第3話『仮面男は敵? 味方?』


例の男についてつかさが何か知っているのではないかという唯人のあては外れた。まあこの姉はすっとぼけるのが得意だから隠している可能性も否めないが。
結局何も知ることはできず、翌日もまた、朝の筋トレとランニングによって一日が始まるのであった。
「はあ……魔法少女ってもっとこう、なんて言うか、可憐な感じなんじゃないの?」
それを言うならそもそも男が魔法少女になっていること自体間違っているのだが、どちらにしろ元から望んでなったわけではないので唯人を責めることはできない。
学校ではいつまた魔物が襲ってくるか気が抜けなかったが、その日は何事も無く授業を終え家路に着くことができた。
つかさは今日は遅くなると言っていた。けれど、もうひとりの家族が尻尾を振って迎えてくれた。
「あんっ、あんっ!」
「よしジュニア、散歩行くか。」
唯人は冷蔵庫を開けジュースを一杯飲み干すと、自分の部屋に入り私服に着替える。そしてリードを手にまた玄関まで戻ってきた。
「さあ出発だ。」

ジュニアは緑の多いところが好きである。彼のお気に入りの散歩コースは山道だ。
椎名家からなら一番近い山まででも歩くと小一時間かかる。そのため連れて行くほう――主に唯人だが――は帰ってくる頃にはいつもへとへとだ。
山までは住宅街を通って最後に商店街を抜ける。その商店街に入る頃、ジュニアが突然騒ぎ出した。
「くーっ!」
「お、おい! どうしたんだ!」
散歩の途中で突然暴れるような犬ではない。何かあったのだろう。
「待てって!」
ついに走り出した。押さえられないほどではないが強い力で引っ張ってくる。唯人もあきらめて少し駆け足で進み始めた。

途中、商店街の中で見知った顔に声を掛けられた。
「よう。」
「おお、順平。」
「昨日からお疲れのようだったから聞けなかったけど、どうだった?」
順平はなにやらにやにやと笑いをこらえているようである。
「何が?」
「決まってるだろ、雅のことだよ! うまくいったのか?」
「ああ……それどころじゃなかった。」
「ん? 何があったんだ?」
魔物が襲ってきて魔法少女になりました、なんてさすがに言えない。
「ふー、ふーっ!」
「ごめん、こいつが急ぎたいみたいだからまた今度な!」
両手をあわせてごめんのポーズをとりながらも、内心ではうまぐしのげたとジュニアに感謝して、唯人は商店街を後にした。

アーケードを抜けると山は目の前だ。そこまで来てようやく唯人は異変に気付いた。
「煙?」
商店街のこちら側ではあまり人が通らないため誰も気付いていないようだ。
なおもジュニアに誘われるままに山に入っていく。
「あんっ!」
「これは……!」
中腹あたりでジュニアが一声上げた。火の手が上がっているのが見える。山火事だ。
「これに気付いてたのか。よくやったぞジュニア。」
ご褒美のなでなで。あらためて犬の嗅覚の凄さを実感する。
「さて、消防署に連絡……はできないみたいだな。」
よく見ると炎は不思議な動きをしている。まるで生きているかのような……いや、実際生きている。あれは魔物だ。
「ずっと持っとけとは言われたけど、できるだけ使いたくなかったのに……。」
近くに人がいないことを確認。ポケットから手のひらサイズのステッキを取り出し祈ると、先ほどまでそこにいた少年は消え、代わりに少女が現れた。
「さて、手っ取り早く雨でも降らせますか。」
青いボタンを押して水のパワーを溜める。そしてステッキを天に向かって掲げた。
ステッキの先から雲が造られ山の斜面の上に広がっていく。雲は次第に大きくなり雨を降らす。
火は見る見るうちに消えていくのだが、二箇所だけ大きな塊となって消えない部分がある。
「あれが本体だな。ジュニア、ちょっとここで待ってろよ。」
愛犬はその場に腰を下ろして意思を見せた。
それを見て安心し、唯人は魔物の目の前に飛び出していく。
「こいつら、かなりのろいぞ。」
この魔物達は唯人にも気付いておらず、徘徊しているだけのようだ。
これなら昨日は失敗したあの手が使える。唯人は二匹の魔物に向けて水弾を正確に打ち込んだ。
「今回はあっけなかったかな。」
変身を解こうとしたその時、物陰から動くものが見えた。

「こんにちは、椎名唯人君。」
「なっ……!」
現れたのは昨日の仮面の男であった。なぜ本名を知っているのか、唯人が尋ねる前に男は再び口を開く。
「昨日は悪いと思いながら観察させてもらった。」
「観察? どういうことだ?」
しかし唯人の問いには答えず、男はなにやら赤い液体の入ったビンを取り出して魔物の亡骸に中身を半分ずつかけた。
「また会おう。」
それだけ言い残して男は去って行った。
「待て!」
さっぱり訳の分からない唯人は、追いかけようとしたところを巨大な物体に阻まれた。
それは先ほどの炎の魔物が二匹合体したものであった。
唯人は当然水弾を浴びせる。しかし今度はまったくダメージがない。
「どうすれば……きゃっ!」
自分で降らせた雨のせいで地面がぬかるんで滑ってしまった。
それ自体は大したことではないのだが、女の子みたいな声を出してしまった。愛犬と目が合った。穴があったら入りたい。
「ん、ちょっと待てよ? 穴……そうだ!」
ステッキを地面に付ける。まずは水だ。水を魔物の足元に集める。
魔物は再び山に火をつけ始めた。しかし焦ってはいけない。この作戦はひたすら待つことしかできないのだから。
魔物がぐちゃぐちゃになった地面を踏みしめた。もう片方の足を上げた瞬間、スリップし、その巨体が宙に浮いた。
「今だっ! 地!」
ボンっと大きな音がして地面に大穴が開いた。穴の分の土はどこへ行ったかというと、その場に巻き上げられて、その瞬間を外から見ると筒状に土がそびえ立っているように見える。
魔物は吸い込まれるように穴に落ち、その上から大量の土でふたをされた。

残りの火を消すと唯人は変身を解いてジュニアの側へ戻った。
「それにしても……。」
仮面の男は明らかに魔物を復活させて自分を襲わせた。この先直接戦うことになるのだろうか。魔物だけではなく人間と戦う。そのことに不安を覚える唯人であった。

元レス
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220262396/200-202
最終レス投稿日時
2008/12/23 20:08:42

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最終更新:2009年01月11日 17:44