。
『紅と蒼の瞳、それは私達と似た・・・狂気』


第4話『照準設定』END