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-[[◆KazZxBP5Rc>作品/作者別/◆KazZxBP5Rc]] > 『魔法少女? ユイ』 -[[2008年12月>作品/投稿日別/2008年12月]] > 『魔法少女? ユイ』 ---- 第1話『魔法少女誕生!』 夕刻、空が茜色に染まり巣に帰るカラスの黒が映える。 そして同じく我が家に帰り着く少年が一人、名前は椎名唯人。 唯人が玄関の扉を開けると、いきなりその胸に飛び込む影があった。 「ただいま、ジュニア。」 「あんっ!」 ジュニア――正式にはジャッキー・ジュニア――はこの家の愛犬である。 「おかえり。学校どうだった?」 「別にどうっていうこともないよ。」 「そっか。」 ジュニアの後ろから姿を現した女性。Tシャツにスウェットという格好で出てきたのは、唯人の姉、つかさであった。 以上、これが唯人が暮らす家の住人の全てである。 というのも、実家から遠方の高校に入学することになった唯人は、たまたま学校の近くに住んでいた社会人の姉の家に居候することになったのだ。 「姉ちゃんのほうはどうなの?」 「私も会社ではうまくやってるよ。」 「それはいいんだけどさ、そろそろ恋人とか……。」 「別に。」 「美人なのにもったいない。」 最後の言葉はつぶやく程度だったのだが睨み返されてしまった。 「もうにじゅうは……ぐはっ!」 今度は唇をちょっと動かしただけで殴られた。こんなことは椎名家では日常茶飯事だ。 「ほら、夕飯作るから、さっさと食べたいんなら手伝いなさい。」 「あいあい。」 まだ痛む頬をかばいながら唯人はキッチンへと向かった。 ご飯に味噌汁、そしてコロッケに千切りキャベツを添えた、日本ではありふれたメニュー。 いただきますを言うと、唯人はソースをかけて早速コロッケにかぶりついた。 「ただと。」 「むご?」 「いや、噛んでからでいい。」 それを聞いて一個目のコロッケをむりやり押し込んで食べきる。 「で、なに?」 「これあげる。」 手を開いて受け取ると、それはピンクのキーホルダーのようなものだった。 「何これ?」 「うーん、お守りみたいなものかな。危険が迫ったらそれに祈ってみて。ただし人のいるところはダメ。」 「お守りにしては指示が具体的じゃないか?」 「まあまあ、やってみてのお楽しみ。」 うん、これは絶対にお守りではないな。唯人は確信した。 「さ、はやく食べないと冷めちゃうぞ。」 その日はもう『お守り』に関する話はこれっきりだった。 翌日のお昼時。唯人は姉のお手製弁当を広げながら友人とだべっていた。 話題はテレビの話だの近所の美味い店だの他愛のないものだ。 皆が食べ終わった頃、一度会話がさえぎられた。 「順平! はい、借りてたCD。」 「お、サンキュ。」 すぐに再び会話が始まった後も、唯人はさっきの彼女、海瀬雅を目で追っていた。 「みやびのこと好きなんだろ?」 横からささやくのは先ほどのCDの主であり雅の幼馴染である順平。 「協力してやるぜ。」 「順平遅いね、自分から言っておいて。」 ナイス幼馴染……と言いたいところだが、いきなり二人きりというのはどうなんだろう。 放課後、唯人は雅と一緒に下駄箱のところにいた。 「ちょっと急用ができたから先に行ってて、ってさ。」 もちろん本当はそんなものはない。後ろめたさと恥ずかしさが手伝って体が汗ばむ。 「ふーん、じゃあ行きますか。」 「う、うん。」 「どんなお店かな?」 「ごめん、俺も場所しか聞いてないんだ。」 「そうなんだ。」 さっきからこんな感じでちょっと喋っては会話が止まる。気まずい沈黙がもう何度目だろう。 「すみません、ちょっとよろしいですか。」 突然目の前に男がいた。近くに曲がり角もないのに一瞬で現れた男をいぶかしがっていると、彼はこう続けた。 「あなたたちを襲わせてもらいます。」 「は?」 男が指を鳴らす。すると唯人たちの背後に影が三つでき、その中からせり上がってくるようにして異形の魔物が生まれてくる。 「椎名君、これは……?」 俺に聞かれても知らねえよ、と思ったが昨日の姉の言葉を思い出した。危険が迫ったら? このことを知っていたのか? 人のいないところ……か。まさに危害を加えようとしてるこの男は勘定外としても、雅だけは逃さなくては。 「俺があの男を抑えるから、その間に逃げて。」 「でも……。」 「いいから!」 小声で話したが、聞かれたか? どっちみちすぐに行動に移さなくては。唯人は男に飛び掛った。 「早く!」 雅は一瞬躊躇したが、このままだと二人とも危険だと判断し駆け出した。 「ちっ……。」 掴んでいた男の様子がおかしい。慌てて手を離すと男も影の魔物に変形していく。 どうすればいいんだ。いや、やることは決まっている。 「何も起きなかったら呪ってやる。」 ポケットから『お守り』を取り出すと両手で包んで祈った。神様でも仏様でもいいから助けてくれますように! 次の瞬間、唯人は時間が止まったのかと感じた。さっきまでうなっていた魔物の声も聞こえない。風も凪いでいる。それに、そろそろあるはずの攻撃も未だ受けていない。 目を開けてみるといつの間にかステッキを持っていた。それは『お守り』を大きくしたような形をしていた。 いや、「ような」ではなくてまさにそれが大きくなったものだ。唯人はすぐにそれを理解した。 しかしそれ以上のことを考える間もなく魔物が襲ってくる。唯人は反射的にはたき倒した。 「ちょっ、まだ待って! ……え?」 声が変。喉が枯れたとかそういうのではなくて、元から違っているようでむずがゆい。 喉に手を当てようと腕を体に近づけると、先にやわらかいものが腕に触れた。 「え? え?」 服装も変わっているが些細なことだ。胸が膨らんでいる。触ってみると触られた感触がある。確かに自分の胸だ。 先ほど倒した魔物が起き上がってくる。体について考えるのは後だ。 このステッキ、よく見るとちょうど持ちやすいところにボタンが四つ付いている。赤・青・緑・黄。 「なんか強そうだし赤でいいか!」 赤いボタンを押すとステッキの先から火が出た。そのまま炎はマッチのようにステッキの先に留まっている。 「あれ? 熱く……ない?」 手を近づけても、恐る恐る触れてみても、熱さも痛みも無い。しかしこれでいいようだ。なぜなら魔物たちが怖がっているから。 「いっけぇー!!」 ステッキを振り下ろすと炎は瞬く間に飛んでいき、魔物の体を焼き焦がした。 「よしっ!」 すかざず振り返って残りの二匹も始末する。 「はぁ……。」 緊張から解放されて思いっきりその場に座り込んだ。 さっきまで焦っていたので気付かなかったのだが、どうして自分はミニスカートなど履いているんだろう。 両手ですそを押さえ込む。 「あれ?」 また違和感がある。そういえば胸も膨らんでいた。もしかして……。唯人はゆっくりと手を股間に持っていく。 「ない……。」 頭が真っ白になった。これって、つまり、そういうことなんだろう。 「俺、女の子になってる?」 現実逃避のためかどうかは知らないが、唯人の頭は直ちに別のことを思い出させていた。 「……一匹足りない。」 最初に現れた魔物は三匹、男が変化したのが一匹。しかし唯人が倒したのは三匹だった。 追わなくちゃ。それに、必死に追っている間は体のことを考えなくてすむ。 悲鳴が聞こえた。あっちの方角にいる。走っているときにちらりとカーブミラーに美少女が映ったような気がするが気にしない。 唯人が駆けつけたときに見たものは、今にも魔物に襲われようとしている雅だった。 「ふぁ、ファイヤー!」 ギリギリで炎を浴びせると、魔物はもがき、溶けていった。 「ありがとうございます。えっと、お名前は?」 彼女は目の前の少女が唯人であることを知らない。 唯人は瞬間考えた。自分が唯人だと名乗るのもおかしいし、祈るところを見られてはいけないということは正体も秘密なんだろう。 しかし突然適当な名前を思いつけと言われてもな。元の名前が唯人……だから……。 「私はユイ。椎名君から聞いたわ。あなたが海瀬さんね。」 よくもまあうまく口が回るものだ、と本人も思った。 とにかくこうして、魔法少女ユイは誕生した。 ---- :元レス|[[http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220262396/178-181]] :最終レス投稿日時|2008/12/17 02:27:09

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