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第2話『殺人』

暖かなまどろみ。
けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音すらしない朝。
窓からは朝の日差しが降り注ぎ、私の覚醒を促す。
でも、まだ寝ていたい。
身体がムショウに重くて、このまま寝ていたいと思うのは人の必然だと思う。

―・・・ぃ・・・・

誰かの声が聞こえる。
少々低い声だから、男かな。
それでも起きない。
そう腹を括った私は、目を閉じたまま布団を被り直した。

―おぃ・・・


―・・・起きろ!!


ガバッ。
その声に聞き覚えがあった。
周囲を見渡すとそこは寂れた私の事務所の寝室で。
私はいつの間にかパジャマに着替えていて。
ふと視線を横に流すと、学生服の人物がコチラを睨んでいた。

「・・・早く起きろ。メシだ」
「・・・石田・・・君?」

キョトンとした顔のまま、彼は首をかしげた。
「あぁ、オレは石田だが?」
「・・・そう。あ。いただきます」
ベットの隣に置かれたトーストとコーヒーをいただく。
サクサクとした触感と、コーヒーの苦味が体に染み渡る。
やっぱり朝ごはんはコレじゃないと・・・。

「って!!何で!?私は・・・あれ?」

「3日だ」
「は?」
「優子があの日重傷を負って、眠りについてから3日たったと言った」
「ちょ、嘘でしょ?」
「いや、本当だ」
そう言って彼はカレンダーを差し出した。
たしかに今は14日、あの日から3日もたっている。
私はパジャマをたくし上げ、自分の身に何が起こったかを確認した。

「・・・これじゃあ、仕事にならないなぁ」

身体が受けた傷は思いのほか酷かった。
腹部損傷。
頭部負傷軽微。
左足首負傷。
それでも、体が動くんだから不思議だった。

「これ」
「なに?」
一枚の紙を渡されて驚愕した。
そこに書かれていたものは。

『診断書 柊優子 殿
 内臓損傷2箇所
 頭部負傷
 左足首負傷
 右大腿骨骨折

 以上、魔術医療措置により完治。
 しかし、魔術回路に損傷があり、こちらは魔術的措置が無効化されたため自己治癒に頼らざるを得ない。
                          以上』


「・・・ようするに、ほんとの意味で仕事出来ないってことね」
「そのようだ、魔術回路をやられてるんじゃあ、昨日みたいな芸当も回復するまでは出来ないだろうな」

そう。私は一応魔術師の血を引いているから、それを自分の体に通すことで超人的な動きを可能としている人間。
それがなければ、普通の人間と同じ非力な存在。

「ねぇ?石田君」


「私の代わりに仕事しない?」


「・・・オレは殺すことぐらいしか出来ないとこの間言ったばかりなんだが」

壁に寄りかかった彼に対し、私は少し残念そうな素振りをした。
それが効いたのか、彼自身も困っているようだ。
『モノ』で釣ってみようかしら。

「・・・じゃあ、私のとっておきあげる。って言ったら?」

そう言って私は机に置かれたナイフを拾い上げた。
刃を抜くと、真っ白の刀身があらわになりその不可思議さを物語る。

「流動剣。まあ、これを扱うにはキミにもう一つとっておきを教えないといけないだけど」

「それでも、嫌?」

少し上目使いでキラキラと期待の眼差しをしてみる。
ほら、ちょっと揺れだした。
もう一押し。
何か。
何かないかな・・・。

「キミの起源は『滅奪』だったよね?それを生かそうとは思わない?」

「・・・はん。オレはそんなオカルトは・・・」

「へぇ~。今よりもずっと強くなるかもしれないよ?」

「・・・クッ」

落ちた。
何か悔しそうだけど、この際手段を選んではいられない。

「・・・いいだろう。、その契約、乗ってやる」
その瞬間彼の手を取り、ブンブンと上下に振った。
石田君はほんと分かりやすいなぁ。
こう冷徹そうに見えて、まだ年頃の男の子って感じは否めない。
可愛いヤツめ。

「じゃあ、この流動剣ともう一つのとっておき。教えるね」





そうして、私達の契約は始まった。
動けない私の代わりに暗躍することを選んでくれた石田君。
彼には本当はこんなことは似合わないと思いながらも、それでも血は争えない。
「・・・ほんと、そっくりね」
「あ?なんか言ったか?」
「いえ、何も」









オレは流動剣を手にその場を後にした。
一応これでも学生の身。
学校へは行っているものの、そのほとんどをサボって屋上で寝ていることが多いオレにとっては行くだけムダなことのように思える。
しかし、これもムダなんかではない。
大体、このあたりの都市『桜木』の裏で起こる事件の鎮圧担当はオレが通う学園『桜門』の治安自衛部隊・・・通称『執行者』がこの地を護っている。
ヤツラは様々な武器を通して奇跡の力を扱う。
あるものは光の弾丸を操り、あるものはありえない速度で移動出来たり、
あるものは魔術に近い業を扱うものもいると聞く。
ただ、治安を護る役目である執行者は数そのものが少ない。
だから、オレや優子のような暗殺を家業とする者が必要なわけであって、実際のところ幼くして両親を亡くしたオレにとっては、金銭面であまり苦労していない。

金銭面は二の次。
オレは、なぜだか殺人衝動に駆られる。
これは人を殺したぐらいでは到底収まらないレベルのもので、そんなときに優子がこの仕事を持ちかけた。
要するに、執行者が仕損じて逃した人ならざるものを排除する仕事。
殺人とは似て非なるモノ。
そんな日々を送ることで、オレは自分自身の中の殺人衝動を抑えているに過ぎない。

あれはいつだっただろうか。

人を殺すことに満たされなくなるのと同時に、

満足の行く時を過ごせたのは・・・。










「石田・・・隆・・・」
何度も何度も書類に目を通すが、その名に間違いはなかった。
「普通の人間が、狂気相手にここまで戦えるとは、な」
否。
野田康治が手を下すまでもなく、こいつは目の前の狂気を滅していただろう。
『石田』とは、それほどの力を持つ血族なのだ。

「・・・」
「まあいい。報告は受領した。おつかれさま」

終始暗い顔をした少年の背中を見つめつつ、私は書類をデスクに放り投げた。

月夜に浮かぶ書類には、石田隆の顔写真、身長、体重、生年月日、その他もろもろ、すべての情報が書き記されている。






codename:black wing





黒翼。
それが、彼の新しい名だった。