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第4話『お姉様とお買い物』


ある休日の朝、唯人は全身の違和感で目を覚ました。
まず気付いたのは頭の痛みである。自分の体が大きくゆっくりと回転しているかのような錯覚を受ける。
それに衣服の感覚がおかしい。ビシッと締め付けられるような服は寝るときに着るようなものではない。
このとき、昨日寝る前に何をしていたのかさっぱり思い出せないということに唯人は気付いた。大方疲れて着替えもせずに寝てしまったのだろう。
とりあえず布団から出ようと体を起こしてみると、胸に妙な重みを感じる。そういうことか……。
唯人はユイに変身していた。
しかし何時からだ? もしかしたら魔物との戦いで負傷してその時の記憶が飛んでいるのだろうか。そうだとしたら、そんな強力な魔物を野放しにはできない。
唯人は勢いよく部屋から飛び出そうとした。だが、頭がフラフラしてうまく歩けない。

「おはよー!」
唯人が結局ベッドに腰掛けたままでいると、大きな姿見を持って姉のつかさが部屋に入ってきた。
「姉ちゃん、これどういうこと?」
「あー、あんた覚えてないんだ。無理もないかもね……。」
「なんだよ。何か知ってるんだったら、もったいぶってないで早く言って。」
「いやあ、唯人って飲ませたらすっごく素直ないい子になるみたいね。」
「……。」
「昨日の晩にお酒買ってきてふたりで飲んだのよ。でね、ノッてきたところでちょっと変身してみてって頼んだの。」
「……。」
それにしても気持ちのいい朝だ。外ではすずめがさえずっている。
「未成年になんてことするんだーっ!」
「一緒に買い物行ってくれたらステッキ返してあげる。」
この女は聞く耳を持たないようだ。自分の用件だけ伝えてくる。
「ちょっと待て、買い物ってもしかしてこのまま?」
「まさか。そんな、いかにも『魔法少女です』って格好で出るわけないでしょ。すぐ着替え持ってくるから、それ脱いでおいてね。」
そう言うとつかさはとっとと出ていってしまった。唯人が聞きたかったのは「女のままで?」という意味だったのだが、話の流れからするとやはりそういうことなのだろう。

しばしためらったが、好奇心も手伝ってコスチュームを脱ぐ決断は割と早かった。
肩にかかっている布をはずすと、解放されたふたつのかたまりがぷるんと波打って新鮮な感覚を与えてくれる。
そこでもう一度、この先の領域に踏み込んでいいものかと悩む。
だがやはり唯人は男の子だった。
自分自身だということを棚にあげれば、同じ年頃の女の子の裸が見れるめったに無いチャンスだ。
唯人は覚悟を決めると両脇に宙ぶらりんになっている布地を持つと一気に下へ引っ張った。
脱いでみて分かったのだが、このコスチュームはワンピースの水着のようなつくりで、スカートもそこに縫い付けられている装飾のひとつであった。
そしてこのコスチュームは肌に直に触れるようになっていて、これだけ脱ぐともう魔法少女は全裸となってしまう。
唯人は姉が担いできた姿見を覗き込んだ。滑らかな肌をあらわにして少し恥ずかしそうにこちらを見つめる少女。それが自分だと理解してはいるが信じられない。
しばらくぼーっと眺めていると、視界の端からもう一人の女性がやってきて、持ってきたものを少女の胸にあてがった。
「ほら、手上げて。」
いつものような憎まれ口を叩かず、ただ淡々とブラジャーを着せようとするつかさに戸惑いを感じながらも、言われたとおりに万歳のポーズをとる。
「着け心地はどう?」
「……なんでこんなにぴったりなんだよ。姉ちゃんのじゃないだろ?」
「目測よ。この日のために準備しておいたの。」
嬉しそうに語るつかさに、唯人は軽い恐怖を覚えた。
「じゃあ後は自分でできるよね。服は私のから適当に選んでおいたから。」
つかさはまた部屋を出ていった。残されたのは、あえて女らしいものを選んだとしか思えないブラウスやスカートたちであった。

唯人たちの家から郊外のショッピングモールまでは自動車で三十分ほどである。
こういった施設では専門店の八割で婦人服を売っているというのだから、女性たちは日が暮れるまでコーディネートにいそしむことができる。
ここに着いてから唯人はつかさの着せ替え人形に徹した。ステッキという質を取られているからしょうがなく、らしい。
最初のうちは普通の女物であった。このときは唯人もまだ余裕で、試着室の鏡に向かってポーズを取ってみたりもした。
だが、徐々に露出の多い服が増えてきて、早く終わってくれないかと思うようになる。
「これ、下着姿の方がまだマシなんじゃ……。」
「ユイー、ちゃんと着れた?」
「わわわわわのぞいちゃダメっ!」
最終的につかさはコスプレ専門店に目をつけた。メイド服やチャイナ服に袖を通す頃にはすっかり無我の境地を切り拓いていた唯人であった。

「じゃあ私は一旦荷物置きに車に戻るから、その辺でブラブラしててね。」
一旦、か。それにしてもあれだけ買ったけどいったい誰が着るのだろう。今度こそ騙されて変身することのないようにしないと。
決意を新たにした後、唯人はせっかくだから男の姿では入りにくい店を物色しようと思った。なんだかんだで割とこの状況を楽しんでいるように見える。
しばらくして、唯人は雅のことを思い出していた。何かプレゼントを贈ろう。そう考えてアクセサリー店に入り、散々悩んでブレスレットを購入した。
「お、いたいた。」
つかさと合流したのはそれからすぐだった。荷物を置きに行ったはずなのに、手には紙袋をひとつ提げている。
疑問に思ったのも束の間、人波の中に怪しい影がうごめいた。

「ユイ!」
追おうとした唯人を呼び止めて、つかさは紙袋の中からステッキを取り出し投げ渡した。
換わりに先ほどのブレスレットが入った買い物袋を預けると、小さくうなずいて唯人は影を追った。
あれはかつて、唯人が初めて戦った影の魔物だ。あの時は火の魔法で倒したが、今この混雑で火をつけるわけにはいかない。
とにかく人の少ないところまで追い詰めようと考えたのだが、魔物は最悪の方向に向かっていた。
「キキキキキキ! ハイパーマンよ、我々の科学力に対抗できるのかな?」
「黙れ、ジャ・アークの怪人よ! 正義の心は必ずお前たちを打ち倒すのだ。さあ、良い子のみんな! 私に力を分けてくれ!」
子供たちの声援が吹き抜けの広場を埋め尽くす。本日この時間はヒーローショーの真っ最中であった。
唯人は三階からこの吹き抜けにたどり着いた。だが時既に遅し。魔物は壁を伝って一階へ降り、ヒーローショーの悪役に取り付いてしまった。
「くそ、あいつあんなことができたのか。」
ためらっている時間は無い。下手をすると子供が襲われる。それだけは避けなければいけない。
「飛び降りる!」
唯人はショーの舞台めがけて地のパワーを送った。そしてそのとおりの場所に平然と着地。実は最初に放ったのは着地の衝撃を吸収するための魔法だったのだ。
思わぬ登場をしたヒロインに子供たちは大歓声。
「あ、あの……ちょっと、君……。」
「これは遊びじゃないんだから離れてて!」
申し訳なさそうに話しかけるハイパーマンを一蹴。魔物とのにらみ合いに入った。
さて、どうすれば怪人役から魔物を引き離せるかだが、正直まったく思いつかない。おねーちゃんがんばってー! の声援が耳に痛い。
いろいろと考えているうちに、しびれを切らして魔物が飛び掛かってきた。
とっさに、操られている人体を傷つけないように風を使って受けた。その時、魔物の影が少しだけ浮き出たのを唯人は見逃さなかった。
物理的な風は魔物には効かず人の体だけを吹き飛ばす。それならば逆に影の方を吹き飛ばす「概念的な」風があれば……。そして、それは魔法で創れる。魔法は精神の力だから。
会場に爽やかな空気が流れた。
「あー! あれなんだ!」
「すっげー!」
子供たちは、ジャ・アークの怪人が倒れ、そこから世にも恐ろしい影の本体が姿を現すのを目撃した。
そしてその影は、突然現れた魔法少女の炎によっていとも簡単にかき消された。
「ありがとう。みんなの応援のおかげだよ! これからも困ったことがあったら、魔法少女ユイをよろしくね!」
ポーズもばっちり。こういうときはすぐに調子に乗る唯人だった。

「おつかれさまー。カッコ良かったよ。」
からかうように笑う姉を無視して唯人は適当な店の試着室に入った。
しばらくしてそこから腕から先だけが出てきて手招き。
つかさが駆け寄って中を覗くとそこには女装した男の姿の唯人がいた。
「服が戻らないんだけど……。」
「当たり前じゃない。今頃家に置いてあるコスチュームが昨日着てた服に戻ってるはずよ。」
「じゃあもう一回変身したら?」
「その服がコスチュームになるに決まってるじゃん。」
「……どうすれば?」
「一回全部脱いで変身して着替えなおしなさい。」
「はあ……。」
「あ、やっぱ可愛い服買ってきてあげるからそこで待ってなさい。」
「な……!」
さっき無視した仕返しなんだろうか。よく考えれば男物を買ってくれればいいだけじゃないか。まあ、それを言ったところでそうしてくれる確率は限りなくゼロだが。
日没の頃、駐車場に白いワンピースの少女と年の離れた姉が仲良く口ゲンカしながら出てくるのが見えた。

元レス
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220262396/220-224
最終レス投稿日時
2009/01/07 19:10:41